2022 年 71 巻 3 号 p. 574-580
塗抹標本作製時に壊れた細胞であるスマッジ細胞は,慢性リンパ性白血病をはじめとするリンパ系腫瘍に多くみられ,これらの疾患を疑うきっかけとなりうる所見である。今回,骨髄像検査におけるスマッジ細胞の集簇像から,血管内大細胞型B細胞リンパ腫の診断にいたった症例を経験した。症例は50歳代女性。不明熱の精査目的で当院転院となった。血液検査では,赤血球数と血小板数の2系統の低下が認められた。生化学・免疫学検査ではLD,CRP,フェリチン,可溶性IL-2レセプターが高値を示し,悪性リンパ腫を疑う所見であったが,リンパ節腫脹は認められなかった。不明熱の精査目的で施行された骨髄穿刺・生検では,骨髄像検査でスマッジ細胞の集簇像,骨髄病理組織ではCD20陽性の大型のリンパ腫細胞の骨髄浸潤が認められた。これらの所見から血管内大細胞型B細胞リンパ腫が積極的に疑われ,ランダム皮膚生検が施行された。骨髄生検と同様,CD20陽性の大型のリンパ腫細胞の浸潤が皮膚血管内に認められ,血管内大細胞型B細胞リンパ腫の診断に至った。血管内大細胞型B細胞リンパ腫は,リンパ節腫脹や腫瘤形成といったリンパ腫の典型的な所見を呈さないため診断が困難な場合が多い。骨髄検査におけるスマッジ細胞集簇像は血管内大細胞型B細胞リンパ腫でも観察される可能性があり,注意深い観察が重要と考えられた。
Smudge cells are fragile cells that ruptured through the physical process of smear preparation. Smudge cells have often been observed in smear specimens of lymphoid neoplasms, particularly in cases of chronic lymphocytic leukemia. The presence of many smudge cells in a smear preparation may indicate a neoplastic disease. In a patient, the finding of smudge cell aggregation in a bone marrow smear specimen led us to suspect hematological malignancies. The patient was a 50-year-old woman who complained of high-grade fever and was admitted to our hospital. Blood examination revealed anemia, thrombocytopenia, and elevations of serum lactate dehydrogenase, C-reactive protein, ferritin, and soluble IL-2 receptor levels. Although these findings suggest hematological disorders such as malignant lymphoma, whole-body computed tomography showed no swollen lymph nodes. Bone marrow examination showed many smudge cell aggregations and large lymphoma cells. These lymphoma cells were positive for CD20. On the basis of these bone marrow findings, random skin biopsy was performed. CD20-positive lymphoma cells were observed in blood vessels of cutaneous tissues. Therefore, this patient was diagnosed as having intravascular large B-cell lymphoma (IVLBCL). Generally, early diagnosis of IVLBCL is reported to be difficult because of the lack of overt lymphadenopathy and mass formation. Smudge cell aggregations in bone marrow smear specimens may be helpful in the diagnosis of hematologic malignancies. It is possible that smudge cells may be observed in not only chronic lymphocytic leukemia but also other hematologic malignancies.
正常細胞に比べて細胞骨格が脆弱であるリンパ系腫瘍細胞では,塗抹標本作製や骨髄穿刺吸引といった物理的外力によって容易に細胞形態が崩れるためスマッジ細胞として観察される1),2)。
血管内大細胞型B細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma; IVLBCL)は,全身の細小血管内に腫瘍細胞が増殖する節外性大細胞型B細胞リンパ腫の一型である。明らかな腫瘤やリンパ節腫大が認められないことが多く,不明熱の原因疾患としてもしばしば経験され,診断が困難な場合が少なくない3)。診断には骨髄生検とランダム皮膚生検が有用とされているが4),5),臨床的にIVLBCLを積極的に疑った検査計画が重要と思われる。
本症例は,骨髄塗抹標本におけるスマッジ細胞集簇像をきっかけにランダム皮膚生検が施行され,IVLBCLの早期診断に至った症例である。リンパ系腫瘍の診断におけるスマッジ細胞の臨床的意義について考察し報告する。
症例は50歳代,女性。前医でCRPの上昇,肝機能障害,脾腫,発熱および酸素飽和度低下が認められ,不明熱の精査目的で当院転院となった。入院時の血液検査では,赤血球数および血小板数の減少を認めた(Table 1)。また,生化学・免疫学検査では低タンパク血症,低アルブミン血症,逸脱酵素の上昇の他にCRP,フェリチン,可溶性IL-2レセプター(sIL-2R)が高値だった(Table 1)。血液検査の結果は悪性リンパ腫を疑う所見であったが,胸部・腹部CT検査では有意なリンパ節腫脹は認められなかった。また,末梢血塗抹標本の辺縁や引き終わりの部分などを観察したが,異常細胞やスマッジ細胞は認められなかった。骨髄像検査では正形成の骨髄で3系統の血球が認められ,分化の異常は認められなかった。しかし,ウエッジ法を用いて作製した骨髄液塗抹標本では細胞破壊により分類不能なスマッジ細胞が標本全体に認められ(Figure 1a),スマッジ細胞集簇像が多数認められた(Figure 1b, c)。スマッジ細胞集簇像は鏡検 ×200(対物レンズ ×20)で36視野中15視野に認められた。スマッジ細胞集簇の辺縁では,一部形態が保たれたリンパ腫細胞を疑う異常細胞の集簇像も認められた(Figure 1d)。目視の骨髄分類で数えた500個の細胞の中に異常細胞は含まれなかったが,標本上には異常細胞がわずかに認められた(Figure 1e)。圧挫伸展標本ではスマッジ細胞集簇像はほとんど認められなかったが,ウエッジ標本と同様にスマッジ細胞が多数認められ,異常細胞もわずかに認められた。また,骨髄の細胞表面抗原検査では悪性リンパ腫を疑い,大型細胞についてゲーティング解析を行ったが,HLA-DRとCD38が陽性で特徴的な抗原所見は得られず,異常細胞についての解析は困難であった。骨髄像検査で標本上にスマッジ細胞が多かったことから,骨髄穿刺吸引時の物理的外力によって細胞が破壊され,細胞表面抗原検査で異常細胞が検出できなかったと考えられた。また,骨髄のマクロファージの出現割合は0.8%であったが,マクロファージのほとんどが血球を貪食していた(Figure 1f)。骨髄病理組織のヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin-Eosin; HE)染色では,大型のリンパ腫細胞の骨髄浸潤が認められた(Figure 2)。骨髄生検の免疫組織化学染色ではCD20,MUM1,BCL6は陽性で(Figure 2),CD10は陰性であったことから大細胞型B細胞リンパ腫の骨髄浸潤が考えられた。これらの結果から,IVLBCLが積極的に疑われ,ランダム皮膚生検が施行された。ランダム皮膚生検は腹部6か所に対して行い,そのうちの3か所で明らかな大型のリンパ腫細胞の浸潤が皮膚血管内に認められた。さらにその3か所のうち1か所に対して免疫組織化学染色を行った。この結果,骨髄生検と同様にCD20陽性の大型のリンパ腫細胞の浸潤が皮膚血管内に認められたため(Figure 3),IVLBCLの診断に至った。診断後,リツキシマブによる治療が開始され,加療継続のため他院へ転院となった。
CBC/DIFF | Biochemistry/Immunology | ||
---|---|---|---|
WBC | 3,400/μL | TP | 4.35 g/dL |
Neut | 78.8% | ALB | 1.46 g/dL |
Lymph | 15.6% | T-Bil | 0.8 mg/dL |
Mono | 4.7% | AST | 96 U/L |
Eosino | 0.3% | ALT | 35 U/L |
Baso | 0.6% | LD | 724 U/L |
ALP | 431 U/L | ||
RBC | 330 × 104/μL | ChE | 96 U/L |
Hb | 9.0 g/dL | BUN | 12.9 mg/dL |
Ht | 26.8% | CRE | 0.75 mg/dL |
MCV | 81.2 fL | Na | 135 mmol/L |
MCH | 27.3 pg | K | 3.4 mmol/L |
MCHC | 33.6 g/dL | Cl | 101 mmol/L |
Plt | 7.8 × 104/μL | Ca | 7.3 mg/dL |
CRP | 22.64 mg/dL | ||
Ferritin | 465.1 ng/mL | ||
sIL-2R | 13,700 U/mL |
骨髄液塗抹標本(メイ・ギムザ染色)。a:細胞崩壊により分類不能なスマッジ細胞が標本全体に認められた。b,c:スマッジ細胞集簇が多数認められた(cはbの部分拡大を示す)。d:スマッジ細胞集簇の辺縁では一部形態が保たれたリンパ腫細胞を疑う異常細胞(矢印)の集簇が認められた。e:N/C比がやや高く,細胞質は好塩基性で核網粗剛な異常細胞がわずかに認められた。f:血球を貪食したマクロファージが認められた。
HE染色では大型のリンパ腫細胞の骨髄浸潤が認められ,免疫組織化学染色ではCD20,MUM1およびBCL6が陽性であった。
HE染色では骨髄生検と同様に大型のリンパ腫細胞の浸潤が皮膚血管内に認められ,免疫組織化学染色ではCD20が陽性であった。
スマッジ細胞は壊れた核を持つ白血球として1896年にGumprecht6)によって報告され,グンプレヒトの核影とも称される。スマッジ細胞の出現割合は,健常人の末梢血塗抹標本では2%以内とされるが7),慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia; CLL)をはじめとするリンパ系腫瘍細胞では多くみられ1),Danielら8)は末梢血塗抹標本でのスマッジ細胞の出現割合はCLL患者では中央値26%,CLL以外のB細胞系の慢性リンパ増殖性疾患患者では中央値14%と報告している。その他,伝染性単核球症7),9)やTリンパ芽球性白血病10)ではスマッジ細胞が認められることがある。血液塗抹標本作製には通常,引きガラスで血液を薄く引き伸ばすウエッジ法が用いられる。ウエッジ法を用いて作製した末梢血塗抹標本にスマッジ細胞が多数認められた場合,アルブミンを添加した血液を用いたウエッジ法による標本作製1)や遠心を利用したスピナー法による標本作製2),7)を行うことでスマッジ細胞が認められなくなる場合が多い。このことから,壊れやすい細胞がウエッジ標本作製時に生じる物理的な力によって破壊され,スマッジ細胞として出現することが推測される。本症例の末梢血のウエッジ標本上ではスマッジ細胞は認められなかった。これは末梢血標本上に異常細胞が出現していなかったことが理由として考えられる。一方で,骨髄病理組織では異常細胞の骨髄浸潤が認められたが,ウエッジ法で作製した骨髄液塗抹標本では異常細胞はほとんど認められなかった。骨髄液塗抹標本では標本全体にスマッジ細胞が認められ,骨髄に存在する異常細胞のほとんどがスマッジ細胞として観察された可能性がある。前述の末梢血でのスマッジ細胞出現時の対処法を骨髄液で実施するのは難しく,ウエッジ法で作製した骨髄液塗抹標本でスマッジ細胞が多数認められる場合には圧挫伸展標本が有用である2)。しかしながら,今回の症例ではウエッジ標本と同様に圧挫伸展標本においてもスマッジ細胞が多数認められた。その他にスタンプ標本は細胞が壊れ難く,細胞形態観察に有用と考えられるが,今回の症例ではスライド上に細胞がうまく塗付されておらず,評価できなかった。
スマッジ細胞をよく認めるCLLでは,スマッジ細胞の出現率とCLL細胞のビメンチンの発現量が逆相関にあることが報告されている11)。ビメンチンは細胞骨格を構成する中間径フィラメントの一つであり,リンパ球においては細胞の剛性に重要である12)。CLL以外のリンパ系腫瘍細胞におけるビメンチンの発現量が報告されており13),T細胞リンパ腫では41例中17例(41.5%),B細胞リンパ腫では247例中187例(75.7%)でビメンチンが発現しておらず,T細胞リンパ腫よりもB細胞リンパ腫においてビメンチンが発現していない症例が多かった。また,B細胞リンパ腫の中では濾胞性リンパ腫がびまん性B細胞リンパ腫よりもビメンチンが発現していない症例が多かったが,びまん性B細胞リンパ腫の中では大細胞型が小細胞型と中細胞型よりもビメンチンが発現していない症例が多かった。よって,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の亜型であるIVLBCLにおいてもCLLと同様にビメンチンの発現量が低い可能性がある。このことから,本症例においてもウエッジ法による骨髄液塗抹標本作製時に生じる力によってリンパ腫細胞が破壊され,スマッジ細胞として標本上に出現したことが推測される。今回,骨髄標本で一部形態が保たれた異常細胞集簇が認められたことから,異常細胞の多くはスマッジ細胞やその集簇として出現していた可能性があり,その結果骨髄分類で異常細胞が認められなかったと考えられる。しかし,本症例では,骨髄像検査所見でスマッジ細胞集簇が多数認めたことがきっかけとなり,ランダム皮膚生検が施行され,IVLBCLと診断された。
IVLBCLの診断には,腫瘍細胞を病理所見にて確認することが必須となる14)。典型的には,生検組織の細小血管内もしくは類洞内にCD20もしくはCD79a陽性の大型の腫瘍細胞を認める。免疫組織化学染色による検討では,IVLBCL症例の多くはnon germinal center B-cell-like(non-GCB)typeに分類される15)。Muraseら16)のIVLBCL症例での検討では,CD20,CD10,BCL-6,MUM1およびBCL-2の免疫染色による陽性率はそれぞれ96%,13%,26%,95%および91%であり,CD10の発現の低下が示唆されている。本症例ではCD20,BCL-6,MUM1およびBCL-2は陽性で,CD10は陰性であり,Hansの分類17)ではnon-GCB typeに分類されることから既報に矛盾しない組織所見と考えられた。IVLBCLはリンパ節腫脹が認められないことから従来診断が困難であり,治療成績はきわめて不良であった。しかし,IVLBCLがWHO分類2008年版からは独立した疾患概念として位置づけられ,さらにランダム皮膚生検の有用性が報告された結果4),5),IVLBCLの報告例が増加している。IVLBCLが疑われる症例に対しては骨髄穿刺・生検とランダム皮膚生検の両方を行い,正診率を高めることが重要である5)。本症例においても骨髄穿刺・生検とランダム皮膚生検の結果を併せて評価することでIVLBCLと診断することができた。IVLBCLにはわが国をはじめ東アジア諸国に多い血球貪食症候群を伴う病態としてアジア亜型のIVLBCL(Asian variant of IVLBCL; AIVL)の概念が提唱されている18)。本症例ではAIVLの診断基準(Table 2)を全て満たしており,AIVLに合致する症例であった。
1. | 臨床症状・検査所見(以下の3項目中2項目以上を満たす) |
---|---|
a.血球減少(低形成,異形成によるものでない) | |
貧血(ヘモグロビン11 g/dL以下または赤血球数350 × 104/μL以下)または血小板減少(10 × 104/μL以下) | |
b.肝腫または脾腫(CT,超音波,触診で確認) | |
c.明らかなリンパ節腫大,腫瘤形成を認めないこと | |
2. | 病理所見(以下の3項目すべてを満たす) |
a.赤血球貪食像(通常,造血系に軽~中等度に認められる) | |
b.大細胞型B細胞腫瘍であることの免疫学的証明 | |
c.病理学的に確認できる腫瘍細胞の血管内浸潤または類洞内浸潤 |
1と2を満たすものをAIVLと診断する(definite AIVL)。ただし,1が満たされていれば2-bのみでもAIVLである可能性が高い(probable AIVL)。(文献18より引用)
1989年の報告ではIVLBCLを生前に診断することができなかった症例が半数を占め,死後剖検で診断される症例は珍しくなく,予後不良であった19)。近年は疾患が認知され,診断能が向上したことで生前に診断されることが多くなった。IVLBCLの治療においては,抗CD20抗体医薬であるリツキシマブの使用によりその治療成績は向上しているが20),病期の進行は速いため14),早期診断が重要だと考えられる。本症例では,骨髄標本のスマッジ細胞集簇から血液腫瘍を疑い,ランダム皮膚生検を積極的に行った結果,IVLBCLの早期診断が可能であった。わが国のIVLBCLでは骨髄浸潤を伴うことが多いと報告されているため3),16),骨髄でのスマッジ細胞集簇像はIVLBCLを疑う所見になる可能性がある。しかし,IVLBCLにおける骨髄でのスマッジ細胞集簇所見の頻度については報告がなく,今後検討が必要と思われた。
不明熱の精査中,骨髄標本でのスマッジ細胞集簇像から血液腫瘍を疑い,IVLBCLの早期診断が可能であった。骨髄検査におけるスマッジ細胞集簇像がどのような血液腫瘍で高頻度に認められるか不明な点は多いが,本邦のIVLBCLは骨髄浸潤も多いためスマッジ細胞集簇像が比較的観察されやすい可能性がある。骨髄検査におけるスマッジ細胞集簇像は,血液腫瘍を疑う所見として臨床的意義が高いと考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。