2019 年 68 巻 3 号 p. 437-442
ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia; PCP)の原因菌であるPneumocystis jiroveciiは人工培養法が確立されていないため,塗抹検査や血清学的検査,遺伝学的検査等により診断が実施されている。本検討で実施した検査と診断結果との一致率はloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法で感度94.6%,特異度94.7%,ディフ・クイック(Diff-Quik)染色で感度67.6%,特異度96.5%,β-Dグルカン検査で感度89.1%,特異度86.0%となった。3法を組み合わせて診断結果と比較した場合,2法以上陽性の症例は全例PCP群と診断されていた。また,PCP群において3法の検査が全て陰性であった症例は存在しなかった。LAMP法は感度の高い検査であるが,コロナイゼーションの可能性も否定できないため,単独でPCP診断を実施するのは困難である。これらの検査を併用することでPCP診断の精度を上げることができ,早期診断,治療につながることが期待できる。
Because to date, a method to culture Pneumocystis jirovecii, the causative agent of Pneumocystis pneumonia (PCP), has not yet been developed, PCP has been conventionally diagnosed on the basis of finding of nonculture methods such as smear examination, serological methods, and genetic tests. In this study, we compared with laboratory test results obtained by the loop-mediated isothermal amplification (LAMP) assay, Diff-Quik staining, and β-D glucan examination for PCP diagnosis. In the comparison of results, concordance rates were 94.6% sensitivity and 94.7% specificity for LAMP assay, 67.6% sensitivity and 96.5% specificity for Diff-Quik staining, and 89.1% sensitivity and 86.0% specificity for β-D glucan examination. When the results of these 3 laboratory tests were combined and compared for PCP diagnosis, all patients who showed positive results in 2 or more of the tests were diagnosed as having PCP. Patients diagnosed as having PCP showed positive results in at least one of these tests. Although the LAMP assay showed the highest sensitivity, it was considered inappropriate to apply this test alone for PCP diagnosis because the possibility of colonization by P. jirovecii could not be denied. By combining these tests, we hope that the PCP diagnostic accuracy will be improved, and early diagnosis and therapy of the disease will be achieved.
Pneumocystis jiroveciiは以前までPneumocystis cariniiと呼ばれていたが,近年の遺伝子解析で2001年より本名称に変更された真菌1)である。P. jiroveciiによって引き起こされるニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia; PCP)は主にHIV患者などの免疫不全患者に起こる肺炎として注目されていたが,近年は膠原病,悪性腫瘍などのnon-HIV群でも重篤な肺炎を引き起こすことが知られており問題となっている。PCPにおける臨床経過はHIV群では進行が通常2週間から2ヶ月と緩徐であるのに対し,non-HIV群ではより急速で数日から1週間前後で重篤化する傾向2)にある。P. jiroveciiは培養方法が確立されていないため,診断のゴールドスタンダードはディフ・クイック(Diff-Quik)染色やグロコット染色等による塗抹検査での菌体の確認となっている3)。しかし,HIV群では検体中にシストが多く観察され易いことに比べnon-HIV群では,検体中にシストが少なく炎症細胞が多いことが報告されており4),また,シストが観察できず栄養体のみであることもある。加えて栄養体は微小である上,形態が不定形であるため菌体の確認には熟練した技術を要する5)。そのため,臨床検査技師の誰もが同じ精度で鏡検を実施できないのが現状である。β-Dグルカン検査等の血清学的検査は補助的診断には利用可能だが,P. jiroveciiに特異的でない。また,PCP検査においてはreal-time PCR等の遺伝子診断技術が普及してきている6)が,保険収載されていない点や機器が高額である点,手技が煩雑である点といった理由で中小規模の病院検査室では実施しにくい。今回,我々は簡便な遺伝子診断技術の1つであるloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法を用いてP. jiroveciiに特異的な遺伝子を検出し,塗抹検査,β-Dグルカン検査と併せてPCP診断と臨床検査結果について検討したので報告する。
2011年4月から2017年1月の間に当院にて臨床医からP. jiroveciiのDiff-Quik染色による塗抹検査依頼があった97検体の残検体をLAMP法の対象とした。検体の内訳は喀痰66件,気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid; BALF)31件であった。β-Dグルカン検査は塗抹検査依頼のあった97名分の検査結果を使用した。
2. 方法 1) LAMP法DNA抽出の際の使用検体量は100 μLとした。喀痰を用いる際は火炎滅菌したハサミで200 μLチップの先端を切断しマイクロピペットを使用して採取した。BALFを用いる際は検体1 mLを1.5 mLアシストチューブに分注し,微量高速遠心器で15,000 rpm,10分遠心した沈渣100 μL検体とした。
DNA抽出キットはQIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN社)を使用し,この抽出液を検体として用いた。QIAamp DNA Mini Kitを使用した際の喀痰溶解行程は喀痰が確実に溶解するまで56℃のインキュベートを実施した。
LAMPプライマーはUemuraらの論文7)に記載された18S ribosomal RNA領域においてP. jirovecii に特異的なプライマーを使用した(Table 1)。LAMP反応の試薬はLoopamp® DNA増幅試薬キット(栄研化学)を使用し,1検体あたりReaction Mix 12.5 μL,混合プライマー液2.5 μL,Bst DNA Polymerase 1.0 μL,滅菌超純水4.0 μL,DNA抽出液5 μLを混和し,計25 μLを反応液とした。反応はリアルタイム濁度測定装置Loopamp® EXIA(栄研化学)を用いて62.5℃,60分間で行った。判定は増幅曲線が立ち上がったものを陽性とし,最終的に目視で白濁していることを確認した。
PCP-FIP | CCAGTGCACACACTTCGGAGTTAAAAAGCTCGTAGTTGAACCTA |
PCP-BIP | GCGATCCTTCCTTCTGGATTACAAGTAAAAGGCCCTGGTTA |
PCP-F3 | AGCGTATATTAAAGTTGCTGC |
PCP-B3 | GCTTTGAACACTCTAATTTTCTCA |
PCP-FL | GACCGGGCCGTCAAC |
PCP-BL | GTATGCCCTTCATTGGGTGTAT |
検体は好気培養後の残検体を使用した。喀痰は膿性部分を白金耳で採取し,スライドグラスにのせ,すり合わせ法で作製した。BALFは500 G 5分で遠心した後,上清を捨て沈渣を白金耳で採取し,スライドグラスにのせ,すり合わせ法で作製した。染色はDiff-Quik染色(シスメックス)を用いて実施した。本染色後×1,000(油浸レンズ100×)で鏡検し,P. jiroveciiのシストまたは栄養体の確認できたものを陽性とした。
3) β-Dグルカン検査試薬はβ-グルカン テストワコー(和光純薬)を用いて測定を行った。
最終診断は当院呼吸器内科医師1名に依頼し,臨床経過,画像所見等に加え今回の検討データを使用し,総合的に判断して頂いた。PCPとなった症例(PCP群)が37例,PCP以外の診断となった症例(non-PCP群)が57例,確定診断を得られなかったものが3例であった。PCP群において患者背景に着目するとHIV群は3例,non-HIV群は34例であった。PCP群において37例中35例がPCP-LAMP陽性であり,診断感度は94.6%であった。また,non-PCP群において57例中54例がLAMP陰性であり,特異度は94.7%であった(Table 2)。
PCP | ||||
---|---|---|---|---|
+ | − | total | ||
LAMP | + | 35 | 3 | 38 |
− | 2 | 54 | 56 | |
total | 37 | 57 | 94 |
診断感度 94.60%
診断特異度 94.70%
Diff-Quik陽性検体ではシストや栄養体が認められた(Figure 1)。Diff-Quik染色を実施した検体はPCP群において37例中25例がDiff-Quik陽性または陽性疑いで感度は67.6%であった。また,non-PCP群において57例中 55例がDiff-Quik陰性であり,特異度は96.5%であった(Table 3)。
Diff-Quik染色における栄養体とシストの形態を示している。
栄養体の形態は不定であり,赤い斑点様の内容構造が観察される。シストの細胞壁は染まらないため白く抜けたように観察される。
PCP | ||||
---|---|---|---|---|
+ | − | total | ||
Diff-Quik | + | 25 | 2 | 27 |
− | 12 | 55 | 67 | |
total | 37 | 57 | 94 |
診断感度 67.60%
診断特異度 96.50%
β-Dグルカンのcut off値を深在性真菌症と同様の11 pg/mLに設定した場合,PCP群においてβ-Dグルカンを測定した37症例では陽性が33例であり,診断感度89.2%,測定値の範囲は5 pg/mL未満から510 pg/mLであった。non-PCP群の57症例において49例が陰性あり,特異度は86.0%であった(Table 4)。
PCP | ||||
---|---|---|---|---|
+ | − | total | ||
β-Dグルカン | + | 33 | 8 | 41 |
− | 4 | 49 | 53 | |
total | 37 | 57 | 94 |
cut off値 11 pg/mL
診断感度 89.10%
診断特異度 86.00%
今回,臨床検査3法を実施し,non-PCP群において3法全て陰性となったのは57例中44例であった。また,PCP群において3法全てで陽性となったのは37例中23例であった。診断と結果が不一致であった症例において,2法以上の結果が陽性であった場合,全例がPCP群となりnon-PCP群で症例は存在しなかった。また,PCP群において3法の結果が全て陰性という症例は存在しなかった。結果の不一致が出た検体の内訳は喀痰が19例,BALFが8例であった(Table 5)。Diff-Quik染色においてP. jiroveciiの栄養体が疑わしいが判断が困難であった2症例は陽性疑いとした。その2例はLAMP法陰性,β-Dグルカン< 5 pg/mLであり,総合的にnon-PCPと診断された。PCP群におけるHIV群3例は3法とも陽性であった。
確定診断が得られなかった3例について1例目はメトトレキサートによる薬剤性肺炎かPCPが疑われ,β-Dグルカン89 pg/mLと高値であった。2例目はStaphylococcus aureus菌血症で入院中に肺炎を発症しβ-Dグルカン116 pg/mLと高値であり,PCPか誤嚥性肺炎の可能性も考慮された。3例目はステロイド治療中に肺炎が増悪し,β-Dグルカン418 pg/mLと高値でありPCPが疑われた。3例はいずれもDiff-Quik染色陰性,LAMP陰性であり菌体の証明ができなかった。また,微生物学的検査でも真菌は検出されなかった。これらの症例は入院期間が1ヶ月以上と長くなっており,投薬等のためのカテーテル留置も頻回にわたり実施されていたことが推察される。そのため,カンジダ等による一時的な菌血症等により上昇した可能性も示唆される。
PCP群においてLAMP法陰性の検体が2例存在した.1例はDiff-Quik染色陽性で菌体が証明され,β-Dグルカンも150 pg/mLと高値でありPCPと診断された。本症例では提出された検体量が少なく,再採取も困難であった。Diff-Quik染色は他の陽性症例と比較して菌量が微量であり,LAMP法に使用した検体は好気培養,グラム染色,Diff-Quik染色を実施後の残検体を使用したため,喀痰の膿性部分が使用できなかった。LAMP法の感度は2 × 103 copies/mL以上という報告7)があり,本症例はDNA抽出量が少量となり検出感度以下になった可能性が推察される。もう1例はDiff-Quik染色陰性であり検査で菌体の証明はできなかったが,β-Dグルカン213 pg/mLであり,画像所見,臨床経過と併せてPCPと診断され,治療が開始された。non-PCP群においてLAMP陽性となった検体が3件存在した。これは海外の報告ではあるが,健常人において20%8),呼吸器疾患患者において30%9)でP. jiroveciiはコロナイゼーションしているという報告があり,HIV感染者においては28.8~68.8%と高い値を示している報告もある10)。今回の症例もβ-Dグルカン値が陰性,画像所見からもPCPが否定されたため,コロナイゼーションであると考える。今回我々の検討ではnon-PCP群でP. jiroveciiのコロナイゼーションと考えられた割合は5.6%であった。他の文献と比較すると低い結果を示しているが,一方で地域によってはコロナイゼーションの割合が0%という報告11)もあり,非常に報告の幅が広くなっている。このため,感度の高い遺伝子検査のみでPCPの診断を行うのは困難であることが示唆される。
LAMP法とDiff-Quik染色による塗抹鏡検の不一致となった検体はLAMP法陽性,Diff-Quik陰性の症例が14例あった。そのうちPCP群は11例であり,患者背景としては11例全例がnon-HIV群であった。P. jiroveciiの塗抹鏡検はシストや栄養体を検出するが,HIV群ではこのシストが数多く観察されるのに対し,non-HIV群では形態が不定形である栄養体しか観察されないことが散見される。また,non-HIV群ではHIV群に比べ,BALF内の菌量が少なく炎症細胞が多いこと,酸素化障害が高度であること4)が報告されている。PCPの重症化の要因は菌量ではなく体内での炎症反応の強さによるものという見方が現在なされている12)。その点をふまえても鏡検による感度が低下したものと推察される。LAMP法陽性,Diff-Quik陰性であった残りの3症例はnon-PCP群でコロナイゼーションであり,菌量が少量であったためDiff-Quik染色では検出できなかったと考える。
non-PCP群でβ-Dグルカン陽性となった症例は1例がカンジダ菌血症で治療中の症例,2例が肺アスペルギルス症で高値となっていた。残りの5例に関しては微生物学的に真菌を証明することはできなかったが画像診断,塗抹鏡検検査等から総合的にnon-PCPと診断された。現在利用されているβ-Dグルカンのcut off値である11 pg/mLという数値はアスペルギルス症やカンジダ症などの深在性真菌症の患者と健常人との比較から設定13)されている。Tasakaら14)はcut off値を31.1 pg/mLに設定する報告をしており,感度92.3%,特異度86.1%という結果になっている。このcut off値を適用すると本検討では診断感度62.2%,特異度93.0%となりcut off値11 pg/mLに設定した場合より感度は下がる結果となった(Table 6)。PCPにおけるβ-Dグルカンのcut off値は議論がなされるところであり,今回,PCP群においてβ-Dグルカン値が検出感度以下の< 5 pg/mLという症例が3例存在した。この症例は全てnon-HIV群で,PCPが菌自体の組織障害性ではなく,宿主の免疫反応により発症し,菌量が少ないためβ-Dグルカンは低値傾向であることが示唆される。本検討ではnon-HIV群が37例中34例(91.9%)であり,Tasakaらの報告と比べて多かった。このことがPCP群においてβ-Dグルカン低値となった要因と考える。
PCP | ||||
---|---|---|---|---|
+ | − | total | ||
β-Dグルカン | + | 23 | 4 | 27 |
− | 14 | 53 | 67 | |
total | 37 | 57 | 94 |
cut off値 31.1 pg/mL
診断感度 62.20%
診断特異度 93.00%
non-HIV群によるPCPでは数日と急速に重症化する傾向があるため,早期診断が重要となってくる。各検査においてLAMP法は感度の高い検査であるがコロナイゼーションの可能性が否定できず,Diff-Quik染色はnon-HIV群での感度低下,β-Dグルカン検査は深在性真菌症全般で高値となることが課題となっている。PCPは1項目の臨床検査結果で診断をすることは困難であるが,これらの検査を併用することにより複数の検査が陽性であった場合,PCPである可能性があり,PCP診断の精度を上げることができ,早期診断,治療につながることが期待できる。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本論文の投稿に際し,PCPの最終診断をして頂いた,当院呼吸器内科の中島啓医師に深謝いたします。