2020 年 69 巻 3 号 p. 457-462
症例は70歳代,女性。整形外科の手術後,リハビリテーション目的に入院継続中に突如心窩部痛が出現,当院内科に紹介となった。血液検査では,ALP,C反応性蛋白,CA19-9の上昇から胆道疾患が疑われた。腹部超音波検査では,胆嚢内に不均質な高エコー領域を認め,カラードプラでは血流シグナルを認めなかった。また胆嚢体部から肝左葉側に突出した低エコー領域を認め,内部に不均質な高エコー領域が腫瘤様に認められた。発症3日後に施行したCT検査で,胆嚢は著明に腫大し,胆嚢壁は肥厚,一部胆嚢壁の途絶が確認された。また肝内には液体貯留と思われるlow density areaを認め,胆嚢周囲膿瘍と考えられた。以上から急性胆嚢炎および肝内穿破を伴う胆嚢穿孔が疑われたが,年齢を考慮し保存的治療が選択された。発症14日後の腹部超音波検査では胆嚢内の不均質な高エコー領域は消失していたが,胆嚢壁の途絶が確認された。腫瘍性病変による胆嚢出血,穿孔の可能性も考えられたが,その後の検査で炎症反応や肝機能悪化を認めず,CA19-9も低下,画像検査でも改善傾向でありリハビリテーション目的に転院し,経過観察となった。急性胆嚢炎において,血腫を認める出血性胆嚢炎や胆嚢穿孔は重症化の徴候であり,その診断は重要である。超音波検査は胆嚢炎が疑われる場合に最初に選択される画像検査であり,重症化を示唆する所見を見逃さぬように注意深い観察が必要であると考えられた。
A woman in her seventies developed sudden cardiac pain during hospitalization for rehabilitation purposes after orthopedic surgery. Laboratory tests showed elevated alkaline phosphatase, C-reactive protein, and CA19-9 levels in serum, suggesting the presence of a biliary disease. Ultrasonography revealed a heterogeneous hyperechoic region in the gallbladder, which showed no blood flow signal with color Doppler, and a heterogeneous hyperechoic region protruding from the gallbladder to the left hepatic lobe. Three days after the symptom onset, computed tomography revealed enlargement of the gallbladder along with the thickening and partial disappearance of the gallbladder wall. In the liver, a low-density area, which was considered to indicate fluid retention, was observed with an abscess around the gallbladder. On the basis of these findings, acute cholecystitis and gallbladder perforation with intrahepatic rupture were suspected; however, conservative treatment was opted considering the patient’s age. Ultrasonography of the liver, which was performed 14 days after the symptom onset, revealed the disappearance of the heterogeneous hyperechoic region in the gallbladder, but disruption of the gallbladder wall was confirmed. The possibility of gallbladder hemorrhage and perforation due to a neoplastic lesion was also considered, but subsequent evaluations did not show inflammatory reactions and liver function deterioration. The imaging findings showed improvements; therefore, the patient was only followed up. In acute cholecystitis, hemorrhagic cholecystitis and gallbladder perforation are signs of aggravation, and their prompt diagnoses are important. Ultrasonography is the first imaging test of choice when cholecystitis is suspected, and careful observation is necessary to not overlook findings indicative of aggravation.
患者:70歳代,女性。
主訴:心窩部痛。
家族歴:特記すべき事項なし。
既往歴:胸椎脱臼骨折,脊椎損傷,強直性脊椎骨増殖症,慢性硬膜下血腫,糖尿病。
現病歴:発症2カ月前に胸椎脱臼骨折に対して胸腰骨後方固定術を施行し,リハビリテーション目的に入院を継続していたが,突然に心窩部痛が生じたため,当院内科に精査目的で紹介となった。
現症:身長141 cm,体重57 kg,体温36.5度,血圧148/76 mmHg,脈拍 毎分59回,腹部 平坦軟,腸蠕動音亢進および低下なし,心窩部から右季肋部に圧痛あり,反跳痛なし,筋性防御なし,Murphy徴候を認めず。
血液検査:白血球数(WBC)4,500/μL,Hb 10.6 g/dL,Plt 43.9万/μL,T-bil 0.9 mg/dL,AST 15 U/L,ALT 7 U/L,LD 254 U/L,ALP 440 U/L,γ-GT 43 U/L,C反応性蛋白(CRP)7.78 mg/dL,CEA 1.2 ng/dL,CA19-9 2,973 U/mLであった.軽度の貧血を認めた。肝逸脱酵素の上昇は認めなかったが,ALPは軽度の上昇を認めた。WBCの上昇は認めなかったが,CRPの軽度上昇を認めた。CA19-9の上昇を認めた。
画像検査:入院当初に胸椎骨折の評価目的に施行したCTでは肝内に明らかな結節性病変は認めなかった。胆嚢内部に胆嚢結石を認めるものの,胆嚢壁の肥厚などの胆嚢炎を示唆する所見は認めなかった(Figure 1)。
A: Obvious nodular lesions were absent in the liver. B: A gallbladder stone was identified within the gallbladder (▲: gallstone).
経過:胆嚢結石による急性胆嚢炎の発症を疑い内科紹介当日に腹部超音波検査(US)が施行された。右肋間走査では胆嚢は緊満し,内部に胆砂,胆泥様エコーを認めたが,明らかな結石は認めなかった。胆嚢内部に不均質な高エコー領域を認め,カラードプラで血流シグナルを認めなかった。胆嚢壁は6.3 mmと肥厚していた。右肋弓下走査では,胆嚢周囲に高エコー領域を認めた。胆嚢体部から肝左葉側に突出した低エコー領域を認めた。その内部には不均質な高エコー領域が腫瘤様に認められた(Figure 2)。さらに,US後3日目に施行した腹部単純CTでは胆嚢は著明に腫大し,内部には血腫と思われる高吸収域を認めた。胆嚢壁はびまん性に軽度不整に肥厚していた。胆嚢内腔と連続して肝左葉左側区に低吸収領域を認め,胆嚢周囲膿瘍と考えられた。また,造影CTでは胆嚢壁の途絶が確認された(Figure 3)。
A: Right intercostal scan. The gallbladder was distended, and biliary sludge and biliary debris patterns were observed inside; however, no obvious stone was found in the gallbladder. There was a heterogeneous hyperechoic area within the hypoechoic area in the gallbladder, suggesting hematoma. The gallbladder wall was thickened (6.3 mm). B: Right subcostal scan. A hyperechoic area that extended from the gallbladder to the left hepatic lobe was observed around the gallbladder. A heterogeneous hyperechoic area suggestive of a mass was observed.
▲: gallbladder, △: fluid retention around the gallbladder, *a heterogeneous hyperechoic area, suggesting the formation of a hematoma.
A: Cross-sectional plane CT. The gallbladder was markedly enlarged, and a high-density area was observed within the gallbladder. The gallbladder wall had diffused mild absorption and exhibited irregular thickening. An isodense area, which was continuous with the gallbladder lumen, was found in the left hepatic lobe. It was thought to represent fluid retention that seems to be a peribiliary abscess. B: Contrast-enhanced CT showing gallbladder wall disruption.
▲: gallbladder, △: fluid retention around the gallbladder, ↓: gallbladder wall disruption.
以上から急性胆嚢炎に伴う胆嚢穿孔の肝内穿破と診断され,止血剤および抗生剤が開始された。治療開始後,発熱や腹痛などの症状は出現しなかった。第14病日に施行した腹部USでは発症当初に認められた高エコー領域は消失していた。肝床側の胆嚢壁の一部途絶がみられ,肝内への突出を認めた。同部位において流動性を認めた。CT検査では血腫と思われる高吸収域は改善傾向であったものの第27病日の検査で胆嚢壁の途絶は消失しなかった(Figure 4)。血液検査で炎症反応,肝逸脱酵素の改善を認めたため,保存的な治療が継続された。胆嚢内での腫瘍性病変による穿孔,出血の可能性も考えられたが,その後検査で炎症反応の上昇や肝機能の悪化は認めず,腫瘍マーカーであるCA19-9も低下し,画像検査でも改善傾向であったため,それ以上の精査を行わない方針となり,第68病日にリハビリテーション目的に転院となった。
A: US image on the day of onset, B: US image 14 days after onset, C: US image 27 days after onset. CT images 3 (D), 9 (E), and 27 (F) days after symptom onset.
胆嚢穿孔は比較的稀な疾患であり,その原因の90~95%は胆石症に伴う急性胆嚢炎などの急性炎症に由来し,急性胆嚢炎の3~10%に胆嚢壊死・穿孔を惹起すると報告されている1),2)。本例では,入院時の胸椎骨折評価目的に撮影したCTで胆石の存在を認めており,胆石による急性胆嚢炎が胆嚢穿孔の一因になっていると考えられる。
炭山ら3)は胆嚢穿孔を起こしやすい基礎疾患として,糖尿病や全身性の血管障害,ステロイド投与や悪性腫瘍を原因とする免疫不全状態などを指摘している。穿孔部位としては胆嚢底部や体部が多いとされるが,その理由として血管の分布が解剖学的に胆嚢底部から体部にかけて疎になっており虚血から阻血性壊死を起こしやすいとされる。特に動脈硬化などによりそのリスクは増大されるとの報告もある4)。本例では,胆嚢穿孔の危険因子として動脈硬化を惹起する糖尿病があり,胆石の存在下に急性胆嚢炎を発症し,血流的に脆弱な胆嚢体部に穿孔をきたしたものと考えられる。
胆嚢穿孔の病型としてNiemeier5)により,慢性で胆嚢消化管瘻を形成するI型,亜急性に穿孔し周囲組織の癒着により胆嚢周囲膿瘍,限局性腹膜炎に留まるII型,急性に穿孔し汎発性胆汁性腹膜炎を呈するIII型に分類されている。IIおよびIII型では炎症反応の上昇や,胆嚢炎症状のみで特異的な症状に乏しく,開腹され術中に診断される症例も多い6),7)。本例は肝内に穿破したII型と考えられ,胆嚢周囲および肝内に膿瘍形成を認めた。臨床所見および検査結果は急性胆嚢炎を示唆するものの症状は軽微であった。
初回の腹部USでは胆嚢内の不均質な高エコー領域はカラードプラにて血流シグナルがなく,体位変換によりわずかに移動が認められた。また,フィブリンと思われる線状高エコーを伴っていた。その後の検査では高エコー領域は消失した。CTで血腫と推測された高吸収域は,USでの不均質な高エコー領域と同一と考えられ,経時的には改善傾向であった。不均質な高エコー領域として認められる構造物は胆砂や胆泥,胆嚢結石,胆嚢ポリープ,胆嚢癌,血腫などが考えられる。体位変換による可動性やカラードプラ所見から腫瘍は否定的であり,経時的な変化や線状高エコーを認めることから,USで認められた不均質な高エコー領域を血腫と推測した。
急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン20188)では侵襲度や被曝などの問題から超音波検査が第一に行われる検査として推奨されており,急性胆嚢炎の超音波所見として胆嚢腫大,胆嚢壁肥厚,胆嚢結石,デブリエコー,sonographic Murphy’s sign,ガス像,胆嚢周囲の液体貯留,胆嚢壁sonolucent layer(hypoechoic layer)などがある。重症度判定においては,胆嚢周囲膿瘍,肝膿瘍,胆嚢周囲低エコー域,胆嚢内腔の膜様構造,胆嚢壁の不整な肥厚,胆嚢壁の断裂像,胆嚢気腫像などの所見が特に重要である。川端ら9)はこれらの所見の経時的な出現順序について報告している。本例では,症状が出現した当日にUSが施行されたが,この時点で重症度の目安とされる所見を認めていた。特に発症72時間以降で有意に出現頻度が増加するとされる液体貯留や膿瘍形成を認めており,自覚症状を訴えるまでにそれ以上の時間が経過していた可能性がある。また,高齢者であることや糖尿病による自律神経障害の存在により自覚症状が軽度であった可能性も示唆される。
初診時のCT検査は超音波検査と比較し,診断能は劣り全例に施行する必要性はないとされている。しかし,穿孔や膿瘍などの合併症の診断には有用であり,できるだけ造影ダイナミックCTを施行することが推奨されている10)。
胆嚢穿孔の超音波所見として,穿孔例では非穿孔例と比較し壁肥厚の程度が強いが,特異的な所見はないと報告されている10)。また,Kimら11)はCTおよび超音波検査を施行した穿孔症例の検討を行い,胆嚢壁の局所的な突出が穿孔の所見とした場合,超音波検査では39%に対してCTでは69%に描出されたと報告している。一方,Soodら12)は,胆嚢穿孔例における胆嚢壁の断裂像は超音波検査でも70%,CTでは78%認めたと報告している。超音波検査にて診断された胆嚢穿孔の症例報告も散見されるが13),急性胆嚢炎の初期において胆嚢は浮腫性に腫大し,超音波検査での描出が困難となることもある。本例においても,初回検査時に胆嚢壁の断裂を確認することはできなかったが,その後の経過観察では超音波検査でも胆嚢壁の断裂像を確認することができた。胆嚢穿孔を疑い注意深く観察することで胆嚢壁の断裂を確認できた可能性もあり,より慎重な検査が必要であると考える。
また,今回は内科的な経過観察で軽快の転帰となったが,外科的な処置が必要となる症例も多数存在し,経過観察上,頻回な画像検査が必要となる。超音波検査は被曝の問題がなく繰り返し施行できる点も利点である。最後に行われたCTおよびUSでは,胆嚢壁肥厚や不均質な高エコー領域は消失したが,胆嚢壁の断裂は残存していた。胆嚢壁断裂の回復に要する時間については不明であるが,本例では自覚症状や血液検査結果の改善よりも多くの時間を必要としたと思われる。
急性胆嚢炎はcommon diseaseであるが,その重症度,合併症の存在によっては致命的な症例も多い。高齢化に伴い,胆嚢穿孔の危険因子となる動脈硬化性疾患を有する患者は増加している。また,糖尿病による神経障害により自覚症状が乏しいことも少なくないと思われる。超音波検査は急性胆嚢炎が疑われる際に,第一に行われる検査として推奨されており,注意深い観察が必要であると考えられる。
急性胆嚢炎において胆嚢穿孔や血腫を認める胆嚢炎は重症化の徴候でありその診断は極めて重要である。超音波検査は胆嚢炎が疑われる場合,最初に選択される画像検査であり,重症化を示唆する所見を見逃さないように注意深い観察が必要であると考えられた。
本論文の要旨は,第55回日本臨床検査技師会関東甲信越支部・首都圏支部医学検査学会にて発表した。
本論文は,当施設の倫理委員会で承認されたものである(承認番号1-K013)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。