医学検査
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原著
公開データからの臨床検査技師業務の需給予測
古賀 秀信丸田 秀夫深澤 恵治益田 泰蔵佐藤 正一根本 誠一白石 元気
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2023 年 72 巻 4 号 p. 522-531

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Abstract

我が国の総人口は減少に転じており,2007年に超高齢社会を迎えた。近年では情報技術や人工知能が大きく進歩し,新型コロナの流行も相まって予測不能な時代にいる。2024年度から医師の働き方改革が始まり,我々をとり巻く環境は絶えず,大きく変化している。この激動の中,臨床検査技師という仕事の需要と供給を把握しておくことは将来を見据える上で重要である。需要は2019年10月の推計人口を基準に,NDBオープンデータを用いて,性・年齢階級別一人当たりの実施件数に,将来推計人口を乗じることで将来臨床検査件数を求めた。その他,患者調査の受療率等も参照した。供給は,医療施設調査および病床機能報告による臨床検査技師の医療施設での従事者数および国家試験合格状況を参照した。将来臨床検査件数は,2030年頃をピークにそれ以降は減少に転じ,2045年頃以降は総件数自体が2019年よりも減少することが示された。供給は,臨床検査技師が勤務する病院自体が減少しており,直近の医療施設調査においても勤務する臨床検査技師数の増加は低調であった。また養成校の増加に伴い,2011年頃を境に受験者も合格者ともに増加していた。これらから,今後,需要と供給が見合わない状況に突入する可能性が高いことが示唆され,専門性および強みを発揮しつつも,タスクシフト/シェア業務への積極的な参画,この時代に切望される人材への転身など,活躍の場を積極的,能動的に広げていく必要があると思われた。

Translated Abstract

Japan’s total population has begun to decline, and in 2007, we entered a super-aging society. The environment around us is constantly and drastically changing, and reforms in the way doctors work will begin in fiscal year 2024. In this turbulent environment, it is important to understand the supply and demand for clinical laboratory jobs to look to the future. Demand was determined on the basis of the estimated population in October 2019, and the number of clinical laboratories in the future was calculated by multiplying the number of tests performed per capita by gender and age group and the estimated future population using NDB open data. Other data, such as the patient uptake rate from the patient survey, were also used as references. For supply, the number of clinical laboratories in medical institutions and the number of clinical laboratories that passed the national examination from the Survey of Medical Institutions and the Functional Report on Hospital Beds were used as references. The number of clinical laboratories will peak around 2030 and begin to decline thereafter, indicating that the total number of clinical laboratories itself will decline after 2045 from 2019. The number of hospitals where medical technologists work is declining, and the most recent survey of medical facilities showed that the number of medical technologists working there is not increasing. In addition, with the increase in the number of training schools, both the number of candidates and the number of successful candidates increased around 2011. This suggests that there is a strong possibility that supply and demand will not match in the future and that it will be necessary to actively and proactively expand opportunities for medical technologists, such as by actively participating in task shifting/sharing work and becoming a much-needed human resource in this era, while demonstrating expertise and strengths.

I  はじめに

我が国の総人口は,戦後から増加が続いていたが,2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じ1),2007年には超高齢社会を迎えた2)。今後を担う出生も毎年減少している。近年では,情報技術Information Technology(IT)および人工知能Artificial Intelligence(AI)が大きく進歩し,新型コロナウィルスの流行も相まって,我々は,Volatility変動性,Uncertainty不確実性,Complexity複雑性およびAmbiguity曖昧性に代表されるVUCA(ブーカ)の時代にいる。2024年度からは,医師の時間外労働規制(働き方改革)が始まり,臨床検査領域のみならず,定年の延長,物価高騰など我々をとり巻く様々な環境は,今,劇的に変化している。この激動の中,臨床検査技師という仕事の需要と供給を把握しておくことは,将来を見据える上で重要である。

II  目的

臨床検査技師業務の将来需給を,公開データから推測する。

III  方法

将来需給を〈需要〉と〈供給〉の両面に分けて調査した。

1. 需要

需要の推計は,推計臨床検査実施件数とした(以下,「将来臨床検査件数」と略)。推計には,新型コロナ流行前の2019年10月1日現在の総務省統計局統計調査部国勢統計課が公表した年齢(5歳階級),男女別人口推計3)を基準とし,同時期の厚生労働省 第6回National Database(レセプト情報・特定健診等情報データベース,通称NDB)オープンデータの医科診療行為区分D検査 性・齢別算定回数[729 KB]4)の外来および入院のシートを用いた。将来臨床検査件数は,(性・年齢階級別Dコード算定回数)を(性・年齢階級別人口)で除して,「性・年齢階級別一人当たりの実施件数」を算出し,さらに国立社会保障人口問題研究所が推計する日本の将来推計人口_平成29年推計(表1-9A男女年齢5歳階級別人口(総人口)(5年毎))5)を乗じることで求めた(Figure 1)。

Figure 1 将来の臨床検査件数の推計モデル

a)性・年齢階級別 国民一人当たりの臨床検査実施件数の算出

b)将来臨床検査件数の算出(5年間隔)

その他,病院を受診する行為(受療)は,患者の年齢,疾患の好発部位によって異なるため,年齢構成6)および受療行動(受療率)7)に関する情報も参照した。

2. 〈供給〉

供給は,医療機関で勤務している臨床検査技師数を求めた。具体的には,厚生労働省が行う医療施設調査8),9)ならびに病床機能報告10)を用い,医療機関で勤務している臨床検査技師数および経年変化を算出した。

また,臨床検査技師の勤務先の状況として,日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)が2年に1度実施している施設実態調査ならびに会員意識調査を参照した(それぞれ令和3年度)11),12)。その他,臨床検査技師を養成する大学等に関する指定校ならびに承認校の情報として,株式会社じほう社が発行する臨床検査の総合情報誌THE MEDICAL & TEST JOURNALに掲載されていた臨床検査技師国家試験関連情報13)~21)ならびに厚生労働省およびWebで公開されている臨床検査技師の国家試験合格状況(受験者数・合格者数・合格率)を参照した22),23)

なお,本研究に関する倫理審査は,公開データを用いた研究で倫理審査の対象外であるため行っていない。

IV  結果

1. 需要

2019年10月1日現在の我が国の人口推計は126,168,000(人)であった。1950年から2065年までの国勢調査による人口および将来推計人口はFigure 2の通りで,総人口は既に減少している段階である。15歳未満の年少者は人口も割合も減少する一方で,65歳以上の高齢者は,2045年頃まで人口が増加し,その後は減少に転じるが全人口に占める高齢者の割合は増加すると予測されている。

Figure 2 日本の人口および将来推計人口と年齢別構成比(内閣府 令和4年高齢社会白書データを加工)

直近の報告である令和2(2020)年の患者調査の受療率(10万人当たり)は,0歳(8,358人)から下降し,15~19歳(2,296人)が最も少なく,それ以降,年齢層が上がるにつれて受療率は増加していた(最大は90歳以上:15,919人)。年齢別疾患別の受療率では,特にIX_循環器系の疾患,XIII_筋骨格系および結合組織の疾患,VI_神経系の疾患は,高齢者になることで受療率が1,000人以上と大幅に増加していた(Table 1)。

Table 1 年齢・疾患別 の受療率(厚生労働省 令和2年度 患者調査) 単位:人(10万人当たり)

0 1

4
5

9
10

14
15

19
20

24
25

29
30

34
35

39
40

44
45

49
50

54
55

59
60

64
65

69
70

74
75

79
80

84
85

89
90

I 感染症及び寄生虫症 154 148 190 154 82 88 94 84 77 76 77 80 96 99 129 142 172 179 207 182
II 新生物〈腫瘍〉 55 24 19 21 27 32 44 68 102 155 212 245 305 399 527 668 802 785 670 542
III 血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害 22 11 8 9 8 6 13 12 17 21 22 19 12 14 17 22 30 38 49 62
IV 内分泌,栄養及び代謝疾患 38 23 27 31 22 43 66 89 112 158 205 311 415 555 701 887 950 887 785 700
V 精神及び行動の障害 18 125 189 144 151 206 287 323 336 373 417 470 532 517 559 519 518 532 593 751
VI 神経系の疾患 38 39 45 58 55 52 69 80 100 108 123 146 168 189 233 315 487 784 1,089 1,382
VII 眼及び付属器の疾患 114 97 206 209 113 91 83 86 76 90 124 136 181 272 366 499 658 649 541 363
VIII 耳及び乳様突起の疾患 215 277 166 67 42 27 33 31 40 54 44 47 54 61 82 97 134 158 129 77
IX 循環器系の疾患 19 22 21 41 37 28 29 36 72 125 236 407 620 866 1,278 1,769 2,295 2,868 3,419 4,426
X 呼吸器系の疾患 1,881 2,692 1,264 649 250 181 235 254 283 255 186 192 202 207 259 318 423 543 704 1,008
XI 消化器系の疾患 224 548 1,033 590 405 614 661 691 722 876 929 980 1,174 1,258 1,464 1,690 1,807 1,693 1,455 1,234
XII 皮膚及び皮下組織の疾患 1,328 565 296 251 297 265 227 230 215 207 200 186 194 208 224 246 287 312 315 329
XIII 筋骨格系及び結合組織の疾患 27 41 47 178 127 84 88 137 175 273 395 548 699 978 1,213 1,641 2,455 2,628 2,264 1,479
XIV 腎尿路生殖器系の疾患 49 24 23 19 41 107 147 222 224 193 221 244 257 291 393 505 596 700 694 644
XV 妊娠,分娩及び産じょく 0 0 0 0 4 32 96 141 96 25 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0
XVI 周産期に発生した病態 960 22 5 2 2 0 1 1 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0
XVII 先天奇形,変形及び染色体異常 370 94 43 29 14 11 11 9 11 9 6 6 7 7 6 7 5 4 11 4
XVIII 症状,徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの 125 51 57 43 32 30 38 34 36 46 48 48 57 68 79 105 129 146 174 235
XIX 損傷,中毒及びその他の外因の影響 178 230 240 331 267 152 146 155 180 184 205 233 286 319 347 416 551 787 1,077 1,395
XXI 健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用 2,543 1,427 1,008 584 320 404 514 599 550 519 432 460 512 694 1,275 1,342 1,426 1,379 1,179 1,106

また,受療率の経年変化は総数では昭和62年(1987年)の調査は6,600人から,令和2年は6,618人で途中も含め大きな変化は認めないが,年齢階級で層別すると,0~14歳の年少人口は増加しているのに対し,65歳以上および75歳以上の高齢者は減少していた(Figure 3)。

Figure 3 年代別 受療率の推移(厚生労働省 令和2年度 患者調査)

これに第6回National DatabaseオープンデータD検査 性・齢別算定回数を2019年の人口で除し,さらに日本の将来推計人口を乗じることで算出した将来臨床検査件数は,2030年頃をピークにそれ以降は減少に転じ,2045年頃以降は総件数自体が2019年よりも減少することが示された(Table 2)。入院および外来で層別すると,外来は,入院と比べ大きく減少に転じることが示された(Figure 4)。

Table 2 将来の臨床検査件数推計(単位:万件)

年度 合計件数 (外来) (入院) (増減) 前年比 2019年(第6回NDB)との比
2019年 535,602 421,548 114,054
2020年 538,677 423,197 115,481 3,075 1.006 1.006
2025年 552,523 430,590 121,932 13,845 1.026 1.032
2030年 557,393 430,901 126,493 4,871 1.009 1.041
2035年 554,104 425,190 128,914 −3,289 0.994 1.035
2040年 545,500 416,531 128,969 −8,604 0.984 1.018
2045年 535,536 408,347 127,189 −9,964 0.982 1.000
2050年 525,411 399,408 126,003 −10,125 0.981 0.981
2055年 512,352 386,863 125,489 −13,059 0.975 0.957
2060年 493,421 369,617 123,804 −18,931 0.963 0.921
2065年 468,607 349,225 119,382 −24,815 0.950 0.875
Figure 4 2019年を起点とした入院・外来別 将来臨床検査比率の推移

2. 供給

日臨技が行った令和3年度施設実態調査によると,回答があった3,911施設中,100施設を超える回答施設は,上位から順に一般病院III(機能指定なし)1,999施設(51.1%),一般病院II(地域医療支援病院)544施設(14.2%),診療所(無床)294(7.5%),衛生検査所266(6.8%),精神科病院181(4.6%),一般病院I(特定機能病院)115施設(2.9%),健診センター104(2.7%),有床診療所102(2.6%)であり,臨床検査技師が勤務する施設の82.9%(3,245施設)は,病院または診療所の医療機関であった。また同時期に行った令和3年度会員意識調査では,回答のあった16,123名中,勤務している場所は中央検査部・検査室が13,641名(84.7%)で最も多く,採血室3,033名(18.8%),健診・検診センター1,364名(8.5%),検査センター・衛生検査所765名(4.7%),外来(一般)472名(2.9%),心臓カテーテル検査室383(2.8%)と続いた。以上より,臨床検査技師は,ほぼ医療機関の検査およびその業務に従事しているといえる。

臨床検査技師の活躍舞台である医療機関であるが,医療施設調査によれば,病院数は,1990年の調査以降減少している。それとは逆に,一般診療所は増加(無床診療所が増加,有床診療所は減少)している(Figure 5)。そのような中でも,病院に勤務する臨床検査技師数は,2005年から2008年では1,695名,2008年から2011年では2,400名,2011年から2014年では3,189名,2014年から2017年では1,999名と増加基調であった。しかし,2020年の調査では2017年調査から僅か210名の増加に留まっている(Table 3)。

Figure 5 病院数及び一般診療所数の推移(厚生労働省 医療施設調査)
Table 3 医療施設で働く臨床検査技師数の変化(厚生労働省 医療施設調査)

調査年 病院 一般診療所
総数 前回との差 精神科病院 一般病院 医育機関 総数 前回との差
(再掲) 前回との差 (再掲) 前回との差 (再掲) 前回との差
令和2(2020)年 55,170 210 908 −45 54,262 255 7,729 56 12,582 676
平成29(2017)年 54,960 1,999 954 −3 54,007 2,002 7,673 309 11,906 787
平成26(2014)年 52,962 3,189 957 8 52,005 3,183 7,365 510 11,119 −1,568
平成23(2011)年 49,772 2,400 949 29 48,822 2,371 6,855 381 12,686 299
平成20(2008)年 47,372 1,695 920 9 46,451 1,686 6,474 398 12,388 1,058
平成17(2005)年 45,677 731 911 −15 44,764 746 6,076 11,330 1,800
平成14(2002)年 44,946 270 927 44,018 9,530 −547
平成11(1999)年 44,676 676 10,077 819
平成8(1996)年 44,000 1,654 9,258 1,087
平成5(1993)年 42,346 2,236 8,171 928
平成2(1990)年 40,110 7,243

病床機能報告は,地域における医療および介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律により改正された医療法に基づいて実施する制度で,病棟および施設の情報を登録する制度である。この調査結果の中も施設に勤務する医療職の人数が公開されている。この推移を見ても,臨床検査技師数が2018年度に5万人を突破して以降,勤務人数に大きな変化は見られない。これは臨床検査技師に限ったことではなく,他の職種も同様であった(Figure 6)。

Figure 6 医療施設における医療職の人数の変化(常勤のみ)

臨床検査技師を養成する指定校および受験可能になる承認校は2014年が75校であったのに対し,2022年では93校と大幅に増加していた。国家試験の受験者数,合格者数および合格率は2014年がそれぞれ4,148名,3,368名,81.2%であるのに対し,2022年は4,948名,3,729名,75.4%であった。1989年から2022年までの33年間では,2011年頃以降,受験者および合格者数の移動平均(3年)は,今までの傾向とは異なり増加傾向に転じていた(Figure 7)。

Figure 7 臨床検査技師国家試験の受験者・合格者数および合格率ならびに受験者数・合格者数の移動平均(3年)

V  考察

今回,オープンデータから,臨床検査技師の業務について推計を試みた。需要は,NDBのオープンデータのD検査 性・齢別算定回数を用いた。この回数は,医科診療行為区分「D」に分類される検査各項目(外来:1,315項目,入院:1,327項目)の1年間の算定回数を示しており,検査部および検査室で測定している検査を包含している。この回数をそのときの人口で割れば,国民一人当たりの検査回数を求めることができる。疾患の発症および臨床検査の実施には,前立腺がんにおける男性高齢者,妊娠検査における若年女性のように,検査オーダーは性別および年齢に強く依存しているため,今回用いたオープンデータはその点は考慮できているといえる。

結果,将来臨床検査件数は減少することが示されたが,これには総人口の減少,特に年齢構成の変化(65歳以上の高齢者の増加,0歳~64歳までの年少人口,生産年齢人口の減少)が関連していると思われる。高齢者は2045年頃まで増加することが示されているが,それ以降は減少に転じてしまうため,将来臨床検査件数も減少に転じたものと思われる。

基幹統計の一つに厚生労働省が3年に1度を行う患者調査があり,公開されている情報の一つに受療率がある。受療率とは,調査日当日に病院,一般診療所,歯科診療所で受療した患者の推計数と人口10万人との比率であり,人口10万人当たりどのくらいの方が医療機関を受診したかを表している(百分率ではないため,100を超える場合もある)24)。医療機関を受診する行為(受療)は高齢者ほど高く,高齢者もまだ増加することが見込まれているが,高齢者の受療率は調査の度に低下しており,将来臨床検査件数の増加に抑止的に作用するものと思われる。この点は本研究では考慮できてないが,無視することもできない。

供給は,臨床検査技師の就職状況を中心に調査した。臨床検査技師は病院および診療所といった医療機関のほか,大学等の教職員,検査センター,健診センターおよび企業等へ就職しているが,日臨技の調査において,臨床検査技師の約80%以上が医療機関に勤務していた。平成18(2006)年に7:1入院基本料が新設され,その際に看護師の取り合いが行われたが,その時期を境に,(特に急性期を扱う)病院において,看護職員とならんで医療技術職の増員が行われた。実際,平成20(2008)年の調査から平成29(2017)年までの医療施設調査において,医療機関で働く臨床検査技師数が大幅に増加している。

しかし,医療施設調査において病院数は減少している。令和6(2025)年は,団塊の世代の方が全員75歳以上の後期高齢者となって社会保障費の急激な増加が懸念される年である(2025年問題)。実際,その問題が起きるかどうかは別として,国はこのことに対し「地域医療構想」を掲げ,居住している2次医療圏を中心に医療が完結する仕組みを各圏域で構築する取り組みを推進してきた25)。2022年の診療報酬改定では,入院基本料の算定基準の一つである重症度,医療・看護必要度から「心電図モニター」が削除され話題となったことは記憶に新しいが,急性期医療は余剰で,慢性期・回復期医療が足りてないことは,この構想の中で指摘されている26)ことであり,これからも(特に急性期を扱う)病院を取り巻く環境は厳しさを増すばかりであると思われる。

臨床検査技師を養成する学校(指定校・承認校)は,大学の新設ラッシュと重なり受験者数も増加している。合格率は国家試験の難易度によって変動はあるものの,受験者自体が増えているため合格者数も増加している。将来臨床検査件数は近い将来減少し,病院数は既に減少している。令和2年の医療施設調査および病床機能報告において医療機関で働く臨床検査技師の増加に陰りが見えはじめている状況で,毎年,前年よりも多い臨床検査技師が新たに誕生していることになる。令和6(2024)年4月から,医師の時間外労働規制,いわゆる「医師の働き方改革」が始まるのに伴い,日臨技では,現在,タスクシフト/シェアに関する厚生労働大臣指定講習会を開催し,医師業務のシフト/シェアを全国的に展開している最中であるが,タスクシフト/シェアが十分に行われなければ,医療機関に勤務できる臨床検査技師の置かれる状況は一層厳しくなるのではないかと筆者は考える。蒲生らが論文を発表27)した2016年においても,臨床検査技師の将来に関して同様の指摘がされている。

令和2(2020)年1月15日に,国内で新型コロナウィルス感染者が確認され,日本に限らず世界中がこの未知のウィルスの恐怖と闘ってきたが,令和5(2023)年5月8日から感染症法に基づく分類が現在の2類相当から5類へ移行した28)。このことにより,新型コロナウィルス流行前の日常生活に近づくことが期待できる一方,受診に際し自己負担が生じるなど今までにない新たなフェーズに突入する。この約3年間の「Withコロナ」は我々の生活および認識を一変させた。オンライン診療,オンライン会議および動画等が一般化したが,患者の受療行動に与えた影響も否定できない。医療機関で働く臨床検査技師はPCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)検査ならびにワクチン接種の担い手等の感染業務管理で大活躍し,その結果,臨床検査技師という職業が広く知れ渡るようになった。一方,医療機関は,新型コロナウィルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金等によって支えられてきたことも事実である。しかし,これらも恒久的なものでなく終焉を迎える。新たな時代を,新たな視点で生きることが必要なのではないだろうか。

AIおよびDX(digital transformation)に代表されるように,情報技術の発展が著しい日進月歩の令和の時代,明日すら予測できない時代に我々は生きている。インターネット(1995年)およびスマートフォンの普及(2010年)が当時の我々に与えた影響およびインパクトは計り知れないが,これらは今となっては,それは特別なものでなく日常的なものである。あることが当たり前の空気のような存在ともいえる。このような中,我々臨床検査技師は,これまでの業務をこれまでと同じように遂行することでこの激動の時代を乗り切れるであろうか。本論文作成時は「ChatGPT29)」が世間を賑わせている。人が話しているようなスムースな会話が可能で,圧倒的なスピードとそのoutputに驚くばかりであるが,これもスマートフォンのように日常の光景となるのも時間の問題であろう。次はどのような時代がやってくるのだろうか。

最後に本研究の限界をいくつか列挙する。需要に用いた医科診療行為区分「D」であるが,臨床検査技師と関わりの乏しい領域(眼科領域等)も含まれているため,この点は誤差となる要因である。供給では,各大学の募集人員および就職状況の情報までは収集できておらず,日臨技の調査で代用した。雇用情勢(定年延長および団塊ジュニア世代の退職)等についても考慮できていない。また,需要の見積りは新型コロナウィルス流行前の令和元(2019)年の推計人口およびNDBデータを用いたが,新型コロナウィルス感染症の流行に伴って令和4(2022)年の出生数80万人を割り込んだこと30)および受療行動の変化など,計算に使用した将来推計人口では考慮できていない要素も含まれている。よって本論文で示した結果は緩めの推定であり,実際に訪れる未来は,この内容よりもさらに厳しいものではないかと思われる。

VI  結語

公開データを分析することによって,臨床検査技師の業務は,今後,需要と供給が見合わない状況に突入する可能性が高いと思われた。このような中でも臨床検査技師が必要とされるためには,専門性および強みを発揮しつつもタスクシフト/シェア業務への積極的な参画,この激動の時代に切望される人材への転身(リスキリング)など,臨床検査技師が活躍できる場を能動的に広げていく必要があると思われた。

本発表の概要は,第72回日本医学検査学会in GUNMAでの,一般演題ならびに日臨技企画セッションにて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2023 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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