2019 年 68 巻 2 号 p. 323-327
2015年1月~2017年12月の間に当院で臨床検体より分離され,菌名同定・感受性試験を実施した腸内細菌科細菌2,339例を対象とし,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae; CRE),カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)の検出状況を調査した。CREと判定された株は64株(2.7%)で,この内,CPEと判定された株は10株(0.4%)であった。CREの菌種はEnterobacter属が全体の66%を占め,CPEはK. pneumoniaeとE. coli,CPEと判定された10例はすべてIMP-6であった。IMP-6ではステルス型の存在が報告されているが,今回の調査ではCPEはすべてCREとして検出された。当院においてCRE,CPEの明らかな増加傾向は認めなかったが,今後もアウトブレイクを未然に防ぐために速やかな検出と感染対策に取り組んでいく必要があると考える。特に,K. pneumoniaeとE. coliがCREとして検出された場合はCPEの可能性が高いと考え,迅速な対応が必要と考える。
Using identification protocols and sensitivity tests, we evaluated the quality of detection of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae (CRE) and carbapenemase-producing Enterobacteriaceae (CPE) strains in Enterobacteriaceae-contaminated samples. Of the 2,339 samples tested, 10 (0.4%) were determined to be contaminated by CPE strains, among which 64 (2.7%) were CRE strains. Of the 64 detected CRE strains, 66% were identified as Enterobacter species. The IMP-6 gene was detected in all CPE strains that were identified to be either K. pneumoniae or E. coli. In agreement with studies suggesting the presence of stealth-type CPE, all the CPE strains detected were also found to be CRE. There were no clear increases in CRE or CPE prevalence observed in our hospital. However, the rapid identification of strains and the deployment of adequate containment measures to prevent outbreaks are of critical importance. K. pneumoniae and E. coli strains that are detected as CRE have an especially high probability of being CPE, requiring a rapid response to such strains when they are identified in a hospital environment.
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae; CRE)はカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌科細菌であり,その増加が世界的な問題となっている1)。日本においては2014年9月より感染症法の5類感染症として,meropenem(MEPM)≥ 2 μg/mLまたはimipenem(IPM)≥ 2 μg/mLかつcefmetazole(CMZ)≥ 64 μg/mLの判定基準に該当し,感染症の起因菌と考えられる場合に届け出が必要となった1),2)。
CREの耐性機構としては,カルバペネム系抗菌薬を分解する酵素であるカルバペネマーゼの産生とAmpCや基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase; ESBL)産生に加え,細胞膜透過性低下などの膜変異に起因するものが主に知られている3)。臨床的に特に問題となるのが,カルバペネマーゼを産生するカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)である。CPEはカルバペネム系抗菌薬だけではなく,ペニシリン系,セフェム系などほとんどのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示すため,治療は難渋する4)。また,カルバペネマーゼ遺伝子はプラスミド性に伝達し,他菌種にも伝播・拡散していくため,感染対策上注意が必要である3),4)。
そこで,我々は当院におけるCRE,CPEの検出状況や動向を調査し,薬剤耐性菌の解析を行った。
当院で2015年1月~2017年12月までの3年間に臨床検体より分離され,菌名同定・感受性試験を実施した腸内細菌科細菌を対象とした。
なお,本研究は人を対象としていないため,倫理委員会の対象にはならなかった。
2. 菌名同定および感受性試験菌名同定および感受性試験は,BDフェニックス100(日本BD)グラムネガティブNMIC/ID-208を用いて測定を行った。
1) CRE判定対象菌株の薬剤感受性試験結果より,感染症法のCRE判定基準MEPM ≥ 2 μg/mLまたはIPM ≥ 2 μg/mLかつCMZ ≥ 64 μg/mLに該当する株をCREと判定した。
2) CPE判定対象菌株において,CRE判定基準に該当する株または第3/第4世代セファロスポリンに耐性を示した株またはBDフェニックス100においてESBLと自動判定されたが,cefpodoxime(CPDX)≤ 4 μg/mL またはcefotaxime(CTX)≤ 4 μg/mLまたはCMZ ≥ 8 μg/mLの1項目以上に該当する株にfaropenem(FRPM)ディスク感受性試験によるCPEスクリーニング5)を実施した。FRPMディスク感受性試験で耐性を示した株にmodified Carbapenem Inactivation Method(mCIM)によるCPE確認試験6)を実施し,陽性を示した株をCPEと判定した。
3. 薬剤耐性遺伝子解析大阪健康安全基盤研究所に耐性遺伝子解析(IMP, VIM, NDM, KPC, GES, PER, VEB, OXA-48, SME, IMI, CTX-M, TEM, SHV, CMY, DHA)を依頼し,カルバペネマーゼ遺伝子型の検索を行った。
調査期間中に感受性検査を実施した腸内細菌科細菌は2,339例で,そのうちCREと判定された株は64例であり,腸内細菌科細菌に占めるCREの検出割合は2.7%であった。CPEと判定された株は10例で,腸内細菌科細菌に占めるCPEの検出割合は0.4%であった。CPEは全例CREの判定基準にも該当し,CREに占めるCPEの検出割合は15.6%であった(Table 1)。
腸内細菌科細菌検出数 | CRE検出数(腸内細菌科細菌に占める割合%) | CPE検出数(CREに占める割合%) | |
---|---|---|---|
2015年 | 699 | 15(0.6) | 4(26.7) |
2016年 | 806 | 30(0.5) | 4(13.3) |
2017年 | 834 | 19(0.2) | 2(10.5) |
計 | 2,339 | 64(0.4) | 10(15.6) |
CREの菌種についてはEnterobacter aerogenes 34例,Enterobacter cloacae 8例,Klebsiella pneumonia 11例,Eschirichia coli 3例等で,Enterobacter属が全体の66%を占めていた。CPEの菌種については,Klebsiella pneumonia 7例,Eschirichia coli 3例であった(Figure 1)。
CRE,CPEとして検出された各菌種の検出数とCPE,non-CPEの内訳を示した。
感染症法の届け出基準別で分類すると,MEPM ≥ 2 μg/mLにのみ該当する株が11例でそのうち3例がnon-CPE,8例がCPEであった(Case No. 1, 3–7, 9–10)。IPM ≥ 2 μg/mLかつCMZ ≥ 64 μg/mLに該当する株が51例で,すべてnon-CPEであった。どちらの基準にも該当する株が2例で(Case No. 2, 8),どちらもCPEであった(Figure 2)。
感染症法届け出基準であるMEPM ≥ 2 μg/mL,IPM ≥ 2 μg/mLかつCMZ ≥ 64 μg/mL,両方の基準に該当する検出数の内訳を示す。
CPEと判定された10例のカルバペネマーゼ産生遺伝子はすべてIMP-6であった(Table 2)。
Case No. | 菌種 | 検出された薬剤耐性遺伝子 | 届け出基準 | |
---|---|---|---|---|
MEPM ≥ 2 μg/mL | IPM ≥ 2 μg/mLかつCMZ ≥ 64 μg/mL | |||
1 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ | |
2 | E. coli | IMP-6, CTX-M-2 | ○ | ○ |
3 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ | |
4 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ | |
5 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ | |
6 | E. coli | IMP-6, CTX-M-2 | ○ | |
7 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ | ○ |
8 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ | |
9 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ | |
10 | K. pneumoniae | IMP-6, CTX-M-2, SHV | ○ |
今回,2015年1月~2017年12月の期間で当院におけるCRE,CPEの検出状況を調査した。調査を行った3年間の年次推移において,CRE,CPEの検出数,検出割合共に明らかな増加傾向は認めなかった。厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(以下,JANIS)における2014年~2016年のCRE分離率(CRE分離患者数 ÷ 検体提出患者数 × 100)の推移においても,2014年0.4%,2015年0.36%,2016年0.29%であり,いずれも1%以下の低率にとどまっている7),8)。一方で,欧米や諸外国では急速に増加しており,米国CDCでは2013年にすでにCREの増加に対し,警告が出されている9)。日本でもアウトブレイク例や海外からの水平伝播事例が報告されており10),当院でも院内アウトブレイクを未然に防ぐために速やかな検出と感染対策に取り組んでいく必要があると考える。
CREの菌種の内訳について,JANISにおける2015年および2016年のデータによると,Enterobacter属が最も多く全体の6割以上を占め,次いでK. pneumoniae,E. coliとなっている7),8)。当院での検出割合もJANISの示す国内の検出割合の傾向と合致していた。
CPEについてはK. pneumoniae,E. coliの2菌種が検出されていた。K. pneumoniaeではCREとして検出された11例中7例(63.6%),E. coliでは3例中3例(100%)がCPEであった。またCPEは10例すべてが感染症法届け出基準のMEPM ≥ 2 μg/mLに該当していた。ゆえにこの2菌種がCREとして検出され,かつMEPMの最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)が上昇している場合には,CPEの可能性が高いと考え,迅速に確認試験を行うと同時に接触感染予防策を徹底することが重要であると考える。
その他の菌種については,Enterobacter属,Serratia属などの元来AmpC遺伝子を染色体上に保有する菌種であり,IPM ≥ 2 μg/mLかつCMZ ≥ 64 μg/mLの判定基準のみに該当していた。染色体性AmpC過剰産生と外膜蛋白の減少や欠失により,IPMのMICが上昇し,CRE届け出対象となっている例も多く3),これらの株もこの耐性機構による耐性化であることが推測される。
今回検出されたCPEの遺伝子型は10例すべてIMP-6であった。日本ではIMP型のIMP-1とIMP-6が主に検出されており,特にIMP-6は近畿・中国地方で検出が多いことが報告されている3)。当院は近畿地方に所在しており,当院の傾向は国内の流行に合致していると考えられる。さらにIMP-6では,カルバペネムに感性を示すステルス型も報告されており,MEPMのMICが自動分析装置では測定できない0.25~1 μg/mLの株の中にCPEが存在することも報告されている1)。しかしながら,今回の調査期間内ではCPEはすべてMEPM ≥ 2 μg/mLでCRE判定基準に該当する株であった。一般的な自動分析装置は,測定のエンドポイントにおける菌の増殖に伴う濁度がスレッシュホールド値以上になっているかどうかによって発育の有無を判定するため,増殖が遅くエンドポイントの段階でスレッシュホールド値まで上昇していない場合は発育無しで感性と判定される。BDフェニックス100では濁度に加え,菌の代謝による酸化還元反応も測定している。そのため,エンドポイントの時点で増殖が十分に上がっていなくても代謝の変化が進んでいる場合は発育ありと判定される11)。このBDフェニックス100の測定原理に起因してCREとして検出されているCPEも存在する可能性がある12)。分析機器の違いにより,MEPM感受性の判定に差が出る可能性を含めて,今後検討していく必要がある。
今回,当院における過去3年間のCRE,CPEの検出状況を調査した。CREの検出割合は2.7%,CPEは0.4%で,CPEはすべてIMP-6産生株であった。年次推移において明らかな増加傾向は認められなかったが,諸外国では増加傾向にあり,日本にも流入してくる可能性がある。引き続き,迅速な検出と発生動向調査を行っていく必要があると考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
今回,耐性遺伝子解析にご協力いただいた大阪健康安全基盤研究所 河原隆二先生に深謝いたします。