医学検査
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原著
酵素固相化免疫測定法(ELISA)を用いた抗リン脂質抗体症候群における血栓症リスクの検討
金重 里沙黒木 愛坂本 萌絵本木 由香里野島 順三
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2019 年 68 巻 3 号 p. 417-423

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Abstract

抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,動・静脈血栓症や習慣流産などを呈する自己免疫疾患であり,その診断には抗リン脂質抗体の検出が必須である。本研究では,APSの基礎疾患として最も代表的な全身性エリテマトーデスを対象に,4種類の抗リン脂質抗体を測定し血栓症の危険因子として有用な抗体の特定を試みた。その結果,抗カルジオリピン/β2グリコプロテインI抗体(anti-cardiolipin/β2-glycoprotein I antibodies; aCL/β2GPI)と抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(anti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies; aPS/PT)など酸性リン脂質とリン脂質結合蛋白の複合体に対する抗体が血栓症の発症に強く関連していた。一方,抗カルジオリピン抗体(anti-cardiolipin antibodies; aCL)や抗ホスファチジルセリン抗体(anti-phosphatidylserine antibodies; aPS)などリン脂質に直接結合する抗体は血栓症の発症には関連が低いと考えられた。さらに,動脈血栓症群の81.3%,静脈血栓症群の71.8%が,aCL/β2GPI(+)かつaPS/PT(+)の症例であり,全身性エリテマトーデス患者の血栓症リスク評価には両抗体を同時に測定することが重要であることが示唆された。

Translated Abstract

Anti-phospholipid antibodies (aPLs) are heterogeneous autoantibodies that can be identified by enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA), particularly anti-cardiolipin antibodies (aCL), anti-cardiolipin/β2-glycoprotein I antibodies (aCL/β2GPI), anti-phosphatidylserine antibodies (aPS), and anti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies (aPS/PT). These aPLs are frequently found in the plasma of patients with systemic lupus erythematosus (SLE) and have been reported to be associated with clinical events such as arterial and venous thromboses and recurrent fetal loss. Although several aPL-ELISA techniques were established for the diagnosis of anti-phospholipid syndrome (APS), the clinical importance of these ELISA techniques has not yet been determined. In an effort to clarify the clinical significance of aPLs detected by various ELISA techniques, we examined the concentrations of aCL, aCL/β2GPI, aPS, and aPS/PT in 184 patients with SLE (32 patients with arterial thrombosis, 39 patients with venous thrombosis, and 113 patients without thrombosis). The present study showed that aCL/β2GPI and aPS/PT detected by specific ELISA techniques could serve as markers of arterial and venous thromboses in patients with SLE, whereas aCL and aPS are less reliable as markers of these complications. Furthermore, we found that the incidences of arterial and venous thromboses were extremely high in patients who had both aCL/β2GPI and aPS/PT. The occurrence of recurrent thrombotic complications in SLE apparently depends on variable combinations of these types of aPLs. Therefore, it is essential to analyze the spectrum of aPLs types using ELISA in the diagnosis of APS.

I  はじめに

抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,生体内にリン脂質に関連する自己抗体である抗リン脂質抗体の出現と,それに伴う極めて多彩な合併症(脳梗塞・心筋梗塞・深部静脈血栓症・肺塞栓症・習慣流産など)を特徴とする自己免疫疾患である1)~4)。本症候群は,明らかな基礎疾患を持たずに抗リン脂質抗体が出現することで血栓塞栓性疾患を呈する原発性APSと,膠原病などに併発する続発性APSに大別される。続発性APSの基礎疾患としては,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)が最も代表的である。特にSLEでは,多種多様な抗リン脂質抗体の出現と,多彩な血栓塞栓性合併症を呈することが知られており4),5),本研究では,SLEを基礎疾患とする続発性APSを対象とした。

APSの診断は「臨床所見」と「検査所見」の双方からなされ,2006年に改訂されたAPS診断(分類)基準案6)に記載されている「検査所見」としては,①国際血栓止血学会の診断ガイドラインに基づいた方法でループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)が陽性,②IgGクラスまたはIgMクラスの抗カルジオリピン抗体(anti-cardiolipin antibodies; aCL)が中等度以上の力価(> 40単位,または >健常人の99%-tile),③IgGクラスまたはIgMクラスの抗β2グリコプロテインI抗体(anti-β2-glycoprotein I antibodies; aβ2-GPI)が中等度以上の力価(> 40単位,または >健常人の99%-tile),のいずれかを12週間以上の間隔をあけて2度以上確認することが定められている。このようにAPSの診断においては,抗リン脂質抗体の検出が必須であるが7),現在,市販されている酵素固相化免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA)は,カルジオリピン(cardiolipin; CL)やホスファチジルセリン(phosphatidylserine; PS)などリン脂質に直接結合するaCL,抗ホスファチジルセリン抗体(anti-phosphatidylserine antibodies; aPS)や,酸性リン脂質に結合したβ2GPIやプロトロンビン(prothrombin; PT)に特異的な抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体(anti-cardiolipin/β2-glycoprotein I antibodies; aCL/β2GPI),抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(anti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies; aPS/PT)など,検出する抗体のタイプが様々であり,その臨床的有用性は確定されていない。

本研究では,Homemade-ELISAにより同じ由来,同じロットのリン脂質を用い,aCL・aCL/β2GPI・aPS・aPS/PTの4種類の抗リン脂質抗体のSLE症例における臨床的有用性を検討した。

II  対象と方法

1. 対象

アメリカリウマチ学会(1997年改訂)の診断基準8)を満たしたSLE 184症例(男性10例,女性174例.年齢45.5歳[3~82歳])を対象とした。臨床診断にてSLE 184症例を,動脈血栓症群32例,静脈血栓症群39例,無血栓症群113例の3群に分類し‍た。

本研究は,山口大学大学院医学系研究科保健学専攻医学系研究倫理審査委員会の承認(管理番号:363)を得て実施した。

2. 方法

aCL-ELISAおよびaCL/β2GPI-ELISAは,96ウエルプレート(NUNC-IMMUNO PLATE, POLYSORP; Kamstrupvej, Roskilde, Denmark)の各ウエルにエタノールで50 μg/mLに調整したcardiolipin(SIGMA, St. Louis, MO, USA)を30 μLずつ添加し,ドライヤーによる冷風をあて,ウエルが乾燥したのを目視で確認した後,速やかにブロッキングbuffer(20 mM Tris-HCl, 0.1 M NaCl, 0.5% BSA, pH 7.4)を200 μLずつ添加し,室温にて2時間静置した。各ウエルを洗浄buffer(20 mM Tris-HCl, 0.1 M NaCl, 0.05% Tween 20, pH 7.4)にて4回洗浄後,aCL/β2GPI-ELISAでは希釈buffer(20 mM Tris-HCl, 0.1 M NaCl, 0.5% BSA, 0.05% Tween 20, pH 7.4)にて10 μg/mLの濃度に調整したβ2-glycoprotein I(SCIPAC, Sittingbource, UK)を50 μLずつ添加,aCL-ELISAでは希釈bufferのみを添加し,室温にて30分間反応させた。各ウエルに希釈バッファーにて101倍希釈したサンプル血漿を100 μL添加し,室温にて1時間反応させた。

aPS-ELISAおよびaPS/PT-ELISAは,各ウエルにメタノールで50 μg/mLに調整したphosphatidylserine(SIGMA, St. Louis, MO, USA)を30 μLずつ添加し,急速ドライアップ手法にて固相化した。各ウエルにブロッキングbuffer(20 mM Tris-HCl, 0.1 M NaCl, 5 mM CaCl2, 0.5% BSA, pH 7.4)を200 μLずつ添加し,室温にて2時間静置。各ウエルを洗浄buffer(20 mM Tris-HCl, 0.1 M NaCl, 5 mM CaCl2, 0.05% Tween 20, pH 7.4)にて4回洗浄後,aPS/PT-ELISAでは希釈buffer(20 mM Tris-HCl, 0.1 M NaCl, 5 mM CaCl2, 0.5% BSA, 0.05% Tween 20, pH 7.4)にて10 μg/mLの濃度に調整したprothrombin(Enzyme Research, South Bend, IN, USA)を50 μLずつ添加,aPS-ELISAでは希釈bufferのみを添加し,室温にて30分間反応させた。各ウエルに希釈バッファーにて101倍希釈したサンプル血漿を100 μL添加し,室温にて1時間反応させた。

各ウエルを洗浄bufferにて4回洗浄後,酵素標識抗体液(ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体)(American Qualex International, California, USA)を各ウエルに100 μLずつ添加し,室温にて1時間反応させた。各ウエルを洗浄後,発色基質であるテトラメチルベンジジン(Tetramethyl benzidine; TMB)(Life Technologies, Frederick, USA)を100 μL加え,10分発色させた後,HClを100 μL加えることにより反応‍を停止し,マイクロプレートリーダー(Thermo Scientific Multiskan FC; Thermo Fisher Scientific, Massachusetts, USA)にて波長450 nmの吸光度(optical density; OD)を測定した。Nojimaら7)の方法に準じて行い,OD値に1,000を乗じた数値を各抗体価(単位:mOD)とした。

3. 統計解析

各種抗リン脂質抗体価の比較においては,合併症別にMann-Whitney testにて有意差を検定した。さらに,抗体価のMedian(25%-tile~75%-tile)を明記し‍た。

各抗体価において,ROC曲線により感度・特異度曲線の交点(感度=特異度)を求め,その点をカットオフ値として設定した。

動・静脈血栓症の危険因子として有用な抗リン脂質抗体を特定するために,ROC解析により,縦軸を感度,横軸を1-特異度とし,抗体別にROC曲線の曲線下面積(Area Under the Curve; AUC)を比較した。

なお,統計学解析は,市販の統計解析ソフト(StatFlex ver. 6)を用いて行った。

III  結果

SLE 184症例(動脈血栓症群32例,静脈血栓症群39例,無血栓症群113例)を対象に,aCL,aCL/β2GPI,aPS,aPS/PTの各種抗リン脂質抗体価を測定し,合併症別の各抗体価を比較した(Figure 1)。

Figure 1 SLE患者におけるaPL抗体価および陽性率の合併症別比較

A:aCL B:aCL/β2GPI C:aPS D:aPS/PT

SLE患者を動脈血栓症,静脈血栓症,無血栓症の3群に分け,aCL,aCL/β2GPI,aPS,aPS/PTの抗体価を合併症別に比較した。4種類全ての抗リン脂質抗体の抗体価は無血栓症群と比較して,動脈血栓症群および静脈血栓症群で有意に高かった。

Mann-Whitney test:*無血栓症VS. 動脈血栓症,P < 0.0001;**無血栓症VS. 静脈血栓症,P < 0.0001

その結果,今回検討を行った4種類の抗リン脂質抗体全てが無血栓症群に比較して,動脈血栓症群および静脈血栓症群で有意に高かった。

各カットオフ値はそれぞれaCL: 438.84 mOD,aCL/β2GPI: 206.00 mOD,aPS: 384.56 mOD,aPS/PT: 172.21 mODであった(Table 1)。その際の感度は,aCL/β2GPIが0.8584で最も高く,続いてaPS/PTが0.8169,aPSが0.7465,aCLが0.7345であった(Table 1)。

Table 1  SLE患者の血栓症診断におけるaCL,aCL/β2GPI,aPS,aPS/PTのカットオフ値と感度
カットオフ値[mOD] 感度
aCL 438.84 0.7345
aCL/β2GPI 206.00 0.8584
aPS 384.56 0.7465
aPS/PT 172.21 0.8169

設定したカットオフ値により各抗体の陽性率を合併症別に比較した結果,aCLの陽性率は動脈血栓症で84.4%,静脈血栓症で66.7%,無血栓症で26.5%であった。aCL/β2GPIの陽性率は動脈血栓症で96.9%,静脈血栓症で76.9%,無血栓症で14.2%,aPSの陽性率は動脈血栓症で87.5%,静脈血栓症で64.1%,無血栓症で25.7%,aPS/PTの陽性率は動脈血栓症で84.4%,静脈血栓症で79.5%,無血栓症で18.6%であった(Table 2)。

Table 2  SLE患者の合併症別(動脈血栓症,静脈血栓症,無血栓症)の各aPL陽性率の比較
動脈血栓症
n = 32
%(n)
静脈血栓症
n = 39
%(n)
無血栓症
n = 113
%(n)
aCL 84.4%(27) 66.7%(26) 26.5%(30)
aCL/β2GPI 96.9%(31) 76.9%(30) 14.2%(16)
aPS 87.5%(28) 64.1%(25) 25.7%(29)
aPS/PT 84.4%(27) 79.5%(31) 18.6%(21)

全ての抗リン脂質抗体が無血栓症群に比較して,動脈血栓症群および静脈血栓症群において有意に高い陽性率を示したが,固相化リン脂質(CLおよびPS)を抗原としたaCL-ELISAやaPS-ELISAでは,無血栓症群でも26.5%,25.7%と比較的陽性率が高い‍のに対して,固相化リン脂質とエピトープ提供タ‍ンパクの複合体(CL/β2-glycoprotein IやPS/prothrombin)を抗原としたaCL/β2GPI-ELISAやaPS/PT-ELISAでは,無血栓症群で陽性率が低く,且つ動‍脈血栓症群および静脈血栓症群で陽性率が高かっ‍た。

次に,動・静脈血栓症の危険因子として有用な抗リン脂質抗体の特定を試みた結果,動脈血栓症では,AUCはaCL/β2GPIが0.84と最も高く,続いてaPS/PTが0.82,aCLとaPSがともに0.80となった(Figure 2A)。静脈血栓症でも,AUCはaCL/β2GPIが0.80と最も高く,続いてaPS/PTが0.76,aCLが0.68でaPSが0.67となった(Figure 2B)。

Figure 2 動脈血栓症および静脈血栓症の危険因子として有用な抗リン脂質抗体の特定

A:動脈血栓症 B:静脈血栓症

抗体別にROC曲線の曲線下面積(AUC)を比較した。動脈血栓症では,aCL/β2GPIのAUCが最も大きく,aPS/PTがそれに続いた。静脈血栓症では,aCL/β2GPIが最大となり,続いてaPS/PTが大きかった。

そこで,aCL/β2GPIとaPS/PTを同時に測定した場合(aCL/β2GPI + aPS/PT)と,aCLとaPSを同時に測定した場合(aCL + aPS)の血栓性合併症(動・静脈血栓症)の診断精度を比較するためにそれぞれのAUCを算出した。その結果(Figure 3),aCL/β2GPI + aPS/PTのAUCは0.92と,aCL + aPSの0.79に比較して明らかに高かった。

Figure 3 aCL/β2GPIとaPS/PTを同時に測定した場合の血栓性合併症(動・静脈血栓症)の診断精度の向上

aCL/β2GPIとaPS/PTを同時に測定した場合のAUCは0.92で,aCLとaPSを同時に測定した場合の0.79に比較して明らかに高かった。

aCL/β2GPI + aPS/PT:AUC = 0.92

aCL + aPS:AUC = 0.79

そこで,2種類の抗リン脂質抗体(aCL/β2GPI/aPS/PT)の出現パターンにより,症例を①aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+),②aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(−),③aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(+),④aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(−)の4つのグループに分類し,SLE患者を動脈血栓症群・静脈血栓症群・無血栓症群の3群に分け,各群における抗体の出現パターンを比較した(Figure 4)。

Figure 4 SLE患者の各合併症群におけるaCL/β2GPI/aPS/PTの出現パターンによる比較

A:動脈血栓症を発症したSLE患者 B:静脈血栓症を発症したSLE患者 C:血栓症を発症しなかったSLE患者

2種類の抗リン脂質抗体(aCL/β2GPI/aPS/PT)の出現パターンにより4つのグループに分類し,SLE患者を動脈血栓症・静脈血栓症・無血栓症の3群に分け,各群における抗体の出現パターンを比較した。血栓症群ではaCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)症例が圧倒的に多く,無血栓症群ではaCL/β2GPI(−)/aPS/PT(−)症例が多かった。

その結果,動脈血栓症群(n = 32)では,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)症例が81.3%を占め,続いてaCL/β2GPI(+)/aPS/PT(−)症例が15.6%,aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(+)症例が3.1%であり,aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(−)症例は0%であった。静脈血栓症群(n = 39)では,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)症例が71.8%,aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(+)症例が7.7%,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(−)症例が5.1%,aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(−)症例が15.4%であった。一方,無血栓症群(n = 113)では,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)症例が14.2%,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(−)症例が0%,aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(+)症例が4.4%であり,aCL/β2GPI(−)/aPS/PT(−)症例は81.4%であった。

IV  考察

本研究は,我々のグループが提唱する「SLE患者血中には多種多様な抗リン脂質抗体が混在しており,各抗体のもつ種々の血栓形成作用が複雑に絡み合ってAPS特有の多彩な血栓性合併症が生じる」という疾患概念に基づき,臨床的有用性の高い抗リン脂質抗体を複数種・同時に測定し,患者が持つ抗体をタイピングすることにより,患者ごとに発症しやすい合併症や発症リスクを推測できる新たなAPS検査診断法を確立する目的で実施した。

現在,病院検査部におけるAPSの検査診断は主にLA活性による定性検査にて実施されているが,LA検査は,スクリーニング試験→クロスミキシング試験→確認試験など多段階の測定系により判定する必要があり,一般の検査室でルーチン検査に組み込むのは至難の業である。実際,2011年の日本検査血液学会に報告された調査結果から,LA診断のガイドライン9)に従って検査を実施している検査室は一部であり,多くの施設が最初のスクリーニング試験でAPTTの延長が認められない場合にLA陰性と判定してしまい,多数のAPS患者が見逃されていることが危惧されている。これはLA検査における測定方法の選択や血漿検体の処理方法(血小板の除去・自家製正常プール血漿の作成)など解決されていない問題点が多く標準化が進んでいないことが背景にある10)。それ故に,最近ではELISAによる抗リン脂質抗体の測定が重要視されているが,臨床の現場で測定されているのはaCL-ELISAあるいはaCL/β2GPI-ELISAであり,他の抗リン脂質抗体により引き起こされる血栓性合併症および妊娠合併症がAPSと診断されず原因不明のままである。

現在のAPS診断分類基準改定案6)では,ELISAによるaCLおよびaβ2GPIの測定が採用されている。しかし,抗リン脂質抗体は認識するエピトープの違いにより,いくつかのタイプが存在しており5),中でもaPS/PTは,aCLやaβ2GPIに並んでAPSの臨床病態に関連する重要な抗体である可能性が示唆されている7),11),12)

本研究ではAPS診断分類基準改定案に採択されていないaPS/PTおよびaPSを含めて抗リン脂質抗体の組み合わせによるAPSの血栓性合併症の診断精度を検討した結果,aCL/β2GPIやaPS/PTなど固相化リン脂質とエピトープ提供タンパクの複合体(CL/β2-glycoprotein IやPS/prothrombin)に対する抗体が血栓症と強く関連していることが明らかになった。一方,aCLやaPSなど固相化リン脂質(CLおよびPS)に直接結合する抗体は,APSの動・静脈血栓症の発症には関連が低いと考えられた。

さらに,SLE患者を動脈血栓症群・静脈血栓症群・無血栓症群の3群に分け,2種類の抗リン脂質抗体(aCL/β2GPI/aPS/PT)の出現パターンを比較した結果,動脈血栓症群や静脈血栓症群においてaCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)症例が圧倒的に多く,無血栓症群ではaCL/β2GPI(−)/aPS/PT(−)症例が多いことが分かった。したがって,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)である場合に,血栓性合併症を引き起こす可能性が極めて高いことが示唆された。

実際に,APS患者が有する抗リン脂質抗体の種類や抗体価から血栓症発症(再発)リスクを層別化する目的で,原発性および続発性APSを対象とした大規模なコホート研究にて確立された抗リン脂質抗体スコアにおいても,IgGクラスのaβ2GPI-ELISAとaPS/PT-ELISAが,最も重要な検査項目に位置付けられている13)。ゆえに,APS患者の血栓性合併症のリスク評価には,aCL/β2GPIとaPS/PTを同時に測定することが重要であると考えられる。

V  結語

本研究結果から,SLE患者においてaCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)である場合に血栓性合併症を引き起こす可能性が極めて高いことが分かり,APSの検査診断にはaCL/β2GPIとaPS/PTをELISAにて同時測定することが重要であることが示唆された。

抗リン脂質抗体の検査は,複数の対応抗原に対する自己抗体を複数の免疫測定法で検出することに加え,その抗体活性を複数の凝固学的検査法を用いて判定しなければならず,臨床検査としては最も複雑な検査の一つである。しかし,APSの診断には抗リン脂質抗体の検出が絶対条件であり,臨床検査の役割は大きい。本研究の成果が,今後の臨床検査の現場において,新たな抗リン脂質抗体の分類や検査法の開発に大きく貢献できることを期待したい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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