医学検査
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技術論文
風疹ウイルス抗体測定試薬「ランピアラテックスRUBELLA」の基礎的検討
中村 一人町田 邦光坪井 五三美
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2019 年 68 巻 4 号 p. 671-676

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Abstract

厚生労働省は,風疹の定期予防接種の機会がなかった1962~1979年生まれの男性を対象に,2019年から2021年度末までの約3年間,国内で原則無料でワクチン接種を実施する方針を発表した。現在,風疹の検査は主に赤血球凝集抑制試験(hemaggulutination inhibition; HI)が,用いられている。このHI法は煩雑な工程で時間を要する用手検査である。そこで,自動分析機適応可能なラテックス凝集比濁法を測定原理とした風疹ウイルス抗体測定試薬「ランピア ラテックスRUBELLA」の基礎的検討を実施した。同時再現性と日差再現性はCV 7.0%以内,希釈直線性は良好で(相関係数:r ≤ 0.998),共存物質の影響はなく,検出限界は3.5 IU/mLであった。本試薬は,HI法と良好な相関性を示した(Spearman順位相関係数,r = 0.952,n = 150)。風疹抗体価2,300 IU/mLの試料は測定範囲の上限値以下にはならなかった。「ランピアラテックスRUBELLA」は,HI法による抗体価との読み替え可能で自動分析機による日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有していた。

Translated Abstract

The Ministry of Health, Labour and Welfare announced the implementation of free vaccination against rubella for the general public over a period of approximately three years (from 2019 to the end of fiscal year 2021), targeting males born between 1962 and 1979, who did not have the opportunity to be vaccinated for rubella. Currently, rubella is diagnosed mainly by the hemagglutination inhibition (HI) method, which requires a long assay time owing to its complicated and manual handling procedure. We performed a fundamental evaluation of “Runpia latex RUBELLA”, a latex turbidimetric immunoassay method involving anti-rubella viral antibody measurement, which can be carried out with an automated analyzer. The within-run and between-run coefficients of variation (CVs) of quality control samples are less than 7.0%, the dilution linearity is good (correlation: r ≤ 0.998), there are no effects of interfering substances, and the detection limit is 3.5 IU/mL. The correlation between the HI method and Runpia latex RUBELLA is good (Spearman’s rank correlation: r = 0.952, n = 150). A RUBELLA concentration of 2,300 IU/mL in a sample did not decrease in the measurement upper limit. Runpia latex RUBELLA can be used to replace the HI method and it showed sufficient reagent performance in a routine test using an automatic analyzer.

I  序文

風疹は「三日はしか」とも呼ばれ,小児期に罹患する代表的なウイルス疾患である。風疹ウイルス抗体陰性の女性が妊娠初期に罹患すると,胎盤を介して胎児がウイルスに感染し,先天性風疹症候群を発症する1),2)

現在,風疹の検査には主にガチョウ血球を用いた赤血球凝集抑制試験(hemaggulutination-inhibition; HI)が用いられている。HI法は煩雑な工程で時間を要する用手検査である。

2018年,首都圏などで流行している風疹について,厚生労働省は,定期予防接種の機会がなかった1962~1979年生まれの男性を対象に,2019年から2021年度末までの約3年間,全国で原則無料でワクチン接種を実施する方針を発表した。ワクチンを効率的に活用するため,対象者は風疹抗体検査を受け,その結果が陰性だった場合に限って予防接種を受ける3)

この政府方針により,HI法に用いるガチョウ血球の不足や用手法による検体処理能力の問題で風疹検査に大きな影響がでる可能性がある。

2013年に「風しん抗体価の換算(読み替え)に関する検討」が国立感染症研究所ホームページに公開された4)。そこで,その換算(読み替え)資料が適用でき,処理能力の高い自動分析装置で測定できるラテックス凝集比濁法(latex turbidimetric immunoassay; LTIA)を原理とする「ランピア ラテックスRUBELLA」の基礎的検討を行ったので報告する。

II  試薬・機器および測定原理

1. 測定試薬

1)ランピアラテックスRUBELLA(極東製薬工業株式会社)(以下,本試薬)

2)風疹ウイルスHI試薬「生研」(デンカ生研株式会社)(以下,HI)

2. 測定機器

1)JCA-BM 9010型自動分析装置(日本電子株式会社)

3. 測定原理

1)本試薬の測定原理はLTIA法であり,血清検体に風疹ウイルス抗原を吸着させたラテックス試薬を加えると,検体中の風疹ウイルス抗体とラテックス粒子に吸着させた抗原が抗原抗体反応を起こし,凝集を形成する。反応液中の凝集の度合を吸光度変化としてとらえ,検体中の風疹抗体価(IU/mL)を求める。

なお,本検討に用いた9010型の風疹抗体価測定条件は検体量7.5 μL,第1試薬量は50.0 μL,第2試薬は75.0 μLで,校正は多点検量法とした。

2)HI法は4単位のHA抗原液と希釈した血清検体を混和して,一定時間放置後に赤血球を加える。次に,何倍希釈まで赤血球凝集が抑制されたかを確認してHI法風疹抗体価を測定する。

III  検討内容

1. 同時再現性

当社の検体取扱マニュアルに基づいた連結不可能な受託血清検体をプールして作成した自社管理試料(低濃度L,高濃度H)を用い,それぞれ20回測定し,平均値と変動係数(CV%)を算出した。

2. 日差再現性

同時再現性で用いた自社管理試料(低濃度L,高濃度H)を,連続5日間それぞれ1回測定し,平均値と変動係数(CV%)を算出した。なお,校正は初回のみ多点校正を行い,以降は校正をしなかった。

3. 希釈直線性

LTIA法風疹抗体価が約40 IU/mL,約120 IU/mL,約220 IU/mLの3レベルのプール血清を生理食塩水で10段階希釈し,各希釈溶液を2回測定した。3レベルの各希釈溶液の各測定値をもとに相関係数を算出した。

4. 共存物質の影響

自社管理試料9容に干渉チェックAプラスおよび干渉チェック・Aプラス(シスメックス社)1容を添加し,ビリルビンF(遊離型)およびビリルビンC(抱合型),溶血ヘモグロビン,乳ビとアスコルビン酸の測定値に及ぼす影響をみた。

添加0濃度(3重測定)の測定値の平均値と標準偏差(SD)を算出し,各添加濃度での測定値が添加0濃度の平均値±2SD以内であるとき,測定値に影響がないとした。

5. 検出限界

LTIA法風疹抗体価8.7 IU/mLのプール血清を生理食塩水にて希釈し,試料を調製した。調製した試料を各10回測定し,測定値の平均値と標準偏差(SD)を算出した。生理食塩水の測定値の平均値+2SDより検体の測定値の平均値−2SDが大きくなる最小濃度を検出限界とした。

6. 相関性試験

1) ワクチン接種対象者の比較

厚生労働省の推奨するHI法とLTIA法の判定基準に基づくワクチン接種対象者の比較を検討した5)

2) 順位相関性

当内ボランティア血清検体150例に関して,本試薬とHI法との相関性を検討した 。

HI法風疹抗体価への読み替えはTable 1に基づいて変換した。

Table 1  Replaced with HI titer
HI titer LTIA (IU/mL)
1:8 5.532
1:16 12.340
1:32 27.523
1:64 61.390
1:128 136.930
1:256 305.422

7. プロゾーンの確認

LTIA法風疹抗体価2,300 IU/mLの管理試料を生理食塩水で2倍,4倍,8倍,16倍,32倍,64倍,128倍,256倍,512倍希釈して,各希釈溶液を2回測定した。

IV  検討結果

1. 同時再現性

管理試料Lは平均値7.40 IU/mL,CV 6.80%,管理試料Hは平均値31.70 IU/mL,CV 1.60%であった(Table 2)。

Table 2  Repeatability
管理試料 L H
Mean (IU/mL) 7.40 31.70
SD (IU/mL) 0.50 0.50
CV (%) 6.80 1.60

2. 日差再現性

管理試料Lは平均値7.20 IU/mL,CV 6.21%,管理試料Hは平均値30.40 IU/mL,CV 2.94%であった(Table 3)。

Table 3  Intermediate precision
管理試料 L H
Mean (IU/mL) 7.20 30.40
SD (IU/mL) 0.45 0.89
CV (%) 6.21 2.94

3. 希釈直線性

3レベルの管理試料はすべて相関係数0.998以上で概ね良好な希釈直線性が得られた(Figure 1)。

Figure 1 Dilution linearity test

Three levels of serum were diluted 10 times with physiological saline to prepare samples.

4. 共存物質の影響

1レベルのプール血清ともにビリルビンF(遊離型)は19.3 mg/dL,ビリルビンC(抱合型)は20.3 mg/dL,溶血ヘモグロビンは490.0 mg/dL,乳ビは1,790 FTU,アスコルビン酸は50.0 mg/dLまで影響はなかった(Figure 2)。

Figure 2 Effects of interfering substances on measurement of RUBELLA

Dotted line: untreated mean value ± 2SD.

5. 検出限界

生理食塩水の平均値+2SDと各希釈系列の平均値−2SDが重ならない濃度は3.5 IU/mLであった(Figure 3)。

Figure 3 Detection limit analysis

Dotted line: mean value of physiological saline + 2SD.

6. 相関性試験

1) ワクチン接種対象者の比較

HI法とLTIA法のワクチン接種判定基準(厚生労働省推奨)に基づき対象者を比較検討したところ,HI法による接種対象者は14名であった。LTIA法による接種対象者は15名でHI法による接種対象者を含んでいた(Table 4)。

Table 4  Vaccine commuter pass inoculation range
Diagnostic criterion LTIA Total
< 15 IU/mL Inoculation 15 IU/mL ≤
HI ≤ 8 titer Inoculation 14 0 14
16 titer ≤ 1 135 136
Total 15 135 150

2) 順位相関

HI法とLTIA法の読み替えHI法風疹抗体価との順位相関係数r = 0.952でほぼ一致していた(Table 5)。

Table 5  Spearman’s rank correlation
Rank
correlation
LTIA (replaced with HI titer) Total
< 8 8 16 32 64 128 256 ≤
HI (titer) 256 ≤ 3 32 24 59
128 2 6 1 9
64 1 2 15 6 24
32 1 11 10 6 28
16 4 11 10 25
8 4 3 1 8
< 8 7 7
Total 8 8 16 23 26 44 25 150

7. プロゾーンの確認

LTIA法風疹抗体価2,300 IU/mLの検体を用いて検討したところ320 IU/mLまで直線的に反応して,それ以降160 IU/mLまでの測定範囲に落ち込むことはなかった(Figure 4)。

Figure 4 Prozone phenomenon analysis

A sample of RUBELLA concentration 2,300 IU/mL did not decreased in measurement upper limit.

V  考察

本試薬の基礎的検討を行ったところ,精度(併行精度および再現精度)はCV 7.0%以内で,共存物質の影響も認めなかった。また,LTIA法の定量限界(3.5 IU/mL)を求めたところ,感度的に問題はなかった。

また,国立感染症研究所が定めたワクチン接種基準による評価では,LTIA法による接種対象者は15名でHI法による接種対象者14名を含んでいた。本試薬とHI法との順位相関性も良好であった。本試薬の測定範囲は5~160 IU/mLで,プロゾーンによる影響で2,300 IU/mLの検体が測定範囲上限の160 IU/mL以下にはならなかった。

風疹の血清学的診断法として,HI法が主に用いられているが,用手法による操作と目視による判定があるため精度と処理速度に問題点がある。ELISA法はIgG型,IgMの分別定量ができる有用な検査であるが,検査費用が高く妊婦健診には負担が大きい。風疹ワクチン接種の機会がなかった1962~1979年生まれの男性は約1,600万人が該当する。3年間でこの対象者の検査を実施するためには,当社では1日当たり3千人以上の風疹検査を受託しなければならない。HI法ではガチョウ血球の確保と検査員の育成などで課題があり,2019年より該当者すべてに検査を実施することは困難である。

VI  結語

本試薬は汎用の自動分析機で測定可能で,検体の処理能力に優れており,HI法と同等の評価可能な試薬と思われる。現在,2019年より実施される風疹の検診に適用を検討中である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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