2022 年 71 巻 4 号 p. 731-736
キサンチン結晶は腫瘍の化学療法中に出現する稀な結晶として報告されており,板状の結晶が特徴的である。今回我々は,キサンチン結晶の出現を疑ったが板状結晶を認めず,顆粒状物質の集塊のみを認め,その後,典型的なキサンチン結晶が出現した症例を経験した。患者は30代女性。原疾患のPh陰性B-ALL寛解後,非血縁者間末梢血幹細胞移植を行ったが,約2か月後に再発を確認。入院後,化学療法が開始された。腫瘍細胞の崩壊が著しく,腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome; TLS)を予防するためフェブキソスタットが投与された。入院7日目の尿沈渣で,顆粒状物質の集塊を認めたが同定には至らず,その後38日目にキサンチン結晶の出現を認め,形態的特徴は板状や顆粒状であった。どちらも溶解性試験では水酸化カリウムで溶解,加温,塩酸,生理食塩水には溶解しなかった。入院7日目は尿pH 7.0と中性であり,尿量も確保されていたことから,典型的な板状を形成する過程のキサンチン結晶が考えられた。尿沈渣像より結晶が腎障害に関与していた可能性が考えられるため,キサンチン結晶を検出する意義は高く,本症例の様に典型的な板状を示さない場合があることを理解しておく必要がある。
Xanthine crystals that appear during chemotherapy of tumors have been reported to be rare, and they are characterized as being plate-like. We encountered a case in which we suspected the appearance of xanthine crystals, but instead of seeing plate-like crystals, only granular agglomerates were seen, followed by the appearance of typical xanthine crystals. The patient was a female in her 30s. After remission of Ph-negative B-ALL, she underwent nonrelated peripheral blood stem cell transplantation. After hospitalization, chemotherapy was started. Febuxostat was administered to prevent tumor lysis syndrome (TLS) due to the marked disintegration of tumor cells. On day 7 of admission, urine sediment showed granular agglomerates, which were not identified, followed by the appearance of xanthine crystals on day 38, with plate-like and granular morphological characteristics. Both were soluble in potassium hydroxide and insoluble on heating and in hydrochloric acid and normal saline. On day 7 of hospitalization, the urine had a neutral pH of 7.0 and the urine volume was maintained, suggesting that the xanthine crystals were in the process of forming typical platelets. The urinary sediment suggests that crystals may have been involved in renal impairment. Therefore, the detection of xanthine crystals is highly significant, and it is important to understand that xanthine crystals may not show the typical platelet-like shape as in this case.
尿中にみられる塩類・結晶類は,大部分が食事や生体内での代謝によるものであり,その種類によって通常,異常,薬剤結晶に分けられる1)。日常の検査では尿沈渣による形態的特徴や尿pH,溶解性試験を行い判定することが多い。しかし,日常あまり遭遇しない稀な結晶類が出現した場合はアトラスや既報の文献から典型的な形態的特徴や性状を頼りに結晶類を推定するが,判定が困難である場合は最終的に結石分析での詳細な解析を行う。
キサンチン結晶は腫瘍の化学療法中に出現する稀な結晶として報告されており2),3),腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome;以下,TLS)を予防するために使用されるキサンチンオキシダーゼ阻害剤を使用することで尿酸の前駆物質であるキサンチンが蓄積されることが関係している。今回我々は化学療法を行っている血液腫瘍患者の尿沈渣中に,褐色を示す顆粒状物質の集塊を認め,溶解性試験を行ったが鑑別に苦慮し,その後同患者尿中から典型的な板状のキサンチン結晶が出現した症例を経験したので報告する。
患者:30代,女性。
主訴:発熱,全身倦怠感。
現病歴:Ph陰性B-ALLと診断され,寛解導入療法後CRとなった。5回の地固め療法後,HLAフルマッチの非血縁者間末梢血幹細胞移植が行われ,生着を確認した。約2か月後,外来受診時に血液検査でWBC 20.2 × 109/L,末梢血液像中の芽球が2.5%,LD 2,661 U/Lと高値を認めた。原疾患の再発が疑われたため,精査加療目的に入院となった。
2. 臨床経過入院後の臨床経過をFigure 1に示す。
The upper row shows changes of lactate dehydrogenase (LD), and the bottom row shows changes of creatinine (Cre), uric acid (UA), inorganic phosphorus (IP), urea nitrogen (UN).
骨髄検査と染色体遺伝子検査の結果から原疾患の再発を認め,化学療法が開始された。初めにprephase PSLが行われ,入院5日目にはCPA,VCRが追加された。腫瘍細胞の崩壊が著しくLDの上昇が続いていたが,TLS予防のためにフェブキソスタットが投与されていたため尿酸の上昇は抑えられていた。入院16日目に再発または難治性B-ALLの治療に使われるInotuzumabも投与されたが,効果は乏しく,また肝障害がみられたため途中で投与中止となった。入院26日目にCPA,VCRの投与量を変更し,入院37日目にはAraCでの治療が開始された。この頃患者はTLSをきたしており,次第にベッドからの移動が困難となったため膀胱留置カテーテル管理となった。化学療法を行っている間に末梢血液像中の芽球が消えることはなかった。患者の意向でこれ以上の治療は行わず,退院してから数日後に永眠された。
尿検体が提出された時の検査所見を示す。
1. 入院7日目尿定性検査は比重1.014,pH 7.0,尿蛋白(1+),尿糖(2+)であった。検体を遠心した後の沈渣物の外観はわずかに白く濁っている程度であり,目立った着色はしていなかった。尿沈渣検査では硝子円柱から顆粒円柱までを多く認めた(Table 1)。また,褐色を示す顆粒状物質の集塊を認めた(Figure 2A, B)。形態的特徴のみでは集塊の判定が困難であったため,37℃で加温,3%塩酸,生理食塩水,10%水酸化カリウムを用いて溶解性試験を行った。その結果,水酸化カリウムでのみ顆粒状物質の溶解が認められ,その他の試験では溶解は認められなかった。患者の検査値から腫瘍崩壊の亢進が示唆され,TLS予防のためキサンチンオキシダーゼ阻害剤であるフェブキソスタットを使用していることがカルテ情報から得られた。これらからキサンチン結晶を疑ったが,特徴的な板状結晶は認められなかった。担当医師には同定困難な結晶様物質が認められたことを報告した。
7th day | 38th day | |
---|---|---|
Urinalysis | ||
S.G. | 1.014 | 1.018 |
pH | 7.0 | 5.0 |
Protein | (1+) | (−) |
Glucose | (2+) | (−) |
Urobilinogen | (±) | (±) |
Bilirubin | (−) | (1+) |
Keton body | (−) | (−) |
Occult blood | (−) | (−) |
Nitrite | (−) | (−) |
Leucocyte esterase | (−) | (−) |
Urinary sediment | ||
RBC | < 1/HPF | |
WBC | < 1/HPF | |
Renal tubular epithelial cell | < 1/HPF | < 1/HPF |
Hyaline cast | 10–19/WF | |
Epithelial cast | 1–4/WF | |
Granular cast | 5–9/WF | |
Crystal | * | (+) |
Urine | ||
N-acetyl-β-D-glucosaminidase | ― | 15.4 IU/L |
― | 90.6 IU/gCr | |
β2-microgloblin | ― | 6,281.0 μg/L |
*We reported as crystal-like substances that are difficult to identify.
B: Arrow show granular agglomerates adhere to tubular epithelial cell.
尿定性検査は比重1.018,pH 5.0,ビリルビン(1+)であった。沈渣物の外観は黄褐色を呈していた。尿沈渣検査では褐色の板状結晶や顆粒状物質の集塊を多数認めた(Table 1)。板状結晶は均質的な微細顆粒から成るのもや,2,8-ジヒドロキシアデニン結晶に類似した大小様々な円形・球状顆粒を織り交ぜたものなど多彩な結晶であった(Figure 3A, B)。溶解性試験を行い水酸化カリウムでのみ板状結晶や顆粒状物質の溶解が認められ,加温,塩酸,生理食塩水での溶解は認められなかった。患者のカルテ情報から,フェブキソスタットを使用していることを確認後,担当医師にキサンチン結晶を疑う尿沈渣所見であることを報告した。後日,結晶を同定するため残余検体を外部委託し結石分析を行った。その結果,結晶成分の98%以上がキサンチンと判定された(Figure 4)。
B: Arrow show xanthine crystals adhere to tubular epithelial cell.
キサンチンはプリン体代謝産物であり,主に肝臓でキサンチンオキシダーゼの作用によって,前駆物質のヒポキサンチンからキサンチン,さらには尿酸へと代謝される。通常ヒトでは最終代謝産物の尿酸として体外に排泄されるため尿中で結晶や結石を形成することは稀である。これまでにキサンチン結晶や結石が報告された症例は,キサンチンオキシダーゼ欠損症(常染色体性劣性遺伝)患者4)をはじめ,サルベージ経路障害として知られるヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損のLesch-Nyhan症候群(X連鎖性劣性遺伝)患者5),6)や血液腫瘍患者にキサンチンオキシダーゼ阻害剤を使用したことで生じた例がある2),3)。
腫瘍患者における化学療法や放射線療法は腫瘍細胞が急激に崩壊するため,大量の核酸,カリウム,リンなどの細胞内成分やサイトカインが血中に流出する。それらの成分や代謝産物は生体内のホメオスタシスのはたらきによって腎臓から排泄されるが,処理能力を超えてしまった場合にTLSを引き起こし,腎障害,不整脈,けいれん,さらには多臓器不全により死亡することもある。TLSを予防するために尿酸の生成を抑えるキサンチンオキシダーゼ阻害剤が使用されており,尿酸の前駆物質であるキサンチンが増加するため,キサンチン尿症に注意する必要がある7)。
これまでに尿沈渣検査でキサンチン結晶を認めた報告は,我々が調べた限りでは血液腫瘍患者の化学療法施行時に出現した症例であった2),3)。本症例も血液腫瘍患者であり,化学療法施行時にTLS予防のためキサンチンオキシダーゼ阻害剤のフェブキソスタットを使用していた。結晶の特徴をOmokawaら2)は灰褐色で大きな板状結晶と述べており,大沼ら3)は褐色の板状結晶と尿酸塩に類似した顆粒を認めたと報告している。また,どちらの症例も溶解性試験の結果は水酸化カリウムで溶解し,塩酸,酢酸には溶解していない。本症例の入院7日目に出現した褐色を示す顆粒状物質の集塊は,溶解性試験を行ったが水酸化カリウムにのみ溶解した。患者の検査値の時系列変化から腫瘍崩壊の亢進が示唆され,またカルテ情報からキサンチンオキシダーゼ阻害剤を使用していたことから,キサンチン結晶を疑ったが,特徴的な板状結晶は認められなかった。顆粒状物質は一つの粒として存在するというよりは,むしろ集塊で存在しており,その大きさは様々であった。入院38日目に出現した結晶はキサンチン結晶に特徴的な板状結晶を認めたが,それらの中には大沼ら3)が述べているように顆粒状物質も認めた。集塊の大きさは様々であった。入院7日目と38日目の顆粒状物質を比較すると,どちらも色調は褐色を示し大小様々な集塊を形成していること,溶解性試験では水酸化カリウムに溶解し塩酸と生理食塩水には溶解しないことなど形態的特徴や性状が一致する点が多い。さらに,過去の報告で,血液腫瘍患者11名中8名で化学療法施行後に出現した結晶が,実験的に作成したキサンチン結晶と類似した形態を示しており,その内4名の結晶でキサンチンと一致するクロマトグラフィーの結果であった8)。本症例の入院7日目に出現した顆粒状物質とも形態が非常に類似していた。また,入院38日目に認められたキサンチン結晶は形態的には板状であるが,結晶の構成が均質的な微細顆粒や大小様々な円形・球状顆粒を含んだものなど多彩であった。これらのことから,入院7日目に出現した顆粒状物質は,小さなキサンチン結晶で,特徴的な板状結晶を形成する前段階であったと考える。
入院7日目あたりはLDが高値であり,化学療法の併用でかなりの腫瘍崩壊があったと予想される。つまり,尿酸生成を抑制していた患者の尿中にはキサンチンが増加していたと思われる。尿路結石の形成過程として,無機成分と有機成分から結石は構成されており,無機成分が飽和状態を超えると結晶核がつくられ,有機成分がこれらを結び付けて結晶が成長,凝集,結石化するのではないかといわれている。さらに,結石形成の促進因子として尿量の減少や無機成分の濃度上昇,種類によっては尿pHが挙げられている9)。キサンチンの酸解離定数(pKa)が7.4であり,溶解度はpH 5で5 mg/dL,pH 7で13 mg/dLといわれているため6)pHが上昇するにつれて溶解しやすい性質がある。これらのことから,入院7日目にはキサンチン結晶の核はあったが,補液と利尿剤の影響もあり尿量が確保できていたことやpH 7.0と中性だったことが板状結晶を形成するまでには至らなかった理由として考えられる。反対に,入院38日目は自力での排尿困難な状態で膀胱留置カテーテル管理となり,尿量も減少していた。尿の滞留とpH 5.0という条件がキサンチン結晶の形成を促進し,多くの板状結晶が出現した可能性が高い。
尿中に出現した結晶は結石形成や尿細管沈着による閉塞性腎障害を引き起こす原因となる。今回の症例は入院7日目には多くの円柱類を認め,尿細管障害が示唆された。入院38日目には生化学のデータや尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase(NAG),尿中β2-microgloblin(β2MG)が高値であったことから腎機能の低下が示唆される所見であった。また,顆粒状物質の集塊やキサンチン結晶が尿細管上皮細胞と付着した状態で確認されたことから(Figure 2B, 3B),これらの結晶成分が尿細管腔で生成されたことが推測され,尿細管沈着による腎障害に関与していた可能性が考えられる。
入院7日目に出現した顆粒状物質は結石分析に必要な量を得られなかったため,今回は同定することができなかった。尿検体は入院18日目と35日目にも提出されたが,同様の顆粒状物質は見られなかった。しかし,溶解性試験の結果や既報の文献からキサンチン結晶であることが推測された。キサンチン結晶が出現した報告は,今のところ,腫瘍患者のTLS予防のためにキサンチンオキシダーゼ阻害剤を使用している2),3)。近年,分子標的薬の開発など治療薬の発展が目覚ましいことから,腫瘍患者において急速に腫瘍細胞の崩壊が起きることが予想され,TLSの予防がさらに重要になると思われる。そのため,腫瘍患者におけるキサンチン結晶の出現は今後も留意すべきことだと考える。本症例を機にTLS発症のリスクが高い血液科において,検査部からキサンチン結晶という沈渣成分の情報提供を行った。それによって,キサンチンオキシダーゼ阻害剤を使用している患者はキサンチン結晶や結石形成のリスクがあることを医師らに認識してもらえた。今回の様に典型的な板状を示さないキサンチン結晶が出現した場合でも腎障害との関連が示唆されるため,臨床へ報告する意義は高い。腎障害を防ぐためにも検査者は形態的特徴の他に出現背景や性状を理解して検査に臨むことが重要である。
化学療法施行中の血液腫瘍患者尿から小さなキサンチン結晶と思われる顆粒状物質を認め,その後典型的な板状の結晶が出現した症例を経験した。キサンチン結晶と腎障害の関連が示唆されたため,尿沈渣検査で本結晶を検出する意義は高いと考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本症例報告にあたり,ご協力を頂いた自治医科大学附属病院 血液科 伊藤祥子先生に深謝いたします。