医学検査
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症例報告
CPAPタイトレーション下の終夜睡眠ポリグラフ検査中に非痙攣性てんかん発作に伴う中枢性無呼吸を繰り返した睡眠時無呼吸症候群・てんかん合併例
赤堀 真富果若井 正一山﨑 舞美芝田 すみれ
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2020 年 69 巻 1 号 p. 106-111

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Abstract

症例は68歳男性。睡眠中の痙攣発作を主訴に初診となった。問診にて睡眠中の呼吸障害の存在が疑われ確定診断のため,呼吸センサーと10–20 Full montageビデオ脳波を同時測定する終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)を行った。発作間欠期に右前・側頭葉の鋭波と,頻回の閉塞性呼吸イベントを認めた。よって,側頭葉てんかんと閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome; OSAS)との合併と診断された。抗てんかん薬(anti-epileptic drug; AED)と持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)療法を始めたが,途中で自己中断となり痙攣発作が再発した。CPAPを再開し,CPAPタイトレーション下でのPSGを行ったところ,閉塞性無呼吸・低呼吸は抑制されていた。しかし,てんかん発作波に後続する中枢性無呼吸が1晩で5回見られた。その際に痙攣がないことから,この病態は非痙攣性てんかん発作であると考えられた。てんかんにOSASが合併することは稀ではない。そうした合併症例における睡眠呼吸障害には,上気道の閉塞によるイベントと,てんかん発作に伴うイベントとがあることを本例は示している。しかも,後者には必ずしも痙攣を伴わない。治療としては,前者にはCPAP療法,後者にはAEDとなる。従って,呼吸イベントがどちらに起因するのかを見分けることは治療を選択する上で重要である。その鑑別には,脳波所見を的確に判読することが求められる。

Translated Abstract

A man, aged 68, was admitted to our hospital because of seizure during sleep. Video polysomnography (PSG) using 10–20 full montage electroencephalography (EEG) and sleep apnea sensors was performed to confirm the diagnosis. PSG revealed an interictal sharp wave in the right frontotemporal lobe and frequent apnea–hypopnea events, which led to the diagnosis of temporal lobe epilepsy and obstructive sleep apnea syndrome (OSAS). Administration of an anti-epileptic drug (AED) and continuous positive airway pressure (CPAP) was started for the treatment. However, after a while, the patient stopped these treatments on his own free will, which resulted in the recurrence of seizures; thus, CPAP was resumed. Then, PSG with CPAP titration was carried out, which demonstrated the reduction in the frequency of obstructive apnea–hypopnea events by CPAP therapy. Nevertheless, central apnea events following EEG epileptiform discharges were observed five times over the night. Because no convulsion was observed on the video at those times, we regarded the events as nonconvulsive epileptic seizures. Epilepsy and OSAS comorbidity is not rare. It is shown by this case that there are two types of sleep disordered breathing in cases with this comorbidity: one type is characterized by events caused by upper airway obstruction and the other type by events following epileptic seizures. The therapies appropriate for these two types are different: CPAP for the former and AED for the latter. To differentiate these two types, the skill to interpret EEG recordings correctly is required.

I  はじめに

終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)は,睡眠中の脳波,眼球運動,おとがい筋電図,呼吸,心電図,酸素飽和度(SpO2),いびき,前脛骨筋筋電図,体位などの生体現象を同時記録することにより,終夜における睡眠の経過や睡眠中の生理現象を総合的に評価する検査である1)。また,閉塞性‍睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome; OSAS)と診断された患者に対しては,持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)療法が最もよく行われる。CPAPの至適圧決定のための検査がCPAPタイトレーション(CPAP titration)であり,原則的にはPSG下で医師あるいは睡眠検査技師がマニュアルでCPAPの圧調整を行い,至適圧を決定する2)

今回我々は,PSGで側頭葉てんかんとOSASと診断され,CPAP titration中にてんかん発作波とそれに後続する中枢性無呼吸を呈した一例を経験したので報告する。

II  症例

1. 症例

患者:68歳,男性。

主訴:睡眠中の痙攣。

既往歴:B型慢性肝炎,鉄欠乏性貧血。

神経学的所見:四肢運動・感覚麻痺なし。その他特記事項なし

脳MRI:異常所見なし。

現病歴:深夜睡眠中に突然大声をだして両上肢を屈曲させて痙攣していることに隣に寝ていた妻が気づき救急搬送された。昼間のルーチン脳波では異常はなかった。睡眠中のいびき,無呼吸を指摘されており,日中の眠気を自覚することからOSASも疑われた。そこで,国際10–20電極配置法に基づき10–20 Full montageでビデオPSG検査を施行した。

2. PSG所見(Table 1
Table 1  診断PSG検査結果
TRT(総記録時間) 627.0分 Arousal Index 38.3回/h
TST(総睡眠時間) 505.5分 PLM Index 0回/h
睡眠効率 80.6% OA Index 0.7回/h
Stage W 19.4% CA Index 0.2回/h
Stage N1 47.7% MA Index 0.2回/h
Stage N2 32.3% Hypopnea Index 37.2回/h
Stage N3 0.3% 3%ODI 15.0回/h
Stage R 19.7% Apnea Hypopnea Index 38.3回/h

Arousal Index:中途覚醒指数,PLM Index:周期性四肢運動指数,OA Index:閉塞性無呼吸指数 CA Index:中枢性無呼吸指数,MA Index:混合性無呼吸指数,Hypopnea Index:低呼吸指数,3%ODI:3%酸素飽和度低下指数,Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数

脳波では右前側頭部・右中側頭部(F8・T4)に繰り返し鋭波(sharp wave)が出現していた(Figure 1A, B)。AASMのスコアリングマニュアル2007 version 2.13)に従い(低呼吸イベントの判定には推奨ルールを使用)解析を行った結果,低呼吸が主体の睡眠呼吸障害も認められた[無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index; AHI)=38.3回/h,3%酸素飽和度低下指数(oxygen desaturation index; ODI)=15.0回/h]。低呼吸に伴い,脳波上の中途覚醒(arousal)が頻繁に引き起こされ連続した睡眠はほとんど得られておらず睡眠は分断化していた。睡眠構築は頻繁の中途覚醒により浅睡眠が増加し,深睡眠は0.3%と非常に少なくなっていた。

Figure 1 PSG検査中発作間欠期脳波(A:単極導出,B:AV導出)

3. PSGからCPAP Titrationまでの経過

以上の検査所見から重症のOSAS,側頭葉てんかんと診断された。OSASに対してCPAPを導入(Autoモード4.0 cmH2O~10.0 cmH2O)し,側頭葉てんかんに対して投薬治療(テグレトール®)を開始。CPAP治療を始めたところ,CPAPに対しての不快感が強く治療継続が困難だったためCPAPは1ヶ月で中止となり,投薬治療のみ継続となった(CPAP Titration施行前にCPAPが中止となってしまったため導入時のCPAP Titrationは行われなかった)。その後2年を経過したところで服薬を1ヶ月ほど自己中断したことにより再び夜中に発作が再発し,救急搬送された。そのため,再度投薬治療(テグレトール®)とCPAP治療を再開し,PSGにてCPAP titrationを施行した。

4. CPAP titration所見(Table 2
Table 2  CPAP titration PSG検査結果
TRT(総記録時間) 632.0分 Arousal Index 44.7回/h
TST(総睡眠時間) 346.5分 PLM Index 7.4回/h
睡眠効率 54.8% OA Index 0回/h
Stage W 45.2% CA Index 0回/h
Stage N1 28.0% MA Index 0回/h
Stage N2 59.0% Hypopnea Index 10.9回/h
Stage N3 0% 3%ODI 8.1回/h
Stage R 13.0% Apnea Hypopnea Index 10.9回/h

AHI = 10.9回/h,3%ODI = 8.1回/hであった。CPAP圧は側臥位では5 cmH2O,仰臥位時では10 cmH2Oで閉塞性の呼吸イベントが抑制された。呼吸イベントは抑制されているにもかかわらず1夜に5回のSpO2の持続する低下(10分程度)が認められた(Figure 2)。

Figure 2 CPAP titration時ヒプノグラム

(↑)部分に持続したSpO2値の低下が1晩に5回認められていた。

この部分を詳しく見てみると,SpO2の低下が起こる直前には比較的高振幅の律動性徐波(θ波帯域)が1~2分持続して認められた(Figure 3)。この脳波異常の際にビデオモニター上は痙攣発作は観察されなかった。徐波群発中は脳波の判別はできるものの発作のδ波により睡眠ステージの判定ができず,徐波群発終了直後3分程は脳波に筋電図が混入していたため,睡眠ステージの判定ができなかった。そのため,これらのエポックはStage Wとしてスコアリングし,医師への報告書にはコメントとして別記載をした。ただし,徐波群発終了直後のエポックでは,脳波上α活動は認められず低振幅徐波であるため非覚醒状態にあったと考えた。徐波群発終了の約3分後にはStage N1(15秒未満)と覚醒を繰り返す段階に移行した(Stage N1の持続が続かないためエポック単位での睡眠段階には至らずStage Wとスコアした)。また,徐波群発の終了直後から無呼吸・低呼吸が認められ,SpO2が不安定になった。この内の無呼吸イベントは①胸腹部の波形が停止していること,②CPAPが出力するパルス波が認められることから中枢性の無呼吸と考えられた(上記のエポックをStage Wとスコアしたため,中枢性の無呼吸・低呼吸として数値反映されなかった。そこでPSG報告書ではコメントとして別記載した)。徐波群発から5~6分で呼吸は元通り安定した(Figure 4)。診断時PSG検査と比較するとAHIは減少していたものの,睡眠構築は浅睡眠が多く深睡眠は認められなかった。朝のセンサー取り外し時においても,発作についての訴えは患者自身からはなかった。

Figure 3 CPAP titration時脳波

比較的高振幅の律動性徐波(θ波帯域)が持続して認められた。

Figure 4 CPAP titration時呼吸波形

徐波群発が終了した直後から呼吸が不安定になりSpO2値も不安定になった。

※FLOW波形上の・はCPAPが出力しているパルス波(推定)

5. Titration以降の経過

患者からは投薬再開後の発作は起きていないとの申告であったが,CPAP titration中に発作波を認めたことにより抗てんかん薬の変更が必要と考えられため投薬薬剤がテグレトール®からイーケプラ®に変更された。CPAP titrationによりCPAPの至適圧が決定され,CPAP圧を5~10 cmH2Oへと変更した。

III  考察

日中の脳波検査では異常波が捉えられず,夜間のPSGにて突発性異常波が捉えられ,側頭葉てんかんと診断がついた症例である。2003年の報告によると,283例の成人てんかんの10.2%にOSASを合併したとの報告4)もあることから,PSG中にてんかん患者に遭遇することも考えておかねばならない。

さらに,PSGを行う上で脳波検査とPSGの違いを理解しておく必要がある。通常の脳波検査では1画面10秒表示であるのに対し,PSGは1画面30秒で表示し,その1画面ごとに睡眠段階を判定する。そのため棘波(spike)や鋭波(sharp wave)のような持続時間の短い波形はPSGの画面表示においてはアーチファクト様に見えるため見過ごされやすい。脳波においては,側頭部のsharp waveは耳朶を基準にした単極導出では耳朶の活性化のため陽性のsharp waveとして描出されることが多い。このような波形が見られたときは双極導出などにリモンタージュし,出現部位を確かめる必要がある。また,PSGでの電極配置は,睡眠段階判定のために必要なF3,F4,C3,C4,O1,O2に装着し反対側の乳様突起(M1, M2)を基準とした単極導出で,最大6チャンネルの表示となる。脳波異常が認められても,出現部位まで確かめることはPSGの電極配置のみでは困難である。そのため,てんかんの合併が疑われる患者に対しては必要な電極を増やし最適な電極配置を考える必要がある。このようにてんかんとOSASの合併が疑われる患者においては呼吸に関する記録のみならず10–20 Full montageでの脳波記録を同時に行うことが必要である。

診断PSGに比べてCPAP titration下PSGにおいてAHIが低値であった(AHI:38.3回/h⇒10.9回/h)ことは,CPAPが閉塞性呼吸イベントの抑制に奏功していたことを示している。本例の特徴は,それにもかかわらず一過性のSpO2の低下が繰り返し起きていた点にある。SpO2の低下は呼吸イベントの発生が考えられるが,本例では中枢性の呼吸イベントと考えられた。ここで注目すべきことは,SpO2低下の直前に律動性徐波が認められたことである。CPAP titration時の脳波は6チャンネルで測定したため,この突発性異常波が焦点性なのか全般性なのか,焦点性だとしても焦点がどこなのかは特定できなかった。とはいえ,この異常波はてんかん性放電とみなすことができる。したがって,この呼吸イベントは非痙攣性てんかん発作に続発する無呼吸・低呼吸である。その発生機序として,徐波群発中に過換気となった結果,低CO2血症となり,呼吸が抑制された可能性が考えられる。

てんかんにOSASが合併することは稀ではない。そうした合併症例における睡眠呼吸障害には,上気道の閉塞による呼吸イベントだけでなく,てんかん発作に伴う呼吸イベントがあることを本例は示唆している。しかも,そのてんかんに伴う呼吸イベントは,必ずしも痙攣を伴わないことを示している。

上気道閉塞の呼吸イベントに対してはCPAP治療が適応となる。一方,てんかん発作に伴う呼吸イベントに対しては適切な抗てんかん薬の投与が必要である。つまり,前者と後者とは行うべき治療が異なる。したがって,てんかんとOSASの合併例において睡眠中の呼吸イベントを観察した場合,そのイベントがどちらに起因するのかを見分けることが治療法の選択にとって必須となる。そのためには,呼吸イベントの最中および前後の脳波所見を的確に判読することが求められる。

IV  結語

PSGを行う臨床検査技師は正確な解析を行うことはもちろんのこと,PSGの常時監視中にてんかん発作に遭遇した時の対処など安全に検査を施行するための知識を身につけておく必要がある。PSG=睡眠時無呼吸の検査ではなく,その他の多岐にわたるセンサーからの情報を読み取り総合的に医師に報告することが必要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  野田 明子,他:「睡眠ポリグラフ(PSG)の基礎的知識」,改訂版 臨床睡眠検査マニュアル,19–27,日本睡眠学会(編),ライフ・サイエンス,東京,2015.
  • 2)  山内 基雄,他:「陽圧呼吸療法のタイトレーションおよびそのフォローアップ」,改訂版 臨床睡眠検査マニュアル,228–231,日本睡眠学会(編),ライフ・サイエンス,東京,2015.
  • 3)   Berry  RB et al.: The AASM Manual for the Scoring of Sleep and Associated Events: Rules, Terminology and Technical Specifications, Version 2.1. www.aasmnet.org. American Academy of Sleep Medicine, Darien, Illinois, 2014.
  • 4)   Raffaele  M et al.: “Obstructive sleep apnea in a clinical series of adult epilepsy patients,” Epilepsia, 2003; 44: 836–840.
 
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