医学検査
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メソトレキセート使用患者における骨髄形態異常の解析
森山 保則杉原 崇大森岡 薫乃多和 拓未田原 綾土手内 靖高橋 志津
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2022 年 71 巻 2 号 p. 324-329

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Abstract

メソトレキセート(MTX)は関節リウマチ治療のキードラッグであるが,時に形態異常を伴った造血障害を引き起こし,MDSとの鑑別が困難なことがある。本来ならこの時期に骨髄検査を行うべきではないが,実際には時折検体が提出される。しかしどの程度の形態異常が出現するのか詳細な文献は少ないため,MTX使用患者12例の骨髄細胞形態を解析した。その結果,7例に1系統以上の形態異常を認め,うち3例には環状鉄芽球が10%以上みられた。仮にMTXの使用歴が不明な場合,MDSと診断される危険性があるため,診断時には影響薬剤使用の有無を詳細に検索する必要がある。

Translated Abstract

Methotrexate (MTX) is a key drug in the treatment of rheumatoid arthritis, but it sometimes causes hematopoietic disorders with morphological abnormalities of bone marrow cells, which may be difficult to distinguish from myelodysplastic syndrome (MDS). Originally, bone marrow biopsy should not be carried out in the initial diagnosis, but in practice, samples are occasionally obtained and submitted for analysis. However, since there is little detailed information in the literature on how much morphological abnormalities appear in the initial diagnosis, we analyzed the morphology of bone marrow cells from 12 patients treated with MTX. As a result, seven patients were found to have more than one lineage of morphological abnormalities, and three of them had more than 10% of ring sideroblasts. If the history of MTX use is not known, there is a risk that such finding would lead to the diagnosis of MDS; therefore, a detailed check of drugs taken that may affect results is necessary at the time of diagnosis.

I  はじめに

メソトレキセート(methotrexate; MTX)は葉酸代謝拮抗作用を有する抗がん剤であるが,低用量で免疫抑制剤としての作用もあり主にリウマチ患者に使用されている。また,たとえ低用量であっても,時に形態異常を伴った造血障害を引き起こし,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome; MDS)との鑑別が困難な症例を経験する。しかし,どの程度の形態異常が出現するのかを詳細に著した文献は少ない。そこで今回我々は,MTX投与中に骨髄穿刺が実施された症例の臨床背景と骨髄中の血球形態異常について解析を行ったので報告する。

II  対象

2011年9月から2017年10月までに骨髄穿刺が実施された,MTX投与中または休薬直後の12症例を対象とした。また薬剤性の血球減少でなかった場合を考慮して,休薬後に血球回復が確認できなかった症例は除外した。男女比=1:11と圧倒的に女性が多く,平均年齢71歳(60~84歳)であった。60歳以上の高齢者のため基礎疾患は様々であったが,全例が関節リウマチに罹患していた。

III  方法

対象症例12例について,血球減少の内訳,骨髄穿刺の動機,直近のMTX投与量と使用期間,救済薬剤投与の有無,生化学検査結果,および骨髄中の血球形態などを検索した。血球減少の判定には様々な基準があるが,今回は骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 平成25年度改訂版1)に従い,好中球 < 1,800/μL,Hb < 10 g/dL,血小板 < 10万/μLとした。異形成の評価は「不応性貧血(骨髄異形成症候群)の形態学的異形成に基づく診断確度区分と形態診断アトラス」2)に則り,好中球200個,赤芽球200個,巨核球25個を判定した。巨核球が25個に満たない場合は,異常個数を4倍した値を表示した。また環状鉄芽球は,鉄染色において核周囲の1/3以上に核に沿った鉄顆粒を5個以上有するものとした。

IV  結果

1. 血球減少の内訳(Table 1
Table 1  12症例の主なデータ(*は推定投与期間)
症例 年齢 性別 基礎疾患 投与期間(月) MTX1回量(mg) 葉酸予防的投与 ロイコボリンレスキュー 診断
A 64 F リウマチ 66 10 鉄欠乏性貧血
B 60 F リウマチ 19* 4 不明
C 66 F リウマチ,糖尿病
高血圧
295 8 + MTX関連LPD
D 79 M リウマチ 25 4 DLBCL
E 68 F Still病,リウマチ
NASH
185 4 + Still病再燃
F 71 F リウマチ 1 8 MTX副作用
G 61 F リウマチ
シェーグレン症候群
36* 4 MTX副作用
H 72 F リウマチ 15 6 MTX副作用
I 71 F リウマチ,糖尿病
高血圧
60* 8 MTX副作用
J 73 F リウマチ,糖尿病
高血圧,肝細胞癌
84 6 + MTX副作用
K 84 F リウマチ 93 5 MTX副作用
L 77 F リウマチ,高血圧
AAアミロイドーシス
300* 8 MTX副作用
症例 WBC
(×102/μL)
好中球絶対数
(×102/μL)
RBC
(×104/μL)
Hgb
(g/dL)
MCV
(fL)
PLT
(×104/μL)
Alb
(g/dL)
eGFR
A 37.4 22.7 345 7.8 76.8 18.0 3.6 70.80
B 65.9 42.1 480 15.6 97.5 4.7 4.2 64.70
C 116.2 91.7 260 7.7 89.2 6.6 2.9 100.70
D 75.8 49.2 270 7.9 89.6 0.4 2.7 36.90
E 37.5 28.5 529 14.3 80.5 8.2 3.9 68.40
F 46.4 33.9 233 6.0 82.8 71.0 2.3 72.40
G 22.7 13.7 332 11.8 103.9 4.2 3.8 61.30
H 16.8 10.1 132 4.4 101.5 1.2 2.8 77.70
I 13.2 6.2 326 10.3 93.3 6.9 3.1 63.30
J 29.7 22.8 221 7.4 100.0 10.8 3.8 36.60
K 1.8 0.1 364 11.4 90.7 1.4 2.1 58.50
L 22.5 14.1 105 4.2 122.9 1.8 3.3 51.90

血球減少の内訳はpancytopeniaが2例,bicytopeniaが5例(好中球と血小板減少3例,Hbと血小板減少2例),Hb減少2例,血小板減少2例で,全例に1系統以上の血球減少がみられた。

2. 骨髄穿刺の動機

骨髄穿刺の動機は,血球減少の精査が10例(MDSなどmalignancyの除外),リンパ腫疑い1例,MTX関連LPD疑いが1例であった。

3. 直近のMTX投与量と投与期間,予防的葉酸投与と救済措置の有無(Table 1

MTX投与量は4~10 mg/weekで著明に増量されたものはなかった。投与期間は1ヶ月が1例,5年未満が5例,それ以上が6例であった。予防的な葉酸投与がされていたのは5例(症例A,C,E,I,J)であった。また今回のイベントでMTXを中止した症例が10例,継続が2例(A, B)で,ロイコボリンによる救済措置がとられたのは2例(D, H)であった。

4. 骨髄形態(Figure 1a–c
Figure 1  形態異常の割合

a:顆粒球系形態異常の割合。赤丸は好中球減少例を示す。

b:赤芽球系形態異常の割合。赤丸はHb減少例を示す。

c:巨核球系形態異常の割合。赤丸は血小板減少例を示す。

骨髄穿刺の結果,形態異常が10%未満であったものは2例(症例A,B)で,うち1例が鉄欠乏性貧血,1例はMTX継続でも血小板回復したため血球減少の原因は不明であった。1系統以上に10%以上の形態異常を認めたのは10例で,特に赤芽球系形態異常が著明に出現したものが多く,3例(J, K, L)には環状鉄芽球を10%以上認めた。Cはリンパ節生検結果からMTX関連LPD,Dは骨髄中にリンパ腫細胞を認めDLBCL,EはStill病再燃の診断となり,MTXの副作用による血球減少と診断されたのは7例(F~M)となった。なお休薬例のうち2例(K, L)はMDS除外のため15日後および4ヶ月後に再度骨髄穿刺が実施され,その際形態異常がほぼ消失していたことから,形態異常の原因はMTXであったことが証明された(Figure 2)。

Figure 2  骨髄形態異常(症例J)

休薬前の骨髄形態異常を示す。

V  考察

代謝拮抗薬が巨赤芽球性貧血を起こしうることや,葉酸拮抗薬であるMTXが巨赤芽球症を伴う骨髄低形成を起こすことは書籍にも記されている3)。またMTXを低用量で免疫抑制剤として使用する場合も,骨髄抑制を起こす可能性があることは添付文書にも記載がある4)。よってこの時期の骨髄では形態異常を伴う可能性があることは容易に想像がつくが,現実には投薬中あるいは休薬後間もなく骨髄穿刺が行われる場合があり,MDSとの鑑別が困難な症例に遭遇する。しかし実際どの程度の形態異常を伴ってくるのかを著した文献はあまり見られないため,今回我々は当院で経験したMTX投与患者の骨髄中の血球形態を解析した。

投与中のモニタリングは,MTX開始時または増量後は2~4週ごとに6ヶ月間血液検査を行うよう指示されている4)。恐らくこの間に副作用が出現しやすいからだと思われるが,実際は1例が投与1ヶ月だったものの11例は投与後6ヶ月以上経過しており,投薬が安定してからでも血球減少がみられるため継続的なモニタリングが必要である。投与量については通常6 mg/週とし,適宜増量しても良いが16 mgを超えないよう添付文書に記載されている。また20 mgを超えると骨髄抑制の頻度が高まるとされているが4),今回の検討では最大でも10 mg/週の投与量で特に多い症例はなかった。葉酸については予防的投与が5例に行われていたが,そのうち2例はMTX副作用例であり,予防的投与が行われていても血球減少が起こっていた。腎機能障害はeGFRが30 mL/min/1.732台の症例が2例あったが他は特に低いものはなかった。アルブミンは2 g/dL台が5例,3 g/dL台が6例で全体的に比較的低いと考えられた。MCVについては,MTX副作用例で赤芽球系形態異常が著しいものに大型の傾向がみられた。骨髄抑制の危険因子として,腎機能障害,高齢,葉酸欠乏,多剤併用,低アルブミン,脱水などが挙げられている5)が,今回の検討でもこれらの危険因子には注意が必要と考えられた。

形態異常については,まず症例Eに偽ペルゲル異常が高率に出現しておりMDSとの鑑別を要したが(Figure 3),明らかな血球貪食がみられ,LD,フェリチン,sIL2Rの著増を認めるなど成人Still病の診断基準を満たしており,Still病再燃に伴う炎症性病変の一つと考えられた。本症例は現在血球数が基準範囲内にあり,形態異常も認めないためMDSを推測するには根拠に乏しい。また全体的には赤芽球系形態異常が著明であったが,意外と巨大・過分葉好中球が高率に出現することは少なく2例(症例H,I)のみであった。その他,Figure 1a–cに赤丸で示したとおり,形態異常と血球減少の系統は一致せず,これはMDSでみられる現象と同様であった。

Figure 3 偽ペルゲル核異常(症例E)

軽度なものを含めると32%に偽ペルゲル核異常が認められた。

血球形態に影響する薬剤を使用している場合,形態異常が明らかであっても当然MDSの診断を下してはならない6)。しかし,仮にMTXの使用情報が得られなかったと仮定して,MTXの副作用と診断された7例についてWHO分類に当てはめると,MDS-SLD 2例,MDS-MLD 3例,MDS-RS-MLD 2例となった(Table 2)。症例F,Gについては診断確度がpossibleなので診断は暫定的となるが,H~Jは診断確度がprobableであり,またカテゴリーAの形態異常である環状鉄芽球が15%以上出現した症例K,Lについては診断確度もdefiniteとなり,MDSとの鑑別がより困難になる。もしMDSの診断が下されてしまえば患者が大きな不利益を被るため,診断の前には患者情報を正確に把握する必要がある。

Table 2 MTX使用歴が不明であった場合の診断名
異形成の程度染色体診断確度WHO分類
FLownormalpossibleMDS-SLD
GLownormalpossibleMDS-SLD
HIntermediatenormalprobableMDS-MLD
IIntermediatenormalprobableMDS-MLD
JIntermediatenormalprobableMDS-MLD
KHighnormaldefiniteMDS-RS-MLD
LHighnormaldefiniteMDS-RS-MLD

最後に,今回の対象症例では骨髄検査を行う動機として「MDSとの鑑別」が多数みられたが,前述のとおり形態的にMDSと鑑別するのは非常に困難なことがあるため,結局は休薬して血球回復するかどうか観察することとなる。リンパ腫等の他の疾患の疑いが強い場合は別として,骨髄検査をする前に少なくとも数週間は休薬し,それでも血球回復が見込めない場合に骨髄検査の選択をすべきであると考える。

VI  結語

MTX投与12例を解析した結果,著明な形態異常を呈する場合があり,特にカテゴリーAの形態異常である環状鉄芽球が高率に出現することがあるため,MDSを推測する前に必ず影響薬剤投与の有無を確認することが必須である。

本論文の要旨は,第67回日本医学検査学会(2018年5月,浜松市)にて発表した。

また本研究計画は松山赤十字病院倫理審査委員会で承認された(受付番号:917)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  特発性造血障害に関する調査研究班:診療の参照ガイド平成25年度改訂版「骨髄異形成症候群」.http://zoketsushogaihan.com/download.html/3(1).pdf/(2021年7月28日アクセス)
  • 2)   朝長  万左男, 松田  晃:不応性貧血(骨髄異形成症候群)の形態学的異形成に基づく診断確度区分と形態診断アトラス.http://www.jslh.com/MDS.pdf(2021年7月28日アクセス)
  • 3)   小峰  光博:「Lecture 7 巨赤芽球性貧血(2)葉酸欠乏,その他によるもの」,血液病学第3版,85–97,高久 史麿(編),医学書院,東京,1993.
  • 4)  ファイザー株式会社:リウマトレックスカプセル2 mg添付文書
  • 5)  日本リウマチ学会 MTX診療ガイドライン策定小委員会:関節リウマチ治療におけるメソトレキサート(MTX)診療ガイドライン2016年改訂版.https://www.ryumachi-jp.com/publish/others.newmtx-text_2016/(2021年7月28日アクセス)
  • 6)   宮崎  泰司:「骨髄異形成症候群」,WHO分類改訂第4版による白血病・リンパ系腫瘍の病態学,98–125,木崎 昌弘,田丸 淳一(編),中外医学社,東京,2019.
 
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