2019 年 68 巻 2 号 p. 226-230
呼気一酸化窒素濃度(fractional exhaled nitric oxide; FeNO)は,下気道の好酸球性炎症マーカーとして,喘息患者での上昇が認められている。検査方法は簡便かつ非侵襲的である一方,FeNO値は硝酸塩やカフェイン含有物の摂取により測定結果に影響を及ぼすと報告されているが,摂取直後に関する報告は少ない。今回,我々は報告のある硝酸塩やカフェイン含有物摂取後の経時的変化,及び摂取する水の温度におけるFeNO値の変化について検討を行った。硝酸塩を含む食事摂取の検討では,摂取後5分は摂取前より有意に低下かつ最小値となった。摂取後30分は摂取前と有意差を認めなかった。摂取後1時間は摂取前より有意に上昇かつ最大値となり,摂取後2時間でも依然として高値を示し,摂取前の値まで戻らなかった。水の温度の検討では,4℃水摂取後5分,15分は共に摂取前より有意に低下した。一方,37℃水摂取後5分,15分は共に摂取前と有意差は認めなかった。硝酸塩及びカフェイン含有飲料摂取の検討は,いずれも摂取後5分は摂取前より有意に低下し,摂取後30分では有意差を認めなかった。今回の検討結果より,FeNO測定検査は飲食直後の検査を避けるべきであり,更には飲食物の温度による影響を受けることが示唆された。FeNO測定条件には様々な因子が複雑に関係していることが考えられ,今後も更なる検討が必要である。
Fractional exhaled nitric oxide (FeNO) is recognized as a marker of acidophilic inflammation in the lower respiratory tract. We can measure FeNO simply and noninvasively. On the other hand, it is reported that the FeNO level is affected when we consume a meal that includes nitric oxide, caffeine, and water. Also, there is very little information about the FeNO level immediately after eating and drinking. We examined the FeNO level immediately after consuming a meal and drink that include nitric oxide and caffeine, and determined the variation of water temperature. After consuming a meal that includes nitric oxide, we found significant decreases in the FeNO level after a minimum of 5 min. We did not find a significant difference after 30 min. The FeNO level significantly increased to the maximum after 1 h. After 2 h, it was high, which did not decrease to the level before the intake. After taking a drink that includes nitric oxide or caffeine, the level became the same as that after consuming a meal with nitric oxide. In the case of water temperature, the FeNO level significantly decreased 5 and 15 min after the intake of 4°C water. However, we did not find a significant difference in the FeNO level after the intake of 37°C water. We suggest that we should avoid FeNO measurement immediately after eating and drinking, and that the level is affected by the temperature of the drink. We consider that various factors are related to FeNO measurement conditions. Moreover, we believe that it is necessary to continue the examination of conditions affecting FeNO measurement in the future.
気管や気管支から成る下気道で好酸球性炎症が起こるとL-アルギニンからL-シトルリンへと変換を促す誘導型一酸化窒素合成酵素(inducible nitric oxide synthase; iNOS)が発現する。iNOSの産生亢進に伴って一酸化窒素(nitric oxide; NO)が産生され,呼気中へ放散されたNOが呼気NOである1)。
呼気一酸化窒素濃度(fractional exhaled nitric oxide; FeNO)は,下気道の好酸球性炎症マーカーとして,喘息患者での上昇が認められており,検査方法は簡便かつ非侵襲的である2)。一方,FeNO値は硝酸塩を摂取することにより上昇2),3)し,飲水やカフェイン摂取により低下する1)と報告されている。また,唾液で非酵素的に生成されたNOの影響4)など上記以外の様々な影響因子が報告されているが,検証されていないことも多い。特に摂取直後の報告が少ないため,検査直前に飲食してしまった患者への対応に苦慮することがある。
今回,我々は報告の少ない飲食直後の測定結果への影響について,これらの外的因子によるFeNO値への影響について検討した。
FeNO測定を行う対象患者は検討時に下気道の疾患や自覚症状の訴えがない,24~59歳の13名(男女比2:11,mean 37歳,SD 10.3,CV 27.7%)を対象とした。以下,対象者はA~Mとして表す。
検査施行前日から当日午前9時までは食事の制限を行わず,検査当日の最終飲食より4時間以上経過後に対象の飲食物を摂取し,検査終了までは飲食や歯磨き,うがいを行わないことを条件とした。
2. 測定機器と測定手技測定機器はAerocrine社のNIOX VEROを使用。
測定手技は,まず口からの呼出により肺を空にし,次に機器のマウスピースをくわえ,NOフリーの空気を全肺気量まで吸入後,呼気流速50 mL/sec ± 10%で10秒間呼出させた。
最終飲食より4時間以上経過後に測定した各個人の連続3回測定におけるFeNO値と再現性をTable 1に示した。それぞれにおいてCV値が小さく,測定機器の高い再現性を認めたため,全ての検討を1回測定とした。
1 | 2 | 3 | mean | SD | CV(%) | |
---|---|---|---|---|---|---|
A | 30 | 29 | 27 | 29 | 1.5 | 5.3 |
B | 42 | 39 | 39 | 40 | 1.7 | 4.3 |
C | 21 | 20 | 21 | 21 | 0.6 | 2.8 |
D | 39 | 39 | 39 | 39 | 0.0 | 0.0 |
E | 22 | 24 | 21 | 22 | 1.5 | 6.8 |
F | 14 | 15 | 14 | 14 | 0.6 | 4.0 |
G | 19 | 15 | 15 | 16 | 2.3 | 14.1 |
H | 14 | 15 | 14 | 14 | 0.6 | 4.0 |
I | 12 | 10 | 11 | 11 | 1.0 | 9.1 |
M | 13 | 13 | 13 | 13 | 0.0 | 0.0 |
硝酸塩を含む食事の検討では,レタス,トマトなどの野菜を使用したサラダ61.0 g,フライドポテト90.5 g,ハンバーガー187.8 g,100%オレンジジュース(氷入り)200 mLを用いた。また,水の温度における検討では,4℃と37℃のミネラルウォーター,影響因子を含む飲料の検討では,硝酸塩を含む100%オレンジジュース(4℃),カフェインを含むアイスコーヒー(4℃)をそれぞれ200 mL用いた。
4. 検討方法それぞれの検討において,対象者は無作為に抽出した。また,摂取し終わった時間を0分とした。
1) 最終飲食より4時間以上経過後のFeNO測定この検討では最終飲食より4時間以上経過後に測定をはじめた時間を0分とした。3名を対象として,0分,15分,30分,60分において測定を行った。
2) 硝酸塩を含む食事摂取におけるFeNO測定10名を対象として,摂取前測定を行った後,硝酸塩を含む同一同量の食事を摂取し,摂取後5分,15分,30分,60分,120分において測定を行った。
3) 水の温度におけるFeNO測定12名を対象として,摂取前測定を行った後,4℃水と37℃水をそれぞれ摂取し,摂取後5分,15分で測定を行った。
4) 影響因子を含む飲料におけるFeNO測定11名を対象として,摂取前測定を行った後,100%オレンジジュース(4℃)とアイスコーヒー(4℃)をそれぞれ摂取し,摂取後5分,15分,30分で測定を行った。
5. 統計解析経時的変化については反復測定(対応のある因子)の二元配置の分散分析を用いて,危険率p < 0.05を統計学的有意差ありと判断した。
各経過時点の測定値と0分値あるいは摂取前値との差については対応のあるt検定を用いて,有意水準を5%に設定し,最終飲食より4時間以上経過後の測定においてはt(2) = 4.30,硝酸塩を含む食事摂取時の測定においてはt(9) = 2.26,飲料摂取時の測定においてはt(10) = 2.23,t(11) = 2.20を用いて有意差を判断した。
いずれの対象者においても最大値と最小値の差は3 ppb以内であった(Figure 1)。経時的変化(p = 0.76)はなく,各経過時間値と0分値との差におけるt検定では,15分後でt = 0.19,30分後でt = 0.87,60分後でt = 1.00となった。いずれも有意差を認めなかった。
摂取後5分で最小値となり,摂取後15分以降は上昇を続け,70%の対象者は摂取後60分で最大値となった。摂取後120分においては,90%の対象者が摂取前値よりも高値であった(Figure 2)。
また,経時的変化(p = 1.57 × 10−10)及び,摂取後30分を除く経過時間値と摂取前値の差に有意差を認めた(Table 2)。
5分 | 15分 | 30分 | 60分 | 120分 | |
---|---|---|---|---|---|
硝酸塩を含む食事(n = 10) | −6.40 | −2.70 | 1.00 | 2.75 | 3.86 |
4℃水(n = 12) | −8.44 | −4.50 | |||
37℃水(n = 12) | −0.43 | 1.24 | |||
オレンジジュース(n = 11) | −2.59 | −2.05 | −1.61 | ||
アイスコーヒー(n = 11) | −5.43 | −4.66 | −2.05 |
グレー背景:有意差あり
4℃水では,摂取後5分,15分共に摂取前より有意な低下を認めた(Figure 3, Table 2)。経時的変化(p = 3.79 × 10−5)においても有意差を認めた。
37℃水では,個人によって様々な変動を認めたが,統計学的には経過時間値と摂取前値の差,及び経時的変化(p = 0.17)に有意差は認めなかった(Figure 4, Table 2)。
100%オレンジジュースは摂取後5分で有意な低下を認めたが,5分以降は上昇し,摂取後15分,30分では有意差は認められず,摂取前と近い値となった(Figure 5, Table 2)。経時的変化(p = 0.07)に有意差は認めなかった。
アイスコーヒーにおいては摂取後5分,15分で有意な低下を認めたが,摂取後30分では摂取前よりやや低値を示すのみで,有意差は認められなかった(Figure 6, Table 2)。経時的変化(p = 2.27 × 10−5)においては有意差を認めた。
FeNO値に関して,食事摂取後は上昇すると報告されているが,今回の検討において,飲食直後から30分までは低下する結果となり,今までの報告と矛盾する結果となった。ATS/ERSのガイドラインに記載2)があるように低下した原因としては飲水の影響が考えられた。食事の内容としては常温から体温に近いものを摂取していたが,唯一,100%オレンジジュースは非常に冷えていた。我々は唾液から生成されたNOを洗い流したことによる影響軽減4)と飲料の温度に着目した。
4℃水においては摂取直後のFeNO値に有意な低下を認めたが,37℃水においては有意差を認めなかったことから,飲水によって唾液から生成されたNOによる影響を軽減したとは考えにくい。一方で,体温に近い温度の水(37℃水)であれば摂取後であってもFeNO値へ大きな影響を与えないことが示唆された。硝酸塩やカフェインが含まれる飲料も同様に,温度に左右される可能性が考えられたが,今回の検討からは十分な結果が得られていないため,今後,自律神経との関連やNO産生の機序も含め,更なる検討が必要である。
今回の検討より,FeNO測定検査は飲食直後の検査を避けるべきであると考えられた。しかし一方で,体温に近い温度の飲水であれば大きく影響を受けない可能性が示唆され,温度変化に関しては今後の検討課題とする。
また,これまでの報告と矛盾する点もあり,FeNO測定検査は様々な影響因子が複雑に関係していることが考えられた。臨床へ適切な報告できるよう,今後も測定結果へ影響を与える因子について更なる検討が必要である。
なお,本論文は第39回三重県医学検査学会での演題「呼気NO濃度測定検査における検査手技の検討~食事摂取の影響について~」,第66回日本医学検査学会での演題「呼気NO濃度測定検査における検査手技の検討~飲み物による影響について~」の発表内容に基づき作成した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。