医学検査
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資料
小児Mycoplasma pneumoniae肺炎におけるスマートジーン® Mycoの有用性
宮澤 翔吾後藤 研誠河内 誠及川 加奈魚住 佑樹舟橋 恵二西村 直子尾崎 隆男
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2022 年 71 巻 1 号 p. 101-105

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Abstract

Mycoplasma pneumoniae(Mp)DNAとそのマクロライド耐性化遺伝子変異を同時かつ迅速に検出できる遺伝子検査法のスマートジーン® Myco(スマートジーン)について,小児Mp肺炎における有用性を検討した。2019年4月からの1年間に,当院小児科に肺炎で入院した146例(7か月~14歳7か月)から咽頭ぬぐい液を採取し,スマートジーンとloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法を用いてMp遺伝子検査を行った。スマートジーンでMp DNAが検出されたのは43例(29.5%)であり,その遺伝子変異陽性率は25.6%(11/43)であった。Mp DNA検出におけるスマートジーンのLAMP法との比較では,陽性一致率95.5%,陰性一致率99.0%,全体一致率97.9%であり,高い一致率を示した。遺伝子変異の結果判定後に抗菌薬が変更されたのは変異陽性群で7例,変異陰性群で8例あり,最終的にマクロライド系抗菌薬で治療されたのは,変異陽性群で9.1%(1/11),変異陰性群では93.8%(30/32)であった(p < 0.01)。迅速・簡便にMp DNAと遺伝子変異を検出できるスマートジーンは,小児Mp肺炎において適切な抗菌薬選択に寄与できる有用な遺伝子検査法である。

Translated Abstract

Smart Gene® Myco (Smart Gene) is a gene testing kit that simultaneously and rapidly detects Mycoplasma pneumoniae (Mp) DNA and the macrolide resistance gene mutation. We studied the usefulness of Smart Gene in pediatric Mp pneumonia. Pharyngeal swab specimens were collected during a one-year period from April 2019. Specimens were collected from 146 patients (aged 7 months to 14 years and 7 months) who were hospitalized for pneumonia at the Pediatric Department of our hospital. Mp gene testing was performed using Smart Gene and the loop-mediated isothermal amplification (LAMP) method. Smart Gene detected Mp DNA in 43 patients, and the macrolide resistance gene mutation positivity rate was found to be 25.6% (11/43). We found a high agreement rate between Smart Gene and the LAMP method for detecting Mp DNA; the agreement rate for positivity was 95.5%, the agreement rate for negativity was 99.0%, and the overall agreement rate was 97.9%. The macrolide resistance gene mutation test showed that seven patients were resistance-gene-positive and eight patients were resistance-gene-negative; on the basis of these findings, their antimicrobials were changed. Ultimately, 9.1% (1/11) of the resistance-gene-positive patients and 93.8% (30/32) of the resistance-gene-negative patients were treated with macrolides (p < 0.01). Smart Gene can rapidly and efficiently detect Mp DNA and the macrolide resistance gene mutation and is a valuable gene test method for the rapid choice of the appropriate antimicrobials in pediatric Mp pneumonia.

I  はじめに

Mycoplasma pneumoniae(Mp)は,小児呼吸器感染症の主要な起因病原体である1)。細胞壁を持たないためβラクタム系抗菌薬が無効であり,抗菌薬療法としてマクロライド系抗菌薬が第一選択薬となっている2),3)。しかし,近年マクロライド耐性のMpが報告されるようになり,臨床上の問題となっている4),5)

2011年に10月に保険収載されたloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法は,迅速かつ高感度な遺伝子検査法であり,急性期の確定診断には最も優れているとされている6),7)。われわれはこれまでMp感染症の病原診断に,LAMP法によるMp DNA検出を用いてきた8),9)

2018年,Mp DNAとそのマクロライド耐性化遺伝子変異(以下,遺伝子変異)を50分以内に同時に検出できる迅速・簡便な遺伝子検査法としてスマートジーン® Myco(スマートジーン)が市販された。スマートジーンはpolymerase chain reaction(PCR)法を原理とし,核酸抽出から核酸増幅,判定まで一連の操作を全自動かつ短時間で行うことができる遺伝子検査法である。また同時に,23SrRNAのドメインVに位置する2,063番目または2,064番目の塩基配列の相同性から遺伝子変異10),11)の検出も可能である。今回,小児肺炎入院例においてスマートジーンとこれまで行ってきたLAMP法を比較するとともに,スマートジーンによる遺伝子変異の検査結果が抗菌薬の選択や患者の臨床経過にどのような影響を与えたかを調査した。

II  対象と方法

2019年4月~2020年3月の1年間に,当院こども医療センターに肺炎で入院した146例(9か月~14歳:年齢中央値4歳3か月)を対象とした。入院時に医師により咽頭ぬぐい液を2本同時に採取し,スマートジーンによるMp DNAおよび遺伝子変異の検出とLAMP法によるMp DNAの検出を同時に行い,その結果を比較した。

LAMP法は,magLEAD 6gC(プレシジョン・システム・サイエンス)で核酸を抽出し,抽出試料10 μLとLoopamp®マイコプラズマP検出試薬キット(栄研化学)内の乾燥試薬を混合した後,リアルタイム濁度測定装置Loopamp® EXIA(栄研化学)を用いてMp DNAの増幅および検出を行った。増幅条件は66℃ 40分とした。

スマートジーンは,採取した検体を抽出液に懸濁した後,全自動遺伝子解析装置Smart Gene®(ミズホメディー)を用いて測定した。結果は機器により測定開始から50分以内に自動で判定され,検体採取の当日または翌平日に主治医に報告した。

スマートジーンによるMp DNA検出例を遺伝子変異の有無で2群に分け,性別,有熱期間,入院前抗菌薬投与の有無,入院期間,ステロイド投与の有無,合併症の有無を電子カルテで確認し患者背景と臨床像を比較検討した。さらに,初期投与抗菌薬と,スマートジーン結果報告後に投与された抗菌薬を調査し,抗菌薬の使用状況を比較検討した。

統計学的解析はStatMate III(アトムス社)を用い,Mann-WhitneyのU検定およびχ2検定で行った。なお,本研究は当院臨床研究審査委員会の許可を受けている(臨床研究2019-001)。

III  結果

1. スマートジーンのLAMP法との比較

スマートジーンでMp DNAが検出されたのは146例中43例(29.5%)であった。Mp DNA検出におけるスマートジーンのLAMP法との比較をTable 1に示す。両検査法の陽性一致率は95.5%(42/44),陰性一致率は99.0%(101/102),全体一致率は97.9%(143/146)であった。スマートジーンとLAMP法での不一致例は,スマートジーン陽性でLAMP法陰性が1例,スマートジーン陰性でLAMP法陽性が2例の計3例(2.1%)であった。

Table 1  Comparison of Smart Gene with the LAMP method (n = 146) in Mycoplasma pneumoniae DNA detection
LAMP Total
+
Smart Gene + 42 1 43
2 101 103
Total 44 102 146

The positive agreement rate was 95.5% (42/44), the negative agreement rate was 99.0% (101/102), and the overall agreement rate was 97.9% (143/146).

2. スマートジーンによるMp DNA検出例の患者背景と臨床像

Mp DNA検出例の遺伝子変異陽性率は25.6%(11/43)であった。Mp DNA検出例の患者背景と臨床像を遺伝子変異陽性群(以下,変異陽性群)と遺伝子変異陰性群(以下,変異陰性群)に分けてTable 2に示す。変異陽性群(n = 11)の年齢中央値は6歳10か月で,変異陰性群(n = 32)の7歳8か月より低かったが有意差はなかった。性別,有熱期間,ステロイド投与の有無および入院期間に有意差はなく,全例が合併症を呈さず治癒した。入院前抗菌薬投与の有無には有意差を認め,変異陽性群は64%(7/11),変異陰性群では25%(8/32)に入院前投与があった(p < 0.05)。その内訳は,変異陽性群ではclarithromycin(CAM)が5例,tosufloxacin(TFLX)が2例,変異陰性群ではTFLX 8例であった。

Table 2  Summary characteristics of the patients with Mycoplasma pneumoniae DNA detection by Smart Gene (n = 43)
ML resistantce gene mutation-positive
(n = 11)
ML resistance gene mutation-negative
(n = 32)
p value
Age (years) 6.8 (1.1–12.9)* 7.7 (1.4–14.7)* 0.43
Male (%) 5 (45%) 14 (44%) 1.00
Total febrile days** 5.9 (0.9–8.8)* 5.3 (1.3–9.8)* 0.40
Febrile days after admission** 1 (0–4)* 1 (0–7)* 0.53
Antimicrobials administration
 before admission
7 (64%)
CAM (5), TFLX (2)
8 (25%)
TFLX (8)
0.03
Steroid administration 0 (0%) 4 (13%) 0.34
Days of admission 7 (6–8)* 7 (5–19)* 0.98
Complications 0 0

*Median (minimum-maximum) , **≥ 37.5°C

ML: macrolide, CAM: clarithromycin, TFLX: tosufloxacin

3. スマートジーンによるMp DNA検出例の抗菌薬使用状況

Mp DNA検出例の抗菌薬使用状況を変異陽性群(n = 11)と変異陰性群(n = 32)に分けてFigure 1に示す。入院時または入院前から経験的治療として30例(69.8%)にCAMが,12例(27.9%)にTFLXが,1例にminocycline(MINO)が初期投与された。なお,38例では入院直後にβラクタム系抗菌薬が併用されたが,Mp DNA検出後直ちに中止されていることから本検討から除いた。変異陽性群の初期投与において11例中7例でCAMが,4例でTFLXが使用されていた。スマートジーンの結果報告後6例がCAMからTFLXへ変更され,1例はCAM投与で経過良好と判断されたため,CAMが継続投与された。TFLXが初期投与された4例中1例では,TFLXで解熱がみられずMINOに変更された。一方,変異陰性群では32例中23例にCAM,8例にTFLX,1例にMINOが初期投与されていた。結果報告後に変異陰性群の8例で抗菌薬が変更されており,7例がTFLXからCAMへの変更,1例はTFLXからMINOへの変更であった。最終的にCAMで治療されたのは変異陽性群で9.1%(1/11),変異陰性群では93.8%(30/32)であり,有意差が認められた(p < 0.01)。

Figure 1 The administered antimicrobials for the patients pneumonia with Mycoplasma pneumoniae DNA detection by Smart Gene (n = 43)

A: Initial administration on admission or before admission

B: Administration after Smart Gene testing

ML: macrolide, CAM: clarithromycin, TFLX: tosufloxacin, MINO: minocycline

IV  考察

Mp DNA検出におけるスマートジーンのLAMP法との比較では,全体一致率が97.9%であり,100%であった真藤らの報告12)と概ね一致した。3例(2.1%)において結果に乖離が認められたが,乖離に一定の傾向がなく,両検査法の感度は同等と考えられた。LAMP法ではMp DNAの検出に約100分を要する。一方,スマートジーンは50分以内に検出が可能であり,操作も全自動であることから,今後,中小病院やクリニックで導入され,POCT(point of care testing)として広く利用されることが期待される。

スマートジーンによるMp DNA検出例の患者背景と臨床像において,変異陽性群と変異陰性群との間に年齢・性別・発熱期間などに有意差はなかった。われわれは以前より抗菌薬で改善のみられない重症例にステロイドを投与しているが13),ステロイド投与の有無にも有意差はなかった。入院前抗菌薬投与が変異陽性群に多かったこと(p < 0.05)には,CAMが処方されていたものの症状の改善がなかった5例の影響が考えられた。

小児Mp肺炎の抗菌薬療法の第一選択薬はマクロライド系抗菌薬であり2),3),マクロライドが無効のMp肺炎にはTFLX,MINOの投与が考慮される。近年マクロライド耐性Mp肺炎が問題視されることから,Mp肺炎が疑われた時の初回投与抗菌薬としてTFLXが選択される場合が少なくない14)。TFLXを含むキノロン系薬剤の耐性菌は世界中で大きな問題となっており15),Mp肺炎に対するルーチンの使用は控えるべきである3)。本検討では変異陰性群8例においてTFLXが初期投与されていたが,スマートジーン結果報告後に7例でCAMに変更された。最終的にマクロライド系抗菌薬のCAMで治療された割合が変異陽性群で9.1%,変異陰性群で93.8%と大きく違ったことは,スマートジーンの抗菌薬適正使用に対する効果と考えられた。マクロライド系抗菌薬の臨床効果は投与後2~3日以内の解熱で評価とされることから3),通常3日以上解熱しない場合に抗菌薬の変更が考慮される。しかし,スマートジーンを用いることにより,迅速に抗菌薬を変更することが可能となる。マクロライド耐性Mp肺炎例では,第一選択薬であるマクロライド系薬で治療した場合,感性Mp肺炎例よりも有熱期間が延長することが報告されている16),17)。今回の検討で変異陽性群と変異陰性群との間で有熱期間や入院期間に差がなかったことは,早期に適切な抗菌薬へ変更した効果であり,Mpの検出と同時にマクロライド耐性が報告できるスマートジーンの有用性を示すものと考える。

V  結語

迅速・簡便にMp DNAと遺伝子変異を検出できるスマートジーンは,小児Mp肺炎において適切な抗菌薬選択に寄与できる有用な遺伝子検査法である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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