医学検査
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技術論文
梅毒脂質抗体測定試薬「アキュラスオートRPR」の性能評価
秦 真公人三好 雅士西岡 麻衣上田 舞中尾 隆之長井 幸二郎高山 哲治
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2020 年 69 巻 3 号 p. 323-328

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Abstract

梅毒の血清学的診断法として用いられるSerological Test for Syphilis(STS法)は,自動分析装置による簡便な測定が可能であるが,高濃度域の直線性や,プロゾーンによる高濃度試料の低値化が問題となる。我々は,これらを改良した,ラテックス凝集免疫比濁法を測定原理とする新規試薬であるアキュラスオートRPRの性能評価を行ったので報告する。併行精度は良好であった。希釈直線性は,アキュラスオートRPR:22.4 R.U.,メディエースRPR:8.1 R.U.まで確認できた。プロゾーンを評価した結果,アキュラスオートRPR:約102 R.U.,メディエースRPR:25.5 R.U.より,測定値の低下傾向がみられた。共存物質の影響では,乳び:3,000 F.T.U.の添加により,アキュラスオートRPRで+1.3 R.U.,メディエースRPRで+1.0 R.U.の正誤差を認めた。検出限界は,アキュラスオートRPR:0.30 R.U.,メディエースRPR:0.57 R.U.であった。100例の血清を用いた相関では,判定一致率が93%(陽性24件,陰性69件)であり,反応性の差異に起因すると考えられる乖離を認めた。アキュラスオートRPRは測定範囲が向上し,プロゾーンの影響も軽徴なことから,高濃度検体における再検率の減少が期待でき,有用な試薬であると考えられた。

Translated Abstract

The serological test for syphilis (STS) for the diagnosis of syphilis has recently been simplified with an automatic analyzer; however, the linearity of a high concentration range and the reduction of the prozone effect due to high concentrations of the target antigen in samples pose a problem. Here, we report the performance evaluation of Accuras-auto RPR, a new reagent-based latex agglutination turbidimetric assay, which eliminates these issues. The repeat accuracy was good. The dilution linearities determined using a high-RPR-concentration sample were 22.4 R.U. for Accuras-auto RPR and 8.1 R.U. for Mediace RPR. Evaluation of the prozone revealed a trend of decreasing RPR in both Accuras-auto RPR and Mediace RPR measurements. The addition of 3000 F.T.U resulted in 1.3 R.U. and 1.0 R.U. positive errors in Accuras-auto RPR and Mediace RPR, respectively, in the chyle sample. The detection limit of Accuras-auto RPR was 0.30 R.U. and that of Mediace RPR was 0.57 R.U. A confirmation test of the correlation using sera from 100 patients revealed that the judgment agreement rate was 93% (24 patients with positive results and 69 patients with negative results); the difference in results could be attributed to differences in reactivities. Accuras-auto RPR demonstrated an improved measurement range compared with the conventional reagent. Moreover, the prozone effect was mild, and thus, usage of Accuras-auto RPR could reduce the retest rate of high-RPR-concentration samples, and it is considered to be a useful reagent for a routine diagnostic test.

I  はじめに

梅毒は,Treponema pallidumT. pallidum)による感染症である。性交渉や類似の行為で感染する性感染症の一つであり,希に接触感染や輸血による感染もある。皮膚や粘膜の微小な傷からT. pallidumが侵入することで感染し,局所で増殖したのちやがて血行性に全身へ散布され,種々の症状を引き起こす全身性の慢性感染症である1)

梅毒の血清学的診断法には,ウシ心筋のアルコール抽出液から分離精製したリン脂質(カルジオリピン-レシチン)を抗原に用いるSerological Test for Syphilis(STS法)と梅毒病原体(Treponema pallidum; TP)を抗原として用いるTP法とに分けられる2)。STS法は感染早期から陽性になることから,スクリーニングとして有用であり,また治療効果により値が減少するため,梅毒に対する治療効果判定として用いられる3)。一方,TP法は特異性が高く確定診断に有用であり,梅毒の診断にはこれら2つの方法を組み合わせて用いられる4),5)

近年,STS法はカルジオリピン-レシチン-コレステロール感作ラテックス粒子を用いた測定法により,自動分析装置で測定されるようになっているが,高濃度域における直線性やプロゾーンによる測定値の低値化などの問題がある6),7)

今回我々は,これらの問題点を改良した,ラテックス凝集免疫比濁法を測定原理とする新規試薬であるアキュラスオートRPRの性能評価を行ったので報告する。

II  試料および方法

1. 検討試料

検討には,2018年1月~2019年12月に当院検査部に提出された検体のうち,梅毒脂質抗体(RPR)検査陽性例(31例)を含む,合計100例の血清を用いた。なお,本検討は徳島大学臨床研究倫理審査委員会の承認後(承認番号1919)匿名化し実施した。

2. 試薬および測定機器

測定には,日立7180形自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ)を使用した。検討試薬としてアキュラスオートRPR(シノテスト)を,比較対照試薬としてメディエースRPR(極東製薬)を用いた。

3. 測定原理

ラテックス粒子に感作されたカルジオリピン-レシチン-コレステロールと,検体中に存在する梅毒脂質抗体との抗原抗体反応により濁りが生じる。濁りの度合いは検体中の梅毒脂質抗体量に比例するため,吸光度の変化量により梅毒脂質抗体の測定を行う。

III  検討内容

1. 併行精度

各社専用のRPRコントロール2濃度を連続20回測定し,併行精度を確認した。

2. 希釈直線性

高濃度試料を生理食塩水にて10段階に希釈し,希釈直線性を確認した。

3. プロゾーン

RPRプロゾーン検討用調整試料(約102 R.U.)を倍々希釈し,プロゾーンを評価した。

4. 共存物質の影響

干渉チェックAプラス(シスメックス)および,アスコルビン酸(20 mg/dL),干渉チェックRF(500 IU/L)を用いて共存物質の影響を確認した。

5. 検出限界

患者プール血清を10段階希釈し,2.6 S.D.法にて検出限界を評価した。

6. 相関

RPR検査が依頼された100例の血清を用いて,> 1.0 R.U.を陽性とした際の判定一致率および各試薬の定量値について相関を確認した。

IV  結果

1. 併行精度

各社専用のRPRコントロール2濃度を連続20回測定した結果,Rangeは,アキュラスオートRPR:0.1~0.3 R.U.,メディエースRPR:0.1~0.2 R.U.であった(Table 1)。また,高濃度試料のC.V.はアキュラスオートRPR:1.3%,メディエースRPR:0.9%であった。

Table 1  Accuracy
n = 20 Accuras-auto RPR Mediace RPR
Control L Control H Control L Control H
Mean (R.U.) 0.02 5.97 0.01 2.30
S.D. (R.U.) 0.040 0.078 0.040 0.020
C.V. (%) 1.3 0.9
Range (R.U.) 0.1 0.3 0.2 0.1

2. 希釈直線性

高濃度試料を用いて希釈直線性を確認した結果,アキュラスオートRPR:22.4 R.U.,メディエースRPR:8.1 R.U.まで直線性が認められた(Figure 1)。

Figure 1 Dilution linearity

The dilution linearity was 22.4 R.U. for Accuras-Auto RPR, and 8.1 R.U. for Mediace RPR.

3. プロゾーン

プロゾーン検討用試料(約102 R.U.)を用いてプロゾーンを評価した結果,アキュラスオートRPR:約102 R.U.,メディエースRPR:25.5 R.U.より,測定値の低下傾向が認められた(Figure 2)。

Figure 2 Prozone

Evaluation of the prozone revealed a decreasing trend in both Accuras-auto RPR and Mediace RPR measurements.

4. 共存物質の影響

ヘモグロビン:500 mg/dL,Bil-F・C:20 mg/dL,アスコルビン酸:20 mg/dLまで影響は認められなかった。一方,乳び試料では3,000 F.T.U.の添加により,アキュラスオートRPRで+1.3 R.U.,メディエースRPRで+1.0 R.U.の正誤差を認めた(Figure 3)。

Figure 3 Effect of interfering substances

Addition of 3,000 F.T.U. resulted in 1.3 R.U. and 1.0 R.U. positive errors in Accuras-auto RPR and Mediace RPR, respectivel in the chyle sample.

5. 検出限界

2.6 S.D.法にて検出限界を評価した結果,アキュラスオートRPR:0.30 R.U.,メディエースRPR:0.57 R.U.であった(Figure 4)。

Figure 4 Limit of detection

The detection limit evaluated for Accuras-auto RPR was 0.30 R.U. and that for Mediace RPR was 0.57 R.U.

6. 相関

血清100例の判定一致率は93%(陽性24件,陰性69件)であった(Table 2)。

Table 2  Correlation (qualitative value)
Accuras-auto RPR
+ Total
Mediace RPR + 24 0 24
7 69 76
Total 31 69 100

一方,定量値の評価では,回帰式y = 0.80x + 0.3,r = 0.99と良好であったが,アキュラスオートRPRで5.3 R.U.,5.6 R.U.,14.5 R.U.,18.7 R.U.であった検体が,メディエースRPRではそれぞれ9.4 R.U.,8.9 R.U.,30.9 R.U.,33.6 R.U.となる乖離例を認めた(Figure 5)。

Figure 5 Correlation (quantitative value)

Regression equation : y = 0.80x + 0.3 , r = 0.99 , n = 100

V  考察

併行精度の検討では,低濃度試料が陰性コントロールでありC.V.が大きくなるため,S.D.を用いて評価すると,アキュラスオートRPR:0.040 R.U.,メディエースRPR:0.040 R.U.と,低濃度高濃度ともに良好な結果が得られた。

希釈直線性,および検出限界の検討結果より,各試薬の測定範囲は,アキュラスオートRPR:0.3~22.4 R.U.,メディエースRPR:0.6~8.1 R.U.と比較対象試薬に比し,測定範囲が向上した。特に高濃度域における直線性は良好で,プロゾーンの影響も受けにくいことから,再検率の減少が期待できた。

共存物質の影響では,両試薬とも乳びによる濃度依存性の正誤差がみられた。原因として,乳びの成分である脂質の種類,分子量およびその量の違いが測定結果に影響を及ぼす可能性が報告されているが8),現時点では原因は解明されておらず,原因究明および試薬改良が望まれる。また,乳びの影響に関するRPR測定試薬の検討報告では,方法によって成績に統一性がなく9),10),乳び検体測定時には十分な注意が必要であると考えられた。

相関性の検討では,定性値による判定一致率は93%であった。7例において乖離がみられ,全てアキュラスオートRPR陽性,メディエースRPR陰性,TP抗体陽性を示した。定性値が乖離した7例は,RPR低値かつTP抗体高値であり,梅毒治癒後のTP抗体保有者であると考えられ,梅毒脂質抗体-IgGとの反応性の違いにより試薬間で乖離を生じたものと思われた。

また,定量値で乖離を認めた4例中3例については,梅毒感染初期であり,早期に上昇する梅毒脂質抗体-IgMとの反応性の違いから,測定値に乖離を認めたと考えられた。梅毒の届出基準のうち無症状病原体保有者とする条件として,「カルジオリピンを抗原とする検査で16倍以上又はそれに相当する抗体価を保有する者」11)とされている。また,梅毒治療効果の判定は,「カルジオリピンを抗原とする検査を定期的に追跡して,定量値が8倍以下,自動化法では16 R.U.未満に低下することを確認する」12)とされている。本基準はガラス板法を指標に定められたものであり,現在も議論が生じているが,反応性の差異により定性・定量値が異なる場合があるため,試薬変更を行う際には,臨床への十分な周知が必要である。さらに,臨床症状や感染機会の有無を総合的に考慮し,同一のTP抗体試薬ならびにRPR試薬にて抗体価の推移をフォローしていくことが重要になると考える。

また,定量値に乖離がみられた4例中,1例についてTP抗体が陰性,Fluorescent Treponemal Antibody-Absorption Test (FTA-ABS)-IgG < 0.5倍と,生物学的偽陽性(biological false positive; BFP)が考えられる症例であった。改良された本検討試薬においても BFPの問題は常に考慮すべきで,梅毒血清反応は原理の異なる2つの方法を組み合わせて実施する必要があると考える。

VI  結語

アキュラスオートRPRの基礎的性能は良好であった。また,比較対象試薬に比し直線性が良好で,プロゾーンの影響も小さいことから,高濃度検体における再検率の減少が期待でき,日常検査に有用な試薬であると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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