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資料
トップマネージャーの管理職行動と部下の職務満足度に関する一考察
中村 真紀坂田 裕介小林 秀行加藤 憲山上 潤一米本 倉基
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2021 年 70 巻 1 号 p. 106-115

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Abstract

臨床検査部門のトップマネージャーが,どのような管理職行動をすれば,部下の職務満足度を向上させるかについての科学的な研究はこれまでなされておらず,その手段は他職種のプログラムに依存しているところが大きい。そこで本研究は現場の臨床検査技師長など部門のトップマネージャーの行動が部下の職場満足度に与える影響や,部下が求める優れた管理職行動の特性を科学的に明らかにすることでこれからのマネジメント教育の指標を得ることを目的とした。方法は難波らの先行研究を引用し,管理職行動24項目,職務満足度26項目,性別等の属性を含む計69項目を150名の臨床検査技師を対象にWEBで調査を行い,得られた回答から管理職行動と職務満足度のデータを得点化し分析を行った。その結果,トップマネージャーの管理職行動が部下の職務満足度に与える影響は極めて大きく,臨床検査技師におけるトップマネージャーへのマネジメント教育の必要性が確認できた。また,管理職行動には「キャリア重視」と「働きやすさ重視」の2つの重要な役割行動があり,そのどちらかが欠けると部下の職務不満足は改善されないことが示唆された。とりわけ,トップマネージャーにおいては,性差を問わず若年層が働きやすい職場環境の充実と,役職者に対して職場の良好な人間関係構築のための配慮を同時に遂行することが重要であり,この両者からの期待役割に対してバランスよく応えられるマネジメント教育が必要と考えられる。

Translated Abstract

Clinical laboratory technologists are required to demonstrate management skills. However, there has been no scientific research about the management practices a clinical laboratory division’s top managers can use to improve work satisfaction among subordinates. Educational methods still rely on programs designed for other occupations. In this study, we thus aimed to determine the basic behavior for future management education by identifying excellent management practices that subordinates expect based on the relationship between the actions of a division’s top managers, such as on-site clinical laboratory directors, and their subordinates’ work satisfaction. In accordance with the methodology used in previous studies, a web survey targeting 150 clinical laboratory technicians was conducted. The questionnaire consisted of 69 items. The answers were scored according to the managers’ behavior and the subordinates’ work satisfaction level, and the data was then analyzed. The results showed that the behavior of top managers significantly affects the work satisfaction of their subordinates. This confirms the importance of management education for top managers in the clinical laboratory settings. Moreover, the results suggest two important management role behaviors. One is valuing career and the other is valuing ease of work. According to the responses, work satisfaction among subordinates can be improved when both the aforementioned behaviors are present. Above all, the younger generation demands a more fulfilling work environment regardless of gender from the top managers, and executives should have improved management ability by education to maintain favorable human relations in the workplace.

はじめに

チーム医療の重要性の高まりは,臨床検査技師にチーム内で重要なポジションが任せられるリーダーシップを求めている1)。また,一般社団法人日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技と略す)会員は,女性が約7割を占めることから2),国が進める女性が働き易い職場づくりに対応できる管理職行動が求められている。一般的にマネージャーの仕事上の役割は,マネージャーに関する研究で著名なH.ミンツバーグによって,看板役,リーダー役,対外的窓口役の「対人関係に関わる役割」,情報収集役,情報拡散役,スポークスマンの「情報に係わる役割」,起業家役,問題対処役,資源配分役,交渉役の「意思決定に関わる役割」の3領域10役割が示されている3)。しかし,これまで臨床検査技師へのマネジメント教育は必ずしも十分になされてきたとは言えず4),どのような管理職行動をすれば,部下の職務満足度を向上できる役割を担えるかについて科学的な研究はなされていない状況にある。そこで本研究は,今後のマネジメント教育への指標を得るために,現場の臨床検査技師長など,部門を代表するトップマネージャーの管理職行動と,部下自身の職務満足度の関係性から,部下が求める効果的なトップマネージャー‍の管理職行動特性を明らかにすることを目的とした。

I  方法

1. 研究デザイン

本研究は臨床検査技師長など臨床検査部門を代表する者をトップマネージャーと定義し,その管理職行動を説明変数,部下の職務満足度を目的変数として,その関係性について多変量解析を用いて分析した。説明変数の管理職行動は,先行研究で臨床検査技師を対象としたものがないため,難波ら5)による「看護師の職務満足度が高い施設の看護部長に共通する管理方針」から引用した。質問項目は臨床検査技師に当てはまる用語に一部修正して,1)検査の質の保証,2)多様な情報源と聴く姿勢,3)充実した教育体制,4)権限移譲と業務支援,5)ワークライフバランス(work-life balance; WLB)の取れた労働体制,6)良好な人間関係づくりの6カテゴリー24項目とした。目的変数の職務満足度は,信頼性と妥当性が確保されている安達6)の「職場環境,職務内容,給与に関する満足感測定尺度」を引用した。そのうち,トップマネージャーに裁量権のない「給与」に関する項目を除く1)職務内容,2)職場環境,3)人間関係の3つの上位概念で構成される下位尺度26項目とした。さらに回答者の性別,年齢,臨床検査技師歴,職位,所属する機関と,回答者が評価したトップマネージャーの性別,年齢層,経験年数等の15項目を加えて計69項目でアンケートを作成した(Figure 1)。

Figure 1 研究デサイン

管理職行動6カテゴリー24項目,職務満足度3カテゴリー26項目,属性等を含む計69項目のアンケートを作成した。

各項目の回答尺度は,1.そう思う,2.どちらかというとそう思う,3.どちらかというとそう思わない,4.そう思わない,の4件尺度を用いた。得られた集計結果に対して,トップマネージャーの管理職行動24項目と部下の本人の職務満足度26項目のすべての項目で平均得点と分散を求めた。さらにこの各項目の平均得点の評価を視覚的に判りやすくするために,「そう思わない」の1点から順次「そう思う」の4点までを得点化し,評価尺度の中央得点値2.5点を分岐点として,高い得点をプラス値とし,低い得点をマイナス値とした。すなわち,管理職行動では,−1.5点に近いほど,トップマネージャーの管理職行動は実行されていないとする傾向を示し,+1.5点に近いほど,トップマネージャーの管理職行動が実行されているとする傾向にあると評価した。また,職務満足度についても同様の計算方式で評価し,−1.5点に近いほど,部下である回答者本人の職務満足度が低い傾向を示し,+1.5点に近いほど,部下の職務満足度は高い傾向にあるとした。

2. 予備調査

引用した2種類の調査票は,管理職行動が看護師を,職務満足度が職種を問わない対象としていることから,質問文の内容が臨床検査技師職を対象とした場合に適当でないことが考えられるため,その妥当性を確認するための予備調査を実施した。調査は異なる2名のトップマネージャーの下で勤務経験を持つ同じ病院内の13名の臨床検査技師を対象に,それぞれの技師長の部下として勤務した時のことを想起してもらい,異なるトップマネージャーの管理職行動と当時の職務満足度を無記名で回答してもらった。その結果,12名(回答率92.3%)から有効回答が得られ,データの各カテゴリーの平均得点と分散を比較したところ,データ分布が著しく偏らず,かつ異なる技師長間で項目別に有意な差が認められたことから,採用した尺度の項目と質問文が,臨床検査技師職にも適用できると判断し,修正することなく本調査項目とした。

3. 本調査

本調査は,予備調査によって妥当性が確認されたアンケートを,広く全国の臨床検査技師から特定の地域や所属組織に偏ることなくデータを収集するのに適しているWEBを用いて実施した。調査は複数のWEB調査委託会社を比較し,あらかじめWEB調査会社に登録された220万人のモニターを持ち,その中から臨床検査技師の資格を有する回答候補者が最も多く,かつ地域等の属性が最もばらついているR社を選んだ。回答はWEB上の画面に質問項目を表示して,該当する項目ボタンを選んでもらうことで行った。調査期間は2018年8月28日から8月30日であった。得られたデータは,回答尺度により得点化し,統計ソフトウェアIBM SPSS Statistics バージョン25で分析した。なお,本研究は,調査実施時に研究代表者が所属していた大学の倫理審査委員会(HM18‐200)および利益相反委員会(CI18‐241)の承認を得た。

II  結果

1. 回答者の属性

回答を得た150名のうち,回答データが規則的なものを不正回答として除き145件を有効回答とした(有効回答率96.7%)。性別属性は男性69件(47.6%),女性76件(52.4%)と母集団に近い日臨技会員の男女割合2)である男性31.5%,女性68.5%と比べて,女性の比率が16.1ポイント低かった。平均年齢は44.2 ± 10.5歳,臨床検査技師としての通算経験年数は10年以上の割合が最も多く,所属機関では健診機関のある病院が最も多かった。回答者の現在の職位は一般職が半数を占めていた(Table 1)。

Table 1  回答者(部下)自身の属性(性別 × 年齢層・職務経験年数・所属機関の業務・職位)
属性 区分 男性(n = 69) 女性(n = 76) 計(n = 145)
人数(人) 割合(%) 人数(人) 割合(%) 人数(人) 割合(%)
年齢層 20代 1 1.4 15 19.7 16 11.0
30代 12 17.4 23 30.3 35 24.1
40代 19 27.5 24 31.6 43 29.7
50代 31 44.9 12 15.8 43 29.7
60代 6 8.7 2 2.6 8 5.5
職種経験年数 1年未満 0 0.0 1 1.3 1 0.7
1~2年 0 0.0 1 1.3 1 0.7
3~4年 0 0.0 8 10.5 8 5.5
5~9年 6 8.7 16 21.1 22 15.2
10年以上 63 91.3 50 65.8 113 77.9
所属機関の業務 大学病院 9 13.0 10 13.2 19 13.1
健診機関のある病院 26 37.7 37 48.7 63 43.4
健診機関のない病院 10 14.5 7 9.2 17 11.7
健診機関のみ 3 4.3 5 6.6 8 5.5
医院・診療所 10 14.5 11 14.5 21 14.5
その他 11 15.9 6 7.9 17 11.7
職位 課長 11 15.9 3 3.9 14 9.7
係長 8 11.6 1 1.3 9 6.2
主任 20 29.0 14 18.4 34 23.4
一般 25 36.2 56 73.7 81 55.9
その他 5 7.2 2 2.6 7 4.8

2. トップマネージャーの属性

回答者が評価した上司であるトップマネージャーの属性は,男性90件(62.1%),女性55件(37.9%)であった。これは有業者と管理的職業従事者における女性の割合7)の13.0%と比べて臨床検査技師の女性のトップマネージャーは24.9ポイント高かった。トップマネージャーの年齢層は50歳代,トップマネージャー歴は5年未満63件(43.4%)が多かった(Table 2)。

Table 2  回答者(部下)が評価したトップマネージャーの属性(性別 × 年齢層・マネージャー経験年数)
属性 区分 男性(n = 90) 女性(n = 55) 計(n = 145)
人数(人) 割合(%) 人数(人) 割合(%) 人数(人) 割合(%)
年齢層 26歳未満 0 0.0 3 5.5 3 2.1
26–29歳 1 1.1 5 9.1 6 4.1
30–34歳 4 4.4 1 1.8 5 3.4
35–39歳 7 7.8 9 16.4 16 11.0
40–44歳 3 3.3 7 12.7 10 6.9
45–49歳 15 16.7 9 16.4 24 16.6
50–54歳 26 28.9 7 12.7 33 22.8
55–60歳 29 32.2 11 20.0 40 27.6
61歳以上 5 5.6 3 5.5 8 5.5
マネージャーの経験年数 1年未満 10 11.1 4 7.3 14 9.7
1–2年程度 10 11.1 7 12.7 17 11.7
3–4年程度 17 18.9 15 27.3 32 22.1
5–9年程度 21 23.3 12 21.8 33 22.8
10年以上 32 35.6 17 30.9 49 33.8

3. 管理職行動と職務満足度の現状

1) 管理職行動の現状

管理職行動の全体とそれを構成する6つのカテゴリーごとに平均得点値を求めた。その結果,全体で平均得点値が +0.16 ± 0.74点となり,またカテゴリー別においても,すべての項目でプラス得点となって,管理職行動は実行されているとの評価傾向となった。特に「充実した教育体制」の実行は平均得点値 +0.24 ± 0.82点の高い評価を得ていた。その一方で,「多様な情報源と聴く姿勢」の実行は平均得点値 +0.08 ± 0.85点の低い評価となり,両者の間には平均得点値で0.16ポイントの有意な差が認められた(Figure 2)。

Figure 2 管理職行動と職務満足度の現状

管理職行動は,全体,カテゴリー別,すべての項目でプラス得点となり管理職行動は実行されているとの評価傾向となった。その一方で職務満足度は,全体,カテゴリー別すべての項目でマイナス得点となり不満傾向にあった。

次に,回答者本人の性別や年齢,経験年数,所属する機関の病床規模の属性別にトップマネージャーの管理職行動の評価を比較した。その結果,ほとんどの属性において有意な差は認められなかった。ただし,回答者である部下が主任以上の職位にある役職者の場合,自分の上司にあたるトップマネージャーの管理職行動の評価は「検査の質の保証」と「権限移譲と業務支援」で一般職と比べて平均得点値で0.32ポイント有意に低く,管理職行動は実行されていないとする厳しい評価であった(Figure 3)。

Figure 3 職位の違いで管理職行動の評価に差がある項目

回答者の職位が役職者の場合,一般職と比べて「検査の質の保証」と「権限移譲と業務支援」が実行されていないとする評価であった。

2) 職務満足度の現状

回答者本人の職務満足度は,全体として−0.15 ± 0.59点と不満傾向にあった。また,職務満足度の3つの構成要素別では,「職務内容」(平均得点 −0.19 ± 0.68点)と「職場環境」(平均得点 −0.22 ± 0.59点)が「人間関係」(平均得点 −0.06 ± 0.69点)より有意に低く職務満足度全体を下げていた(Figure 2)。また,その上司であるトップマネージャーと部下本人の間の平均得点値を性別や年齢,経験年数,所属機関の属性別に比較したところ,いずれも有意な差が認められず,属性による影響はなかった。

4. トップマネージャーの管理職行動と部下の職務満足度との関係

トップマネージャーの管理職行動と部下の職務満足度との関係をみるために,全体と構成項目間の相関分析を行った。その結果,全体としては,トップマネージャーの管理職行動と部下の職務満足度の間に有意な強い正の相関を認めた(r = .79, p < .01)。また,管理職行動の6つの構成項目と,部下の職務満足度尺度の3つの構成項目の間で,いずれの組み合せについても,有意な強い正の相関が認められた。特に,トップマネージャーの管理職行動の「多様な情報源と聴く姿勢」と部下の職務満足度の「人間関係」に有意な強い正の相関があり(r = .71, p < .01),また,管理職行動の「WLBの取れた労働体制」と職務満足度の「職場環境」(r = .79, p < .01)および「人間関係」(r = .71, p < .01)の2つの間,さらに管理職行動の「良好な人間関係づくり」と「人間関係」(r = .74, p < .01)との間に有意な強い正の相関(p < .01)があった(Table 3)。

Table 3  管理職行動と職務満足度の相関関係(構成項目・全体別)
構成項目 職務内容 職場環境 人間関係 職務満足度全体
検査の質の保証 .61** .61** .66** .70**
多様な情報源と聴く姿勢 .53** .62** .71** .69**
充実した教育体制 .59** .61** .66** .69**
権限委譲と業務支援 .57** .68** .65** .70**
WLBの取れた労働体制 .58** .79** .71** .76**
良好な人間関係づくり .62** .67** .74** .75**
管理職行動の全体 .64** .73** .76** .79**

**p < .01

加えて,評価尺度の中央値2.5点をカット・オフ・ポイントとして,それ以上のプラス得点回答者を高群,それ未満のマイナス得点回答者を低群としてグループ化を行い,管理職行動の高・低群の2グループと,職務満足度高・低群の2グループの回答者数のオッズ比を求めた。その結果,トップマネージャーの管理職行動が高い場合,低い場合に比べて,部下の職務満足度はオッズ比21.0となった(Pearsonのカイ2乗,p < .01)(Table 4)。

Table 4  管理職行動と職務満足度の高・低群オッズ比
職務満足度
低群 高群
管理職行動 低群 55(d) 4(c) 59
高群 34(b) 52(a) 86
89 56 145

単位:回答者数

また,管理職行動と職務満足度との因果関係を確認するために,管理職行動の全体得点を説明変数(x),部下の職務満足度の全体の得点を従属変数(y)として単回帰分析を行った。その結果,回帰式は「部下の職務満足度=−0.25 + 0.63 × 管理職行動」となり,回帰係数0.79が得られた。なお,決定係数R2乗は .62となり予測精度も高くp値も1%以下で有意であった。

5. トップマネージャーの管理職行動の構成

次に,看護師を対象とした先行研究から引用した臨床検査技師部門のトップマネージャーの管理職行動の構成要素を確認するために,24項目の得点データに対して因子分析を行った。因子数はカイザーガットマン基準に従い,各因子の固有値1以上を妥当な因子としたところ,両者とも第2因子まで有効であることを示した。なお,カイザー・マイヤー・オルキンの標本妥当性(Kaiser-Meyer-Olkin measure of sampling adequacy;KMO測度)は0.96でバートレットの球面性検定は有意(p < .01)に単位行列とは異なり,因子分析を適用させることの妥当性が保証された。回転後の因子負荷量は0.4以上の値をその因子に属するとした(Table 5)。

Table 5  管理職行動構成項目の因子分析結果
管理職行動の項目 第1因子 第2因子
第1因子:専門職育成サーバント型のキャリア重視
現任者の能力アップのための教育制度の充実を行っている .945 −.091
スタッフがプライドをもって専門業務に専念できるように,専門外の業務について他職種と業務分担の交渉を行っている .871 −.028
研修・教育など,職場が良くなるための予算確保を上層部や他部門長にアピールし,交渉を行っている .816 −.027
管理職育成のための教育制度の充実を行っている .809 .071
新人育成のための教育制度の充実を行っている .809 −.004
職務満足度調査の結果を重視した改善を行い,必要に応じ職務分配の見直しなどを行っている .786 .111
目指すべき方向を明確に示し,スタッフがやりがいをもって自律して動ける組織づくりを行っている .753 .135
公式の場,非公式の場,あるいはITネットワークを通じて,常にスタッフと意見交換を行い,部署の方針を伝達し説明を行っている .734 .090
トップマネージャー(技師長など)は能力アップのために自己研鑽を行っている .706 .164
自らの目で状況を把握するために各現場に足を運び,問題の早期発見や予防,改善を行っている .605 .255
問題発生,離職希望,配置換えの要望がある場合には,タイミングよくスタッフの思いを受け止める姿勢で面談を行っている .571 .279
適切な人員確保に積極的であり,不足部門へのフォローを行っている .566 .264
どんなことでも,まずはスタッフの話を聴き,受け入れてくれるような姿勢,すぐに否定的な言動をしない雰囲気づくりに努め,それを実行している .464 .371
第2因子:良好な人間関係維持による働きやすさ(WLB)重視
時短正職員やパート勤務,再就職など多様な勤務体制を選択できる体制づくりを行っている −.120 .902
院内保育,育児休業,時短勤務,保育料の補助など子育て支援制度を気軽に利用できる雰囲気づくりを行っている −.105 .870
超過勤務等,労働時間短縮のための勤務体制づくりを行っている −.011 .721
上層部や他部署から協力が得られる関係づくりを行っている .131 .715
職場の仲間が相互に思いやり,アットホームな雰囲気で意見を言いやすい人間関係づくりを行っている .152 .671
配置換え,昇格・昇進,昇給,人事考課など納得できる人事制度を運用している .207 .638
医師や多職種とチーム医療が実現できる関係づくりを行っている .272 .612
部門のリーダー(主任など)が仕事を背負い込まないよう,組織全体で協力できる体制の整備を行っている .274 .611
職場の人間関係を良好に維持するための,レクリエーションやイベント等を行っている .177 .600
スタッフが疲弊しないよう心理的サポートを行っている .308 .554
委員会,部門のリーダー(主任など),各認定資格を持った専門スタッフへ適切な権限の委譲を行っている .327 .526
因子寄与 14.218 13.541
因子間相関 第1因子 第2因子
第1因子 .812
第2因子 .812

因子抽出法:最尤法,回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法

抽出された2つの因子に,その構成項目から解釈を加え,第1因子を「専門職育成サーバント型のキャリア重視(以下,キャリア重視と略す)」,第2因子を「良好な人間関係維持による働きやすさ,WLB重視(以下,働きやすさ重視と略す)」と命名した。なお,この2つの因子間には,全体として有意な強い正の相関が認められ(r = .81, p < .01),トップマネージャーの「キャリア重視」の管理職行動と「働きやすさ重視」の管理職行動は随伴性があることが示唆された(Table 5)。

6. 管理職行動が部下の職務満足度へ与える効果

次に因子分析で抽出された「キャリア重視」と「働きやすさ重視」の2つの好ましいトップマネージャーの管理職行動が,部下の「職務内容」「職場環境」「人間関係」の3つの職務満足度に与える影響度を明らかにするために,前者を説明変数とし,後者を独立変数とした重回帰分析を行った。また,モデル式には,これまでの分析で両者の関係に影響があることが確認されている「職位」と「性別」の属性を媒介変数として加えた。

具体的には,モデル1として「職務満足度_職務内容=b1*管理職行動_キャリア重視 + b2*管理職行動_働きやすさ重視 + b3~b6*職位 + b7*性別 + e」,モデル2として「職務満足度_職場環境=b1*管理職行動_キャリア重視 + b2*管理職行動_働きやすさ重視 + b3~b6*職位 + b7*性別 + e」,モデル3として「職務満足度_人間関係=b1*管理職行動_キャリア重視 + b2*管理職行動_働きやすさ重視 + b3~b6*職位 + b7*性別 + e」を作成して確認的な分析を行った。なお,モデル式のbは係数を,eは誤差項を示し,職位の選択肢は5つあることから,b3からb6の4つのダミー変数を用いた。また,分析は最小二乗法で職位と性別は共変量として投入した。

その結果,モデル1の「職務内容」に関する満足度は,管理職行動の「働きやすさ重視」との関連が認められた(β = .44,R2乗=.43,p < .01)。よって,トップマネージャーの「働きやすさ重視」の行動は,部下の「職務内容」の満足度向上を促進させることが示唆された。モデル2の「職場環境」に関する満足度は,管理職行動の「働きやすさ重視」との関連が認められた(β = .86,R2乗=.67,p < .01)。なお,これについては部下の職位の影響として一般と主任に違いがみられた(p < .05)。よって,トップマネージャーの「働きやすさ重視」の行動は,部下の「職場環境」の満足度を促進することが示唆された。また,これは部下の職位が主任よりも低い一般職で特に効果的であることがわかった(β = −.12,R2乗=.67,p < .05)。モデル3の「人間関係」の満足度は,管理職行動の「キャリア重視」(β = .28,R2乗=.61,p < .01)と「働きやすさ重視」(β = .53,R2乗=.61,p < .00)の両方に関連がみられた。また,この関係には職位の影響として係長と課長に違いがみられた(p < .05)。よって,管理職行動の「働きやすさ重視」と「キャリア重視」の両方は,部下の「人間関係」の満足度向上を促進することが示唆された。また,それは職位が課長に比べて低い係長の方が効果的であることがわかった(β = .16,R2乗=.61,p < .05)(Table 6)。

Table 6  管理職行動と職務満足度の回帰モデル
推定値 標準誤差 標準偏回帰係数 t値 p
モデル1
職務内容
切片 .64 .19 .00 3.34 .00
管理職行動の「キャリア重視」 .20 .12 .23 1.75 .08
管理職行動の「働きやすさ重視」 .40 .12 .44 3.3 .00
職位 係長←課長 .33 .23 .15 1.49 .14
主任←係長 −.20 .20 −.11 −1.01 .32
一般←主任 −.09 .11 −.07 −.85 .40
その他←一般 −.25 .21 −.08 −1.18 .24
性別 男性←女性 −.01 .048 −.01 −.14 .89
モデル2
職場環境
切片 .67 .15 .00 4.55 .00
管理職行動の「キャリア重視」 −.03 .09 −.04 −.37 .71
管理職行動の「働きやすさ重視」 .77 .09 .86 8.47 .00
職位 係長←課長 .32 .17 .14 1.88 .06
主任←係長 −.25 .15 −.13 −1.6 .11
一般←主任 −.17 .08 −.12 −1.98 .04
その他←一般 −.12 .16 −.09 −.72 .48
性別 男性←女性 .01 .04 .01 .18 .86
モデル3
人間関係
切片 .48 0.162 .00 2.93 .00
管理職行動の「キャリア重視」 .24 .10 .28 2.50 .01
管理職行動の「働きやすさ重視」 .49 .10 .53 4.86 .00
職位 係長←課長 .38 .19 .16 2.01 .04
主任←係長 −.28 .17 −.15 −1.65 .10
一般←主任 −.13 .09 −.09 −1.42 .16
その他←一般 −.19 .18 −.06 −1.08 .28
性別 男性←女性 .03 .04 .04 .72 .47

III  考察

1. 管理職行動と部下の職務満足度の現状

調査の結果,教育が不十分だとされている臨床検査技師のトップマネージャーの管理職行動は,必ずしも高い評価ではないが,全体としては実施されていると部下から評価されていた。これを管理職行動の6つのカテゴリーの中で個別にみると,特に「充実した教育体制(の提供)」が高い評価を得ていた。その理由として,臨床検査技師は専門性の高い技術職であり,最新のテクニカル・スキルの獲得は業務遂行上不可欠である,その教育機会の提供はトップマネージャーに認識されやすいと考えられる。これとは対照的に「多様な情報源と聴く姿勢」の管理職行動に対する評価は最も得点が低く,職場の良好な人間関係づくりに対するヒューマン・スキルについては,現状で置き去りにされている課題が浮き彫りとなった。

属性別の比較では,管理職行動の「検査の質の保証」と「権限移譲と業務支援」の2つで,一般職と比べ役職者で評価が低い結果となった。このことから,組織活力に有効とされる職務の権限移譲がトップマネージャーから役職者に十分になされず,業務経験豊富という理由だけで,いわばトップマネージャーから役職者に業務が丸なげされた状態となり,役職者といってもその実は名ばかりの可能性が示唆された。その一方で,検査の質に関する責任は,役職者として担うことをトップマネージャーから強く期待され,その責任の重さと役割行動の困難さとの葛藤によるストレスから,トップマネージャーに対する役職者の評価が反発心となって厳しいのではと考える。よって,トップマネージャーには,検査の質の保証に関する問題意識が高い役職者に権限を委譲し,役職者が業務改善に前向きに取り組めるよう支援する管理職行動が必要と考える。

また,職務満足度に関しては役職者と一般職のいずれも全体的に得点が低く,3つの構成要素のうち「人間関係」は比較的悪くない評価であったが,「職務内容」と「職場環境」については満足度が低く,課題となっていた。「職務内容」の満足度が低い理由としては,臨床検査技師の職務特性に高い専門性があるがゆえに業務範囲が限定的で自己裁量の範囲が狭くなり代替性が低いと考えられる。よって,一旦慣れてしまうと毎日の業務が繰り返し作業に陥る可能性がある。また,職種としても少人数の組織が多く,配置転換による人材の流動ができにくい事情もキャリアの幅を広げられず,それが職務満足度の低下に影響し,その不満を個別の人間関係の調整で解決しているのではないかと考えられるが,本調査だけでは原因の特定はできなかった。しかし,いずれの理由であっても,臨床検査部門のトップマネージャーには,職務満足度を個人の問題として安易に片付けることなく,部下が日常の仕事を面白く,成長実感が得られる組織づくりができる能力が求められていることが示唆された。また,「職場環境」の満足度が低い理由として,部下の「職場環境」の低い満足度と管理職行動の「WLBの取れた労働体制」の間に有意な強い正の相関を認めたことから,女性の割合が高い臨床検査部門では,特に労働時間や休日取得への配慮が十分でない可能性が考えられる。よって,トップマネージャーには,医療業界全体が進める働き方改革の潮流に沿った人事や労務に組織的なアクションを起こせる役割が期待されると考える。

2. 管理職行動と部下の職務満足度の関係

トップマネージャーの管理職行動と職務満足度の得点値を高群と低群の2つにグループ化して求めたオッズ比が,管理職行動が高いグループは,低いグループよりも職務満足度が21.0と顕著に高かった。この結果からも,トップマネージャーの管理職行動が部下の職務満足度に与える影響は極めて大きく,あらためて臨床検査技師におけるトップマネージャーへのマネジメント教育の必要性が確認できた。

また,職務満足度を従属変数に,管理職行動を説明変数とした「職務満足度=−0.25 + 0.63 × 管理職行動」の回帰式では,固定値がマイナスを示していた。これは,トップマネージャーが適切な管理職行動を行わない職場では,部下の職務満足度は低い状態のままであることを意味しており,臨床検査部門のトップマネージャーの管理職行動は,何もしなければ職務満足度が低い状態のままとなってしまう必要不可欠な組織行動であることが示唆された。

管理職行動が部下の満足度への影響に関する重回帰分析から,WLB支援の充実の重要性が浮き彫りとなった。特に「職場環境」に関する一般職の職務満足度が低い傾向にあることから,若年層,とりわけ子育て世代への働き方改革の遅れに対して,トップマネージャーのより積極的な取り組みへの期待感があると考えられる。また,管理職行動の「キャリア重視」と「働きやすさ重視」が,特に役職者の「人間関係」に影響があることから,トップマネージャーは,役職者への配慮を十分に怠らないことが重要であることが示唆された。

IV  結語

臨床検査技師のマネジメント教育が必ずしも十分でない状況の中で,トップマネージャーの管理職行動が部下の職務満足度に与える影響は極めて大きく,あらためてその必要性が確認できた。特に部下が求める効果的なトップマネージャーの行動特性には「キャリア重視」と「働きやすさ重視」の2つの役割行動があり,このどちらかが欠けると部下の職務不満足は改善されないことが示唆された。よって,トップマネージャーは,性差を問わず若年層が働きやすい職場環境の充実と,役職者に対して職場の良好な人間関係構築のための配慮を同時に遂行することが重要であり,この両者からの期待役割に対してバランスよく応えられるマネジメント教育が必要と考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   山本  誠一,他:「チーム医療における臨床検査技師の役割」,純真学園大学雑誌,2013; 2: 23–27.
  • 2)  (一社)日本臨床衛生検査技師会:組織調査,2018.http://www.jamt.or.jp/public/activity/soshiki.html(2018年11月27日アクセス)
  • 3)  ミンツバーグH.:「マネジャーの仕事」,91–120,白桃書房,東京,1973.
  • 4)  (一社)日本臨床衛生検査技師会:認定監理検査技師制度審議会.認定管理検査技師の資格更新に関する取り扱い,2016.http://www.jamt.or.jp/studysession/center/asset/docs/nintei_kanri_sikaku_minaoshi.pdf(2018年11月27日アクセス)
  • 5)   難波  浩子,他:「看護師の職務満足度が高い施設の看護部長に共通する管理方針」,日本医療マネジメント学会会誌,2015; 16: 28–33.
  • 6)  安達 智子:「職場環境,職務内容,給与に関する満足感測定尺度」,心理測定尺度集II,303–307,サイエンス社,東京,2001.
  • 7)  内閣府:内閣府男女共同参画白書の有業者と管理的職業従事者における女性の割合,2016.http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/gaiyou/html/honpen/b1_s00_01.html(2018年11月27日アクセス)
 
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