医学検査
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69 巻, 3 号
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原著
  • 髙松 泉, 酒井 瑞音, 櫻井 沙絵, 冨田 朋子, 小坂 弓恵, 向井 伸治
    原稿種別: 原著
    2020 年69 巻3 号 p. 289-299
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    広域周波オシレーション法は,強制オシレーション法(forced oscillation technique; FOT)を基本原理としており,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患の機能的評価として有用である。FOTによって得られる呼吸抵抗(レジスタンス)やリアクタンスには,影響を及ぼす因子も報告されているが義歯による報告は今までない。今回我々は,義歯による影響について検討したので報告する。対象は義歯の着脱が可能な52名と義歯未装着の60名。方法は,義歯装着患者に対して義歯装着時と義歯離脱時に広域周波オシレーション法を実施し,同時に義歯装着状態の調査を行った。義歯未装着患者では広域周波オシレーション法を実施し,それぞれ得られたレジスタンス値,リアクタンス値等について検定を行った。結果,義歯装着群と義歯未装着群では,義歯未装着群がレジスタンス成分にて有意に高値であった。義歯装着群において義歯の有無による有意差検定では,レジスタンス成分と低周波のリアクタンス成分が義歯装着時に高値,高周波のリアクタンス成分が義歯離脱時に高値であり,ロジスティック回帰分析より影響があると予測されたパラメータは,下義歯の自覚症状と義歯数であった。結果より,義歯未装着群は気管支喘息が多く病態的特徴により高値であったと推測された。義歯装着群では,義歯の不安定性が関連し義歯装着は数値に影響することが示唆された。

  • 大野 達也, 田中 洋輔, 安西 桃子, 谷口 優香, 中村 康人, 川口 珠巳
    原稿種別: 原著
    2020 年69 巻3 号 p. 300-306
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    国内において,血液培養から検出されたcoagulase negative staphylococci(CNS)の臨床的有意性に関する報告は少なく,検査室として有意性の判断に苦慮する場面も多い。今回我々は,血液培養からCNSを検出した277症例500検体を対象に血液培養陽性検出時間,検出菌,メチシリン耐性率,中心静脈カテーテル(central venous catheter; CVC)の有無,複数セット陽性,診療科・所属別有意症例率について検討し,特異度の高い有意性判断基準の設定を試みた。277症例のうち,有意例が67例(25.1%),中間例が8例(2.9%),汚染例が202例(73.0%)であり,平均陽性検出時間は,有意例で19時間54分,汚染例で31時間1分と有意差を認めた。診療科別有意症例率では,救命外来受診時の症例は8.4%と他科に比べて低く,消化器・一般外科,血液内科,代謝・内分泌内科では40%以上の有意症例率であった。血液培養からCNSを検出した場合の有意性判断基準として「18時間未満で陽性かつCVCあり」は有意菌の可能性が高く,「30時間以上で陽性かつCVCなし」は汚染菌の可能性が高い。血液培養陽性報告の第一報に判断基準を付加することで,早期の適切な抗菌薬療法と無益な抗菌薬投与の予防につながると考える。

  • 富安 聡, 大塚 百華, 四丸 知弥, 澁田 樹, 徳原 康哲, 大田 喜孝, 三宅 康之, 佐藤 信也
    原稿種別: 原著
    2020 年69 巻3 号 p. 307-316
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    背景・目的:膠原線維の確認を目的とするアザン・マロリー(azan-Mallory; azan)染色は現在,劇物を含む媒染剤を用いる従来法Iと用いない従来法IIの2通りがある。両者とも1時間以上の染色時間を要す点は共通の問題でもある。我々は,時間短縮を目的として,媒染剤を用いない従来法IIに対してマイクロウェーブ(microwave; MW)による染色効果を検討したので報告する。方法:電子レンジ(出力700 W)を用いて,各染色液におけるMWの照射時間と染色時間の検討を行い,従来法IおよびIIとの染色結果を比較した。結果:アゾカルミンGはMW 10秒照射後5分静置(30秒毎に振盪),リンタングステン酸はMW 10秒照射のみ,アニリン青・オレンジGはMW 10秒照射後,肝臓は7分,腎臓は3分静置で,従来法IおよびIIと同等で良好な染色結果を得ることができた。考察:通常1時間以上かかるazan染色を約10分に短縮することができた。これは,現在報告されているazan染色法の中では最短時間である。MWを用いることで,組織への分子移動の亢進と分子移動による摩擦熱の発生による加温効果が得られたためと考えられる。また,この時間短縮法は従来法と同等に病理診断に有用な染色結果を得ることができるため,臨床の現場において推奨できる方法と考える。

  • 米澤 和, 森 恵莉, 鄭 雅誠, 関根 瑠美, 永井 萌南美, 弦本 結香, 小島 博己, 鴻 信義
    原稿種別: 原著
    2020 年69 巻3 号 p. 317-322
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    近年,喫煙と嗅覚障害の関連について様々な研究がされており,喫煙が嗅覚を悪化させる原因の一つであるとの報告も多くされている。今回,当院で2009年4月から2016年3月までにT&Tオルファクトメーター(T&T olfactometer; T&T)を用いて基準嗅力検査を行い,1年以上経過が追え,かつ2回以上嗅力検査が施行できた208名の患者を対象に,嗅覚障害の程度と嗅覚の改善度について,喫煙患者と非喫煙患者に分類して比較検討を行ったので報告する。208名のうち,喫煙者と非喫煙者の内訳は,喫煙者が51名,非喫煙者が157名であった。疾患の内訳は,感冒後が32.7%,慢性副鼻腔炎が28.4%,特発性が19.2%,外傷性が11.1%であった。喫煙頻度は,全疾患で24.5%であり,感冒後が17.6%,慢性副鼻腔炎が28.8%,外傷性が30.4%であった。重症度は,喫煙者で高度・脱失群が84.3%であり,有意に低下していた(p < 0.05)。また,感冒後における改善度は,喫煙者で不変・悪化群が66.7%(12名中8名)であり,有意に改善しない患者が多かった(p < 0.05)。嗅覚障害は喫煙により,重症化する可能性が示唆された。さらに,喫煙者において感冒後嗅覚障害の改善が乏しい結果となった。喫煙は嗅覚障害のみならず,人体に様々な影響を与えるため,禁煙指導は積極的に行うことが望ましい。

技術論文
  • 秦 真公人, 三好 雅士, 西岡 麻衣, 上田 舞, 中尾 隆之, 長井 幸二郎, 高山 哲治
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 323-328
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    梅毒の血清学的診断法として用いられるSerological Test for Syphilis(STS法)は,自動分析装置による簡便な測定が可能であるが,高濃度域の直線性や,プロゾーンによる高濃度試料の低値化が問題となる。我々は,これらを改良した,ラテックス凝集免疫比濁法を測定原理とする新規試薬であるアキュラスオートRPRの性能評価を行ったので報告する。併行精度は良好であった。希釈直線性は,アキュラスオートRPR:22.4 R.U.,メディエースRPR:8.1 R.U.まで確認できた。プロゾーンを評価した結果,アキュラスオートRPR:約102 R.U.,メディエースRPR:25.5 R.U.より,測定値の低下傾向がみられた。共存物質の影響では,乳び:3,000 F.T.U.の添加により,アキュラスオートRPRで+1.3 R.U.,メディエースRPRで+1.0 R.U.の正誤差を認めた。検出限界は,アキュラスオートRPR:0.30 R.U.,メディエースRPR:0.57 R.U.であった。100例の血清を用いた相関では,判定一致率が93%(陽性24件,陰性69件)であり,反応性の差異に起因すると考えられる乖離を認めた。アキュラスオートRPRは測定範囲が向上し,プロゾーンの影響も軽徴なことから,高濃度検体における再検率の減少が期待でき,有用な試薬であると考えられた。

  • 佐野 麻衣, 川上 剛明, 長南 正佳, 中村 文子, 堀井 隆, 三澤 成毅, 大坂 顯通, 三井田 孝
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 329-334
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    我々は,自動抗酸菌染色装置であるエアロスプレー7721による抗酸菌染色の性能を評価した。抗酸菌陽性17検体を用い,エアロスプレー7721による原法,脱色液の組成を変更した変法2法と塗抹標本を染色直前に加温した変法による染色標本をZiehl-Neelsen法を対照に比較した。さらに,経験を有する技師と経験が浅い技師の2群間で鏡検結果を比較した。17検体中8検体(47.1%)は,原法と対照法による染色標本の鏡検結果は完全に一致したが,9検体の結果は対照法に比べて原法の方が少なかった。検体中の菌量が少ない5検体は,原法によって陰性と判定された。脱色液の改変は以下の2法を検討した。硝酸の濃度を2%から1%へ変更した変法1とエタノールの代わりにイソプロピルアルコールを使用した変法2を評価した。2法による染色標本の結果は,原法による結果とほぼ同じであった。染色直前に塗抹標本を加温処理する変法3は,対照法と同等に抗酸菌が染色された。2群の鏡検者による鏡検結果の比較は,経験3年以上と経験6ヶ月未満の技師各4名によって実施した。経験が浅い技師による鏡検結果は,変法3によって改善し,対照法とほぼ同じ結果が得られた。エアロスプレー7721は染色直前に塗抹標本を加温することにより,Ziehl-Neelsen法と同程度に抗酸菌を染色することができ,日常検査に有用と考えられた。

  • 立石 亘, 小松 淳子, 寺田 瞳, 篠田 牧人, 坪井 五三美
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 335-339
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    我々は,酵素免疫測定法を測定原理とした血漿中のメタネフリンとノルメタネフリン測定試薬2-MET Plasma・ELISAキット「SML」の基礎的検討を行った。再現性(同時再現性および日差再現性)は変動係数15%以内,検出限界はメタネフリン20.0 pg/mL,ノルメタネフリン35.0 pg/mL,共存物質の影響もなく,希釈直線性も良好な結果であった。2-MET Plasma・ELISAキット「SML」は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有していた。

  • 石原 有理, 下坂 浩則, 蔵野 信, 佐藤 智明, 矢冨 裕, 保田 奈緒美
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 340-345
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    可溶性インターロイキン-2レセプター(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)は生体の免疫防御機構の活性化に伴い上昇するため,成人T細胞白血病や非ホジキンリンパ腫など様々な疾患の病勢を反映する指標となることが知られている。免疫発光測定装置ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)を用いて,新たに開発された化学発光酵素免疫測定法を原理とする可溶性インターロイキン-2レセプター測定試薬「ルミパルスプレストIL-2R」(富士レビオ株式会社)の基礎的性能評価を行った.再現性,感度,希釈直線性は良好であり,既存試薬との相関性も良好であった。本法は測定範囲が30–150,000 IU/mLと広く,短時間測定法(反応時間約14分)での測定も可能なことから,特に高値症例においてより迅速な結果報告が可能であると考えられた。

  • 近藤 崇, 盛合 亮介, 小林 亮, 山田 浩司, 遠藤 明美, 淺沼 康一, 柳原 希美, 髙橋 聡
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 346-352
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    今回我々は,非特異反応の軽減を図ったナノピアIL-2R改良試薬における,基本性能を評価した。その結果,再現性は良好であった。希釈直線性は4,000 U/mL付近まで良好な直線性を得たが,これ以上の高値域はS状カーブを認めた。プロゾーン現象は約110,000 U/mLまで認めず,検出限界は30.4 U/mLと臨床上十分な感度を有していた。共存物質の影響は,300 mg/dL以上の溶血ヘモグロビン存在下で若干の測定値の低下を認めた。改良試薬と改良前試薬は全体として良好な相関性を得たが,乖離例を9例認めた。9例のうち非特異反応を認めた検体は,改良前試薬で8例(3.4%)あったが,改良試薬では2例(0.9%)と減少していた。以上の結果より,ナノピアIL-2R改良試薬の基本性能は良好で,改良前試薬に比べ非特異反応は抑制されていた。ただし,1%程度に非特異反応を認めるため,注意を要する。

  • 鈴木 敦夫, 菊地 良介, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 353-359
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    検体検査における自動搬送装置ならびに前処理装置は業務の効率化および省力化に極めて有用であるが,凝固検査の前処理プロセスに用いられることは稀である。今回,我々はフロントエンド分注装置IDS-CLAS3600(以下CLAS3600)を用いた自動搬送凝固検査システムの構築を行うため,その性能評価と処理条件の設定を行った。まず,残存血小板数を指標として遠心条件の検討を行った。その結果,2,600 gにて5分の遠心が最も短時間で血小板の混入が少ない条件であった。次に,CLAS3600による血餅検知・開栓・分注・搬出の処理のうち,血餅検知および分注プロセスについて評価を行った。血餅検知については実測値とほとんど差がなく計測されていた。また,分注における吸引降下点および吸引速度を検討したところ,吸引降下点では血餅の上端より5 mmから8 mmの間で分注後の血漿中残存血小板数に明らかな差はなく,また,吸引速度による変動も認められなかった。これらの検討結果より,吸引降下点を6 mm,吸引速度を血清比90%に設定した。設定した条件にて高血小板検体ならびに高ヘマトクリット検体の処理を行ったところ,血小板の混入は10 × 103/μL未満であった。本条件にて,CLAS3600を用いた搬送システムを構築し,約5年間の自動搬送凝固検査システムを運用した。これにより業務の効率化に大きく寄与できたと考える。

  • 清重 篤志, 渡邉 勇気, 佐藤 伊都子, 中町 祐司, 今西 孝充, 三枝 淳
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 360-365
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    【目的】リパーゼは急性膵炎診断における感度,特異度が非常に高く,臓器特異性に優れており,急性膵炎診断ガイドライン2015にて測定が推奨されている。近年,膵リパーゼに対して特異的に反応する合成基質1,2-o-dilauryl-rac-glycero-3-glutaric acid-(6-methyl-resorufin)-ester(DGGMR)を用いたリパーゼ測定試薬が開発された。「シグナスオートLIP」は,試薬ロット間差が少なく,分析装置内での試薬安定性が優れ,日常検査の省力化に有用だが,トリグリセライド(TG)の影響を受け負誤差になると報告された。我々は,TGがリパーゼ測定値に与える影響の程度及びその要因を明らかにすることを目的とし検討を行った。【方法】TGの影響を受けないリキテックリパーゼカラーIIと本法及びTG値の関係を検討した。次に脱脂処理前後のリパーゼ活性を測定し,その変化量とTG及び各脂質分画の関係を検討した。【結果】本法による脱脂処理前後のリパーゼ活性変化率とTG値は有意な負の相関を認め(r = −0.867, p ≤ 0.001),TG 400 mg/dL未満では負誤差15%以内であったが,TG 400 mg/dL以上では平均19%であった。VLDL-TG値と最も強い相関(r = −0.892, p ≤ 0.001)があり,カイロミクロン値も有意な相関を認めた。また,ルーチン検査においてリパーゼ測定依頼検体に高TG血症は少なかった。【考察】リポ蛋白の粒子径に起因した競争阻害が負誤差の要因として考えられた。また,臨床に影響を及ぼす検体は少ないと示唆されるが高TG血症,特に高VLDL,高カイロミクロン血症では,リパーゼ活性値に負誤差を与える影響が大きく,結果報告には注意が必要である。

  • 三宅 雅之, 糸島 浩一, 岡田 健, 大塚 文男
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 366-373
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    ECLIA法を原理としたエクルーシス試薬ビタミンDトータルIIの基礎的検討を行った。併行精度はCV:2.4~5.4%,室内精度はCV:4.1~10.6%と良好であった。定量限界(LoQ)はCVが20%となる濃度が2.69 ng/mLであり,また希釈直線性も良好であった。共存物質の影響については,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,溶血ヘモグロビン,乳び,およびリウマトイド因子のいずれにおいても最終濃度まで影響は認められなかった。他法との相関性については,リエゾンとは回帰式y = 0.87x + 2.14,相関係数r = 0.94,ルミパルスとは回帰式y = 0.85x + 4.46,相関係数r = 0.97となり良好な相関性が認められたが,エクルーシス試薬とリエゾンの相関で回帰直線の95%信頼区間を外れる乖離検体が1件認められた。乖離検体の25(OH)D濃度は高く,測定値の乖離はビタミンD結合蛋白(DBP)からビタミンDを解離する前処理試薬の性能の違いにより生じたものであると考えられた。乖離例において,DBP濃度が約1,000 μg/mLと高値を示しており,25(OH)D測定においてLC-MS/MSと最も近い値を示したのはエクルーシス試薬であった。エクルーシス試薬ビタミンDトータルIIは十分な性能を持っており,LC-MS/MSとも近い値を示す良好な試薬であると考えられた。

  • 水野 元貴, 星 雅人, 長嶌 和子, 櫻井 昌代, 山口 高明, 仲本 賢太郎, 西井 智香子, 藤田 孝
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻3 号 p. 374-380
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    尿沈渣中にみられる赤血球形態は,出血源の推定や病態把握に有用な情報であり,多くの施設でJCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4(以下GP1-P4)に準じた分類が実施されている。近年,全自動尿中有形成分分析装置UF-5000(Sysmex)が複数の施設で利用されており,フローサイトメトリー法により赤血球の大きさやばらつき度合いを解析することで赤血球形態情報(RBC-Info.)を提供することが可能である。しかしながら,UF-5000のRBC-Info.と目視法による赤血球形態の関係性については明らかではない。本研究では,GP1-P4記載の各種赤血球形態(コブ型,ドーナツ型,有棘型,標的型)とRBC-Info.の関係について比較検討を行い,RBC-Info.は,GP1-P4に記載される糸球体型と非糸球体型の形態を良好に弁別し,目視法同様に臨床応用が可能であることが示唆された。

資料
  • 岡本 明紘, 菊地 良介, 鈴木 敦夫, 齊藤 翠, 佐野 俊一, 岡田 元, 中根 生弥
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 381-388
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    愛知県臨床検査技師会(愛臨技)では,県下施設の臨床検査の品質調査と施設間差の是正を主な目的として愛知県臨床検査精度管理調査(愛臨技サーベイ)を実施してきた。この度,医療法の一部改正に伴い外部精度管理調査(external quality assessment; EQA)の重要性がより一層高まったことを受け,免疫血清検査部門では2016–2018年度の活動についてレビューし,今後の展望について分析を行った。愛臨技サーベイにおける免疫血清検査部門の特色として,ヒトプール血清を試料として配布している点と,独自にprotein induced by vitamin K absence or antagonist II(PIVKA-II)を調査項目としている点がある。しかし今後の課題として,ヒトプール血清の使用については,倫理上の制約や予期せぬ問題も生じることがあり再考が必要となる可能性がある。PIVKA-IIの調査結果から他の項目と同様,試薬間差が大きな障壁となっていることが明らかとなった。また,試薬ごとの評価を行う際,少数のグループは適正な評価が困難であることも大きな問題であり,参加施設を平等に評価する手法の構築が必要である。愛臨技サーベイでは,結果の思わしくなかった施設に対する二次サーベイや,結果検討会と呼ばれるサポート事業を展開しているが,その成果については施設ごとに大きく異なる。今後,精度管理調査に参加する施設は増加する可能性があり,地域サーベイの存在意義を再考しながら,参加施設にとって有益となる調査や情報を確実に提供し,愛知県内の施設間差の是正ならびに臨床検査レベルの向上に貢献できるよう取り組んでいく。

  • 又賀 史織, 河野 浩善, 井上 礼子, 中川 浩美, 中島 静, 塔村 亜貴, 西村 龍太, 坂本 美智子
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 389-396
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    2016年に日本検査血液学会標準化委員会凝固検査標準化ワーキンググループより,凝固検査検体取扱いに関するコンセンサスが発表され,標準化への動きが高まっている。そこで,広島県臨床検査技師会臨床血液部門では県内各施設の現状を調査すべく,アンケート調査を実施した(回収率63.2%)。採血に関連した設問では多くの施設がJCCLSの標準採血法ガイドラインGP4-A2に準拠していた。遠心については,血漿中の残存血小板数を検討している施設は34.2%にとどまり,遠心力(g)ではなく回転数(rpm)のみ把握している施設が30.5%,遠心力不足や過剰な施設が36.6%認められた。凝固検査実施前の検体保存は,外部委託検査提出のための保存が83.3%を占めており,その保存状況は全血検体のまま保存するが最も多かった。保存温度や保存時間の条件も考慮すると,検査結果に影響を及ぼす可能性のある施設が散見された。また,冷所保存ではcold activationの発生が危惧されており,採血後速やかな血漿分離が望まれる。しかし,速やかな血漿分離が困難な施設もあり,外部委託検査用のコンセンサスの発表が待たれる。標準化の必要性については,必要・やや必要と併せて88.4%であったにも関わらず,コンセンサスの認知度は18.3%と低かった。今後も研修会を企画するなど,コンセンサスの普及に努めていきたい。

  • 村瀬 悠理, 菊地 良介, 鈴木 敦夫, 度會 理佳, 濱崎 美奈, 松岡 弘樹, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 397-402
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM)が必要な薬は,投薬中断により症状の急速な増悪が予想される。そのため,てんかん,精神疾患や心不全患者に対しての災害対策は,安全地域への避難だけではなく,それまでの医療や検査を継続できる備えが重要となる。今回我々は,当院検査部で測定している抗てんかん薬,向精神薬及び強心薬のうち,TDM検査6項目について,無給水で分析が可能なVITROS XT7600(以下,VITROS)とDimension EXL200(以下,Dimension)を用いて相関性及び凍結融解前後の安定性について評価した。Dimensionにおいて,フェノバルビタール,フェニトイン,ジゴキシン,カルバマゼピン,バルプロ酸ナトリウム及びリチウムの測定後残検体をVITROSにて測定し,機器間の相関性を検証した。また,凍結融解による測定値への影響を評価した。今回検証を行った6項目において,VITROSとDimensionの機器間の相関性は良好であったが,フェニトイン,ジゴキシン及びカルバマゼピンは,VITROSにおいて低値傾向となることが認められた。凍結融解前後の測定値に大きな乖離は認められなかった。一方,処理能力はVITROSの方が優れており,VITROSを用いたTDM測定はてんかん,精神疾患や心不全患者に対する災害時患者個別支援対策として有用と思われる。

  • 坪井 五三美, 中村 一人, 町田 邦光, 秋山 功
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 403-407
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    従来の抗核抗体/間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence assay for antinuclear antibody; FANA)の複雑な工程と目視判断の課題を解決すべく,2016年我々はコンピューター支援型顕微鏡システムEUROPattern Cosmic間接蛍光抗体法分析装置(以下,EPA)を導入した。しかし,EPAの予測抗体価と染色型の判定一致率は目視判定と乖離があったためすべて判定結果を自動化できなかった。EPAによる撮影画像に対する予測抗体価と画像の目視抗体価の一致率に関して,2016年時の導入時のκ係数=0.762で2019年時におけるκ係数=0.891であった。κ係数の差の検定でp < 0.01で有意に向上した。2016年時スペックルド型,ヌクレオア型とセントロメア型の判定一致率に関してκ係数の差の検定はそれぞれp < 0.05,p < 0.01,p < 0.001と有意に向上した。ホモジニアス型とスペックルド型の予測判定が弱陽性から陰性に改善されることが課題である。今後,更なるバージョンアップによる判定システムの精度を向上させた自動予測判定システムの開発に期待したい。

  • 吉田 美帆, 倉岡 和矢, 菅 亜里紗, 藤澤 宏樹, 安村 奈緒子, 佐伯 由美, 宮野 秀昭, 谷山 清己
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 408-415
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    【目的】代替キシレンであるクリアライトTM3とアルコールとの等量混合液を用い,自動包埋装置内で脱脂処理が可能か検討した。【対象】2017年2月~6月までの乳癌全摘手術検体9例(154ブロック)を対象とした。腫瘍を含む最大割面より通常の病理標本(A法)と隣接する検討用標本(B法)を作製した。【方法】1)脱脂処理の検討(A法)スターラーを用いアセトン内で3時間攪拌した。(B法)自動包埋装置エクセルシアASの第1槽目をクリアライトTM3/アルコール等量混合液とし,3時間処理を行った。2)脱脂処理後溶液中の中性脂肪の量を生化学自動分析装置TBAc16000にて測定した。3)自動薄切装置を用いて薄切状態を調べた。4)ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin Eosin; HE)染色,ER/PgR/HER2の免疫組織化学染色(immunohistochemistry; IHC)とHER2 FISH染色を行い,染色性を比較した。【結果】1)中性脂肪の溶出量はB法に比してA法の方が多く,有意差(p = 0.0156)を認めた。2)組織収縮の程度は,B法に比してA法の方が強かった。3)全ブロック薄切可能であり,HE染色への影響は認めなかった。4)ER,PgR判定は9/9例(100%)で一致していた。5)HER2 IHCはHER2 FISH判定との不一致がA法で2/9例(22.2%)生じた。6)HER2 FISHの染色性は良好で評価可能であった。【結語】充分量のアセトン,および自動包埋装置内でのクリアライトTM3/アルコール混合脱脂液を用いれば両者とも3時間で十分な脱脂効果が得られるが,アセトンは膜蛋白評価が不一致となる傾向がみられた。

  • 福嶋 陽子, 小貫 明美, 大矢 幸子, 上野 洋樹, 菊池 宏明
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 416-423
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    スギ花粉症は典型的なI型アレルギー疾患である。例年,花粉飛散期における飛散状況は,発症対策や症状軽減に寄与するため,様々なメディアで報告,活用されている。一方,原因アレルゲンの検索において特異的IgE抗体測定の意義は高く,重要な補助診断として位置づけられている。今回我々は,当研究所2地点における花粉飛散数の計測を行い,スギ花粉最盛期である2月から4月に受託した特異的IgE抗体検査依頼検体について,各種花粉特異的IgE抗体とアレルギーの原因として重要な通年性抗原であるヤケヒョウヒダニ特異的IgE抗体の陽性率を調査した。雑草花粉の陽性検体において,スギ・ヒノキの陽性率が高くなる傾向が見られた。ヤケヒョウヒダニ陽性検体における花粉陽性率は,花粉間の陽性率より低い傾向が見られたが,ヤケヒョウヒダニ陰性検体の花粉陽性率より有意に高く出ていることから,ヤケヒョウニダニが花粉感作成立に関与している可能性が推察された。特異的IgE抗体検査の結果と共に花粉飛散情報を活用することは,罹患者のQOL向上に役立ち,臨床支援に繋がると考える。

  • 上地 幸平, 西山 直哉, 大城 健哉, 八幡 照幸, 上地 あゆみ, 藤田 次郎, 前田 士郎
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 424-431
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/25
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    沖縄県内の医療機関で分離されたStreptococcus agalactiae(GBS)の各種抗菌薬に対する薬剤感受性率およびペニシリン低感受性GBS(Group B Streptococci with reduced penicillin susceptibility: PRGBS)等,耐性株の分離率について調査を行った。対象は2014年から2016年までの3年間に各種臨床材料由来のGBS 10,870株とした。GBSのPCGの感受性率は2014年78.9%,2015年78.1%,2016年81.0%とJANIS(2014–2016年:93.1–94.3%)と比較して低く,沖縄県ではPRGBSの分離率が全国に比べて有意に高かった(p < 0.01)。特に,PRGBSは呼吸器系検体(2016年:56.3%)および60歳以上の高齢者から多く分離されていた(p < 0.01)。また,PRGBSの分離率には施設間差が認められた。PRGBSはセファロスポリン系抗菌薬やエリスロマイシン,レボフロキサシンなど複数の抗菌薬に耐性を示しており,2016年ではPRGBSの94.4%が多剤耐性を示した。沖縄県内の医療機関で分離されるGBSはペニシリンに対して低感受性を示し,PRGBSは多剤耐性傾向を示すことが本調査によって示された。今後は血清学的,遺伝子学的手法を用いたより詳細な解析が必要であると考える。

  • 藤田 智洋, 大隈 潤子, 山田 真美子, 深川 隆恭, 大杉 志絵, 佐々木 梓紗, 吉本 志保美, 桒原 恭子
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 432-437
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    病理標本が作製される工程は,多くのステップを有しており,そのほとんどが手作業で行われているため,インシデント・アクシデント対策は容易ではない。病理検体の取り違えは,患者取り違えや誤った医療行為に直接結びつき,患者側にも医療者側にも多大な影響を及ぼす。今回,2019年5月の新病院移転時を好機と捉え,手術検体処理,検体受付,切り出し,包埋,薄切,染色・確認の各工程においてミスが極力起こらないようハード面,システム面双方で見直しを行った。手作業が多い病理組織検体処理では,間違い防止策として各工程でのダブルチェックは重要であり,手術室と病理検査室とが隣接することにより検体提出時において臨床と当科でのダブルチェックも可能になった。また,バーコード管理の導入とともに,各作業工程において切り出し検体の画像を簡単に確認できるようシステム面で改善した。これにより,医療事故に繫がる検体取り違い防止,精度の高い標本作製,作業環境の改善,作業時間の短縮に効果があった。

  • 東 学, 石田 克成, 松原 真奈美, 林 裕司, 坂根 潤一, 鈴木 俊紀, 古屋 周一郎
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻3 号 p. 438-444
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
    ジャーナル フリー HTML

    病理組織診断は,医療において最終診断となる重要な役割を果たし,この診断根拠となる病理組織標本の質を担保することは,病理組織検査に従事する検査技師の責務である。しかしながら,病理組織検査においては,染色方法や技量により個人間差や施設間差を生じやすく,特に標本の染色色調については病理専門医の色好みが加わるため,標準化が難しい分野でもある。一般社団法人日本臨床衛生検査技師会病理精度管理ワーキンググループでは,診断に適正な標本が作製されていることの確認と,標本作製過程に対する考え方の統一化及び良質な診断標本作製のための情報共有化を目的として,1972年より外部精度管理事業を開始した。その間,13回の二次サーベイランスを含む25回の染色サーベイランスと,16回のフォトサーベイランスに附随して26回の病理検査業務に関するアンケート調査を行ってきた。2011年度より染色サーベイが廃止され,現在ではフォトサーベイのみの外部精度管理となったが,多くの施設状況を確認し,最低限の知識の浸透を図るため,設問提示方法に様々な工夫を加えてきた。2017年の医療法改正に伴い,外部精度管理を受審する施設の多様化が予想され,今後更なる改善を重ね質の高い病理診断に寄与していきたい。

症例報告
  • 中尾 真実, 山田 麻里江, 山田 尚友, 川崎 誠司, 中村 秀明, 久保田 寧, 木村 晋也, 末岡 榮三朗
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻3 号 p. 445-450
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    低頻度抗原に対する抗体である抗Cobは,溶血性輸血反応の原因となることが知られている。今回我々は本邦において症例数の少ない抗Cobの検出を経験したので報告する。症例は75歳男性,右大腿動脈内膜摘除術目的に当院へ入院となった。術前検査として血液型検査,不規則抗体検査の依頼があり,血液型はA型RhD陽性,不規則抗体検査で陽性となったため同定検査を実施した。検査で陽性を示した赤血球試薬はいずれもCo(b+)であることから不規則抗体抗Cobの存在が疑われたが,当院では確定できなかったため,日本赤十字社九州ブロック血液センターへ精査を依頼した。後日,不規則抗体は抗Cobとの報告を受けている。手術に伴い赤血球液4単位の依頼があったが,抗Cob試薬を常備しておらず,赤血球製剤の抗原検索が困難であり,交差適合試験で陰性となった4単位を準備した。手術中には赤血球液2単位を輸血されたが,明らかな輸血副反応は認めていない。本症例は,不規則抗体スクリーニング,同定検査において抗原表のパターンと合致しない場合には低頻度抗原に対する抗体の存在も念頭に置く必要があることを再確認する症例であった。

  • 後藤 裕一, 村上 夏枝, 山﨑 由佳
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻3 号 p. 451-456
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacteria; NTM)症患者に続発したExophiala dermatitidis粘稠性株の肺黒色真菌症を経験したので報告する。NTM症治療終了の2年後,膿性痰や胸部痛を自覚し,来院した。持参痰をグラム(Gram)染色すると糸状菌を認めた。カラーCandida寒天培地で72時間培養後,コロニーを釣菌した際,粘稠性が確認された。粘稠性を保持した状態で無染色鏡検すると酵母様真菌が確認され,二形性真菌のExophiala属が疑われた。MALDIバイオタイパー及びITS領域塩基配列解析を実施した結果,E. dermatitidisと同定された。喀痰から同菌のみが繰り返し検出され,自覚症状の悪化と一致し右肺中葉浸潤影の増悪が認められ,肺黒色真菌症の診断に至った。カラーCandida寒天培地,サブロー寒天培地,CP加ポテトデキストロース寒天培地で粘稠性を比較するとCP加ポテトデキストロース寒天培地のみ48時間培養の時点で粘稠性が出現し,その他は72時間培養後に確認された。E. dermatitidisを疑いコロニーを観察すると黒色に変化するまで時間を要す。CP加ポテトデキストロース寒天培地を追加して粘稠性株であれば,他の真菌培地より一日早くE. dermatitidisを疑うことが可能であり,コロニー釣菌時の感触を確認する習慣が重要となる。

  • 青木 由香里, 矢島 千晶, 高木 清可, 中野 桜子, 大川 恭平, 金井 尚美, 梶田 幸夫
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻3 号 p. 457-462
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    症例は70歳代,女性。整形外科の手術後,リハビリテーション目的に入院継続中に突如心窩部痛が出現,当院内科に紹介となった。血液検査では,ALP,C反応性蛋白,CA19-9の上昇から胆道疾患が疑われた。腹部超音波検査では,胆嚢内に不均質な高エコー領域を認め,カラードプラでは血流シグナルを認めなかった。また胆嚢体部から肝左葉側に突出した低エコー領域を認め,内部に不均質な高エコー領域が腫瘤様に認められた。発症3日後に施行したCT検査で,胆嚢は著明に腫大し,胆嚢壁は肥厚,一部胆嚢壁の途絶が確認された。また肝内には液体貯留と思われるlow density areaを認め,胆嚢周囲膿瘍と考えられた。以上から急性胆嚢炎および肝内穿破を伴う胆嚢穿孔が疑われたが,年齢を考慮し保存的治療が選択された。発症14日後の腹部超音波検査では胆嚢内の不均質な高エコー領域は消失していたが,胆嚢壁の途絶が確認された。腫瘍性病変による胆嚢出血,穿孔の可能性も考えられたが,その後の検査で炎症反応や肝機能悪化を認めず,CA19-9も低下,画像検査でも改善傾向でありリハビリテーション目的に転院し,経過観察となった。急性胆嚢炎において,血腫を認める出血性胆嚢炎や胆嚢穿孔は重症化の徴候であり,その診断は重要である。超音波検査は胆嚢炎が疑われる場合に最初に選択される画像検査であり,重症化を示唆する所見を見逃さぬように注意深い観察が必要であると考えられた。

  • 大宮 卓, 佐藤 光, 西村 秀一
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻3 号 p. 463-467
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    鼻腔拭い液等の臨床検体からのイムノクロマトグラフィーを原理としたインフルエンザウイルス抗原の迅速検出キット(以下,迅速キット)は,多くの医療施設で使用されている。こうした迅速キットを用いた試験では結果として偽陰性が起こることは,よく知られている。一方で偽陽性反応も,まれではあるが起こる。今回我々は,迅速キットでA,B両型の陽性を示したものの,ウイルス分離及び遺伝子検査でインフルエンザウイルスが陰性で,その後,用いた臨床検体からRSウイルスが分離された事例を経験した。我々はこれを迅速キットの偽陽性反応と考えた。この偽陽性の原因について我々は,検体中に含まれる患者由来の抗体以外の何らかの成分が迅速キットで用いられているマウス由来の抗体に対し反応し,あたかもウイルス抗原が反応したかのような陽性ラインが出現したという仮説をたてた。そして,その証明を目的として,競合試験として当該患者検体に精製マウスIgGを反応させたのち迅速キットにかけたところ,陽性反応ラインは出現しなくなった。これにより,本例が患者由来の何らかの成分とマウス抗体との反応による偽陽性であったことが,強く示唆された。

  • 田中 真輝人, 梅森 祥央, 髙橋 祐輔, 前田 瑛真, 遠藤 輝夫, 淺沼 康一, 髙橋 聡
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻3 号 p. 468-473
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    クレアチンキナーゼMB分画(creatinine kinase MB; CK-MB)蛋白量が偽高値を呈した1例を,経験した。総クレアチンキナーゼ(creatine kinase; CK)活性が14 U/Lと低値にもかかわらず,CK-MB蛋白量が177.2 ng/mLと高値であった。しかし,同様の心筋傷害マーカーであるトロポニンTはカットオフ値未満であった。本症例のCKアイソザイムおよびCK-MB蛋白量測定における反応タイムコースに,異常はみられなかった。CK-MB蛋白量測定において希釈直線性がなく,IgMが高値であること,加温試験後でもCK-MB蛋白量に変化がなかったことから,IgMによる非特異反応を疑った。そこで,Dithiothreitol処理およびHuman anti-mouse antibody(HAMA)吸収試験を行ったところ,本症例血清の測定値は著明に低下した。以上の結果より,本症例におけるCK-MB蛋白量の異常高値は,IgM型HAMAが原因の非特異反応であることが明らかとなった。

  • 中村 岳史, 小林 清子, 横山 和弘, 草間 文子, 堀川 良則, 星山 良樹, 茂呂 寛, 成田 一衛
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻3 号 p. 474-480
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    症例は70歳代の男性で,間質性肺炎に対しプレドニゾロンおよびシクロスポリンによる治療を継続中であった。定期受診時に喀痰の増加や全身倦怠感を訴え,当初は細菌性肺炎が疑われたため,外来で抗菌治療の方針となっていた。一方,院内検査で患者の帰宅前に(1→3)-β-D-グルカン(β-D-グルカン)値の上昇が判明したため,緊急を要する事態として検査技師から主治医に直接電話連絡し,深在性真菌症の疑いで同日緊急入院となった。入院後は抗真菌薬による点滴治療が開始となり,喀痰培養からAspergillus nidulansが検出され,免疫能低下の臨床背景および各種検査結果から侵襲性肺アスペルギルス症(invasive pulmonary aspergillosis; IPA)と診断された。その後は抗真菌薬の使用により徐々に全身状態の改善を認め,第71病日に退院となった。IPAの経過は急性で,予後不良の転帰となる場合が多いことから迅速な診断と治療が求められるが,本症例では原疾患による肺の荒廃を背景に典型的な画像所見が認められず,β-D-グルカン値上昇が診断の契機として重要であった。さらに,当院ではβ-D-グルカンを院内検査に切り替えていたため,迅速な結果確認により主治医の早期診断に寄与することが可能であった。

  • 永松 美紗, 鈴木 敦夫, 大熊 相子, 中田 智彦, 白木 杏奈, 鈴木 利明, 夏目 淳, 松下 正
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻3 号 p. 481-487
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
    ジャーナル フリー HTML

    症例は11か月男児で特記すべき既往歴および家族歴はない。入浴後に口唇色不良および眼球上転を認め,3日後に同症状が群発したため当院を受診した。同日の脳波検査で覚醒時に右側頭部起始の焦点発作を認めたためカルバマゼピンの内服を開始した。しかし,2か月後に3晩続けて入浴後に発作があり,その後群発したため,Dravet症候群の可能性を考慮しカルバマゼピンからフェノバルビタールの内服へ切り替え,シャワー浴とした。その後,改善なく発作を認めたため,発作捕捉を目的とした脳波検査を実施した。脳波室にて電極装着を行い,沐浴槽を設置して湯浴みを行ったところ,沐浴槽から出て体を拭く間に動作停止し目はうつろ,顔色不良となり,続いて四肢の強直発作が観察された。しばらくして皮膚色および意識は緩徐に回復した。発作時脳波は右中後側頭部の律動波から右側頭部徐波,全般性徐波,強直相のアーティファクト,右前側頭部の鋭徐波複合と推移し,その後に全般性の減衰を示した。本発作は,「意識障害を伴う自律神経症状と強直性姿勢を示す右側頭部起始の焦点発作」と診断された。本症例では,水濡れによる患者の感電および検査機器類故障のリスクがある中,発作を誘発する“入浴とそれに続く一連の動作”を再現することにより発作時脳波の記録に成功し,診断ならび治療方針の決定に寄与することができた。特に小児における発作誘因環境を再現・整備することの重要性を認識できた症例であった。

取り組み報告
  • 菊地 良介, 原 祐樹, 安江 智美, 石井 脩平, 濤川 唯, 竹浦 久司
    原稿種別: 取り組み報告
    2020 年69 巻3 号 p. 488-495
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/09/05
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    技術革新に伴う医療技術の進歩は,グローバル化がますます加速している。街中や病院内において,外国人とのコミュニケーションが必要となる機会は日常的に増えている。その結果,臨床検査技師を取り巻く環境は大きく変化してきている。臨床検査技師の国際化を進める上で大切なことは,語学力と併せて,国際感覚を醸成することが重要である。すなわち,臨床検査技師としての専門的な知識及び技術を有することを前提とした上で,宗教・文化・習慣・教育・感性が国によって異なる中で共存できる能力を有する人材の育成が必要となってきている。このような背景の中で,国際化に対応するためには何が必要かを考えられる若手技師の育成を目的とし,若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(若手WG)が2018年に発足した。若手WGの初めての挑戦は,2019年5月に開催された第68回日本医学検査学会での国際フォーラムを開催することであった。このフォーラムでは,日本,韓国,台湾の若手臨床検査技師が将来の臨床検査技師像について,今後医療分野に普及する人工知能に焦点を当て,精度管理,ゲノム医療,そして遠隔医療を議論テーマとした。そこで今回我々は,若手WGの立ち上げからその取り組みとしてのThe 1st International Young BLS Forumと精度管理,ゲノム医療,遠隔医療についての議論成果について報告する。

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