医学検査
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症例報告
37℃における反応性を示した抗K自然抗体の1症例
土田 幸生佐藤 康子森脇 貴美平尾 利恵子金井 良高
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2021 年 70 巻 4 号 p. 760-765

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Abstract

赤血球輸血歴のない80歳代の日本人女性の血漿中から抗Kを検出した。9か月前の不規則抗体スクリーニングでは陰性であったため,抗K自然抗体と考えられた。この抗体はジチオスレイトール(Dithiothreitol; DTT)処理に感受性を示し,免疫グロブリンクラスはIgM型が想定されたが,37℃における反応性を有していた。また,反応増強剤無添加-間接抗グロブリン試験(saline-indirect antiglobulin test; Saline-IAT)でおよそ3週間検出可能であった。これまでのいくつかの報告例における,産生機序として微生物の関与が想定される抗K自然抗体の性状と本症例のそれとは異なる点があり,微生物の関与以外の機序の可能性が示唆された。

Translated Abstract

We detected an anti-K natural antibody from the plasma of an 80-year-old Japanese woman who had no history of red blood cell transfusion. We considered that it was an anti-K natural antibody, because the result of an unexpected antibody screening test performed nine months earlier was negative for the antibody. It showed dithiothreitol (DTT) treatment sensitivity; therefore, we considered that it was of the immunoglobulin IgM type. However, it showed reactivity at 37°C. In addition, it was detectable by the saline-indirect antiglobulin test (saline-IAT) for about three weeks. The characteristics of the anti-K natural antibody in several previous reports are partly different from those in our case, that is, the cause of the antibody production was considered to involve bacterial species. This suggests the possibility that the mechanism was exclusively bacterial involvement.

I  はじめに

抗Kは欧米においては新生児溶血性疾患や溶血性副作用の原因となる抗体として,臨床的に意義のある抗体とされている。しかし,日本人ではその大多数がK抗原陰性のため1),2),妊娠や輸血にともない免疫される機会に乏しく,これまでに抗K自然抗体として検出された報告例がいくつか存在しているにすぎない3)~10)

今回,我々も抗K自然抗体と考えられる症例を経験したので,その消長や反応性について報告する。

II  症例

80歳代,女性。

2019年4月に悪性リンパ腫と診断され,当院血液内科に入院となり化学療法6コース後に寛解。翌年6月に悪性リンパ腫再発のため,救援化学療法施行目的で再度入院となった。

妊娠・出産歴あり。輸血歴は2019年7月に血小板10単位,同年9月に新鮮凍結血漿2単位 × 2本。赤血球製剤の輸血歴はなし。

今回の入院第11病日に実施した不規則抗体スクリーニングで陽性となり,抗Kが同定された。前回の不規則抗体スクリーニングは2018年9月に実施されており,結果は陰性であった。当時使用中のスクリーニング赤血球試薬にK陽性赤血球は含まれていた。

III  検査内容

第1病日から第11病日までのCRP,好中球数。第11病日に不規則抗体スクリーニングのほかに,種々の血液型タイピング,不規則抗体同定検査,直接抗グロブリン試験(direct antiglobulin test; DAT),ジチオスレイトール(Dithiothreitol; DTT)処理血漿との反応性の確認,抗体価測定を実施した。以降,不規則抗体スクリーニングと抗体価の測定を実施した。

*抗ヒトグロブリン試薬を使用した検査で陰性の試験管すべてにIgG感作赤血球試薬を添加し,凝集が生じることを確認している。

IV  輸血検査に用いた検体および機器や試薬類

1. 材料

入院中に不規則抗体検査用に提出されたEDTA-2K加全血検体。

2. 測定装置・試薬類

1) 不規則抗体スクリーニング~同定検査,抗体価測定

ゲルカラム遠心凝集法 カード用全自動輸血検査装置はIH-1000,スクリーニング赤血球試薬はID-DiaCell I,II,III,ID-Dia,カード試薬はマイクロタイピングシステム IgGカード(以上,バイオ・ラッド)を用いた。試験管法のスクリーニング赤血球試薬はパノスクリーン・トリオ(株式会社イムコア),パノスクリーン・Dia(株式会社イムコア),同定用のパネル赤血球試薬はパノセル-16(株式会社イムコア),反応増強剤ポリエチレングリコールはオーソPEG(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社),重合アルブミンはオーソ重合ウシアルブミン液(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社),抗ヒトグロブリン試薬はガンマクローン抗IgG(グリーン)(株式会社イムコア),IgG感作赤血球試薬はチェックセル(株式会社イムコア)を,同定用のパネル赤血球試薬にはパノセル-16(株式会社イムコア)を用いた。

2) DAT

抗ヒトグロブリン試薬は上記と同じものを使用した。抗補体試薬はバイオクローン抗C3b,C3d(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を使用した。

3) DTT処理

DTT(富士フイルム和光純薬株式会社)を0.1 mol/Lリン酸緩衝液pH 8.0(富士フイルム和光純薬株式会社)で溶解し,0.2 mol/Lに調製した。

赤血球および血漿のDTT処理は以下の手順で実施した。3~5% Kホモ接合赤血球浮遊液を試験管に400 μL分注し,生理食塩液で4回洗浄。洗浄後の赤血球沈渣に調製したDTT溶液を50 μL加えよく混和し,37℃で30分間インキュベート。インキュベート後,生理食塩液で4回洗浄。洗浄後,生理食塩液を400 μL加え,DTT処理赤血球浮遊液として用いた。

血漿のDTT処理は試験管に患者血漿780 μLを分注し,調製したDTT溶液20 μLを加えよく混和。37℃で60分間インキュベートし,DTT処理血漿として用いた(血漿のDTT溶液による希釈の影響を低減させるため,今回のDTT溶液の濃度および容量を採用した)。未処理血漿はDTT溶液の代わりに生理食塩液を用いた。赤血球処理時,血漿処理時のDTT終濃度はそれぞれ約0.2 mol/Lと0.005 mol/L。

V  検査結果

不規則抗体が出現する第11病日までの末梢血好中球数は保たれており,体温は安定していた。CRPは陽性で,比較的低値であった(Figure 1)。

Figure 1 好中球数,CRPと体温の推移

入院第1~11病日までの好中球数,CRP,体温の推移

血液型はO型RhD陽性で,その他の血液型はC−c+E+e+,K−,Fy(a+b+),Jk(a+b−),Le(a−b+),P1−,M+N+S+s+であった。

不規則抗体スクリーニングはカラム凝集法,試験管法ともに陽性で,同定検査を実施した(Table 1)。

Table 1  不規則抗体スクリーニング結果
カラム凝集法 試験管法
赤血球試薬
(ID-Diacell)
LISS-IAT 赤血球試薬
(パノスクリーン)
Saline PEG-IAT
I 0 I 0 0
II 0 II 1+ w+
III DP III 0 0
Dia 0 Dia 0 0

LISS-IAT:低イオン強度溶液-間接抗グロブリン試験

DP:double cell population(凝集と非凝集赤血球の混在)

Saline:生理食塩液法,PEG-IAT:ポリエチレングリコール-間接抗グロブリン試験

ID-Diacell IIIとパノスクリーンIIはともにKヘテロ接合赤血球

同定検査から,抗Kが同定された(Table 2)。

Table 2  同定検査結果
試験管法
赤血球試薬No.
(パノセル-16)
1 2 3 4 5 6 7 8
Saline w+ 0 0 0 0 1+ w+ 0
PEG-IAT w+ 0 0 0 0 1+ w+ 0
Alb-IAT w+ N.T. N.T. N.T. N.T. 1+ w+ N.T.
Saline-IAT w+ N.T. N.T. N.T. N.T. 1+ w+ N.T.

Alb-IAT:重合アルブミン-間接抗グロブリン試験

Saline-IAT:反応増強剤無添加-間接抗グロブリン試験

N.T.:未実施

No. 1,7:Kヘテロ接合赤血球,No. 6:Kホモ接合赤血球

DATは陰性であり,患者赤血球へのIgGや補体の感作は否定的であった(Table 3)。

Table 3  DAT結果
<DAT>
多特異 抗IgG 抗C3b,d
0 0 0

続いて,DTT処理の結果を示す(Table 4)。

Table 4  DTT処理結果
0.005 mol/L DTT処理血漿とNo. 6(Kホモ接合)赤血球との反応
No. 6との反応 Saline Saline-IAT
DTT処理血漿00
未処理血漿1+1+
0.2 mol/L DTT処理No. 6赤血球との反応
No. 6との反応 Saline Saline-IAT
処理前1+1+
処理後00

DTT処理血漿とKホモ接合赤血球との反応性から,抗体の免疫グロブリンクラスはIgM型が主体であることが示唆された。また,DTT処理後のKホモ接合赤血球との反応で凝集が消失したことはKホモ接合赤血球表面上のK抗原が変性・失活した結果と考えられ,同定した抗Kの妥当性を支持する結果であった。

抗体価はKホモ接合赤血球とKヘテロ接合赤血球の2種類のK陽性赤血球を用いて,反応増強剤無添加-間接抗グロブリン試験(saline-indirectantiglobulin test; Saline-IAT)で評価した(Table 5)。

Table 5  抗体価測定結果
K陽性赤血球 血漿の希釈倍率 抗体価 スコア
×1 ×2 ×4 ×8 ×16 ×32
第11病日 ホモ接合 凝集の強さ 2+ 2+ 1+ 1+ w+ 0 1 : 8 28
スコア 8 8 5 5 2 0
ヘテロ接合 凝集の強さ 2+ 2+ 1+ 1+ w+ 0 1 : 8 28
スコア 8 8 5 5 2 0

*試験管法,Saline-IATで実施。

抗体価は1 : 8,スコアは28であり,Kホモ接合赤血球を用いた場合と,Kへテロ接合赤血球を用いた場合で明らかな差は認めなかった。

第25病日まで継続して実施した不規則抗体スクリーニング結果および測定機器で撮影された凝集像(Figure 2)と第37病日まで実施した抗体価測定の結果を示す(Figure 3)。

Figure 2 不規則抗体スクリーニング結果の推移とID-Diacell IIIの凝集像

第11,15,17,19,21,23,25病日に実施したカラム凝集法での不規則抗体スクリーニングの結果と,K陽性血球であるID-Diacell IIIの凝集像の推移

Figure 3 抗体価とスコアの推移

抗体が検出された第11病日から検出不能となった第37病日までの抗体価測定の結果

不規則抗体スクリーニングでは第17病日以降,検出感度以下となり,Kホモ接合赤血球を用いた抗体価の測定では第11病日の抗体価1 : 8,スコア28が最大値で,それらは漸減していった。第21病日にはいったん上昇に転じたものの,以降再び漸減し,第37病日にはSaline-IATでも検出感度以下となった。その後,第42,46,50,56病日に実施したSaline-IATでも検出感度以下であった。

VI  考察

今回の抗KはLISS-IATでは第17病日以降検出できなくなったが,抗体価測定で実施したSaline-IATでは引き続き検出が可能であった。抗K以外の抗体であれば,イオン強度が下がることによって赤血球への抗体の結合が促進されるため凝集の強さはLISS-IAT ≥ Saline-IATと考えられる。

Robertoら11)は抗Kの抗原との特異的な結合に関してイオン結合が全く関与していないため,赤血球への抗体の結合はイオン強度にあまり左右されない,また反応時間の違いによる凝集の強さは5分 < 20分 ≤ 45分であり,反応時間20分のLISS-IATと反応時間45分のSaline-IATにおける赤血球への抗体の結合は,5%程度の差でLISS-IAT < Saline-IATであったと報告している。

今回検出した抗体はIgM型と考えられ,またカラム凝集法と試験管法との比較のため,単純にRobertoらの報告に当てはめることはできないものの,本症例でも同様の結果となった。これは抗Kの検出においてイオン強度はほとんど影響しないため,反応増強剤としてのLISSの効果はほとんどなく,単に反応時間による凝集の強さを比較した場合と同様の結果と考えられた。したがって日常業務でLISS-IATを採用している場合,反応時間の違いや抗体価によっては抗Kを見逃してしまう可能性がある。

患者血漿のDTT処理の結果からIgM型の抗Kと考えられたが,Saline-IATでも凝集を認めた。しかし,この結果については検体や赤血球試薬の予備加温や,Saline-IATの洗浄の際に加温生理食塩液洗浄を実施していないため,IgM抗体の生理食塩液法からの凝集反応の持ち越しも十分考えられる。

抗体の免疫グロブリンクラスがIgM主体と想定されているのであれば,抗体価の測定には本来室温,10~15分の反応時間をとる生理食塩液法を採用するのがスタンダードであったが,今回はSaline-IATで凝集が認められたこと,37℃での反応性を評価したほうが,より生体内での挙動に近いのではないかと考えたこと,またIgM抗体でも低温域よりも37℃で反応性が強くなる抗体の報告12)もあり,イレギュラーではあったが抗体価の評価方法にSaline-IATを用いた。しかし,IgM型が考えられる抗体の特性の検討には,その抗体の反応温度域が広い場合,反応温度を室温および37℃とした生理食塩液法を用いることがより適していたと考える。

また,私見ではあるが,Saline-IATの凝集態度で生理食塩液法からの凝集反応の持ち越しが疑われる場合,生理食塩液法の凝集の方が強い傾向があるように思われる。これまでに報告されている抗K自然抗体が検体や赤血球試薬の予備加温やIAT実施に際し,加温生理食塩液洗浄を行ったうえでSaline-IATで凝集が陰性化していたかは不明であるが,もしそうでないならばこれまでに報告されている自然発生の抗Kとは反応性が異なっていると考えられる。

日本人の大多数がK抗原陰性であるため,Saline-IATで凝集を認める自然発生の抗Kを保有していたとしても臨床的に問題にはなりにくい,さらに,万が一,K陽性赤血球が輸血された場合でも,生体内での溶血につながるかは不明であるが,本症例のようにSaline-IATでの凝集,すなわち,37℃での反応性を確認できた場合,可能であればK抗原陰性の確認が望ましいと考えられる。

自然抗体産生の機序として,微生物の関与が考えられている。McGinnissら13)はK抗原陰性の患者が感染症に罹患中,K抗原陽性になり,死後の培養で得たStreptococcusによってin vitroでもK陰性赤血球がK様の抗原性を示すようになったと報告している。また,Marshら14)は乳児からEscherichia coliによる抗原刺激が産生機序と考えられた抗K自然抗体の検出を報告している。さらに,Kanelら15)は肺結核患者にIgM型抗Kを,鈴木ら3)は慢性感染症によると推測される抗Kの検出例を報告している。これらの報告例からは微生物によるK抗原様物質の産生,それによる感作,その結果抗K自然抗体の産生という共通の筋書きがうかがえる。今回の症例では第1病日から抗Kが初めて検出された第11病日までの期間,CRPは軽度陽性であったが,原疾患の影響と考えられ,好中球数も保たれており,発熱もなく経過していたため,細菌感染の徴候に乏しく自然発生の機序として微生物の関与は考えにくかった。

他の産生機序としては薬剤性の可能性が報告されている9)。すなわち,セファロスポリン系の抗生物質によるハプテン機序による抗薬剤抗体の関与であるが,この場合,DATが陽性になることが多いとされており16),本症例ではセファロスポリン系の抗生物質は投与されておらず,またDATも陰性であり,薬剤性の可能性も考えにくかった。

抗体の検出期間について,松井ら8)は感染症がある場合の抗K自然抗体の検出可能期間が平均3週間と短いことを指摘している。本症例においても検出可能期間はおよそ3週間と短かった。不規則抗体検査実施の間隔が前回から約9か月空いたため,この間に検出できていた可能性もあるが,感染症が考えにくい場合の抗K自然抗体でも検出期間が短い場合もある可能性が示唆された。

VII  結語

経過より抗K自然抗体と考えられる症例を経験した。本症例において産生の機序は不明であるが,感染徴候に乏しかったことから,これまでに報告されている細菌感染以外の機序の可能性が考えられた。37℃における反応性を示す自然抗体と考えられる不規則抗体が検出された場合では,抗体特異性による性状の差異も十分考慮し,検査結果判定および製剤選択を慎重に判断する事が必要と考えられた。

本稿の作成・投稿については独立行政法人国立病院機構 大阪南医療センター倫理審査委員会の迅速審査の承認を得ている(受付番号2-17)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本稿の作成にあたり,温かいご指導,ご鞭撻を頂いたNHO敦賀医療センター 研究検査科 河合健先生にこの場を借りて深謝申し上げます。

文献
 
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