2022 年 71 巻 3 号 p. 443-449
近年,医師並びに看護師の負担軽減を目的とした,メディカルスタッフによるタスク・シフト/シェアに関する様々な取り組みが各施設でなされている。当院においてもタスク・シフト/シェアの一環として2013年より,臨床検査技師によるカプセル内視鏡検査の一元管理と一次読影を行っており,カプセル内視鏡指導医の負担軽減並びに,迅速な報告と精度の高いカプセル内視鏡検査を目指し取り組んでいる。カプセル内視鏡検査は従来の内視鏡検査と比較し,患者の苦痛を最小限に抑えて全小腸を観察ができる優れた検査である。しかしカプセルの特性上,小腸を全域観察できないケースや,通常の内視鏡検査と比べ読影に時間を要するなどの課題があることも否めない。特に後者は,読影する医師にとっては大きな負担となっている。我々はこれら課題を解決する為の方策を打ち立て,試行錯誤の末,現在の運用に至った。また,一次読影参入後,様々な症例を経験したが,その中で依頼医・カプセル内視鏡指導医・臨床検査技師の迅速な連携により早期治療に介入できた象徴的な症例を挙げ,当院のカプセル内視鏡検査における臨床検査技師のタスク・シフト/シェアの取り組みを報告する。
In recent years, medical staff members have worked on task shifting and task sharing at each facility to lighten the burden imposed on doctors and nurses. In our hospital, clinical laboratory technologists have conducted uniform management and primary readings of capsule endoscopy as one of the ways of task shifting and sharing since 2013. Now, we aim to cut back the burden of instructors of capsule endoscopy and to promptly provide reports and accurate examination. Capsule endoscopy is better than the old method because we can observe every part of the small intestines with patients experiencing minimum suffering. However, because of its characteristics, we cannot deny that sometimes we cannot observe all parts of the small intestines and that it takes more time to examine abnormal tissues than normal tissues. The latter is especially a heavy burden for doctors. We found the solution to these problems, and by trial and error, we were able to develop the method that we are currently using. We have encountered various cases after introducing the first interpretation. Among them, we will present symbolic cases that we could intervene in early treatment by immediate cooperation among doctors, clinical laboratory technologists, and instructors of capsule endoscopy. In addition, we will report on the clinical laboratory technologists’ efforts towards task shifting and task sharing on capsule endoscopy in our hospital.
カプセル内視鏡検査は,2000年にNature誌で報告されてから約20年経過し,現在多くの国で使用されている。特記すべきは,従来困難であった小腸全域を,非侵襲的に観察可能となったことである。同検査は上下部内視鏡検査で出血源が特定できない消化管出血(OGIB)や,びらん,潰瘍やポリープの発見などの小腸スクリーニングに大変有用である1)。逆に,消化管狭窄のある患者には使用できないことや,カプセルが自走式でない為,小腸を全域観察できないケースもあること,そして読影にかなりの時間を要するなどの欠点もある。特にこの読影時間に関しては,多忙を極める医師にとっては大きな負担となる。
当院では,2011年2月よりカプセル内視鏡システム一式を導入し,2019年度までに延べ168件施行している(Figure 1)。カプセル内視鏡検査導入当初は,物品管理や患者へのセンサー取り付け作業を,内視鏡室看護師と臨床検査技師の共同で行っていた。2013年には臨床検査技師3名がカプセル内視鏡読影支援技師認定を取得,これまで消化器内科医師1名で行っていたカプセル内視鏡読影に参加することとなり,それを機に,予約管理等も含めたカプセル内視鏡検査の全般業務を臨床検査技師が担うこととなった。当院の読影は,一次読影・二次読影に分けており,一次読影を臨床検査技師が,二次読影から診断までをカプセル内視鏡指導医が担当している。また,消化管開通性評価の施行,予約管理,検査前準備,検査当日のスケジュール説明(Figure 2),センサアレイ装着,カプセル内服確認,小腸・大腸到達確認,検査後の装置クリーニングや物品補充等の業務も担当し,臨床検査技師がカプセル内視鏡検査業務の一元管理化をすることで,精度向上に努めている。当院における臨床検査技師が実施しているカプセル内視鏡業務の詳細を示す(Table 1)。
Clinical laboratory technologists have conducted uniform managements and primary readings of capsule endoscopy since 2013.
業務 | 詳細 | |
---|---|---|
検査前 | 予約管理 | 他患者の二重予約がないよう検査室で一括管理。 |
検査前説明(看護師への) | 検査予約時の患者説明は看護師である為,注意点等を看護師に説明。 | |
書類の準備 | 検査計画表,検査同意書,検査前チェック表等を準備。 | |
物品管理 | 各物品の欠品や使用期限等を確認。 | |
小腸通過性試験(パテンシーカプセル) | パテンシーカプセルを患者に渡し,使用方法等を説明(外来患者であれば,33時間後に来院する旨を伝える)。 | |
検査中 | 患者への前準備確認と検査説明 | 検査前欠食であることを確認し,検査準備とカプセル内服後のスケジュールを説明。 |
センサアレイ装着 | 患者の腹部にセンサアレイを装着し,データレコーダとの接続実施。 | |
カプセル内服介助 | カプセルの内服を介助。カプセル内服が自力で困難であれば,依頼医に報告し以後の指示を仰ぐ。 | |
カプセルの位置確認 | カプセル内服後30分後に,カプセル位置を確認する。小腸未到達の場合は,確認作業を随時追加する。 | |
検査情報のカルテ記載 | カプセル内服時間,スケジュール,急変時の指示等を電子カルテに記載する。 | |
検査後 | 装置の回収 | データレコーダの取り外し。外来患者は大腸未到達の場合は,レコーダ回収を延長し院内で待機してもらう。 |
データダウンロード | データレコーダをターミナルPCにダウンロードし,読影の準備をする。 | |
センサクリーニング | センサアレイの消毒等。 | |
データ取り込み | ダウンロードされたデータのバックアップを行う。 | |
臨床検査技師による一次読影 | ダウンロードの直後から一次読影を開始。緊急を要する所見を得た場合,至急医師に報告する。 | |
医師による二次読影と診断 | 一次読影の結果を確認した後,二次読影及び診断まで行う。技師より緊急読影の要請があれば応じる。 | |
データベースの構築 | カプセル内視鏡検査のデータ一元管理化。読影時に,過去の同一所見と照らし合わせることが可能。 | |
物品補充 | 急遽依頼に対応できるよう物品を揃えておく。 |
カプセル内視鏡により小腸病変を診断するためには,読影に適した画像が得られていること,小腸全域が観察されていることが最低限必要である。しかし,初期に導入したデータレコーダはカプセル内視鏡画像をリアルタイムに映し出すことができず,カプセルの現在位置の把握ができなかった。このためカプセル内視鏡が食道や胃に長時間滞留していたことにより,全小腸の観察終了前にレコーダのバッテリー切れを起こし終了していた例や,外来患者においては,計画書に沿って終了時刻に来院していただき,まだ小腸内にカプセルがあるにも関わらず,センサーを外して検査を終了,データ解析時に初めて,全小腸観察が不可であったことが判明していた例もしばしば見られた。また,活動計画書では通常カプセル内視鏡内服後4時間から軽食可となっているが,4時間後も胃に滞留しており,そこに食物が入ってきたことにより画像の十分な読影が困難となるケースもあった。
これらの問題を解決するため,データレコーダのバージョンアップを行い,リアルタイムでカプセル内視鏡画像の確認が可能である装置を導入した(Figure 3)。導入後はカプセル内服後,外来患者,入院患者ともに30分おきに装置のモニタを確認し,外来患者においては,カプセル内視鏡が胃を通過したことが確認できたあと,帰宅して頂くこととした。また,長時間食道または胃に滞留している場合は,主治医に報告し,主治医の判断で,上部消化管内視鏡を用いて十二指腸までカプセル内視鏡を運ぶことで,全小腸観察が可能となった例もあった。特に,入院患者においては,臥床によりカプセル内視鏡の進み具合が悪いと判断した場合は可能な限り積極的に歩行などを促した。これにより,全小腸観察不能や残渣等で観察不十分な症例が,取り組み前では全症例中12.6%見られたが,導入後は3.7%まで減少させることができた。
Confirmation is possible with an image in real time.
カプセル内視鏡検査は,小腸スクリーニングには必要不可欠なモダリティとなっていることは通常認識であると考える。しかし,他の内視鏡検査と比較し読影にかなりの時間を要するという欠点もある。多忙な医師が診療の合間を見て読影を行うが,活動性出血精査など緊急結果報告を必要とするケースでは,時間的猶予のない医師にとっては非常に大きな負担となる。我々はこの課題を解決するため,臨床検査技師による一次読影を提案し,その準備に取り掛かった。まず,e-ラーニング等で基礎知識を学習し,カプセル内視鏡読影支援技師認定を取得した。認定取得後は,カプセル内視鏡指導医師と所見の目合わせを行った後,実際の症例読影となった。現在の状況は,一次読影導入当初と比較すると病変の検出率は上昇している。その結果,緊急性のある症例への迅速対応が可能となった。しかし,診断的中率に関しては,カプセル内視鏡指導医師の診断と比較しまだまだ低い。読影がいかに困難であるかを痛感させられた。元々,我々が所属する検査室(生理機能検査室)は,消化器疾患に関する生体検査には携わっていなかったことから,読影がある程度安定するまではかなりの時間を要した。今後もカプセル内視鏡指導医師の協力の下,読影技術の向上に努める。
本運用の導入から現在に至るまで様々な症例を経験した。その中で,我々の運用が奏功した象徴的な症例を経験したため報告する。
使用機器:解析編集装置:Rapid workstation(Medtronic社),使用内視鏡カプセル:PillCam®SB3(Medtronic社)。
患者:60代,男性。
主訴:貧血。
既往歴:慢性腎不全(人工血液透析状態),慢性心不全2型糖尿病,虚血性心疾患(冠動脈バイパス術後),下肢閉塞性動脈硬化症(右下肢切断後)。
現病歴:当院内科にて,20XX年より維持透析中の患者。20XX年2月下旬,血圧コントロール目的で内科入院となった。20XX年3月下旬,左足趾壊疽にて左下肢切断術を施行,その後急激に悪化する貧血が出現した。全身状態を考慮し輸血にて対応しつつ,消化管精査となった。
1)入院時現症:身長167 cm,体重43.6 kg,血圧157/80 mmHg,左腕内シャント造設。
2)入院後経過:20XX年5月Hb 5.0 g/dLまで低下。頻回の輸血にて対応するも,繰り返しHbの低下を認めた。
3)上部内視鏡検査:潰瘍性病変や腫瘍性病変,出血は認められなかった。
4)下部内視鏡検査:上行結腸より黒色残渣,暗赤色の便汁が見られたが,大腸には病変は認められなかった。
5)腹部単純CT:明らかな出血源や腫瘤は確認できなかった。
6)小腸カプセル内視鏡検査:上部小腸に腫瘤病変と狼煙サインを認めたことより,出血部位は確認できたが,出血原因は不明であった(Figure 4)。
There are a mass and an image of bleeding.
7)経口的シングルバルーン内視鏡検査:上部空腸に,頂部が自潰した粘膜下腫瘍を認めた。さらに頂部には拍動する大きな露出血管があり,観察中にも一時的に拍動性に出血する場面もあったがすぐに自然止血した。易出血性でもあったことから生検は施行しなかった(Figure 5)。
The SMT-like mass with the ulcer was detected in the horizontal part of duodenum.
8)経動脈的塞栓術(TAE):出血コントロール目的でTAEを施行した。
上記各種検査結果より,小腸GISTあるいはリンパ腫を疑い,20XX年9月開腹による小腸部分切除術を施行した。
手術所見:病変は十二指腸空腸曲から5 cm程度肛門側の上部空腸に,2 cm程度壁外に突出する長径2.5 cmの病変であった。犠牲腸間を8 cm程度設定し,腫瘤とともに切除した。
腫瘤肉眼的所見:腫瘍は粘膜下に認めた。大きさは8 mm大であった(Figure 6)。
tumor under the mucosa: 8 mm size.
病理組織学的所見:卵円形核を有する紡錘形細胞からなる境界明瞭な腫瘍で,異形成は乏しく核分裂像は4/50 HPF視野程度であった。免疫染色にてc-kit及びCD34は陽性,αSMA及びS100は陰性であることから小腸GISTの診断となった2),3)。術後経過は良好で,20XX年10月初旬退院し外来経過観察となった。
本症例は,一次読影にて活動性出血と腫瘤性病変を発見したことで緊急性が高いと判断した為,カプセル内視鏡指導医師に至急読影を依頼すると同時に,依頼医にその旨を報告した結果,迅速な精査加療に繋がった。臨床検査技師がカプセル内視鏡検査業務に加わることで,診断の迅速性の一助を担うことができた貴重な症例であったと考える。
なお,当報告は市立敦賀病院倫理委員会の承認を得た(病総第617号)。
現在,日本臨床検査技師会から「タスク・シフト/シェア」に関する業務が提示されており,各施設はこれを元に業務改善を目指し取り組んでいる。また,ここに示されていない項目でも,各専門学会から提案されている拡大業務の類や,その他現行の制度下でも着手可能な様々な業務を,我々臨床検査技師が既に担っているケースも少なくない。カプセル内視鏡支援技師認定もそのうちの一つで,同検査の一元管理及び読影業務は,医師や看護師の大きな一助になり,タスク・シフト/シェアのモデルケースになり得るのではないかと考える。同検査以外にも,医師や看護師の業務負担となっている業務はいまだ多く存在すると思われるが,臨床の現場から強く望まれ,それに応えることこそが本当の意味での「タスク・シフト/シェア」ではないだろうか。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
最後に,本取り組みにあたり,終始適切な助言を賜り我々を暖かく見守り指導して下さった,消化器内科 米島學先生に厚く御礼申し上げます。