医学検査
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技術論文
血液培養陽性検体における分離培養初期の微小コロニー群を用いた測定と通常測定での薬剤感受性検査の比較検討
大井 由佳西本 絵里奈和田 保乃花
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2021 年 70 巻 2 号 p. 237-242

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Abstract

血液培養から検出された菌の薬剤感受性検査は,早期に適切な抗菌薬で治療するために迅速化が求められている。薬剤感受性検査は,通常,単一コロニーを用いるため結果報告までに3日を要する。今回我々は,サブカルチャーから数時間後の微小コロニー群を用いて標準法と同様の方法で薬剤感受性検査を実施し,単一コロニーで実施する標準法の薬剤感受性検査結果と比較検証した。対象菌種はEscherichia coliE. coli),Klebsiella pneumoniaeK. pneumoniae)の2菌種とした。E. coli 225検体,K. pneumoniae 79検体について一致率を求めた。MIC1管差一致率はE. coliで97.3~100.0%,K. pneumoniaeで96.2~100.0%,カテゴリー完全一致率はE. coliで81.8~100.0%,K. pneumoniaeで78.5~100.0%,major errorの割合はE. coliで0~0.4%,K. pneumoniaeで0~2.5%,very major errorの割合はE. coliで0~0.4%,K. pneumoniaeで0~1.3%となり,高い一致率を示した。分離培養初期の微小コロニー群を用いた薬剤感受性検査の迅速報告が可能であることが示唆された。

Translated Abstract

Antimicrobial susceptibility tests of positive blood cultures are required for the timely treatment of patients with appropriate antibacterial drugs. Antimicrobial susceptibility tests using a single colony typically take three days to complete. Thus, we compared the antimicrobial susceptibility test results of a rapid method using microcolonies obtained after 2 to 4 hours of subculture with those of the standard method using a single colony. The target species were Escherichia coli and Klebsiella pneumoniae. The concordance rate was calculated for E. coli (225 samples) and K. pneumoniae (79 samples). The MIC 1 agreements of the rapid method and standard method were 97.3–100.0% for E. coli and 96.2–100.0% for K. pneumoniae, the category complete agreements were 81.8–100.0% for E. coli and 78.5–100.0% for K. pneumoniae, the major error rates were 0–0.4% for E. coli and 0–2.5% for K. pneumoniae, and the very major error rates were 0–0.4% for E. coli and 0–1.3% for K. pneumoniae. Thus, these findings suggest that the results of the antimicrobial susceptibility test performed using microcolonies formed in the early stage of subculture are reliable and can be reported quickly.

I  はじめに

血液培養検査は感染症の原因を特定するために重要で,特に重症敗血症や敗血症性ショックでは菌血症を合併している可能性が高く,すべての症例において原因菌の診断目的のため血液培養検査を行うことが推奨されている1)。また,原因菌が確定後には,薬剤感受性結果に基づき抗菌薬を標的治療薬に変更する必要がある1)。これは,よりよい治療効果を得るため,また,広域抗菌薬の長期使用によって高まる薬剤耐性菌の定着・二次感染・他の患者への水平感染のリスクを低下させるためである1)。特に,カルバペネム系抗菌薬に対するグラム陰性桿菌の耐性化は,治療薬をほとんどすべて失うことを意味しており1),薬剤耐性菌の出現を最小限に抑えるため,薬剤感受性結果の迅速化が求められる。血液培養検査において同定検査および薬剤感受性検査を迅速化するため,これまでに培養液を処理して用いる直接法の検討が報告されている。同定検査としては,市販の生化学パネルを用いる方法2),3)や,質量分析装置が実用化されてから専用の処理キットを用いる方法4),5)が報告されている。薬剤感受性検査についても,市販の様々な薬剤感受性分析装置で迅速化の試みが報告されている2),6),7)。近年では自動多項目同時遺伝子関連検査システムが開発され,菌名と耐性遺伝子が短時間で検出することが可能になったが8),装置やランニングコストが高く導入は容易でない。また,これらの直接法や遺伝子検査の実施後には,サブカルチャーを行い,純培養したコロニーで実施する薬剤感受性検査が欠かせない9)。同定検査のTATについては質量分析装置の導入が進み短縮されてきているが,薬剤感受性検査については迅速かつ正確に実施できる方法は定まっておらず,Antimicrobial Stewardshipを適切に行うためにも迅速化は重要な課題である。当院では,質量分析装置の導入により同定結果の報告は短縮されたが,薬剤感受性検査結果の報告は従来通り血液培養陽性から3日を要している。今回我々は,血液培養で1菌種の発育の場合,サブカルチャーから数時間後の発育し始めた微小コロニー群を用いて薬剤感受性検査を実施し,従来法と比較して迅速かつ正確な報告が可能でないか検討を行った。

II  対象と方法

1. 対象

2017年8月から2019年7月までに提出された血液培養陽性検体のうち,Escherichia coliE. coli)が検出された233検体とKlebsiella pneumoniaeK. pneumoniae)が検出された84検体の計317検体を対象とした。これは臨床との協議によりグラム陰性桿菌に限定し,そのうち当院で血液培養陽性検体から分離頻度が多いE. coliK. pneumoniaeを対象とすることとした。

2. 迅速法

血液培養陽性後,サブカルチャーおよびグラム染色を実施した。鏡検でグラム陰性桿菌のみが確認された検体について,サブカルチャーから2~6時間後,培地に発育し始めた微小コロニー群を用いてMALDI Biotyperで同定し,E. coliまたはK. pneumoniaeと同定された検体について薬剤感受性検査を実施した。この薬剤感受性検査結果を迅速法の結果とした。

3. 標準法

迅速法で使用した培地を孵卵器に入れ一晩培養し,翌日1コロニーを純培養し薬剤感受性検査を実施した。この薬剤感受性結果を標準法の結果とした。

4. 血液培養検査

血液培養検査装置はBacT/ALERT 3D(ビオメリュー・ジャパン)を使用し,好気用ボトル(FA Plus),嫌気用ボトル(FN Plus)で最大5日間培養した。陽性後は,ニッスイ分画プレート血液寒天/チョコレートEX2(日水製薬)およびニッスイ分画プレートCA羊血液寒天/DHL培地(日水製薬)に塗抹し,35℃で炭酸ガス培養をした。グラム染色はフェイバーG(日水製薬)を使用した。

5. 同定検査および薬剤感受性検査

菌株の同定には,MALDI Biotyper(ブルカーダルトニクス)を使用し,ギ酸オンプレート法で同定した。薬剤感受性検査装置はPhoenix100(日本ベクトン・ディキンソン)を使用し,薬剤感受性パネルはNMIC-207(日本ベクトン・ディキンソン)を使用した。菌液調整は,迅速法・標準法ともにPhoenix AP(日本ベクトン・ディキンソン)を使用し自動調整した。

6. 検証方法

標準法を対照とし迅速法との一致率を求めた。ただし,鏡検でグラム陰性桿菌のみと判断し迅速法を実施したが,一晩培養後に2菌種以上の発育が確認された検体については迅速法の結果が無効として除外した。無効検体は13検体となり,これを除いたE. coli 225検体,K. pneumoniae 79検体の計304検体について一致率を求めた。

1) MICの一致率

MICが完全に一致した場合を完全一致率とし,MICが大小1管差の範囲内の場合,1管差一致率として算出した。

2) カテゴリー一致率

それぞれのMIC測定法において,各抗菌薬に対する感性(S),中等度耐性(I)および耐性(R)と判定された株数を比較し,各抗菌薬に対するカテゴリーが一致した場合をcategory agreement,カテゴリーが一致しなかった場合,迅速法と標準法で1管差の一致をminor error,迅速法が耐性かつ標準法が感性をmajor error,および迅速法が感性かつ標準法が耐性をvery major errorとし,それぞれの割合を求めた。

評価薬剤はampicillin(ABPC),piperacillin(PIPC),ampicillin/sulbactam(ABPC/SBT),piperacillin/tazobactam(PIPC/TAZ),cefazolin(CEZ),cefmetazol(CMZ),latmoxcef(LMOX),cefpodxim(CPDX),ceftoxim(CTX),ceftriaxone(CTRX),ceftazidim(CAZ),cefepim(CFPM),aztoreonum(AZT),imipenem(IPM),meropenem(MEPM),ciprofloxacin(CPFX),levofloxacin(LVFX),gentamicin(GM),amikacin(AMK),sulfamethaoxazole-trimethoprim(ST),minocyclin(MINO)の21薬剤とした。

カテゴリーはClinical Laboratory Standards Institute(CLSI)のM100-S22のブレイクポイントに基づき判定した。なお,本研究は大阪急性期・総合医療センターの倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:S202004002)。

III  結果

1. MICの一致率

各薬剤の対照法に対するMICの一致率をTable 1に示した。1管差一致率はE. coli で97.3~100.0%,K. pneumoniaeで96.2~100.0%であった。完全一致率はE. coliで81.8~100.0%,K. pneumoniaeで78.5~100.0%であった。

Table 1  MIC agreement rates
antibiotics agreement rate (%)
within ± 1 dilution complete
E. coli K. pneumoniae E. coli K. pneumoniae
ABPC 99.6 100.0 96.4 94.9
PIPC 100.0 96.2 94.2 78.5
ABPC/SBT 99.1 97.5 91.1 88.6
PIPC/TAZ 100.0 98.7 94.7 97.5
CEZ 100.0 100.0 96.0 98.7
CMZ 100.0 100.0 98.7 100.0
LMOX 100.0 100.0 100.0 100.0
CPDX 100.0 100.0 99.6 100.0
CTX 100.0 100.0 98.7 100.0
CTRX 100.0 100.0 100.0 100.0
CAZ 98.2 98.7 90.7 97.5
CFPM 97.3 98.7 91.6 98.7
AZT 97.3 100.0 90.7 100.0
IPM 98.7 98.7 96.9 91.1
MEPM 100.0 100.0 99.1 100.0
CPFX 100.0 100.0 99.6 100.0
LVFX 99.6 100.0 97.3 100.0
GM 100.0 100.0 100.0 100.0
AMK 100.0 100.0 97.3 100.0
MINO 98.7 98.7 81.8 96.2
ST 99.6 100.0 99.6 100.0

2. カテゴリー一致率

各薬剤の対照法に対するカテゴリーの一致率をTable 2に示した。Category agreementはE. coliで97.3~100.0%,K. pneumoniaeで93.7~100.0%であった。また,minor errorの割合はE. coliで0.0~2.7%,K. pneumoniaeで0.0~5.1%,major errorの割合はE. coliで0.0~0.4%,K. pneumoniaeで0.0~2.5%,very major errorの割合はE. coliで0.0~0.4%,K. pneumoniaeで0.0~1.3%であった。

Table 2  Category agreement rates
antibiotics rate (%)
category agreement minor error major error very major error
E. coli K. pneumoniae E. coli K. pneumoniae E. coli K. pneumoniae E. coli K. pneumoniae
ABPC 99.1 100.0 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
PIPC 100.0 93.7 0.0 5.1 0.0 1.3 0.0 0.0
ABPC/SBT 97.8 94.9 1.8 2.5 0.4 2.5 0.0 0.0
PIPC/TAZ 99.1 98.7 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 1.3
CEZ 97.3 98.7 2.7 1.3 0.0 0.0 0.0 0.0
CMZ 99.6 100.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
LMOX 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
CPDX 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
CTX 99.6 100.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
CTRX 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
CAZ 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
CFPM 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
AZT 99.6 100.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
IPM 98.7 98.7 0.9 1.3 0.4 0.0 0.0 0.0
MEPM 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
CPFX 99.6 100.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
LVFX 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
GM 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
AMK 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
MINO 97.3 97.5 1.8 1.3 0.4 1.3 0.4 0.0
ST 100.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

IV  考察

今回の検討結果より迅速法と標準法を比較すると,抗菌薬の種類によって一致率に差があるが,多くの抗菌薬で標準法と高い一致率を示しており,迅速法での報告が可能であることが示唆された。MICの一致率については,完全一致率は平均96.7%,1管差一致率は平均99.4%,カテゴリー一致率については平均99.3%と,迅速法と標準法で良好な相関関係であった。

薬剤感受性検査の結果判定においては,very major errorおよびmajor errorに最も留意するべきである。本検討では21薬剤について評価したが,very major errorを認めた薬剤はE. coliではMINOの1薬剤,K. pneumoniaeではPIPC/TAZの1薬剤のみであった。また,major errorを認めた薬剤は,E. coliではABPC/SBT,IPM,MINOの3薬剤,K. pneumoniaeではPIPC,ABPC/SBT,MINOの3薬剤であった。多くの薬剤でvery major errorおよびmajor errorを認めず非常に良好な結果となったが,菌種によってvery major errorおよびmajor errorの起こりやすい抗菌薬が異なる可能性が示唆された。

米国食品医薬品局(FDA)による新規の薬剤感受性検査装置に求める性能指標として,reference methodと比較して①カテゴリー判定の一致率が90%以上であること,②major errorの割合が3%未満であること,③very major error推算率で0.3~3.68%であること,④発育不全株数が被検菌株の10%未満であることの4点が挙げられている10)。この指標に基づき本検討について考察した。

① カテゴリー判定の一致率については,93.7~100.0%ですべての抗菌薬について90%以上であり基準範囲内であった。

② major errorの割合については,K. pneumoniaeにおけるPIPCの2.5%が最大値でありすべて3%未満で基準範囲内であった。

③ very major error推算率については,E. coliにおけるAMKの0.4%,K. pneumoniaeにおけるPIPCの1.3%以外では0.0%であり,すべて基準範囲内であった。

④ 発育不全株は今回認められなかった。

よって本検討ではFDAの性能指標をすべて満たしており,迅速法による薬剤感受性結果が標準法と比較して妥当であると考えられた。

今回検討した迅速法の実施は発育が1菌種であることが前提となり,2菌種以上の発育を確認した場合は迅速法の結果が無効となることに留意する必要がある。当院で本検討期間中に血液培養陽性となった全検体数に対して,2菌種以上発育した検体数の割合は9.5%であったが,さらに鏡検でグラム染色性と形態から2菌種以上と鑑別できる検体を除くと,本検討の迅速法を実施するにあたって2菌種以上を見逃してしまう恐れのある検体の割合は全陽性検体数の5.1%であった。臨床的に薬剤感受性検査が不要な検体や,自動薬剤感受性検査装置で測定できない菌種も含んでいることなどの理由から一概には言えないが,迅速法により無効となるケースは比較的少ないと推察する。実際に本検討では,発育が1菌種で迅速法の結果が有効であった検体304検体に対して,2菌種以上の発育を確認し迅速法の結果が無効となった検体は13検体であり,検討総検体数に占める割合は4.1%であった。この無効となった検体の事例としては,グラム染色標本では確認できなかったごく少量の陽性菌が発育で確認された場合と,グラム陰性桿菌の発育が2種類以上確認された場合の2種類があった。この迅速法を実施するには,グラム染色標本の鏡検で菌種が1種類であるかどうか十分に観察することが重要といえる。また,ごく少量のグラム陽性菌が確認された検体ではすべてコンタミネーションと判断されたため,採取時のコンタミネーションをなるべく防ぐことが本法の精度を上げることにつながるといえる。

この迅速法の結果をリアルタイムで報告する際には,発育が1菌種であるか確認できるまで結果が変更となる恐れがあることを臨床側に理解してもらう必要がある。しかし,臨床側にとって検査結果の表示が通常と同じため結果確認が容易であり,検査室側としても日常的に使用している手順や装置を用いるため実務面での負担が小さい 。また,報告時間は約1日早く可能になり,臨床上有用であると考えられる。今後,今回検討対象とした2菌種以外の他の菌種や,カルバペネマーゼ産生菌,AmpC過剰産生菌など種々の薬剤耐性機序別での解析についてはさらなるデータ検証が必要であると考える。

V  結語

今回我々は,サブカルチャーから数時間後の発育し始めた微小コロニー群を用いて薬剤感受性検査を実施し,標準法と薬剤感受性検査結果について比較検討した。MICやカテゴリー一致率は良好であり,本方法が標準法と妥当であることが示唆された。この方法では発育が1菌種であることが絶対条件であり報告に留意する必要があるが,特別な機器やプロトコールを必要とせず従来の手順で実施でき,報告時間を約1日短縮できる点が有用であると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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