2022 年 71 巻 4 号 p. 667-674
近年,尿沈渣検査においては尿中有形成分分析装置が普及し,尿検査の自動化・迅速化の一翼を担っている。現在,フローサイトメトリー法や画像法を原理とする装置が数種類販売されている。今回,日当直業務に尿中有形成分分析装置が活用できるかという観点に立ち,AUTION EYE AI-4510(以下,AI-4510),Atellica UAS800(以下,UAS800),UF-5000の3機種を用い性能評価を行ったので報告する。561検体を対象として,同時再現性試験・相関性試験・濁度別測定時間の比較について検討を行った。同時再現性は目視鏡検測定結果に対して ±1ランク内の結果が得られた。目視鏡検に対する相関は,±1ランク一致率という観点では3機種とも良好であったが,特に日当直帯で重要視される赤血球,白血球,細菌の一致率はUF-5000が若干良好であった。また,感度・特異度では機種により特徴が認められた。一方,濁度別検体の測定時間の比較において,UAS800はAI-4510,UF-5000に比べ,どの濃度レベルであっても測定時間が一定であった。尿沈渣検査は形態学検査であるため,日当直業務を行うスタッフ間でも経験値による違いや個人差が生じている。その不安材料を払拭するため,尿中有形成分分析装置は有用である。各分析装置の利点を生かし活用することで日当直担当者の不安解消につながると考えられる。
Fully automated urine sediment analyzers have been commonly used, and this contributes to the automation and optimization of urinalysis. Several types of instrument using digital image analysis or flow cytometry are available. We conducted a comparison study to evaluate the analytical performances of AUTION EYE AI-4510 (hereafter, AI-4510), Atellica UAS800 (hereafter, UAS800), and UF-5000. The focus of this study was on the availability of those devices for holiday/night medical services. We compared the repeatability, correlation, and interference by turbid urine among these three devices by using 561 clinical specimens. All the results of repeatability showed a within ±1 rank variation. We found differences in sensitivity and specificity among the three devices. Although the correlation, which was represented as a ±1 rank match, was almost comparable, UF-5000 showed better correlation with RBC, WBC, and BACT, which are especially important for holiday/night medical services. Regarding the required duration for the measurement of turbid urine specimens, UAS800 showed a constant term, whereas AI-4510 and UF-5000 did not. Since the urinary sedimentation test is a morphological test, there are differences among experiences and individual differences between day and night shift staff. To eliminate these concerns, a urine sediment analyzer is useful. Utilizing the analyzer by taking advantage of it will be helpful to eliminate staff anxiety.
現在,救急医療や集中医療が行われる中,多くの病院で日当直体制がとられており,臨床検査技師にとって日当直勤務は避けては通ることができない業務である。また,日当直勤務を担当するスタッフ全員がすべての業務に精通しているとは限らず,不安を抱えたスタッフが検査結果を報告しているのが現状である。特に一般検査部門においては,尿沈渣検査や髄液検査などの形態学検査があるが,経験値の違いにより細胞分類や細胞数の算定に個人差が生じることもある。通常日当直を行うにあたっては,事前のトレーニングや継続的なスキルアップが必須であり,当院においても教育プログラムを準備し,日当直者の不安軽減に努めている。
近年,尿沈渣検査においては,尿中有形成分分析装置が普及し,日常の一般検査業務において,尿中有形成分の少ない検体を自動報告する補助的手段として定着してきた。現在は,フローサイトメトリー法(以下,FCM法)や画像法を原理とする装置が数種類販売されている。
今回,日当直勤務を行うスタッフの不安材料である経験値や個人差を埋める手段として,尿中有形成分分析装置が活用できるかという観点に立ち,院内導入を目的として,目視鏡検を対照に検討3機種の性能評価を行ったので報告する。
本検討は,検討各社と採用前検討契約を締結した上で,院内の倫理委員会の承認(承認番号2022-7)を得て実施した。
検討に用いた尿中有形成分分析装置は,アークレイ社フロー方式画像撮影のAUTION EYE AI-4510 Ver.1.11(以下,AI-4510),シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社画像処理法のAtellica UAS800(以下,UAS800),シスメックス社FCM法のUF-5000(以下,UF-5000)の3機種を用い,対照検査法として目視鏡検法による判定を行った。3機種の製品仕様はTable 1に示した。
尿中有形成分分析装置名 | AI-4510 | UAS800 | UF-5000 |
---|---|---|---|
メーカー名 | アークレイ株式会社 | シーメンスヘルスケア・ ダイアグノスティクス株式会社 |
シスメックス株式会社 |
検査方法 | フロー方式画像撮影 | 画像処理法 | フローサイトメトリー法 |
外形寸法(幅 × 高さ × 奥行)(mm) | 530 × 650 × 600 | 625 × 625 × 625 | 726 × 855 × 754 |
処理能力 | 80検体/時間 | 106検体/時間 | 105検体/時間 |
データ保存容量 | 10,000検体 | 10,000検体 | 10,000検体 |
最初の結果報告までの時間 | 80秒 | 90秒 | 75秒 |
必要検体量 (検体使用量) | 2.0 mL(1.0 mL以下) | 2.0 mL(0.8 mL) | 2.0 mL(0.45 mL) |
販売開始年月日 | 2019年7月8日 | 2018年4月2日 | 2015年9月1日 |
消耗物品 | ― | キュベット | ― |
使用試薬 | シース液 洗浄液(メンテナンス用) コントロール |
コントロール | シース液 フルオロセルCR フルオロセルSF セルパックCR セルパックSF コントロール セルクリーン |
AI-4510は,フローセルを流れる検体を撮影して得られた無染色カラー画像から有形成分を抽出し自動分類している。また,測定した成分を1画面に表示する機能も搭載されている。UAS800は,キュベットに分注した検体を簡易遠心した後に撮影した背景を含む無染色グレースケール画像から自動分類,遠心により鮮明な鏡検に近い画像が得られる。UF-5000は,従来のFCM法による分析法に加え,信号波形の面積を捉え,核酸量や内部構造の複雑性を加味した大きさ情報に応用し,分類性能を向上させている。
2. 対象検体2021年8月23日~9月8日の期間において,当院中央検査部に提出された外来および入院尿検査のうち,尿沈渣オーダーのあった561検体を対象とした。対象とした個人データはデータベースより抽出後,連結不可能匿名化した上で管理した。
検討項目は,赤血球,白血球,扁平上皮,硝子円柱,細菌の5項目とした。
1. 同時再現性試験赤血球,白血球,細菌の3項目について,目視鏡検で陰性/陽性境界付近であった1検体について,3機種で10重測定を行った。
2. 相関性試験赤血球,白血球,扁平上皮,硝子円柱,細菌の5項目について,尿沈渣検査法2010(JCCLS GP1-P4)1)に従い一般検査部門責任者が検査した目視鏡検結果を対照として,3機種で測定し相関性を調べた。なお,3機種の測定順は,平等を期すよう測定日毎に順序を変更した。
3. 濁度別検体の測定の比較(Figure 1)濁度別に分類した各10検体を3機種で連続測定し,濁度レベルによる測定時間を比較した。
検討検体から,濁度レベル「清」,「濁(軽度)」,「濁(中等度)」,「濁(高度)」に分類し,各レベル10検体を抽出後,3機種で10検体を連続測定し,濁度レベルによる測定時間を比較した。測定時間は,分析スタートから検体ラックを取り出すことができるまでの時間とした。
また,濁度検体による詰まりエラーが発生するかを確認した。
測定項目 | 目視(鏡検) | AI-4510 | UAS800 | UF-5000 |
---|---|---|---|---|
赤血球 | 1–4/HPF | (/HPF) | (/HPF) | (/HPF) |
1–4 | 1–4 | 1–4 | ||
1–4 | 5–9 | 1–4 | ||
1–4 | 1–4 | 1–4 | ||
1–4 | 1–4 | 1–4 | ||
1–4 | 5–9 | 1–4 | ||
1–4 | 1–4 | 1–4 | ||
1–4 | 1–4 | 1–4 | ||
1–4 | 1–4 | 1–4 | ||
1–4 | 1–4 | 1–4 | ||
< 1 | < 1 | 1–4 | ||
白血球 | < 1/HPF | (/HPF) | (/HPF) | (/HPF) |
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | 1–4 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | 1–4 | < 1 | ||
扁平上皮 | < 1/HPF | (/HPF) | (/HPF) | (/HPF) |
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | 1–4 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | < 1 | < 1 | ||
< 1 | 1–4 | < 1 | ||
< 1 | 1–4 | < 1 | ||
硝子円柱 | < 1/100HPF | (/100LPF) | (定性) | (/LPF) |
< 1 | 1+ | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
< 1 | 1+ | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
< 1 | − | < 1 | ||
細菌 | −~+/− | (定性) | (定性) | (定性) |
− | − | +/− | ||
− | − | +/− | ||
1+ | − | +/− | ||
− | − | +/− | ||
− | − | +/− | ||
1+ | − | +/− | ||
− | − | +/− | ||
− | − | +/− | ||
− | − | +/− | ||
− | − | +/− |
赤血球,白血球,扁平上皮,硝子円柱,細菌について,対照検査法である目視鏡検の判定結果 ±1ランク内の結果が得られた。AI-4510,UF-5000に比べUAS800に若干のばらつきが認められた。
2. 相関性試験目視鏡検の判定結果を対照として3機種の相関図を作成し,設定したカットオフ値により,感度,特異度,±1ランク一致率,完全一致率を算出した(Table 4)。カットオフ値は,尿沈渣検査法2010(JCCLS GP1-P4)に従い,赤血球,白血球は1~4個/HPFまでを陰性,5~9個/HPF以上を陽性,扁平上皮は1個未満/HPFを陰性,1~4個/HPF以上を陽性とした。硝子円柱は検討3機種の報告単位が異なるため,感度・特異度を比較せず3機種報告単位との相関図を作成した。細菌は(1+)以上を陽性とした。各Tableのカットオフ値は赤線で示した。
1) 赤血球(Table 3-1)感度は52.0%~62.9%,特異度は95.9~98.8%で,機種により感度,特異度に差が認められた。
±1ランク一致率はいずれも90%前後となった。
3機種とも1例程度数ランクの乖離が認められた。
2) 白血球(Table 3-2)感度は71.1%~93.6%,特異度は82.9~98.4%で,機種により感度,特異度に差が認められた。
±1ランク一致率はいずれも92%以上となった。
3機種とも数例数ランクの乖離が認められた。
3) 扁平上皮(Table 3-3)感度は35.1%~87.9%,特異度は71.1~99.7%で,機種により感度,特異度に差が認められた。
±1ランク一致率はいずれも94%以上となった。
4) 硝子円柱(Table 3-4)3機種報告単位が異なるため,感度,特異度,±1ランク一致率,完全一致による比較は避けた。3機種とも目視鏡検判定結果に対して低値かつ成分判定能力や検出に差が認められた。
5) 細菌(Table 3-5)感度は50.0%~81.9%,特異度は83.1~95.4%で,機種により感度,特異度に差が認められた。完全一致率はUF-5000に対してAI-4510は約5%,UAS800は約10%低い結果が得られた。
AI-4510 | UAS800 | UF-5000 | ||
---|---|---|---|---|
感度 | 赤血球 | 52.0 | 62.9 | 55.2 |
白血球 | 71.1 | 93.6 | 74.3 | |
扁平上皮 | 35.1 | 87.9 | 39.7 | |
細菌 | 81.9 | 50.0 | 71.3 | |
特異度 | 赤血球 | 97.9 | 95.9 | 98.8 |
白血球 | 97.1 | 82.9 | 98.4 | |
扁平上皮 | 99.7 | 71.1 | 96.6 | |
細菌 | 83.1 | 90.1 | 95.4 | |
±1ランク一致率 | 赤血球 | 89.8 | 89.5 | 90.6 |
白血球 | 92.3 | 94.8 | 95.5 | |
扁平上皮 | 94.1 | 98.2 | 94.7 | |
細菌 | 98.8 | 96.1 | 100.0 | |
完全一致率 | 赤血球 | 54.9 | 58.8 | 60.1 |
白血球 | 60.1 | 60.6 | 68.4 | |
扁平上皮 | 71.5 | 64.9 | 69.9 | |
細菌 | 75.9 | 69.9 | 80.7 |
Number of samples: 561
機種名 | 清 | 濁(軽度) | 濁(中等度) | 濁(高度) |
---|---|---|---|---|
AI-4510 | 7分41秒 | 14分06秒 | 21分40秒 | 28分50秒 |
UAS800 | 5分00秒 | 5分00秒 | 5分00秒 | 5分00秒 |
UF-5000 | 7分42秒 | 15分19秒 | 18分11秒 | 22分53秒 |
UAS800は濁度レベル「清」,「濁(軽度)」,「濁(中等度)」,「濁(高度)」全てにおいて測定時間に変化がなく,分析スタートから5分で検体ラックが取り出せる状態になり,混濁の影響は認められなかった。AI-4510は「清」7分41秒~「濁(高度)」28分50秒,UF-5000は「清」7分42秒~「濁(高度)」22分53秒と「濁(軽度)」以上においては大幅に遅延した。詰まりによるエラーは3機種共に認められなかったが,UAS800は濁(高度)10検体中2検体で結果が得られなかった。
3機種について,同時再現性,尿沈渣5項目との相関,濁度検体の測定の比較について検討を行った。
同時再現性は目視鏡検測定結果に対して ±1ランク内の結果が得られた。UAS800は2機種に比べややばらつきが認められた。
目視鏡検に対する相関は,±1ランク一致率という観点では,3機種とも良好であった。特に日当直帯で重要視される赤血球,白血球,細菌2)の一致率はUF-5000が2機種に比べ若干良い結果が得られたが,3機種とも一部の検体で誤認等による数ランクの乖離も認められた。尿中有形成分の形態は多種多様であり,測定原理により捉え方の違いが出てしまうと考える。
JCCLS尿沈渣検査法提案指針1)では,尿沈渣検査の自動分析装置について,その特性を理解して用いること,尿沈渣検査の機械的自動化ではなく,新しい尿中有形成分情報であるとの立場を示している。
一般的に分析装置は,自動化により,省力化,迅速化に優れている3)。しかしながら,尿中有形成分分析装置においては,成分判定能力及び検出の点で十分ではないことを理解する必要がある。その意味では,今回検討した3機種ともに,日当直勤務に十分有用な性能を備えていると考えられる。
次に3機種の測定原理の面から比較すると,UF-5000はFCM法を測定原理としており,従来の機器よりも波長の短い青色半導体レーザーを搭載することで,より微細な有形成分の検出が可能となっている4)。しかし,低信頼データフラグが立った検体の確認を行う際,スキャッタグラムから考察するか,目視鏡検を行うことになる。一方,UAS800は画像処理法,AI-4510はフロー方式画像撮影を測定原理としており有形成分を画像で捉えるため,低信頼データフラグの立った検体は目視鏡検の判断だけでなく,画像を確認し報告するというステップを追加することができる。更にUAS800においては,尿沈渣に近似した背景を含む画像であるため,日常の目視鏡検と同様の感覚で成分確認することが可能である。更に,UAS800とAI-4510は両機種とも画像を保存することができるため,保存した画像を利用し日当直時の問題点であるスタッフ間の経験値及び個人差を軽減するためのスタッフ教育や,担当者の継続的なスキルアップに活用することができる。また日当直帯から日勤帯への引き継ぎの際にも,事前の準備無しに担当者に判定困難であった細胞を伝え,再確認してもらうことも可能となる。
濁度別検体の測定の比較においては,測定時の濁度検体による詰まりは3機種ともに認められなかったものの,測定時間は機種により大幅な遅延や測定結果が得られない場合があり,日当直においては,混濁検体の取扱について決めておく必要がある。
日当直における一般検査は,日常的に業務に接していない検査技師にとっては不安の一つである。尿沈渣検査は形態学検査であるため,判定は経験値の差により細胞分類や細胞数の算定に個人差が生じてしまうことがある。今回検討した尿中有形成分分析装置の測定結果は3機種ともに日当直勤務に十分有用な性能を備えていると考えられるが,感度,特異度の違い,測定原理や特徴の違いなどから,使用する施設の運用を配慮したロジック設定が必要と考える。また,日当直者の不安解消のためには,混濁検体やフラグが立った検体,判定が困難であった検体については手順を明確化することも必要である。並行して一般検査担当者は尿沈渣画像,分析装置のスキャッタグラムや保存画像などを利用した日当直勤務時に閲覧できる教育資材を準備するとともに日当直者のスキルアップトレーニングを継続的に行うことで不安解消に努めたい。
日当直勤務を行うスタッフの不安材料である経験値や個人差を埋める手段として,尿中有形成分分析装置が活用できるかという観点に立ち,院内導入を視野に入れ,目視鏡検を対照として検討3機種の性能評価を行った。
尿沈渣検査は経験値の差により細胞分類や細胞数の算定に個人差が生じてしまうことがあるが,尿中有形成分分析装置は誰が操作しても装置の基準で判定するため,日当直帯で有用である。各分析装置の利点を生かし活用することで日当直担当者の不安解消につながると考えられる。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。