医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
原著
化学発光酵素免疫測定法を用いた疾患特異的抗核抗体スクリーニング検査の日常診療における有用性の検討
小笠原 綾子生戸 健一渡邊 優子大籔 智奈美佐藤 伊都子今西 孝充三枝 淳
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 70 巻 4 号 p. 661-668

詳細
Abstract

抗核抗体検査は膠原病や自己免疫性肝炎などの自己免疫疾患の診断に重要である。今回,我々は核抗原が限定された化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)を原理とした疾患特異的抗核抗体のスクリーニング検査について,間接蛍光抗体法(IF法)との比較解析により日常診療における臨床的有用性を評価した。抗核抗体検査が診断に重要である消化器内科,膠原病リウマチ内科,皮膚科を精査解析の対象とした。消化器内科におけるCLEIA法とIF法(40倍)の判定一致率は41.9%と低く,IF法でしか検出できない自己抗体が臨床的に重要であると考えられた。膠原病リウマチ内科や皮膚科におけるCLEIA法とIF法(160倍)との判定一致率は72.8%および77.5%と低かったが,乖離例の精査解析からCLEIA法は抗SS-A抗体を含む疾患特異的抗核抗体を効率よく検出できていた。さらに,CLEIA法陰性/IF法陽性の乖離例中には,Dense fine speckled(DFS型)を示す割合が膠原病リウマチ内科と比較して皮膚科で有意に高く,対応抗体である抗DFS70抗体がほぼ全例で陽性であった。以上より,日常診療において消化器内科など一部の診療科ではCLEIA法は不向きであったものの,膠原病疾患を対象とする膠原病リウマチ内科や皮膚科では,8項目の疾患特異的抗核抗体のみをスクリーニングする目的としてCLEIA法は臨床的に有用であると考えられた。

Translated Abstract

The antinuclear antibody (ANA) test is clinically important for the diagnosis of autoimmune diseases such as connective tissue diseases and autoimmune hepatitis. The aim of this study was to evaluate the clinical utility of a screening test for eight disease-specific ANAs using a chemiluminescence enzyme immunoassay (CLEIA-ANA) in routine ANA tests and comparing the results with those of an indirect immunofluorescence assay (IF-ANA). In this study, we analyzed patients with rheumatic, dermatological, and gastrointestinal diseases because ANA tests are clinically important for these disorders. The concordance rate between CLEIA-ANA and IF-ANA (1:40) was low (41.9%) in patients with gastrointestinal diseases, suggesting that autoantibodies detected by IF-ANA alone were clinically important. The concordance rates between CLEIA-ANA and IF-ANA (1:160) were 72.8% in patients with rheumatic diseases and 77.5% in patients with dermatological diseases. CLEIA-ANA efficiently detects eight disease-specific ANAs including anti-SS-A antibody, which is frequently overlooked in patients with rheumatic and dermatological diseases when using IF-ANA. The positivity rate for a dense fine speckled (DFS) staining pattern in sera from CLEIA-ANA-negative/IF-ANA-positive patients (1:160) was significantly higher in patients with dermatological diseases (17/45) than in those with rheumatic diseases (5/40) (p = 0.0123). Of 17 patients with dermatological diseases with a DFS staining pattern, 16 were positive for the anti-DFS70 antibody, which is frequently detected in those with skin diseases and in healthy subjects. Indeed, more than half of the 16 patients had a skin disease. In summary, CLEIA-ANA efficiently detects eight disease-specific ANAs in routine ANA tests of patients with rheumatic and dermatological diseases, although in some other patients, such as those with gastrointestinal diseases, they are undetectable by CLEIA-ANA owing to solid-phase antigens.

I  はじめに

抗核抗体検査は膠原病や自己免疫性肝炎などの自己免疫疾患の診断において重要である1)。抗核抗体のスクリーニングには間接蛍光抗体法(IF法)が標準法として国際的に推奨されているが2),臨床的意義が不明な抗核抗体も多く,健常人での陽性率が高いことも問題点として指摘されている3),4)

近年,IF法の染色型に関する国際的コンセンサス(International Consensus on ANA patterns; ICAP)により,染色型の命名と分類,対応抗原と臨床的意義の解釈などが公表された5),6)。ICAPによるIF法の染色型は,従来の抗核抗体のみならず細胞質や分裂装置に対する自己抗体に由来する染色型も細かく分類されており,現在までに合計29種類の染色型が報告されている。注目すべきは,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)で見られる「AC-1 - Nuclear Homogeneous」といった臨床的意義が明らかな染色型に加えて,アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患や健常人での報告が相次いでいる抗DFS70抗体7)に由来する「AC-2 - Nuclear dense fine speckled」や一部の抗細胞質抗体など臨床的意義が不明な染色型も明確化されたことである。

一方,限定した核抗原のみを使用した検査は健常人での陽性率が低く,疾患特異的抗核抗体のみを効率よくスクリーニングできる点で有用である8)~10)。以前に我々が検討した化学発光酵素免疫測定法を原理とした疾患特異的抗核抗体のスクリーニング検査では健常人での陽性率が低く,膠原病疾患においてIF法では検出が困難な抗SS-A抗体や抗Jo-1抗体など8項目の疾患特異的抗核抗体のみを効率よくスクリーニングできる点で有用であった11)。今回,我々はこの疾患特異的抗核抗体のスクリーニング検査について,日常診療における臨床的有用性を評価した。

II  材料および方法

1. 対象

2017年8月1日から2018年8月20日に抗核抗体検査が依頼された3,111例を対象とした。このうち,抗核抗体検査が診断に重要である消化器内科,膠原病リウマチ内科,皮膚科を精査解析の対象とした。精査解析の期間として,膠原病リウマチ内科の173例は2018年3月1日から2018年5月31日,消化器内科の241例と皮膚科の280例は2017年9月1日から2018年8月20日に抗核抗体検査が依頼された検体を使用した。試料は血清分離後 −30度以下で保存した。なお,本研究は神戸大学大学院医学研究科医学倫理委員会の承認を得て,検体の採取や分析は対象患者に情報公開を行ったうえで実施した(承認番号:170072)。

2. 試薬と分析機器

化学発光酵素免疫測定法を原理とした8項目(抗dsDNA抗体,抗RNP抗体,抗Sm抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,抗Scl-70抗体,抗セントロメア抗体および抗Jo-1抗体)の疾患特異的抗核抗体のスクリーニング試薬には,「ステイシアMEBLuxテストANA」(以下CLEIA法,医学生物学研究所:MBL社)を使用し,全自動臨床検査システムSTACIA(LSIメディエンス社)で測定した。結果判定は添付文書記載のカットオフ値10 Index以上を陽性とした。

IF法による抗核抗体検査は「Premmune HEp20-10FANA」(以下IF法,コスミックコーポレーション社)を使用した。抗体価のカットオフ値は添付文書に記載されている40倍と膠原病の鑑別に用いられる160倍とした。

染色型の判定は,均質(Homogeneous; Ho)型,辺縁(Peripheral; Pe)型,斑紋(Speckled; Sp)型,核小体(Nucleolar; Nu)型,セントロメア(Centromere; Ce)型,核膜(Nuclear envelope; NE)型,顆粒(Granular; Gra)型および細胞質型を分類した。CLEIA法とIF法の乖離検体には,ICAPに準じた染色型分類のうち「AC-2 - Nuclear dense fine speckled」(DFS型)の判定も実施した。DFS型は,間期核全体的に観察される特徴的なモザイク状の微細な斑点染色(不均一な斑点サイズ,不均一な輝度および不均一な密度)を示し,かつ有糸分裂核のクロマチン領域に同様の染色(濃密で不均一な斑点)が見られる典型的な染色像により判定した(Figure 1)。

Figure 1 IF法によるdense fine speckled(DFS)型の染色像

全体像(A, C, E)と間期核(白矢印)および分裂期核(黄矢印)の拡大像(B, D, F)。DFS型(A, B),均質(Homogeneous; Ho)型(C, D),斑紋(Speckled; Sp)型(E, F)

8項目の疾患特異的抗核抗体および疾患非特異的な抗ssDNA抗体の各々の検出は,「ステイシアMEBLuxテストシリーズ」(MBL社)を使用し,全自動臨床検査システムSTACIA(LSIメディエンス社)で測定した。結果判定は各々の添付文書記載のカットオフ値を用いた。

抗DFS70抗体は,「DFS70 ELISA Kit」(MBL社)を使用し,用手法で測定した。結果判定は添付文書のカットオフ値15 Index以上を陽性とした。

皮膚科と膠原病リウマチ内科CLEIA法陰性/IF法(160倍)陽性の乖離例中のDFS型の割合の比較は,JMP(ver. 12.0,アメリカ)のFisherの正確確率検定を用い,p < 0.05を統計学的有意差ありとして判定した。

III  結果

1. 全診療科におけるCLEIA法とIF法の判定一致率

全診療科3,111例におけるCLEIA法とIF法(40倍)の判定一致率は40.6%,CLEIA法とIF法(160倍)の判定一致率は74.3%であった(Table 1)。

Table 1  全診療科,膠原病リウマチ内科,消化器内科および皮膚科におけるCLEIA法とIF法の判定一致率
診療科 CLEIA法陽性/IF法陽性 CLEIA法陰性/IF法陰性 CLEIA法陽性/IF法陰性 CLEIA法陰性/IF法陽性 全検体数 一致率
(%)
CLEIA法/IF法
(40倍)
全診療科 711 551 34 1,815 3,111 40.6%
消化器内科 55 46 4 136 241 41.9%
CLEIA法/IF法
(160倍)
全診療科 556 1,755 189 611 3,111 74.3%
膠原病リウマチ内科 50 76 7 40 173 72.8%
皮膚科 35 182 18 45 280 77.5%

2. 消化器内科におけるCLEIA法とIF法の判定一致率と乖離例の解析

2017年9月1日から2018年8月20日に検査依頼があった消化器内科241例におけるCLEIA法とIF法(40倍)の判定一致率は41.9%であった(Table 1)。CLEIA法陰性/IF法(40倍)陽性の乖離136例のうち原発性胆汁性胆管炎が17例(疑い含む),自己免疫性肝炎が19例(疑い含む)やその他,B型肝炎などさまざまな疾患が含まれていた。CLEIA法陰性/IF法(40倍)陽性の乖離136例およびCLEIA法陽性/IF法(40倍)陰性の乖離4例におけるIF法の染色型判定や疾患に特徴はなく一定でなかった。

3. 膠原病リウマチ内科におけるCLEIA法とIF法の判定一致率と乖離例の解析

2018年3月1日から2018年5月31日に検査依頼があった膠原病リウマチ内科173例におけるCLEIA法とIF法(160倍)の判定一致率は72.8%であった(Table 1)。CLEIA法陽性/IF法(160倍)陰性の乖離7例の結果をTable 2に示した。乖離7例のうち抗SS-A抗体が5例,抗dsDNA抗体が2例,抗ssDNA抗体が3例陽性であった。一方,CLEIA法陰性/IF法(160倍)陽性の乖離40例のIF法の染色型判定において,Ho型とSp型の混在型(Ho + Sp混在型)が14例(35%),DFS型が5例(12.5%),その他の染色型は21例(52.5%)であった(Figure 2)。

Table 2  膠原病リウマチ内科におけるCLEIA法陽性/IF法(160倍)陰性の乖離例の精査解析
No. 疾患名 CLEIA法 IF法 疾患特異的自己抗体 疾患非特異的
自己抗体
抗体価 染色型 dsDNA RNP Sm SS-A SS-B Scl-70 CENP-B Jo-1 ssDNA
1826 関節リウマチ 10.6 + 80 Ho + Sp 14.4 + 4.1 − 0.7 − 1.0 − 0.7 − 2.5 − 0.7 − 0.5 − 28.0 +
1867 非小細胞性肺がん 38.8 + 40 Sp 2.6 − 0.3 − 0.1 − 19.5 + 0.1 − 0.1 − 2.9 − 0.2 − 8.5 −
1962 関節リウマチ 273.9 + 80 Sp 8.8 − 0.2 − 0.2 − 476.8 + 0.2 − 0.2 − 0.2 − 0.1 − 22.4 −
2034 シェーグレン症候群 97.5 + 80 Sp 13.4 + 1.6 − 1.2 − 100.0 + 0.4 − 0.5 − 0.6 − 0.1 − 33.4 +
2066 確定診断なし 11.8 + 4.5 − 4.1 − 0.2 − 1.1 − 0.1 − 0.3 − 0.2 − 0.1 − 9.5 −
2178 結節性多発動脈炎 22.4 + 7.2 − 0.2 − 0.2 − 17.3 + 0.1 − 0.3 − 0.3 − 0.1 − 12.5 −
2466 関節リウマチ 66.4 + 80 Ho + Sp 7.5 − 0.3 − 0.4 − 73.6 + 0.3 − 1.2 − 0.3 − 0.2 − 47.8 +
Figure 2 膠原病リウマチ内科および皮膚科におけるCLEIA法陰性/IF法陽性の乖離例の染色型解析

4. 皮膚科におけるCLEIA法とIF法の判定一致率と乖離例の解析

2017年9月1日から2018年8月20日に検査依頼があった皮膚科280例におけるCLEIA法とIF法(160倍)の判定一致率は77.5%であった(Table 1)。CLEIA法陽性/IF法(160倍)陰性の乖離18例の結果をTable 3に示した。乖離18例のうち抗SS-A抗体が7例,抗RNP抗体が3例,抗Sm抗体が1例,抗SS-B抗体が1例,抗Scl-70抗体が2例,抗セントロメア抗体が1例,抗ssDNA抗体が7例陽性であった。一方,CLEIA法陰性/IF法(160倍)陽性の乖離45例のIF法の染色型判定において,Ho + Sp混在型が14例(31.1%),DFS型が17例(37.8%),その他の染色型は14例(31.1%)であった(Figure 2)。乖離45例中のDFS型の割合は膠原病リウマチ内科の割合と比較して有意に高かった(p = 0.0123)。

Table 3  皮膚科におけるCLEIA法陽性/IF法(160倍)陰性の乖離例の精査解析
No. 疾患名 CLEIA法 IF法 疾患特異的自己抗体 疾患非特異的自己抗体
抗体価 染色型 dsDNA RNP Sm SS-A SS-B Scl-70 CENP-B Jo-1 ssDNA
2933 全身性エリテマトーデス 51.4 + 80 Ce + Sp 6.6 − 18.2 + 353.6 + 6.8 − 1.3 − 0.2 − 14.0 + 0.2 − 545.1 +
778 限局性強皮症 14.6 + 80 Sp 0.1 − 0.2 − 3.3 − 1.3 − 0.7 − 1.5 − 0.4 − 0.1 − 11.2 −
941 結節性紅斑 12.3 + 80 Ho + Sp 0.1 − 1.1 − 0.1 − 1.3 − 0.7 − 3.6 − 0.2 − 0.1 − 12.5 −
2841 関節症性乾癬 14.2 + 80 Sp + Ho 0.2 − 0.5 − 0.5 − 0.7 − 0.8 − 0.6 − 0.7 − 0.3 − 79.2 +
360 皮膚筋炎 21.9 + 80 Sp 0.1 − 20.3 + 0.2 − 0.5 − 0.3 − 0.9 − 0.2 − 0.2 − 9.3 −
1678 関節リウマチ 24.5 + 80 Sp + Ho 0.2 − 0.2 − 2.5 − 13.5 + 1.3 − 0.3 − 0.4 − 0.1 − 11.9 −
1134 慢性蕁麻疹 14.4 + 40 Ho + Sp 0.4 − 2.2 − 3.7 − 18.9 + 5.1 − 2.4 − 1.1 − 1.0 − 16.9 −
1638 シェーグレン症候群 216.9 + 80 Sp 0.1 − 0.7 − 0.5 − 399.4 + 1.0 − 0.2 − 0.2 − 0.3 − 5.1 −
318 慢性蕁麻疹 13.0 + 80 Sp 0.7 − 0.8 − 0.4 − 0.7 − 0.6 − 0.6 − 0.3 − 0.1 − 107.7 +
261 慢性蕁麻疹 24.6 + 40 Sp 1.1 − 0.2 − 1.6 − 0.3 − 0.3 − 15.1 + 0.3 − 0.1 − 800.0 +
610 毛細血管拡張症 26.7 + 80 Sp 0.1 − 0.2 − 0.1 − 19.3 + 1.1 − 0.2 − 0.3 − 0.1 − 5.1 −
321 特発性慢性蕁麻疹 11.6 + 40 Sp + Ho 0.2 − 0.5 − 0.5 − 0.3 − 0.7 − 3.2 − 4.4 − 0.2 − 17.8 −
359 皮脂欠乏性湿疹 29.5 + 0.1 − 0.5 − 0.8 − 0.8 − 0.6 − 0.1 − 0.1 − 0.1 − 25.8 +
472 結節性紅斑 74.8 + 80 Sp 0.3 − 0.6 − 0.7 − 47.9 + 25.4 + 0.2 − 0.5 − 0.1 − 75.6 +
1078 毛孔性扁平苔癬 18.7 + 80 Sp 0.2 − 13.0 + 1.8 − 3.1 − 0.6 − 0.7 − 0.5 − 0.2 − 12.8 −
1548 確定診断なし 14.8 + 0.1 − 2.3 − 0.3 − 2.2 − 0.3 − 0.7 − 0.3 − 0.3 − 137.3 +
2531 確定診断なし 19.1 + 3.5 − 0.2 − 0.4 − 14.9 + 0.4 − 0.1 − 0.3 − 1.3 − 7.1 −
2863 円形脱毛症 78.0 + 40 Sp + Ho 0.1 − 0.1 − 0.1 − 56.3 + 0.4 − 13.1 + 0.3 − 0.1 − 5.7 −

CLEIA法陰性/IF法(160倍)陽性の乖離45例のうち,DFS型と判定した17例の精査解析の結果をTable 4に示した。乖離17例の疾患の内訳は慢性蕁麻疹やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患が多く,一部は膠原病疾患や関連する臨床症状などが含まれていた。IF法の抗体価は160倍から640倍が15例と最も多く,1,280倍が1例,2,560倍が1例であった。ELISA法による抗DFS70抗体の確認検査では乖離17例のうち16例が陽性となった。8種類の疾患特異的抗核抗体および抗ssDNA抗体の有無を検討したところ,抗Sm抗体がカットオフ値付近で1例のみ陽性(10.0 U/mL)となった以外は全て陰性であった。

Table 4  皮膚科におけるCLEIA法陰性/IF法(160倍)陽性のうちDFS型を示した乖離例の精査解析
No. 年齢 性別 疾患名 CLEIA法 IF法 抗DFS70抗体(ELISA法) 疾患特異的自己抗体
抗体価 染色型 DFS染色型
40 14 M 慢性蕁麻疹 640 Ho + Sp + 80.2 +
184 23 F アレルギー性皮膚炎 1,280 Ho + Sp + 125.6 +
320 44 F 慢性蕁麻疹 160 Ho + Sp + 68.5 +
452 62 F 膠原病疑い 160 Ho + Sp + 31.9 +
486 41 M 円板状エリテマトーデス 160 Ho + Sp + 2.1 −
617 67 F 多形慢性痒疹疑い 2,560 Ho + Sp + 154.6 + 抗Sm抗体
821 51 F 蕁麻疹様血管炎,蕁麻疹様紅斑 320 Ho + Sp + 53.7 +
921 53 F 光線過敏症 160 Ho + Sp + 35.4 +
962 58 F アトピー性皮膚炎 160 Ho + Sp + 43.3 +
1087 48 F アトピー性皮膚炎 160 Ho + Sp + 23.7 +
1825 42 F 慢性蕁麻疹 320 Ho + Sp + Gra + 41.6 +
1878 45 M 尋常性乾癬 640 Ho + Sp + 112.5 +
2115 40 F 円形脱毛症 320 Ho + Sp + 70.7 +
2257 11 F 限局型強皮症 160 Ho + Sp + Gra + 62.6 +
2769 39 M 慢性蕁麻疹 320 Ho + Sp + Gra + 47.7 +
2848 51 F レイノー症候群 320 Ho + Sp + 62.2 +
2909 7 F 慢性蕁麻疹,小児アトピー性皮膚炎 160 Ho + Sp + Gra + 51.0 +

IV  考察

2013年に欧州と米国の標準化委員会から提示された抗核抗体検査の推奨事項では,IF法は抗核抗体検査のスクリーニングの標準法と推奨されているが,偽陰性率や偽陽性率がIF法と異なる可能性を注意しながらCLEIA法などの代替法も使用可能であると記載されている2)。近年,IF法よりも膠原病診断の感度と特異度が高いまたは同等の代替法も開発されており12),これらの代替法は自動化への応用から操作が簡便となり客観的な評価が可能である。我々が検討したCLEIA法は8項目(抗dsDNA抗体,抗RNP抗体,抗Sm抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,抗Scl-70抗体,抗セントロメア抗体および抗Jo-1抗体)の疾患特異的抗核抗体のスクリーニング検査である。健常人と膠原病疾患を対象とした以前の我々の検討では,感度・特異度ともにIF法と同等であり,疾患特異的抗核抗体を効率よく検出するうえで有用であった11)。今回,我々は抗核抗体検査が診断に重要である複数の診療科について,CLEIA法を用いた疾患特異的抗核抗体のスクリーニング検査が日常診療においても有用かどうかを検討した。

消化器内科においては,自己免疫性肝炎の診断基準に,抗核抗体陽性が含まれるため,IF法のカットオフ値40倍とCLEIA法との判定一致率を検討した。全診療科における判定一致率41.6%と比べて,消化器内科におけるCLEIA法とIF法(40倍)の判定一致率は41.9%と大きな差はみられず,両測定法の乖離例におけるIF法の染色型や疾患などの特徴は認められなかった。IF法と関連する原発性胆汁性胆管炎や自己免疫性肝炎などで検出される自己抗体の代表的な対応抗原として,gp210,Sp100や核膜ラミンなどが報告されているが13),これらの抗原のほとんどはCLEIA法に含まれていないためにその一致率が低いと考えられた。また,B型肝炎やC型肝炎などの慢性炎症性疾患でも低抗体価で抗核抗体陽性となることも報告されており,これらも対応抗原が不明な場合が多い14)。したがって,消化器内科の日常診療においては,IF法でしか検出できない自己抗体が臨床的に重要であり,核抗原が限定されたCLEIA法はそれらのスクリーニングには不向きであると考えられた。

一方,全身性エリテマトーデス,全身性強皮症や皮膚筋炎などの膠原病を対象としたIF法のスクリーニングでは,我々やTanらは40倍(疾患特異的抗核抗体の捕捉)と160倍(膠原病の鑑別)の2つのカットオフ値を使い分けることを推奨している3),4)。以前の我々の膠原病疾患を対象とした検討では,CLEIA法はIF法(160倍)との判定一致率が86.3%と低かったものの,CLEIA法では抗SS-A抗体や抗Jo-1抗体などIF法で検出が困難とされる疾患特異的抗核抗体を効率よく検出できていた。今回,精査解析の対象とした膠原病リウマチ内科や皮膚科では,膠原病疾患の鑑別が重要であることから,IF法(160倍)とCLEIA法との判定一致率を検討した。全診療科におけるCLEIA法とIF法(160倍)の判定一致率74.3%と比べて,膠原病リウマチ内科は72.8%,皮膚科は77.5%と大きな差はなかった。以前の我々の検討の86.3%11)と比較すると,今回の検討における判定一致率はやや低くなったが,以前の検討と今回の検討では核材や二次抗体を含む使用試薬が異なることや確立した膠原病疾患以外にさまざまな患者が含まれていたことが要因となった可能性がある。しかしながら,膠原病リウマチ内科と皮膚科ともにCLEIA法陽性/IF法陰性の乖離例中にIF法で検出しにくい抗SS-A抗体を含む疾患特異的抗核抗体が認められたことから,以前の我々の検討と同様にCLEIA法は疾患特異的抗核抗体のみを効率よくスクリーニングするうえで有用と考えられた。

さらに,CLEIA法陰性/IF法陽性の乖離例は膠原病リウマチ内科で40例,皮膚科で45例認められたが,精査解析の結果からIF法の染色型の割合が大きく異なることが明らかとなった。特に,ICAPによる染色型の判定のうち,抗DFS70抗体に由来するDFS型が膠原病リウマチ内科では5/40例(12.5%)であったのに対して皮膚科では17/45例(37.8%)とその割合が有意に高かった。抗DFS70抗体はアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患や健常人で陽性率が高いとの報告が多く,抗DFS70抗体が陽性であっても種々の疾患に特異的な自己抗体が陰性であれば膠原病疾患の可能性が低いとされている15)。今回,皮膚科の乖離例45例中にDFS型は17例であり,そのうち16例で抗DFS70抗体が陽性であることを確認できた。さらに,DFS型を示した半数以上が慢性蕁麻疹やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患を有する患者であり,従来は抗核抗体陽性から膠原病を疑われていた,あるいは外来フォローの対象となっていた患者について,それらを除外する根拠にもなり得る可能性が示唆された。これらのことから,皮膚科の日常診療では,CLEIA法は皮膚疾患や健常人で出現するような抗DFS抗体を捉えることなく,膠原病疾患に関連する疾患特異的抗核抗体のみを効率よくスクリーニングできる点で優れていると考えられた。

V  結語

日常診療において,主に膠原病のスクリーニング目的で抗核抗体検査を行う膠原病リウマチ内科と皮膚科では,CLEIA法による抗核抗体検査は臨床的に有用であると考えられた。一方,IF法でのみ検出される自己抗体をスクリーニングすることが目的で抗核抗体検査を行うことが多い消化器内科においては,CLEIA法は不向きと考えられた。

いずれの診療科においてもCLEIA法が陰性であり,臨床症状から疑われる疾患特異的抗核抗体の存在が懸念される場合には,状況に応じてIF法や個別の自己抗体の追加検査を行う必要がある。また,SLEや自己免疫性肝炎はIF法が診断基準に組み込まれているため,そのスクリーニングにはIF法を優先することが望ましい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top