医学検査
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68 巻, 2 号
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原著
  • 大屋 輝明, 西山 秀樹, 池上 志乃富, 美濃島 慎, 服部 拓哉, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻2 号 p. 219-225
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    血流感染症や血液培養陽性菌の季節変動に関する研究は少ない。本研究は血液培養陽性菌の季節変動と気候との関連を明らかにすることを目的とした。当院で2005年1月から2014年12月までの10年間に行われた血液培養30,945検体を対象とした。延べ入院患者1,000人日あたりの血液培養陽性件数を血液培養陽性率(blood culture positive rate; BCPR)とし,月,季節に分けて検討し,さらに気候との関連を調査した。BCPRは春と比較して夏に高く,気温,湿度と有意な関連を認めた。これはグラム陰性桿菌(gram-negative rods; GNR),Bacillus属が主因であった。Coaglase-negative Staphylococci,Bacillus属,Enterococcus属のBCPRは気温と正の相関を認めた。一方,GNR,Candida属のBCPRは湿度と正の相関を,Staphylococcus aureusのBCPRは湿度と負の相関を認めた。血液培養陽性菌は菌種によって季節変動があり,気温,湿度と関連する。

  • 山本 麻瑚, 西尾 美帆, 中島 佳那子, 豊﨑 光代, 西村 はるか, 宇城 研悟, 長島 光治, 畑地 治
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻2 号 p. 226-230
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    呼気一酸化窒素濃度(fractional exhaled nitric oxide; FeNO)は,下気道の好酸球性炎症マーカーとして,喘息患者での上昇が認められている。検査方法は簡便かつ非侵襲的である一方,FeNO値は硝酸塩やカフェイン含有物の摂取により測定結果に影響を及ぼすと報告されているが,摂取直後に関する報告は少ない。今回,我々は報告のある硝酸塩やカフェイン含有物摂取後の経時的変化,及び摂取する水の温度におけるFeNO値の変化について検討を行った。硝酸塩を含む食事摂取の検討では,摂取後5分は摂取前より有意に低下かつ最小値となった。摂取後30分は摂取前と有意差を認めなかった。摂取後1時間は摂取前より有意に上昇かつ最大値となり,摂取後2時間でも依然として高値を示し,摂取前の値まで戻らなかった。水の温度の検討では,4℃水摂取後5分,15分は共に摂取前より有意に低下した。一方,37℃水摂取後5分,15分は共に摂取前と有意差は認めなかった。硝酸塩及びカフェイン含有飲料摂取の検討は,いずれも摂取後5分は摂取前より有意に低下し,摂取後30分では有意差を認めなかった。今回の検討結果より,FeNO測定検査は飲食直後の検査を避けるべきであり,更には飲食物の温度による影響を受けることが示唆された。FeNO測定条件には様々な因子が複雑に関係していることが考えられ,今後も更なる検討が必要である。

  • 栁沼 莉絵, 倉田 貴規, 宮島 悦子, 田中 伯香, 吉川 香織, 牧 俊哉, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻2 号 p. 231-237
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation; allo-HSCT)は血液悪性腫瘍に適応されるが,allo-HSCT後に肺機能低下をきたすことがある。本研究はallo-HSCT後に肺機能低下をきたすリスク因子を明らかにすることを目的とした。allo-HSCT後,1年以上フォローアップされた患者を対象とし,%1秒量(%forced expiratory volume in one second; %FEV1.0)が10%以上低下し,かつ,%FEV1.0 < 80%となった症例を「肺機能低下」と定義し,14項目の臨床的因子との関連を検討した。単変量解析では,性・体格指数(body mass index; BMI)・allo-HSCTの適応疾患・骨髄破壊的前処置・全身放射線照射の5因子が肺機能低下と有意に関連した。多変量解析では,BMI < 18.5 kg/m2・急性リンパ性白血病・骨髄破壊的前処置ありの3因子が肺機能低下と独立して有意に関連した。女性・BMI < 18.5 kg/m2・急性リンパ性白血病・骨髄破壊的前処置を行った患者では,allo-HSCT後に肺機能が低下するリスクが高いため,肺機能検査を含めたより綿密なフォローアップを行う必要がある。

  • 北岡 拓也, 山中 泰子, 永山 円, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻2 号 p. 238-246
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    終末期悪性腫瘍患者の短期予後を予測することは,終末期ケアの質を高める上で重要である。これまでに報告された終末期悪性腫瘍患者の予後予測のためのスコアリングシステムの多くは,患者・医師の主観の影響を受け,重症度への考慮が不十分であることなどの制限がある為,より客観性の高い予後予測が求められている。本研究ではルーチン血液検査項目を用いて終末期悪性腫瘍患者における2週間の予後を予測するLaboratory Prognostic Score(LPS)を作成し,その妥当性を検証した。LPSはCRP ≥ 6.0(mg/dL),Alb ≤ 2.7(g/dL),BUN ≥ 26(mg/dL),WBC ≥ 10.2(×109/L),Eos ≤ 0.4(%),Lymph ≤ 0.620(×109/L),PLT ≤ 183(×109/L)の7つの各因子を1点とし,その合計点から成る。2週間以内の死亡を予測するLPSの最適カットオフ値は4点で,探索群においてその感度は69%,特異度は82%であった。LPSは終末期悪性腫瘍患者において有用な客観的予後予測ツールとなる可能性がある。

  • 今本 隼香, 米谷 久美子, 北野 唯, 尾﨑 綾乃, 橘 知佐, 円山 英昭, 大川 良洋, 近森 正康
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻2 号 p. 247-253
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    当院で過去9年間に超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration; EUS-FNA)を用いて細胞診断を行った膵臓の充実性腫瘤35例を対象とし,EUS-FNAにおける迅速細胞診(rapid on-site cytologic evaluation; ROSE)の有用性を検討した。穿刺回数は平均2.2回,検体採取率は100%,良悪性の鑑別については正診率97.1%,感度96.3%,特異度100%といずれも良好な成績であった。我々はEUS-FNA導入当初よりROSEを施行し,病理部門と消化器内科医の連携強化や検体採取の質的向上に貢献してきた。EUS-FNAにおけるROSEは,検体を確実に採取でき,必要最小限の穿刺で検査を終了できる有用な方法と考えられる。

  • 田島 里紗, 本木 由香里, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻2 号 p. 254-260
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)などの膠原病では,動脈硬化症の危険因子の有無に関わらず動脈血栓塞栓症が好発する。そのため動脈硬化病巣の形成に関与する活性化血小板・単球複合体の定量は重要であると思われるが,その臨床的有用性は検討されていない。本研究では全血フローサイトメトリーによる活性化血小板・単球表面抗原解析法を確立し,各種膠原病(SLE36例,結節性多発性動脈炎5例,関節リウマチ6例,混合性結合組織病7例)を対象に臨床研究を行った。その結果,SLEでは他の膠原病に比べ活性化血小板・単球複合体の割合が有意に高かった。さらに,SLE症例を抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)合併群19例と非合併群17例に分類した結果,APS合併群で明らかに活性化血小板・単球複合体の割合が高かった。次に,SLE症例を脳梗塞10例,肺塞栓症3例,心筋梗塞3例,深部静脈血栓症4例,無血栓症16例に分類した結果,無血栓症群に比較して特に脳梗塞および心筋梗塞など動脈血栓塞栓症群で活性化血小板・単球複合体形成割合が有意に高かった。これらの結果より全血フローサイトメトリーによる活性化血小板・単球複合体検出法が脳梗塞や心筋梗塞を中心とする動脈血栓塞栓症の発症を予測できる検査法として有用であることが示唆された。

技術論文
  • 藤田 龍司, 石塚 敏, 安尾 美年子, 小林 悠梨, 三浦 ひとみ
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 261-268
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    [目的]本研究では,flow cytometry lymphocyte crossmatch(FCXM)とFlowPRA(One Lambda Inc., Canoga Park, CA, USA)による抗HLA抗体検査の結果に乖離を認めた症例について,その原因を究明するために基礎的検討を行った。[方法]ABO血液型不適合生体腎移植症例のうち,FCXMとFlowPRAの結果に乖離を生じた症例について,FCXMを用いてレシピエント血清中に存在する抗A,抗Bのリンパ球に対する反応性を調べた。尚,レシピエント血清は未処理のものと抗A,抗Bを吸収除去したものを用いた。また,リンパ球上のA型,B型抗原の確認には抗A,抗Bモノクローナル抗体とanti-Mouse IgMを使用した。[結果]レシピエント血清から抗A,抗Bを吸収することにより,FCXMにおいて陰性化した。また,抗A,抗Bモノクローナル抗体を使用したFCXMによりリンパ球上のA型・B型抗原の存在が確認された。[考察]ABO血液型不適合生体腎移植において,ドナー特異的抗HLA抗体(donor specific anti-HLA antibodies; DSA)が陰性であるのにFCXMが陽性となる原因の1つとして,抗Aおよび抗Bの関与が推測された。

  • 國井 アツ子, 阿部 まゆみ, 上野 麻生子, 安達 みゆき, 居鶴 一彦, 五十嵐 雅彦, 近藤 礼, 齋藤 伸二郎
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 269-275
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    脳梗塞は臨床病型により治療法が異なるため,発症早期に臨床病型診断を行うことが重要である。今回我々は,脳梗塞急性期におけるフィブリンモノマー複合体(fibrin monomer complex; FMC),D-dimer,脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)測定値が脳梗塞の臨床病型診断に有用かを検討した。対象は,2015年7月から2016年6月に当院に入院した脳梗塞急性期患者190例で,臨床病型内訳は,アテローム血栓性脳梗塞(atherothrombotic; AT)81例,心原性脳塞栓症(cardioembolic; CE)41例,ラクナ梗塞(lacunar infarct; LI)46例,その他の梗塞22例であった。入院時にFMC,D-dimer,BNPを測定し各病型の測定値の分布を比較検討した。またcut off値を定め各病型の陽性率を検討した。その結果,FMC,D-dimer測定値の分布においてはAT・CE・LIの病型間に有意差は認められなかったが,ROC曲線から得られた最適cut off値による陽性率の病型間比較では,FMCにおいてCEはATやLI(非CE)に比べ有意に高い陽性率を示した。D-dimerにおいては,CEはATに比べ有意に高い陽性率を示したが,LIでは有意差は認められなかった。BNPにおいては,測定値および陽性率ともにCEは非CEより有意に高値を示した。以上より,脳梗塞急性期におけるFMC,D-dimer,BNP測定は,脳梗塞急性期の臨床病型診断に有用であり,特に,BNPはCEと非CEの鑑別診断に有用であった。

  • 水村 千恵, 難波 わさ, 村上 朋輝, 町田 聡, 木戸 誠二郎, 坪井 五三美
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 276-280
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いて尿中メタネフリン並びにノルメタネフリンの濃度測定法の基礎的評価を行った。同時再現性と日差再現性は4%未満で希釈直線性も良好な結果であった。尿マトリックス効果の影響も認められなかった。ポストカラム誘導体化法による高速液体クロマトグラフィーとの相関性は,良好であった(メタネフリン:y = 1.000x + 0.004,r = 0.994,n = 220;ノルメタネフリン:y = 1.014x + 0.017,r = 0 .992,n = 220)。この研究で,液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いた測定法はルーチン検査において有効な方法であることが実証された。

  • 村田 竜也, 福岡 達仁, 水野 誠士, 小澤 優道, 濱本 正樹, 杉山 文, 藤井 隆, 田中 純子
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 281-286
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    大動脈解離に対する大動脈人工血管置換術(aortic graft replacement; AGR)後にC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus; HCV)抗体検査の陽転化現象が起き,原因がAGRに使用された外科用接着剤(BioGlue®)に含まれるウシ血清アルブミン(bovine serum albumin; BSA)に対して産生された抗BSA抗体による偽陽性反応であったことを報告する。AGR施行群4例(AGR群)と一般外科手術施行群10例(非AGR群)で術後2ヶ月目のHCV抗体をSiemens社(S社)試薬で測定した。AGR群全例でHCV抗体検査は陽転化し,非AGR群では全例陰性であった。AGR群4例の残余血清を5社のHCV抗体試薬で測定した結果,S社を含む2社で陽性,他3社で陰性を示した。またHCVコア抗原は全例陰性であった。さらに,AGR群の残余血清でBSA吸収試験と抗BSA抗体価測定を行った結果,前者は吸収を認め,後者は高値であった。従ってHCV抗体検査陽転化現象は,BioGlueにより産生された抗BSA抗体がS社のHCV抗体試薬の反応に影響を及ぼしたことによる偽陽性反応であると考えられた。免疫測定試薬においては抗BSA抗体による異常反応が起こりうることも考慮し検査結果を解釈することが大切である。

  • 中村 一人, 山名 晶子, 秋田 有香, 三浦 拓海, 町田 邦光, 橋口 明彦, 坪井 五三美
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 287-290
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    我々は,蛍光酵素免疫測定法を測定原理としたカルプロテクチン測定試薬「エリアカルプロテクチン2」を用いて,便中カルプロテクチン測定法の基礎的検討を行った。再現性(同時再現性および日差再現性)はCV 7.0%以内と良好な結果であった。希釈直線性も良好な結果であった。本試薬は,比較対照品(カルプロテクチン モチダ)に対して良好な相関性を示し(y = 1.071x + 38.3, r = 0.789, n = 86),判定一致率は87.2%と良好な結果であった。「エリアカルプロテクチン2」は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有していた。

  • 戸田 圭三, 下田 颯子, 田中 育子, 鬼岡 萌, 清水 悠衣, 末道 愛子, 河本 まゆみ, 染谷 香代子
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 291-295
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    今回,我々は2歳10ヶ月女児の血液培養から小型のグラム陽性桿菌を認め,発育が遅く表面がラフなコロニー形態などから放線菌を疑って16S rRNA遺伝子のBLAST解析を実施した。その結果,分離菌はG. sputiと99.8%の塩基一致率であったが,G. jacobaeaG. aichiensisG. otitidisとも99.4%から99.7%以上の高い塩基一致率を示し,菌種同定には至らなかった。そこで,secA1遺伝子用PCRプライマーを新たにデザインしてBLAST解析を実施したところ,G. sputiとの塩基一致率が100%を示したのに対し,G. jacobaeaが98.8%,G. aichiensisは93.3%,G. otitidisが92.3%と差を認めたことより分離菌をG. sputiと同定した。Gordoniaは稀な菌である上,同定キットを用いても誤同定されるため,一般的な検査室では同定が難しい。そして,Gordoniaが遺伝子解析から新しく分類された性格上,菌種同定には遺伝子解析が有効である。その中で,全長が500 bp以下の解析し易いsecA1遺伝子は,G. sputiの菌種同定に有用なツールであった。

  • 渡辺 直樹, 米沢 太亨, 柳谷 貴子, 花田 大輔, 佐渡 正敏, 藤井 聡
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 296-301
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    抗酸菌を迅速に同定することは,治療方針の決定と院内感染対策において重要であり,迅速検査法として遺伝子検査が利用されている。今回,TRCReady(TRC,東ソー)のEXTRAGEN ZR(EX)とTRCR抗酸菌溶菌試薬(TRCR)を用いた結核菌群,Mycobacterium avium(MAV)およびM. intracellulare(MIN)の検出性能を検討した。前処理後の臨床検体(結核菌群:71検体,MAV/MIN:76検体)をTRCで測定し,EXとTRCRの一致率を算出した。M. bovis BCG,MAVおよびMINの標準菌株を用いて希釈系列を作製し,希釈液をTRCによる測定と定量培養した結果から検出感度を算出した。EXとTRCRの陽性/陰性一致率は,結核菌は33%(2/6),100%(65/65),MAVは57%(8/14),100%(62/62)であった。EXとTRCRの結果が乖離した10検体は,全てEX陽性/TRCR陰性かつ塗抹陰性であった。EXとTRCRの検出感度は,M. bovis BCGは60 CFU/mLと3,000 CFU/mL,MAVは30 CFU/mLと360 CFU/mL,MINは30 CFU/mLと690 CFU/mLであった。EXはTRCRより高感度であり,少量の菌を含む検体中の結核菌群,MAV,MINの検出に有用と考えられた。

  • 米澤 和, 森 恵莉, 弦本 結香, 関根 瑠美, 倉島 彩子, 鄭 雅誠, 小島 博己, 鴻 信義
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 302-307
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    T&Tオルファクトメーター(T&T olfactometer; T&T)を用いた基準嗅力検査は,本邦では臨床上,唯一保険適応下で行われている嗅覚閾値検査である。近年,パーキンソン病やアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患において,嗅覚障害が早期に発症することが言われており,超高齢社会の我が国で,今後重要な役割を呈していくと考えられる。今回,当院においてT&Tを行った患者1,472名を対象に,罹患疾患や障害の程度,並びに疾患毎の改善度の調査を行ったので報告する。疾患頻度は慢性副鼻腔炎が56.3%と最も多く,感冒後が13.9%,外傷性が4.4%の順で続いた。障害の程度は,外傷性で高度・脱失群が41名中33名(80.5%)で,有意に障害が重症であった(p < 0.05)。また,疾患別の改善度についても,外傷性において悪化・不変群が41名中27名(65.9%)となり,他の疾患と比べて有意に改善に乏しい結果となった(p < 0.05)。T&Tは,2015年4月に施行された「臨床検査技師等に関する法律」の一部改正により,臨床検査技師の業務に加わったが,現状では医育機関でも行っている施設は多くはない。しかし,嗅力を数値化することで,治療効果や治療経過を患者に提示することができ,治療コンプライアンスを向上させるためにも重要な検査である。今後更に,嗅力検査が嗅覚障害の診療に寄与できることを期待する。

  • 天尾 優希, 山城 安啓, 河野 裕夫
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻2 号 p. 308-316
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor; EGFR)は細胞外からの刺激により自己リン酸化が生じ活性化され下流へシグナルを伝達する。その変異は,がん化の促進や転移と深い関係があることが示唆されている。抗EGFR抗体薬は,切除不能の進行・再発大腸がんに適用が認められているが,EGFRのシグナル伝達系の下流に位置するKRAS遺伝子に変異を有する患者においてはその有効性が確認されていない。よってKRAS遺伝子検査は抗がん剤の効果を予測するための有力なバイオマーカーとなり得る。検討材料として患者体腔液からKRAS遺伝子codon 12の野生型GGTをPCRで増幅しplasmidにクローン化した。Hybri-probe法で検討した結果,野生型(GGT)probeを使用した場合,いくつかの変異の区別が困難であった。そこで,変異型GATと完全一致する変異型(GAT)probeを作製した。この2種類のprobeを組み合わせることにより5種類の変異と野生型の同定が可能となった。また,Hybri-probe法の検出感度は1.0 × 103 copy/μL,選択感度はGGT:GAT(80:20)であった。本法は,簡易・迅速・安価であり,臨床現場において大いに貢献できると考えられる。

資料
  • 原 祐樹, 阿知波 雅人, 河内 誠, 西尾 美津留, 坂梨 大輔, 山岸 由佳, 三鴨 廣繁
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 317-322
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    カルバペネマ-ゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)が世界中で問題となっている。我々は愛知県下におけるCPEの検出状況を把握するため,愛知県下の4か所の医療施設においてサーベイランスを実施したので報告する。2017年1月から6月の期間に臨床分離された腸内細菌科細菌のうち,CPEスクリーニング基準に該当した菌株を解析対象とし,各種耐性遺伝子保有状況および薬剤感受性について調査を実施した。分離された5,419株のうち67株(1.2%)が解析対象となり,4株(0.07%)のCPEが検出された。内訳はIMP-1産生CPE 3株とOXA-48-like産生CPE 1株であり,IMP-1産生CPE 2株とOXA-48-like産生CPE 1株はCTX-M型extended-spectrum β-lactamaseを併産していた。また,OXA-48-like産生CPE 1株はカルバペネム系抗菌薬に感性を示した。今回のサーベイランスではCPEの濃厚な地域流行は認められなかった。しかし,カルバペネム薬に感性を示した海外型CPEが臨床分離されたことから,継続したCPEの監視とともに統一された基準の導入も必要であると考えられた。

  • 大草 繁美, 畑中 重克, 河村 美里, 大橋 有希子, 野中 伸弘
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 323-327
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    2015年1月~2017年12月の間に当院で臨床検体より分離され,菌名同定・感受性試験を実施した腸内細菌科細菌2,339例を対象とし,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae; CRE),カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)の検出状況を調査した。CREと判定された株は64株(2.7%)で,この内,CPEと判定された株は10株(0.4%)であった。CREの菌種はEnterobacter属が全体の66%を占め,CPEはK. pneumoniaeE. coli,CPEと判定された10例はすべてIMP-6であった。IMP-6ではステルス型の存在が報告されているが,今回の調査ではCPEはすべてCREとして検出された。当院においてCRE,CPEの明らかな増加傾向は認めなかったが,今後もアウトブレイクを未然に防ぐために速やかな検出と感染対策に取り組んでいく必要があると考える。特に,K. pneumoniaeE. coliがCREとして検出された場合はCPEの可能性が高いと考え,迅速な対応が必要と考える。

  • 盛合 亮介, 遠藤 明美, 山田 暁, 近藤 崇, 淺沼 康一, 柳原 希美, 髙橋 聡
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 328-332
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    プロトロンビン時間(prothrombin time; PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)などの凝固時間の延長原因として,凝固因子欠乏や凝固因子インヒビター,さらにループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)などの抗リン脂質抗体がある。クロスミキシングテストは,これらの延長原因を迅速に鑑別するために行われる。今回,当院で実施したクロスミキシングテストの有用性を評価した。判定法は,波形パターン法とindex of circulating anticoagulant(ICA)を用いた。凝固因子欠乏例(3例)は,全例で両判定法ともに凝固因子欠乏型(coagulation deficient pattern; DEF)と正しく判定された。LA陽性例では,6例中4例が両判定法ともにインヒビター型(inhibitor pattern; INH)と正しく判定された。しかし,波形パターン法でDEF,ICAでINHと判定された症例が1例(症例8),両判定法ともにDEFと判定された症例が1例(症例9)認められた。症例8,9のLA活性は,両判定法ともにINHと判定された4例と比べて低値を示す傾向がみられた。本検討では,9例中8例の凝固時間延長原因を推測することが可能であり,クロスミキシングテストは迅速な凝固時間の延長原因の鑑別に有用であった。しかし,LA活性の低い症例では,DEFと誤判定される可能性があるので,必要に応じて追加検査を実施することが望ましいと思われた。

  • 恒川 浩二郎, 浅井 祥之, 池上 志乃富, 山田 雄一郎, 北岡 拓也, 湯浅 典博
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 333-338
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    一般検査室で行われる業務は検査結果を手入力する作業が多く,「うっかり」「不注意」といったヒューマンエラーによるインシデントが発生しやすい。本稿では,当院における一般検査室のインシデントを解析し,その対策の具体例を報告する。2009年4月から7年8ヶ月間に当院一般検査室で発生したインシデント14件を対象として,インシデントの内容・影響レベル・原因・発生した時間帯・対策について検討した。インシデントの主原因は錯誤:10件,知識不足:2件,不注意:1件,情報伝達不足:1件であった。インシデントは月曜日・火曜日に多く発生しており,1時間当たりのインシデントの発生頻度は昼食時間帯(11:00–13:30)に高く,ルチン帯と比較して日・当直帯で高かった。インシデントへの対策として,錯誤の起こりにくい環境づくり,簡便でわかりやすいチェック方法が重要である。

  • 天野 宏敏, 原澤 彩貴, 眞野 容子, 細井 淳裕, 古谷 信彦, 藤谷 克己
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 339-346
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    尋常性痤瘡(ニキビ)は,90%以上の人が経験する一般的な疾患であり,角化異常および皮脂分泌の亢進などにより,Cutibacterium acnesC. acnes)が増殖した結果,引き起こされる慢性炎症性疾患である。外見へ影響があるため,感情面での生活の質(QOL)への影響が大きい。本研究では,健常人におけるニキビ治療の実態把握やC. acnesの年代別保有状況を疫学的に調査,分析を行うことを目的とした。10代19名,20代20名,30代20名,40代20名の計79名を対象に,検体採取を行った後に,質問表式調査法による調査を行った。両頬におけるC. acnesの検出率は全体で82.3%であった。また検出率における年代および性別間では差が認められず,年代・性別を問わずC. acnesを保有していた。ニキビに対する対処法として,全体では洗顔をするが50.0%と最も多かったが,何もしないが16.4%であった。発症時期(自覚した時)は10代に最も多く認められた。治療を始めた理由として全体では,ニキビ痕が残ることが心配になった,人からの目が気になった,の2つが多く半分以上を占めていた。ニキビに関して,全体ではとくに関心をもっていないが最も多く,特に30代と40代で顕著であった。

  • 田邊 正喜, 茂山 翔太, 西村 好博, 櫻井 太紀, 黒江 彰, 菱澤 方洋, 矢野 秀樹
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 347-352
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase; GAD)抗体の測定法が2015年12月より放射免疫測定(radioimmuoassay; RIA)法から酵素免疫測定(enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA)法へ変更となった。本研究では,測定法の違いが緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive type 1 diabetes; SPIDDM)の診断へ及ぼす影響について検討した。対象は本院に2型糖尿病として通院中の患者で2013年1月から2015年12月までにRIA法による測定をした405例。全例で2016年中に再検査を行い,両測定法から得られたGAD抗体の陽性率を比較検討した。RIA法では28例が陽性であり,SPIDDMと診断された。そのうち,ELISA法では9例が陽性であり,陽性一致率は35.7%であった。陰性一致率は99.5%と高かったが,陽性一致率に乖離がみられた。次に,相関関係を調べたところ,RIA法で8.0 U/mL以上の場合において,正の相関となったが,8.0 U/mL未満の場合に相関関係は認められず,多くの症例はELISA法で陰性となった。以上より,RIA法とELISA法から得られるGAD抗体の判定には乖離があり,ELISA法による緩徐進行1型糖尿病の診断には注意が必要である。

  • 濵田 文香, 戸田 聡江, 松本 眞弓, 杉本 美香, 佐藤 達郎
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 353-357
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    当院では外来輸血を実施するにあたり『外来輸血の安全のための基準(院内基準)』を作成し検討したが,実施場所および人員の確保が困難と判断したため実現できなかった。2014年に再検討し,対象患者を外来化学療法患者のみ,実施場所を限定することで実施可能と判断して開始に至った。現在は対象患者を他科へも拡大している。この度我々は,2014年4月から2017年12月までに外来輸血が指示された全症例(17件・実人数11名)を対象とし,現状把握のための調査を行った。外来輸血実施率は88.2%(15/17件),投与製剤は赤血球製剤13件・血小板製剤2件で,副作用や帰宅後の不調および急変は認めなかった。院内基準遵守率は33.3%と低率であった。対象患者を拡大した際の周知が不十分であったと考えられた。今回の調査により,輸血を指示する医師だけでなく,診療に携わる看護師やクラーク,また輸血依頼を受ける検査技師など外来輸血に関わるすべてのスタッフが安全な輸血療法の提供への意識・知識を向上させる必要性を再認識した。

  • 上杉 里枝, 河口 勝憲, 河口 豊, 通山 薫
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻2 号 p. 358-363
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    いまだ結核患者の多い本邦にとってインターフェロンγ遊離試験(interferon-gamma release assays; IGRA)は結核診断に欠くことのできない検査となっている。IGRAのひとつであるT-SPOTの約4年間の結果解析を行い,臨床的有用性を検証した。対象1,744例の判定結果は陰性90.8%,判定保留1.9%,陽性5.8%,判定不可1.5%であった。各判定の平均年齢は陽性が66.9歳と最も高齢であった。T-SPOTの判定分布をQFTの判定分布と比較すると,陰性か陽性の明確な判定結果が多いことが確認された。QFTが判定保留あるいは判定不可であった後,次の検査でT-SPOTが実施された症例を検証したところ,QFTの判定保留から次回T-SPOTでは約80%が陰性となり,QFTの判定不可から次回T-SPOTでは約95%が陰性となった。T-SPOTと同時期に実施された抗酸菌検査との比較を行った結果,T-SPOT陽性の58例からは,結核菌が12例,非結核性抗酸菌が2例検出された。また,T-SPOT陰性の294例中3例から結核菌が検出され,2例はステロイド剤を服用していた。T-SPOTは判定保留や判定不可が少なく,陰性,陽性の明確な結果を得られることが多いため,結核を早期に診断することが可能である。しかし,結核菌陽性症例での陰性判定が存在することを理解したうえでの判断が必要である。

症例報告
  • 亀井 望世, 田寺 加代子, 宮野 秀昭, 尾上 隆司
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻2 号 p. 364-369
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    血液培養よりAbiotrophia defectivaを分離し,感染性心内膜炎と診断された1症例を経験したので報告する。症例は20歳代女性。繰り返す発熱と咳嗽,炎症反応上昇にて当院紹介となった。軽度肺炎が疑われ,Ceftriaxone(CTRX)点滴後帰宅したが,血液培養陽性となったため再受診を要請,緊急入院となった。心エコーにて重度僧帽弁閉鎖不全症を伴う感染性心内膜炎と診断され,抗生剤をDaptomycin(DAP)およびMeropenem(MEPM)に切り替え,同日緊急手術にて僧帽弁置換術を行った。血液培養よりグラム陽性レンサ状球桿菌を認め,当初Streptococciを疑ったが,サブカルチャーにて5%ヒツジ血液寒天培地に発育しなかったこと,感染性心内膜炎の診断から,起炎菌として栄養要求性レンサ球菌(nutritionally variant streptococci; NVS)を推定し,ブルセラHK寒天培地を追加した。嫌気培養でα溶血を示すコロニーが認められ,Vitek2によりA. defectivaと同定された。また疣贅および口腔内培養からも同菌が検出され,同菌による心内膜炎と診断された。A. defectivaなどのNVSは臨床的に重要であるが,通常培地には発育しないため,その正確な検出・同定には本菌の特徴を常に念頭におくこと,また自施設での使用培地の特性を十分に理解しておくことが重要である。

  • 藤岡 載三, 野中 祐二, 今井 清隆, 松原 卓也, 本多 加津雄
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻2 号 p. 370-375
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    Bifidobacterium breve感染症を疑う症例を経験したので報告する。症例は40歳代,男性。頻回の嘔吐が出現し全身倦怠感著明となり,意識混濁のため当院へ救急搬送された。腹水貯留,膿尿が認められ,腹水穿刺にて混濁した腹水が採取され,腹水・尿検体から分岐したグラム陽性桿菌を検出した。好気培養では菌の発育を認めず,嫌気培養した培地にのみ菌の発育を認め,質量分析と16S rRNA塩基配列の結果Bifidobacterium breveと同定された。入院時の尿一般検査で尿路感染症が疑われたため,入院時よりSBT/ABPC 6 g/日が投与され,全身状態は日ごとに改善し第90病日に軽快退院となった。

  • 大橋 明香, 餌取 文昌, 松山 昌史, 丹羽 理代子, 河口 尚未, 川島 啓佑, 渡部 直樹, 田中 卓二
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻2 号 p. 376-382
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    乳腺癌の稀な特殊型である腺様嚢胞癌は,トリプルネガティブ(ER陰性,PgR陰性,HER2陰性)であるにも関わらず,予後良好である。その画像診断は容易ではないが,特徴的な細胞像を呈するため,穿刺吸引細胞診が診断に有用である。今回,術前の穿刺吸引細胞診で診断可能であった乳腺原発腺様嚢胞癌を経験したので報告する。症例は,81才女性。検診で左乳房腫瘤を指摘され,浸潤性乳管癌疑いで当院紹介となった。画像検査(CT,乳腺エコー,MRI)で,左乳房C領域に境界明瞭な径12 mm大の腫瘤影を認めた。穿刺吸引細胞診が行われ,その細胞像は,粘液状物質を取り囲む様に大小の細胞集塊が多数採取され,重積性が目立つ集塊や篩状構造も認められ,腺様嚢胞癌が示唆された。乳腺針生検では,硝子化を伴う間質結合織を背景に小型で異型に乏しい腫瘍細胞の小増殖巣や胞巣状増殖巣を認めた。小腺腔や篩状構造がみられ,腺腔内に粘液様物質を含んでおり,腺様嚢胞癌と診断した。免疫組織学的染色では,管腔内腔側の腫瘍細胞がCEA,CK7,ç-kit陽性,管腔外側がp63,α-SMA陽性と二相性が窺えた。また,腫瘍細胞は,ER境界域,PgR陰性,HER2陰性であった。センチネルリンパ節生検併用で左乳房部分切除術を行い,最終病期はpT1pN0M0,Stage Iであり,現在再発なく経過良好である。

  • 溝口 義浩, 田渕 佐和子, 佐谷 純一, 下門 春菜, 平山 賢司, 宇野 大輔, 緒方 昌倫, 伏見 文良
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻2 号 p. 383-387
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    肺癌の骨転移は比較的認められる所見であるが,膝蓋骨への転移は非常に稀である。今回,我々は肺扁平上皮癌を左膝蓋骨滑膜嚢胞液中に認めた症例を経験したので報告する。患者は79歳男性で,肺癌と診断されている。膝に痛みがあることから,感染性関節炎を疑われ,様々な検査が施行された。迅速ギムザ染色(ヘマカラー染色;Hemacolor:H染色)を施行し,扁平上皮癌を検出した。その後,画像診断によって肺癌の左膝蓋骨転移と診断された。肺癌患者において膝に痛みを認める場合には,悪性細胞の存在を念頭において検査にあたることが重要である。

  • 山口 高明, 星 雅人, 長嶌 和子, 櫻井 昌代, 水野 元貴, 仲本 賢太郎, 藤田 孝, 石川 隆志
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻2 号 p. 388-394
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    肉眼的に褐色尿を呈した患者検体を,メラニン尿と同定した症例を報告する。通常,褐色尿の場合には血尿,ビリルビン尿,ウロビリン尿を疑うが,本症例では,尿潜血反応(±)であること,イクトテストの結果が陰性であることから上記の可能性は否定された。臨床診断よりメラニン尿の可能性を考え,Thormählen反応を実施したところ陽性であり,さらに,高速液体クロマトグラフィーによりメラニンマーカー(5-S-CD, PTCA, PDCA, 4-AHP)が検出され,褐色尿の原因はメラニンであると確定した。褐色尿は免疫チェックポイント阻害剤投与後数日間継続し,その後に淡黄色になった。悪性黒色腫患者の褐色尿は常に認められるわけではなく,病態の進行および治療に伴って出現する所見であると考えられた。すなわち,褐色尿の程度やThormählen反応の実施は,すでに悪性黒色腫の診断がついていても,病態の進行や治療効果の判定に有用である可能性が示唆された。

  • 高嶋 浩一, 関口 友見, 中山 泰政, 齋藤 久美子, 小堀 哲雄, 黒川 暢, 齊藤 寛浩
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻2 号 p. 395-400
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー HTML

    症例は50歳代,女性。未破裂の右内頸動脈瘤に対して開頭脳動脈瘤頸部クリッピング術が施行され,術中神経モニタリング(intraoperative neurophysiological monitoring; IOM)として視覚誘発電位(visual evoked potential; VEP)を行った。クリッピング術中にsuction decompressionにおいて,テンポラリークリップで血流を遮断した際に右眼刺激のVEP波形が平坦になったが,血流遮断を解除したところすぐに波形は回復した。本症例において患側の右眼刺激のVEP波形だけが平坦化した原因は,suction decompressionにより右内頸動脈から分岐する右眼動脈の血流が低下し,視神経への栄養障害を反映したことが考えられる。術後の重篤な視機能障害を回避するためにVEPモニタリングは有用であり,テンポラリークリップをかけて一時的に血流遮断を行う際には,VEPの連続記録を行う必要がある。そして波形が少しでも不明瞭になった場合は,速やかに術者に伝えることが重要である。

  • 井本 真由美, 前田 裕弘, 山口 逸弘, 中江 健市, 上硲 俊法, 山田 俊幸
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻2 号 p. 401-405
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/04/25
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    免疫比濁法(turbidimetric immunoassay;TIA法)による免疫グロブリン測定においてエラーコードが付かず測定結果が偽低値であったIgM-κ型M蛋白血症例を経験した。血清蛋白分画で明確なMピークがあり,免疫固定法でIgM型M蛋白と同定されたにもかかわらず,IgM定量値が400 mg/dL程度であった。整合性を確認したところ,原倍で420 mg/dLに対し,5倍で1,890 mg/dL,10倍で2,180 mg/dL,20倍で2,660 mg/dLであった。反応曲線を確認すると原倍から10倍希釈まで第一反応において濁りの影響があることが判明した。さらにIgGやIgAも影響を受けて偽低値であった。ネフェロメトリーでは問題なく測定できた。希釈直線性の検討でも,患者検体では全希釈系列でエラーコードが付かなかった。我々は,以前にも発生機序は異なるが同様にエラーコードが付かず誤報告されたIgM-λ型M蛋白の偽低値例を報告しており,今回2例目を経験したことから,TIA法ではIgM型M蛋白の偽低値を頻繁に見逃している可能性が示唆された。検査室側では,とくにIgM型M蛋白の定量では,反応曲線のチェックやA/G比の確認等を行い,検査システム側では,再検ロジックの構築,測定試薬の改良および異常反応検出機構の設置が望まれる。

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