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資料
ファイザー社製新型コロナウイルスワクチン2回接種後の健常者における,副反応の程度と抗体量との関連
堀 憲治広瀬 佳子宮原 祥子征矢 佳輔鈴木 貴典北原 早紀吉澤 聡美竹内 信道
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2023 年 72 巻 1 号 p. 128-134

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Abstract

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の抑止と重症化予防においてワクチン接種が広く進められているが,接種後の発熱,頭痛,倦怠感などの副反応は一般市民の大きな不安要素の1つである。そこでファイザー社製mRNAワクチンを2回目接種した当院職員269名を対象とし,副反応の程度と,接種後一定期間後の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質S1サブユニット受容体結合ドメインに対するIgG抗体価(以下sIgG抗体価)との関連を年齢,性別などの因子を考慮し検討した。sIgG抗体価の中央値は1,299.5 AU/mLであり,全員が抗体陽性判定(50 AU/mL以上)であったが,男女ともにばらつきが大きく,男女間の有意差は認めなかった。世代を20代~40代の4群に分けてsIgG抗体価の分布を比較したところ,各世代間で統計学的有意差を認めた。今回の調査で「副反応あり」とする基準は,37.5℃以上の発熱に加えて,頭痛,倦怠感,関節痛のいずれか1つ以上の全身症状の程度が「生活に支障を来した」と回答したものとした。その結果,全体,男性,女性いずれにおいても,副反応あり群で有意にsIgG抗体価が高い傾向を認めた。発熱単独,各全身症状単独では,男女共に有意差を認めたものはなかった。これらの結果は,発熱に加え全身症状を伴った副反応の出現が,より強固な中和抗体の獲得に繋がっている可能性を示唆するものである。

Translated Abstract

Adverse reactions such as fever, headache, and fatigue after vaccination are one of the major anxiety factors for the general public in preventing the spread of Covid-19 infection. The subjects were 269 staff members (M:F = 60%:40%) who received the second dose of Pfizer’s mRNA vaccine at our hospital. The association of adverse reactions with the IgG antibody titer for the binding domain was examined considering factors such as age and gender. The median sIgG antibody titer was 1,299.5 AU/mL (800.2 AU/mL to 1,947.3 AU/mL), and all the subjects were antibody-positive (50 AU/mL or higher), with an extensive range. There was no significant difference between men and women. When the subjects were divided into four age groups from the 20s to 50s and the antibody titers were compared, a statistically significant difference was observed among the age groups. Drinking habits and taking anti-allergic drugs did not affect the sIgG antibody titers. The criteria for “with adverse reactions” in this study were having a fever of 37.5°C or higher, and one or more systemic symptoms of headache, malaise, and arthralgia whose severity was “disturbing life”. Overall, males and females in the group with adverse reactions all tended to have significantly higher sIgG antibody titers. Any systemic symptoms other than fever as an adverse reaction could be a predictive factor for the acquisition of neutralizing antibodies.

I  はじめに

2019年12月より中華人民共和国の湖北省・武漢市で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)は,全世界に急速に拡大した。日本ではこの感染拡大の抑止と重症化を防ぐため,各種のワクチン接種が医療従事者に対し優先接種が実施され,2021年10月現在,日本国民のワクチン2回接種の接種率は75%を超えている。

一方でワクチン接種後の副反応として,接種部位反応(疼痛,発赤,腫脹など),発熱,頭痛,倦怠感など,多彩な全身症状を呈すること,2回目接種時の方が1回目よりも強い副反応が見られることが先行研究により明らかとなっている1)~4)。これら副反応の存在は一般市民における大きな不安要素の1つであり,今後実施される3回目以降の接種をためらう要因となる可能性もある。

今回,医療従事者を対象にした優先ワクチン接種を2回完了した当院の職員を対象とし,2回目接種後の副反応の程度と,接種後一定期間後の同ウイルスのスパイクタンパク質S1サブユニット受容体結合ドメイン(receptor binding domain; RBD)に対するIgG型抗体(以下sIgG抗体とする)価に関連があるかを,年齢,性別などの因子を考慮し検討した。

II  対象と方法

1)2回目のワクチン接種終了5ヶ月後に,SARS-CoV-2 IgG抗体価測定用として6 mLの静脈採血を1回実施した。採血時間,食事条件,運動条件などは特に限定しなかった。

またワクチン接種後の抗体価への影響因子1)と言われている以下の項目について自記式質問票(問診票)を用いて収集した。

問診項目:年齢,性別,飲酒頻度,2回目接種以降の服薬の状況(免疫抑制剤,副腎皮質ステロイド薬,抗アレルギー薬(花粉症市販薬を含む))

2)ワクチン接種後の副反応の調査については,2回目ワクチン接種終了後に当院薬剤部においてオンライン形式にて実施した「新型コロナウイルスワクチン「コミナティ筋注」接種後副反応調査」の結果を用いた。この調査結果の本研究への利用については,薬剤部ならびに研究参加者の同意を得た上で使用した。

3)研究参加者の募集は,参加についての案内文書を配布し,参加について同意を得た者を対象とした。本研究は院内倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:21-12)。

III  測定

SARS-CoV-2 IgG抗体価は,当院が所有するアボット社製免疫化学発光測定装置「アーキテクトi1000SR」,ならびに「ARCHITECT SARS CoV-2 IgG II Quant抗体検査用試薬」を用いて,一定の精度管理基準を満たした条件で測定した。

IV  統計解析

抗体価は中央値(四分位範囲[IQR])で示した。

当院の副反応調査項目は,調査当時の先行接種医療機関の報告等を参考に作成されているが,今回「副反応あり」の定義として,以下の症状を満たしたものとした。

①接種後に37.5℃以上の発熱がある。

②接種後に頭痛,倦怠感,関節痛のいずれか1つ以上の全身症状を認め,その程度が「生活に支障を来した」と回答したもの(選択肢は「なし」「軽度」「生活に支障を来した」の3つ)。

2群間の比較にはマンホイットニーのU検定,多群間の比較にはクラスカル・ウォリスの検定を用い,有意水準は両側5%とした。

V  結果

1. 測定結果

本研究に同意し,sIgG抗体価検査を受けたものは269名。いずれも抗体価検査までの間にCOVID-19感染と診断されたものはいなかった。2回目ワクチン接種から採血までの日数の中央値は155日(IQR 154~156)であった。

研究参加者269名中,男性107名(39.8%),女性162名(60.2%)であった。参加者の性別,世代別の抗体価分布をFigure 1に示す。

Figure 1 抗体価の性別,世代別の分布

本測定試薬のカットオフ値は50 AU/mLとされている。今回測定した269名すべてが50 AU/mL以上の抗体陽性判定であった。男女別のsIgG抗体価の分布については,男性 の中央値1,234.8 AU/mL(IQR 715.8~1,835.3,最小値192.9,最大値8,209),女性の中央値1,360.1 AU/mL(IQR 851.4~2,129.2,最小値128.5,最大値8,557.3)であり,ばらつきが非常に大きかった。男女間において統計学的有意差は認めなかった(Table 1)。

Table 1  sIgG抗体価の男女別比較
項 目 中央値 ± 標準偏差 有意差
男 性 女 性
sIgG抗体価(AU/mL) 1,234.8 ± 1,113.0 1,360.1 ± 1,163.6 0.104

※:p < 0.05

世代別の比較として,20代,30代,40代,50代の4群に分け多群間比較をしたところ,全体,男性,女性共に世代間で有意差を認めた(全体p < 0.0001,男性p = 0.003,女性p < 0.0001)(Figure 2)。

Figure 2 世代を4群に分けた際の群間比較結果

またTukey法を用いて世代4群間の多重比較を行ったところ,20代と40代の間で男女ともに有意差を認めた。20代と50代の間では男性にのみ有意差を認めた。一方20代と30代の間には男女ともに有意差を認めなかった(Table 2)。

Table 2  世代間の多重比較結果
全体 男性 女性
20代vs 30代 0.05 0.626 0.200
20代vs 40代 < 0.001 0.014 < 0.001
20代vs 50代 0.002 0.027 0.062
30代vs 40代 0.006 0.126 0.063
30代vs 50代 0.685 0.136 1.00
40代vs 50代 0.105 1.000 0.016

※:p < 0.05

2. 副反応の有無とsIgG抗体価との関連

副反応調査によって得られた各全身症状の報告件数をFigure 3に示す。複数の全身症状を呈した例は,各症状にそれぞれ1名として加算した。各全身症状において「生活に支障を来した」と回答した人数は,頭痛81名(30.1%),倦怠感132名(49.1%),関節痛67名(24.9%)であった。37.5℃以上の発熱を訴えた人数は156名(58.0%)で,全身症状の出現頻度としては最多であった。

Figure 3 各症状の報告件数

副反応の有無とsIgG抗体価との関連では,全体,男性,女性いずれにおいても,副反応あり群の方が有意に高い傾向を認めた(全体:副反応あり群1,519.0 AU/mL vsなし群1,198.2 AU/mL,p = 0.001,男性:副反応あり群1,517.6 AU/mL vsなし群1,111.4 AU/mL,p = 0.016,女性:副反応あり群1,559.6 AU/mL vsなし群1,238.2 AU/mL,p = 0.026)(Figure 4)。

Figure 4 副反応あり群,なし群の抗体価分布

さらに世代別に分けて解析した結果,30代,40代の女性において,副反応の有無とsIgG抗体価との間に有意差を認めた(Table 3)。

Table 3  副反応の有無とsIgG抗体価の性別・世代別比較結果
性別 世代 n 中央値±標準偏差(AU/mL) 有意差
副反応あり群 副反応なし群
男性 20代 28 1,697 ± 892.4 1,376.8 ± 1,773.1 0.316
30代 33 1,604.4 ± 1,302.7 1,212.3 ± 642.9 0.542
40代 25 1,363.3 ± 1,007.4 718.0 ± 662.8 0.263
50代 21 1,339.4 ± 685.8 800.2 ± 882.4 0.61
女性 20代 51 1,870.5 ± 1,160.4 1,965.7 ± 2,213.4 0.688
30代 23 2,771.9 ± 854.9 1,299.5 ± 664.7 0.027
40代 49 1,146 ± 742.7 699.2 ± 471.2 0.004
50代 39 1,231 ± 750.4 1,424.8 ± 696.5 0.415

※:p < 0.05

3. 問診項目とsIgG抗体価との関連

問診項目のうち,飲酒頻度において「毎日飲む」と回答したものは26名(9.7%),抗アレルギー薬を服用していたものは18名(6.7%)だった。いずれもsIgG抗体価において有意差は認めなかった。免疫抑制剤,副腎皮質ステロイド薬を服用していたものがそれぞれ1名いたが,いずれもsIgG抗体価はカットオフ値(50 AU/mL)以上であったが,症例数が少なく有意差検定は行わなかった。

VI  考察

今回8,000 AU/mL以上の高力価であった者が男女に1名ずつ見られた。男性例についてはワクチン接種前にCOVID-19感染者との濃厚接触歴があり,同時期本人に発熱などの感染様症状が見られたが,PCR検査は陰性であり,感染が立証されていない例であった。女性例において同様のエピソードは確認できなかったが,過去に不顕性感染を起こしていたなどの理由から,より強いブースター効果を発現した可能性は否定できない。

男女差についての検討では,抗体価の統計学的有意差は認めなかった。女性の方がsIgG抗体価が高いという先行研究5),6)があるが,抗体価測定条件が2回目接種後2~5週間と,本研究よりも短期間での調査である。接種後5ヶ月を超える期間での男女の有意差を確認した先行研究は見られなかったが,抗体価の減衰の程度に,男女差を超えたばらつきが関与していると推察される。

世代における検討では,多重比較の結果,40代のsIgG抗体価は,20代に比べて男女共に有意に低い傾向が示された。ワクチン接種後のsIgG抗体価と年齢には負の相関があることは先行研究で報告されている5)~8)が,5ヶ月経過の抗体価測定というタイミングや,60歳以上の高齢者を対象としない条件でも,一部でこれを立証する結果となった。

本研究では2回目接種後5ヶ月の時点で最低値128.5 AU/mLであり,陰性判定者は見られなかった。60歳以上を対象とした先行研究9)において,3回目投与前(1回目投与後約7ヶ月経過)の段階で,中央値440 AU/mL(294–923),対象者の3%が抗体陰性であったとの報告がある。今回は60歳以上を研究対象としていないが,年齢との関連性を踏まえると,2回目接種後6ヶ月以上が経過すると,抗体陰性となり有効な中和活性を保持していない高齢者が増加してくる可能性は十分に考えられると推察される。

副反応と抗体価との関連では,男女ともに,37.5℃以上の発熱に加えて生活に支障を来す程度のいずれかの全身症状(頭痛,倦怠感,関節痛)が見られた群において,男女共に有意にsIgG抗体価が高い傾向が示された。先行研究において倦怠感,頭痛などの全身症状の程度と抗体価との有意な関連性はなかったとの報告がある10)~12)。今回の研究において発熱,頭痛,倦怠感,関節痛それぞれを含む群,含まない群での関連性を検証したが,男女共に有意差を認めたものはなかった(Table 4)。本研究の重視すべき視点として,一般市民の副反応に対する不安要素として,発熱のみならず,頭痛,倦怠感,関節痛などの多彩な全身症状の発生や程度も大きな関心事項としてとらえ,これらの症状合併も併せて解析を行った点がある。本研究結果は,発熱に加え全身症状を伴った副反応の出現が,より強固な中和抗体の獲得に繋がっている可能性を示唆するものである。

Table 4  各全身症状の有無とsIgG抗体価との関連
人数 有意差
あり なし 全体 男性 女性
発熱(37.5℃以上) 156 113 > 0.001 0.002 0.077
倦怠感あり 132 137 0.105 0.046 0.753
頭痛あり 81 188 0.079 0.067 0.492
関節痛あり 67 202 0.038 0.247 0.140
今回の「副反応あり」基準(発熱 + 1つ以上の全身症状(生活に支障あり)) 117 152 0.001 0.016 0.026

※:p < 0.05

各全身症状は「生活に支障を来した」と回答したものを「あり」とした。

本研究における2回目ワクチン接種5ヶ月後のsIgG抗体価の中央値は1,299.5 AU/mL(IQR 800.2~1,947.3)であったが,この数値が確実な感染防御に有効な中和活性であるかの基準は未だ明らかにされていない。3回目接種の予防効果を客観的に評価できる指標の確立に向け,さらなる検討が望まれる。

また今回の調査は,2回目ワクチン接種5ヶ月目のsIgG抗体価測定を1回実施したのみであり,時間経過による抗体価の推移については評価できていない。今回の「副反応あり」の群について,5ヶ月以上の長期間の抗体価の持続にも関連しているかどうかは,追加検討の余地がある。

VII  結語

ファイザー社製新型コロナウイルスワクチン2回接種後の副反応の程度と,接種5ヶ月後の抗体価との関連性について,当院職員269名を対象として調査した。抗体価は,ばらつきは大きいもののすべて陽性判定であり,20代から50代の4群の世代間で統計学的有意差を認めた。37.5℃以上の発熱に加えて,全身倦怠感,頭痛,関節痛のうちいずれかの症状が中等度以上であった者を副反応あり群として評価した結果,男女ともに統計学的有意差を認めた。全身症状の訴えの程度は個人の主観であり,評価が難しいとされながらも,発熱との合併を条件として評価することで,長期的な免疫獲得の指標として利用可能であることが示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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