医学検査
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72 巻, 3 号
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原著
  • 澤田 美雪, 兼松 健也, 鈴木 紫帆, 増田 友紀, 中村 文子, 杉原 匡美, 吉井 秀徳
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 3 号 p. 325-330
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    「糖尿病教室」は,患者治療の一環として実施される生活指導の場である。しかし,通院は時間的・身体的な負担が大きく,続かないことも経験される。そこで糖尿病教室の受講状況とヘモグロビンA1c(HbA1c)の関連を後方視的に解析し,有効かつ実践的な糖尿病療養指導のあり方を検証した。対象は2013年から2021年までに当センター糖尿病・内分泌内科主催の糖尿病教室を受講し,HbA1cを測定し得た339名である。患者年齢の中央値は66歳,男性が57.2%である。糖尿病教室では医師,理学療法士,管理栄養士,薬剤師,看護師,臨床検査技師の講義を受講する。初回受講と最終受講の前後1ヶ月内にHbA1c(NGSP)をHLC-723G11(東ソー)で測定した。受講前後のHbA1cの変動は,悪化28名(8.2%),不変120名(35.4%),改善104名(30.7%),著効87名(25.7%)であった。著効例は,男性・理学療法受講者で有意であった。HbA1c値8.0%以上の群では,男性・3回以上受講・理学療法受講者で有意に著効した。看護師/臨床検査技師受講者の著効率も高かった。糖尿病患者におけるHbA1cの改善は,受講回数が多いこと,理学療法の受講が有効であり,糖尿病教室の成果が示された。糖尿病は,多職種がチームとして取り組み,患者を支えることが重要である。

  • 梶原 亮佑, 宮本 直樹, 田代 尚崇, 大坪 直広, 一ノ瀨 佑果, 堀田 吏乃, 川野 祐幸, 内藤 嘉紀
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 3 号 p. 331-338
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    目的:SARS-CoV-2は高い感染力を持つため病院内でのクラスター感染が問題となる。しかしながら,病院内への感染伝播経路に関する次世代シーケンサ(以下,NGS)を用いた研究は少ない。本研究では,院内クラスターを引き起こしたウイルスの感染経路解析を行うため,NGSによる全ゲノム解析を実施した。方法:久留米大学病院にてSARS-CoV-2 PCR陽性となった,院内クラスター感染検体(クラスター群)12検体と,その他の市中感染検体(市中群)37検体を対象として,NGSによる全ゲノム解析を実施した。得られたゲノム配列データより,ハプロタイプネットワーク解析を行い,クラスター群と市中群の感染経路解析を行った。また,GISAIDで東京・大阪のゲノムデータを取得し,都市間の感染経路解析も行った。成績:Pango系統分類では,クラスター群は12検体全てがBA.2.24であったが,市中群では複数の系統のオミクロン株が混在していた。ハプロタイプネットワーク解析では,院内感染は単一侵入経路からの感染拡大が推測された。また,クラスター群と市中群は,大阪に比べ,東京との関連性が強い傾向があり,およそ2~3週間で東京から伝播したことが示唆された。結論:NGSによる全ゲノム解析およびハプロタイプネットワーク解析は,ウイルスの感染経路の解析が可能であり,今後の感染制御に有用な情報を提供できると考えられる。

  • 髙屋 絵美梨, 齋藤 泰智, 小笠原 愛美, 中河 知里, 作田 泰宏, 高渕 優太朗, 菊地 菜央, 秋田 隆司
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 3 号 p. 339-348
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病(以下,APL)の一部には微細顆粒や核異型を伴うmicrogranular type(以下,M3v)が存在するが,典型的なAPLに比べ形態学的所見からの病型推測が難しいとされる。また,CBFB-MYH11を伴うAML(以下,M4Eo)は,顆粒球および単球系細胞に加え異常好酸球が骨髄中に増加する。今回我々は汎T細胞抗原であるCD2が上記2病型の早期発見に有用であるか検討した。対象:当院で骨髄検査及び造血器腫瘍細胞抗原検査(以下,FCM)を実施した①APL:16症例,②M3v:5症例,③急性骨髄単球性白血病(以下,M4):13症例,④M4Eo:10症例を対象とした。方法:各症例で普通染色・特殊染色による形態観察と,FCMを用いたCD2を含む各細胞表面抗原の解析,造血器腫瘍キメラ遺伝子および染色体検査を実施した。結果:FCM解析ではAPL全症例でCD2は陰性であったが,M3v4症例・M4Eo8症例においてCD2の発現が認められ,その陽性率は上記2つを除いた他病型AMLと比較し有意に高値であった(p < 0.001)。またAPL・M3v全症例でPML-RARA・t(15;17)染色体を認め,M4Eo症例でもCBFB-MYH11・inv(16)染色体は全症例で検出された。これよりCD2抗原は,形態学的所見による病型推測が困難な症例でも上記2病型の早期診断を可能にする有用な指標になると考えられた。

  • 杉原 辰哉, 山陸 孝之, 山本 美幸, 藤田 和絵, 門永 陽子, 芦田 泰之
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 3 号 p. 349-357
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    心電図について講義を行った救急救命士および救急隊員に対しアンケート調査を実施し,救急現場における疑問点や需要を明らかにした。対象は島根県内の消防本部に所属する救急救命士62名,救急隊員20名。病院前12誘導心電図(PH-ECG)の現状と重要性,モニターおよび12誘導心電図の装着方法とコツ,頻出する心電図の判読,急性心筋梗塞の心電図判読,頻脈性不整脈の心電図判読について講義を実施した。アンケート内容については,上記講義内容の理解度についての回答とST変化の評価,脚ブロックとの鑑別,鏡面現象の理解について回答を設定した。職種別の認知度と理解度の違いは,全ての質問項目において救急隊員に比べ救急救命士が有意に高値であった。項目別の認知度の違いは,ST変化の評価に比べ,脚ブロックとの鑑別は有意に低値であった。救急救命士と救急隊員は共通してST変化の評価は理解できているが,脚ブロックとの鑑別における知識は不十分な傾向にあり,救急現場で誤った判読をしてしまう可能性もある。理解度が低かった項目に重点を置いて講義内容を作成し,理解を深め,救急救命士および救急隊員と病院間における報告や連携の質の向上に繋げていく。

  • 石丸 春奈, 金重 里沙, 瀬分 望月, 本木 由香里, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 3 号 p. 358-364
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)は,患者血中に抗リン脂質抗体群(antiphospholipid antibodies; aPLs)が出現することにより,動・静脈血栓症や妊娠合併症など多彩な合併症を発症する自己免疫疾患であるが詳細な病態発症機序は未だ解明されていない。本研究では,患者血漿から精製したIgG-aPLsを用いて血栓形成や血管炎症に関与する単球及び顆粒球にaPLsがどのような作用を及ぼすか検討した。その結果,単球をIgG-aPLs存在下で培養することでCD14+/CD16+活性化単球の割合が増加することを確認した。さらに,炎症マーカーである顆粒球表面CD44抗原の強陽性分画及びCD44 v6発現が増強することを見出した。加えて,IgG-aPLs刺激により,顆粒球の各種基質(fibronectinやcollagen I・IV)への接着性が増すことを確認した。CD14+/CD16+単球は炎症性疾患や自己免疫疾患と関連が深いことが報告されており,IgG-aPLs刺激によるCD14+/CD16+単球の増加がAPSの病態形成に関与している可能性が示唆された。さらに,顆粒球はIgG-aPLs刺激により炎症状態が惹起されることに加え,生体内では血管内皮細胞などへの接着能も増し,血栓へ向かう“向血栓傾向”を有するようになると推測される。

  • 瀬戸口 知里, 梅澤 敬, 館川 夏那, 山本 容子, 林 榮一, 山村 信一, 熊谷 二朗
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 3 号 p. 365-373
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    目的:子宮頸部擦過細胞診に用手法LBCを導入し,専用機器によらず用手的にてLBCとする方法の確立を試みた。方法:研究実施施設における子宮頸部擦過細胞診3,383件を対象とした。サーベックスブラシTMにより採取し専用バイアルに回収した検体を用手法LBCによってLBC標本とした。細胞像をベセスダシステム2014により判定し,標本の品質を評価するとともに,不適正検体率とその要因,細胞診と生検組織診結果との比較による判定の妥当性を検討した。成績:作製したLBC標本はベセスダシステムによる評価に支障のない品質であった。結果はNILM:2,975件(87.9%),ASC-US:148件(4.4%),ASC-H:52件(1.5%),LSIL:119件(3.5%),HSIL:58件(1.7%),その他16件であった。ASC以上の判定ののちに生検が施行された130件中99件(76.1%)で生検組織診がLSIL以上であった。結論:子宮頸部擦過細胞診は用手法LBCによって専用機器を用いずにLBC化し,ベセスダシステムによる細胞判定を行うことが可能である。

技術論文
  • 山谷 由香里, 清重 篤志, 佐々木 瞳, 大井 幸子, 吉岡 豊道, 和田 進
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 374-381
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)は,マダニが媒介するSFTSウイルスによって引き起こされる新興感染症である。中国をはじめ,東南アジア地域でも感染が確認されるようになり,特に本邦では西日本に偏在し分布している。今回我々は2019年6月から2021年7月の間に,島根県西部地区を医療圏域としている当院にて,核酸増幅検査でSFTS罹患が確定した患者8症例(2019年に2例,2020年に1例,2021年に5例)を経験した。これらの診療録を後方視的に,臨床背景,血液学的検査所見,治療および経過について検討した。結果として,SFTSの罹患が疑われた地域の多くは,人家が少なく田畑や野山の多い地域であるが,住宅や商店が集まっている地域も認められた。またマダニだけでなく猫や犬を介しての感染が疑われる症例も経験した。全症例での合併症は4症例に認め,播種性血管内凝固症候群,多臓器不全,ウイルス性心筋炎,血球貪食症候群と多彩であった。しかしながら,重症例及び軽症例の血液学的検査所見を比較するも,有意な差は認めなかった。確定診断は地方衛生研究所に依頼するため,SFTS疑い患者発生時に迅速に対応できるように,対応マニュアルを分かりやすく改訂した。

  • 兵頭 直樹, 塩崎 恵, 山本 博子, 星衛 雄樹, 菅 成器, 棈野 圭亮, 川本 光江, 前田 智治
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 382-389
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    新しいCB作製方法であるパラフィン・寒天サンドイッチ法において,作製過程で加える寒天が熱処理後の免疫組織化学法標本中から消失する既知の事実に着目し,ヘマトキシリン・エオシン染色標本などの観察時に妨げと成り得る寒天の除去を目的として,寒天が消失する温度条件と加温時間条件について残存寒天数を比較した。その結果,温度条件98℃の残存寒天数は,未加温は加温10分後以降と比較して差を認め,加温0.5分後は加温15分後以降と比較して差を認めた。さらに温度条件80℃と90℃の残存寒天数を未加温と比較した結果,加温60分後において温度条件80℃では最大15%の減少を示し,温度条件90℃では最大50%の減少を示したのに対して,温度条件98℃では加温0.5分後で99%の減少を示し,加温15分後以降では0.05%以下で一定を示した。以上の結果より,寒天の完全融解に必要とされる温度条件は98℃で,その完全融解最短時間は加温15分後であることが明らかとなった。また,第一報からの使用実績より得られた作製手順の変更や新たな知見も報告する。

  • 岡 有希, 松野 寛子, 加藤 洋平, 石田 真理子, 白上 洋平, 渡邉 崇量, 菊地 良介, 大倉 宏之
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 390-394
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    尿定性検査における尿色調の判定は,装置判定と実際の色調に差異が生じるケースがある。特に「RED」および「OTHER」と判定される例で実際の色調と異なることが課題となっていた。そこで我々は,栄研化学株式会社が改良した色調判定アルゴリズムを適用した全自動尿分析装置US-3500の色調判定機能の性能評価を行った。当院検査部に提出された1,190検体を対象とし,測定した色調結果の収集および測定後の検体の色調をデジタルカメラにて撮影し,改良前後の判定を比較した。1,190検体中「RED」判定となったのは従来アルゴリズム(以下,従来)で7検体,改良アルゴリズム(以下,改良)で3検体,「OTHER」判定となったのは従来で12検体,改良で3検体であった。次に従来で「RED」または「OTHER」と判定された計19検体について撮影画像を確認した。従来で「RED」と判定された7検体のうち,改良でも「RED」と判定された3検体は赤色の色調を認めた。残りの4検体は「DARK BROWN」と「AMBER」で画像と相違ない判定であった。また従来で「OTHER」判定された12検体のうち9検体は,改良により「AMBER」,「YELLOW」,「STRAW」,「LIGHT YELLOW」に判定された。以上の結果から,改良アルゴリズムの適用により,特に「RED」および「OTHER」判定の精度向上が認められた。

  • 青野 実, 横山 涼子, 大久保 一郎, 後藤 寛
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 3 号 p. 395-406
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    横浜市では,新たに統合型GISよこはまっぷ(PasCAL for LGWAN)を2022年3月から公開している。従来からインフルエンザ感染症によるGISの利用を図ってきたが,今回の更新による機能等の追加で,若干の知見が得られたので報告する。本研究の目的は,インフルエンザ感染症の流行の可視化を新規性のあるGISとして実現することである。方法としては,従来の登録システムを改修して,データや運用の変更を図り新たなGISを構築した。インフルエンザ感染症は,感染症発生動向調査(NESID)を利用して,施設別発生状況や定点当たりの患者報告数が報告されている。成果としては,施設別発生状況において,詳細な学校等の流行状況と中学校学区域によるポリゴン表示を利用した情報を,一元的にGIS上へ可視化することが可能となった。また,中学校学区域や定点当たりの患者報告数では,時系列データの参照も可能である。本研究により,新たなGIS構築の結果として,中学校学区域,定点当たりの患者報告数のポリゴン表示と地域包括支援センターの情報を可視化させることで,地域におけるインフルエンザ感染症の予防啓発に繋げられると考える。

資料
  • 丸山 美津子, 坂倉 立紀, 金本 人美, 橋口 裕樹, 西川 晃平, 松本 剛史, 大石 晃嗣
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 3 号 p. 407-412
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    フローサイトメトリークロスマッチ(flow cytometry crossmatch; FCXM)は腎移植術前の組織適合性検査として広く行われている。しかしFCXMの操作手順・判定基準は標準化されていないため各施設において異なり,Quality Controlも充分とは言えない。今回,当院におけるFCXMの検査精度を検証し,施設間差を是正するため,当院と福岡赤十字病院にて施行した生体腎移植術前44症例のFCXMの判定結果を比較し,結果に乖離を認めた症例についてはその原因を検討した。福岡赤十字病院を基準とした当院のT-cell陽性および陰性一致率はともに100%(44/44)であった。B-cellでは陽性一致率100%(7/7)に対し,陰性一致率は86.5%(32/37)であった。判定に乖離を認めた5症例のうち2症例でドナー特異的抗体(donor specific antibody; DSA)を認めたが,2症例ではnon-DSAのみ,1症例は抗HLA抗体陰性であった。DSAが陰性であった症例では,pronase処理が未実施であったことが偽陽性につながったと考えられた。FCXMの両施設での一致率は比較的良好であったが,pronase処理を実施していないFCXMにおいて,B-cell弱陽性の結果が得られた場合は偽陽性の可能性も考慮し,抗HLA抗体同定検査の結果も併せて評価する必要がある。

  • 片山 裕大, 小笠原 志朗, 吉田 啓一, 口広 智一
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 3 号 p. 413-418
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    結晶誘発性関節炎の代表である尿酸ナトリウム(MSU)結晶による痛風,ピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶による偽痛風は,関節液中結晶鏡検で確定できる。これを目的とした関節液は数日の冷蔵保存が可能との報告はあるが,我々が調査した限り本邦において結晶の経時的変化を述べた文献はなかった。そこで,関節液保存による結晶の経時的変化を検討した。2020年5月~2022年10月の期間に当院検査室に提出された関節液のうち,ヘパリン加関節液76件と抗凝固剤なし関節液55件を使用した。鋭敏色偏光装置を用いて鏡検を行い,独自の目視定性基準に沿って保存影響を検討した。検体を4℃で冷蔵保存し,24時間・48時間・72時間・96時間・1週間後に結晶の鏡検を行った。保存前後の目視定性値の一致率は,ヘパリン加検体では,CPPD結晶:96.0%(168/175),MSU結晶:100%(40/40),結晶なし:100%(165/165)であった。一方,抗凝固剤なし検体では,CPPD結晶:94.3%(99/105),MSU結晶:100%(35/35),結晶なし:100%(135/135)であった。両検体とも抗凝固剤の有無に関わらず一致率は良好であった。CPPD結晶の一部が目視定性値にばらつきを認めたが,結晶検出は十分可能であった。これらの結果から,結晶検出・同定を目的とした関節液の冷蔵保存は一週間可能であると思われる。

  • 三浦 りり佳, 小堺 利恵, 髙橋 伸一郎
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 3 号 p. 419-425
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    医療機関において医療事故防止と医療の質を高めるため,安全管理に関する充実と強化が求められるようになってきている。その中で,国際規格ISO 15189(ISO)が品質改善ならびに検査過誤防止に大きな役割を果たしていることが報告されている(臨病理,2010,2018)。当施設では2019年1月にISOを認定取得した。インシデントの発生件数を年別に調査した結果,2017年27件,2018年30件,2019年14件,2020年15件,2021年6件,2022年8件と,2019年を境に導入以降,明らかな件数の減少を認めている。ISO規格要求条項毎に発生を調査した結果,発生頻度が最も高いのが,「5.4 検査前手順」(42%)であり,次いで「5.5 検査手順」(39%),「5.8 検査結果」(14%)に関するものの順で,いずれの年においてもこれらに起因する割合が8割以上を占めていた。インシデント発生の低減に有効に関与したと思われる方策として,1.手順に関するインシデントにおける「原因追及フロー図」の使用と,2.是正・予防処置計画/報告書による管理を挙げる。また,それに加え,アンカーとして品質管理者が果たした役割が大きいと考えた。すなわち,関連部門による原因の特定,改善計画の決定及び実行,結果確認,周知などを行うとともに,品質管理者による文書管理システムによる確認と指導を行うことが,インシデント発生の低減へ大きく寄与したと考えている。

  • 吉田 章子, 田口 一也, 籠谷 亜希子, 山内 盛正, 重野 恭子, 吉田 友理子, 山口 大, 白瀬 智之
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 3 号 p. 426-433
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    背景:滋賀県の細胞検査における実態を知る目的で,地域サーベイによる10年間の外部精度管理結果およびアンケート集計結果を分析した。方法:精度管理は4枚の顕微鏡写真と臨床所見を提示したフォトサーベイにより行った。解答は5個の選択肢より選び,解答へ至った細胞所見の記載も求めた。また,近年の概念である「精度保証」を意識し,直近2年は「検体適否」に関する設問も設けた。アンケートでは各施設に所属する細胞検査士の人数および年代などを問うた。結果:検討期間において,基本的な細胞判定に問題のある施設はなかった。しかし細胞所見については,とらえるべき所見が記載されていないことや,提示した写真には現れていない所見が記載されていることがあり,報告会で改善を促した。検体適否に関しては,判定を誤った施設はなかったものの,その根拠はやや曖昧であった。また調査により,県内の細胞検査士の約半数は50歳代以上であることが明らかとなり,高齢化の顕著な状況が窺えた。結論:法改正により外部精度管理の重要性は認知されてきたが,滋賀県では特に若年層の関心が低い。近年広く普及したweb配信により,報告会参加者が微増したことは良い傾向である。細胞検査は病理検査との兼ね合いにより,業務に携わる機会の減少した細胞検査士が増加しているという問題も抱えている。今後はこのような状況もふまえ,実態を加味した出題内容の検討が求められる。

症例報告
  • 村越 大輝, 大石 祐, 久住 裕俊, 平松 直樹
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 3 号 p. 434-439
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    暁現象は,夜間にインスリン拮抗ホルモンの分泌が増加することで,明け方に血糖値が上昇することであり,内因性インスリン分泌が低下している1型糖尿病患者では高血糖を引き起こす原因となる。暁現象により血糖コントロールが安定しない場合はCSIIでの管理が推奨される。今回,暁現象の影響を軽減するためにSAP療法を行っていた患者のHCL療法への切り替えを経験した。症例は60歳代女性,MDIでは暁現象によりコントロール不良であり,SAP療法が開始された。SAP療法では暁現象の影響を軽減でき,当院に転院後はHbA1cが7.1~7.6%で推移していた。HCL療法ではHbA1cが6.9~7.1%で推移しており,TIRが70%以上,TBR,TARがそれぞれ4%,25%未満であり良好な血糖コントロールが得られていたが,暁現象により午前4~7時にかけて血糖値の上昇が認められた。HCL療法によるオート基礎注入に追加して0.5単位のインスリン注入をすることで暁現象による高血糖への対応を開始した。SAP療法に比べHCL療法のみでは朝食前血糖値が有意に上昇していたが,対応後は同等であった。オート基礎注入のアルゴリズムには暁現象などの時間的な概念が組み込まれていないため,予測できる変化であっても対応しきれない症例を経験した。インスリン注入が不足する時間帯は使用者により工夫し,適宜対応していく必要がある。

  • 橋本 綾, 松本 正美, 田中 佳, 杉永 純一, 吉野 直美, 古市 賢吾, 飯沼 由嗣
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 3 号 p. 440-445
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    関節液中にみられる結晶は尿酸ナトリウム結晶とピロリン酸カルシウム結晶が広く知られているが,まれにハイドロキシアパタイト結晶(以下,HA結晶)などの塩基性リン酸カルシウム結晶により関節炎を引き起こすことがある。今回巨大異所性石灰化を膝関節に認め,関節液検査にて多量のHA結晶を検出した症例を報告する。維持血液透析中の30歳代男性で,1ヶ月前より左膝に認めていた腫瘤が徐々に増大,自壊し白色の膿性の排液を認めたため当院整形外科に紹介となった。当初化膿性関節炎が疑われたため,同日緊急に病巣掻把術と洗浄を行った。術後40日目の整形外科受診時,左膝関節の貯留液の細胞数検査と結晶検査が提出された。細胞数は1,850個/μL,外観は白色の練り歯磨き状であった。簡易偏光装置を用いた鏡検では,ごつごつした小塊状の偏光を示さない不明結晶を多数認め,形状からHA結晶を疑い臨床に報告した。後日コッサ染色陽性も確認され本結晶の特徴と一致した。本症例では,ビタミンD製剤とCa含有P吸着剤が使用されていたことによりCaが高値であったこと,食事制限が困難で高リン血症を呈しており,長期間Ca・P積が80~100程度を持続していたことが異所性石灰化による腫瘤形成の原因として挙げられる。検査担当者は患者背景や本結晶の形態的特徴および性状を理解した上で関節液結晶検査を実施することが重要である。

  • 青木 愛子, 石井 里子, 大倉 一晃, 髙橋 真帆, 酒泉 裕
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 3 号 p. 446-451
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    症例は100歳女性。心窩部痛を主訴に当院を受診した。受診時,意識清明だったが,顔面蒼白で血圧低下を認めたため輸液が開始された。血液検査のために提出された採血検体は強い溶血を呈しており,再採血を含め3回の採血を行ったが,いずれも著明な溶血が認められた。また,尿定性で潜血3+,尿沈渣でRBC 1個未満/HPFと溶血の存在が示唆された。その後,症状の改善がみられず,意識レベルの低下,頻呼吸を認め,敗血症性ショックの疑いで緊急入院となった。入院時に血液培養2セットを採取し,meropenem(MEPM)にて治療が開始されたが,急速に全身状態は悪化し,入院12時間後に永眠された。採取された血液培養の2セット全てからClostridium perfringensが検出され,死亡時画像診断で肝臓に不整なガス像が認められた。

  • 喜納 莉華子, 知花 優香里, 松田 賢也, 八幡 照幸
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 3 号 p. 452-457
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    50歳代女性。乳がん,骨転移のため化学療法中であった。来院1か月前から腹痛を認め,血液検査とCT検査の結果,閉塞性黄疸と診断され入院となった。内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)にて胆管ステントを留置後に発熱を認め,血液培養が採取された。培養18時間後に血液培養からグラム陰性桿菌が検出され,VITEK2によりPseudomonas aeruginosa/Pseudomonas putidaと判定された。追加試験としてアシルアミダーゼ試験と42℃での発育の有無を確認したが,P. aeruginosaP. putidaのどちらにも合致しないため,同定不能とした。薬剤感受性試験ではImipenem(IPM),Meropenem(MEPM)に感性であったものの,Doripenem(DRPM)に耐性を示していたためmodified carbapenem inactivation method(mCIM)を実施した結果,カルバペネマーゼ産生菌と判定された。これらの結果からPseudomonas otitidisを疑い,他施設にて質量分析装置MALDI Biotyperでの同定検査を実施したところ,P. otitidisと同定された。P. otitidisは染色体性メタロβ-ラクタマーゼを保有しているが,16S rRNA遺伝子解析や質量分析装置を用いなければ同定できない。これらを有していない施設では,薬剤感受性のパターンや類似菌のキーとなる性状を把握することで本菌の推定が可能になり,適切な抗菌薬治療や過剰な感染対策を防ぐことへ繋がると考える。

  • 井下 里香, 園山 徹, 小野田 裕志, 上田 直幸, 森本 恭子, 福井 佳与, 荒瀬 隆司
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 3 号 p. 458-464
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    神経耳科学的検査の結果,上半規管裂隙症候群(superior canal dehiscence syndrome; SCDS)の診断に至った1例を経験したので報告する。SCDSはCTにて上半規管瘻孔の有無を確認することで,疾患を疑うことが可能であるが,上半規管の骨菲薄化は,健常人でも加齢に伴い生じることがある。そのため骨欠損が疑われても,実際は薄い骨壁に覆われており骨欠損が存在しないこともあるため,CTだけでは診断に至らない。症例は40代女性,2年前より耳閉感・聴覚過敏症状があり,複数のクリニックを受診し,耳管開放症と診断された。加療されるも改善に乏しく精査・加療目的にて当院へ紹介された。CTでは両側に上半規管の一部骨欠損を疑う所見を認めた。聴力検査では低音域で軽度の伝音難聴を認めた。耳管機能検査では正常型を呈し,Valsalva刺激による眼振検査では下眼瞼向き垂直性および時計回りの眼振を認めた。また前庭誘発筋電位検査(vestibular evoked myogenic potential; VEMP)では左側の振幅増大ならびに閾値の低下を認めた。よって,各種検査結果を総合的に判断し,左上半規管裂隙症候群と診断された。本症例のように,耳閉感・聴覚過敏症状が続くような場合は,潜在的SCDSを念頭に,CT施行前に各種神経耳科学検査を施行することは簡便で侵襲性も少なく診断に至る過程として有用と考える。

  • 河原 菜摘, 山口 尚子, 上田 かさね, 瀬筒 彩音, 壇 怜哉, 伊藤 達章
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 3 号 p. 465-470
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    Haemophilus influenzae血清型e(Hie)による侵襲性インフルエンザ菌感染症の1症例を経験した。患者は80歳代女性。末期腎不全による血液透析のため,当院腎臓内科に外来通院中であった。当院にて血液透析中に発熱し,細菌感染が疑われた。当日採取した血液培養2セット(3本)および喀痰培養よりH. influenzaeが分離され,細菌性肺炎に起因した侵襲性インフルエンザ菌感染症と診断された。検出菌の莢膜型検査を行ったところ,血液培養由来株及び喀痰培養由来株いずれも血清型eと判定された。H. influenzae b型ワクチン(Hibワクチン)の定期接種開始以降,H. influenzae血清型b(Hib)による侵襲性インフルエンザ菌感染症の報告は減少し,元来中耳炎や気管支炎などの局所感染が多いとされていた無莢膜型H. influenzae(non-typeable Haemophilus influenzae; NTHi)による侵襲性インフルエンザ菌感染症の報告が増加している。一方で,その他の莢膜型については報告数が少なく,今後の動向が重要視されている。

  • 釼 祐一郎, 山﨑 敦子, 阿部 瑛紀子, 澁谷 さやか, 杠 祐樹, 田矢 一帆, 角坂 芳彦, 神田 晃
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 3 号 p. 471-475
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2023/07/25
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    58歳男性,右大臼歯抜歯1か月後に左上下肢の麻痺と頭痛を認め,近医にて頭部MRI検査を施行したところ,右大脳半球周囲に多発性腫瘤を指摘され,当院に紹介された。穿頭ドレナージ術が施行され,ドレナージ排液よりグラム陰性小桿菌を認めた。グラム染色形態ならびに歯科治療歴からHaemophilus属を疑い,meropenemによる治療が開始された。分離菌は質量分析装置により,Aggregatibacter aphrophilusと同定され,患者の歯科治療歴から歯性感染症が契機となった脳膿瘍であると考えられた。脳膿瘍に対する適切な抗菌薬投与のためには,外科的処置の施行と膿瘍の培養による原因菌の分離同定,それに基づく感染経路の推定が重要である。本症例では,患者背景など臨床との情報共有が菌種同定に有用であり,迅速な治療の開始に貢献できた一例であった。

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