医学検査
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資料
結核診断におけるT-SPOTの結果解析と臨床的有用性
上杉 里枝河口 勝憲河口 豊通山 薫
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キーワード: T-SPOT, IGRA, 結核, QFT
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2019 年 68 巻 2 号 p. 358-363

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Abstract

いまだ結核患者の多い本邦にとってインターフェロンγ遊離試験(interferon-gamma release assays; IGRA)は結核診断に欠くことのできない検査となっている。IGRAのひとつであるT-SPOTの約4年間の結果解析を行い,臨床的有用性を検証した。対象1,744例の判定結果は陰性90.8%,判定保留1.9%,陽性5.8%,判定不可1.5%であった。各判定の平均年齢は陽性が66.9歳と最も高齢であった。T-SPOTの判定分布をQFTの判定分布と比較すると,陰性か陽性の明確な判定結果が多いことが確認された。QFTが判定保留あるいは判定不可であった後,次の検査でT-SPOTが実施された症例を検証したところ,QFTの判定保留から次回T-SPOTでは約80%が陰性となり,QFTの判定不可から次回T-SPOTでは約95%が陰性となった。T-SPOTと同時期に実施された抗酸菌検査との比較を行った結果,T-SPOT陽性の58例からは,結核菌が12例,非結核性抗酸菌が2例検出された。また,T-SPOT陰性の294例中3例から結核菌が検出され,2例はステロイド剤を服用していた。T-SPOTは判定保留や判定不可が少なく,陰性,陽性の明確な結果を得られることが多いため,結核を早期に診断することが可能である。しかし,結核菌陽性症例での陰性判定が存在することを理解したうえでの判断が必要である。

Translated Abstract

The interferon-gamma release assays (IGRA) is an indispensable test for tuberculosis diagnosis in Japan, where many tuberculosis patients still exist. Analysis of results of T-SPOT, which is one type of IGRA, was conducted for about 4 years to verify its clinical usefulness. The determination results of 1,744 cases were as follows: negative, 90.8%; intermediate, 1.9%; positive; 5.8%; and indeterminate, 1.5%. The average age of patients with positive determination was 66.9 years. When comparing the determination results of T-SPOT with those of QuantiFERON (QFT), it was confirmed that there were many clear negative or positive determination results. After QFT was found to show intermediate or indeterminate determination, we examined the cases in which T-SPOT was conducted in the next test. Approximately 80% of the cases were found to be negative in the next T-SPOT after the intermediate determination using QFT, and about 95% were found to be negative in the next T-SPOT after the indeterminate determination using QFT. A comparison was made with acid-fast bacteria test carried out at the same time as T-SPOT. Among 58 patients with T-SPOT positive results, 12 had mycobacterium tuberculosis and 2 had nontuberculous mycobacteria. Mycobacterium tuberculosis was detected in 3 out of 294 T-SPOT negative patients, and 2 patients had taken steroid drugs. Since T-SPOT gives clear negative or positive determinations with few intermediate or indeterminate determinations in many cases, it is considered to be useful for the early diagnosis of tuberculosis. However, it is also necessary to judge the results on the basis of the fact that there are negative determinations in mycobacterium tuberculosis positive cases.

I  序文

わが国における結核の新規登録患者数は,年間約17,000人に上る。罹患率は年次的に減少傾向ではあるが人口10万人あたり13.3人と,10人以下となっている欧米先進国に比べまだ多い状況である1)。2016年の「結核に関する特定感染症予防指針」の改正では,2020年までに罹患率10以下の低蔓延国化の目標が掲げられており,感染の拡大を阻止するため早期発見,早期治療が重要課題となっている。

結核の確定診断は結核菌の検出・同定によってなされるが,感染の補助的診断法としてインターフェロンγ遊離試験(interferon-gamma release assays; IGRA)は今や欠くことのできない検査となっている。IGRAは結核菌特異抗原で末梢血を刺激し,それによって産生されるインターフェロンγ(interferon-γ; IFN-γ)の程度を測定することで結核感染を診断する検査である。IGRAのひとつであるクォンティフェロン(QFT)について,以前我々は,約5年間の結果解析を行いスクリーニング検査としての有用性を確認した2)。その後,2012年にT-スポット(T-SPOT)が保険適用となり,当院では2013年5月から外注検査として導入した。その後現在まで,QFTとT-SPOTの両検査を外注検査として受け付けている。両検査の依頼件数が多い呼吸器内科やリウマチ・膠原病内科ではQFTが優先的に用いられる傾向ではあるが,確認検査でT-SPOTを用いるなど他の診療科も含めT-SPOTの依頼件数は年々増加傾向であり,2017年では両検査の約4割がT-SPOTとなっている。今回,受付開始から約4年間のT-SPOTの結果解析を行い,臨床的有用性を検証した。

II  対象および方法

1. 対象

2013年5月から2017年3月までにT-SPOT検査依頼のあった1,744例と,同時期にQFT検査依頼のあった3,617例についてレトロスペクティブに検討を行った。なお,本研究は川崎医科大学・同附属病院倫理委員会の承認(承認番号:2726)を得て実施した。

2. 方法

T-SPOT検査は,ELISPOT法(enzyme linked immunospot assay)である「T-スポット®.TB」(オックスフォード・イムノテック社)で行った。この測定方法は,末梢血から分離調整した単核球検体を抗IFN-γ抗体を固相化したマイクロプレートウェルに加え,さらに結核菌特異抗原ESAT-6とCFP-10を添加して培養後,IFN-γ産生細胞を染め出しそのスポット数を計測するものである。また,検体には,採血から検査までの時間を32時間まで延長可能なT-Cell Xtend®(TCX)を添加して測定した。

比較したQFT検査は,ELISA法(enzyme linked immuno sorbent assay)である第3世代試薬「クォンティフェロン®TBゴールド」(キアゲン社)で測定した。T-SPOTとQFTの判定基準は日本結核病学会予防委員会による「インターフェロンγ遊離試験使用指針」に準じた(Table 13)。また,微生物学検査は,抗酸菌検査の塗抹検査(蛍光法・チールネルゼン法)と培養検査(小川培地)およびPCR検査を用いた。

Table 1  Decision criteria
T-SPOT (spot)
maximum of panel A and B
QFT (IU/mL)
TB antigen value
Negative ≤ 4 < 0.10
Intermediate 5, 6, 7 0.10~0.34
Positive ≥ 8 ≥ 0.35
Indeterminate Negative control: > 10
or
Positive control: < 20
< 0.35
and
Positive control: < 0.5

検討内容は,1)T-SPOTの判定結果と各判定の平均年齢比較,2)T-SPOTとQFTとの判定分布比較,3)QFTで判定保留または判定不可になった症例の次回T-SPOT結果解析,4)T-SPOTと抗酸菌検査との結果比較を行った。

III  結果

1. T-SPOTの判定結果と各判定の平均年齢比較

T-SPOT 1,744例の判定結果は,陰性1,584例(90.8%),判定保留33例(1.9%),陽性101例(5.8%),判定不可26例(1.5%)であった。各判定の平均年齢はそれぞれ53.6,63.1,66.9,56.8歳であった(Figure 1)。

Figure 1 Result of T-SPOT determination and the average age

The bar graph is the number of T-SPOT determination results.

The line graph is the average age of each result.

2. T-SPOTとQFTとの判定分布比較

解析したT-SPOTと同時期に検査依頼のあったQFTとの判定分布を比較した。QFT 3,617例の判定結果は,陰性2,686例(74.3%),判定保留214例(5.9%),陽性327例(9.0%),判定不可390例(10.8%)であり,T-SPOTがQFTと比べて陰性で16.5%多く,判定保留,陽性,判定不可でそれぞれ4.0%,3.2%,9.3%少ない分布となった(Figure 2)。

Figure 2 Determination result of T-SPOT and QFT

When comparing determination results of T-SPOT with that of QFT, there were many negative or positive clear determination results.

3. QFTで判定保留または判定不可になった症例の次回T-SPOT結果解析

検討期間中のQFT結果が判定保留または判定不可で,次回検査でT-SPOTが実施された症例の判定結果を検証した。

1) QFT判定保留39例の次回T-SPOT判定結果

T-SPOT陰性31例(79.5%),判定保留3例(7.7%),陽性4例(10.2%),判定不可1例(2.6%)であった(Figure 3)。

Figure 3 Next T-SPOT determination result after the intermediate determination of QFT

Among 39 cases of the QFT- intermediate , 31 cases (79.5%) were negative in T-SPOT.

2) QFT判定不可86例の次回T-SPOT判定結果

T-SPOT陰性82例(95.4%),判定保留2例(2.3%),陽性0例,判定不可2例(2.3%)であった(Figure 4)。

Figure 4 Next T-SPOT determination result after the indeterminate determination of QFT

Among 86 cases of the QFT-indeterminate, 82 cases (95.4%) were negative in T-SPOT.

4. T-SPOTと抗酸菌検査との比較

T-SPOTを測定した1,744例のうち,T-SPOTと同時期に抗酸菌検査(塗抹検査,培養検査,PCR検査)を実施した366例について解析した。

1) 判定結果比較

366例中T-SPOT陰性は294例で,このうち抗酸菌検査陰性は262例(89.1%)で,陽性は32例(10.9%)であった。抗酸菌検査陽性32例中29例は非結核性抗酸菌であったが,3例は結核菌であり偽陰性率は1.0%であった。T-SPOT陽性は58例で,このうち抗酸菌検査陰性は44例(75.9%),陽性は14例(24.1%)であった。抗酸菌検査陽性14例中12例で結核菌が検出されたが,2例は非結核性抗酸菌であった。また,T-SPOT判定保留の10例では1例から非結核性抗酸菌が検出され,判定不可の4例は全て抗酸菌検査陰性であった(Table 2)。

Table 2  Comparison of T-SPOT with acid-fast bacillus tests
(n = 366) AFB tests (smear·culture·PCR)
Negative (n = 319) Positive (n = 47)
Mycobacterium tuberculosis (n = 15) Nontuberculous mycobacteria (n = 32)
T-SPOT Negative (n = 294) 262 3 29
Intermediate (n = 10) 9 0 1
Positive (n = 58) 44 12 2
Indeterminate (n = 4) 4 0 0

2) T-SPOT陽性例のスポット数解析

抗酸菌検査を実施した366例中T-SPOT陽性の58例について,抗酸菌検査の結果群別にスポット数を比較した。それぞれの平均スポット数は,陰性群で36.5 spot,結核菌群で29.3 spot,非結核性抗酸菌群で20.5 spotであった。3群全ての間に有意差(p < 0.05)は認められなかった(Figure 5)。

Figure 5 Spot number of T-SPOT-positive cases

We compared each spot number with the results of acid-fast bacteria tests about the positive cases. There was not significant difference between the groups.

N.S.: Not significant

IV  考察

IGRAは,BCG接種やMycobacterium kansasiiMycobacterium szulgai,およびMycobacterium marinumを除くほとんどの非結核性抗酸菌の影響を受けることなく結核感染の診断が可能な検査法である。QFTに続きT-SPOTが保険収載され,現在ではQFTとT-SPOTが区別なく使用されている状況である。今回,比較的新しい検査であるT-SPOTの結果解析を行うことでその臨床的有用性を検証した。

判定結果は約91%が陰性であり,次いで陽性,判定保留,判定不可の順であった。陽性の平均年齢が66.9歳と最も高く,次いで判定保留,判定不可,陰性の順であった。T-SPOTは結核の既往でも陽性となる。そのため陽性例には結核既感染例が多く含まれていると思われ,高齢者ほど既往感染率が高いことを反映した結果と考える。

T-SPOTの判定分布をQFTの判定分布と比較すると,特に判定保留と判定不可が低率であり,T-SPOTの方が陰性か陽性かの明確な判定に分かれる結果となった。T-SPOTで判定保留と判定不可が低率となったのは,QFTは測定に全血を用いるのに対し,T-SPOTでは血液から単核球を分離して一定数に調整するため,免疫低下によるリンパ球減少の影響を受けにくいことに起因するものと考える。また,判定保留の判定基準がQFTよりもT-SPOTの方が狭いことも要因と推察される。QFTの判定保留は限りなく陽性に近い検体として陽性的中率を向上させるために設定されたのに対し,T-SPOTの判定保留は陽性あるいは陰性の判定からわずか1~2 spot違いの範囲(5, 6, 7 spot)は,判定が微妙なために再検査が必要な領域として設定されているためである3)

検討期間中においてQFTが判定保留あるいは判定不可であった後,次の検査でT-SPOTが実施された症例が該当症例の約20%でみられ,その判定結果の違いを確認した。QFT判定保留からT-SPOTでは陰性となった症例は約80%,さらにQFT判定不可からT-SPOTでは陰性となった症例は約95%といずれもT-SPOTでは陰性となる症例が高率に認められた。これらの症例については,症状,画像所見,抗酸菌検査などから結核が否定される症例であった。QFT測定からT-SPOT測定までの期間は,約7割の症例が1か月以内であり,判定の違いに検査時期の影響は少ないものと思われる。要因としては,約半数の症例がリウマチ・膠原病内科で免疫抑制剤治療を施行している症例であるため,先述したように使用血液の違いや,あるいは判定基準の違いによるところが大きいと考える。しかしながら,個々の免疫能の変動や,さらには,QFTでは適切な採血量や検体保管温度が重要であり,T-SPOTではリンパ球を分離精製する操作が煩雑な点など検査手技による変動の可能性も否定できない。また,陽性的中率を向上するために設けられたQFTの判定保留だが,T-SPOTでは39例中4例(10.3%)のみが陽性となった。その中の1例は結核と診断されており,T-SPOTの方が的確な判定となった症例であった。

T-SPOTと同時期に微生物学的な塗抹検査,培養検査およびPCR検査といった抗酸菌検査が実施された症例についてその検査結果との比較を行った。T-SPOT陽性の58例においては,結核菌検出が12例,非結核性抗酸菌検出が2例であり,75.9%にあたる44例は抗酸菌検査では陰性という結果だった。2例の非結核性抗酸菌はMycobacterium aviumMycobacterium intracellulareであり,T-SPOTの使用抗原と同等の抗原を持つ非結核性抗酸菌ではなかった。結核の既往がT-SPOT陽性となった一因とも考えられるが詳細は不明であった。抗酸菌検査陰性の44例については,判明しているだけでも13例が結核の既往感染症例であった。結核既感染者は,他疾患の合併や治療によって免疫能低下状態になった場合,結核の発病リスクが高い。また,「潜在性結核感染症治療指針」においても潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection; LTBI)の治療を積極的に推進する方針が示されており,T-SPOT陽性時の診断はLTBIも踏まえて慎重に行わなければならない4)。T-SPOT陽性58例のスポット数を確認すると,抗酸菌検査陰性群の中に100 spot以上の症例が3例あり最も高いスポット数であった。3例とも結核の既往は確認されなかったが,LTBIを視野に入れた対応が必要な症例の可能性も考えられる。スポット数の平均値は陰性群が最も高値であり3群の間に有意差は認められなかったことから,スポット数での結核菌感染の判断は困難であった。

T-SPOT陰性の294例中3例(症例1,2,3)から結核菌が検出された。症例1は75歳女性で肺結核であり,ANCA関連血管炎のためプレドニゾロンを常用していた。症例2は54歳女性で肺結核であり,神経根障害のため5日前からプレドニゾロンを内服していた。症例3は63歳女性で頸部リンパ節結核であり服薬はなかった。Liaoら5)はT-SPOTの偽陰性因子として高齢とステロイド剤使用と報告している。また一方で,免疫抑制剤やステロイド剤の使用はT-SPOTの陰性化あるいは判定不可と関連していなかったとする報告もある6)。今回偽陰性例が3例と少なく統計学的な証明はできないが,3例中2例でステロイド剤が使用されておりT-SPOTの偽陰性にステロイド剤が影響を及ぼした可能性も示唆される。また,TCX使用下では未使用下のT-SPOTと比較して偽陰性率が高いとの報告もあり7),本検討では全症例にTCXが添加されていることから,偽陰性にTCXが関与していることも考えられる。

測定感度をQFTと比較した近年の報告では,T-SPOTはQFTより感度が低いとするものがある8),9)。我々も以前,QFTにおいて今回と同様に抗酸菌検査との比較検討を行ったが,QFT陰性の353例からは結核菌は検出されなかった2)。今回とは異なる母集団での検討であり単純に比較はできないものの,本検討でのT-SPOTの方が偽陰性率は高い結果となった。

V  結語

T-SPOTはQFTより判定保留や判定不可が少なく,陰性,陽性の明確な結果を得られることが多い。したがって,T-SPOTを第一選択の検査として実施すれば,結核をより早期に診断することが可能である。しかし,結核菌陽性症例でのT-SPOT陰性例が存在することを認識したうえで,補助的診断であるとの理解が必要である。

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本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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