医学検査
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資料
兵庫県臨床検査技師会西播地区における災害支援への取組み
簑田 直樹住ノ江 功夫綿貫 裕大﨑 博之真田 浩一
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2019 年 68 巻 4 号 p. 724-727

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Abstract

筆頭著者は,熊本地震の災害支援のために日本臨床衛生検査技師会が実施した深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)検診に参加する機会を得た。それにより,災害支援としてのDVT検診の重要性のみならず,災害支援に対する事前準備の必要性を実感した。そこで我々は,災害支援に対する事前準備として「西播地区DVT検診実施可能者名簿」の作成を企画し,様々な方々の協力のもとに完成させた。今後は兵庫県全域の臨床検査技師を対象とした名簿作成や他組織との連携についても検討していく予定である。

Translated Abstract

The first author had the opportunity to participate in the deep vein thrombosis (DVT) screening project conducted by the Japanese Association of Medical Technologists as part of disaster support in the aftermath of the Kumamoto Earthquake. Through this experience, we recognized not only the importance of DVT screening but also the necessity of advance preparation for any disaster support. Therefore, we compiled the “List of medical technologists who can conduct DVT screening in the Seiban area” as part of advance preparation for disaster relief support and received cooperation from various individuals in this task. In the future, we plan to compile similar lists of medical technologists across Hyogo Prefecture and collaborate with other organizations.

I  はじめに

筆頭著者は,2016年4月に発生した熊本地震の災害支援のために日本臨床衛生検査技師会(日臨技)が実施した日臨技大規模深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)検診に参加する機会を得た(Figure 1)。この経験を通じて,臨床検査技師が災害支援としてDVT検診を行う意義と重要性を認識した。また同時に,災害支援に対する事前準備の必要性を痛感した。

Figure 1 DVT検診の活動風景

そこで今回我々は,災害支援に対する事前準備を目的として「西播地区DVT検診実施可能者名簿」の作成を行ったので報告する。

II  DVT検診を行う意義

DVTと肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism; PTE)は一連の病態であり,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism; VTE)と総称される。肺動脈が血栓塞栓子により閉塞した状態がPTEであり,その塞栓源の約90%は下肢あるいは骨盤内の静脈で形成された血栓である。重篤なPTEでは,ショック状態や突然死に至る可能性があるため,その原因となるDVTの予防と早期発見は重要である1)

我が国では,2004年の新潟県中越地震の際に,震災とVTEの関係が明らかにされ,VTEが「エコノミークラス症候群」として社会的に認知されるきっかけとなった2)。避難所生活では,活動量の低下による血流停滞と,脱水による血液の濃縮により,下肢に血栓を生じやすいため,下腿における血栓形成の予防と検査が必要となる1),3)。熊本地震においても,2,426人の被災者を対象に行ったDVT検診で,239人(9.9%)がDVT陽性であり,そのうち51人が入院(1人死亡)したと報告されている4)

以上のことより,災害時において臨床検査技師がDVT検診を実施する意義は高いものと考える。また,DVTの発症は災害直後の数日間にピークがあるとされているため5),派遣要請があった場合に直ちに活動できる事前準備が重要となる。

III  兵庫県臨床検査技師会西播地区

兵庫県臨床検査技師会(兵臨技)は,会員2,358人(県内2,351人,県外7人)と賛助会員68社から構成されている6)(平成30年12月末現在)。兵臨技の組織・執行体制としては,会長の下に3名の副会長が存在し,それぞれが事務局,組織活動局,事業推進局を統括している(Figure 2)。組織活動局内の組織部は,兵庫県内の5つの地区(神戸,阪神,丹但,東播,西播)から構成されており,各地区の施設数・会員数は,神戸地区が123施設・943人,阪神地区が61施設・489人,丹但地区が16施設・104人,東播地区が51施設・429人,西播地区が45施設・386人となっている6)Figure 3)。

Figure 2 兵庫県臨床検査技師会組織図
Figure 3 兵庫県臨床検査技師会地区別マップ

筆頭著者が勤務する姫路赤十字病院は西播地区に所属している。西播地区では,地区が主催する研修会や研究発表会,各施設の技師長が参加する西播地区会議などの活動が活発に行われており,従来から施設間における連携が強固かつ円滑に行われている。

IV  活動内容

筆頭著者は,熊本地震時の日臨技大規模DVT検診に参加した経験から,2018年7月に開催された兵臨技主催の第36回西播地区研究発表会において,被災地におけるDVT検診の内容と意義,今後の課題について発表した。次に我々は,同年8月の西播地区会議において,災害支援の事前準備として「西播地区DVT検診実施可能者名簿」を作成することを提案し了承された。同年9月の兵臨技の理事会において,兵臨技の先行モデル事業として上記名簿を作成することへの承認を得た。その後,西播地区の技師長・施設長に上記名簿作成への協力を依頼した。さらに,同年11月に西播地区において災害医療に関する研修会を実施し,災害時の医療支援の重要性について西播地区の臨床検査技師に広く理解を求めた。そして同年12月に,西播地区DVT検診実施可能者名簿(登録施設15,登録人数33人)が完成した。

V  西播地区DVT検診実施可能者名簿

名簿作成の主な目的は,西播地区に所属するDVT検診を実施可能な臨床検査技師の把握である。災害発生前より上記について把握しておくことで,災害発生後の迅速なDVT検診スタッフ確保に繋がると考えている。また,DVT検診では下肢静脈超音波検査で血栓を認めた場合,POCT(point of care testing)でDダイマー等の測定を行う必要がある。そのため,名簿の検査可能領域の欄に採血等を追加した。

さらに,名簿には各施設の代表者(施設の状況に応じて技師長,科長,院長など)の名前と連絡先も記載することとした。また災害時には,試薬等の物資の調達・輸送などが困難になる状況も想定される。この名簿を連絡手段や情報共有のツールとして利用することで,各施設の被災状況の情報の共有が可能となり,近隣施設同士で試薬を融通し合うなどの協力体制の構築も可能と考える。そのため,施設内にDVT検診の実施可能な臨床検査技師がいない施設においても名簿に登録してもらうように各施設に依頼を行った。

以上のことより,名簿には,施設名,代表者氏名,代表者の連絡先(メール・TEL),実施可能人数,スタッフ氏名,検査可能領域(下肢静脈超音波検査・採血)の記載欄を設けた(Figure 4)。なお,個人情報保護の観点から,名簿にはパスワードをかけ,管理は兵臨技の西播地区理事が行うこととした。また,人事異動に伴う変更もあるため,名簿は年度毎に更新していく予定である。

Figure 4 西播地区DVT検診実施可能者名簿

今回の名簿作成にあたって,その使用は日臨技などから兵臨技に支援要請があった場合にのみに限定することを大原則とした。これは,情報伝達・指揮系統が一元化されないままに各地から訪れたさまざまな医療班が個々の判断で行動することで,被災地に混乱や迷惑を及ぼす可能性があるためである7)。また,当然のことながら名簿に掲載された臨床検査技師の被災地への派遣は,本人と施設の同意がある場合にのみ実施されることを各施設の代表者と臨床検査技師に対して説明した。

実際に日臨技などから兵臨技に災害支援の要請があった場合には,兵臨技会長が西播地区理事に指示をして,名簿に記載された施設の代表者とスタッフ本人に支援を要請し,双方から同意が得られた場合にスタッフの派遣を行う予定である。

VI  今後の展開

名簿が完成したことで,DVT検診を実施可能な西播地区の臨床検査技師の把握ができた。それにより,日臨技などから災害支援要請があった場合,迅速な対応が可能になったものと考える。今後は,西播地区において災害支援やDVT検診に関する知識と技術の習得を目的とした研修会を定期的に開催していく予定である。

今回は西播地区のみの名簿作成となったが,兵庫県内の他の地区においても名簿を作成し,兵臨技が統括管理することになれば今後の体制強化に繋がるものと考える。また,西播地区が被災することも想定し,名簿管理については災害リスク分散型バックアップサービスなどの活用も検討している。

熊本地震では日本循環器学会,日本脳卒中学会,日本静脈学会,日本臨床衛生検査技師会などと熊本市内の基幹病院,そして行政(厚生労働省,熊本県,熊本市)の三位一体でDVTを含むVTE対策として,KEEP(熊本地震血栓塞栓症予防:Kumamoto Earthquakes thrombosis and Embolism Protection)プロジェクトが立ち上がり,組織的な活動がなされた8)。今後は我々も,行政や他の医療職団体,学会などとの連携と情報共有を行う必要があると考えている。また,ポータブルの超音波装置やPOCTの検査装置の確保も必要となるため,医療機器メーカーなどとも連携していきたい。さらに,災害時の近隣施設同士の協力体制の構築に向けて,施設間協定の締結などの取り組みも行う予定である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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