医学検査
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69 巻, 1 号
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原著
  • 倉田 貴規, 牧 俊哉, 宮島 悦子, 栁沼 莉絵, 松浦 菜摘, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2020 年 69 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    悪性腫瘍の治癒切除例において術前心電図所見と長期予後との関連を検討した報告は極めて少ない。この研究の目的は,大腸癌治癒切除例において術前心電図所見と無再発生存率(recurrence free survival; RFS)との関連を明らかにすることである。大腸癌の術前に心電図検査が行われ,治癒手術が行われ,病理組織学的にStage IIあるいはIIIと診断された431例を対象とした。年齢,性別,腫瘍の占拠部位(左側結腸/右側結腸/直腸),腫瘍のStage,術後補助化学療法,術前心電図所見(心拍数,PR間隔,QRS間隔,QTc間隔,左室肥大(left ventricular hypertrophy; LVH)の有無と術後RFSとの関連を検討した。多変量解析でRFSと有意な関連を認めた因子は年齢,腫瘍の占拠部位,Stage,QRS間隔(< 120 ms, ≥ 120 ms),LVHの有無で,QRS間隔 ≥ 120 ms,LVH(+)はStageと独立した有意な予後不良因子であった。Stage IIIではQRS間隔 ≥ 120 ms,LVH有の両者あるいはいずれかを認める症例のRFSは,両者のない症例と比較して有意に低かった(p = 0.0475)。Stage II,III大腸癌治癒切除例において,術前心電図検査におけるQRS間隔 ≥ 120 ms,LVHは長期予後不良を示唆する。

  • 牧 美南世, 板垣 博之, 中田 裕二
    原稿種別: 原著
    2020 年 69 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    薬剤耐性菌の蔓延が世界的に深刻な課題となり久しい。現在,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum beta-lactamase; ESBL)産生菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem resistant Enterobacteriaceae; CRE)の出現が問題となっている。本邦では,2014年に確認された大阪市内医療施設でのCREによる医療関連感染が,初期事例として詳細に報告されている。今回大阪府北部所在の医療施設にて,2012年以降4年間で検出されたカルバペネム耐性Escherichia coli 25菌株を対象とし薬剤耐性因子を解析した結果,全ての菌株がCTX-M-2 groupのESBL遺伝子を,24菌株がIMP-6型のメタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子を保持していた。これらは大阪市内の事例で報告された特徴と一致し,2012年にはすでに大阪府北部でも同様な菌株が検出されていたことを示す結果となった。さらにPCR-based ORF typing法による菌株識別を行い経年的な動態を解析した結果,年々検出菌株数および多様性が増していることが明らかとなった。また,2016年には本邦での報告が稀な,Amikacinに対しても耐性を示すアセチル化修飾酵素産生株が検出されたことから,今後の動向を注視する必要がある。

  • 山﨑 澪, 金重 里沙, 本木 由香里, 藤澤 悠, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2020 年 69 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)は,重症かつ多彩な基礎疾患の存在下に著しい凝固活性化状態をきたし全身の細小血管内で血栓が多発する重篤な病態である。基礎疾患によりDICの発症機序は異なるが,多くのケースで組織因子(tissue factor; TF)が病因となることが示唆されている。近年の研究により,活性酸素の過剰発生による酸化ストレスが血管内血栓の発生に関連していることが知られているが,DICの病態形成における酸化ストレスの影響は明らかになっていない。本研究では,一般住人656人,急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia; AML)40症例,慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia; CML)20症例を対象に,相対的酸化ストレス度(oxidative stress index; OSI)と血中TF濃度の測定を実施し,OSIの亢進およびTF濃度の増加がDICの合併に関連しているか否か検討した。その結果,OSIは一般住人およびCML症例に比較してAML症例で有意に高く,特にDICを合併した症例でOSIが明らかに亢進していた。さらにAML症例を血中TF濃度が増加していた症例群と増加していなかった症例群に分類し,DIC合併率を比較した結果,血中TF濃度が増加していた症例では72.7%の症例でDICの合併を認め,血中TF濃度が増加していなかった症例の10.3%に比較して明らかに高かった。これらの結果から,AMLにおいてOSIの亢進と血中TF濃度の増加がDICの発症に強く関連している可能性が示唆された。

  • 池田 卓也, 𠮷﨑 哲也, 岡村 拓, 越智 麻衣子, 山根 大希, 福岡 慶丈, 川西 澄子, 衣笠 宏
    原稿種別: 原著
    2020 年 69 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    大腸ポリープの治療において最近では通電を行わないcold snare polypectomy(CSP)の安全性,有効性が示され,広く行われるようになってきた。しかし,CSP検体の水平断端が不明となることも多く,断端評価を改善することはCSPの課題のひとつである。CSP検体は小さくピンでの貼付けが困難なため,今までは回収されたままの状態でホルマリン固定されていた。そこで我々は濾紙を使用し検体を伸展固定する方法を考案した。今回CSP検体を濾紙へ伸展させ貼付けることでの水平断端評価に対する効果について検討した。2018年1月から2018年6月までに当院でCSPを行った腺腫1,040病変(貼付群470病変,既存群570病変)の比較検討を行った。貼付群では回収した検体を爪楊枝を用いてプラスチック板の上で伸展させたのち濾紙に貼付け,ホルマリン固定した。結果,年齢中央値は貼付群で70歳,既存群で72歳(p = 0.08),腫瘍径中央値は両群とも4 mmであった。既存群で水平断端評価不明は326検体(57.2%)に対し,貼付群では167検体(35.5%)であり貼付群で有意に水平断端の評価が可能であった(p < 0.01)。CSP検体を濾紙に伸展し貼付けることで有意に水平断端評価不明症例を減少させることができた。本研究より適切な病理評価のためには切除検体を伸展し固定する重要性が示唆された。

技術論文
  • 小林 優貴, 鈴木 弘倫, 淺田 道治, 及川 信次, 奥住 捷子, 菱沼 昭
    原稿種別: 技術論文
    2020 年 69 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    肺炎マイコプラズマの抗原検出法は,2013年に保険収載されて以来各社からキットが販売され,迅速・簡便であることから多くの施設で広く用いられている。各社キットは咽頭ぬぐい液を検体として用いるが,肺炎マイコプラズマが主に下気道に感染する感染症であるため,性能比較を行う場合検体採取の手技等が大きく影響することが予想される。そこで,培養菌液を用い検出限界能を測定することで各社キットの比較評価を行った。Mycoplasma pneumoniae 2株を培養し,菌液を2倍希釈系列し各社キットの検出下限を測定したところ,4日培養と14日培養で大きく傾向が異なる結果が得られた。4日培養と14日培養の生菌数と遺伝子コピー数を確認したところ,生菌数は4日培養に比べ14日培養の方が大きく減少していたのに対し,遺伝子コピー数には大きな差が認められなかった。各社キットが標的としている抗原を確認したところ,4日培養の方が感度が高いキットは菌体内タンパクを標的としており,14日培養の方が感度が高いキットは接着器官構成タンパクを標的としていた。このことから,各社キットの検出限界はM. pneumoniaeの生菌・死菌の状態が大きく影響することが推測された。院内での精度管理を行う場合は,自施設での採用キットの特性を十分把握し,適切な培養条件で実施することが重要である。

  • 大籔 智奈美, 佐藤 伊都子, 山本 和宏, 矢野 育子, 中町 祐司, 三枝 淳
    原稿種別: 技術論文
    2020 年 69 巻 1 号 p. 36-43
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil; MMF)は臓器移植において主に用いられている免疫抑制薬で,ミコフェノール酸(mycophenolic acid; MPA)のプロドラッグである。MPAのAUC0-12が臨床効果や拒絶反応に相関することから,薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM)が推奨されている。血漿中MPA濃度測定には従来LC-MS/MS法やEMIT法などが用いられていたが,前者は操作が煩雑で多大な時間を要すること,後者は代謝産物との交差反応により偽高値を示す可能性があることが知られている。今回,PETINIA法による血漿中MPA測定試薬の基本性能および各種検体条件による影響について検討するとともに,高濃度領域も含めたLC-MS/MS法との相関性について評価した。PETINIA法によるMPA血中濃度測定は,感度や再現性,特異性において良好な性能を示した。血清分離剤による測定値への影響は認められず,保存安定性は試薬添付文書上の期間内で保たれていた。LC-MS/MS法との相関は良好であるが(y = 1.18x − 0.09, r = 0.980, p < 0.01),15 μg/mL以上の高濃度領域ではPETINIA法が高値を示すことが明らかとなった。以上より,PETINIA法による血漿中MPA濃度測定は低濃度領域では臨床的に有用性であるが,高濃度領域においては,解釈に注意が必要であることが示唆された。

  • 日野出 勇次, 石井 宏二, 大隅 理惠, 渡口 貴美子, 永田 雅博, 藤田 香織, 諏訪園 秀吾
    原稿種別: 技術論文
    2020 年 69 巻 1 号 p. 44-53
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    【目的】看護師と検査技師双方の業務の効率化と医療安全面からFileMaker Proを用いた採血業務支援システムを構築した。システム活用による,日常業務中に起こる採血に関する問い合わせと採血管の間違いや医療安全上重要である採り直しの減少への取り組みの効果について検討した。【方法】検体採取容器をバーコード・リスト・検査項目のいずれからも検索できる新たな検索システムを設計した。その他の情報は,検索された表示画面にラベル関連・注意喚起・輸血関連と分類して表示し,さらに知りたい情報のボタンを押すと詳細な情報が閲覧できるように構築した。医師が採血オーダーを入れる前後とラベル発行のタイミングに応じて,看護師がシステムにて採血管に関する情報を検索することに対応できる。さらに看護師が検索したこれらの情報は,内容・日付・時間帯・部署についてログの収集を可能としたことでシステムの改善のフィードバックへ繋がる構造とした。【成績】このように得られた現場での情報を解析し,現場の意見に沿った改善を行った。システム運用後は,問い合わせ数,採血間違いや採り直しが大幅に減少した。【結論】新たなシステム構築により,看護師と検査技師双方の精神的負担の軽減による業務効率化が実現でき,再採血といった患者負担も減少した。他部門の問題点を共通の問題点として理解し取り組んだことは,お互いの信頼関係を強化できた取り組み内容と思われる。

  • 菊地 良介, 度會 理佳, 鈴木 敦夫, 横山 覚, 後藤 香緒里, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 技術論文
    2020 年 69 巻 1 号 p. 54-62
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    名古屋大学医学部附属病院は愛知県の地域災害拠点病院に指定されている。当院が策定した事業継続計画では,災害時の外部インフラは上水道で2週間,電気が3日間停止すると想定されている。しかし,被災時には手術や処置,検査などにより,血液や体液に暴露する危険性がより高くなることが予想される。すなわち,いかなる状況下においても,患者からの感染リスクを適切に評価し,医療者への感染対策を施行すべきである。このような背景の中,全自動免疫生化学統合システムVITROS XT 7600は給排水装置が不要であり,災害時における検査体制が構築可能であるとして診療貢献が期待されている。本研究では,被災時に必要とされうる免疫感染症関連項目について,VITROS XT 7600と当院で使用している分析装置との性能比較を行い,その有用性について検証することを目的とした。評価項目として,Hepatitis B surface(HBs)抗原,Hepatitis C virus(HCV)抗体,Treponema pallidum(TP)抗体及びHuman immunodeficiency virus(HIV)抗原/抗体の4項目を検証した。その結果,判定一致率はHBs抗原で98.0%(98/100),HCV抗体で92.3%(60/65),TP抗体で100%(53/53),さらにHIV抗原/抗体で100%(67/67)であった。また,seroconversion panelによる早期検出能評価をHBs抗原,HCV抗体及びHIV抗原/抗体について実施した。その結果,VITROS試薬の早期検出能については概ね良好な結果であった。今回の検証結果から,被災時での減災対策としてVITROS XT 7600による免疫感染症関連項目の測定は有用であることが示唆された。

資料
  • 長岡 愛, 井澤 幸子, 小倉 勉, 西田 則子, 佐藤 修子, 湖屋 恵子, 犬尾 英里子
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 1 号 p. 63-68
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    東京都立松沢病院は898床(精神科808床)を抱え,救急受診時の検査として高感度トロポニンI(high sensitive troponin I; hs-TnI)を実施している。hs-TnI導入後の陽性率は,過去に当院で算出した急性心筋梗塞(acute myocardial infarction; AMI)の有病率に比べオッズ比で3倍以上高い。そこで,まずhs-TnI値の信頼性の確認を目的に,他の分析装置による測定および異好性抗体阻害薬を用いた非特異的反応について検討したが,特に問題は認められなかった。次にhs-TnI陽性検体25件,血中クレアチンキナーゼ(creatine kinase; CK)活性が1,000 U/Lを超える検体45件および無作為抽出検体30件を用い,hs-TnI,CK-MB蛋白定量(CK-MB mass),ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白等の心筋マーカーのAMI診断特異性を評価した後,血液,生化学のデータ27項目を加え,決定木を用いたAMIの診断ガイドを試作した。hs-TnIは,AMI診断の有無に対しては唯一有意な差を示し,他の因子から独立した心筋マーカーであった。決定木ではhs-TnI陽性時のクロール,hs-TnI濃度,CK-MB mass値が子節点として導出された。これらの抽出因子を組み合わせることでAMI診断精度の向上が示された。しかし,陽性的中率は50%弱と不十分であり,経時的な採血結果観察や心電図等の定性データを加えた診断ガイドラインの必要性が示唆された。

  • 五十嵐 吉平, 眞野 容子, 古谷 信彦
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    カンジダ種は口腔粘膜,腸管等に常在する二形性真菌であるが,日和見病原体としても知られている。カンジダ症はC. albicansが最多であるが,近年ではノンアルビカンスカンジダ(non-albicans Candida; NAC)症も増加傾向にある。細胞外分泌酵素(extracellular secretory enzymes; ESE)は宿主組織障害,カンジダ種の成長促進に関わっている。本研究ではカンジダ種のESEであるアスパラギン酸プロテアーゼ(secreted aspartyl protease; SAP),ホスホリパーゼ(phospholipase; PL),エステラーゼ,ヘモリジン,フィターゼ測定用寒天平板を作製し活性値をPrice(1982)らの方法を改変した方法にて評価した。C. albicansは全てのESEで陽性を示した。C. glabrataはPL,ヘモリジン,エステラーゼを中心に活性を認め,SAP,エステラーゼは活性を示さなかった。C. tropicalisはほぼ全てのESEで陽性を示したが,一部の株に活性を認めなかった。以上のことより本検討で用いたカンジダ種がESEを産生し,宿主に侵襲を与える可能性があることが示唆された。また活性値は菌種によって変動があることが示唆された。

  • 神岡 良助, 高橋 辰典, 西岡 幸満, 西山 記子, 森山 保則, 西山 政孝, 越智 裕紀, 上甲 康二
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 1 号 p. 75-81
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    肝線維化評価のゴールドスタンダードは肝生検であるが,より低侵襲な血清学的肝線維化マーカーが日常診療で広く用いられている。一方,近年,直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals; DAA)の登場によりC型肝炎の治療奏効率は劇的に改善したが,DAA治療による肝線維化マーカーへの影響は十分に解明されていない。今回我々は,当院においてDAA治療を受けたC型慢性肝炎患者54例を対象とし,各種肝線維化マーカーの治療前後値を比較した。さらに,肝線維化ステージによる変動の差異について検討するため,治療前の肝生検結果に基づき対象を線維化非進展群または進展群に分類後,再度治療前後値の比較を行った。その結果,Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体,IV型コラーゲン7S,血小板数は線維化進展度を問わずDAA治療後で有意に変動した。一方で,IV型コラーゲンは分類前比較では有意差を認めなかったが,分類後の比較では線維化非進展群で有意に上昇し,線維化進展群では有意差を認めなかった。これは,線維化の進展度や炎症の軽快によってIV型コラーゲンの分解酵素の発現が変化することが一因と考えられた。DAA治療後において肝線維化マーカーは項目により異なる動態を示すため,その解釈には注意が必要であり,肝線維化マーカーを用いた肝線維化評価は,DAA治療前後における各々の値の動態を考慮し総合的に判断すべきである。

  • 西田 謙登, 加藤 千秋, 横山 覚, 川上 萌, 遠藤 比呂子, 渡邊 友美, 松下 正
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 1 号 p. 82-88
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    輸血検査において赤血球洗浄機に求められる基本的機能は,洗浄効率と洗浄後の赤血球が試験管内に残存することである。今回,Helmer社の自動血球洗浄システム「セルウォッシャーUltraCW II」を使用し,洗浄工程の各パラメーターの条件設定を試み,輸血検査への有用性を検討した。洗浄後残液量は,試験管の洗浄前後の重量差から求めた。洗浄希釈倍数は,OrangeGを使用し478 nmの吸光度測定により求めた。赤血球残量率は,精製水を加え作製した溶血液の541 nmの吸光度により求めた。赤血球洗浄に最も影響を与えた因子は,DECANTの回転数であった。FILLの洗浄液量は過剰な場合,赤血球を減少させた。SPINは時間の延長が洗浄時間の延長につながった。得られたパラメーターにおいて,24本の試験管を用いた同時再現性において洗浄希釈倍数は,10 mm試験管でmean = 109倍,CV = 3.7%,12 mm試験管でmean = 165倍,CV = 6.1%であった。赤血球残存率は10 mm試験管でmean = 72.2%,CV = 12.2%,12 mm試験管でmean = 78.6%,CV = 5.2%であり,良好であった。高蛋白・高グロブリン検体でのPEG-IATによる抗D抗体価測定では,洗浄不十分による抗グロブリンの中和はなく,凝集判定が可能であった。以上より,UltraCW IIは輸血検査における赤血球洗浄に有用であった。

  • 大籔 智奈美, 佐藤 伊都子, 野原 圭一郎, 今西 孝充, 三枝 淳
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 1 号 p. 89-94
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    「ルミパルスプレストHBsAg-HQ」の日常患者データから本試薬の有用性を検討した。陰性検体92.05%(7,857/8,536)のうち,再検後の判定不一致は0.04%(3/7,843),HBs抗原は弱陽性であったが抑制試験の結果から偽陽性となったのは0.14%(11/7,843)であった。陽性検体7.95%(679/8,536)のうち,高感度領域(0.05 IU/mL未満)で陽性となったのは2.95%(20/679)であった。抑制試験が実施された検体のうち,抑制され陽性の判定となった検体は56%(14/25)で,そのうちHBc抗体の測定が実施された13例ですべて陽性が確認された。以上のことから本試薬は高い特異性を有し,かつ高感度にHBs抗原を捉え得ることが確認された。また,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus; HBV)再活性化早期検出のためHBs抗原とHBV-DNA量を経時的に測定した2症例における結果から,本試薬はHBV再活性化の予防に有用であることが示唆された。

  • 原 祐樹, 菊地 良介, 井上 直輝, 高木 文也, 弘津 真由子, 藤井 絢子, 情家 千裕, 竹浦 久司
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 1 号 p. 95-100
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    国際化に対応するためには何が必要かを考えられる若手技師育成を目的とし,若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(若手WG)が2018年に発足した。若手WGによる初の企画であるInternational Young Biomedical Laboratory Scientist Forum(International Young BLS Forum)が山口県下関市で開催された第68回日本医学検査学会において実施されたのでその内容について紹介する。本フォーラムでは精度管理における人工知能(artificial intelligence; AI)の有用性,進化するゲノム医療及び遠隔医療の未来像の3つのテーマについて議論が行われた。我々は,精度管理と人工知能の有用性について国を超えて議論を交わした。フォーラム当日までに精度管理が抱える各国の現状と問題点を事前に抽出し,フォーラム当日は抽出した課題についてAIがその解決ツールとしてどのような可能性があるかを議論した。議論成果として,AIが臨床検査室に導入された後,私たちはどのように働くべきか,そして予想される働き方について,実例を交えながら成果発表を行った。本フォーラムを通した国際化への取り組みは,我々臨床検査技師の国際化対応力向上に向けた非常に良い内容であり,将来展望を見据えた際にとても期待が持てる内容であったと考えられた。

  • 安江 智美, 伊藤 栄祐, 伊藤 大佑, 小野澤 裕也, 山本 雅史, 濤川 唯, 菊地 良介, 竹浦 久司
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 1 号 p. 101-105
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    2019年5月開催の第68回日本医学検査学会にてThe International Young BLS Forumが開かれた。このフォーラムは,2018年に日本臨床衛生検査技師会で発足した若手技師国際化対応力向上ワーキンググループによる初の企画である。我々は,韓国,台湾の臨床検査技師(biomedical laboratory scientist; BLS)とともに遠隔医療と人工知能(artificial intelligence; AI)の関わり方をテーマに議論した。事前準備として,遠隔医療やAIに関する現状や課題を国ごとに挙げた。フォーラム本番では,事前に挙げた課題をふまえ,遠隔医療の未来像を議論の軸としBLSの今後について論議した。少子高齢化や医療従事者の偏在化など3国共通の社会背景が多く,遠隔医療でのAI活用は社会問題の解消に欠かせないと考えられた。一方で,セキュリティシステムの構築や法整備,AIによる医療過誤における責任の定義など解決すべき課題が多いのも現状といえた。今後,BLSの教育課程でも情報セキュリティやAIに関する知識の習得が必須になることが望まれるとの見解で一致した。遠隔医療分野で活躍するBLSはまだ少ないが,AIと共存し医療分野以外の専門家ともチームを組むことが遠隔地の患者にも医療スタッフにもメリットを生み,BLSの活躍の場を更に拡げることになると結論づけた。

症例報告
  • 赤堀 真富果, 若井 正一, 山﨑 舞美, 芝田 すみれ
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 69 巻 1 号 p. 106-111
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
    ジャーナル フリー HTML

    症例は68歳男性。睡眠中の痙攣発作を主訴に初診となった。問診にて睡眠中の呼吸障害の存在が疑われ確定診断のため,呼吸センサーと10–20 Full montageビデオ脳波を同時測定する終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)を行った。発作間欠期に右前・側頭葉の鋭波と,頻回の閉塞性呼吸イベントを認めた。よって,側頭葉てんかんと閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome; OSAS)との合併と診断された。抗てんかん薬(anti-epileptic drug; AED)と持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)療法を始めたが,途中で自己中断となり痙攣発作が再発した。CPAPを再開し,CPAPタイトレーション下でのPSGを行ったところ,閉塞性無呼吸・低呼吸は抑制されていた。しかし,てんかん発作波に後続する中枢性無呼吸が1晩で5回見られた。その際に痙攣がないことから,この病態は非痙攣性てんかん発作であると考えられた。てんかんにOSASが合併することは稀ではない。そうした合併症例における睡眠呼吸障害には,上気道の閉塞によるイベントと,てんかん発作に伴うイベントとがあることを本例は示している。しかも,後者には必ずしも痙攣を伴わない。治療としては,前者にはCPAP療法,後者にはAEDとなる。従って,呼吸イベントがどちらに起因するのかを見分けることは治療を選択する上で重要である。その鑑別には,脳波所見を的確に判読することが求められる。

  • 入村 健児, 河原 菜摘, 田渕 佐和子, 緒方 昌倫
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 69 巻 1 号 p. 112-116
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    80歳代,女性。38.6℃の発熱と酸素化低下があり,当院に救急搬送後入院となる。入院時の血液培養検査2セット4本中,好気ボトル1本が陽性となりGram陰性桿菌であった。同定は,生化学的同定法およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry; MALDI-TOF MS)を用いた質量分析計で検査したが不可であった。16S rRNA遺伝子解析を行いPaenibacillus viniと同定した。2015年に環境からの分離報告があるが1),ヒトからの報告は少なく,スペインで1999年から2015年にヒトと環境から分離されたPaenibacillus sp. 136株の分離報告で,P. viniは1株がヒトの血液から分離されていた2)。今回我々は,稀症例と思われたP. vini bacteremiaを経験したので報告する。

  • 小林 剛, 柴田 淳, 信広 亮輔, 斉藤 陽一, 佐々木 なおみ
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 69 巻 1 号 p. 117-124
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    【背景】形質細胞腫瘍(plasma cell neoplasm; PCN)がT cellに関連した抗原をもつことは非常にまれである。今回我々は胸水細胞診においてCD3,CD4の発現を認めたPCNの1例を経験したので報告する。【症例】80歳代,女性。全身倦怠感のため当院を受診した。造影CTでは明らかな腫瘤はみられなかったが,血液検査でLDHとSoluble IL-2Rが高値を示した。MRI検査で,頚椎に骨髄異常信号が出現し骨髄生検が実施され,芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm; BPDCN)が疑われた。4ヶ月後,両側胸水の貯留が認められ,右胸水細胞診が提出された。胸水中には単核から多核の腫瘍細胞が弧在性に多数出現し,一部核周明庭がみられ,形質細胞様の形態を示していた。セルブロック標本による免疫染色でCD3,CD4,CD56,CD138が陽性,lambda鎖に偏りを認め,dual CD3 and CD4 positive PCNと最終診断された。【結論】本症例は形態的にPCNを疑う所見がみられたが,免疫組織化学的にCD3とCD4が陽性であったため,診断に苦慮した。T細胞抗原を有するPCNが存在することを認識しておくことが重要である。

  • 鳴海 菜月, 盛合 亮介, 近藤 崇, 望月 真希, 遠藤 明美, 淺沼 康一, 柳原 希美, 髙橋 聡
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 69 巻 1 号 p. 125-129
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    今回我々は,非常に稀な疾患である慢性NK細胞増加症(chronic lymphoproliferative disorders of NK cells; CLPD-NK)の1例を経験したので報告する。症例は80代,男性。息切れ,咳嗽,胸水貯留を認め,精査加療目的に当院入院。入院時の末梢血液検査では,WBCがやや高値であった。白血球分画では,リンパ球数増加を認め,リンパ球の91.0%が大顆粒リンパ球(large granular lymphocyte; LGL)であった。末梢血の細胞表面抗原解析では,CD3陰性,CD56陽性とNK細胞の発現パターンを呈した。初診時の末梢血LGL数は7,024/μL,初診時から6ヶ月後のLGL数は3,365/μLであり,NK細胞増加症の定義を満たしていた。本症例とT細胞大顆粒リンパ球性白血病T-LGLL(T-cell large granular lymphocytic leukemia; T-LGLL)症例のLGL長径を比較したところ,T-LGLL症例より本症例のLGL長径が有意に大きかった(p < 0.01)。しかし,両者のLGL長径の差は約1 μmであり,形態学的に鑑別することは困難である。CLPD-NKを見逃さないためには,リンパ球数の増加を認めた際に,鏡検により形態学的に特徴的なLGLを確認し,フローサイトメトリーによりLGLの細胞表面マーカーの解析を行うことが重要である。

取り組み報告
  • 菊地 良介, 竹浦 久司
    原稿種別: 取り組み報告
    2020 年 69 巻 1 号 p. 130-133
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/01/22
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    臨床検査分野では,業務の効率化・高レベルの専門性・情報共有・チーム医療・患者中心の医療が推進されている。また,医師以外の医療職種で可能な限りの業務分担を行うタスクシフティングが求められており,臨床検査技師を取り巻く環境は日々多様化している。さらに,科学技術の進歩とともに交通や通信手段は目覚ましく発展し,ヒト・モノ・情報が国を越えて頻繁に交流する時代となり,グローバル化が益々進んでいる。その結果として,医療機関においても外国人患者を診療するケースが増加傾向にある。臨床検査技師が国際化に取り組む上で大切なことは,一人ひとりが世界を知るための経験を蓄積することである。すなわち,臨床検査技師としての専門的な知識及び技術を有することを前提とした上で,国際的に通用する見識・語学力・対応力と,加えて研究力を有する人材育成が必要となっている。一般社団法人日本臨床衛生検査技師会(日臨技)では国際交流活動の充実が極めて重要であるとの視点で,2018年に若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(若手WG)を発足させた。その若手WGは第68回日本医学検査学会で日本,韓国,台湾の若手技師を対象としたThe 1st International Young Biomedical Laboratory Scientists(BLS)Forumを開催した。今回の活動を通して,3ヶ国の臨床検査技師が国境を越え,お互いを尊重し合い,未来のBLS像について論議を行うことができた。これこそ我々が求める国際対応力であり,今回の取り組みは,若手臨床検査技師にとって大きな財産になったと思われる。

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