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岡田 光貴, 福田 篤久, 竹下 仁
原稿種別: 原著
2022 年71 巻1 号 p.
1-9
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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テトロドトキシン(TTX)が原因の食中毒は近年においても見られるが,TTXの測定を目的とした臨床検査は実施されていない。そこで,我々はTTXの検出と定量に有用な酵素結合免疫吸着法(ELISA)の構築を試みた。まず,TTXに対する抗体を用いて構築したELISAにより,TTXの希釈系列を測定し,検量線を作成した。その結果から,ELISA構築における測定性に優れた2種類の抗体の組み合わせを決定した。次に各種溶媒で100 μg/mLに調製したTTX試料14本を同時測定した。クエン酸緩衝液で希釈したTTX試料の測定結果はばらつきが少なく,概ね正確な測定が可能であった。一方,尿試料で平均37.36 μg/mLと調製濃度よりも低く,血清試料で平均249.86 μg/mLと高いTTX濃度が算出された。この結果は試料中の共存物質が影響していると思われたため,尿や血清で調製したTTX希釈系列を測定,その結果から検量線を作成し,補正を試みた。その後,TTX試料14本の同時測定の結果は,尿試料では調製TTX濃度に近づいたが,血清試料では平均162.92 μg/mLであり,調製濃度との乖離が見られた。そこで,TTX調製血清を除タンパク処理した試料の測定を試みた結果,平均111.29 μg/mLと改善が認められた。検体の前処理法や測定工程には課題が残るが,本ELISAは生体試料中TTXの測定にある程度有用と思われた。
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長谷川 祐二, 山下 和也, 吉田 功, 村雲 芳樹, 三枝 信
原稿種別: 原著
2022 年71 巻1 号 p.
10-19
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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病理標本の適正保管は,がんゲノム医療や臨床治験など継続的な患者治療において重要な課題である。通常,薄切後のパラフィンブロックは薄切面に薄くパラフィンを塗布し,組織を損傷・酸化から保護している(以下:ブロックカバー)。しかし,組織の再利用は,切削による標本の浪費が必至である。今回,新たに水溶性パラフィンを利用した,荒削り不要なブロックカバー法を検討した。材料は扁桃や肺,マルチプルコントロールのパラフィン包埋ブロックを用い,水溶性パラフィン(新法:以下HPC法)と従来のパラフィンカバーと未処理で比較した。室温暗所保管後1,3,6か月,3年後に薄切とカバーを行った。HPC法のパラフィン除去は流水水洗と氷上静置,従来法はミクロトームで荒削り後に切片を作製しHE染色と免疫組織化学染色で影響を評価した。ブロックカバーの有無は,免疫組織化学染色に影響を与える重要な因子であることが明らかとなった。水溶性パラフィンは傷,酸化等から組織を保護した。水溶性パラフィンの除去は流水5~10分あるいは氷上30分で可能,染色性は6か月後まで安定であるが,3年後にMIB-1染色減弱とDIN値漸減が生じた。水溶性パラフィンの繰り返し利用は,吸水により効果を失うと推測され,常に新調した試薬の使用が重要である。HPC法は簡便で,表面切削が来す組織損失が少なく,針生検の様な微小検体で特に有用である。従って,新たな組織保護方法として,保管条件などの検討を重ね日常業務に展開したい。
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折原 悠太, 小針 奈穂美, 松岡 優, 今井 一男, 樽本 憲人, 前﨑 繁文, 三木田 馨, 前田 卓哉
原稿種別: 原著
2022 年71 巻1 号 p.
20-24
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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シャーガス病Chagas disease(CD)はTrypanosoma cruziによる慢性感染症である。主に中南米諸国で感染し,約25%は感染後数年から数十年後に慢性期合併症を発症する。国内でも患者の発生が報告される一方,CDに対する診断体制は未だ確立できていない。今回,国内で入手可能なARCHITECT Chagas Reagent Kit,およびイムノクロマトグラフィー(ICT)法:Trypanosoma DetectTM Rapid Testによる迅速抗体検査の有用性を検証した。CDと診断された国内患者の残余血清(n = 20),およびボリビア共和国においてCDと診断された患者の保存血清(n = 72)を使用した。陰性コントロールには,当院で採取された日本人非シャーガス病患者の残余血清(n = 100)を使用した。ARCHITECT Chagas Reagent Kitを用いた解析では,診断一致率100%・特異性100%であった。一方,ICT法での判定は,感度99.4%・特異度100%であった。ARCHITECT Chagas Reagent Kitは国内で導入される全自動の体外診断用医療機器で測定可能であり,国内での有用性は高いと考えられた。また,ICT法では短時間で結果が判定でき,臨床現場での使用が容易である。これらの方法を組み合わせることで,我が国においてもCDに対するスクリーニング検査が実現できると考えられた。
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大出 恭代, 並木 美奈, 川名 孝幸, 喜納 勝成, 中澤 武司, 川島 徹, 三宅 一徳, 佐々木 信一
原稿種別: 原著
2022 年71 巻1 号 p.
25-31
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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病院診療において,有症状者COVID-19疑い患者の診断検査と無症状病原体保有者のスクリーニング検査は区別して考えなくてはならない。今回我々は有症状でCOVID-19疑い患者の診断検査と無症状病原体保有者のスクリーニング検査を実施した2群について,抗原定量検査の有効性と問題点について検討した。対象は2020年11月から2021年5月の期間で,RT-PCR検査とSARS-CoV-2抗原定量検査を同日提出された有症状COVID-19疑い患者群277検体,無症状者スクリーニング検査群1,781検体の合計2,058検体について後ろ向き解析を行った。その結果,有症状COVID-19疑い患者群では抗原定量値 ≥ 0.36 pg/mLを陽性とした場合は感度95.9%,特異度80.4%,無症状者スクリーニング検査群では抗原定量値 ≥ 0.83 pg/mLを陽性とした場合は感度100%,特異度99.5%であった。今回の解析で,抗原定量検査は無症状者のスクリーニング検査としては非常に高い有効性が認められたが,一方で同検査を有症状患者の診断目的で用いる場合は,感度・特異度が若干低下するため,その特性をしっかりと理解し,臨床症状,画像診断,PCR検査や抗体検査を組み合わせた総合的な判断が必要である。
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小野澤 裕也, 金剛 左京, 高野 優, 古川 菜生, 三上 麻里奈, 青木 理詠, 岩橋 和彦
原稿種別: 原著
2022 年71 巻1 号 p.
32-36
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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モルヒネの標的分子であるμオピオイド受容体(以下,OPRM1)に注目し,OPRM1遺伝子多型でその発現レベルや機能的活性に影響をもたらす118A/G(rs1799971)と人格特性との関連性があるかどうか検討を行った。若年者236人(男性55人,女性181人)を対象とし,対象者からインフォームドコンセントを得た後採血し,DNAの抽出・精製を行った。OPRM1遺伝子多型の解析には,polymorphism chain reaction-restriction fragment length polymorphism(PCR-RFLP)法を用いた。また,人格特性との関連性を調べるために,全ての対象者に自己記入式人格検査であるNEO Five Factor Inventory(NEO-FFI)とstate-trait anxiety inventory(STAI状態-特性不安検査)を実施した。その結果,Aアレル非保有者に比べ,Aアレル保有者ではNEO-FFIの誠実性スコアが有意差に高く(p = 0.024),Aアレル非保有者ではSTAI特性不安スコアが有意に高いことが分かった(p = 0.023)。今回の結果より,OPRM1遺伝子多型118A/Gが人格特性の「誠実性」および「特性不安」に影響を与えているのではないかと考えられた。
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大峠 ふくみ, 山城 安啓, 緒方 静, 木本 真史, 森 健太郎, 服部 幸夫, 亀崎 豊実
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
37-44
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia; AIHA)は,赤血球膜上の抗原に対する自己抗体が後天的に産生され,溶血をきたす免疫性溶血性貧血の総称である。AIHAの診断においては,直接抗グロブリン試験(direct anti-globulin test; DAT,直接クームス試験)がゴールドスタンダードとされ,DATが陽性を示せば診断は比較的容易である。しかし,DATのみでは診断が困難なDAT陰性AIHAが存在し,このような症例の診断においては赤血球結合IgGの定量が有用である。赤血球結合IgGはRIA法等によって測定することが可能であるが,種々の問題により日常検査として導入することが困難である。そこで,我々は,フローサイトメトリーによる赤血球結合IgG測定法を検討した。赤血球結合IgG量を表す指標としてMFID(mean fluorescence intensity difference)を用い,日常検査としての導入を試みた。DAT陰性検体(健常者)におけるMFIDの基準範囲を検討し,AIHAの診断におけるその有用性を検証したので報告する。
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井上 良太, 板垣 智之, 伊東 国彦
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
45-52
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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eSwabは,フロックスワブ及び1 mLのアミーズ液体培地を採用した多目的収集及び輸送システムである。我々はeSwabが多目的に使用できることを確認するために,A群溶血性レンサ球菌抗原迅速検査(以下A群抗原迅速検査)と培養検査についてその有用性を検討した。シードスワブ3号及び,抗原迅速検査キットの付属綿棒を比較対象とし,3つの検討を行いeSwabの評価をした。抗原迅速検査の比較ではeSwabとシードスワブ3号の結果は同等であった。培養検査の比較ではeSwabはシードスワブ3号より発育した菌量が多い場合が認められた。保存性能の比較では冷蔵保存した結果,eSwabとシードスワブ3号のStreptococcus pyogenesの生菌数はほぼ一定に保たれていた。eSwabで採取した臨床検体のA群抗原迅速検査結果は感度92.3%,特異度100%,全体一致率97.9%であった。培養検査においてeSwabの発育菌量はシードスワブ3号の発育菌量と同等,又はシードスワブ3号の発育菌量以上の培養検査結果であった。抗原迅速検査ではキットの付属綿棒を使用した感度よりは劣るが,添付文書に記載された感度を満たしていた。これらの結果よりA群抗原迅速検査でのeSwabの使用は,性能上問題ないと考える。そしてeSwabは培養検査及び抗原迅速検査に共有することができると考えられた。液体培地を含んだ検体採取容器の利点としては,一つの検体で複数の検査項目に対応できることが挙げられる。その利点を生かすためにも,今後ウイルスを含めてさらに検討が必要である。
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川端 弥生, 五十嵐 久喜, 椙村 春彦
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
53-60
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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真菌などの組織内病原体を証明する代表的な特殊染色の一つにグロコット染色があるが,菌壁が薄いムコール菌は酸化力の強いクロム酸処理では染色性が弱く判別が困難であった。以前,われわれは,クロム酸に変えて比較的酸化力の弱い過ヨウ素酸処理を行うことでムコール菌の染色性を増強させることを見出し報告した。加えて,前処理として免疫組織化学染色で多用される熱処理を行うことで結合組織の共染が抑制されることも報告した。今回,われわれは,症例を増やすべく,解剖で得られた各真菌症を新たに組織マイクロアレイブロックに作製し,前処理を従来のクロム酸と過ヨウ素酸で,また,共染を抑えるための熱処理をpH別に再度比較検討した。さらに,ムコール菌に特異的とされるRhizopus抗体を用いて検出率を比較した。ムコール菌はすべて,過ヨウ素酸処理することで染色性の大きな改善が認められた。また,熱処理は,どのpHにおいても結合組織の共染を防ぐことができた。一方,ムコール菌のRhizopus抗体による免疫染色での検出率は70%(7/10例)であり,染色性も非常に弱かった。グロコット染色におけるムコール菌検出に最適な酸化剤は過ヨウ素酸であり,熱処理を行うことで結合組織,血液細胞等への共染が抑制され,菌体の鑑別が容易になった。また,Rhizopus 抗体も染色性が弱く検出率も100%に及ばないことからも,この方法は大変有用であると考える。
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森山 知栄, 金子 政彦, 三浦 美奈子, 福本 駒美, 中西 護, 松影 昭一, 宮本 莉奈
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
61-66
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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ペニシリン感受性黄色ブドウ球菌(PSSA)に対する最適治療は定まっていないが,近年,ペニシリンG(PCG)の有用性が示唆されている。国内においてはペニシリナーゼ耐性ペニシリンが承認されていないため,ペニシリン感受性黄色ブドウ球菌(PSSA)を含むメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対する静注治療薬はセファゾリン(CEZ)が第一選択薬である。しかし,2019年に原薬入荷および製造等の問題により製品の安定供給が困難となった。1年半経過して供給体制が回復したが,今後も同様の事態が起きることは否定できない。そこで,ペニシリンに対して感性と判定されたMSSAに対して,β-ラクタマーゼ産生確認試験を行うことでPSSAと判定し,第一選択薬としてPCGが使用可能になることは臨床的意義が高いと考えられる。今回,当院の過去約4年間の血液培養から分離されたMSSA株のうち,PCGに対する最小発育阻止濃度(MIC)が ≤ 0.12 μg/mLと感性と判定された26株に対して,ペニシリンディスクゾーンエッジテストを行ったところ2株が陽性となった。一方で,喀痰,尿,便,膿,関節液など血液以外の材料から分離され保存できていた70株についてもゾーンエッジテストを行ったところ,全例陰性であった。PCGに対するMIC値が感性であった場合にはPSSAであると報告する前に,ペニシリンディスクゾーンエッジテストによるβ-ラクタマーゼ産生の有無を確認することで,臨床現場に適切な抗菌薬選択の情報を提供すべきと考えられた。
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加藤 小波, 畑山 祐輝, 山下 典子, 吉岡 明, 石本 学, 市川 ひとみ, 福田 哲也
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
67-72
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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凝固第VIII因子活性測定には主に凝固一段法が用いられてきたが,APTT試薬の種類が測定値に影響を及ぼすことが問題として挙げられてきた。そこで凝固第VIII因子活性を合成基質法で測定する凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」の基礎的検討を行い,さらに血友病A患者およびループスアンチコアグラント(LA)陽性患者の残余検体を使用して凝固一段法との比較検討を行った。その結果,同時再現性CV 0.95~1.14%,日差再現性CV 2.15~4.13%であった。合成基質法と凝固一段法5倍希釈法,20倍希釈法それぞれの相関性はr = 0.99,y = 1.04x − 1.24,r = 0.99,y = 0.99x + 4.46と良好であった。干渉物質の影響は認められなかった。また,合成基質法と凝固一段法との比較検討では,エミシズマブ投与患者検体及びLA陽性患者検体において,二法での測定値に乖離を認めた。以上の結果より,凝固第VIII因子定量試薬「レボヘムFVIII合成基質」は日常検査に十分対応可能であると言える。また,合成基質法は凝固一段法と比較してLAやエミシズマブによる影響を受けにくいことが示された。
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髙楊 ゆき, 富安 聡, 下川 洋輝, 黒田 優子, 佐藤 信也, 大田 喜孝, 永沢 善三, 宿谷 賢一
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
73-80
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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尿沈渣検査では,小型で球状を呈する尿細管上皮細胞(丸細胞)の検出数は少なく,尿沈渣検査法2010に記載が無いため現在の報告対象には含まれていない。既報によると丸細胞は末期腎不全患者に多く認められ,尿細管腔の修復に関与していることが示唆されている。また,丸細胞を多数認める症例では,血清クレアチニン値が上昇し透析導入に移行する症例が多く,そのため,丸細胞は血清クレアチニン値と同様に腎機能評価の新規指標となるバイオマーカーであることが示唆されている。しかし,健常者尿における丸細胞の出現に関する報告はない。そこで本研究では,尿沈渣検査における健常者尿中の丸細胞の出現の有無と形態および性状について明らかにすることを目的とした。対象は78検体とし,現病歴あるいは既往歴に腎疾患および高血圧症がある者は除外した。尿定性検査は,随時尿を使用し採取後直ちに実施した。丸細胞の出現の有無および算定は,無染色の標本を作製し尿沈渣検査法2010に準じて鏡検を行った。丸細胞はWF(whole field)で算定し,確認された丸細胞は顕微鏡写真を撮り記録した。記録した写真はImage Jを用いて画像測定を行った。本研究により,健常者尿において丸細胞の出現を認め,形態学的に均質状と顆粒状に大別することができた。形態により生存率が異なり,細胞質が均質状の丸細胞は生細胞である可能性が示唆された。
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大久保 学, 木村 千紘, 森永 睦子, 岡本 操, 古川 聡子, 上杉 里枝, 河口 豊, 通山 薫
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
81-86
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH)は,甲状腺疾患のバセドウ病,無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎(急性期)診断の1指標(0.1 μIU/mL以下)であるとともに,周産期の管理目標値(2.5 μIU/mL未満)としても用いられ,国内および海外の学会のガイドラインに明記されている。しかしながら,TSH測定値のキット間差が問題視されており,TSH測定値のハーモナイゼーションが求められていた。今回我々はIFCCのハーモナイゼーションに対応した試薬ルミパルスプレストTSH IFCCの性能評価を行った。併行精度は1.2%,0.7%(平均値3.12,10.28 μIU/mL),日差再現性のCVは1.0%,1.1%(平均値3.08,10.34 μIU/mL)と良好であった。希釈直線性は176.20 μIU/mLまで原点を通る直線性を認め,定量限界は0.006 μIU/mLであった。また,従来試薬のルミパルスプレストTSHとの相関は,相関係数が0.999,線形関係式はy = 1.24x − 0.45であった。血清と血漿によるTSH濃度に有意な差は認められず,検体の保存安定性も室温で7時間,冷蔵で7日安定であった。IFCCのハーモナイゼーションに対応したルミパルスプレストTSH IFCCの分析性能は良好であり,TSH濃度の標準化に貢献できる試薬と考える。
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加藤 千秋, 渡邉 樹里, 松岡 弘樹, 遠藤 比呂子, 渡邊 友美, 松下 正
原稿種別: 技術論文
2022 年71 巻1 号 p.
87-94
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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全自動輸血検査装置は,分注ミスの防止,凝集判定の個人差が解消でき検査業務の省力化にも有効である。今回,全自動輸血検査装置Erytra Eflexisを使用したゲルカラム凝集法(Gel-CAT)を用いた不規則抗体スクリーニングの基礎的検討を行った。日常的な遭遇レベルの乳び,溶血,高ビリルビンの影響を受けず,高グロブリンに対しても,間接抗グロブリン試験(LISS-IAT)ではIgG 7,371 mg/dLで,酵素法であるPapainでは連銭形成を生じる検体でのみ影響を受けた。ガラスビーズカラム凝集法(Glass-CAT)を原理とする現行機器との比較では,LISS-IATでKidd,Duffy,Diego抗体がGel-CATに強い反応強度を示し,抗eと抗Diaの各1件はGel-CATでのみ検出した。酵素法ではRh系抗体,Kidd,Lewis抗体でGel-CATが強い反応強度を示し,3件のRh系抗体と2件のKidd抗体は,Gel-CATでのみ検出した。抗体産生早期検体では,抗EでGel-CATのPapainがより早く検出した。抗Jkb,抗Dia,抗Leaでは,PEG-IATと同等時期に検出した。Gel-CATは特にRh系抗体の検出に優れ,抗Dの検出感度はLISS-IATで0.02 IU/mL,Papainでは0.01 IU/mLであった。以上より日常検査に有用であると判断した。
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小林 美穂, 柴田 正慶, 大野 誠子, 春木 康伸, 高橋 温海, 川嶋 春花, 北村 凌一, 村上 弘則
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
95-100
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
ジャーナル
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イベントレコーダー(ER)は非侵襲的に心電図の長時間記録(1~2週間)が可能であり,12誘導心電図や24時間ホルター心電図に比較し不整脈イベント(AE)の検出率が高い。今回,当院でのERの装着理由,AE検出率とAEに対する治療内容変更の有無について調査した。装着理由は,自覚症状精査が全体の約80%を占めた。AE検出率は,自覚症状のある患者では24.8%であった。特に意識消失患者においては,46%で原因となるAEが検出できた。一方,自覚症状のない患者でも9.7%にAEが検出された。また,ERには不整脈自動検出機能があり,自覚症状の有無に関わらず,臨床的に有意な不整脈が疑われる患者には有用である。ERにて検出できた初回AEの検出率を見ると,24時間ホルター心電図相当分の1日目は37.5%,2~7日目は62.5%であった。特にER装着後3日間のAE検出率は84.4%と高率であった。このことから,装着日数が長い程AE検出率は向上するが,長期に装着できない場合では,最低3日間の装着でも高いAE検出率が期待できると考えられた。AEを認めた患者のうち59.4%で治療内容が変更された。以上より,ERは原因疾患に対応した医療を提供するために有用な検査と言える。
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宮澤 翔吾, 後藤 研誠, 河内 誠, 及川 加奈, 魚住 佑樹, 舟橋 恵二, 西村 直子, 尾崎 隆男
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
101-105
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
ジャーナル
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Mycoplasma pneumoniae(Mp)DNAとそのマクロライド耐性化遺伝子変異を同時かつ迅速に検出できる遺伝子検査法のスマートジーン® Myco(スマートジーン)について,小児Mp肺炎における有用性を検討した。2019年4月からの1年間に,当院小児科に肺炎で入院した146例(7か月~14歳7か月)から咽頭ぬぐい液を採取し,スマートジーンとloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法を用いてMp遺伝子検査を行った。スマートジーンでMp DNAが検出されたのは43例(29.5%)であり,その遺伝子変異陽性率は25.6%(11/43)であった。Mp DNA検出におけるスマートジーンのLAMP法との比較では,陽性一致率95.5%,陰性一致率99.0%,全体一致率97.9%であり,高い一致率を示した。遺伝子変異の結果判定後に抗菌薬が変更されたのは変異陽性群で7例,変異陰性群で8例あり,最終的にマクロライド系抗菌薬で治療されたのは,変異陽性群で9.1%(1/11),変異陰性群では93.8%(30/32)であった(p < 0.01)。迅速・簡便にMp DNAと遺伝子変異を検出できるスマートジーンは,小児Mp肺炎において適切な抗菌薬選択に寄与できる有用な遺伝子検査法である。
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手島 裕治, 的野 多加志, 浦園 真司, 古野 貴未, 金谷 直哉, 秋永 理恵, 赤津 義文, 大塚 喜人
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
106-111
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis;以下,SBP)の診断における腹水培養検査の陽性率が低いことが問題視されている。今までSBPにおける血液培養検査の有用性を検討した報告は少なく,適切な診断的検査法を評価する目的で後方視的研究を行った。2012年7月から2019年12月までにSBPの診断となった59件(腹水培養陽性群22件,腹水培養陰性群37件)を対象とした。腹水培養陰性群は腹水培養陰性かつ腹水中好中球数250/μL以上と定義した。血液培養検査は72.9%(43/59例)で提出され,2セット採取率は100.0%であった。血液培養陽性率は全体で48.8%(21/43例),うち腹水培養陽性群では70.0%(14/20例),腹水培養陰性群では30.4%(7/23例)であった(p < 0.05)。腹水培養陰性かつ血液培養陽性となった7例中4例は腹水培養検体採取前に抗菌薬投与歴があった。SBPにおける血液培養陽性率は比較的高く,腹水培養陰性群でも原因菌を検出できる可能性もあるため,抗菌薬投与前に血液培養検査を実施する重要性が示唆された。原因菌の同定率を上げるために,検査室から医師に対して適正な検体採取方法の呼びかけや情報発信が必要であると考えられる。
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山本 雅史, 石川 嗣峰, 沖野 久美子, 三森 太樹, 藤部 綾子, 大場 騰, 佐藤 祐輔, 今野 哲
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
112-119
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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北海道は国内で最も早く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した自治体である。北海道内の医療機関において,COVID-19が呼吸機能検査に与えた影響を明らかにすることを本研究の目的とした。北海道臨床衛生検査技師会会員の所属する医療機関531施設に対しアンケート調査を行った。呼吸機能検査実施施設であり回答内容に不備のなかった160施設を対象とした。2020年の呼吸機能検査件数が2019年と比較して減少したのは115施設(71.9%)であった。その主要因は術前検査の減少,検診検査の減少であった。また,呼吸機能検査の中止など何らかの検査制限を行ったのは93施設(58.1%)であった。COVID-19に対して行った感染対策は,患者が接触した場所の消毒:126施設(78.8%),病院の入り口での体温測定:120施設(75.0%)であった。防護具の選択は,サージカルマスク:136施設(85.0%),フェイスシールドまたはゴーグル:121施設(75.6%)であった。感染対策により患者1人にかかる業務量が増加していると回答したのは101施設(63.1%)であった。COVID-19による呼吸機能検査への影響は大きく,未だ検査件数の減少,検査中止を余儀なくされている医療機関が多く存在していた。COVID-19に対する感染対策,直面している問題点などが明らかになった。
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柚木 浩良, 藤田 智洋, 迫 欣二, 浅野 敦, 菊地 良介, 岡田 元, 中根 生弥
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
120-129
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
ジャーナル
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病理診断は治療方針の決定と直結しているため,標本の作製には高精度な技術が求められる。病理診断の根幹であるヘマトキシリン・エオジン染色(以下HE染色)は最も重要な技術の一つであるが,染色工程は各施設多種多様であること,色調の客観的評価が難しいこと,基準となる指標がないことなどから,安定した結果を得ることが困難とされている。また,施設間で染色性が相違し,各施設で異なる染色標本を使用していることも事実である。より正確な診断のためには安定した染色結果を得ること,施設間の相違を解消して,どの施設においても同水準の検鏡ができるよう色調の標準化が不可欠と考える。そのための第一歩として,中部圏内の各施設に標本画像(平成28年度,平成29年度に愛知県臨床検査技師会精度管理調査で用いた標本の画像)を添付ファイルにて送付し,病理技師,病理医の評価を求めた。具体的には,染色の色調が異なる標本画像の中から最も好みとする標本を選択し,その結果をメールにて返信してもらった。各施設のデータを集計した結果,一番多く選ばれた標本の色調や,同一施設内の技師間でも個人差が確認された。さらに,病理医の方が病理技師よりもエオジンの濃い色調を好む傾向があった。今回の調査から好まれるHE染色の色調の範囲が概ね把握できた。本調査結果がHE染色の標準化推進に向けての一助になればと考える。
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大竹 京子, 石丸 香, 辻 友紀, 藤沢 あすか, 齋藤 知美, 松村 充
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
130-137
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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臨床検査技師等に関する法律の一部改正が2014年6月に成立し,採血以外の検体採取を臨床検査技師が行うことができるようになった。これにより,当院の臨床検査技師が担当する業務も拡大することとなった。病棟での採血はナースサポートチームの一員として臨床検査技師が既に配置され,看護師が行っていた採血業務を担当している。皮膚・爪からの検体採取は,皮膚科医が常勤していないため,白癬,疥癬疑いの患者からの検体採取は皮膚科医の診察まで待つか看護師が検体採取を行っていた。しかし,看護師が採取した皮膚は角化したものが多く観察された。2011年に病棟で疥癬患者が増えたことで検査室での鏡検件数が増え,これをきっかけに臨床検査技師が皮膚採取時点から業務を担当することになった。2020年新型コロナウイルスの流行に伴い,PCR検査,抗原検査を導入,鼻咽頭ぬぐい液の検体も開始した。臨床検査技師が検体採取することで,検査に適した検体採取,検査,報告と一連の流れを担うことになり,質の高い検査が出来るようになった。臨床検査技師の検体採取業務は,単なるタスクシフトだけでなく,専門能力を発揮したチーム医療の推進へつながると考えられる。
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深谷 仁, 下仮屋 雄二, 打田 瑞紀, 寺本 江見, 坂﨑 由佳, 野間 桂, 森本 誠, 田辺 正樹
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
138-142
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
ジャーナル
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医療法の一部改正(平成29年法律第57号)に伴い,医療機関における検体検査の精度を確保する体制の整備が必要となった。実施している全ての検体検査で内部精度管理を行うことが求められているが,顕微鏡の操作や形態学的鑑別が必要となる髄液一般検査においてルーチン業務で担当していない技師に対して内部精度管理で精度を評価し必要に応じて教育をしていくことは重要である。今回我々は,時間外検査の担当者を対象に髄液一般検査の内部精度管理の方法を構築し,5年間実施した成績を評価したので報告する。方法は当院で実際に出現した髄液写真を細胞分類させるフォトテストと末梢血から作製した擬似髄液検体を用いて顕微鏡上で細胞分類をさせる細胞分類テストを年1回ずつ実施した。各方法で設定した合格基準に満たさなかった担当者には合格するまで再教育を実施した。結果は,フォトテストでは2016年を除いては100%の合格率であったが,細胞分類テストでは合格率が高い年で76.5%,低い年で27.3%とばらつきが大きく,最近の2年間では57.1%から合格率が改善しなかった。今回の結果から髄液一般検査の内部精度管理は顕微鏡写真のみでは不十分であり,顕微鏡操作を含めたより実践的な方法で内部精度管理を行う必要性が確認できた。また,この結果から教育方法や教育の間隔なども再考する必要があると考えられた。
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昆 美也子, 青木 順子, 木村 有紀, 池田 たま子, 紫竹 美和子
原稿種別: 資料
2022 年71 巻1 号 p.
143-147
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
ジャーナル
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2014年9月から2020年12月までの間に,新潟県内(新潟市除く)においてカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE感染症)として届出された136件のうち,医療機関から菌株の提供のあった127株について薬剤耐性遺伝子保有状況を調査した。カルバペネマーゼ遺伝子は5株から検出され検出率は3.9%(5/127)であった。検出された遺伝子型はIMP-1が4株及びIMI-1が1株であった。IMP-1は,全国的に多くの地域から報告される型であり,新潟県内においても検出が確認された。1株検出されたIMI型は全国的にも希な遺伝子である。全国では2019年までに3例の報告があるのみである。このIMI型カルバペネマーゼ遺伝子は,2020年に70代男性患者の創浸出液から分離されたEnterobacter cloacae complexより検出された。CRE感染症は感染症法における5類全数把握疾患に定められており感染症対策に重要な菌であるが,カルバペネマーゼ遺伝子の検出状況は地域によって検出率や種類が異なるため,地域の状況・特性を把握することは重要である。
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三輪 佑果, 竹澤 理子, 福田 弥生, 土屋 智之, 鵜原 日登美, 小野 由可, 石崎 一穂, 金子 誠
原稿種別: 症例報告
2022 年71 巻1 号 p.
148-152
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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Blastocystis hominis(B. hominis)はヒトの大腸に寄生し,下痢や嘔吐を引き起こす原虫として知られているが寄生していても無症状のこともあり,その病原性に関しては未だ不明な部分も多い。今回,B. hominisが原因と考えられる下痢症を経験したので,染色法と併せて報告する。症例は80代,男性。頻回の下痢の精査目的に提出された便のグラム染色で寄生虫が疑われ,その後に提出された便の直接薄層塗抹法で虫体を確認し,B. hominisと報告した。本症例をB. hominisによる下痢症と考えた理由は ①虫体が検出されたこと ②下痢の起因菌の検出がなかったこと ③血中好酸球が増加したこと ④メトロニダゾール処方により症状改善と好酸球数が減少したことの4つが挙げられる。しかし,③と④については因果関係がはっきりしないためB. hominisによる下痢症と断言することはできないが,寄生虫感染による好酸球増多が推測される症例であった。B. hominisを鑑別する際,各染色法の比較を行った。グラム染色,ヨード染色,ギムザ染色に加え,尿沈渣鏡検で使用するSternheimer染色(S染色)を実施した。どれも染色性は良好であったが,S染色は内部構造が明瞭に観察できた。S染色は簡便かつ身近な染色法であるため,B. hominisの検出において有効な染色法であると考えられた。
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當房 万奈美, 竹野 里奈, 室木 魁人, 大前 裕也, 戸野川 始, 岩﨑 由恵, 木村 拓也, 久保 勇記
原稿種別: 症例報告
2022 年71 巻1 号 p.
153-158
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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我々は腸管子宮内膜症から発生した類内膜癌を経験したので報告する。症例は30歳代女性,10年前から腹痛主訴に頻回受診され,母の子宮体癌や姉の卵巣癌を契機に婦人科で定期的に血中CA125値及び経直腸超音波検査の経過観察がなされていたが,各種検査では明らかな器質的変化は認められなかった。数日前から持続する腹痛を主訴に来院し,腹部超音波検査及び腹部CT検査にて上行結腸に腸重積を指摘された。同日腹腔鏡にて整復中に腫瘤を認め,回盲部腫瘤とS状結腸の憩室が切除された。病理組織診断は盲腸の子宮内膜症から発生した腫瘍で組織型は類内膜癌(Grade 2)であった。家族歴から家族性乳癌卵巣癌の可能性もあり遺伝子検査を勧め,BRCA1/BRCA2遺伝子検査は遺伝子多型で変異陰性,BRAF V600E遺伝子検査の変異陰性より,Lynch症候群を疑い,MMR(mismatch repair)タンパクの免疫組織化学染色を施行し,MSH6(−),PMS2(+)より高頻度マイクロサテライト不安定性であった。Lynch症候群が疑われたがMMR遺伝子検査は家族が希望されず実施していない。腸管子宮内膜症を発見することは難しいが,疑って注意深く観察すれば内視鏡検査やMRIなどで指摘できる病変である。腹部超音波検査においても月経に一致した腹痛などを認める場合は子宮内膜症も念頭に検査に対峙することが重要と考えられた。
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田外 大輝, 上月 周, 志手 淳也, 中澤 隆, 大嶋 里美, 安田 栄泰, 山崎 正之, 深田 恵利奈
原稿種別: 症例報告
2022 年71 巻1 号 p.
159-164
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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24時間ホルター心電図検査にて有症状時にST上昇を記録できたことを契機として,冠攣縮性狭心症(CSA)を合併した労作性狭心症(EAP)の診断および治療に至った一症例を経験した。症例は40歳代女性。既往歴は全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群,脳梗塞(4年前)である。1ヶ月程前より朝方に頸部への放散を伴う胸部絞扼感が出現したため,ホルター心電図を装着した。朝方の安静時に胸部症状を自覚し,一過性ST上昇をNASA誘導,CM5誘導の双方に認めた。その他にも夕方に軽労作にて,胸部症状を自覚し,形状の異なる一過性ST上昇をNASA誘導で認めた。冠動脈造影検査にて,冠動脈全体の軽度攣縮および左冠動脈前下行枝(#7)の99%狭窄病変を認めた。ホルター心電図の結果と冠動脈造影検査の結果より,CSA合併のEAPと診断し,EAPに対するカテーテル治療およびCSAに対するカルシウム拮抗剤による薬物治療を開始した。狭心症には一般にEAPとCSAがあり,それぞれの特徴,発症様式を理解しておくことで,比較的稀な合併症例においても適切な判読を行うことができると考えられた。
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大塚 隼人, 中嶋 知子
原稿種別: 症例報告
2022 年71 巻1 号 p.
165-170
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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Mycoplasma hominisは泌尿生殖器の常在菌として知られ,グラム不染性でβラクタム系抗菌薬に耐性を示す。今回,帝王切開術後の患者の血液培養よりM. hominisが検出された症例を2例経験した。症例1は20歳代女性。前医にて分娩進行停止のため緊急帝王切開術施行。術後6日目,腹痛と発熱を認め当院に搬送となった。入院時,膣内には悪露が貯留,腹部CTで子宮周囲に液体貯留を認めた。症例2は30歳代女性。破水後当院入院管理となり,第3病日に炎症反応上昇と羊水混濁を認めたため,緊急帝王切開術を施行。術後8日目,炎症反応高値が続いていたため胸腹部CTが施行され,子宮周囲膿瘍が疑われた。血液培養は,症例1は培養7日目に2セット中嫌気ボトル1本のみが陽性となった。症例2は培養7日間で陰性であったが,サブカルチャーを実施したところ2セット全てのボトルよりコロニーの発育がみられた。両症例ともに,血液培養および子宮由来検体より発育したコロニーはグラム陰性の顆粒構造物を呈し,16S rRNA遺伝子解析にてM. hominisと同定された。患者背景や臨床経過より本菌の関与を疑う場合は,嫌気培養の追加や血液培養の積極的なサブカルチャーを実施し,適切な抗菌薬の情報を迅速に臨床に伝えることが重要である。
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鈴木 周朔, 志村 祥太, 柳 友美子, 矢萩 裕一, 坂田 一美
原稿種別: 症例報告
2022 年71 巻1 号 p.
171-175
発行日: 2022/01/25
公開日: 2022/01/25
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血小板製剤中の赤血球は微量であるため,血小板製剤の輸血(以下,血小板輸血)による不規則抗体産生の可能性は低いと考えられている。我々は,頻回な血小板輸血後に不規則抗体を産生した症例を経験した。症例は骨髄異形成症候群の女性。赤血球製剤の輸血歴はなく,不規則抗体スクリーニングは陰性であった。血小板成分の補充を目的として頻回な血小板輸血が実施され,約半年後にIgM型及びIgG型の抗E,抗cの産生を確認した。血小板製剤中の微量な赤血球であっても,免疫応答を引き起こす可能性を確認した。また,IgM型の抗cは,ABO血液型ウラ検査判定時に影響を与えた。血小板輸血後にIgM型を含む不規則抗体産生誘発の可能性があることを考慮し,精査を進めることが重要である。
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