医学検査
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68 巻, 3 号
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原著
  • 金重 里沙, 黒木 愛, 坂本 萌絵, 本木 由香里, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻3 号 p. 417-423
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,動・静脈血栓症や習慣流産などを呈する自己免疫疾患であり,その診断には抗リン脂質抗体の検出が必須である。本研究では,APSの基礎疾患として最も代表的な全身性エリテマトーデスを対象に,4種類の抗リン脂質抗体を測定し血栓症の危険因子として有用な抗体の特定を試みた。その結果,抗カルジオリピン/β2グリコプロテインI抗体(anti-cardiolipin/β2-glycoprotein I antibodies; aCL/β2GPI)と抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(anti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies; aPS/PT)など酸性リン脂質とリン脂質結合蛋白の複合体に対する抗体が血栓症の発症に強く関連していた。一方,抗カルジオリピン抗体(anti-cardiolipin antibodies; aCL)や抗ホスファチジルセリン抗体(anti-phosphatidylserine antibodies; aPS)などリン脂質に直接結合する抗体は血栓症の発症には関連が低いと考えられた。さらに,動脈血栓症群の81.3%,静脈血栓症群の71.8%が,aCL/β2GPI(+)かつaPS/PT(+)の症例であり,全身性エリテマトーデス患者の血栓症リスク評価には両抗体を同時に測定することが重要であることが示唆された。

  • 西野 真佐美, 中森 正博, 今村 栄次, 小川 加菜美, 黒瀬 雅子, 平田 明子, 三森 康世, 若林 伸一
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻3 号 p. 424-429
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    時計描画テスト(Clock Drawing Test; CDT)は,検査に対する抵抗が少ないため認知症スクリーニングとして頻用されている。今回,CDTのスコアリングを行いその有用性を検討した。2016年10月~2017年4月に当院外来にてCDT,ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination; MMSE)ともに実施した,連続156名で検討した。スコアリングはFreedman法(15点満点)を用い2名で判定した。年齢78.2 ± 8.7歳,女性87名,診断はアルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease; AD)54名,レビー小体型認知症(dementia with Lewy body; DLB)6名,血管性認知症12名,混合型認知症15名,その他の認知症16名,軽度認知障害16名,認知機能正常者37名であった。CDT総得点とMMSEは有意な相関がみられた(r = 0.58, p < 0.001)。ROC解析では,CDT総得点に関して認知症とのカットオフ値11/10(感度50.5%,特異度96.2%,AUC 0.78,p < 0.001)であった。CDT下位項目で検討すると,ADでは針の記入で,DLBでは数字の記入で失点する傾向がみられた。CDTのスコアリングはMMSEを併用して行うことで感度を上げることができ,MMSEと有意な相関がみられ評価の妥当性が示された。また,疾患によって失点パターンに差異がみられることから診断の一助になりうる可能性が示唆された。

  • 上田 彩未, 東條 真依, 宮元 祥平, 青地 千亜紀, 清遠 由美, 谷内 亮水
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻3 号 p. 430-436
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    超音波検査の際,頸動脈の血管壁から伸びる紐状のアーチファクトを描出することがあり,動脈解離との鑑別を要する。今回,我々はこのアーチファクトの発生について検討を行い,若干の知見を得たので報告する。健常人30名を対象として,左右の頸動脈に紐状のアーチファクトが描出されるかどうかの検証を行った。検討項目は,総頸動脈,および頸動脈洞の血管径,頸動脈洞と総頸動脈での血管径の比,総頸動脈の最大血流速度と拡張期流速,総頸動脈と頸動脈洞とのなす角度,心拍数とした。この結果,30名中9名,左右合わせて60本の頸動脈のうち10本で,総頸動脈の血管壁から頸動脈洞に紐状のアーチファクトが描出された。また,頸動脈洞の血管径,頸動脈洞と総頸動脈での血管径の比は,アーチファクトが見られた群で大きく,総頸動脈と頸動脈洞とのなす角度もアーチファクトが見られた群で大きいという結果が得られ,その他の項目に有意差は認めなかった。これらの結果より,総頸動脈から頸動脈洞への広がりが大きい,またこの移行部の角度が大きいという血管形状により,血管内の血流に速度差が生じており,この影響でアーチファクトがみられたと推察された。

  • 橋本 幸平, 日髙 敏哉, 渡邊 久美子, 西野 諒, 山田 智, 戸口 明宏, 大塚 喜人
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻3 号 p. 437-442
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia; PCP)の原因菌であるPneumocystis jiroveciiは人工培養法が確立されていないため,塗抹検査や血清学的検査,遺伝学的検査等により診断が実施されている。本検討で実施した検査と診断結果との一致率はloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法で感度94.6%,特異度94.7%,ディフ・クイック(Diff-Quik)染色で感度67.6%,特異度96.5%,β-Dグルカン検査で感度89.1%,特異度86.0%となった。3法を組み合わせて診断結果と比較した場合,2法以上陽性の症例は全例PCP群と診断されていた。また,PCP群において3法の検査が全て陰性であった症例は存在しなかった。LAMP法は感度の高い検査であるが,コロナイゼーションの可能性も否定できないため,単独でPCP診断を実施するのは困難である。これらの検査を併用することでPCP診断の精度を上げることができ,早期診断,治療につながることが期待できる。

  • 橋本 卓典, 牧 俊哉, 二村 亜子, 加藤 敦美, 佐藤 彩, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻3 号 p. 443-449
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    検査室における医療安全の取り組みの中で,インシデントの原因・影響を分析することは重要である。本研究は2009年4月から2017年3月までの8年間に当院検査室で発生したインシデント326件のうち誤報告100件を対象として,発生頻度,関連した部署,要因,技師の経験年数,患者への影響(インシデントレベル)について検討した。100日あたりの誤報告件数は全体では3.4件で,部門別では生理検査部門に多かった。検体検査における業務時間帯別の誤報告率は,日勤帯より日当直帯で高かった。誤報告の発生要因は不注意・錯誤・知識不足の順に多かった。技師1人あたりの誤報告件数を経験年数別にみると,30年目以上で最も多かった。検査結果の誤報告は再検査が必要となることが多く,また,患者の転室・転院や不適切な薬剤投与につながることがあった。誤報告に至った原因・経過を分析し,これに有効な対策を立てること,またこれを検査室全体で共有することにより誤報告は減少する可能性がある。

  • 平良 ひかり, 大城 健哉, 宮城 ちひろ, 真栄田 百合子
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻3 号 p. 450-454
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    尿培養検査は尿路感染症の診断に重要な検査であり,細菌培養検査の材料内訳でも多くを占めるが,培養陰性検体も多いのが現状である。今回,尿培養検査の効率化を目的として,全自動尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス株式会社,以下UF)の結果と検体性状に基づく尿培養検査の省略提案条件を設定し,経費削減効果も確認した。尿培養検査の省略提案は「透明尿かつUFで細菌陰性かつ白血球陰性」と設定した。尿培養検査の省略提案開始後の2016年10月から2018年7月の間に243件の尿培養が省略された。経費削減効果として,培地費用だけで合計55,161円の経費削減の効果が得られ,関連する物品経費や労働力の削減などの波及効果も得られたと考えられた。一方,患者背景を考慮せずにUF結果や検体性状のみで自動的に培養を省略すると,臨床的な尿路感染症を見逃す可能性がある。そのため,医師に確認し,尿培養が必要であると判断された場合は実施するべきであると考える。今回の検討で,UF結果と検体性状を考慮することにより不要な尿培養検体の選別が可能であることが示された。UF結果で尿路感染を示す所見が認められなかった場合,尿培養検査を省略することは労働力および経済面で利点がある。

技術論文
  • 芹澤 昭彦, 宮嶋 葉子, 才荷 翼, 坂口 繁美, 小山田 裕行, 加戸 伸明, 伊藤 仁
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 455-462
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    固定における種類や時間に関する推奨法はガイドライン等で明記されているが,脱灰液に関する詳細な記述はほとんどみられない。今回,われわれは,遺伝子検索における脱灰の影響について検討を行った。方法は,種々の脱灰液および脱灰時間の標本を用いて,DNA収量およびポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction; PCR)増幅について検討した。また,既知の上皮成長因子受容体(human epidermal growth factor receptor; EGFR)変異陽性と変異陰性1症例を対象についても検索した。結果は,強酸系脱灰液では,DNA収量は少なく,PCR法による増幅は確認できなかった。10%ギ酸ホルマリンでは,脱灰時間が長くなるほどDNA収量は減少した。一方,エチレンジアミン四酢酸(ethylene diaminetetraacetic acid; EDTA)ではDNA収量が多く,PCR増幅も100 bp~400 bpまで良好な結果が得られた。脱灰時間に関しても7日間処理を行ってもDNA収量は減少せず良好な結果であった。また,肺腺癌におけるEGFR変異検出キットにおいては,EDTA 7日間処理でも検出可能であった。遺伝子変異解析に用いる組織標本において脱灰処理が必要な場合,EDTAを脱灰液として用いることが肝要である。

  • 飯沼 克弘, 立石 亘, 伴 文彦, 中村 一人, 坪井 五三美
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 463-469
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    今回新たに自社開発した,ラテックス凝集比濁法を測定原理としたシアル化糖鎖抗原(Krebs von den Lungen-6; KL-6)測定試薬「オートKL-6・BML」の基礎検討を実施した。精度(併行精度および再現精度)は変動係数3.7%以内,検出限界は25.2 U/mL,共存物質の影響はなく,希釈直線性も良好な結果であった。本試薬は,同様の測定原理である比較対照製品(ナノピアKL-6エーザイ)に対して良好な相関性を示した(y = 0.917x − 9.5, r = 0.949, n = 194)。化学発光酵素免疫測定法を測定原理とした比較対照製品(HISCL KL-6試薬)に対しても良好な相関性を示した(y = 1.010x + 20.0, r = 0.914, n = 194)。「オートKL-6・BML」は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有していた。

  • 小原 愛美, 戸来 孝, 川崎 理一, 遠藤 繁之, 小池 由佳子, 米山 彰子
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 470-475
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    AIA-CLシステム用として新たに開発された化学発光酵素免疫測定法を原理とするintact PTH測定試薬の基礎的検討を行った。専用コントロールおよび患者プール血漿を測定したときの同時再現性はC.V. 1.9~3.7%,日差再現性はC.V. 3.8~5.1%であった。希釈直線性は約5,000 pg/mLまで良好で,検出限界はLoB:0.19 pg/mL,LoD:0.36 pg/mL,LoQ:1.92 pg/mLであった。共存物質の影響は認められず,他法との相関はAIA-1800およびcobas 6000ともに良好であった。検体の安定性の検討では4℃保存下の血清において測定値の減少が認められた。また,患者血漿を別の容器に移し替え測定したところ,測定値の低下現象がみられた。さらに,7種のPTHフラグメント(7–84, 1–34, 13–34, 44–68, 39–68, 39–84, 53–84)を測定した結果,7–84 PTHのみと反応し,他のフラグメントとの反応性は0.1%未満であった。以上の結果より,本試薬は基礎的性能に優れているため,日常検査法として有用であると考えられた。ただし,検体の安定性と容器の移し替えには留意する必要がある。

  • 近藤 崇, 淺沼 康一, 山田 浩司, 盛合 亮介, 遠藤 明美, 柳原 希美, 髙橋 聡
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 476-480
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    今回我々は,デタミナーCL IL-2R NXにおける,非特異反応の原因解析を行った。さらに,原因物質の抑制剤を添加した改良試薬の,非特異反応の抑制効果と基本性能を検討した。非特異反応の原因と考えられるアルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase; ALP),フィブリンおよびヒト抗マウス抗体(human anti-mouse antibody; HAMA)の抑制剤を添加した試薬を用いて解析したところ,ALPが非特異反応に関与していることが明らかとなった。非特異検体の希釈試験を行ったところ,改良前試薬では希釈前に42,946 U/mLであったが,希釈により低下し8倍希釈で1,904 U/mLになった。一方,改良試薬では原液を含むいずれの希釈倍率でもほぼ同じ値で非特異反応を認めなかった。ALP非特異抑制剤の濃度を,種々の割合で変えた試薬を用いて非特異検体を測定し,非特異反応の抑制効果を検討した。その結果,改良前試薬の10倍の抑制剤濃度からsIL-2R値はほぼ同程度となり,非特異反応が抑制された。改良試薬の同時再現性,正確性と希釈直線性は,良好な結果が得られた。以上の結果より,改良試薬は,改良前試薬と同等の基本性能を有しており,ALPに対する非特異反応が抑制されていることから,日常検査に有用と考えられた。ただし,今回の検討では,1例の非特異検体しか解析できなかった為,異なる検体でのさらなる検討が必要と考えられた。

  • 古本 紗也佳, 柴田 智晴, 岡田 優子, 坪井 五三美
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 481-485
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いて血清中プロパフェノン及び5-ヒドロキシプロパフェノンの濃度測定法の基礎的評価を行った。同時再現性と日差再現性の精度は3%以下で,真度は13%以下であった。希釈直線性も良好な結果であった。また,尿マトリックス効果の影響も認められなかった。従来法との相関性は,(プロパフェノン:y = 1.018x − 3.852,r = 0.996,n = 100;5-ヒドロキシプロパフェノン:y = 1.059x + 1.846,r = 0.997,n = 100)で良好であった。この検討で,本測定法はルーチン検査において有効な方法であることが実証された。

  • 渡邊 優子, 北秋 翔子, 佐藤 伊都子, 中町 祐司, 三枝 淳
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 486-493
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    【背景】全自動化学発光酵素免疫測定装置「ルミパルスL2400」についてB型肝炎ウイルス表面抗原(hepatis B surface antigen;HBs抗原),シアル化糖鎖抗原KL-6(sialylated carbohydrate antigen Krebs von den Lungen-6; KL-6)および腫瘍マーカーである癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen; CEA),糖鎖抗原19-9(carbohydrate antigen 19-9; CA19-9),α-フェトプロテイン(α-fetoprotein; AFP),糖鎖抗原125(carbohydrate antigen 125; CA125),糖鎖抗原15-3(carbohydrate antigen 15-3; CA15-3),前立腺特異抗原(prostate-specific antigen; PSA),サイトケラチン19フラグメント(cytokeratin 19 fragment; CYFRA)およびビタミンK依存性異常プロトロンビン(protein induced by Vitamin K absence or antagonists-II; PIVKA-II)の基礎的な性能評価を行い,「ルミパルスG1200」との相関性,高感度定量試薬HBs抗原の偽陽性率,および結果報告時間(turn-around-time; TAT)を比較した。【結果】全項目における併行精度と室内再現精度の標準偏差は0.0~6.1%(n = 10)と良好であった。感度は試薬添付書での測定下限値と同等であり,直線性も良好であった。装置内自動希釈精度(200倍,1,000倍)の標準偏差は0.9~3.0%(n = 10)であった。1,000倍稀釈を手希釈値と比較すると95.2~113.7%であった。各項目の測定範囲内でのG1200との相関は相関係数(r) = 0.99と良好であった。PIVKA-II < 100 mAU/mLではr = 0.961と少し低値を示した。5か月間でのL2400のHBs抗原偽陽性率は全検体中の0.15%であり,G1200での0.11%と同等であった。L2400ではTATの平均は約7分短縮し,TATが60分以内の検体数の割合は73.5%から94.3%に増加した。【結論】L2400の基礎的性能は良好であり,TATの短縮やルーチン業務の軽減にも貢献できるため,日常検査に有用であると考えられた。

  • 井上 結以, 鈴木 敦夫, 亀山 なつみ, 前田 奈弥, 山本 ゆか子, 菊地 良介, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 494-500
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    血中フィブリノゲンの測定にはトロンビン時間法(Clauss法)が広く用いられている。今回,当院で使用しているトロンビン試薬の原材料がヒト由来からウシ由来トロンビンに変更されることに伴い,その影響について検証した。対象試薬はトロンボチェックFib(L)(シスメックス)で,ヒト由来トロンビンを使用したロットとウシ由来トロンビンを使用したロットを比較した。全自動血液凝固測定装置CS-5100(シスメックス)を使用し,同時再現性・日差再現性・高値希釈直線性・最小検出感度・材料間相関性・共存物質の影響について検討した。なお,本研究は名古屋大学医学部生命倫理審査委員会の承認を得て施行した。同時再現性,日差再現性,高値希釈直線性および最小検出感度は,ヒト由来とウシ由来で両者の間に大きな差は認めなかった。材料間の測定値における相関性(ヒト由来:x,ウシ由来:y)は,y = 0.9839x + 9.644(相関係数r = 0.9981)であった。両者ともに共存物質(溶血,ビリルビン,乳び)による明らかな影響も認めなかった。以上の結果より,試薬性能とその測定値において,ヒト由来トロンビンとウシ由来トロンビンの間に大きな差はなく,原材料切り替えの影響はほとんどないことが示唆された。今後,抗凝固薬との反応性やフィブリノゲン異常症における影響を検証予定である。

  • 清水 美千絵, 北野 圭介, 山口 詩織, 石戸谷 典明, 坂寄 輔, 山口 浩司, 山田 哲司
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 501-506
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    近年,血小板凝集能検査は従来の目的である先天性出血性疾患の診断や血栓傾向の確認だけでなく,抗血小板薬の効果確認を目的として実施する施設も多く存在する。当院でも血小板凝集能検査半自動装置であるPRP313Mに搭載されている4濃度法の解析指標であるグレードタイプ(Grade Type; G-Type)を用いて,抗血小板薬の効果確認を行っている。このたび全自動血液凝固測定装置CS-5100に血小板凝集能検査の新規解析指標である血小板凝集レベル(Platelet Aggregation Level; PAL)が搭載された。そこで筆者らはCS-5100のアデノシン2リン酸(Adenosine diphosphate; ADP)試薬によるPAL(ADP induced PAL; APAL)とコラーゲン試薬によるPAL(Collagen induced PAL; CPAL)に対して,各試薬によるG-Typeを比較することで,PALの有用性を評価した。APALとG-Typeの相関性結果は相関係数r = 0.72,CPALとG-Typeの相関性結果はr = 0.71であった。さらに当院のカットオフであるG-Type −1相当のPALはAPAL 7.1およびCPAL 8.0であり,それらをカットオフとした際の判定一致率はAPAL 92.6%,CPAL 86.0%となった。以上の結果から,CS-5100の新たな解析指標PALを用いた場合にも,G-Typeと同等の評価が可能であると考えられた。また,CS-5100は血小板凝集能検査の標準化および普及への貢献が期待される。

  • 宮澤 友香里, 戸来 孝, 川崎 理一, 遠藤 繁之, 小池 由佳子, 米山 彰子
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 507-513
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    東ソー(株)よりAIA-CLシリーズ用として新たに開発された化学発光酵素免疫測定法を原理とする副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)測定試薬AIA-パックCL ACTHの基礎的検討を行った。同時再現性は1.1~2.3%,日差再現性は3.2~4.4%と良好であった。希釈直線性は約1,790 pg/mLまで,定量限界は1.650 pg/mLまで認められ,基礎特性は良好であった。またACTH産生腫瘍により血中に高分子型ACTHが認められることが報告されており,本法は高分子型ACTHを感度よく測り込むことで,ACTH産生腫瘍の検出に有用である可能性が示唆された。本法の測定時間は15分と既存の方法に比べ短く,日常検査における有用性は高いと考えられた。

  • 土筆 智晶, 井上 綺菜, 勝又 美波, 篠原 亮太, 中﨑 広子, 内田 一弘, 棟方 伸一, 狩野 有作
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 514-518
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    Affinity column mediated immune assay(ACMIA)法を原理とするフレックスカートリッジタクロリムスTAC試薬(Siemens)は,抗凝固剤として用いられるEDTAの影響があることを我々は以前報告したが,2018年に改良LOT試薬へ変更された。今回,我々はこの改良試薬と従来試薬を比較検討した。採取試料にEDTA-2Kを添加したところ,従来試薬では採血量が1/2量に相当するEDTA-2K 3.8 mg/mLにおいて,16.6%の低下を認めたが,改良試薬においては,EDTA-2K 3.8 mg/mLでは1.4%の低下であった。またEDTA-2K濃度依存で低下する傾向を示すが,11.4 mg/mLでも15.3%の低下に留まった。改良試薬の同時再現性は,変動係数(coefficient variation; CV)が2.8~4.2%であり,従来試薬と各濃度において同等のバラツキであった。また,実効感度は,CV 10%値で従来試薬では2.2 ng/mL,改良試薬では 1.6 ng/mLであり従来試薬と同等の測定精度が確認できた。以上より,改良されたTAC試薬は,Tacrolimus血中濃度測定において,従来試薬に比較しEDTA濃度の影響を軽減したことが明らかになり,安全で効果的な免疫抑制療法に繋がると期待された。

  • 鈴木 敦夫, 池谷 均, 菊地 良介, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻3 号 p. 519-524
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    血中フィブリノゲンの測定にはトロンビン時間法(Clauss法)が広く使用されている。しかし,Clauss法ではフィブリノゲンからフィブリンへと転化する活性をもって定量を行うため,機能異常を有する先天性異常フィブリノゲン血症などの評価においては抗原量の評価が必須となる。今回我々は,フィブリノゲン抗原量測定試薬ファクターオート®フィブリノーゲンを用いて全自動血液凝固測定装置CS-5100向けの測定パラメーターを新たに設計し,その妥当性評価を行った。同時再現性および日差再現性は変動係数で5%未満であった。一方,希釈直線性は720 mg/dLまで良好な直線性を示し,最小検出感度は4.2 mg/dLと非常に良好であった。また,相関性試験においては,Clauss法と検討試薬で回帰式y = 0.9987x + 7.67,相関係数r = 0.9874と良好な相関を示した。また,我々が以前に確立した対照試薬(N-アッセイTIA Fib)との相関性は,回帰式y = 1.078x − 4.4,相関係数r = 0.988であった。本研究により,全自動血液凝固測定装置CS-5100においてファクターオート®フィブリノーゲンを用いたフィブリノゲン抗原量測定が可能となった。今後,フィブリノゲン抗原量の評価が日常検査としてより身近なものとなり,フィブリノゲン異常症の診断に寄与できることが期待される。

資料
  • 東田 和子, 平田 京子, 神代 英士, 高野 敏充
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 525-532
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    登録衛生検査所における検体集荷業務は,検体受領・保管・輸送の重要な役割を担っており,検査目的に応じた適正な検体の取り扱いが要求される。特に微生物検査対象検体は生物を含んでいることから特別な制約があり,その取り扱いに苦慮する場合も少なくない。そこで我々は検体集荷者へ微生物検査に関する疑問や不安要素の聞き取りをおこなうとともに,1年半における微生物検査室からの確認作業内容を集計した。その結果,検体量の確認,検査材料の確認,依頼項目の確認の3項目で88.0%を占めた。この問題を解消するために,専用の微生物検査マニュアルを作成し,資料配布とともに集荷者に対する研修会を実施した。この取り組みを2013~2017年の5年間継続し,成果検証を目的に微生物検査室から集荷者に確認した作業件数を集計した。その結果,依頼項目に関する確認作業,検査材料に関する確認作業,共に件数が半減し成果を証明できた。さらに微生物検査室と集荷者との連携強化を目的に両者で利用するための2種類の「連絡用紙」を考案して運用した。これらの連絡用紙を活用した件数の推移も取り組みによる成果を示していた。研修会の実施のみならず集荷者からの問い合わせ電話に常時応対している微生物検査室スタッフの努力と集荷者の微生物検査を理解しようとする意欲と取り組みの継続が成果に繋がったと考える。

  • 大川 浩永, 諸戸 昭代, 山本 由紀恵, 伊藤 楓, 寺澤 圭祐, 中根 一匡, 宮田 栄三, 左右田 昌彦
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 533-539
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    微生物検査室が発信する血液培養陽性初期情報の有用性について調査を行った。2016年4月から2017年3月までの血液培養陽性検体で菌血症と判定された437例を対象とした。血液培養陽性後,直ちにGram染色を実施し,塗抹所見から推定される菌種情報を「第一報」とし1時間以内にて診療側へ報告した。第一報と最終報告との一致率は92.7%であった。微生物検査室からの第一報を受けて328例(75.1%)は推定菌に関するカルテ記載があり,284例(65.0%)で抗菌薬に関する記載が認められた。また,使用中の抗菌薬が変更されたのは220例(50.3%)で,そのうち第一報後の変更は98例(22.4%)であった。変更のタイミングは,グラム陽性球菌群では第一報後,グラム陰性桿菌群では最終報告後でその割合が高かった。血液培養陽性時は,迅速かつ詳細な情報提供が臨床における抗菌薬選択の一助となる。今回の調査で,微生物検査室からの推定菌情報を含む第一報が,医師によるカルテ記載や抗菌薬投与,薬剤変更などの直接行動に繋がることが確認できた。以上から,血液培養陽性情報の迅速報告は,診療支援に貢献すると考えられた。

  • 中村 一人, 山名 晶子, 秋田 有香, 大澤 泰介, 町田 邦光, 坪井 五三美
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 540-544
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    間接蛍光抗体法は,抗核抗体(antinuclear antibody; ANA)の標準的判定方法である。しかし,従来の抗核抗体/間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence assay for antinuclear antibody; FANA)の複雑な工程と目視判断には,熟練した臨床検査技師あるいは検査担当者の技能が必要である。そこで,我々はコンピューター支援型顕微鏡システムEUROPattern FANA分析装置(以下,EPA)と全自動前処理装置を使ったANA測定の基礎的検討を行った。EPAの画像の目視判定による同時再現性と日差再現性は±1管差であった。EPAシステムと全て用手で行う現行法による健常者の結果に著しい差は認めなかった。EPAと現行法の抗体価一致率は97%であった。ANAの染色型(ホモジニアス型,スペックルド型,ヌクレオラ型,セントロメア型)の陽性一致率はそれぞれ,79%,84%,88%,88%であった。EPAは完全なシステムではないものの,ANAを判定するルーチン検査上で有益なシステムである。

  • 吉田 重人, 山中 宏晃, 吉田 真紀, 浦園 真司, 長谷 一憲, 桑岡 勲
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 545-552
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    一般社団法人福岡県臨床衛生検査技師会(以下,福臨技)筑豊地区における検査の質向上に関する事業の一つとして,L-スイトロールサーベイに参加した筑豊地区内13施設で外部精度管理を実施した。結果の見方・評価の仕方について理解を深めること,各施設の問題点の洗い出し及びそれに対する原因追究・対策を考えることで外部精度管理に対する意識の向上を目的とした。この事業を継続していく方向性・施設間差是正活動の展開とその成果について報告する。筑豊地区内で解析メンバーを募り,生化学27項目2濃度についての解析を行い,各項目を±2SDIで評価した。対象27項目において筑豊地区内でのCV%は5%以内であった。参加した13施設のうち達成率の低かった1施設においては,訪問介入をし,試薬・管理血清の管理の仕方,キャリブレーションのタイミング,内部精度管理についての対策を立て,実施した。再度訪問を行い,スイトロールI・IIを測定。メーカー推奨の範囲を外れた項目に関してキャリブレーション・再測定を行った。訪問前では達成率61.5%,再訪問時のキャリブレーション前では82.5%,キャリブレーション後で90%以上となり,キャリブレーションの頻度・管理を徹底することで改善は可能であることが示唆された。施設相互の比較による評価だけに留まらず,検査施設訪問介入をしたことが有効な手段だった。

  • 秋山 功, 沖本 幸俊, 町田 聡, 坪井 五三美
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 553-558
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    現在,尿中マンデル酸は複数の高速液体クロマトグラフィー分析装置(以下,HPLCと略す)で検査を行っており,各HPLCの精度管理データから号機間精度,日間精度,併行精度,室内精度の推定は,欠側値(一部の分析装置稼動の場合)があり,枝分かれ分散分析法の解析は困難である。そこで,不揃いなデータでの枝分かれ実験の複数誤差の同時推定が可能な制限付き最尤法(restricted maximum likelihood; REML)の解析を試みた。REML法では号機間精度,日間精度,併行精度,室内精度の推定ができ,低濃度(0.30 g/L),高濃度(0.96 g/L)のコントロール検体での室内精度はC.V.が2%以下で良好な結果を得た。これらの結果より,複数装置で欠測値のある精度管理法において,REMLが有効な解析手法であった。

  • 大久保 進之介, 鳥越 佳子, 青江 伯規, 三宅 雅之, 糸島 浩一, 岡田 健, 藤井 伸治, 嶋田 明
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 559-563
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    術前検査としてプロトロンビン時間(prothrombin time; PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)を測定することは一般的となっている。軽症血友病ではAPTTが軽度延長することがあるが,臨床的に見逃されている症例もみられる。そこで我々は,術前検査時のPTが正常範囲内かつAPTTが軽度延長している症例の中で軽症血友病患者の頻度を明らかとすべく,本研究を計画した。2015年6月1日から2016年5月31日の間に当院で手術が施行された11,465件の中で,抗凝固薬などの投薬がなく術前にAPTT検査が行われた8,676症例を対象とした。当院で定めた基準範囲(26.9–38.1秒)より延長(38.2秒以上)した検体は134例(1.5%)であった。このうち13例(9.7%)が精査を受け,軽症血友病A患者が1例,フォンウィルブランド病(von Willebrand disease; vWD)(I型)患者が1例発見された。以上のことは一般人口においても手術まで気づかれなかった軽症血友病症例が一定割合存在することを示唆していた。さらに二次精査の少なさから血液凝固異常症がフォローアップされていない可能性も危惧されて,臨床家への注意喚起と,正確な軽症血友病患者の把握のための大規模調査が必要と考えられた。

  • 横山 覚, 菊地 良介, 服部 光, 度會 理佳, 濱崎 美奈, 鈴木 敦夫, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 564-569
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
    ジャーナル フリー HTML

    神経特異エノラーゼ(neuron specific enolase; NSE)は,肺小細胞癌や神経芽腫などの腫瘍マーカーとして診断や治療効果の判定に用いられている。当院では,臨床よりNSE測定の迅速化の要望を受け,外注委託から院内導入を決定した。そこで本研究では,院内検査導入に向けてエクルーシス®試薬NSEの検査室検証(verification)を行うことを目的とした。対象は患者69名および当院職員5名とした。分析機器として全自動電気化学発光免疫測定装置「cobas 8000」を,測定試薬として「エクルーシス®試薬NSE」(ともにロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を使用した。評価項目として,同時再現性,日差再現性,希釈直線性,外注委託と院内測定結果との相関性,共存物質の影響(RF,ビリルビン,ヘモグロビン,乳び),血清分離後の検体安定性(冷蔵保存,ボルテックス)及び測定容器の移し替えによる測定値への影響について評価した。同時再現性,日差再現性,希釈直線性及び外注委託と院内測定結果との相関性は良好であった。共存物質の影響では,ヘモグロビンのみ添加量依存的なNSE値の増加が認められた。血清分離後の安定性評価では,冷蔵保存のみ経過日数に依存した低下が認められた。今回の我々の検討結果から,エクルーシス®試薬NSEの基本的性能は良好であることは確認できた。しかし,採取後検体の冷蔵保存によるNSEの安定性が低く,検査前プロセスを要因とした誤報告を誘発する可能性が高いことが明らかとなった。

  • 橋本 文子
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻3 号 p. 570-576
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    世界保健機構(World Health Organization; WHO)によれば世界3大感染症はHIV・結核・マラリアである。特に1980年代以降に急速に広がったHIV感染は結核の発病を促進した。3大感染症が深刻なのは一般的にサハラ以南アフリカ地域においてである。これらの地域では近年イムノクロマトグラフィー法を中心とした感染症の迅速診断検査(rapid diagnostic test; RDT)が急速に広がっている。RDT診断は日本ではpoint of care testing(POCT)として初期治療に役立つ迅速検査の意味を持つが,サハラ以南アフリカにおいては,簡便に診断が行える検査として用いられている。又,世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)がこれら感染症検査と治療の財源を多く賄っている。尚,結核の診断は現在も塗抹鏡検検査法に頼っている為,新しい技術による検査法が待たれている。一方,日本では結核こそ中蔓延国に分類されるが,これら感染症の発症数が少ない為,診断法として,より精度の高いPCR検査が一般的に用いられる。ここから見えることは高蔓延国においてはいかに合理的に患者を拾い上げるか,低蔓延国においてはいかに正確に診断をするか,が検査において問われているということである。

症例報告
  • 鈴木 恭子, 竹中 正人, 玉置 達紀
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻3 号 p. 577-583
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
    ジャーナル フリー HTML

    発熱,哺乳・活気不良で救急受診され,入院時に施行された髄液検査で細胞数の増多が見られなかったが,血液検査にて炎症反応の上昇が認められたため,精査加療目的で入院された。入院3日目に入院時の血液と髄液培養からB群溶血性連鎖球菌が検出され,B群溶連菌性髄膜炎と診断された。入院3日目に髄液細胞数の増多が認められたが,抗菌薬やγグロブリン等の治療開始後,細胞数は減少してきた。しかし,入院15日目に無菌性髄膜炎と思われる髄液細胞数の急激な上昇が認められた。その後,炎症反応は低下し,細胞数低下傾向が持続,全身状態良好により入院57日目に退院された。本症例は,90生日以降に発生した超遅発型B群溶連菌性髄膜炎症例であった。初回の髄液検査が発熱後24時間以内であった場合は,髄液細胞数の増多を認めない場合もあるため注意が必要である。

  • 遠藤 彰一郎, 安藤 隆, 阿部 正樹, 中田 浩二, 河野 緑, 政木 隆博, 松浦 知和
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻3 号 p. 584-588
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
    ジャーナル フリー HTML

    海外渡航歴の無い患者より基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase; ESBL)産生Salmonella属菌が検出されたので報告する。症例は53歳,男性。20回以上の水様下痢が認められたため,東京慈恵会医科大学附属第三病院の救急科へ受診となった。糞便検体よりESBL産生Salmonella属菌(血清型O8群)が検出された。PCRおよびDNAシークエンスの結果,ESBLの遺伝子型は国内において近年増加している遺伝子型のCTX-M-15型であることが判明した。このため,海外渡航歴が無くてもSalmonella属菌が疑われる症例での抗菌薬選択には,ESBL産生菌の存在も念頭におく必要がある。

  • 平 千明, 竹澤 由夏, 新井 慎平, 松田 和之, 上條 途夢, 樋口 由美子, 奥村 伸生
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻3 号 p. 589-595
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    先天的に血液中にフィブリノゲン(fibrinogen; Fbg)が存在しない無Fbg血症は約1/100万人の頻度でみられ,Aα鎖・Bβ鎖・γ鎖をコードするFGAFGBFGG遺伝子の変異が原因とされている。無Fbg血症患者にみられるFGA del c.364+86_c.510+45(FGA Δ1238 bp)は日本(三重,岡山,福岡,岐阜,埼玉)と中国(上海)で報告されているが地域性に関する検討報告はない。今回,三重で2例目の新規FGA Δ1238 bpを有する無Fbg血症を経験し,ハプロタイプ解析により過去に報告した三重と岡山の2家系と比較を行い,臨床所見についても既報症例と比較した。4番染色体のFbg遺伝子近傍の7種のshort tandem repeat(STR)領域を使用し,polymerase chain reaction(PCR)で増幅後にフラグメント解析を行った。3家系でD4S3021-FGA-i3 (intron 3 of FGA)-D4S2631-D4S1629(230-del-212-146 bp)の少なくとも3領域が共通であり,FGA Δ1238 bpを有する対立遺伝子が共通先祖由来である可能性が示唆された。FGA Δ1238 bpを有する無Fbg血症は西日本に発端者が分布していることから,今後もシークエンス解析に加えてハプロタイプ解析によるデータ蓄積を継続することで,遺伝的背景を明らかにする一端になると考える。

  • 野田 望, 松本 信也, 堀田 多恵子
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻3 号 p. 596-601
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    ミトコンドリアは全身の細胞に存在し,独自にミトコンドリアDNAを保持している。ミトコンドリアDNAの塩基置換,欠失,重複,コピー数の低下はミトコンドリア病を引き起こす原因になるとされている。ミトコンドリア病の症状は一概ではなく,遺伝子検査のみならず画像検査,組織学的検査,臨床所見などから総合的に判断される。今回,末梢血では通常検出しにくいとされるミトコンドリアDNAの欠失を検出し,遺伝子検査の結果が診断の確定に有用であった症例を経験した。症例は1歳6ヶ月の男児。乳酸値,ピルビン酸値が高値であったことからミトコンドリア病を疑い,末梢血検体が提出された。ミトコンドリアDNAの全長シークエンスでは病気と関連のある変異は認められなかった。確認のため,欠失や重複の検出ができる全長16 kb PCR(polymerase chain reaction)を実施したところ,欠失と疑われるバンドが認められた。ダイレクトシークエンスにて切断点の同定を行い,約5 kbの欠失を確認し,サザンブロッティング法にて欠失率の測定を行うことができた。ミトコンドリア遺伝子検査の結果と臨床症状からPearson症候群という診断名を確定することができ,遺伝子検査の有用性を確認できた症例であった。

  • 鈴木 裕, 植松 美由紀, 黒沼 彩佳, 上野 大, 郷右近 秀平, 渡邊 いづみ, 栁川 直樹, 緒形 真也
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻3 号 p. 602-606
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/27
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    背景:原発性滲出液リンパ腫(primary effusion lymphoma; PEL)は,体腔滲出液中で増殖して腫瘤を形成せず,ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)感染が発症に関与する稀な悪性リンパ腫である。今回,PELに類似するもののHHV-8感染を認めないPEL様リンパ腫の1例を経験し,胸水セルブロック標本の作製が診断に有用だったので報告する。症例:90代,女性。息切れを訴え来院。多量の両側胸水貯留を認め,胸腔ドレナージが施行された。胸水細胞診で粗造な核クロマチンを有し核形不整と大型核小体が目立つN/C比の高い孤在性の大型異型細胞を均一に多数認め,セルブロック標本による免疫細胞化学とフローサイトメトリー法による細胞表面抗原解析の結果からびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断した。CTによる全身検索では腫瘤性病変やリンパ節腫大等はみられず,また,胸水中にHHV-8 DNAは検出されなかった。以上の所見から,PEL様リンパ腫と最終診断された。結論:本症例は初回提出の胸水でセルブロック標本を作製したことにより迅速な免疫細胞化学的検索が可能となり早期診断に至った。PEL様リンパ腫は,体腔液ドレナージのみで消退傾向を示し異型細胞が認められなくなる症例がみられることから,PEL様リンパ腫が疑われる場合は初回採取の体腔液でセルブロック標本を作製することが診断上重要と考えられた。

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