医学検査
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70 巻, 2 号
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原著
  • 大浦 美鈴, 高水 竜一, 春山 薫, 豊島 のぞみ, 谷口 玲奈, 三村 明弘, 川淵 靖司, 長門谷 克之
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 2 号 p. 193-197
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    当院で使用している尿沈渣における異型コメントの5種類と細胞診の結果について後方視的検討を行った。異型コメントを報告した自然尿尿沈渣検体876例のうち,細胞診結果を参照することのできた348例を対象とした。細胞診判定がClass I~IIIaであった群を「良性群」,Class IIIb~Vであった群を「悪性群」に分類し,Class III(a,b付記なし)であった症例は良性,悪性の境界域にあると判断し対象より除外して,異型コメント報告の妥当性について検討した。異型コメント報告症例数は,それぞれ良性群109件(28.8%),悪性群239件(63.2%)であった。報告率は,良性群で細胞塊有40.4%,N/C比大58.7%,核形不整4.6%,核濃染10.1%,細胞診望18.3%,悪性群で細胞塊有23.8%,N/C比大82.8%,核形不整12.6%,核濃染29.3%,細胞診望43.9%であった。悪性群に対する悪性的中率は,細胞塊有56.4%,N/C比大75.6%,核形不整85.7%,核濃染86.4%,細胞診望84.0%であった。また,同一症例でのコメント報告数の増加に伴い悪性的中率が高くなった。以上から異型コメント入力は悪性疾患スクリーニングに有用であった。

  • 河野 弥季, 石田 綾乃, 外園 栄作, 大澤 進
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 2 号 p. 198-204
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    【目的】飲酒マーカーであるホスファチジルエタノール(PEth)の測定法構築の前検討としてPEth生成に関わる赤血球中ホスホリパーゼ D(PLD)活性を測定する系を構築した。【方法】本反応と内因性コリンの消去反応からなる測定系を構築した。内因性コリンを予めコリンオキシダーゼ(COD)とカタラーゼで消去し,その後酵素活性を測定した。赤血球由来のPLDは基質のホスファチジルコリンを水解し,ホスファチジン酸とコリンを生じる。このコリンにCODを作用させることでH2O2を生成し,ペルオキシダーゼ(POD)で色素と発色させた。PLD活性は速度分析で求めた。【結果】3種類の溶血試料を用いた同時再現性はCVが11.2–12.1%であった。直線性はPLD添加溶血試料を用いて120 U/L程度まで認められた。添加回収率は100 U/L PLDでは94.4%,50 U/L PLDでは84.0%となった。健常者群と疾患群でのPLD活性値の比較では貧血群は低値を,閉塞性黄疸群は高値を示した(p < 0.05)。PLD活性値をヘモグロビン値で除した値は貧血群で健常者群平均値を上回り,ヘモグロビンの値がPLD活性値に影響を与えることを示唆した。【結論】赤血球中PLD酵素活性を測定する系を構築した。本測定法でPLD酵素活性を定量可能であるが精度には課題が残る。今後はPLD酵素活性とPEth生成能の関係の検討が必要である。

  • 横山 覚, 松山 浩之, 菊地 良介, 度會 理佳, 金 貞姫, 鈴木 敦夫, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 2 号 p. 205-212
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    我々は,災害時でもウォーターレスの運用が可能なVITROS XT7600(VITROS)による生化学検査項目の有用性を検証した。検討機器はVITROS,対照機器はLABOSPECT008(008)を使用した。測定試薬は,VITROS専用試薬のビトロスマイクロスライド(VITROSドライ)と008専用試薬(008ウェット)をVITROS 専用ボトルに入れ替え,オープンチャンネル(VITROSウェット)に搭載し使用した。対照試薬は,008ウェットを使用した。検証項目は,主要生化学検査項目とした。評価は,併行精度,日差再現性と測定法間での相関性を評価した。VITROSドライ26項目の併行精度と日差再現性はすべての項目で変動係数5%以下と良好であった。また,VITROSウェット19項目の併行精度も変動係数5%以下と良好であった。VITROSドライ法と008ウェット法における相関は26項目中20項目において相関係数(r)0.9900以上であった。VITROSウェット法と008ウェット法での相関性は評価した19項目で,相関係数(r)0.9945以上であった。VITROSドライ法ではAlbuminとAmylaseで008ウェット法との乖離例を認めたが,それぞれ測定原理,反応基質の違いが原因として考えられた。以上より,VITROSは,災害時のみならず日常検査においても有用であることが示唆された。

  • 神野 真司, 北川 文彦, 杉本 邦彦, 藤田 孝, 山田 晶, 成瀬 寛之, 井澤 英夫, 畑 忠善
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 2 号 p. 213-219
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    当院では,循環器内科医師と臨床検査技師で構成される心エコーチームによる,スキルアップを目的とした心エコーカンファレンスを毎週開催している。しかし,2020年4月よりCOVID-19感染対策の観点から開催の自粛を余儀なくされている。そこで我々は,インフォメーションテクノロジー(information technology; IT)を用いた,ワールド・ワイド・ウェブ(World Wide Web; Web)上での関連病院合同教育プログラムを代替実施し,今回その有用性を検証した。心エコーチーム計23人(当院19人,関連病院4人)を対象に,オンラインサービスを用いて症例問題を作成し,解答を募った。従来の心エコーカンファレンスの参加者は平均8.2人であったが,Webによる開催は参加可能な対象者が拡大し平均13.7人と増加した。正答者率の数値化により,各疾患に対する理解度を明らかにすることができた。最も正答者率が低かった問題に関しては,教育プログラムを提示することで正答者率の有意な改善が認められた。また,フリーコメントの記載により問題点が明確になり,的確な改善策が講じられたことも利点であった。Webを用いた教育環境は,時間や場所を選ばずに自由な参加形式を取れることから,多くの利点がある。さらに,本教育プログラムは症例問題を案出することにより地域医療施設間の精度管理に応用でき,大学と連携することで医学教育にも貢献できる可能性が示唆された。

  • 菊地 良介, 鈴木 敦夫, 金 貞姫, 度會 理佳, 森瀬 昌宏, 齋藤 尚二, 八木 哲也, 松下 正
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 2 号 p. 220-227
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体測定試薬は,キットに使用される抗原としてSARS-CoV-2のspike protein S1 domain(S)あるいはnucleocapsid protein(N)を用いる2種類に大別されるが,各キットにおける反応性の違いについては明らかではない。今回,新たにシスメックス株式会社が開発したHISCLTM SARS-CoV-2抗体試薬について,COVID-19と診断された3症例の経時的血清サンプルを使用して反応性および抗体産生の推移についての検証を行った。症例1では来院時点(第X病日)からSタンパクを抗原としたIgM抗体(S-IgM)が陽性を示した。症例2では,第X + 1病日からS-IgMに加えNタンパクを抗原としたIgM抗体(N-IgM)およびIgG抗体(N-IgG)が陽性を示し,第X + 2病日よりSタンパクに対するIgG抗体(S-IgG)が陽性となった。症例3では第X + 12病日よりS-IgMとS-IgGが陽性を示した一方,Nタンパクに対する抗体は第X + 25病日にN-IgMが陽性を示したのみで,N-IgGは観察期間中すべて陰性であった。以上の結果より,HISCLTM SARS-CoV-2抗体試薬のうちS-IgGおよびS-IgM試薬は,感染後早い時期の抗SARS-CoV-2抗体検出に有用となる可能性が示唆された。

技術論文
  • 山本 肇, 石川 愛実, 櫻田 成実, 齋川 健志, 関本 正泰, 二本栁 洋志, 石幡 哲也, 高田 直樹
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 228-236
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)は種々の動脈硬化性疾患のリスク評価に用いられている。近年,Fridewald式(F式)の欠点を改良したMartin式が報告されたことを機に我々は,直接法によるLDL-C(直接法)とF式およびMartin式により推算したLDL-C値の比較検討を行った。健診受診者における直接法との相関分析では,F式:回帰式Y = 0.956X + 9.690,相関係数r = 0.9183,Sy·x = 11.54,Martin式:回帰式Y = 1.019X + 2.425,相関係数r = 0.9757,Sy·x = 6.23が得られ,Martin式がより良好な相関を示した。直接法と推算式の残差について,中性脂肪(Triglyceride; TG)との関係を相関分析したところ,直接法とF式との残差とTGの関係を表す相関回帰式はY = −0.0652X + 8.571(TG < 400),Y = −0.0848X + 26.332(TG ≥ 400)に対して,直接法とMartin式との残差とTGとの関係を表す相関回帰式はY = 0.0059X + 1.3641(TG < 400),Y = −0.027X + 33.872(TG ≥ 400)であった。Martin式ではTG 400 mg/dLまでは影響も少なく,直接法との差がF式よりも小さいことが明らかとなった。以上のことから,Martin式は今回使用した直接法試薬に近似する高い正確性と汎用性を認め,推算式としてはF式より優れた方法であることが示唆された。

  • 大井 由佳, 西本 絵里奈, 和田 保乃花
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 237-242
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    血液培養から検出された菌の薬剤感受性検査は,早期に適切な抗菌薬で治療するために迅速化が求められている。薬剤感受性検査は,通常,単一コロニーを用いるため結果報告までに3日を要する。今回我々は,サブカルチャーから数時間後の微小コロニー群を用いて標準法と同様の方法で薬剤感受性検査を実施し,単一コロニーで実施する標準法の薬剤感受性検査結果と比較検証した。対象菌種はEscherichia coliE. coli),Klebsiella pneumoniaeK. pneumoniae)の2菌種とした。E. coli 225検体,K. pneumoniae 79検体について一致率を求めた。MIC1管差一致率はE. coliで97.3~100.0%,K. pneumoniaeで96.2~100.0%,カテゴリー完全一致率はE. coliで81.8~100.0%,K. pneumoniaeで78.5~100.0%,major errorの割合はE. coliで0~0.4%,K. pneumoniaeで0~2.5%,very major errorの割合はE. coliで0~0.4%,K. pneumoniaeで0~1.3%となり,高い一致率を示した。分離培養初期の微小コロニー群を用いた薬剤感受性検査の迅速報告が可能であることが示唆された。

  • 蜂須賀 靖宏, 二村 真歩, 小久保 知加子, 寺本 薫, 野々山 真由, 濱口 幸司, 岡田 元
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 243-251
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    我々はGOD固定化酵素膜電極法を原理とした,血漿/全血測定に対応した2機種のグルコース分析装置の性能比較を実施した。正確性確認では両装置とも良好な正確性を示し,併行精度・室内再現精度においても良好な精密性が確認された。相関性については,血漿/全血どちらで測定した場合も現行装置や他測定法に対して相関性が確認された。全血測定では高ヘマトクリット検体ほどグルコース値の変動を認め,ヘマトクリットが全血測定に大きく影響することが確認された。しかし,日常検査を遠心操作が不要である全血測定へ変更することは,検査業務の効率化やTAT短縮など臨床貢献へ繋げられる可能性があると思われる。グルコース検査に用いられる検体は動脈血,静脈血,血漿,血清,全血など様々であり,測定法も複数存在するが,それぞれの特徴を理解し使い分けることで,検査精度の担保が可能になると考えられる。

  • 渡邊 拓也, 龍見 重信, 東 千陽, 鈴木 久恵, 竹内 真央, 森川 佐和子, 松尾 郁, 西川 武
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 252-259
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    標本とスライドガラスの接着についての検討から,乳腺断端術中凍結HE標本における組織切片の剥離防止法の確立を試みた。接着の検討には,組織パラフィン切片及び細胞診残余材料を用いて,剥離防止コートスライドガラスとの接着に関する検討を行った。その結果,染色に耐えうる標本の接着を得るためには,パラフィン組織切片は水で濡れることが必要で,かつ,パラフィン組織切片及び細胞診標本とも,剥離防止コートスライドガラスとの接着面から,乾燥や脱水による十分な水の拡散が必要であった。次に,乳腺断端術中凍結HE標本の標本剥離防止の検討を行った結果,標本作製時の固定法の選択が肝要で,湿固定に比し,乾燥を含む固定法では,有意に標本の剥離が抑制された(p < 0.001)。実際の運用としては,細胞診標本固定法の一つである噴霧固定による標本作製を行うことで,標本剥離を抑制し,かつ,良好な染色性が担保された乳腺断端術中凍結HE標本の作製が可能であった。

  • 千葉 美紀子, 佐藤 貴美, 三浦 悠理子, 石戸谷 真帆, 勝見 真琴, 阿部 裕子, 藤巻 慎一, 藤原 亨
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 260-266
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)スクリーニング培地を用いての監視培養を導入する目的で,MDRS-K寒天培地(MDRS-K),X-MRSA寒天培地(X-MRSA),クロモアガーMRSAスクリーン培地(関東クロモ),CHROMager MRSA II(MRSA II)を比較検討し,検査フローを考察した。保存菌株を用いた評価では,栄養要求の高いMRSAは,48時間(h)培養で検出率を高められる可能性が示唆された。患者検体を用いた評価では,48 hのpositive predictive value(PPV)/negative predictive value(NPV)(%)は,MDRS-K,X-MRSA,関東クロモ,MRSA IIでそれぞれ100.0/80.0/42.9/100.0,100.0/94.9/75.0/100.0,100.0/89.7/60.0/100.0,93.3/95.9/78.0/98.9であった。夾雑菌の一部は,48 hでMRSA類似コロニーとして観察された。本検討により,スクリーニング培地を用いての監視培養検査は,48 hを最終判定とし,24 hではスクリーニング培地の発育有無のみで判定,48 hでは発色コロニーの同定を追加して判定することにより,低コストで正確性,迅速性に優れた検査が可能と考える。

  • 尾﨑 さゆ里, 水野 成美, 髙橋 正樹, 越崎 祐輔, 久保田 基路, 増永 伸吾, 志賀 誠, 上田 晋也
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 267-272
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    B群連鎖球菌(Group B Streptococcus;以下GBS)は垂直感染により新生児における髄膜炎および敗血症に関与する主な起炎菌である。アメリカ疾病予防管理センターの「Prevention of Perinatal Group B Streptococcal Disease Revised Guidelines from CDC, 2010」では,妊娠35~37週に増菌培養法を推奨している。6施設で合同検討する機会を得たので,GBS増菌培地の施設間の比較および有用性を報告する。また,非溶血性GBSを逃さないようにするため直接ラテックス凝集法の検討も実施し,直接培養法,増菌培養法(サブカルチャー法および直接ラテックス凝集法)の3法を用いてGBSの検出数を調査した。直接培養法と増菌培養法の比較では,6施設中5施設で増菌培養法により1.0~2.0倍陽性率が上昇し平均1.4倍であった。当院において1年間追加検討を実施した結果,1.6倍となり,差は認められなかった。サブカルチャー法と直接ラテックス凝集法では,全施設でGBSの同定結果と乖離は認められなかったため,サブカルチャー法を省略することができると示唆された。GBSスクリーニング検査の検出率向上のため,増菌培養は有用であると考えられる。

  • 大久保 学, 古川 聡子, 木村 千紘, 前田 ひとみ, 上杉 里枝, 河口 豊, 通山 薫
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 273-278
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    アルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase; ALP)活性測定は肝臓,骨,腎臓,胎盤,小腸の損傷を網羅的に評価することができる。今回我々はIFCC標準化に対応した試薬LタイプワコーALP・IFCCの性能および試薬のオンボード状態における試料の反応性の評価を行った。併行精度は0.6%(平均値78,180 U/L),希釈直線性は990 U/Lまで原点を通る直線性を認め,定量限界は5.4 U/Lであり高感度かつ精度も良好であった。試薬のオンボード安定性は試薬開封後30日目において,試薬開封直後に比べて精度管理試料のQAPトロール1X,2X,酵素キャリブレーター,および血清検体(肝臓型アイソザイムと小腸型アイソザイム)は,それぞれ3.8%,2.7%,8.5%,7.9%,8.2%の低下が認められ,精度管理試料と酵素キャリブレーターおよび血清検体では低下の挙動に違いが認められた。二酸化炭素を試薬に注入してpHを低下させたがALP活性値は ±1.3%以内であった。日本臨床化学会標準化に対応した試薬との相関性は,相関係数は0.997,線形関係式はy = 0.37x − 9.04であった。LタイプワコーALP・IFCCの性能は良好であったが,長期間オンボード状態で使用する場合は,血清検体のALP活性は偽低値となるため注意が必要である。

  • 梅田 明和, 冨山 修平, 牧野 秀大, 湯汲 万菜実, 西田 祥子, 村上 香, 立石 智士, 小林 尚子
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 279-285
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    乳酸デヒドロゲナーゼ(LD)およびアルカリフォスファターゼ(ALP)2項目の測定法をJSCC法からIFCC法に移行するため「ビトロススライドLDHI」(LDHI)および「ビトロススライドALKP」(ALKP)試薬の基礎的検討を行った。併行精度,試薬開封後の安定性は良好な結果が得られた。希釈直線性はLDHIで510 U/L,ALKPで837 U/Lまで確認できた。共存物質の影響では抱合型ビリルビンおよび非抱合型ビリルビン,乳糜,L-アスコルビン酸は影響を認めなかった。溶血ヘモグロビンについては,LDHIで濃度依存的に測定値の上昇が認められ,ALKPでは添加により測定値の低下が認められた。JSCC法との相関性は良好で,ALKPに関しては既報と同様に約1/3の測定値を示した。IFCC対照法との相関性は一部検体において,測定値の乖離が認められた。乖離検体中に含まれるアイソザイムの比率によって乖離した可能性が考えられた。本検討の結果,LDHI,ALKP両項目のIFCC法対応試薬は院内検査用試薬として十分な性能を有していると考えられ,当院は速やかにIFCC法へ移行できた。相関性の検討より,一部検体中に含まれるアイソザイム分画の比率によってビトロスと対照IFCC法試薬間で反応性が異なる可能性が示唆されたため,適切な検査,診断ができるよう各試薬の特性をよく理解し,場合によっては診療科への情報提供が必要であると考えられる。

  • 大野 真依, 木部 泰志, 清祐 麻紀子, 諸熊 由子, 西田 留梨子, 堀田 多恵子, 康 東天
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 2 号 p. 286-290
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    糞便250検体を対象にtoxigenic culture(TC),Xpert C. difficile(ベックマン・コールター株式会社,Xpert CD),C. DIFF QUIK CHEK COMPLETE(アボットダイアグノスティクスメディカル株式会社,COMPLETE)によるtoxin検出を行い,Xpert CDの性能を評価した。TCを基準とした場合のXpert CD,COMPLETEのtoxin検出感度はそれぞれ100%,17.6%であった。250検体中7検体で3法の結果に乖離が認められ,患者背景より2検体はCOMPLETEのtoxin検出感度以下,4検体はTCの培養偽陰性,1検体はXpert CDでのみ検出できたClostridioides difficile感染症(CDI)症例と考えられた。Xpert CDは菌の生存状態に影響を受けず,高感度に毒素検出が可能な点が有用と思われたが,どの検査法においても偽陽性や偽陰性があることから,CDI診断には検査結果と臨床症状とを併せた判断が重要と考えられた。また,Xpert CDは当日中に結果報告が可能であり,TCの代わりに用いることで,感染制御の観点からも有用と考えられた。以上より,Xpert CDはC. difficile毒素遺伝子を高感度かつ迅速に検出でき,CDI早期診断と治療の開始,適切な感染対策の実施に貢献できるものと期待される。

資料
  • 南 智也, 濱武 周平, 高垣 和代, 上霜 剛, 芳賀 由美, 幸福 淳子, 村山 徹, 須藤 保
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 291-296
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    目的:がんゲノム医療とは,がん遺伝子パネル検査によって得られたゲノム情報に基づき,診断と治療を行う個別化医療のことである。兵庫県立がんセンターは 2018年6月よりがんゲノム医療外来を開始した。我々は臨床検査技師の業務である検体評価,標本作製に加え,がんゲノム医療コーディネーターとして活動しているので報告する。方法:対象標本から DNAを抽出し,質と量を測定した。検体の大きさから各がん遺伝子パネル検査に必要なDNA量を算出し,適切な枚数の薄切標本を作製した。さらに患者面談を行い,がん遺伝子パネル検査や二次的所見に関する説明を行った。結果:保険収載がん遺伝子パネル検査においては94.9%の症例で解析結果が得られた。患者面談を実施することで,患者の意思や保険適用条件への合致性について確認できた。事前の患者面談により,適格した患者が絞り込まれ,がんゲノム医療外来での同意取得率は94.2%と高率であった。結論:がんゲノム医療の提供において,臨床検査技師は,検査と検体管理の実施のみならず,患者面談を実施するなど,がんゲノム医療コーディネーターとしての役割が期待されている。

  • 山下 史哲, 渡部 直人, 藤原 雅美
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 297-307
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    一般的な生化学検査項目の精度確保と標準化はすでに高水準を達成し,その品質管理業務を効率化することは今後の臨床検査室業務における課題の一つである。当院では内部精度管理台帳及び外部精度管理台帳作成に関するシステム構築を行った。そのデータベースから内部精度管理業務最適化の可能性と外部精度管理に関する要是正例を検出し,改善が可能であった。品質管理業務をシステム化することで効率化し,データベースを活用できたことは有用であり,今後の臨床検査室業務マネジメントシステム構築の一助になると考えられた。

  • 田中 伸久, 三宅 妙子
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 308-311
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    尿蛋白量は腎疾患の診断や重症度の判定に重要である。日常的には試験紙法によるスクリーニングが行われているが,尿の希釈程度によって病的蛋白の見逃しあるいは過大評価のリスクがある。そこで,0~18歳の小児を対象に,試験紙法の問題点および比重を加味することの必要性を検証した。試験紙法に加え,尿蛋白/尿クレアチニン比(urinary protein/urinary creatinine,以下Up/Ucr比)と比重が測定されていた508例について,試験紙法の結果から5群,比重から4群に分類した。Up/Ucr比が2歳未満は0.5以上,2歳以上は0.2以上を病的蛋白尿とし,試験紙法による結果と比較した。その結果,試験紙法が陰性にもかかわらず,比重が1.010以下の群では23.6%が病的蛋白尿と判定された。小児では尿の濃縮能力が不十分なため低比重尿が多く,成人以上に試験紙法では偽陰性となるリスクは高いものと思われる。病的蛋白尿を目的とするなら,小児では比重は併用すべきである。

  • 藤木 翔太, 松浦 秀哲, 坂本 悠斗, 及川 彰太, 大澤 道子, 杉浦 縁, 藤田 孝, 三浦 康生
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 312-317
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は社会的に深刻な問題となった。医療機関ではCOVID-19対応に追われる一方で,COVID-19以外の患者の治療の正常化も課題となった。当院では予定手術症例に対して,医療従事者の感染リスク低減と院内感染の防止を目的に臨床検査技師によるSARS-CoV-2抗体イムノクロマトグラフィー検査を利用した入院トリアージを開始した。今回用いた検査キットは,抗体が検出されるまで13日必要とされている。当院での運用は,この点を鑑み,入院前の2週間は外出を避けることを患者に指示した。対象は2020年5月11日から6月17日までに全身麻酔下の手術予定で入院した患者325症例。325例中16例(4.9%)で抗体を検出した。抗体の内訳はIgM抗体が14例,IgG抗体が2例であった。いずれの症例もPCR検査またはLAMP法による遺伝子検査によって陰性が確認された。COVID-19の確定診断には遺伝子検査が優れているが,PCR法/LAMP法は結果判明までに時間を要すること,コストがかかることから全例検査施行には問題があった。そこでイムノクロマトグラフィー法による抗体検査を実施し入院患者のトリアージを行った。この取り組みにより300例以上の手術が適切に実施され,医療機関にとって重要である院内感染防止に役立ち,医療従事者や患者に安心と安全を提供することができた。本運用に臨床検査の専門家として臨床検査技師が参画し,COVID-19対策チームの一員としてチーム医療に貢献できた。

  • 丹 美玖, 新後閑 俊之, 宮前 正憲, 井川 沙希子, 武谷 洋子, 舩津 知彦, 櫻井 信司
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 318-324
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    当院では,以前より希望する全職員を対象に,病院の負担でインフルエンザワクチン接種を行っている。また,インフルエンザに罹患し,休職した職員の職場復帰後には調査票を配布し,罹患状況の調査を行っている。今回,回収したデータを元に,2017–18年および2018–19年シーズンの分析を行った。ワクチン接種率は各々97%(674/696),96%(663/693)で,罹患率は8.5%(59/696),9.5%(66/693)であった。38℃以上の高熱や筋肉痛・関節痛等,典型的な症状のなかった職員が両シーズン共30%以上存在し,診断された前日ないし当日に勤務していた職員は68%(40/59),67%(44/66)であった。各々28人,22人は当院外来で診断されており,受診のために来院した職員が14人(50%),9人(41%)存在した。今回の結果から,罹患した職員はワクチン接種により症状が軽減された可能性があり,そのために多くの職員がインフルエンザと診断された当前日に通常勤務していたのかもしれない。職員自身が感染源となることを防止するため,今後もこのような分析調査を継続し,ワクチン接種により症状が軽減されること,症状が軽微な感冒様症状であっても出勤せず,まずは一次医療機関である近医でインフルエンザの検査を行うことを周知・徹底すべきと考えた。

  • 田中 真輝人, 品川 雅明, 髙橋 聡
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 325-329
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    血液培養陽性液から作製した菌濃縮液を試料とする直接迅速Methicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)検出法を検討した。対象は,当院の血液培養検査にてS. aureusが検出された37ボトルとした。対象ボトルについて,サブカルチャーで得られたコロニーによる薬剤感受性試験(標準法),血液培養陽性液から作製した菌濃縮液を試料とするMRSA-LA(本法)および血液培養液を試料とするリアルタイムPCR法(直接PCR法)によりそれぞれMRSAか否か判定を行い,結果の一致率を比較した。標準法では,対象37ボトル中11ボトルがMRSA,26ボトルがMethicillin susceptible S. aureus(MSSA)と判定された。一方,本法および直接PCR法では12ボトルがMRSA,25ボトルがMSSAと判定された。標準法を基準にした時,本法および直接PCR法のMRSA検出感度は100%,特異度は96.2%であり,1ボトルが標準法と不一致であった。不一致ボトルは,MSSAとMethicillin resistant Staphylococcus epidermidisが混在していた。Coagulase negative staphylococciの混在で注意を要するものの,本法の直接迅速MRSA検出能は良好であった。

  • 窪木 理乃, 鹿野 寛樹, 田篠 絵理香, 中原 フミ子, 松本 由美, 日下部 賢美, 深澤 千寿美, 上原 由紀
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 330-335
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    COVID-19の診断には血中SARS-CoV-2抗体測定が有用であり,様々な測定試薬が開発されているが,各試薬の比較検討はまだ十分なされていない。今回我々は,当院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と疑われた,あるいは診断確定例との濃厚接触者としてPCR検査を実施した職員37名を対象とし,4種類の血中SARS-CoV-2抗体測定試薬を用いて試薬の性能比較を行った。今回検討した試薬は,ECLIA法(DAGS法)のElecsysAnti-SARS-CoV-2(RUO)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社),CLIA法のARCHITECT SARS-CoV-2 IgG(アボットジャパン合同会社),イムノクロマト法を原理とする新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット(IgM/IgG)(倉敷紡績株式会社)および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出抗体キット(Artron)(Artron Laboratories Inc.)である。抗体陽性となった5名のうちPCR陽性例は4名であった。同時再現性および日差再現性は4試薬とも良好であった。希釈試験においてはIgMとIgGの総量を測定するElecsysAnti-SARS-CoV-2(RUO)が最も検出感度が優れていた。また,イムノクロマト法では血清の凍結融解により結果が不安定となった。抗体測定はPCR陰性例の診断にも有用であるが,各試薬の特性を理解したうえで選択する必要がある。

  • 小浦 範明, 伊藤 拓哉, 伊藤 隆光
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 2 号 p. 336-343
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    2013年4月から2019年12月の期間に腹膜透析(peritoneal dialysis; PD)関連腹膜炎と診断され,PD排液の細菌検査依頼があった55検体を対象に,塗抹検査の陽性率,2種類の培養法(血液培養ボトル法および,寒天平板培地法)を用いた培養陽性率の比較,分離菌の内訳について評価を行った。塗抹検査でのグラム染色陽性率は15件(27.2%),培養陽性率は血液培養ボトル法では45件(81.8%),寒天平板培地法では32件(58.1%)であった。分離された菌の内訳はグラム陽性菌31株,グラム陰性菌23株,真菌1株であった。また,2017年5月からPD排液検体の検体採取を看護師から臨床検査技師へと変更し,検体採取者変更前後の培養陽性率の変化について評価を行った。対象は変更前を2013年4月から2017年4月に提出された43検体,変更後を2017年5月から2019年12月に提出された12検体とした。変更前と変更後で培養陽性率はそれぞれ血液培養ボトル法で33件(76.7%),12件(100%)。寒天平板培地法で25件(58.1%),7件(58.3%)であった。臨床検査技師が検体採取を行い,血液培養ボトルで培養検査を実施することで,培養陽性率が向上することが示唆された。PD排液を用いた培養検査によって起炎菌を特定することは,適切な抗菌薬の選択に繋がるだけでなく,感染経路が推定できることから,患者教育において,バッグ交換手順の見直しや家庭環境,日常生活等の問題点の検討に有用である。

症例報告
  • 杉原 辰哉, 門永 陽子, 内藤 凌矢, 室 孝徳, 安井 宏治, 楠城 誉朗
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 2 号 p. 344-348
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    【はじめに】頸椎症の合併症であるC5麻痺発生を防ぐために術中脊髄モニタリングが有用であるとされているが未だ議論されている。今回椎間孔拡大時にFree run EMG波形異常が出現し,改善していく様子を観察し得た1例を経験したので報告する。【症例】59歳男性。主訴は右上肢の痺れと挙上困難。画像検査で椎間孔狭窄と輝度変化を認め,椎間孔拡大術と椎弓形成術が施行され,術中脊髄モニタリングを実施した。【術中モニタリング所見】右椎間孔拡大時に三角筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋で神経根障害を示唆するFree run EMG波形異常を認め,減圧の進行に伴い改善を認めた。その間Tc-MEPとSEP波形異常はみられず,術後麻痺はなかった。【結語】Free run EMG波形異常は神経根障害を捉えるのに有用とされているが,加えて神経直接刺激を用いて鑑別の精度を上げていくことが大切であると考えられる。またFree run EMG波形異常を観察する際は出現の有無だけでなく,時系列変化において振幅や周波数,波形異常の持続時間に注目していくことが重要である。

  • 萩原 祐至, 浅田 玲子, 間部 賢寛, 國澤 拓大, 松本 裕貴, 谷澤 直, 高 起良, 森島 英和
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 2 号 p. 349-355
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    症例は70代,男性。2B型von Willebrand病(von Willebrand disease Type 2B; VWD2B)で当院血液内科に通院していた。高度な貧血症状と黒色便もみられたことから当院に救急搬送され血液内科入院となった。入院時の血液検査で高度な貧血・血小板減少を認め,末梢血液像では大型血小板の凝集像を認めた。経過中に血小板が増加すると血小板凝集像は消失し,血小板減少と血小板凝集像は相関していた。VWD2Bは血小板凝集像がみられる場合があり,exon28の変異に由来するとされている。出血リスク因子である血小板減少と相関する血小板凝集像の確認はVWD2Bにおいて重要である。

  • 小河 純, 河村 健吾, 伊藤 圭祐, 根岸 優希, 木下 朋幸, 花村 圭一, 熊谷 正純
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 2 号 p. 356-361
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    【症例】症例は70代女性。20XX年4月に発作性心房細動と心房粗動のアブレーション治療目的に紹介入院。既往歴に特記事項なし。心臓カテーテル室への入室時に心房粗動であったため,アブレーションは下大静脈-三尖弁輪間峡部(CTI)アブレーションから行った。ブロックラインの作成中に心房粗動が停止し,その際に自己脈が出現しなかったため,冠静脈洞に挿入していた電極カテーテルから心房刺激を行った。その後,CTIブロックラインの作成に成功し,続けて,クライオバルーンアブレーション(CBA)による肺静脈隔離を開始した。右肺静脈へのCBA時には,横隔神経障害の予防のために複合筋活動電位(CMAP)をモニタリングするが,この時点でも自己脈が出現しなかったため,刺激頻度50回/分で心房刺激と横隔神経刺激を同時に行った。心房刺激直後にCMAPが記録でき,QRS波と重なることなくすべての波形を良好にモニタリングすることができた。横隔神経障害を合併することなく肺静脈隔離も成功し,手技は終了となった。【考察】CMAPの計測はときに体表心電図のQRS波と重なり,計測に難渋することがある。横隔神経障害によるCMAPの低下は早く,CMAPの判読がQRS波によって遅延した場合,横隔神経障害が発生してしまうこともある。今回,心房刺激と横隔神経刺激を同時に行うことによって,すべてのCMAPがQRS波と重なることがなく,CMAPのモニタリングに有効な手段であった。

  • 小堺 智文, 原 美紀子, 岩本 拓朗, 塚原 勝弘, 山田 麻衣子, 中林 徹雄, 太田 浩良
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 2 号 p. 362-367
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    前立腺癌細胞が尿や胸水細胞診中に出現することは稀であり,細胞診においては形態学的評価に加えて免疫染色の併用が診断に有用である。今回,尿と胸水細胞診中に腫瘍細胞を認めた前立腺癌の1例を報告する。70歳代男性。検診にて血清前立腺特異抗原(prostatic specific antigen; PSA)高値を指摘された。前立腺針生検では,明瞭な核小体を示す異型細胞が基底細胞層を欠いた小腺管の密集像ないしは癒合腺管を形成しており,腺癌と診断された。MRI検査にて前立腺癌の精嚢浸潤とリンパ節転移が疑われたため,前立腺全摘除術は施行されず,内分泌療法よる治療が開始された。7年後には血尿を認め,尿細胞診では明瞭な核小体を示す偏在性核を有する腺癌細胞が重積性細胞集塊を形成していた。セルブロック(cell block; CB)での免疫染色では,異型細胞はPSAが陽性であり前立腺癌と診断された。9カ月後には両側胸水貯留を認め,胸水細胞診では明瞭な核小体を有する偏在性異型核を示す腺癌細胞により構成される球状集塊を認めた。CBでは腺癌細胞はPSAが陽性であり,前立腺癌の転移と診断された。本例の尿細胞診と胸水細胞診において,CBを用いたPSA免疫染色は前立腺癌の診断に有用であった。

  • 奈良谷 俊, 木下 和久, 末永 英隆, 栗山 一孝
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 2 号 p. 368-373
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2021/04/25
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    症例は60代男性。3日前から続く呼吸苦で来院した。胸部単純X線写真で両肺に浸潤影が見られ,心不全の診断で入院となった。入院後に心機能評価のため,経胸壁心エコー図検査(TTE)を行った。TTEでは左室壁のびまん性肥厚や左房圧上昇を認めた。肺動脈弁は拡張期に流出路側へ弁腹が突出していた。肺動脈弁からの逆流は軽度であったが,弁尖の両端からのジェットであった。短軸像で観察を行うと弁尖は2枚で肺動脈二尖弁と思われた。過去の胸部造影CT画像を再構成し評価すると,TTE同様に肺動脈二尖弁であった。肺動脈二尖弁の発生頻度は稀な上,TTEで評価するには,解剖学的に困難な場合が多い。今回,肺動脈二尖弁をTTEで指摘し得たのは,長軸像での肺動脈弁閉鎖時の弁腹の流出路側への突出や,逆流ジェットの偏位を捕らえ,肺動脈弁の形態観察を試みた結果であった。さらに,心嚢液貯留等で音響窓が確保できていたことが,肺動脈二尖弁を同定できた要因だと考えられた。

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