医学検査
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技術論文
酵素法ヘモグロビンA1c測定試薬「(RE)ノルディアN HbA1C」の基礎的検討
中島 あつ子藤代 政浩鎌田 泰至三木 隆治宇根 陽子党 雅子春木 宏介
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2020 年 69 巻 4 号 p. 646-651

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Abstract

最近,カタラーゼ活性低下のケースで酵素法によるヘモグロビンA1c(以下,HbA1c)測定試薬「ノルディアN HbA1C」(以下,従来試薬)の偽高値が報告された。今回,偽高値発生リスクを抑制するために改良された積水メディカル社の「(RE)ノルディアN HbA1C」(以下,本試薬)の基礎的検討を行った。同時再現性は変動係数0.42~0.68%,希釈直線性はNGSP値3.16~17.64%まで直線性が認められた。正確性は98.4~101.4%,オンボード安定性は28日までは良好な結果が得られた。遊離型ビリルビンは50 mg/dLまで,抱合型ビリルビンは50 mg/dLまで,乳びは3,000ホルマジン濁度まで,アスコルビン酸は50 mg/dLまではHbA1c測定に及ぼす影響は特に認められなかった。従来試薬との相関はn = 56で相関係数0.998と高く,回帰式はy = 1.000x + 0.010であり,極端な乖離検体も認められなかった。以上の結果より,基本性能が良好であることを確認した。また,従来試薬において偽高値となった2検体については,他社酵素法試薬と差は認められず,本試薬は偽高値抑制効果を有することが示唆された。本試薬は基礎的性能が良好であり,偽高値発生リスクも抑制されており,日常検査に有用である。

Translated Abstract

Recently, there have been reports of falsely high levels of hemoglobin A1c (HbA1c) when measured using the enzymatic HbA1c assay reagent Norudia N HbA1C in patients with low catalase activity. We performed an analytical investigation of an improved reagent, (RE) Norudia N HbA1c, which has been developed to lower the rate of obtaining falsely high levels, using an EV800 Clinical Analyzer. For within-run reproducibility, the coefficient of variation was from 0.42% to 0.68%. NGSP exhibited a linear dilution from 3.16% to 17.64%. The accuracy was from 98.4% to 101.4%. On-board stability was favorable up to 28 days. HbA1c levels were not affected by free bilirubin (up to 50 mg/dL), conjugated bilirubin (up to 50 mg/dL), formazin turbidity (up to 3,000 FTU), or ascorbic acid (up to 50 mg/dL). Correlation of (RE) Norudia N HbA1c with Norudia N was high, with a correlation coefficient of 0.998 (n = 56). The regression equation was y = 1.000x + 0.010, and no extremely large deviations among samples were found. From the results presented above, the analytical performance of (RE) Norudia N was found to be favorable. The two samples that yielded falsely high HbA1c levels measured using Norudia N did not reveal any significant difference in HbA1c level between (RE) Norudia N and other enzymatic assay reagents, suggesting that (RE) Norudia N suppressed falsely high HbA1c levels. The analytical performance of (RE) Norudia N is favorable, and it lowers the rate of obtaining falsely high HbA1c levels, making it useful for routine testing.

はじめに

ヘモグロビンA1c(以下HbA1c)はβ鎖N末端バリンのアミノ酸にグルコースが結合した糖化タンパクであり,過去1~2か月の平均血糖を反映し,糖尿病患者における血糖コントロールの指標として有用である1)。測定法としては主に高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography; HPLC)法,免疫法,酵素法があり2),検査業務では,それぞれの原理や特徴などを理解し使用することが適切である3),4)

最近,カタラーゼ活性低下のケースで酵素法である「ノルディアN HbA1C」の偽高値が報告された5)。偽高値の原因として,検体中のカタラーゼ等に代表されるペルオキシターゼ様活性が低い場合,本来過酸化物が消去される反応で過酸化物が残存し,発色剤の発色が増強されるためと考えられた。今回,われわれは,過酸化物消去能を向上させ偽高値発生リスクを抑制するために改良された積水メディカル社の酵素法試薬「(RE)ノルディアN HbA1C」の基礎的検討を行ったので報告する。

I  測定原理

ヘモグロビンのβ鎖N末端糖化ジペプチドを酵素法により特異的に定量測定をする。

1. 第一反応

プロテアーゼの作用によりHbA1cのβ鎖N末端に由来する糖化ジペプチドを切出すと同時に,所定波長における吸光度よりHb濃度を求める。

2. 第二反応

糖化ジペプチドにフルクトシルペプチドオキシダーゼ(fructosyl-peptide oxidase; FPOX)を作用させ,生成した過酸化水素水がPODの存在下で発色剤[10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム]を発色させる。この吸光度を測定しHbA1c濃度を求める。

求めたHbA1c濃度とHb濃度からHbA1c(%)を算出する。

II  対象および方法

1. 対象

対象は,当院臨床検査部にHbA1c測定を目的に提出された入院および外来患者検体56例を用いた。また,これとは別にPOD様活性が極めて低いことが判明し,偽高値となった2例について,従来試薬との比較をした。本検討は当院倫理委員会の承認(承認番号:1873)を得て行った。

2. 検体

検体は,血糖検査用採血管(NaF,ヘパリンNa,EDTA-2Na入:テルモ)に採取した血液を2,500 rpm,5分遠心し使用した。

3. 試薬および機器

検討試薬は(RE)ノルディアN HbA1C(積水メディカル株式会社),対照試薬は従来のノルディアN HbA1C(積水メディカル株式会社)を用いた。機器は,臨床化学自動分析装置EV800(株式会社日立ハイテク)を使用し,メーカー指定のパラメータに従い測定を行った。

III  検討方法

1. 同時再現性

試料は,JCCRM411-3の5濃度を使用し10回連続測定し,変動係数(CV%)を算出した。

2. 希釈直線性

試料は,バイオラッド社のライフォチェック ヘモグロビンA1cリニアリティセットを用い,HbA1c濃度17.64%の試料を濃度3.16%試料で10段階希釈した。それぞれ2重測定し,理論濃度に対する正確性を算出し相関を求めた。

3. 共存物質の影響

全血をプールしてHbA1c約5.6%のベース試料を作製し,干渉チェックAプラス(シスメックス社)とアスコルビン酸ナトリウムを添加し,測定した。共存物質非含有時の測定値に対する相対値を変動率として影響の有無を検討した。

4. 正確性の評価

JCCRM411-3の5濃度試料を3重測定し,認証値との一致率を正確性として評価した。

5. オンボード安定性

3濃度の試料を用い,試薬を開封した0日目にキャリブレーションを実施後,開封状態で装置に設置した。測定は,開封後1日,3日,7日,10日,14日,21日,28日後に実施し,開始時の測定値を100%としたときの変動率を求めた。

6. 従来試薬との相関性

検体56例について,従来試薬と検討試薬との相関を検討した。

7. 偽高値抑制効果

当院で偽高値となった2検体について,従来および検討試薬と他社酵素法試薬との測定結果を比較した。

IV  結果

1. 同時再現性

JCCRM411-3の5濃度の試料を各10回連続測定した。それぞれの変動係数CV%は,レベル1:0.66%,レベル2:0.48%,レベル3:0.68%,レベル4:0.48%,レベル5:0.42%であった(Table 1)。

Table 1  同時再現性
JCCRM411-3
Level 1 Level 2 Level 3 Level 4 Level 5
N 10 10 10 10 10
Mean (%) 5.09 5.74 7.36 9.59 12.11
SD 0.034 0.028 0.050 0.046 0.051
CV (%) 0.66 0.48 0.68 0.48 0.42
Max (%) 5.13 5.79 7.44 9.67 12.16
Min (%) 5.02 5.68 8.28 9.51 12.00

2. 希釈直線性

NGSP値の理論値と実測値との相関は,回帰式y = 1.002x − 0.123,相関係数rは0.9999であった(Figure 1)。

Figure 1 希釈直線性

ライフォチェック ヘモグロビンA1cリニアリティセットを用い,HbA1c濃度17.64%の試料を濃度3.16%試料で10段階希釈し,2重測定し,理論濃度に対する正確性を算出し相関を求めた。NGSP値の理論値と実測値との相関は,回帰式y = 1.002x − 0.123,相関係数rは0.9999であった。

また,NGSP値3.16~17.64%において正確性は,97.5~100.0%であった(Table 2)。

Table 2  希釈直線性
希釈倍率 実測値 理論値 正確性(%)
0/10 3.16 3.16 100.0
1/10 4.32 4.38 98.5
2/10 5.52 5.65 97.7
3/10 6.79 6.97 97.5
4/10 8.17 8.33 98.1
5/10 9.58 9.74 98.4
6/10 11.03 11.20 98.4
7/10 12.64 12.72 99.4
8/10 14.17 14.30 99.7
9/10 15.89 15.94 99.7
10/10 17.64 17.64 100.0

3. 共存物質の影響

遊離型ビリルビン50 mg/dLまで,抱合型ビリルビンまで50 mg/dL,乳びは3,000ホルマジン濁度,アスコルビン酸50 mg/dLまで,変動率は,98.3~100.5%であった(Figure 2)。

Figure 2 共存物質の影響

全血をプールしてHbA1c約5.6%のベース試料を作製し,干渉チェックAプラス(シスメックス社)とアスコルビン酸ナトリウムを添加し,測定した。遊離型ビリルビン50 mg/dLまで,抱合型ビリルビンまで50 mg/dL,乳びは3,000ホルマジン濁度,アスコルビン酸50 mg/dLまで,変動率は,98.3~100.5%であった。

4. 正確性の評価

認証値に対する相対値を正確性%として示した。レベル1:98.4~100.6%,レベル2:99.5~100.3%,レベル3:99.5~100.7%,レベル4:99.3~100.0%,レベル5:100.8~101.4%であった(Table 3)。

Table 3  正確性
JCCRM 411-3 認証値 拡張不確かさ N = 1 N = 2 N = 3
NGSP% 正確性% NGSP% 正確性% NGSP% 正確性%
Level 1 5.10 ±0.13 5.05 99.0 5.02 98.4 5.13 100.6
Level 2 5.77 ±0.14 5.75 99.7 5.74 99.5 5.79 100.3
Level 3 7.39 ±0.19 7.44 100.7 7.35 99.5 7.42 100.4
Level 4 9.60 ±0.23 9.53 99.3 9.60 100.0 9.57 99.7
Level 5 11.98 ±0.28 12.14 101.3 12.15 101.4 12.07 100.8

5. オンボード安定性

試薬開封時の測定値を100%とすると,3濃度試料の変動は,0.8~2.0%であった(Figure 3)。

Figure 3 オンボードでの試薬の安定性

3濃度の試料を用い,試薬を開封した0日目にキャリブレーションを実施後,開封状態で装置に設置した。測定は,開封後1日,3日,7日,10日,14日,21日,28日後に実施した。試薬開封時の測定値を100%とすると,3濃度試料の変動は,0.8~2.0%であった。

6. 従来試薬との相関

従来試薬との相関は,相関係数r = 0.998,回帰式y = 1.000x + 0.010であった(Figure 4)。

Figure 4 従来試薬と検討試薬との相関

検体56例について,従来試薬と検討試薬との相関を検討した結果は,相関係数r = 0.998,回帰式y = 1.000x + 0.010であった。

7. 従来試薬で偽高値となった2検体について

従来試薬において,他社酵素法試薬と比べNGSP値が0.1%以内の検体(検体1)および1.31%もしくは0.51%高値となった2検体(検体2,3)の計3検体について,検討試薬では他社酵素法試薬との測定値の差は ±0.1%以内であった(Figure 5)。

Figure 5 偽高値となった検体の測定結果

従来試薬において偽高値となった2検体について,検討試薬と他法との測定値の差は ±0.1%であった。

V  考察

今回,酵素法試薬における偽高値を抑制するために改良された「(RE)ノルディアN HbA1C」の基礎的性能を従来試薬と比較し評価した。

同時再現性は,JCCRM411-3の5濃度を測定したとき,CV%は0.42~0.68%であった。釜山ら6)や市原7)の検討も同様の結果であり,精密性は良好と評価した。希釈直線性については,理論値との相関係数r = 0.9999,正確性は97.5~100%であり,添付文書に記載されている測定範囲HbA1c 3.3~16.8%において直線性が確認された。高坂ら8)はHPLC法において,正確性0.5%未満,HbA1c 4.0~13.5%まで直線性を確認しており,今回の検討試薬も定量性については良好と考えられた。共存物質の影響は,検討したビリルビン,乳び,アスコルビン酸については,佐野ら9)の結果と同様に,特に問題はなかった。

JCCRM411-3の5濃度試料を3重測定し,認証値との一致率を正確性とした結果は,いずれの濃度レベルも ±2%以内であった。釜山ら6)は,酵素法試薬での同結果について,宮下ら10)や桑ら11)の指針を参考に良好と評価しており,われわれの検討結果も同様に良好と考えられた。試薬を開封状態で装置に設置した3濃度の変動率は,28日間でいずれも2%以下であった。また,従来試薬と検討試薬との相関は,相関係数r = 0.998,y = 0.999x + 0.010であった。青山ら12)はキャリブレーションの安定性において,変動率2.2%以下を問題ないとし,釜山ら6)と市原7)は酵素法と他法との相関をr = 0.994で良好とした。これらの客観的な統計数値に基づくと,今回の検討結果においては,検討試薬の性能に問題はないことが確認された。

また,従来試薬において,POD様活性が極めて低く(データは示さず),偽高値となった2検体は,検討試薬では偽高値が観察されなかったことから,検討試薬は偽高値を抑制する効果を有していることが示唆された。HbA1cの測定において,各測定法でそれぞれ偽高値,偽低値の測定値異常を示す場合がある。特に異常ヘモグロビンを有する場合,HPLC法,免疫法では測定値異常を示すケースが知られている。例えば,加藤ら13)がHPLC法で異常ヘモグロビンを正確に分離・定量できないことによる偽低値現象を,古家ら14)が免疫法で用いる抗体の違いによる偽高値現象を報告している。酵素法では測定対象物がβ鎖N末端の糖化ジペプチドに限定されるため,異常ヘモグロビンに由来するアミノ酸変異部位が糖化ジペプチドと異なっていれば他法に比べ正確な測定が期待できる。しかしながら,本報告のとおり,カタラーゼ活性低下のケースでは酵素法において偽高値を確認しており,釜山ら6)や加藤ら13),古家ら14)が述べるようにHbA1cの測定においては,異常反応などといった各測定方法の特徴を理解し,検査することが大切であることが再確認された。

今後,酵素法での偽高値発生とそれが改善したメカニズムについての更なる解析を期待する。

VI  まとめ

偽高値を抑制するために改良された「(RE)ノルディアN HbA1C」の基礎性能を評価した。同時再現性,希釈直線性,共存物質の影響,正確性,オンボード安定性,従来試薬との相関については特に問題はなかった。

偽高値となった2検体については,他社酵素法試薬と同結果となり,検討試薬は偽高値抑制効果を有することが示唆された。当検査部は,既に検討試薬にて日常検査を実施している。

 

本論文の要旨は,第51回日本臨床検査自動化学会で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本検討の際にご協力いただきました当院糖尿病内分泌・血液内科講師,原健二先生に深謝申し上げます。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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