2023 年 72 巻 3 号 p. 426-433
背景:滋賀県の細胞検査における実態を知る目的で,地域サーベイによる10年間の外部精度管理結果およびアンケート集計結果を分析した。方法:精度管理は4枚の顕微鏡写真と臨床所見を提示したフォトサーベイにより行った。解答は5個の選択肢より選び,解答へ至った細胞所見の記載も求めた。また,近年の概念である「精度保証」を意識し,直近2年は「検体適否」に関する設問も設けた。アンケートでは各施設に所属する細胞検査士の人数および年代などを問うた。結果:検討期間において,基本的な細胞判定に問題のある施設はなかった。しかし細胞所見については,とらえるべき所見が記載されていないことや,提示した写真には現れていない所見が記載されていることがあり,報告会で改善を促した。検体適否に関しては,判定を誤った施設はなかったものの,その根拠はやや曖昧であった。また調査により,県内の細胞検査士の約半数は50歳代以上であることが明らかとなり,高齢化の顕著な状況が窺えた。結論:法改正により外部精度管理の重要性は認知されてきたが,滋賀県では特に若年層の関心が低い。近年広く普及したweb配信により,報告会参加者が微増したことは良い傾向である。細胞検査は病理検査との兼ね合いにより,業務に携わる機会の減少した細胞検査士が増加しているという問題も抱えている。今後はこのような状況もふまえ,実態を加味した出題内容の検討が求められる。
Background: In this study, we aimed to know the actual condition of cytology in Shiga from the results of external quality control obtained by local surveys and questionnaires for 10 years. Methods: The cytological quality control was performed using four images with clinical information. The answer was selected from five choices, and we requested that the cytological findings that led to the answer be described. Furthermore, we arranged the questions on “the propriety of the specimen” for two years, which recognized “quality assurance” as a recent concept of quality control. Using the questionnaire, we asked a number of cytotechnologists who belonged to each facility and their ages. Results: During the review, no facility had problems with basic cell judgments. However, on the cytological findings, there were no lists that they should have, or the lists did not appear in the images, which we showed. Therefore, we suggested improvements in the briefing session. On the propriety of the specimen, there were no facilities that had the wrong judgments; however, the grounds they examined were slightly fuzzy. Additionally, the investigations revealed that half of the cytotechnologists working in Shiga Prefecture were aged ≥ 50 years, and a remarkable aging situation was indicated. Conclusions: By law revision, the importance of external quality control is recognized, but in Shiga, the young group lacks interest. Conversely, it is a good tendency that the number of participants in the briefing session increased slightly owing to Web delivery that has recently become widespread. The cytotechnologists engaged in cytology had a problem, but they decreased the number of cytological examination duties to maintain balance with pathological examinations. On the basis of such situations, it will be more necessary to examine the questions’ contents, which will improve the actual situation.
滋賀県臨床検査精度管理事業(以下,滋臨技サーベイ)は滋賀県医師会支援のもと,滋賀県臨床検査技師会(以下,滋臨技)活動の一環として昭和59年より開始された。細胞検査においては6年後の平成2年より行われ,今年度(2022年)で33年目を迎えた。2017年に医療法が改正され1),精度管理においては「努力義務」とされているものの,臨床検査を行うすべての施設に対し,精度管理の実施状況等を記録することが求められるようになった。精度管理の実施については法改正以前より行われてきたものと思われるが,外部精度管理を担う立場としては,出題内容について考える契機ともなった。そこで過去10年(2010~2019年)の内容を振り返り,その成果と今後の課題について検討した。また,県内の参加施設に対しては細胞検査士の実態を把握する目的でアンケート調査も行った。なお,本報告は第59回日臨技近畿支部医学検査学会(2019年,滋賀)で発表した内容に2020~2022年度の実施内容および2022年の実態再調査を加え,考察したものである。
滋臨技精度管理事業は免疫化学(2020年度より生化学部会と血清部会が統合),血液,輸血,一般,細胞,病理,微生物および生理検査の8部会で構成されており,委員の兼務はあるものの各分野の学術部とは独立して活動している。細胞部会の委員は技師5名と細胞診専門医資格を有する病理医1名の6名であり,県内および一部の県外施設,計18施設前後の精度管理評価を年1回行っている。
2. 実施方法細胞部会の事業内容は大きく2つに分けられる。まずは,フォトサーベイによる細胞判定を各施設で行い,その後設問に用いた標本を検鏡により判定する「標本検討会」を行っている。フォトサーベイでは4枚の顕微鏡写真と臨床所見を提示し,それらをふまえた上で細胞判定を行っていただいた。出題は1領域に限定し2年連続して行った(Table 1)。設問数は概ね10問で年度により評価対象外の教育問題も出題した。解答は推定病変を5個の選択肢より選び,解答に至った細胞所見も記載する形式とした。各施設への問題提供についてはCD配布やweb閲覧方式により行ってきたが,2019年より日臨技精度管理システムJAMT-QCの利用へ移行した。検討期間に液状化細胞診(liquid-based cytology; LBC)の普及が県内で進んだこともあり,2016年より採用している。また滋賀県では遠隔病理診断がネットワーク化されており2) whole slide imaging(WSI)の概念が浸透していたため,フォトサーベイの欠点を補うことを目指して2018年にはvirtual slide(WSIとほぼ同義。以下,VS)を試験的に導入した。一方,標本検討会では,検鏡後にフォトサーベイで使用したものと同じ選択肢で解答していただき,報告会での詳細な解説を望まれる設問の指摘も求めた。
年度 | 出題領域 | 実施方法 | 参加施設数 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|
2010 | 子宮頸部ベセスダ,子宮体部 | CD送付 | 21 | 子宮頸部ベセスダ判定導入(評価対象外) |
2011 | 呼吸器(1) | 〃 | 21 | |
2012 | 呼吸器(2) | 〃 | 22 | |
2013 | 泌尿器(1) | Web閲覧(滋臨技HP) | 21 | 許容正解率採用,共通選択肢,web公開 |
2014 | 泌尿器(2) | 〃 | 20 | 選択肢10個,臨床所見提示,施設別細胞所見公開 |
2015 | 甲状腺,頭頸部(1) | 〃 | 18 | 選択肢5個,検体処理方法提示 |
2016 | 甲状腺,頭頸部(2) | 〃 | 18 | LBC標本導入 |
2017 | 子宮頸部・体部,卵巣(1) | 〃 | 18 | |
2018 | 子宮頸部・体部,卵巣(2) | DVD送付 | 18 | 個人解答回収,VS試験的導入 |
2019 | 婦人科,呼吸器,消化器,体腔液 | Web閲覧(日臨技HP) | 18 | JAMT-QC導入,出題領域拡大 |
各設問10点,10問で合計100点満点とし,評価はA評価(80点以上,非常に優れた成績),B評価(60点以上80点未満,日常業務に支障のない成績),C評価(60点未満,直ちに改善が望まれる成績)の3段階とした。細胞所見の記載に対する直接的な評価は行わず,解答選択肢と齟齬のある場合でも選択された解答で評価した。全く記載のないものについては,1問につき2点減点した上での評価となることを注意事項として事前に明記した。標本検討会での検鏡結果をふまえ,正解率の乖離が大きくないか,またばらつきはないかを確認し,病理医を含めた判定会議で設問の妥当性を再協議した。滋臨技では2013年より「許容正解」を採用しており,正確性という観点での評価が難しい形態学的検査において,幅をもった評価を行っている。例えば,良悪判定が正しければ5点,組織型の1段階違い(高異型度尿路上皮癌と低異型度尿路上皮癌など)であれば8点,2段階違い(腺癌と扁平上皮癌など)であれば3ないし5点,といった具合である。少なくとも良悪判定は正しく判定されることを期待した症例であるなど評価状況は設問により異なるため,これも判定会議で決定した。判定会議後,最終評価を各施設へ返却した。
4. 精度管理結果およびアンケート集計結果10年間の正解率の推移をFigure 1に示す。同領域を2年連続して行った結果,2年目の正解率は上昇した。全体を通して見ても概ね80%以上の正解率であり,日常業務に支障をきたすことが懸念される施設はなく,本事業が適切に行われてきた成果が反映されていた。
同色のグラフは出題範囲が同領域の年度。2年継続することで正解率の上昇へつながった。
今回の検討に際して,細胞検査士の現状を把握する目的で県内のサーベイ参加16施設に対しアンケート調査協力を依頼し15施設(回収率94%)から回答を得た。調査項目は細胞検査士有資格者の人数と年代,および資格取得を目指す技師の人数である。2019年に実施した調査では,県内の施設に勤務する細胞検査士(53名)は約半数(49%)が50歳代以上であり,さらに50歳代と回答した半数は50歳代後半であることが判明した(Figure 2)。2022年には個人別に再調査を行い,30名に回答いただいた。その結果,50歳代以上が60%を占めており,さらなる高齢化の状況が浮き彫りとなった。また,スクリーニングの頻度を問うたところ,60歳代以上が全員「毎日」または「週3日程度」であったのに対し,40歳代では「週1日程度」,「ほとんどしていない」,「全くしていない」を合わせた回答が半数を占めていた(Table 2)。2019年の調査時点で資格取得を目指す技師は7名であった。滋賀県は大きく3地区に分けられるが,地域による偏りは認められなかった。
50歳代以上が全体の49%を占めていた。さらに2022年の再調査では60%まで上昇している。
年代 | 毎日 | 週3 | 週1 | ほとんどない | 全くない | 人数 |
---|---|---|---|---|---|---|
20歳代 | 2 | 2 | ||||
30歳代 | 1 | 1 | 2 | |||
40歳代 | 2 | 2 | 1 | 2 | 1 | 8 |
50歳代前半 | 2 | 2 | 1 | 1 | 6 | |
50歳代後半 | 1 | 2 | 1 | 4 | ||
60歳代以上 | 6 | 2 | 8 |
滋臨技の精度管理報告会は,細胞部会と病理部会の合同報告による部会報告会に次いで,8部会合同の全体報告会を開催している。部会報告会では精度管理としては評価できていない細胞所見についても可能な限り解説するようにした。また許容正解とした選択肢についてはその根拠を明示した。報告会後には参加者に感想や意見を求め,次年度への参考としている。
出題領域を限定することで,長期的ではあるが各領域の精度向上に寄与することができた。一方で,症例数の少ない領域では解答選択肢の重複使用や稀少症例の採用に頼らざるを得ず,標準化というより教育的要素の方が強くなってしまった年もあった。また症例収集に時間を要し,委員の負担が増大した。日常検査で遭遇しやすい領域は一通り網羅したこともあり,2019年より婦人科領域を必須とし,その他領域を含め総合的に出題する方法へ変更している。
委員間の設問症例収集については,2017年よりGoogleドライブを利用し,クラウド上で行っている。この方法により長時間の会議を行う必要がなくなり,委員の負担軽減へつながった。また昨今の新型コロナウイルス禍においても,web会議のみで大きな問題なく最終評価までを行うことができている。
2018年にはVSを試験的に導入したが,ここで作製したVS画像の閲覧には専用ソフトをインストールする必要があり,これが各施設のセキュリティ管理事情に大きく影響した。VS画像作製に難渋したこともあり現状では本格的な導入に至っていないが,将来的に再検討する可能性はある。
フォトサーベイ後の1次評価で60点に満たない(C評価)施設については個別に連絡し,標本検討会での誤解答症例の目合わせを促した。C評価施設の検鏡による正解率はいずれも80%以上であった。この解答結果と参加技師への聞き取りなどから日常業務への影響を客観的に評価したが,多くの場合フォトサーベイという特殊な状況下での「迷い」や「考え過ぎ」に起因しており,実臨床で問題となることはないと判断した。この経験を経た施設は翌年の成績が改善する傾向にあり,2次サーベイとしての役割も果たすことができたと考えている。滋臨技細胞部会では「精度管理調査フォトサーベイ評価法に関する日臨技指針」3)は参考程度に留め,この標本検討会結果をもとに設問の採否を決定している。またフォトサーベイでは,全体像の把握やパパニコロウ(Papanicolaou; Pap.)染色における細胞診の特徴である「3次元的観察」ができないため,それらを補完することを目的としているが,2次サーベイの代替と前述のように出題症例の適性評価も兼ねている点は滋臨技サーベイの特徴と言える。
フォトサーベイにおいて,全設問の細胞所見を記載することは参加施設にとって大きな負担となるが,例え全施設A評価であっても細胞像の所見判読について指摘することができる。2020年度を例にとると,膵液で観察された膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm; IPMN)の症例(Figure 3A–D)において,設問の正解率は100%であったが解答に至った細胞所見については施設間差が認められた。本例では細胞質に豊富な粘液を有しており,この点については全施設においてとらえられていたが,本腫瘍の多くに特徴的,かつ本例にも認められた「黄色調」という粘液の「色調」については,約半数(47%)の施設において記載されていなかった。以前より病理医にも指摘されてきたが,滋臨技サーベイでは「推定病変を選択肢から先に決め,それに代表的な細胞所見を列記している」と思われる施設が見受けられ,設問として提示した写真には現れていない細胞所見が解答として記載されていることもある。このように細胞所見の細かな指摘ができることは参加施設数の少ない地域サーベイの利点であり,継続して改善していきたい。出題症例の病理組織標本については病理医より解説していただいている。細胞像についてご教授いただくこともあるが,基本的にスクリーニングおよび細胞判定を行う細胞検査士と,病理組織診断を主業とし組織学的見地から細胞診断を行う病理医では,同じ症例の観察であっても視点が異なるということを改めて経験した。どちらが良いというものではなく,それぞれの担う立場やアプローチによる「視点の違い」は相互に理解し合うことが重要であり,十分なディスカッションを積み重ねることは,細胞検査の精度向上にもつながると考える。
(A)~(D):細胞像(Pap.染色)(A)20×,(B, C)40×,(D)100×
(E),(F):組織像(HE染色)(E)4×,(F)40×
本腫瘍に特徴的な「黄色調粘液」を豊富に有しているが,細胞所見としては約半数(47%)の施設において記載されていなかった。
フォトサーベイでは限られた範囲で細胞判定を行わなければならず,また提示する写真や選択肢による「出題側の意図」を少なからず匂わせてしまう側面があり,必ずしも日常業務に相当する内容での評価とは言えない。また出題側は正解を知った上で問題作成を行うため,解答側の視点がとらえにくい。それらの欠点を補完する目的で行っている標本検討会は,フォトサーベイ結果との正解率に乖離を認めた場合,設問としての妥当性を再度協議することができ,評価を行う立場としても大いに役立っている。滋賀県では許容正解を採用しているが,その理由は単に成績の芳しくなかった施設に対する救済措置のためだけでなく,実臨床に即した評価を行うためである。正解か不正解か,それだけが注目されサーベイがクイズになってしまうことは避けたい。フォトサーベイでは,解答選択肢を間違えれば0点(あるいはC,D評価)となることが一般的だが,成績が悪かった場合にすぐさま「細胞判定が不適切な施設」となってしまうことが果たして妥当なのかは,常々疑問に思っている。また,正解率の低かった設問を機械的に評価対象外とすると,仮に滋賀県の多くの施設で間違った認識をしている,あるいは勘違いをしている,といった場合の是正は難しい。さらに,その設問(症例)に対する参加施設の関心も低くなってしまう。地域サーベイでは,出題側が設問の妥当性を検討するのはもちろんのこと,さらに解答側とも十分議論し,結論を導き出す方が建設的ではないかと考える。
近年,精度管理は「精度保証」という,より広い概念でとらえられるようになってきている。この現状をふまえ2020および2021年においては,pre-analysis段階,検査前プロセスに相当する「検体適否」に関する設問を評価対象外で出題した。こちらもフォトサーベイ形式で対物20倍視野の顕微鏡写真を5~6枚提示し,それらを全スクリーニング範囲と仮定,臨床所見を考慮した上で適正または不適正を判定していただいた。またその根拠についても記載を求めた。2020年度は甲状腺,2021年は乳腺を対象とした。判定基準はいくつか存在するが,これらはそれぞれの癌取扱い規約,細胞診の項に判定区分が示されており4),5),今回はそれらを採用した。結果として,判定を誤った施設はなかったものの,その根拠はやや曖昧であり,病変の推定まで至っていたかどうかは判断し難い解答もあった。例えば,2021年出題の乳腺穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration; FNA)症例では,炎症性偽腫瘍(脂肪壊死)の設問において,組織球の集簇が認められたが(Figure 4A, B),これを上皮(様)細胞集塊であると判断し「適正」と判定された施設が47%あった。検体適否は言わば2択であり,結果だけを見れば正しく判定されているかに見えるが,実際「何をもって判断したか」という点を追求すると,その根拠は誤っていることもある。子宮頸部(ベセスダシステム)以外では,定着した判定基準があまりない状況にあるが,いずれの検体種においても,施設内の細胞検査士間に判定差が生じないよう,可能な限り目合わせをしておくことが望ましい。
(A)~(F):細胞像(Pap.染色,20×)
組織球の集簇(A, B)を上皮(様)細胞集塊ととらえ「検体適正」と判定された施設があった。
炎症性偽腫瘍は,画像診断上,癌との鑑別を要する場合があり,細胞診において推定することに意義のある病変である。
上皮細胞の出現を認めなくとも「検体適正」とすることが求められる。
細胞検査は病理検査との兼務が多い。近年病理組織検査における標本作製,主にパラフィンブロック数や免疫組織化学染色および遺伝子解析の増加により,業務比重は病理検査に偏る傾向がある。また,管理業務の増加や部署の異動など,様々な理由が相まって,細胞検査士資格を有しながらも細胞検査業務に携わることが難しい場合も多い。そのような立場にある方々が,本事業に参加することで細胞判定のクライテリアを確認,維持していけるようにすることも今後は考えていかなければならない。2022年の実態再調査は,調査方法や回答数の違いにより2019年の調査結果と単純比較はできないものの,概ね滋賀県の現状を表しているものと考えられる。現役世代でみると,45%が50歳代であり,次の世代に相当する40歳代は今後相当な負担を抱えることが想定される。30歳代半ば~40歳代半ばの年代は,いわゆる「就職氷河期世代」に相当し,細胞検査士に限らず検査技師自体の数も少ない。現状でも40歳代の半数は細胞検査との関わりが薄れており,実際の現場では年齢構成以上の厳しい状況となることが危惧される。2022年8月時点で滋賀県の細胞検査士数は81名,そのうち70名(86%)程度は現在も細胞検査との関わりがあると考えられるものの,日常的,継続的に検鏡している人数となると60%程度にまで減少すると推測される。細胞検査業務はTable 2からも明らかなように,定年後再雇用の細胞検査士あるいは検査センターへの外部委託に頼る部分が大きくなりつつあるのが実情である。2019年の実態調査においても検査センターの状況はあまり把握できなかったが,人的余裕があるとも考えづらく,業務負担は大きくなっていると思われる。
2019年の改正省令施行により,外部精度管理の重要性は認知されてきたが,滋賀県の精度管理報告会の参加者は学術部の研修会に比べて多くはなく,特に若年層の参加が少ない傾向にある。精度管理は参加することのみならず,施設の現状を把握することに意義がある。コロナ禍において,2020年度より部会報告会はweb配信となっているが,参加者は微増し,意見や感想も以前よりいただけるようになった。このような開催形式は精度管理事業への関心を促すツールにもなり得ると思われる。一方でweb配信以降,これまで参加されていた方々においては減少傾向にある。便利さを感じるかどうかは人それぞれであり,会場開催が可能になるまでの間,できるだけ多くの方が参加しやすい状況をつくることも地域サーベイを担う我々の重要な責務である。
著者らが携わってきた期間は長い歴史の一部ではあるが,過去10年を振り返る限り,現状ではいずれの領域においても基本的な細胞判定に問題のある施設は皆無であった。細胞検査を含む形態学的検査は「正確さ」を追求することが容易でなく,滋臨技が採用している「許容正解」は実臨床に即した評価に大きく貢献していると自負している。すなわち,細胞検査における「推定病変を正確に」報告することは実務上あるいは精度管理上も,必ずしも必要ではなく,推定病変に至った細胞所見をいかにとらえ,精査の必要性などを臨床に提示できるかが重要ではないかと考える。その意味において「細胞所見を記載できること」は細胞検査士にとって必携事項であり,本事業内容は継続して行きたい。地域サーベイで担う施設の状況は様々であり,あまり偏った出題にならないよう配慮しつつ,地域サーベイ特有の細やかな追跡と改善点の提案を行うこと,さらに出題者側と参加施設側,双方向性のある精度管理を目指すことで,その役割を果たしていければと考える。
滋賀県の精度管理状況および細胞検査士の実態を報告した。細胞検査は特にマンパワーという点において,非常に厳しい局面を迎えている。地域サーベイではこれまでの方法を継承しつつ,このような状況も鑑みた出題内容にするなど臨機応変な対応が求められる。また細胞検査士高齢化問題は,おそらく他地域においても少なからず危惧されているのではないかと思われる。本稿が現場からの警鐘となれば幸いである。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
長期に渡り本事業にご従事いただきました滋賀医科大学医学部附属病院 今村真治技師,淡海医療センター 宮平良満技師,滋賀医科大学医学部附属病院臨床病態学講座前教授 岡部英俊先生,ならびに本事業にご参加,ご協力いただいた各施設の皆様に厚く御礼申し上げます。