医学検査
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独自構築した精度管理台帳作成システムのデータベースを活用して改善が可能であった例
山下 史哲渡部 直人藤原 雅美
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2021 年 70 巻 2 号 p. 297-307

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Abstract

一般的な生化学検査項目の精度確保と標準化はすでに高水準を達成し,その品質管理業務を効率化することは今後の臨床検査室業務における課題の一つである。当院では内部精度管理台帳及び外部精度管理台帳作成に関するシステム構築を行った。そのデータベースから内部精度管理業務最適化の可能性と外部精度管理に関する要是正例を検出し,改善が可能であった。品質管理業務をシステム化することで効率化し,データベースを活用できたことは有用であり,今後の臨床検査室業務マネジメントシステム構築の一助になると考えられた。

Translated Abstract

To ensure that the precision and standardization of general biochemical test items are of a high level, streamlining the quality control work is one of the challenges for future clinical laboratory work. Our hospital constructed a system for creating internal and external quality control ledgers. From the database, it was possible to improve work efficiency by detecting the possibility of optimizing internal quality control operations and corrective cases requiring external quality control. Making the quality control work more efficient by systematizing it and utilizing a database is considered useful, which would be helpful for the construction of future clinical laboratory work management systems.

I  はじめに

当院では臨床検査情報システム(laboratory information system;以下LIS)で補いきれない業務を効率化するために臨床検査室マネジメントシステムを独自構築した。当初は輸血用血液製剤と輸血検査の管理システムを低コストで構築するためであった。のちに臨床検査室業務全般のデータ一元管理を目的に,試薬管理システム1)や生化学検査項目の内部精度管理台帳及び外部精度管理台帳作成システムなどを組み込んだ。適切な精度管理業務が遂行されていることの評価基準には,日本臨床化学会クオリティマネジメント専門委員会の生理的変動に基づいた許容誤差限界2)を採用しており,そこで示されているCVA(coefficient of variation of imprecision)とBA(analytical bias)を目標に精度管理台帳の作成を自動化した。内部精度管理台帳には統計処理結果とX-Rs-R管理図の他,自動判定による評価と使用されている試薬のロットと開封履歴,内部精度管理修正処置の履歴も表示されており,内部精度管理業務の改善ツールとして活用している。外部精度管理に関しては岡山県精度管理委員会主催で毎月実施されている岡山県クロスチェックサーベイ3)の集計結果データファイルを自動処理して,外部精度管理台帳の一つとして記録している。今回は構築したシステムのデータベースから示唆された,総蛋白の内部精度管理業務に関する最適化の試みと改善,クレアチニンの外部精度管理結果に対する要是正の検出と是正処置前後のモニタリング及び改善が可能であったので報告する。

II  方法

1. システム構成

ソフトにFile Maker Server 16とFile Maker Pro 16(5ライセンス)を用い,臨床検査室マネジメントシステムとして,ファイル共有システムを構築した。また,File Maker Pro Advanced 16で作成したランタイムファイルを他部署の端末に設置して入力データを共有フォルダに出力する仕様により,バッチ処理で同ファイル共有システムのサーバーにデータを取り込むことで部門を超えた業務にも活用している。

臨床検査室マネジメントシステムのメニュー画面をFigure 1に示す。配置してあるボタンをクリックすることで各業務用フォームを表示する。また,メニュー画面にはスケジュール表示や掲示板機能,発注予定の試薬リスト,有効期限切れ間近な試薬リスト,納品した輸血用血液製剤の進捗状況などを表示してミスを予防している。

Figure 1 臨床検査室マネジメントシステムのメイン画面

ボタンをクリックすることで各業務のフォーム画面を表示する。その他各種情報を表示している。

2. 生化学検査項目の内部精度管理業務フロー

装置は日本電子株式会社のJCA-BM6010,LISは同社製で付属の内部精度管理機能を利用している。日常業務として施設営業日の午前診療前と午後診療前に,市販のコントロール血清2濃度の測定を行う。使用しているコントロール血清は日水製薬株式会社のL-コンセーラI EX及びL-コンセーラII EXで,測定項目はグルコース,総ビリルビン,直接ビリルビン,ナトリウム,カリウム,クロール,カルシウム,鉄,不飽和鉄結合能,総蛋白,アルブミン,C反応性蛋白,尿酸,尿素窒素,クレアチニン,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,アラニンアミノトランスフェラーゼ,アルカリフォスファターゼ,乳酸デヒドロゲナーゼ,アミラーゼ,クレアチニンキナーゼ,ガンマグルタミルトランスペプチターゼ,コリンエステラーゼ,総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロール,LDLコレステロールの27項目である。

管理目標値は事前にコントロール血清を日常業務と同様に20日間以上測定した平均値を用いており,管理限界はCVAから算出している。例えば今回の検討項目である総蛋白において求められるCVAは1.5%である。仮に平均値が6.0 g/dLであった場合,変動係数をCV(coefficient of variation),標準偏差をSD(standard deviation),平均値をXとしたとき,CV = (SD/X) × 100(%)からSD = 0.0825を算出し,管理SD = 0.0825を設定している。当院のLISの仕様ではX-R管理図に任意の管理限界ラインを描出できないため,実際の業務では管理SDの2分の1の値,すなわち1/2管理SD = 0.04125をLIS内部精度管理機能のX-R管理図1SDとして設定,管理SDを警告限界として2SD = 0.0825を設定,管理限界として3SD = 1.2375を設定する。修正にはWestgardら4)が報告したマルチ・ルール管理法を流用して運用を行う。コントロール血清測定値に対して測定直後に必要な修正処置を行い,実施した修正処置はワークシートに記載し,精度管理台帳作成システムの内部精度管理修正処置入力フォームにて適宜入力を行う。入力ミス軽減のために,修正処置ワークシートと修正処置入力フォームは同じレイアウトにしている(Figure 2)。

Figure 2 内部精度管理修正処置内容の記入と入力

修正処置を行った際はワークシートに記入し,担当者がシステムに入力を行う。

内部精度管理台帳はコントロール血清のロット単位で毎月作成する。LISの機能で期間中のコントロール測定値をCSVファイルで出力し,そのデータを精度管理台帳作成システムに設定してあるスクリプトで取り込むと同時に自動統計処理を行う。27項目,2濃度,1ヵ月分を処理するためにかかる時間は約13分である。なお,File Maker Pro 16のスクリプト処理はサーバーではなく,クライアント側で行われる。クライアント端末の仕様はインテル®CoreTMi5-6400プロセッサー,メモリは4 GBである。

自動統計処理を行うと同時に,期間中の管理が適切であったかの評価も行う。事前に各検査項目のマスターを作成し,目標CVとして主にCVAを設定しているが5%を超えるものは5%を設定している。直接ビリルビンは測定値が低値のため10%としている(Table 1)。目標CVを達成している場合は「適正」,それ以外の場合は「要是正」と表示する。要是正となった場合は,考察を入力して必要に応じて改善を図る。

Table 1  目標CVと目標バイアス
測定項目 目標CV(%) 目標バイアス(%)
グルコース 2.9 2.3
総ビリルビン 5.0 ±0.2 mg/dL
直接ビリルビン 10.0
ナトリウム 0.4 ±2 mmol/L
カリウム 2.6 1.9
クロール 0.7 ±2 mmol/L
カルシウム 1.3 1.0
5.0 5.0
不飽和鉄結合能 5.0
総蛋白 1.5 1.2
アルブミン 1.6 1.3
C反応性蛋白 5.0 5.0
尿酸 4.4 5.0
尿素窒素 5.0 5.0
クレアチニン 2.7 4.8
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ 5.0 5.0
アラニンアミノトランスフェラーゼ 5.0 5.0
アルカリフォスファターゼ 3.9 5.0
乳酸デヒドロゲナーゼ 3.4 3.9
アミラーゼ 4.2 5.0
クレアチニンキナーゼ 5.0 5.0
ガンマグルタミルトランスペプチターゼ 5.0 5.0
コリンエステラーゼ 2.6 4.7
総コレステロール 3.4 4.5
中性脂肪 5.0 5.0
HDLコレステロール 4.2 5.0
LDLコレステロール 4.6 5.0

作成された内部精度管理台帳は,検査項目毎に2濃度の日内平均,日内変動,日間変動の値と,X-Rs-R管理図を表示している。また組み込まれているリレーションにより,内部精度管理修正処置履歴と,試薬管理システムのデータベースから試薬とコントロール血清の開封記録も表示されるので,測定値変動の要因を探るために活用している。内部精度管理台帳の例を示す(Figure 3)。現時点では台帳の紙出力とPDFファイルを保管している。

Figure 3 内部精度管理台帳の例

項目毎に毎月作成し,評価と是正,保管を行っている。

3. 生化学検査項目の外部精度管理業務フロー

主な外部精度管理として,年に一度実施されている日本臨床衛生検査技師会と岡山県臨床検査技師会の精度管理調査に参加している。加えて毎月実施されている岡山県クロスチェックサーベイに参加しており,その集計結果を精度管理台帳作成システムに取り込み活用している。

岡山県クロスチェックサーベイ参加数は約100施設あり,その集計結果データファイルはインターネット上からダウンロード可能である。当施設の参加項目は内部精度管理用コントロール血清で測定している項目のうち,直接ビリルビンと不飽和鉄結合能を除く25項目,2濃度である。精度管理台帳作成システムでは,その集計結果ファイルをスクリプトで取り込み,自動集計と評価を行う。システム仕様の都合上,全施設のデータを処理するが,要する時間は約90秒である。オリジナルの集計ファイルでは,基幹施設の平均値を目標値としてSDの幅による評価がされているが,加えて精度管理台帳作成システムでは,目標値に対してBAを評価基準として主に採用している。BAが5%を超えるものは5%で設定しているが,総ビリルビンやナトリウム,クロールは報告最小単位の2倍までを許容限界に設定している(Table 1)。

外部精度管理台帳のレイアウトは測定結果と目標値,その差に加え,目標バイアスを達成している場合のプロット点を中心にプラスマイナス方向へ各4段階で測定結果をプロット表示しており,傾向の把握が視覚的に容易な仕様である(Figure 4)。プロット幅の基準は日臨技臨床検査精度管理調査の評価基準などを参考に独自設定している(Table 2)。また,任意の項目単位で時系列表示が可能なので,一定の傾向が確認できる場合は,是正の根拠として活用している。

Figure 4 岡山県クロスチェックサーベイを利用した外部精度管理台帳の例

毎月作成し,是正のためのモニタリングとして活用している。

Table 2  外部精度管理目標バイアスのプロット幅基準
測定項目 プロット幅の基準バイアス(%)
±1 ±2 ±3 ±4
グルコース 2.3 5.0 7.5 10.0
総ビリルビン ±0.2 mg/dL ±0.3 mg/dL ±0.4 mg/dL
直接ビリルビン
ナトリウム ±2 mmol/L ±3 mmol/L ±4 mmol/L ±5 mmol/L
カリウム 1.9 2.09 2.28 2.47
クロール ±2 mmol/L ±3 mmol/L ±4 mmol/L ±5 mmol/L
カルシウム 1.0 4.08 6.12 10.00
5.0 7.5 10.0
不飽和鉄結合能
総蛋白 1.2 3.31 4.97 10.00
アルブミン 1.3 5.0 7.5 10.0
C反応性蛋白 5.0 5.5 6.0 6.5
尿酸 5.0 7.5 10.0
尿素窒素 5.0 5.5 6.0 6.5
クレアチニン 4.8 5.28 5.76 6.24
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ 5.0 7.5 10.0
アラニンアミノトランスフェラーゼ 5.0 7.5 10.0
アルカリフォスファターゼ 5.0 7.5 10.0
乳酸デヒドロゲナーゼ 3.9 5.0 7.5 10.0
アミラーゼ 5.0 7.5 10.0
クレアチニンキナーゼ 5.0 7.5 10.0
ガンマグルタミルトランスペプチターゼ 5.0 7.5 10.0
コリンエステラーゼ 4.7 5.0 7.5 10.0
総コレステロール 4.5 5.0 7.5 10.0
中性脂肪 5.0 7.5 10.0
HDLコレステロール 5.0 7.5 10.0
LDLコレステロール 5.0 7.5 10.0

III  結果

1. 総蛋白の内部精度管理における適切な管理限界の策定が可能であった例

1) 当初の運用と問題点

総蛋白の測定は株式会社カイノスのアクアオートカイノスTP-II試薬及び総蛋白・アルブミン標準血清を用いた。対象期間は2018年10月から2019年9月の12ヵ月間。毎月のCV = 1.5%を目標に内部精度管理業務を行い,期間中の月平均CVは濃度1で0.96%,濃度2で0.91%であった。また内部精度管理修正処置の月毎の回数は,最小1回,最大12回,月平均は6.0回であった(Table 3)。今回は,修正処置回数にばらつきがあることから,目標CVは達成しているが不具合が発生している例として,修正処置削減を目的に新たな管理限界を検討した。

Table 3  総蛋白における内部精度管理集計検討前
西暦年 濃度1 濃度2 是正処置回数
平均 SD CV 平均 SD CV
2018 10 5.54 0.055 0.99 8.08 0.103 1.27 8
2018 11 5.55 0.049 0.88 8.09 0.092 1.14 11
2018 12 5.56 0.061 1.10 8.07 0.065 0.81 12
2019 1 5.56 0.066 1.19 8.06 0.074 0.92 5
2019 2 5.52 0.053 0.96 8.04 0.091 1.13 5
2019 3 5.54 0.049 0.88 8.04 0.086 1.07 6
2019 4 5.59 0.047 0.84 8.10 0.051 0.63 4
2019 5 5.55 0.044 0.79 8.06 0.054 0.67 3
2019 6 5.54 0.046 0.83 8.10 0.062 0.77 6
2019 7 5.57 0.046 0.83 8.09 0.060 0.74 1
2019 8 5.54 0.059 1.06 8.07 0.063 0.78 5
2019 9 5.53 0.062 1.12 8.05 0.083 1.03 6

2) 検討方法

精度管理台帳作成システムのデータベースから対象期間中の,月毎統計処理された各濃度のSDと目標CVから算出された管理SDの差であるΔSDを抽出し,12ヵ月間の平均ΔSDを算出した(Table 4)。濃度1では管理平均値=5.55 g/dLに対して従来の管理SD = 0.08324に平均ΔSD = 0.03015を加え,新たな管理SD = 0.11339とした。濃度2では管理平均値=8.07 g/dLに対して従来の管理SD = 0.12106に平均ΔSD = 0.04740を加え,新たな管理SD = 0.16846としてLISの内部精度管理機能に設定を行い,2019年10月より運用開始した。

Table 4  総蛋白における平均ΔSD算出
西暦年 濃度1 濃度2
SD 管理SD ΔSD 平均ΔSD SD 管理SD ΔSD 平均ΔSD
2018 10 0.055 0.08310 0.02810 0.03015 0.103 0.12120 0.01820 0.04740
2018 11 0.049 0.08325 0.03425 0.092 0.12135 0.02935
2018 12 0.061 0.08340 0.02240 0.065 0.12105 0.05605
2019 1 0.066 0.08340 0.01740 0.074 0.12090 0.04690
2019 2 0.053 0.08280 0.02980 0.091 0.12060 0.02960
2019 3 0.049 0.08310 0.03410 0.086 0.12060 0.03460
2019 4 0.047 0.08385 0.03685 0.051 0.12150 0.07050
2019 5 0.044 0.08325 0.03925 0.054 0.12090 0.06690
2019 6 0.046 0.08310 0.03710 0.062 0.12150 0.05950
2019 7 0.046 0.08355 0.03755 0.060 0.12135 0.06135
2019 8 0.059 0.08310 0.02410 0.063 0.12105 0.05805
2019 9 0.062 0.08295 0.02095 0.083 0.12075 0.03775

3) 検討結果

2019年10月から2020年3月まで,6ヵ月間の集計結果を示す(Table 5)。濃度1で月毎のCVは最小1.01%,最大1.27%,平均1.18%であった。濃度2で月毎のCVは最小0.78%,最大1.06%で平均0.93%と目標CVは達成された。内部精度管理修正処置の月平均回数は0.5回と減少し,適正化が可能であった。

Table 5  総蛋白における内部精度管理集計検討後
西暦年 濃度1 濃度2 是正処置回数
平均 SD CV 管理SD ΔSD 平均 SD CV 管理SD ΔSD
2019 10 5.53 0.065 1.18 0.08295 0.01795 8.06 0.079 0.98 0.12090 0.04190 1
2019 11 5.52 0.061 1.11 0.08280 0.02180 8.01 0.085 1.06 0.12015 0.03515 0
2019 12 5.55 0.068 1.23 0.08325 0.01525 8.11 0.067 0.83 0.12165 0.05465 0
2020 1 5.55 0.070 1.26 0.08325 0.01325 8.10 0.081 1.00 0.12150 0.04050 1
2020 2 5.58 0.071 1.27 0.08370 0.01270 8.09 0.063 0.78 0.12135 0.05835 0
2020 3 5.57 0.056 1.01 0.08355 0.02755 8.11 0.075 0.92 0.12165 0.04665 1

2. 岡山県クロスチェックサーベイを利用したクレアチニンにおける是正の必要性検出と改善例

1) 当初の運用と問題点

クレアチニンの測定は株式会社シノテストのシグナスオートクレアチニンと水溶液ベースのCRE標準液(5.0 mg/dL)を使用していた。当院にて岡山県クロスチェックサーベイの集計結果を精度管理台帳作成システムで管理を開始した2016年1月から2017年8月までの時系列表示を示す(Figure 5)。集計開始から2017年3月まではいずれも目標値に対して明らかな高値傾向を示していることが確認できる。

Figure 5 外部精度管理台帳作成システムのクレアチニン時系列表示

2017年3月までは明らかな高値傾向だが,4月以降は改善傾向である。

2016年(平成28年度)6月実施の日臨技臨床検査精度管理調査では試料2濃度とも評価Aであったが,SDI(standard deviation index)評価方式では低濃度試料で2.3,高濃度試料で1.5と高値傾向が認められた。同年8月実施の岡山県臨床検査精度管理調査では,低濃度試料で評価C,高濃度試料で評価A,SDI評価方式では低濃度試料で2.6,高濃度試料で1.3と同様に高値傾向であった。

2) 検討方法

評価Cに対して行った是正処置として,装置の洗浄プログラム変更や部品交換などの検討を行いながら,精度管理台帳作成システムで毎月の岡山県クロスチェックサーベイの集計結果を自動処理してモニタリングを行った。最終的にメーカー指定血清ベースの多項目標準血清を用いて校正を行うことで,2017年4月より改善した。

3) 検討結果

2017年(平成29年度)6月の日臨技臨床検査精度管理調査では,試料2濃度とも評価Aで,SDI評価方式では低濃度試料で0.6,高濃度試料は−0.8であった。同年度8月の岡山県臨床検査精度管理調査では,試料2濃度とも評価A,SDI評価方式に関しても低濃度試料で0.4,高濃度試料は0.3と改善した。

IV  考察と課題

1. 内部精度管理台帳に関して

臨床検査室にLISが導入されている場合は,内部精度管理機能が付属している場合が多いが,品質管理としての評価や記録までは未対応の場合が多い。また施設の特性や,導入している装置,試薬などの特性により,適切な運用方法は異なる。例えば当院では複雑な内部精度管理機能を持つ高額なLIS導入は難しい。また,中小規模病院の特性として,一度開封した試薬を長期間使用することがあるため経時的変化の影響は免れない。そこで品質管理としての適切な運用と効率化するための工夫が必要となる。

今回は内部精度管理限界基準としてCVAが妥当ではあるが,総蛋白に関しては単純にその性能を目標とした運用は厳しく,要修正が目立ったことと,改善の余地が確認できたために行った検討である。

内部精度管理台帳作成を効率化するだけでなく,構築したシステムのデータベースから任意の条件でデータを抽出,活用して適正化できたことから,精度管理台帳作成システム構築は有用であると考えられた。

課題として,平均ΔSDを許容幅に加算することの明確な根拠はないが,CVAを目標とした運用から算出された指標として今後も妥当性を検証する必要がある。

管理限界の基準は,他項目もCVAを参考に設定しているが,項目によっては緩やかな基準となりすぎている場合もあるため,再検討の必要がある。今回は業務負担を軽減することが目的の検討であったため管理幅を拡大したが,狭めることを目的とした指標の算出,もしくはCVA以外の基準を検討する必要がある。

測定装置の状態が測定値に影響を与えるため,装置のモニタリングとして,内部精度管理台帳に作業管理日誌作成システムのデータベースから保守点検履歴を表示させることも可能だが,レイアウトスペースの問題があるため,現時点では採用していない。試薬管理システムの試薬開封履歴の表示も含め,管理図上に何らかのフラグを表示させることで代用できるように検討したい。

現在使用しているLISの仕様ではODBC(Open Database Connectivity)接続ができないため,LISの手動操作で一旦コントロール血清のデータを出力し,精度管理台帳作成システムでデータ取り込みと同時に自動処理を行うボタンのクリックを行うステップが存在する。File MakerはODBC接続可能なので,今後LIS更新の際はODBC接続を行うことでそのステップを省略できる可能性がある。

2. 外部精度管理台帳に関して

岡山県クロスチェックサーベイは月に一度実施されていることと,目標値として設定されている基幹施設の多くはISO15189認定施設であることより,トレーサブルなパッチワーク方式の外部精度管理としてモニタリングに活用している。今回は集計開始直後から継続して出現していた,クレアチニンが高値傾向である状態で全国規模精度管理調査に参加したところ,やはり同じ傾向が認められ,県レベルの精度管理調査も同様でかつ要是正の結果であった。推測される要因に対する是正試行と精度管理台帳作成システムによるモニタリングで最終的に改善できた例である。

オリジナルの集計データファイルはExcel形式で月単位に全参加施設の結果がリスト化されており,外れ値の結果は色付けされている。是正が示唆される場合は目視で認識は容易だが,傾向の把握は別途処理する必要がある。精度管理台帳作成システムは主にBAを許容基準に評価を4段階とし,プラスマイナス両方向へプロット表示することで目標値に対する傾向の把握が容易である。また,任意の項目と期間を抽出して表示可能なため,今回のように傾向の確認,是正の必要性検出から是正処置後のモニタリング,改善までの把握が容易である。

岡山県クロスチェックサーベイの集計結果ファイルを自動処理で効率化し,外部精度管理台帳の一つとして活用できたこと,そのデータベースを是正のモニタリングとして活用できたことから,精度管理台帳作成システム構築は有用であると考えられた。

課題としては,評価基準に用いているBAの特性上,低濃度試料での評価が厳しくなるため,今回構築したシステムは,あくまでもモニタリングとしての活用方法が適切と考えられるが,外部精度管理台帳の記録としての意味では試料の濃度によって評価基準を変更することも検討したい。

以上,効率化のために独自構築した精度管理台帳作成システムであるが,品質管理としての精度管理業務においてPDCA(Plan Do Check Action)サイクルのうち,Actionの改善手段としても有用であると考えられた。

V  結語

例えば品質管理として求められる内部精度管理限界基準としてCVAが妥当であることは明らかである。しかし必要となるコストや労力を最適化するには,初期投資としての時間と労力が必要であるし,日常業務としての台帳作成とその評価に関しても同様である。また,装置や試薬の変更などがあった場合は再検討の時間と労力が必要となる。今後の臨床検査室業務を見つめたとき,精度管理台帳作成業務だけでなく,あらゆる業務を包括し,品質管理のためのPDCAサイクルを効率的に循環させることが可能な臨床検査室マネジメントシステム構築は不可欠であると考えられる。LISやその他市販のシステムで必要を満たすことができれば最善である。しかし,現場毎に異なる事情や煩雑さを特定のフレームワークに収めるには今しばらくの期間が必要である。それまでのつなぎ役として,今回の例が一助となれば幸いである。

 

本論文は主に業務改善に主眼を置いてある。精度管理に関する業務内容は,適切ではない部分が含まれている可能性があることをご容赦願いたい。また,「臨床検査室マネジメントシステム」という表記はあくまでも業務全般におけるデータ一元化を目的としており,特に品質管理システムを示していない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本論文の執筆にあたり,ご助言いただきました倉敷芸術科学大学生命医科学科,渡部俊幸先生に深謝いたします。

文献
 
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