医学検査
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技術論文
FileMaker Proを用いた支援システム構築による採血関連事故の未然防止への取り組み
日野出 勇次石井 宏二大隅 理惠渡口 貴美子永田 雅博藤田 香織諏訪園 秀吾
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2020 年 69 巻 1 号 p. 44-53

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Abstract

【目的】看護師と検査技師双方の業務の効率化と医療安全面からFileMaker Proを用いた採血業務支援システムを構築した。システム活用による,日常業務中に起こる採血に関する問い合わせと採血管の間違いや医療安全上重要である採り直しの減少への取り組みの効果について検討した。【方法】検体採取容器をバーコード・リスト・検査項目のいずれからも検索できる新たな検索システムを設計した。その他の情報は,検索された表示画面にラベル関連・注意喚起・輸血関連と分類して表示し,さらに知りたい情報のボタンを押すと詳細な情報が閲覧できるように構築した。医師が採血オーダーを入れる前後とラベル発行のタイミングに応じて,看護師がシステムにて採血管に関する情報を検索することに対応できる。さらに看護師が検索したこれらの情報は,内容・日付・時間帯・部署についてログの収集を可能としたことでシステムの改善のフィードバックへ繋がる構造とした。【成績】このように得られた現場での情報を解析し,現場の意見に沿った改善を行った。システム運用後は,問い合わせ数,採血間違いや採り直しが大幅に減少した。【結論】新たなシステム構築により,看護師と検査技師双方の精神的負担の軽減による業務効率化が実現でき,再採血といった患者負担も減少した。他部門の問題点を共通の問題点として理解し取り組んだことは,お互いの信頼関係を強化できた取り組み内容と思われる。

Translated Abstract

At our hospital, the laboratory ordering system does not issue test tubes with labels attached, but only the labels. Therefore, the nurses must find the appropriate tubes and attach the labels manually. The nurses sometimes make mistakes in selecting the test tubes; to avoid such mistakes, the nurses call the laboratory to inquire about the tube selections. These calls are time-consuming for both nurses and laboratory technicians. Thus, we developed a new search-and-display system for laboratory examination inquiries utilizing the existing FileMaker Pro server and client system. With this system, users can scan or manually enter patient IDs and examination dates to find what types of examination were ordered by the doctor and the appropriate test tubes and labels. This system can also display cautionary messages while obtaining blood samples and provide information on important issues related to blood transfusion. This system collects logs describing which tubes are frequently searched, enabling the laboratory technicians to obtain feedback about which examinations/tubes that nurses have questions. With this system, the number of mistakes resulting in redrawing blood and the number of inquiry calls from nurses to the laboratory section have been reduced.

I  序文

独立行政法人国立病院機構沖縄病院では2011年から診療支援の一環としてFileMaker Serverを導入し手術予定や患者情報を管理運用してきた背景があり,外来と各病棟に1台以上FileMaker Proが導入された端末がある。さらに,使用するファイルはFileMaker Serverで管理されているため,複数の端末で同時に同じファイルを利用することが可能である。1.5名で業務を行っている検体検査室において,看護師からの問い合わせへの対応に費やす時間は少なくない。検体検査室への問い合わせの内容は流動的なものと固定的なものに大きく分類することができる。流動的な問い合わせ内容とは,患者に関する問い合わせや検査結果に関する問い合わせなど個々の事情により返答内容が変わるものである。固定的な問い合わせ内容の内訳は「採血管に関する問い合わせ」「ラベルに関する問い合わせ」「検体提出方法に関する問い合わせ」が大半を占めており,管理的な不良が浮き彫りになっていた。

当時,看護師側がどのように採血管について検索しているか聞き取り調査したところ,現場では自分で採血管一覧シートと各外部委託会社から提供された冊子から目視で調べるか,先輩看護師に尋ねるとの回答が多かった。しかし,時間的な猶予が無く似たような採血管も多い。70種類の採血管の外観と名称を記載した一覧を印刷しラミネート加工し配布した採血管一覧シートでは,採血時の注意事項の記載もなく印刷の視認性の悪さもあいまって直接検査科への問い合わせ数が多い原因と考えた。

採血管に関する電話を受ける検査技師と掛ける看護師双方にとってお互いに時間的猶予は無く,精神的にストレスがかかっている状況と考えられた。少人数業務を行っている検体担当者は,頻繁に掛かってくる問い合わせ電話への対応時間が増えることで作業の中断が増え,集中力が散漫になりルーチン業務における確認ミスなどの一因にもなり得ると考えた。また,看護師にとっては,稀な検査項目や新しく採用された検査項目,検体量や採血後の取り扱いに注意を要する項目に関して,あいまいな記憶や思い込みが採血管間違いや採血後の検体の不適切な取り扱いにつながると考えられた。問い合わせ数が多いことは,検査技師にとっても看護部門にとっても重要な問題であると考えた。

問い合わせ数増加を引き起こす原因を構造化し整理する目的で,問い合わせ数増加を特性とした問題型特性要因図を作成した(Figure 1)。特性要因図では,人(採血に関わる人々)・環境(勤務環境)・システム(オーダーシステム)・情報(検査項目に関する医学的知識や情報)の4つを要因として整理した。その結果,膨大な採血管連の情報があるにも関わらず,その情報を得ることができる環境が整っていない上,スタッフによっても経験や知識の深さに差があることが問い合わせ数増加の要因となっていることが分かった。そこで「採血の現場で誰でも簡単に,採血関連の情報を迅速に得ることができる」ツールがあれば問い合わせ数増加の要因を取り除くことができると考えた。当初,Excelを用いてシートの内容を検索することを試みたが複雑な操作を強いられることが予想されたためFileMakerに注目しシステムの構築を行った。

Figure 1 問い合わせ数増加を特性とした特性要因図

2016年院内医療安全活動報告会でこの現状を検査科の取り組みとして発表した。この取り組みが施設からの理解と協力を得て施設全体の取り組みとして承認を得た。FileMaker Proを用いた業務の効率化と医療安全を目的とした採血業務支援システムの構築は,採血関連事故の未然防止への有効な取り組みであったことから報告する。

II  方法

1. システム構成

1) ハードウェア

Windows 10 Pro Intel®CoreTM i5-6500 CPU @ 3.20 GHz 3.19 GHz

64ビットオペレーティングシステム,×64ベースプロセッサ

2) ソフトウェア

FileMaker Pro 16(FileMaker社)

3) ネットワーク

FileMaker Server 16

2. 概要

当院の採血までの流れは,1)医師が採血オーダーを入力,2)看護師が電子カルテ上で指示受けをし,ラベル発行,3)看護師が採血管を準備,4)看護師による採血という流れである。

この過程で看護師が採血管の種類を知りたいタイミングを時系列順に推測すると

① 医師が採血オーダーを入れる前

② 採血オーダーが入った後,ラベル発行する前

③ ラベル発行した後

と推測できるが頻度の多い③②①の順位で対応しその後,看護師から使用状況を調べ全てのタイミングに対応できるようにした。

3. ラベルから採血管の検索(バーコード検索)

当初,ラベル発行した後にラベルに印字された採血管の略称名を入力し検索を実施する方法を採用し効果を得ていたが,採血管変更や名称の変更などがあることから状況の変化に対応し確実に採血管検索ができるための変更が必要となった。また,さらに時間を可能な限り短くするため,バーコードから検索ができるように改良を加え,システムを開くとまずバーコード検索ができるような画面構成に変更した。これによりシステムを開いてから5秒以内に採血管検索が可能となった(Figure 2)。

Figure 2 バーコードによる採血管検索画面

システムを起動すると,この画面が起動する。

当院の検体検査用バーコードは12桁で構成されており,そのうちの4桁が容器コードと負荷コードになっている。バーコードを読ませると必要な4桁だけ取得し,それに対応する採血管を別テーブルから検索するスクリプトを作成し,ポータルで表示させている。表示させる情報は,採血管の1)名称,2)外観,3)補足情報,4)採血時の注意点,5)保管場所である。バーコードリーダーの規格違いによる誤動作を防ぐために,スクリプトによる桁数チェックを入れている。桁数が合わないときは検索をせず,「このバーコードリーダーは使用できません,【リストから検索】にて検索してください。また,使用できない旨を管理者に連絡ください」というメッセージを表示するようにした。

4. ラベルから採血管の検索(リストから検索)

上記方法が使用できない場合(特殊な蓄尿等,同じ容器で注意点が異なるもの)はレイアウトを変更し,リストから検索できるようにしている。初期バージョンではこの方法で検索していたが,バーコード検索が可能となってからは予備機能としている。

この検索は,バーコード検索よりも緊急度が低い場面を想定しており,同画面にて看護師向けの情報提供を行っている。それについては後述する(Figure 3)。

Figure 3 リストによる採血管検索画面

初期バージョンではこちらがメインの検索画面だった。

5. 検査項目から採血管の検索(オーダーから引用)

この検索は採血オーダーが入った後,ラベル発行する前のタイミングを検索できるように構築している。こちらは主に残血オーダーの採血管検索に利用されている。診療支援システムのデータベースに接続してFileMakerに表示できるようにしているため,「検査日」「患者ID」を入力すると,枠内のボックスにオーダー項目一覧が表示される。調べたい項目の右には簡易的に容器名の表示がされており,詳細を確認したい場合は項目をクリックすることで単項目が拡大表示される。同レイアウト内「この容器を検索」ボタンを押すと,容器の説明を閲覧することができる。検索者のレベルによって使用するレイアウトを使い分けられる設計にしている。

6. 検査項目から採血管の検索(手入力)

この検索は 医師が採血オーダーを入れる前のタイミングで検索できるよう構築している。

医師からの口頭指示で看護師に「〇〇用の採血をお願いします,オーダーは後でします」というような場面や,医師自身が残血オーダーを入れる前に提出済検体にオーダー可能かどうか確認する場合に有用である。特に,病棟に医師が少ない時間帯に看護師が追加採血が必要かを判断するのに有用かと考える(Figure 4)。

Figure 4 診療支援システムの採血オーダーを引用した採血管検索画面

資料システムのデータベースから情報を取得する。

左のボックスAに検索文字を入れると右のボックスBに候補が表示され,該当する項目をクリックすると検索ができる。ボックスBはポータル機能を使用しており,テーブルとリレーションの工夫により部分一致で検索がかかるようにした。

7. ログの収集

検索の方法に関係なく採血管検索を行うと,1)日付,2)検索内容,3)検索端末,4)時間が別テーブルに記録されるようになっている。これにより,どの採血管がよく検索されるのか,病棟ごとのシステムの使用状況,システム使用時における日当直帯の区別などシステム使用状況を把握している。採血管間違いなどの事例が発生した場合などは,病棟でのシステムの使用状況を確認し,ヒヤリハット報告の改善策として医療安全管理室からアドバイスされている。このように定期的にシステム使用が少なく問い合わせが多い病棟には,システムの紹介を兼ねたデモンストレーションを行うことにより,使用率向上を図っている。

8. 集計

検索された採血管を累計で集計し,別レイアウトにてグラフ表示させることができる。当院ではS5Fという採血管が特に検索されていることが分かる(Figure 5)。

Figure 5 検索採血管件数グラフ表示

一目でよく検索される採血管が分かる。

9. 情報閲覧

ラベルから採血管の検索(リストから検索)で少し触れたが,このレイアウトにて看護師向けに情報提供をしている。ラベル関連・注意喚起・輸血関連と分類し,見たい項目のラジオボタンを押すことで,情報を得ることができる。

10. 意見・要望の記入

システムに対する意見や要望を匿名で記入できるようなレイアウトを設けている。このように現場で使用する看護師の情報を収集しシステムの問題点や不便性を改善していくことで,経験を問わずシステムを活用できるようにしている(Figure 6)。

Figure 6 意見要望記入用レイアウト

匿名で意見を記入できるようにしている。

11. セキュリティー対策

権限を「管理者」「ゲストユーザー」と区別し,ゲストユーザーが利用する際はツールバー非表示のスクリプトを使用し,勝手にシステムに関わる変更ができない仕組みになっている(Figure 7)。

Figure 7 ツールバー非表示

権限によって操作を制限している。

12. 更新履歴

管理者が行った変更を手動で記録するレイアウトがあり,看護師側でもシステムの変更点が分かるようになっている。

13. バックアップ

FileMaker Serverにて1時間置きにバックアップを取っているため,誤操作をしてもデータのサルベージができる。

14. 操作者への配慮

FileMakerの機能の一部であるスクリプトトリガを駆使することにより,レイアウトに入るタイミングや抜けるタイミング等でスクリプトを実行することができる。それにより,レイアウトに入る時には前に入力した内容が消去され,さらに入力がしやすいようカーソルが合った状態になり,検索用レイアウトを複数端末で同時に使用できるようになる。

15. 倫理的配慮

本研究は独立行政法人国立病院機構沖縄病院の倫理委員会で審査され承認された(承認番号2019-15)。

III  成果

1. 採血管関連問い合わせ件数と採血管関連インシデントの集計

当院の一日の平均採血件数は,外来50件入院50件である。システム構築前問い合わせ件数は1日平均5件,当番帯と土日含め週に30件あったものが,システム運用後の現在では2日に1件程度,夜間休日の問い合わせがほぼ無くなり週に5件程度まで減少した。採血管関連インシデント(採血管間違いや採血量間違い,保存条件間違い)については月10件あったものが,月2件弱程度に減少した。特に,採血管関連の問い合わせが夜間に来ることが無くなったことは,検体検査室担当者や採血者の精神的な負担軽減に役立っていると考える。

2. 検索時間帯の分析

平日8:30–17:15の時間帯を日勤帯,それ以外を時間外と区別し,2017年2月から2019年5月までの検索件数集計を行ったところ,総件数1,627件,日勤帯918件,時間外709件という結果であった。これは,時間帯に関わらず需要があることを示していると考える。

3. 検索履歴の月別分析

検索履歴の件数を月別,時間帯別で集計した。

システム導入開始した2017年2月と3月は,検索件数が他月と比較してかなり多くなっている。同年7月と8月は,7月の診療支援システム更新に伴って院内の端末入れ替えが行われたことにより,システム停止期間が生じたため件数が大幅に減少している。2017年2月から2019年5月までの28ヶ月間を平均すると,月に58件の検索が行われている。2018年9月よりバーコード検索が可能となったため,前月と比較して2倍以上の検索件数になった。また,2019年4月の検索件数が一番多くなっていた。それは,新人看護師オリエンテーションを含めた教育の一環としてシステム使用方法の説明がされ実際に現場で使用されたことによるものと考える(Figure 8)。

Figure 8 検索履歴月別集計

4. 看護師を対象にしたアンケート調査

システム導入後6ヶ月後と2年後に,看護師を対象にしたシステム認知率の調査を目的としたアンケート調査を行った。システム認知率は6ヶ月後の集計では211名に対して75%であったのに対し,2年後の集計では223名に対して97%であった。2年後のアンケートではシステムを使用することで検査科への問い合わせ数が減少したと答えた人が80%であった。導入後も看護師からの意見を積極的に取り込み機能追加や改善を行い,システムの存在を知らない看護師に対しシステムの紹介や使用方法の実演を行う等,普及活動を行った成果が出ていると考える。

アンケートにはシステムに対する意見や要望を自由記述で回答する欄を設けた。その中には「多忙によりパソコンを操作して検索する時間が確保できない場合がある」,「システムの存在は知っているが使用方法が分からない」,「間違って覚えているということが分からず検索しなかった」という意見があった。また「システムのおかげで夜勤時の採血が怖くなくなった」,「新人看護師の教育用に活用している」という意見もあった。

IV  考察

今回のシステム構築では,検査技師は問い合わせを減らしたい,看護師は必要な情報を簡便かつ迅速に見たいという双方の納得のいくものを作成する必要があった。我々は,院内環境が整っておりシステム構築に費用が発生しないFileMaker Proを用い,使用する立場を第一に考えたシステム構築をすることによって理想に近いシステムを完成することができた。構築は1)看護師側の操作が簡単で迅速であること,2)誤入力,誤操作に対して制御の充実,3)セキュリティーへの配慮,4)検索するだけではなく,検索した情報を次に繋げること,5)管理者が変わっても,一定の管理が可能なことを念頭に置き行った。「ファイルメーカー・臨床検査」というキーワードで検索すると當銘ら1)「生理検査結果報告書システムおよび画像検索システム」といった生理検査や画像検索に関する試みや,山田ら2)「FileMakerを用いた病理支援システムの構築」や羽賀3)「ファイルメーカーProを用いた病理業務支援システム」といった病理検査に関する試みはあるが,検体検査のスピッツ検索に用いたという報告はみあたらない。

開発に際しては,検体を提出する看護師数十人に時間をとってもらい,システムの方向性の相談や試作品を実際に触ってもらったことが功を奏したと考える。昨年と今年の4月に行われた新人看護師のオリエンテーション時にも,このシステムの使用方法を紹介することで検査科の技師が看護師教育の一端を担うことができた。さらに一定のメンテナンス管理が可能な構成を行った。今後の課題としては,国立病院機構の特性を考えFileMakerを使用したことのない未経験者に管理者が変わった場合に対応できる操作マニュアルを作成することで,マニュアルに準じてシステム管理が可能となることである。

「II方法 8.集計」で得られた集計結果について,S5Fが最も検索されていることが分かった。これは,B型肝炎ウィルス核酸(hepatitis B virus deoxyribonucleic acid; HBV DNA)定量 やC型肝炎ウィルス核酸(hepatitis C virus ribonucleic acid; HCV RNA)定量など特殊採血管が必要な外注検査項目の中で最もオーダーされる頻度の高い項目の採血管であることと,輸血検体保存用採血管であることが原因であると考える。特に,当院は輸血の件数が少ないため,HBV DNA定量と輸血検体保存用の採血管が同じものであることを知らない看護師が多い。この集計結果から,「II方法 9.情報閲覧」のレイアウトに「輸血検査時に必要な採血管について」という案内ページを設け,同じ案内文書を院内ホームページに掲載し,さらに看護師全員に院内メールで送付した。

また,システム構築前問い合わせ件数は1日平均5件,当番帯と土日含め週に30件あったものが,システム運用後の現在では2日に1件程度,夜間休日の問い合わせがほぼ無くなり週に5件程度まで減少した。問い合わせ数は「看護師が採血時に分からないことがあった回数」と言い換えることができ,採血時に分からないことがあるということは,万が一確認をせず採血をしてしまうと採血関連事故が起きる危険があるということである。問い合わせ数が減少できたことから,今回構築したシステムは看護師の採血時に分からないことを減少させる効果があり,採血関連事故を未然に防ぐことができたと考える。

採血関連インシデントは月10件から2件へと減少したが,未だ0件にはできていない。それは,アンケート結果から分かるようにシステムの存在を知らない看護師が少人数ではあるが複数いること,多忙でシステムから検索する時間が確保できない場合があることと,思い込みによるミスが原因であると考察する。先輩看護師から教わった誤った情報を,疑いもせず10年近く運用していたという話もあった。システム構築によって採血管関連の情報が検索できるようにはなったが,情報を得るためにはシステムを操作するという作業が必要である。システム認知度を100%にできるように定期的に宣伝やアンケートを取ること,多忙でも不安なことがあれば立ち止まって検索することで,採血関連事故を防ぐことができ患者の安全が確保できることを繰り返し検査科から看護師へ発信していくことが重要であると考える。

V  結語

FileMaker Proを用いた検体採取容器検索システムを報告した。当院は,既にFileMaker Proを使用できる環境が整っており新規に費用が発生せずに使用する立場で構築することができた。施設内のスタッフでシステムの立案から構築したことで,他部門との連携を強化することができた。また,他部門の問題点を共通の問題点として理解し取り組んだことは,お互いの信頼関係を強化できた取り組み内容と思われる。今後も,現場の看護師の声を聞きながらシステムを成熟させていきたい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本システムの構築にあたり,FileMaker Pro基本部分を含め活用法などにご指導を頂きました独立行政法人国立病院機構沖縄病院情報管理室 上間康広氏をはじめご意見やアドバイスを頂いた多くの関係者の方に謝意を表します。

文献
  • 1)   當銘  弘幸,他:「生理検査結果報告書システムおよび画像検索システム」,医学検査,2002; 51: 234–239.
  • 2)   山田  正人,他:「FileMakerを用いた病理支援システムの構築」,医学検査,2004; 53: 1366–1372.
  • 3)   羽賀  博典:「ファイルメーカーProを用いた病理業務支援システム」,病理と臨床,2000; 18: 761–765.
 
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