医学検査
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技術論文
全自動連続薄切装置の実用とその評価―病理検査における自動化―
福満 千容安倍 秀幸貞嶋 栄司高瀬 頼妃呼篠田 由佳子河原 明彦内藤 嘉紀秋葉 純
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2021 年 70 巻 3 号 p. 475-481

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Abstract

病理検査室における仕事量の増加に伴い,病理技師の負担軽減と医療安全の観点から,我々は2015年より全自動連続薄切装置を導入した。導入当時より,我々は全自動連続薄切装置における薄切切片の質の維持のためにブロック作製法を改良し続けてきた。今回我々は,全自動連続薄切装置の運用を報告すると共に,異なる組織における薄切切片の質の向上について評価した。対象は2017年1月から2018年6月までの間に提出された切除組織43,488ブロックである。初めにパラフィンブロックは技師による荒削りを行い,硬い組織を取り除いた。その後,パラフィンブロックは5ミクロンで自動薄切され,さまざまな臓器の薄切切片の質を評価した。切除組織43,488ブロックにおいて,全自動連続薄切装置で薄切したブロック数は,28,876ブロックであり,これらの薄切成功率は91.9%(26,541/28,876)を示した。特に成功率が高かった臓器は,卵巣・付属器と子宮であり,薄切切片の質は導入時に比べ明らかに改善した(p < 0.001)。当院における全自動連続薄切装置の薄切成功率は高く,病理技師の負担軽減に役立つ。自動薄切装置に適したパラフィンブロックの改良が,薄切切片の質の維持に重要である。

Translated Abstract

The workload in our pathology laboratory is steadily increasing. To improve medical safety and reduce the burden of pathological technologists, we introduced an automated tissue-sectioning machine. From the start of its introduction, we had already been making efforts to improve our method of preparing paraffin blocks to maintain tissue section quality. Here, we report on the performance of the automated tissue-sectioning machine and evaluated the improvement of the quality of slide sections of different tissue types. A total of 43,488 paraffin blocks from surgical pathology specimens were prepared routinely from January 2017 to June 2018. Initially, the paraffin blocks were roughly trimmed and hard tissues were removed by pathological technologists. The paraffin blocks were then automatically cut into sections of 5 µm thickness, and the quality of slide sections of various tissues was evaluated. A total of 28,876 paraffin blocks were automatically sectioned, and 91.9% (26,541/28,876) were evaluated as high-quality slide sections. Slide sectioning of the ovary (97.4%) and uterus (95.5%) was particularly successful compared with other tissues, and the overall quality of the slide sections of various tissues was clearly improved compared with the quality at the time of introduction of the automated tissue-sectioning machine (p < 0.001).In conclusion, high-quality sections were obtained from the automated tissue-sectioning machine, and this machine will be useful for reducing the burden of pathological technologists. Preparing paraffin blocks suitable for an automated tissue-sectioning machine is important to maintain the quality of slide sections.

I  はじめに

がん患者は年々増加しており,2017年に新たに診断された全国のがん登録患者は,約97万人と公表され,2020年の1年間におけるがんの罹患数は101万人を超えることが予測されている1)。医療技術の進歩により新しい検査法や治療が次々と臨床現場に入ってくるなか,病理技師の標本作製に費やす時間など病理検査室全体における仕事量はますます増加している2)

病理標本作製には,プレアナリシス段階やアナリシス段階の過程があり,そのほとんどが手作業で行われている。そのため,これらの過程においてヒューマンエラーによる検体取り違えなどのリスクが高いと報告されている3)。アナリシス段階にある薄切は,技術習得が難しい作業の1つであり,同時に検体取り違え事例が起こりやすい工程である4)~6)

当院では,標本作製における病理技師の負担軽減や薄切切片の貼り間違いなどのリスク低減措置のため,2015年に全自動連続薄切装置を導入した。運用当時,全自動連続薄切装置に最適なパラフィンブロック作製法は提示されていなかったため,薄切切片の質の維持のためにパラフィン変更や脱脂プログラム導入などのさまざまな工夫を取り入れながらパラフィンブロックの作製方法を変更・改良してきた。今回我々は,全自動連続薄切装置の運用を報告すると共に,さまざまな組織における薄切切片の質の向上について評価したので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

2017年1月から2018年6月までの1年6か月の間に提出された病理組織18,910症例における69,249ブロックの中で,生検25,761ブロックを除く切除43,488ブロックを対象とした。対象期間は半年ごとの3期間:前期(2017年1月から6月),中期(2017年7月から12月),後期(2018年1月から6月)に分けて薄切切片の質(成功率)を比較評価した。

2. パラフィンブロック作製条件(2018年1月から現在)

1)切り出し:切り出された臓器は,カセット内に無理なく入る大きさである厚さ3–5 mm内に可能な限り統一した。

2)脱脂プログラム(エタノール・キシレン混合液)を用いた密閉式自動固定包埋装置のプログラム:密閉式自動固定包埋装置は2台を使用した(Table 1)。1台目は,密閉式自動固定包埋装置ティシュー・テック®VIP6(サクラファインテックジャパン株式会社:以下,VIP6)の4槽目にエタノール・キシレン混合液(1:2)と5槽目にエタノール・キシレン混合液(2:1)を入れたプログラムである。2台目は,密閉式自動固定包埋装置ETP VIPM1500(サクラファインテックジャパン株式会社:以下,VIPM1500)で,主に脂肪の多い組織の処理を対象にして,4槽目,5槽目にエタノール・キシレン等量混合液(1:1)を入れ,11槽から14槽のパラフィン浸透時間を長くしたプログラムである。また,脂肪の多い組織に対しては,別途エタノール・キシレン等量混合液(1:1)を用いて1晩脱脂処理を行った後,自動固定包埋装置による処理を行った。

Table 1  密閉式自動固定包埋装置プログラム
薬液 処理時間
VIP6 VIPM1500
1 エタノール 0:30 1:00
2 エタノール 1:00 1:00
3 エタノール 1:00 1:00
4 エタノール/キシレン 3:00 2:00
5 エタノール/キシレン 2:00 3:00
6 エタノール 1:00 1:00
7 エタノール 1:00 1:00
8 キシレン 1:00 1:00
9 キシレン 1:00 1:00
10 キシレン 1:00 1:00
11 パラフィン 0:45 1:30
12 パラフィン 0:45 1:30
13 パラフィン 1:00 1:30
14 パラフィン 1:00 1:30
合計時間 16:00 19:00

3)パラフィン包埋:パラフィンはティシュー・テック®パラフィンワックスII60(サクラファインテックジャパン株式会社)を用いて60℃の融解温度で包埋を行った。なお,厚みのある包埋皿で作製したパラフィンブロックは,全自動連続薄切装置で使用できないため,統一した包埋皿を使用した。

3. ブロック選別

病理技師が全てのブロックに対して回転式ミクロトーム(Leica Biosystems RM2245)を用いて荒削りを行い,手薄切用と全自動連続薄切装置薄切用にそれぞれ選別した。手薄切を行うブロックは,1)生検組織,2)メス傷となるような石灰化を伴う組織あるいは脱灰した組織,3)筋腫などの硬い組織,4)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)などで切除された消化器のしわになりやすい組織とし,残りは全自動連続薄切装置で薄切した。

4. 全自動連続薄切装置による薄切処理

全自動連続薄切装置 ティシュー・テック スマートセクション(サクラファインテックジャパン株式会社)を用いてパラフィンブロックの自動薄切を施行した(Figure 1)。

Figure 1 全自動連続薄切装置

A:外観

B:内装 ①ブロックマガジン供給部,②薄切室,③スライドガラス保管乾燥庫。

C:薄切切片貼付の作業工程。薄切された切片は,切片搬送ベルト上を運搬され,患者情報が印字されたスライドガラスに貼付される。

5. 薄切切片の評価

薄切切片の評価は,①技師が全自動連続薄切装置で薄切された切片を目視し,切片のめくれや破れが目立つと判断した標本,②技師が顕微鏡的観察にて面出し不良や切片のしわが目立つと判断した標本の2項目で行った。

6. 統計学的解析

カテゴリカル変数は頻度(%)で表し,各期間の薄切成功率をカイ二乗検定にて解析した。また,Holm法を適用し,期間ごとの検定による多重性を調整した。なお,統計ソフトはR 3.4.4を使用し,p < 0.05を有意差ありとした。

本研究は,久留米大学医に関する倫理委員会の承認(研究番号:19246)を受けた。

III  結果

切除組織43,488ブロックに対して,全自動連続薄切装置で薄切可能と選別したブロック数は28,876(66.4%)あり,その内訳は前期9,661ブロック,中期10,170ブロックおよび後期9,045ブロックであった。選別されたブロックにおける全自動連続薄切装置の薄切成功率は,91.9%(26,541/28,876)と高値を示し,良質な薄切切片が作製されていた(Figure 2)。病理技師が手薄切したのは,切除組織43,488ブロックに対して16,947ブロック(39.0%:手薄切に選別された14,612ブロックと全自動連続薄切装置薄切失敗2,335ブロック)であった。すなわち,病理技師の負担軽減率61.0%(26,541/43,488)であった(Figure 2)。

Figure 2 全自動連続薄切装置導入における負担軽減率

切除ブロック数43,488個のうち全自動連続薄切装置で薄切した割合は66.4%であった。

結果的に薄切が成功し,技師が薄切する負担が軽減した割合は61.0%であった。

臓器別において,多くの臓器で90%以上の成功率を示しており,特に卵巣・付属器,胆管・胆道と子宮が95%以上の高い成功率であった(Table 2)。

Table 2  前期・中期・後期の3期間における臓器別薄切成功率の比較
前期 中期 後期 全期間 p
卵巣・付属器 97.4% 92.7% 96.4% 95.2% 0.003
胆管.胆道 93.8% 98.3% 95.5% 95.2% 0.150
子宮 95.5% 95.0% 94.3% 95.0% 0.250
皮膚 90.5% 94.7% 98.2% 94.6% 0.012
腎臓 92.2% 96.6% 94.9% 94.4% 0.037
肺・呼吸器系 88.6% 95.2% 96.5% 93.7% < 0.001
胎盤・臍帯 94.1% 91.7% 93.6% 93.0% 0.510
前立腺 92.4% 91.9% 94.6% 93.0% 0.180
骨・軟部腫瘍 89.5% 89.1% 96.4% 92.9% 0.004
膵臓 86.6% 94.1% 96.7% 92.1% < 0.001
リンパ節 88.6% 87.5% 97.3% 91.7% < 0.001
唾液腺 86.0% 85.6% 97.2% 89.7% < 0.001
肝臓 89.6% 86.1% 93.5% 89.3% < 0.001
乳腺 74.6% 85.3% 95.4% 83.3% < 0.001
その他 67.9% 79.5% 62.0% 90.4% 0.170
合計 89.2% 91.0% 95.8% 91.9% < 0.001

全自動連続薄切装置の薄切成功率は,前期89.2%(8,616/9,661),中期91.0%(9,259/10,170)および後期95.8%(8,666/9,045)と徐々に増加を認め,3期間における薄切切片の質は,導入時に比べ有意に改善した(p < 0.001,Holm法)(Figure 3)。

Figure 3 前期・中期・後期の各期間における薄切成功率の比較

薄切成功率は各期間の比較において有意に向上した。

IV  考察

全自動連続薄切装置の導入は,技師の負担軽減と医療安全の多方面で病理検査に貢献することが期待されている7)。しかしながら,全自動連続薄切装置を導入している施設は少なく,実施設での有効な報告がないため,さまざまな変更や工夫を要した。導入開始時は,包埋皿の統一化やパラフィンをティシュー・テック®パラフィンワックスII60へ変更し稼働させたが,切片の破れやめくれ,しわなどの不良切片が多く,その成功率は89.2%とパラフィンブロック作製に課題を認めていた。全自動連続薄切装置における薄切切片の質の向上を図るために,当院において下記のような3つの工夫を実践した。

1つ目は,ブロック選別の徹底である。石灰化や筋腫などの硬い組織の薄切は,手薄切と同様に全自動連続薄切装置でも難しいため,これらのブロックを荒削りする際に選別する必要があった。卵巣・付属器や子宮で成功率が高くなった理由として,全自動連続薄切装置で成功率の低い筋腫などの硬い組織を運用開始時より手薄切に選別できていたことが要因であると推察する。全自動連続薄切装置での薄切と手薄切を確実に選別することで二度手間を減らし,業務が円滑に遂行していった。

2つ目は,標本作製における基本の徹底である。切り出しにおいて,組織片の大きさはカセットに対して余裕が持てるように行い,薬液やパラフィンの浸透を良くするために,組織の厚さを3–5 mmにトリミングするよう可能な限り統一した。また,病理技師は定期的な全自動固定包埋装置の薬液やパラフィン交換などの日頃のメンテナンスや部内での薄切不良切片の共有など精度管理を徹底した。

3つ目は,脱脂プログラムの導入である。自動固定包埋装置の脱水過程の途中にエタノール・キシレン混合液を使用し脱脂を行うことで,希釈脱水が組織深部までおよび,パラフィン浸透効果が向上すると考えられている8)。当院では2台の全自動固定包埋装置に脱脂プログラムを使用しながら効率的にパラフィンブロック作製を行った。VIP6は,エタノール・キシレン混合液の自動調整機能を有しており,推奨される脱脂用参考プログラムと同等の脱水・脱脂処理が可能といわれている奈良医大法を用いた9)。VIPM1500は,自動調整機能がないため4槽目,5槽目の脱脂液はエタノール・キシレン等量混合液(1:1)で運用した。しかしながら,乳腺組織の薄切成功率は,74.6%と非常に低く,更なる脱脂処理の工夫が必要であった。脂肪を多く含む組織は,あらかじめエタノール・キシレン等量混合液(1:1)に一晩浸すような予備脱脂を行ってから自動固定包埋装置で処理を行うことにした10)~16)。その結果,脱脂プログラムの導入により脂肪を伴う多くの組織で不良切片が減少し,薄切切片の質は導入時に比べ明らかに改善した。

全自動連続薄切装置導入は,病理技師の手薄切ブロック数を減少させた結果,作業の負担が軽減できた。根本5)は病理部門における医療事故および「ヒヤリ・ハット事例」のほとんどが確認不足から発生し,病理検査の性質上,患者への影響は大きく,また標本作製においては切片の貼り間違い,患者ラベルの記載間違いが多いと報告している。本装置は医療安全上,切片の貼り間違えを起こさない有効な装置であり,また,夜間における自動薄切が可能で,日勤帯の過度な仕事量の増加を回避することも可能である。

一方,全自動連続薄切装置は病理技師のように素早く良質な切片を作製できないため,Turn around time(TAT)の改良が必要と考える。また,骨のような硬い組織など全てのパラフィンブロックで良質な薄切切片を作製しにくいため,全自動連続薄切装置で薄切可能なパラフィンブロックを作製する,あるいは改良していくことが肝要である。

V  結語

全自動連続薄切装置の併用運用は,病理技師の負担軽減に役立つ方法の1つである。そのため,標本作製工程を見直しながら,パラフィンブロック作製の工夫を続けていくことで,良質な薄切切片の維持や改善が期待できると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
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