医学検査
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技術論文
ヒト血清中乳酸デヒドロゲナーゼ(LD)およびアルカリフォスファターゼ(ALP)測定法のJSCC法からIFCC法移行に伴うビトロスマイクロスライド試薬の基礎的検討
梅田 明和冨山 修平牧野 秀大湯汲 万菜実西田 祥子村上 香立石 智士小林 尚子
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2021 年 70 巻 2 号 p. 279-285

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Abstract

乳酸デヒドロゲナーゼ(LD)およびアルカリフォスファターゼ(ALP)2項目の測定法をJSCC法からIFCC法に移行するため「ビトロススライドLDHI」(LDHI)および「ビトロススライドALKP」(ALKP)試薬の基礎的検討を行った。併行精度,試薬開封後の安定性は良好な結果が得られた。希釈直線性はLDHIで510 U/L,ALKPで837 U/Lまで確認できた。共存物質の影響では抱合型ビリルビンおよび非抱合型ビリルビン,乳糜,L-アスコルビン酸は影響を認めなかった。溶血ヘモグロビンについては,LDHIで濃度依存的に測定値の上昇が認められ,ALKPでは添加により測定値の低下が認められた。JSCC法との相関性は良好で,ALKPに関しては既報と同様に約1/3の測定値を示した。IFCC対照法との相関性は一部検体において,測定値の乖離が認められた。乖離検体中に含まれるアイソザイムの比率によって乖離した可能性が考えられた。本検討の結果,LDHI,ALKP両項目のIFCC法対応試薬は院内検査用試薬として十分な性能を有していると考えられ,当院は速やかにIFCC法へ移行できた。相関性の検討より,一部検体中に含まれるアイソザイム分画の比率によってビトロスと対照IFCC法試薬間で反応性が異なる可能性が示唆されたため,適切な検査,診断ができるよう各試薬の特性をよく理解し,場合によっては診療科への情報提供が必要であると考えられる。

Translated Abstract

To support the transition from the JSCC recommended method of measuring lactate dehydrogenase (LD) and alkaline phosphatase (ALP) to IFCC reference methods, we evaluated the performance of two reagents, Vitros Slides LDHI (LDHI) and Vitros Slide ALKP (ALKP). We obtained good results in terms of repeatability and onboard stability with both reagents. LDHI and ALKP showed linearity up to 510 U/L and 837 U/L, respectively. Regarding the effects of interfering substances such as unconjugated bilirubin, conjugated bilirubin, chyle and ascorbic acid, neither reagents demonstrated any interference effects. Regarding the addition of hemolytic hemoglobin, LDHI levels increased in a concentration-dependent manner, whereas ALKP levels decreased. These IFCC reagents showed good correlation with the JSCC method, and ALKP levels were about 1/3 of reported values. Although the correlations with the IFCC standard method were confirmed, some of the samples showed discrepant results. Such results could be caused by a difference in the ratio of isozymes contained in some samples. The results of this study demonstrated that these reagents, LDHI and ALKP, are compatible with the IFCC method and have sufficient performance for clinical use, which enabled our laboratory to shift quickly to the IFCC method. Correlation studies suggest that the reactivity between these reagents and the standard IFCC wet reagents may differ by depending on the ratio of isozymes contained in samples. Therefore, it is necessary to understand the limitations and characteristics of each reagent and to provide relevant information to the clinical department if needed.

I  はじめに

わが国では,一般社団法人日本臨床化学会(JSCC)勧告法1)が2005年までにアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),クレアチンキナーゼ(CK),乳酸デヒドロゲナーゼ(LD),アルカリフォスファターゼ(ALP),γ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GT),コリンエステラーゼ(ChE),α-アミラーゼ(AMY)の8項目において勧告されている。その後,特定非営利活動法人日本臨床検査標準化協議会(JCCLS)認証標準物質「常用参照標準物質:JSCC常用酵素」が頒布されたことによってJSCC常用基準法を頂点としたトレーサビリティ体系が確立され,JSCC常用基準法とトレーサブルな市販試薬は「JSCC標準化対応(法あるいは試薬)」(JSCC法)として発売され,国内の99%以上の検査室で使用されている2)。その中でAST,ALT,ALP,LDはJSCC法と国際臨床化学連合(IFCC)基準測定操作法(IFCC法)と反応試薬の組成が異なっているため得られる測定値も異なり,ALPとLDのJSCC法3)~5)は疾病によりIFCC法と異なる反応性を示すこともある。このような背景があり,国際的な治験や臨床研究に受け入れられない状況にある2),6)。さらに,JSCC法の試薬組成に再検討が必要なことも判明し2),そうした状況下において,JSCCは国際ハーモナイゼーションを重視して,JSCC常用基準法をIFCC標準法に合わせる2),6)との結論に至り,2020年4月より準備の整った施設から変更を開始している。当院においてもLDおよびALPの2項目をIFCC法への変更に対応するためにIFCC法をリファレンス法としたオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社のビトロススライドLDHIおよびビトロススライドALKP試薬の基礎的検討を行ったので報告する。

II  方法

1. 対象

2019年11~12月に当院で検査依頼のあった20歳以上の入院および外来患者の検査終了後の残余検体と精度管理試料を用いた。なお,本研究は津山中央病院倫理委員会の承認(承認番号:433)を得て非連結匿名化して実施した。

2. 機器・試薬

IFCC法をリファレンスとするビトロススライドLDHI(LDHI),ビトロススライドALKP(ALKP)とJSCC法をリファレンスとするビトロススライドLDHJ(LDHJ),ビトロススライドALKPJ(ALKPJ)を用い,全自動生化学システム ビトロス4600(いずれもオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)で測定した。IFCC法対照試薬として富士フイルム和光純薬株式会社のLタイプワコーLD IF(wako-LDIF),LタイプワコーALP IFCC(wako-ALPIF)を用いLABOSPECT008自動分析装置(株式会社日立ハイテク)で測定した。

3. 検討内容

1) 併行精度

2濃度の精度管理試料ビトロスパフォーマンスベリファイアー(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)と2濃度のプール血清を10回連続測定し,併行精度を検討した。

2) 試薬開封後安定性

試薬装填後にキャリブレーションを行い,2濃度の精度管理試料ビトロスパフォーマンスベリファイアー(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を1,4,8,11,14,15日に2重測定して試薬開封後安定性を検討した。

3) 希釈直線性

高値検体を低値検体にて11段階希釈を行い,希釈直線性を検討した。

4) 共存物質の影響

干渉チェック・Aプラス(シスメックス株式会社)およびL-アスコルビン酸を2濃度のプール血清に添加し,共存物質の影響を確認した。

5) JSCC法との相関

患者血清を検討試薬とJSCC法をリファレンスとするLDHJ,ALKPJを用いて測定し,相関係数と回帰式(直線回帰に標準主軸回帰を用いて)を算出した。

6) IFCC法対照試薬との相関

患者血清を検討試薬とwako-LDIF,wako-ALPIFを用いて測定し,相関係数と回帰式(直線回帰に標準主軸回帰を用いて)を算出した。また,標準主軸回帰式から求めた検討試薬の理論値が実測値と±10%を超えて異なる場合を乖離検体として,必要検体量が確保できた検体についてアイソザイム分析を実施した(アイソザイム分析は株式会社ビー・エム・エルへ委託した)。

III  結果

1. 併行精度

いずれの試料においても,その変動係数(CV%)は1.6%以下であった(Table 1)。

Table 1  Within-run reproducibility of LDHI, ALKP
VITROS Slide LDHI VITROS Slide ALKP
Performance Verifier Pooled serum Performance Verifier Pooled serum
I II Low High I II Low High
mean (U/L) 182.7 438.8 183.7 586.3 58.4 427.8 109.8 499.4
SD (U/L) 1.49 2.40 1.13 3.34 0.74 6.77 1.34 4.97
CV (%) 0.8 0.6 0.6 0.6 1.3 1.6 1.2 1.0
Range (U/L) 4.3 9.3 3.6 9.0 2.4 19.5 4.8 16.2

2. 試薬開封後安定性

いずれの試料においても,測定初日(day 1)の測定値に対する測定最終日(day 15)の測定値の比率(%)は±2%の範囲内であり良好な結果であった(Table 2)。

Table 2  Onboard stability of the reagent on the VITROS4600
VITROS Slide LDHI
Performance Verifier
VITROS Slide ALKP
Performance Verifier
I % II % I % II %
day 1 184.4 100 588.6 100 108.9 100 491.9 100
day 4 187.4 102 596.5 101 110.3 101 499.6 102
day 8 180.5 98 581.4 99 108.4 100 497.0 101
day 11 180.2 98 583.2 99 109.2 100 493.1 100
day 14 184.6 100 583.4 99 109.6 101 497.3 101
day 15 185.4 101 586.4 100 109.7 101 497.0 101

3. 希釈直線性

11段階希釈した直線性は理論値との直線回帰式を求め,分散分析法(有意水準0.1%)で直線範囲を評価したところ,LDHIで510 U/L(y = 0.923x + 8.0 p = 0.8082)まで,ALKPで837 U/L(y = 0.904x − 5.8 p = 0.8298)まで確認した(Figure 1)。

Figure 1 Dilution linearity of LDHI, ALKP

4. 共存物質の影響

共存物質未添加時の2重測定の平均値の ±5%を超えた場合を影響ありとした時,抱合型ビリルビンおよび非抱合型ビリルビンは20.0 mg/dL,乳糜2,000 FTU,L-アスコルビン酸50.0 mg/dLまで確認し,測定値に影響は認めなかった。溶血ヘモグロビンについては,LDHIで濃度依存的に測定値の上昇が認められ,ALKPで添加により測定値が低下し,影響が認められた(Figure 2)。

Figure 2 Effects of interference substances of LDHI, ALKP

The dotted line is the range of ±5% of the average value when no additives are added.

5. JSCC法との相関

LDの相関係数(r)は0.996,標準主軸回帰式y = 0.987x − 0.2であった。ALPの相関係数(r)は0.999,標準主軸回帰式y = 0.333x − 5.0で対照法に比べ約1/3の測定値を示した(Figure 3)。

Figure 3 Correlation between VITROS LDHI, ALKP with the VITROS JSCC recommended method

6. IFCC法対照試薬との相関

LDの相関係数(r)は0.983,標準主軸回帰式y = 1.131x − 22.6であった。乖離した検体を除外した後の相関係数(r)は0.996,標準主軸回帰式y = 1.074x − 13.6であった。ALPの相関係数(r)は0.993,標準主軸回帰式y = 0.894x − 4.2であった。乖離した検体を除外した後の相関係数(r)は0.998,標準主軸回帰式y = 0.900x − 6.0で対照法に比べ10%ほど低値を示した(Figure 4)。乖離を認めて必要検体量が確保できた検体について,LD,ALPともにアイソザイム分析を行ったところ,アイソザイムの比率が変化していた(Table 3)。

Figure 4 Correlation between VITROS LDHI, ALKP with the IFCC reference method
Table 3  Results of isozyme analysis of LD and ALP
Sample
No.
L-type wako
LD IF
VITROS
Slide LDHI
Theoretical value LD isozyme (reference range: %)
(U/L) % LD 1
(20–32)
LD 2
(28–35)
LD 3
(21–27)
LD 4
(6–13)
LD 5
(4–14)
6 447 569 483.0 15.1% 19 23 15 8 35
16 402 492 432.1 12.2% 16 21 15 9 39
19 601 823 657.1 20.2% 14 18 11 8 49
102 961 1,319 1,064.3 19.3% 7 11 8 15 59
Sample
No.
L-type wako
ALP IFCC
VITROS
Slide ALKP
Theoretical value ALP isozyme (reference range: %)
(U/L) % ALP 1
(0)
ALP 2
(36–74)
ALP 3
(25–59)
ALP 4
(0)
ALP 5
(0–16)
ALP 6
(0)
4 593 466 525.9 −12.9% 17 74 9
12 219 223 191.6 14.1% 6 40 17 37
33 106 109 90.6 16.9% 24 22 54
35 109 109 93.2 14.5% 31 25 44
45 98 96 83.4 13.1% 10 65 25
68 307 238 270.3 −13.6% 31 57 12
133 85 84 71.8 14.5% 41 33 26

IV  考察

本研究では,LDおよびALPの2項目をIFCC法への変更に対応するためにIFCC法をリファレンス法とした「ビトロススライドLDHI」および「ビトロススライドALKP」試薬の基礎的検討を行った結果,併行精度,試薬開封後の安定性は良好な結果が得られ,希釈直線性は,2項目ともに高値検体の割合が増加するに伴い直線性が失われたがLDHIで510 U/L,ALKPで837 U/Lの範囲で直線性が確認できた。共存物質の影響では抱合型ビリルビンおよび非抱合型ビリルビンは20.0 mg/dL,乳糜は2,000 FTU,L-アスコルビン酸は50.0 mg/dLまで測定値は安定していた。溶血ヘモグロビンについては,赤血球中には血清の160~200倍のLDが存在するのでわずかな溶血でも赤血球中から血清中へ溶出するため正誤差を生じることが知られており,LDHIで濃度依存的に測定値の上昇が認められた。ALKPでは添加によって測定値の低下が認められた。これは,試薬中のニトロフェニルリン酸がヘモグロビンと反応し7)基質の消耗を惹起したため若干の負誤差を生じたと考えられた。以上のことから溶血検体測定時には採血の取り直しや溶血コメントの付記等の対応が必要になるが,おおむね院内検査用試薬として十分な性能を有していると考えられた。JSCC法との相関性は,LDおよびALPともに相関係数(LD: r = 0.996, ALP: r = 0.999)は良好で,ALKPで約1/3の測定値であった。これは周知のとおり,JSCC法とIFCC法とで測定に用いられる緩衝液の種類によって反応性が異なり,既報2),6)と同様の結果であった。IFCC法対照試薬との相関性は,相関係数(LD: r = 0.983, ALP: r = 0.993)は良好で,LDHIで10%ほど高値を示し,ALKPで10%ほど低値を示し,JSCC法に対応しているLDHJおよびALKPJとの相関に対し,IFCC法に対応しているwako-LDIFおよびwako-ALPIFとの相関性が低い結果となった。そこで相関分析で求められた標準主軸回帰式から求めた本法の理論値が実測値と±10%を超えて異なる場合を乖離検体としてアイソザイム分析を行ったところ,LDではLD5優位検体でLDHIの測定値が高値を示し,ALPではALP5(小腸型)が認められた検体ではALKPの測定値が高値傾向を認め,ALP3(骨型)が低下した検体ではALKPの測定値が低値傾向を認め,乖離検体を除外した後の相関係数は(LD: r = 0.996, ALP: r = 0.998)となり,一部検体のアイソザイム組成の変化による本試薬の反応性の相違がIFCC法対照試薬との相関性に影響を与えたものと考えられる。また,いずれの項目の希釈直線性の検討においても,高値検体と低値検体を混合した場合に高値検体の混合割合が多くなるに伴い,理論値と測定値が乖離し直線性が失われたことなどから,検体中に含まれるアイソザイムの比率によって本法の反応性が異なることが示唆された。相関分析でも,乖離検体を除去した後のALKPの標準主軸回帰式の傾きも0.900と本法が対照試薬と比べて低値を示したことからも,本法と対照試薬との間で反応性が若干異なることが考えられる。今後,各試薬における反応性の相違や特性を理解するうえで,正確さやアイソザイムの反応性を検討する必要がある。

V  結語

今回,当院はLDおよびALPの2項目をIFCC法への変更に対応するためにビトロススライドLDHIおよびビトロススライドALKP試薬の基礎的検討を行い良好な結果が得られたことにより,速やかにIFCC法への標準化に対応できた。相関性の検討より,一部検体中に含まれるアイソザイム分画の比率によってIFCC法試薬間で反応性が異なる可能性が示唆された。このため,適切な検査,診断ができるよう各試薬の特性をよく理解し,場合によっては診療科への情報提供が必要であると考えられる。

 

本論文の要旨は日本医療検査科学会第52回大会(2020年10月.Web配信)にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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