医学検査
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72 巻, 1 号
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原著
  • 岡田 光貴, 福田 篤久, 竹下 仁
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    テトロドトキシン(TTX)は主としてフグ科魚類が有する神経毒である。TTXが原因の食中毒は近年でも多く見られるが,医療施設においてそれら食中毒患者の生体試料中TTXの測定はほとんど実施されていない。そこで,我々は陰イオン交換カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を活用して生体試料中のTTXを検出・定量する手法の構築を試みた。我々が構築したHPLC分析系では,保持時間が0.1–0.4 minの分画において,TTXを示す波形が検出された。さらに,クエン酸緩衝液で調製したTTX試料は,1.0–50 μg/mLの濃度範囲で測定が可能であり,測定結果に基づき検量線を作成することができた。続いて,ヒトの血清や尿で調製したTTX試料の検出と定量を試みた。血清試料の場合,除タンパク処理を施してもTTXを正確に検出・定量することは困難であった。一方,尿試料では,TTXは5.0–50 μg/mLの濃度範囲でTTXを示す波形の検出が可能であったが,検量線に当てはめると実際のTTX濃度よりも低い値に算出された。そこで,尿を用いて調製したTTXの測定結果に基づき,改めて作成した検量線に当てはめることで,TTX濃度の算出値を補正することができた。本研究の結果から,我々が構築したHPLC分析系はTTX食中毒患者の尿試料に適応が可能と考えられた。

  • 藤本 一満, 馬場 利明, 姫野 美保, 西川 悦司
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    トルエンの代謝産物である尿中の馬尿酸(hippuric acid; HA)測定は,有機溶剤健康診断の中で最も対象者が多く,最低6ヶ月に1回の検査実施が義務化されている。現在,HA濃度はHPLC法によって測定されているため処理能力が低く,かつ特殊装置と技術が要求される。今回,HA測定の迅速性と簡便性を目的として,汎用生化学自動分析装置で測定できる酵素法試薬を考案した。本試薬をJCA-BM8040G(日本電子)装置で性能確認したところ,精確性,直線性,最小検出感度等の基礎性能およびHPLC法との相関性結果は良好,かつ類似構造のメチル馬尿酸の影響を受けないことから実用性の高い試薬と考える。

  • 瀬分 望月, 金重 里沙, 中本 碧, 本木 由香里, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)に合併する抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,血液中に多種多様な抗リン脂質抗体群(antiphospholipid antibodies; aPLs)が出現し,重篤かつ多彩な血栓性合併症を繰り返し発症することが知られている。私達はこれまでの研究で,aPLsが単球の組織因子(tissue factor; TF)発現やサイトカイン産生を惹起することにより血栓形成を促すことを明らかにしてきた。本研究では,SLE合併APS(SLE/APS)患者血中にaPLsの血栓形成作用を増幅させる因子が存在すると仮定し,各種サイトカインにて健常人単核球を前処理し,SLE/APS患者由来IgG-aPLsで刺激した後,単球表面TF発現をフローサイトメトリーにて定量した。その結果,TNF-α,IL-1β,IL-6にて前処理を施すことにより,aPLsによる単球表面TF発現が増幅されることを見出した。一方,IL-10を用いた前処理ではaPLsによるTF発現が抑制されることを確認した。ゆえにSLE患者では,自己抗体や炎症性サイトカインの作用により慢性的に単球が刺激され,加えて抗リン脂質抗体が存在することにより単球表面TF発現を中心とする血栓形成作用が増幅されると推測される。

  • 森永 睦子, 片岡 浩巳, 通山 薫
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    救急医療の現場では,意識障害,ショック患者に薬物が関与している場合がある。原因検索の一手段として薬物検出検査は有用であるがこれらの分析は精密機器を使用しているため操作が煩雑であり検査結果報告および手技の取得に時間と人員およびコストを要する。そのためどの施設でも直ぐに測定を確立するのは簡単ではない。そこで,一般的に測定される臨床検査項目やバイタルサイン等の病態パラメータ,病歴,薬歴および治療歴などの患者背景を用いて,網羅的に単変量解析し重症化に関連する因子を抽出した。さらに,ROC解析と多重ロジスティック解析を行い重症処置の有無を予測する式を導出した。対象は,川崎医科大学附属病院高度救命救急センターに搬送された薬物中毒患者197症例を用いた。その結果,重症処置の有無に強く関与する因子は入院の有無,中毒域薬物の有無,大量服薬の有無,向精神薬検出の有無,WBC,D-ダイマー,CK-MB,APTT,GCS,BE,白血球分画の単球(monocyte %)であった。重症化の予測にはGCS,大量服薬の有無,来院時のCK-MB,APTT,monocyte %が関連しており,重症化予測の適合度を表すROC分析では患者背景のみでは0.701,臨床検査値のみでは0.700,患者背景と臨床検査値では0.789であり両者を組み合わせた方が判別度の妥当性が高かった。

  • 星 雅人, 宇佐美 真奈, 鬼頭 慧, 堺澤 恵子, 松田 唱吾, 下山 祐里奈, 坂野 容菜, 太田 達也
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 1 号 p. 33-42
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    尿中硝子円柱は,円柱類の中で最も遭遇する頻度の高いものであり,健常人でも少量認められることがある。尿中硝子円柱の検出は,近年様々な病態の推定に有用であることが報告されているにも関わらず,その生成機序や構成成分については十分に理解されていない。本研究では,試験管内における様々な硝子円柱生成条件の検討とレーザーマイクロダイセクション法を使用した,硝子円柱構成成分の同定を目的とした。硝子円柱は,①pHが酸性,②蛋白質濃度の増加,③尿の濃縮および④24時間の停滞条件において,有意に生成数が増加した。興味深いことに,生成された硝子円柱は鋳型を形成していた。レーザーマイクロダイセクション法により採取された硝子円柱およびろう様円柱を用いて,それぞれ質量分析装置により蛋白質を同定し,比較検討した。両円柱共に,78種類の蛋白質を検出できた。硝子円柱有意に検出された蛋白質は18種類,同程度検出された蛋白質は41種類,ろう様円柱有意に検出された蛋白質は19種類であった。重要なことに,硝子円柱で最も有意に含有された蛋白質はウロモジュリンであった。同定された蛋白質情報に基づき,硝子円柱構成に必要な蛋白質を検討したところ,トランスフェリンの添加により,臨床検体類似の硝子円柱を生成することができた。これらの結果は,硝子円柱出現メカニズムの基礎となるものであり,病態との関係性を理解するために役立つことが期待された。

  • 中村 広基
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 1 号 p. 43-54
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    作製した染色標本の再現性や適否の評価は,臨床検査技師や病理医が実際に顕微鏡で確認して判断している。しかし,この方法は個々の経験差や好みなどに大きく依存するため,標準化が非常に困難である。染色標本を標準化するためには,客観的な評価を行う方法を確立する必要があると考えた。そこで,解析アプリケーションを作製し,染色標本の撮影画像から代表する色値を算出して比較する解析方法を考案した。このアプリケーションは,「染色標本の数値化」,「解析」,「作図」の解析工程を自動化して簡単に扱えることが特徴である。更に,導入も平易に行えるように,一般的に用いられているMicrosoft Excel®を用いている。解析は,HSV表色系,CIE L*a*b*表色系の色空間と,ヒトの知覚特性を考慮したCIE ΔE2000色差式を用いており,6種類の比較方法が可能である。また,背景を除外して解析するためのフィルターや,色を選択して解析するフィルターを実装しており,これらを適切に選択して解析することで,多くの染色標本に対して簡便に安定した比較,評価が実行できる。このアプリケーションを用いて染色条件を管理することにより,染色標本の標準化推進や院内品質管理への貢献が期待できる。

  • 橋本 光弘, 近藤 規明, 井澤 和美, 柴田 一泰, 高須 俊太郎
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    頸動脈内膜剥離術(CEA)中の頸動脈血流遮断時には脳虚血による合併症を生じるリスクが避けられない。術側の内頸動脈血流遮断時の脳虚血の程度は,非術側の血管系からの血流供給の程度に依存すると考えられている。本研究では,頭部磁気共鳴血管撮影(MRA)で描出されるWillis動脈輪前方の画像所見と術中モニタリングとして実施された体性感覚誘発電位(SEP)および運動誘発電位(MEP)の波形との関連について検討した。対象は,CEAの際にSEPおよびMEP術中モニタリングを行った患者205例とした。対象者をMRAでの前大脳動脈起始部(A1)と前交通動脈(A-com)の描出パターンで分類し,術中での内頸動脈血流遮断後のSEPあるいはMEPモニタリング波形の振幅が,遮断前と比較して50%以上低下した症例の割合を群間比較した。モニタリング波形の振幅が低下した症例の割合は,MRA上で両側のA1が描出された群で6.1%,非術側のA1だけが描出不良の群では21.1%,術側のA1だけが描出された群で50.0%,両側のA1は描出されるがA-comが描出不良の群で100%であった。Willis動脈輪前方における非術側から術側への血流供給の有無が,内頸動脈血流遮断時の脳虚血の要因の一つであると考えられた。非術側のA1あるいはA-comの低形成や欠損が存在すると,内頸動脈血流遮断による術側大脳半球の脳虚血が生じるリスクが高くなることが示唆された。

技術論文
  • 西尾 美帆, 藤原 研太郎, 中村 早希, 辻 佐江子, 宇城 研悟, 伊藤 健太郎, 西井 洋一, 畑地 治
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 61-67
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    【目的】デジタルPCR(digital PCR; dPCR)は,微細なウェルにサンプルを分配してPCRを行い遺伝子の絶対数を定量する方法である。これまでdPCRを用いた結核菌の検出に関する報告は散見されるものの,Mycobacterium avium complex(MAC)を対象とした報告はない。今回我々は,dPCR法を用いたMAC検出について培養法およびTRC法と比較し,本法の有用性を検証した。【対象・方法】2019年3月から2021年2月までに肺抗酸菌症を疑い気管支鏡検査を行った135名(平均年齢 ± SD:69.8 ± 10.1歳,男性29名/女性106名)を対象とした。気管支洗浄液を用いdPCR法,培養法,TRC法を実施し,dPCR法と培養法あるいはTRC法との一致率,さらにdPCR法と塗抹ガフキー号数との相関を調べた。【結果】dPCR法と培養法の一致率は93%(感度100%,特異度87%),dPCR法とTRC法との一致率は96%(感度97%,特異度96%)であった。dPCR陽性ウェル数は塗抹ガフキー0号,1号,2号,3号の各群で有意に正の相関がみられた。【結論】MACの遺伝子検査法としてdPCR法は高感度であり,TRC法と同等の検出能を有していることが確認された。dPCR法は,肺MAC症の診断に有用である。

  • 小笠原 愛美, 齋藤 泰智, 中河 知里, 作田 泰宏, 髙屋 絵美梨, 高渕 優太朗, 秋田 隆司
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 68-76
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    Mycoplasma pneumoniaeM. pneumoniae)によるマイコプラズマ肺炎は,市中肺炎の中で最も多く見られる感染症の一つで,小児の肺炎の10~20%を占める。M. pneumoniaeの診断が遅れると,病気の悪化や治療の遷延化につながることから,M. pneumoniaeを正確かつ迅速に検出することが重要である。今回我々は,QP法を原理とした全自動遺伝子解析装置Smart Gene®と当院で通常使用している従来のQP法の検出能を比較検討した。対象は既知濃度のFH株とマイコプラズマ肺炎が疑われた患者104名とした。①FH株は生理食塩水で段階希釈後,両法で分析し最小検出限界の比較を行った。最小検出限界は両法ほぼ同程度であった。②咽頭ぬぐい液を用いて検出能と耐性変異の有無を比較した。両法共に,検出能および耐性変異有無の感度,特異度,一致率においてすべて一致した。③マイコプラズマ抗原迅速診断キットによる分析後の残留検体から抽出し凍結保存していたM. pneumoniae DNA検体を用いた場合,Smart Gene®の感度,特異度,一致率はそれぞれ75.9%,100.0%,87.3%であった。また,耐性変異の有無については両法の結果が一致した。Smart Gene®は,短時間でM. pneumoniaeの感染とマクロライド耐性変異の有無を検出することが可能で,早期診断と抗菌薬の適正使用にも貢献ができ,マイコプラズマ診療において有用性の高い検査法と考えられた。

  • 芳田 梓, 細矢 慶, 加藤 政利, 中島 愛, 中村 利枝, 林 綾子, 秀永 陸奥子, 小伊藤 保雄
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 77-82
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    基準嗅力検査(T&Tオルファクトメトリー)は,T&Tオルファクトメーター(第一薬品産業株式会社)を用いた検査で,嗅覚障害の程度や治療効果の評価をするために重要である。近年,臨床検査は精度管理や標準化が求められているが,T&Tオルファクトメトリーは,操作が煩雑で,検者の手技や判断により検査結果が異なる可能性が指摘されている。今回我々は,日本医科大学多摩永山病院独自のT&Tオルファクトメトリーのフローチャートに準じて検査を行うことで,検査方法の標準化を試みた。2020年10月から2021年4月までに耳鼻咽喉科を受診した64名(慢性副鼻腔炎41例,アレルギー性鼻炎2例,外傷後1例,神経変性疾患4例,原因不明16例)を対象に,フローチャートを用いたT&Tオルファクトメトリー,日常のにおいアンケート,VASスコアを実施した。フローチャートを使用することで,検者は検査の際に判断に迷うことが減り,患者はかおりについて表現しやすい印象であった。また,T&Tオルファクトメトリーの平均認知域値と,嗅覚の自己評価法である日常のにおいアンケートやVASスコアとの関連性をそれぞれ比較した。その結果,T&Tオルファクトメトリーの平均認知域値と日常のにおいアンケートは強い負の相関を認めた(r = −0.715)。そして,VASスコアとも強い負の相関を認めた(r = −0.793)。フローチャートを用いたT&Tオルファクトメトリーは,検者の手技手順が標準化され,患者の主観的な訴えをよく反映する可能性がある。

  • 蜂須賀 大輔, 土井 昭夫, 服部 聡, 平田 基裕, 岩﨑 卓識, 長嶌 和子, 星 雅人
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 83-89
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    関節液検査は,関節液貯留の原因を特定する目的で実施されており,特に結晶分類は結晶誘発性関節炎の診断に有用である。しかし,関節液検査についての精度管理や教育活動は十分に普及していない。その原因として,関節液検査の依頼件数が少ないことや,検体の保存が困難なことが挙げられる。本研究では,関節液中にピロリン酸カルシウム結晶(以下,CPPD結晶)または尿酸ナトリウム結晶(以下,MSU結晶)を認めた検体を対象に,10%中性緩衝ホルマリン固定または無水エタノール固定されたセルブロック標本を用いて,結晶の長期保存が可能か検討した。CPPD結晶は,10%中性緩衝ホルマリン固定で有意に結晶成分が保存されていた。一方,MSU結晶は,無水エタノール固定で有意に結晶成分が保存されていた。検出された結晶は,鋭敏色偏光顕微鏡でCPPD結晶とMSU結晶に特徴的な複屈折性を示した。本法で作製されたセルブロック標本を使用したオンライン鏡検実習では,70%以上の参加者から良好なアンケート結果を得ることができた。これらの結果は,無水エタノール固定によるセルブロック標本を用いることでCPPD結晶とMSU結晶両方の長期保存を可能とし,関節液検査の教育に活用できることを示した。

  • 滝澤 旭, 佐々木 文雄, 小池 和弘, 奥田 瞬治, 藤原 寛太, 大沢 伸孝
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 90-96
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    我々は,尿沈渣中に蛍光を持った結晶や外来性物質の存在することについて報告している。今回,核塩基の代謝産物であるキサンチン結晶,2,8-DHA(2,8-dihydroxyadenine)結晶,経口抗菌剤として知られるトスフロキサシン結晶,蛍光を持つ塩類・結晶円柱,また,人毛や爪,皮膚由来の角化細胞なども青白蛍光色を持つことを確認した。市販の尿酸は板状無色に近い結晶で弱い青白蛍光色を示した。今回,学校検診尿の冷蔵庫保存中に生成された尿酸結晶の分離精製物は,IRスペクトル分析から高い純度(98%以上)であった。尿中尿酸結晶は黄褐色~赤褐色に着色し,青白~黄緑色の蛍光色を示していることから,尿中有色物質の結晶内への取り込みによる蛍光発色性が考えられた。

  • 中田 瞳美, 俵木 美幸, 阿部 正樹, 中田 浩二
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 97-104
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    可溶性インターロイキン2受容体(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)は,非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病の診断補助や治療効果の判定に有用とされている。今回,東ソー株式会社より化学発光酵素免疫測定法を原理とし,15分間で測定可能な試薬が開発された。本研究では,全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA®-CL1200を用いた本試薬の基礎的性能評価を行った。その結果,再現性,選択性,定量限界の評価は良好であり,希釈直線性においても44,131 U/mLまで原点を通る直線性が確認された。また,他法との相関性は良好であり,同じ測定原理のルミパルスとは乖離検体は生じなかったが,ラテックス免疫比濁法を原理とするナノピアとの比較において2例の乖離症例が出現し,いずれもナノピアの方が高値であった。解析の結果,症例1は,検体中のIgMが測定反応系に関与し,症例2は,検体中のHuman anti-mouse antibody(HAMA)による非特異反応の可能性が示唆された。本試薬の基礎的性能は良好であり,日常検査法として十分な性能を有していることから臨床への貢献が期待される。

  • 笠原 裕子, 石原 有理, 下坂 浩則, 吉川 直之, 小野 佳一, 蔵野 信, 矢冨 裕, 飛田 明子
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 1 号 p. 105-114
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    甲状腺関連検査(TSH, FT4, FT3)は,その検査値のみで治療目標基準を設定しているガイドラインがあることから,試薬間差の軽減・解消が要求される項目である。しかしながら,抗原抗体反応による免疫学的測定法を利用しているため,測定機器や試薬により測定結果に多少の相違が生じうるという問題がある。国際臨床化学連合の甲状腺機能検査標準化委員会(IFCC C-STFT)がFT4の標準化とTSHのハーモナイゼーションの有効性を報告したことを受けて,本邦でもTSHのハーモナイゼーションの動きは進んでいるが,同一の検体を用いて複数機種間の測定値を比較検討した報告は少ない。そこで,本検討ではアボットジャパン(同)(以下,アボット社),シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス(株)(以下,シーメンス社),東ソー(株)(以下,東ソー社),富士レビオ(株)(以下,富士レビオ社)の4社の測定装置を用いて,各試薬の基礎的性能と装置間の相関を検討した。いずれの装置も良好な基礎的性能を示し,装置間の相関性も良好であることが確認できたが,一部の項目で,装置間で測定値に差を認めた。今後,値付けの調整による標準化やハーモナイゼーションを進めていくことが重要であると考えられる。

資料
  • 大倉 一晃, 長部 真帆, 石田 美雪
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 1 号 p. 115-122
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    検体の溶血は検査測定値に影響を与えるため,検体の血清情報を臨床に報告することは検査値を解釈する上で重要である。今回,検体の溶血による生化学検査項目への影響の確認を行い,溶血が検査測定値に影響を与えていることを意味する,溶血コメント付加開始点を定め,生化学自動分析装置の溶血度判定値の設定を検討した。採血及び研究使用に同意を得た5人からヘパリンナトリウム血液と血清を得,10段階の血清溶血液を作成し,生化学28項目の影響を調べた。その結果,Hb既知濃度溶血試料のヘモグロビン(Hb)濃度0 mg/dLと比較した時のHb濃度400 mg/dLの平均変化率はLD,Fe,AST,D-BIL,T-BIL,Kの順に大きかった。その中で検体の溶血によるKの変動が最もデータ判読への影響が大きいと考え,Kの個体内生理的変動幅の標準偏差の1/2量(0.12 mEq/L)を許容誤差限界とした場合,これを上回る検体の溶血はHb濃度50 mg/dLであり,溶血コメント付加開始点はHb濃度50 mg/dLが適切と考えられた。その濃度の溶血試料を測定した結果,自動分析装置の溶血度判定値は1.41であった。また,LD,Fe,AST,Kは検体のHb濃度0 mg/mLとHb濃度50 mg/dL時点での増加量が,各項目の許容誤差限界を超えることから,溶血と判定され,溶血コメント付加時には,検体の溶血によって検査測定値が影響を受けていることを示す参考値報告をこの4項目に行うことが有意であると考えられた。

  • 井上 鈴花, 湯浅 和久, 小澤 晃, 宮本 卓馬, 丹 美玖, 北爪 洋介, 舩津 知彦, 櫻井 信司
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 1 号 p. 123-127
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    LIA法の抗ピロリ抗体検査試薬(H.ピロリ-ラテックス「生研」)は,カットオフ値が10.0 U/mLに設定されているが,実際は抗体陰性例中にもピロリ菌現感染症例が少数存在することが報告されている。今回,抗体価陰性高値例と低値例における現感染疑い症例の存在について,同時期に実施された内視鏡所見の再評価により検証した。対象は,過去に除菌歴,胃がんの既往がなく,当院の検査で抗ピロリ抗体陰性(< 10.0 U/mL)と判定され,かつ同時期に施行された内視鏡検査で慢性萎縮性胃炎疑いと診断されていた53例。そのうち,抗体価陰性低値(< 3.0 U/mL)は31例(58%),陰性高値(3.0–9.9/mL)は22例(42%)であった。53例について内視鏡専門医が所見の再評価を行ったところ,ピロリ菌現感染が疑われ,「要精査」と判定された症例が23例存在し,陰性低値群8例(8/31, 25.8%),陰性高値群15例(15/22, 68.2%)と,陰性高値群で有意に高かった。今回の検討で,陰性高値群では陰性低値群に比べ,ピロリ菌現感染を疑う症例が有意に多く存在したが,抗体検査を実施した検診受診者の中には,内視鏡検査を受けない人も少数見られ,これらは抗体陰性の場合,精査されることはない。しかし,今回の結果からは,陰性高値群も精査の対象とし,呼気試験等他のピロリ検査や,内視鏡検査の実施も検討する必要があると考えた。

  • 堀 憲治, 広瀬 佳子, 宮原 祥子, 征矢 佳輔, 鈴木 貴典, 北原 早紀, 吉澤 聡美, 竹内 信道
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 1 号 p. 128-134
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の抑止と重症化予防においてワクチン接種が広く進められているが,接種後の発熱,頭痛,倦怠感などの副反応は一般市民の大きな不安要素の1つである。そこでファイザー社製mRNAワクチンを2回目接種した当院職員269名を対象とし,副反応の程度と,接種後一定期間後の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質S1サブユニット受容体結合ドメインに対するIgG抗体価(以下sIgG抗体価)との関連を年齢,性別などの因子を考慮し検討した。sIgG抗体価の中央値は1,299.5 AU/mLであり,全員が抗体陽性判定(50 AU/mL以上)であったが,男女ともにばらつきが大きく,男女間の有意差は認めなかった。世代を20代~40代の4群に分けてsIgG抗体価の分布を比較したところ,各世代間で統計学的有意差を認めた。今回の調査で「副反応あり」とする基準は,37.5℃以上の発熱に加えて,頭痛,倦怠感,関節痛のいずれか1つ以上の全身症状の程度が「生活に支障を来した」と回答したものとした。その結果,全体,男性,女性いずれにおいても,副反応あり群で有意にsIgG抗体価が高い傾向を認めた。発熱単独,各全身症状単独では,男女共に有意差を認めたものはなかった。これらの結果は,発熱に加え全身症状を伴った副反応の出現が,より強固な中和抗体の獲得に繋がっている可能性を示唆するものである。

症例報告
  • 久住 裕俊, 大石 祐, 村越 大輝, 平松 直樹
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 1 号 p. 135-140
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    1型糖尿病患者におけるCSII・SAP療法は,個々の必要量に応じた基礎インスリンの調節が可能となるため,生理的インスリン分泌に近いインスリン投与が行える治療法である。2022年1月よりRT-CGMより得られたセンサーグルコース値に基づき,基礎インスリン量を自動調節するテクノロジーであるハイブリッドクローズドループを搭載したインスリンポンプが本邦で認可された。当院では,インスリンポンプの導入・継続指導を臨床検査技師が担当しており,今回,HCL療法を用いて血糖管理を行った1型糖尿病の症例を経験したので報告する。本症例はSAP療法による血糖管理を行っていたが,仕事の多忙さを理由に血糖補正が充分に出来ておらず,HbA1cが7.7~8.2%と血糖コントロール不良であった。HCL導入後は,HbA1cが7.0~7.2%に低下し,血糖自己測定における血糖値も低下傾向であった。さらに,TIRはHCL導入前で51~56%であったが,HCL導入後は64~69%に増加した。HCL療法は低血糖イベントを増やすことなくTIRを増加することができ,患者のQOL向上や糖尿病性合併症の予防に有効な治療法として期待される。

  • 山本 加菜, 丸田 淳子, 伊藤 有紀子, 横山 繁生
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 1 号 p. 141-147
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    高度の好酸球増多を伴うIgG4関連疾患(IgG4-RD)の1例を報告する。症例は70歳代女性。他院でIgG4-RDが疑われ,経過観察中に両側の顎下腺腫大を認めたため精査目的で当院を受診した。高IgG4血症(3,420 mg/dL)と高度の白血球増多症(115.2 × 109/L)を認めたが,自動血球分析装置では好中球と好酸球を算出できなかった。目視法で好酸球は全白血球の96.9%を占め,好酸球には核の分葉異常や顆粒の減少を認めた。顎下腺とリンパ節の生検が行われ,IgG4-RD包括診断基準に則りIgG4-RD(確診)と診断された。リンパ節捺印細胞診のMay-Giemsa(MG)染色で多数のリンパ球・形質細胞と共に末梢血と同様の好酸球を認めたが,Papanicolaou(Pap)染色では好酸球顆粒を認識できず,好中球との区別が困難であった。好酸球増多を起こす原因疾患を鑑別するために行った追加検査は全て陰性であった。その後,IgG4-RDの治療目的で行ったステロイド剤で好酸球増多を含む諸症状は改善した。上記の結果を踏まえ,最終的に,好酸球増多はIgG4-RDに伴う二次反応と判断された。臨床検査技師としては,高度の好酸球増多症では,自動血球分析装置で好酸球を算出できない場合があることを知っておく必要がある。また,好酸球浸潤を伴う疾患の細胞診にはPap染色とMG染色を併用すべきである。

  • 太田 達也, 加藤 節子, 山内 昭浩, 今井 律子, 星 雅人
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 1 号 p. 148-154
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/01/25
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    悪性黒色腫は皮膚や頭頸部に好発し,最も予後の悪い腫瘍の一つである。本腫瘍の尿路生殖器への転移性病変は,生存中に発見されることは比較的稀である。今回,我々は生存中の悪性黒色腫患者で尿沈渣中にメラノーマ細胞およびメラノファージを認め,多発転移を見つける契機となった症例を経験したので報告する。症例は70歳代男性。外来受診時の尿検査で尿沈渣中に特徴的な異型細胞を認めた。尿沈渣に認めた異型細胞は,N/C比大,クロマチンの増量,明瞭な核小体を有し,細胞質に黒褐色のメラニン顆粒を含有し,メラノーマ細胞であることを各種染色法と免疫組織化学染色により同定した。さらに,同時に出現していた偏在性で小型の核を有するメラノファージの特徴と,メラニン顆粒と他の類似成分との鑑別法を示した。重要なことに,尿沈渣中のメラノファージの出現数は,血中LD値とUA値の変動と相関していた。本報告より,尿沈渣中に出現するメラノーマ細胞とメラノファージを分類し報告することは,尿沈渣成分による診断に加えて,予後予測や病態把握の新規マーカーとして応用できることが示唆された。

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