2022 年 71 巻 2 号 p. 193-200
2018年5月~2019年4月の1年間に当院小児科において175例(1か月~14歳,中央値4歳10か月)からStreptococcus pyogenes 175株が分離された。分離されたS. pyogenesのT血清型,13種抗菌薬(PCG, CDTR, CTX, CTRX, CFPM, MEPM, EM, CAM, AZM, CLDM, TFLX, LVFX, VCM)のMICおよびCLDM誘導耐性を調査し,過去にわれわれが行った5回の調査成績(1996年,2001年,2003年,2006年,2013年)と比較した。分離株のT血清型は1型64%,12型18.3%,B3264型9.1%,4型2.3%の順であった。過去5回の調査成績と比べて1型の分離率は著しく上昇し,12型は低下した。EM,CAM,AZM,CLDM,LVFXにそれぞれ41.7%,42.3%,42.3%,11.4%,1.1%が耐性を示し,2株(1.8%)がCLDM誘導耐性を示した。βラクタム系抗菌薬およびVCMに耐性の株は認められなかった。EM耐性率の増加傾向が認められ(1996年8.6%,2001年13.6%,2003年20.0%,2006年19.6%,2013年58.1%,2018年41.7%),近年では約半数の株がマクロライド系抗菌薬耐性であった。過去5回の調査での分離株を含む全1,871株に,βラクタム系抗菌薬およびVCM耐性株を認めなかった。
During a one-year period between May 2018 and April 2019, 175 Streptococcus pyogenes strains were isolated from 175 patients (age range, 1 month–14 years; median age, 4 years 10 months) in the pediatric department of our hospital. The T serotypes of the isolated S. pyogenes strains, the MICs of 13 antimicrobials (benzylpenicillin, cefditoren, cefotaxime, ceftriaxone, cefepime, meropenem, erythromycin, clarithromycin, azithromycin, clindamycin, tosufloxacin, levofloxacin, and vancomycin), and induction of clindamycin resistance were investigated and compared with those obtained in our five previous investigations (1996, 2001, 2003, 2006, and 2013). The T serotypes of the isolates were as follows: type 1, 64%; type 12, 18.3%; type B3264, 9.1%; and type 4, 2.3%. The isolation rate of type 1 was markedly higher and that of type 12 was lower than those in all five previous investigations. Resistance to erythromycin, clarithromycin, azithromycin, clindamycin, and levofloxacin was seen in 41.7%, 42.3%, 42.3%, 11.4%, and 1.1% of strains, respectively, and two (1.8%) isolates showed inducible clindamycin resistance. None of the strains were resistant to β-lactam antimicrobials or vancomycin. There was a trend of increasing erythromycin resistance rate (1996, 8.6%; 2001, 13.6%; 2003, 20.0%; 2006, 19.6%; 2013, 58.1%; 2018, 41.7%). Approximately half of the strains were found to be macrolide-resistant in more recent investigations. None of the 1,871 isolates, including those from the previous five investigations, included β-lactam antimicrobial- or vancomycin-resistant strains.
A群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus; GAS)は,小児における咽頭・扁桃炎の起因菌として最も分離頻度が高いとされている。リウマチ熱や急性糸球体腎炎はGAS感染症の続発症として知られ1),劇症型溶血性レンサ球菌感染症は,小児期には比較的まれであるが2018年には21例の患児が報告されている2)。
GAS感染症の日常診療における病原診断法として,現在A群多糖体抗原を検出する迅速診断キットが主に用いられているが,われわれは以前から病原診断の基本であるGASの分離法を用いている。Lancefield分類のA群に属するβ溶血性レンサ球菌がGASとされ,その代表的な菌はStreptococcus pyogenesである。GASにはS. pyogenes以外の菌種も含まれているが,分離されることは非常に少ない。今回,2018年5月からの1年間に当院小児科において分離されたS. pyogenesのT血清型と抗菌薬感受性について,過去にわれわれが行った5回の調査成績と比較検討した。
2018年5月~2019年4月の1年間に,当院小児科受診患児175例(1か月~14歳11か月,中央値4歳10か月)から分離されたS. pyogenes 175株を対象とした。175株の分離用検体は咽頭ぬぐい液169株,皮膚4株,鼻腔ぬぐい液1株,血液1株であり,175株すべてについてT血清型と抗菌薬感受性を調査した。
2. 分離同定咽頭および鼻腔ぬぐい液,皮膚はトリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン)に直接接種し,5%炭酸ガス条件下で,35℃,18~24時間培養した。培地上に発育したβ溶血を示すコロニーをMALDIバイオタイパー(ブルカージャパン)にて同定検査を実施し,Streptococcus pyogenes Score Value 2.000以上の場合を調査対象株とした。血液検体はBACTECTM20F小児用レズンボトルPに接種し,BACTECTM9240(日本ベクトン・ディッキンソン)で検出された菌について上記方法を用いて同定した。
3. T血清型A群レンサ球菌T型別用免疫血清「生研」(デンカ生研)を用いてT血清型を調査した。抗原抽出のための菌体処理には,上記免疫血清の添付文書に従い,ブタ抽出エキス(デンカ生研)を用いた。
4. 抗菌薬感受性全分離株について,ドライプレート(栄研化学)を用い,微量液体希釈法にて抗菌薬の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)を測定した。検討した抗菌薬は,benzylpenicillin(PCG),cefditoren(CDTR),cefotaxime(CTX),ceftriaxone(CTRX),cefepime(CFPM),meropenem(MEPM),erythromycin(EM),clarithromycin(CAM),azithromycin(AZM),clindamycin(CLDM),tosufloxacin(TFLX),levofloxacin(LVFX),vancomycin(VCM)の13種とした。Clinical and Laboratory Standards Insitute(CLSI)M100-Ed283)の判定基準に従って感性(susceptible; S),中間(intermediate; I),耐性(resistant; R)を判定し,S以外の株を耐性株として検討した。ただし,ブレイクポイントが設定されていないCDTRおよびTFLXについては未検討とした。
さらに,全分離株について,クリンダマイシン誘導耐性試験をCLSI M100-Ed28に記載された微量液体希釈法4)に準拠して行った。
5. 過去5回の調査成績との比較分離されたS. pyogenesのT血清型および抗菌薬感受性について,同様に行った過去5回の調査成績(1996年5),2001年6),2003年7),2006年8),2013年9))と比較検討した。過去5回の調査では,プロレックス「イワキ」レンサ球菌(イワキ)にてA群と判定されたGASを調査対象株としている。なお,検討した抗菌薬の種類は調査年によって一部異なっている。また,クリンダマイシン誘導耐性については今回が初めての調査であり,過去の調査との比較成績はない。
本研究は当院臨床研究審査委員会の許可を受けている(臨床研究29-026(280))。
Figure 1に月別分離株数と年齢別分離株数を示す。月別分離株数は12月に23株と最も多く,次いで5月22株,1月,4月ともに21株の順であり,3月が少ないものの,冬と春に多く分離された。年齢別分離株数は,4歳が37株と最も多く,次いで3歳31株,5歳23株の順であり,3~7歳で全体の68.0%を占めた。Figure 2に,呼吸器検体(咽頭ぬぐい液および鼻腔ぬぐい液(n = 170))における月別分離株数と陽性率を示す。3月に分離株数と陽性率が低下していたが,分離株数と陽性率の月別分布に明らかな差は認められなかった。
A: The number according to calendar month. B: The number according to age of the patients.
1型が112株(61.7%)と大部分を占め,次いで12型32株(17.7%),B3264型16株(9.1%),4型4株(2.3%)の順であった。
3. 抗菌薬感受性Table 1に13種抗菌薬のMIC分布を示す。βラクタム系抗菌薬およびVCMに耐性の株は認められなかった。EM,CAM,AZM,CLDM,LVFXに対し,それぞれ41.7%,42.3%,42.3%,11.4%,1.1%が耐性を示し,2株(1.8%)がCLDM誘導耐性を示した。
Gray area shows MIC values were not measured.
The dashed lines show breakpoint values of susceptible category and others.
*The break point of the antimicrobial is not determined in CLSI M100-Ed283).
**Two strains of inducible clindamycin resistance are included4).
Table 2に過去5回の調査成績を併せたT血清型別分離率を示す。T血清型別分離率に各調査で変化が認められ,本調査における1型の分離率は過去5回の調査と比べ64.0%と著しく上昇し(1996年2.6%,2001年25.9%,2003年12.5%,2006年25.1%,2013年10.7%),一方,過去5回の調査で分離の中心であった12型(1996年22.0%,2001年36.9%,2003年38.0%,2006年24.4%,2013年34.4%)は18.3%と低下した。
Year | T serotype | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 4 | 6 | 12 | 25 | 28 | B3264 | Others | |
1996 (n = 431)5) | 2.6% | 26.0% | 3.7% | 19.2% | 22.0% | 3.0% | 3.6% | 1.6% | 18.3% |
2001 (n = 317)6) | 25.9% | 0.3% | 4.1% | 36.9% | 11.7% | 7.9% | 2.2% | 11.0% | |
2003 (n = 295)7) | 12.5% | 2.4% | 12.9% | 38.0% | 12.5% | 6.1% | 6.4% | 9.2% | |
2006 (n = 438)8) | 25.1% | 0.2% | 17.6% | 1.1% | 24.4% | 0.2% | 4.6% | 0.2% | 26.5% |
2013 (n = 215)9) | 10.7% | 5.6% | 4.2% | 34.4% | 8.8% | 29.8% | 6.5% | ||
2018 (n = 175) The present study |
64.0% | 2.3% | 0.6% | 18.3% | 0.6% | 9.1% | 5.1% |
Figure 3に過去5回の調査成績を併せたEM,CLDMおよびLVFX耐性率を示す。EM耐性率の上昇傾向が認められ(1996年8.6%,2001年13.6%,2003年20.0%,2006年19.6%,2013年58.1%,2018年41.7%),近年は約半数の株がマクロライド系抗菌薬耐性であった。CLDM耐性率は2013年の調査で48.8%と大幅に上昇したが,本調査では11.4%であった。LVFX耐性率は2003年までの調査で上昇傾向であったが(1996年未検討,2001年3.2%,2003年9.8%),近年は低値(2013年2.3%,2018年1.1%)であった。なお,過去5回の調査での分離株を含む全1,871株に,βラクタム系抗菌薬およびVCM耐性株は認められなかった。
NT: not tested
小児科定点把握5類感染症であるS. pyogenes咽頭炎は,冬から春にかけて多く,患者の年齢は4~7歳が中心であるとされている10)。本調査でのGAS分離状況は,3月が少なかったものの冬と春に多く分離され,分離された患者年齢も3~7歳が中心で全体の68%を占め,上記疫学成績に概ね一致した。
S. pyogenesの菌体表層には群多糖体のほかにMおよびTタンパクが存在しており,血清型の調査に利用されている11)。Mタンパクは病原因子であり12),その詳細な解析は病因との関連を調査する上で重要である。しかし,市販血清のないゲル内沈降反応を用いるM血清型11)やPCR法とシークエンス解析を必要とするMタンパク遺伝子(emm)型13)の調査は一般の施設では実施困難である。一方,T血清型の調査は市販血清により実施可能であること,M血清型との相関がある程度みられること14)などから,わが国の疫学調査の手段として広く用いられている。
われわれは1996年の調査開始以来一貫してT血清型を調査しており,T血清型別分離率の調査年による変化が認められた。全国的な調査では,2006~2014年のGAS分離株T血清型は1型と12型が中心を占めていたが,2013年以降はB3264型の割合が上昇傾向となっている10),15)。これまでわれわれが行った計6回の調査においては,12型は本調査以外の調査で,1型は1996年を除く調査で分離の中心であり,特に2018年の本調査では1型の分離率が非常に高かった。2018年の東京都感染症情報センターでの調査では,T血清型別分離率は12型,1型,B3264型いずれも約20%であり16),本調査結果(1型64%,12型18%,B3264型9%)とは若干異なっていた。本調査は対象年齢が15歳未満の小児であるため,全年齢での調査結果とは異なる可能性がある。
わが国の小児呼吸器感染症診療ガイドラインでは17),GAS感染症治療の第一選択としてペニシリン系抗菌薬10日間経口投与あるいは経口セファロスポリン系抗菌薬5日間経口投与が推奨され,ペニシリンアレルギーがある場合はセファロスポリン系薬あるいはマクロライド系抗菌薬の投与が推奨されている。われわれの調査では,過去5回を含む全1,871株においてβラクタム系抗菌薬およびVCMに対する耐性は認められなかった。一方,マクロライド系抗菌薬については,1996年のEM耐性率は8.6%であったが,2006年に20%,2013年に58%,2018年に42%と近年は約半数の株がマクロライド系抗菌薬耐性であった。わが国におけるGASのマクロライド耐性率に関して,2000年代後半34.9~73.8%,2010年代前半45.8~61.7%と増加したが,2010年代後半は28.0~30.6%に減少したと報告されている18)~22)。ドイツにおいて,マクロライド系抗菌薬使用量の減少に伴ってマクロライド耐性率が減少したとの報告がある23)。2016年より,薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが推進され,2020年の経口セファロスポリン系薬,フルオロキノロン系薬,マクロライド系薬の人口千人あたりの一日使用量を2013年水準から50%削減する成果指標が掲げられた24)。わが国のマクロライド系抗菌薬使用量は2015年より徐々に減少しており25),そのマクロライド耐性率への影響が注目される。一般にEMおよびCAMは交叉耐性を示すが,CAMおよびAZMに耐性でEMに感性と判定された株が1株存在した。この株はEMのMICが0.25であり,1管差のMIC = 0.5で耐性となるため,詳細は不明だが測定上の問題と考えられる。
CLDM耐性率は1996年未検討,2001年16%,2003年5%,2006年32%,2013年49%と上昇傾向であったが,本調査では11%と低下した。結果には示していないが,T血清型別のCLDM耐性率は1型1.8%,12型46.9%,B3264型12.5%であり,12型の約半数がCLDM耐性株であった。過去5回の調査で分離の中心を占めた12型が本調査にて減少したため,CLDM耐性率が低下したと考えられる。
全国のサーベイランス調査におけるLVFX耐性率は2007年1.2%,2010年1.4%,2013年2.9%,2016年2.7%と微増し22),キノロン耐性遺伝子保有率は2008年11.5%,2012年13.3%,2018年14.3%と上昇している18)。われわれの調査におけるLVFX耐性率は,1996年未検討,2001年3.2%,2003年9.8%,2006年未検討,2013年2.3%,本調査1.1%であり,2013年と本調査は全国調査より低値であった。本調査期間での当院における成人のS. pyogenesのLVFX耐性率は8.3%であり,小児の1.1%より高値であった。成人は小児と比較してキノロン系抗菌薬使用量が多いため,耐性率が高いと考えられる。わが国においてTFLXが2010年より小児の細菌性肺炎や急性中耳炎に保険適用となっており,その使用量とニューキノロン系抗菌薬耐性率の動向を注視する必要がある。
現在,GAS感染症の日常診療における病原診断法として迅速診断キットが多用されており,GAS分離株の細菌学的検討が困難になりつつある。GAS分離株のT血清型および抗菌薬感受性の動向把握は大切であり,今後も調査を継続していくつもりである。本研究の限界として,2018年の本調査では質量分析装置によってS. pyogenesと同定されたものを調査対象とした。一方,過去5回の調査ではLancefield分類のA群に属するβ溶血性レンサ球菌をGASとしており,S. pyogenes以外の菌種がわずかではあるが一定数含まれていると考えられ,その違いが本調査と以前の調査との比較成績に多少影響した可能性は否定できない。
2018年に分離されたS. pyogenesのT血清型は1型が以前の調査より大幅に増えて過半数を占め,12型は減少した。βラクタム系抗菌薬およびVCMに耐性のS. pyogenesは認められず,一方,42%がマクロライド系抗菌薬耐性であった。近年では約半数の株がマクロライド系抗菌薬耐性と考えられたが,過去5回の調査での分離株を含む全1,871株に,βラクタム系抗菌薬およびVCM耐性株を認めなかった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。