医学検査
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72 巻, 4 号
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原著
  • 青木 理詠, 金剛 左京, 三上 麻里奈, 西澤 大輔, 池田 和隆, 中山 京子, 小野澤 裕也, 岩橋 和彦
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 4 号 p. 487-491
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    時計遺伝子は,概日リズムを調節する遺伝子であり,朝型や夜型といった24時間周期の生体リズムを効率的に調節することが知られているが,精神疾患の危険因子となりうることも確認されている。この研究ではインフォームドコンセントを得た被験者から血液検体を採取した(男性n = 34,女性n = 107)。NEO-FFIパーソナリティおよびSTAIテストを実施し,CLOCK多型が人格の特性に関連しているかどうかを測定した。統計分析には対応の無いT検定を使用し,統計的有意差はp = 0.025と定義した。統計解析の結果,多型rs3805151のNEO-FFI人格検査における開放性に有意な差異が認められた(すべての被験者群:p = 0.003,女性被験者群:p = 0.0004)。CLOCK多型rs3805151はNEO-FFI人格検査によって測定される開放性に影響を与える可能性が示唆された。今後は他の時計遺伝子にも着目し,人格特性と概日と概日時計遺伝子との関連についてより詳細に検討する必要がある。

  • 小林 悠梨, 石塚 敏, 笹野 まゆ, 髙柳 嘉代, 細羽 恵美子, 三浦 ひとみ, 石田 英樹, 江川 裕人
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 4 号 p. 492-498
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    臓器移植において,Rituximabはレシピエントに投薬することでB cell系の一部を枯渇化させ,一時的に抗体産生細胞への分化を抑制する働きがある。そのためドナー特異的抗体(DSA)となる新生抗体の産生抑制や,抗体関連型拒絶(ABMR)の予防および治療を目的に重要な役割を担う治療薬として使用されてきている。しかし,RituximabはDSAを検出する補体依存性細胞傷害試験(CDC-XM)のB cellに偽陽性を引き起こすことが知られている。本研究では,Rituximabの影響を回避するためMagnetic Beads,抗イディオタイプ抗体を用いた血清処理法と蛋白分解酵素を用いたB cell上のCD20抗原処理法について検討を行った。Magnetic Beads,抗イディオタイプ抗体を用いた血清処理法ではRituximab 600 mg/bodyまで偽陽性を回避することができた。しかし,蛋白分解酵素によるB cell処理法では安定した結果を得ることはできなかった。CDC-XMは,ウサギ補体に反応性を示す補体依存性抗体のみ検出する方法として今なお重要視されている抗体検出法である。今後Rituximab投薬症例に有用な血清処理方法になり得ると推察される。

  • 鞠子 文香, 小倉 直也, 千島 里佳, 髙橋 敏宏, 武井 理美, 脇田 満, 田部 陽子, 中村 文子
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 4 号 p. 499-505
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    Streptococcus pneumoniaeは免疫機能が低下した小児や高齢者に重症感染症を引き起こす。本研究は,その侵入門戸となり得る呼吸器材料に限定して,本菌の血清型と薬剤感受性をワクチン導入前後で比較した。2007年から2009年をワクチン導入前,2016年から2018年をワクチン導入後とし,それぞれ375株と150株について解析した。その結果,沈降13価結合型ワクチンに含まれる19型,14型,9型は顕著な減少が認められたが,23価ポリサッカライドワクチンに含まれる型は変化がなかった。一方,非ワクチン型である35型,34型,Non type(NT)は増加した。薬剤感受性検査では,ワクチン導入後にPCG,CTX,CFPMの感性率に有意な上昇が認められた。また,PRSP(pbp1apbp2xpbp2b変異)の頻度が32.4%と高かった。これは,PRSPが高率に出現する23型や35型,NTが減少していないことに起因した。呼吸器材料ではNTや非ワクチン型が多く,PRSPの出現率が高いことが明らかになった。NTは非典型集落を形成することが多く,検査室での釣菌や菌種同定において注意が必要である。さらに,PRSPは依然として高率に出現していることから,検査室での適正な薬剤感受性検査の実施とこれを踏まえた抗菌薬の選択が重要である。

  • 西原 ゆり, 佐々木 克幸, 西川 純子, 佐藤 郁美, 阿部 裕子, 藤巻 慎一, 藤原 亨, 張替 秀郎
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 4 号 p. 506-512
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    当院ICU入室患者を対象に,IL-6と他のバイオマーカーの推移を比較し,IL-6の炎症早期マーカーとしての有用性を検討した。ICU入室日から5日間の各マーカーの変動を評価したところ,IL-6はPCT,CRP,SAAに比べICU入室後早期に出現し,その後漸減する傾向を示すことが確認された。この傾向は手術の緊急性や感染の有無に関わらないことから,IL-6は炎症早期マーカーとして有用であることが示唆された。また,ICU入室時のIL-6値がICU在室日数の指標になるか検討したところ,ICUに4日以上在室した群は3日以内に退室した群よりも入室時のIL-6(p < 0.05),PCT(p < 0.01)の値が有意に高値であり,ICU入室時の値が在室日数の予測に寄与する可能性が示めされた。本研究により侵襲の程度や感染の有無がIL-6の推移に変動を与える可能性も示唆され,他の所見の総合的な判断を踏まえたIL-6値の評価が,治療方針の早期の決定に寄与することが期待される。

  • 内堀 恵美, 大久保 千惠, 米田 孝司
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 4 号 p. 513-521
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    目的:オキシトシンは,精神的な安らぎを与え,ストレス反応を抑え,人と交わったりする社会的行動への不安を減少させることが知られている。本研究では,大学生を対象として,発達面の特性およびストレスの状態と唾液バイオマーカーとの関連について分析し,発達障害の早期発見やストレス状態の把握のためのバイオマーカーとなる可能性を探った。方法:大学生の男女56人(年齢21~23歳)を対象とした。唾液採取を12:00–13:10に実施後,同日に質問紙調査を実施した。唾液バイオマーカーは,唾液オキシトシン濃度,唾液αアミラーゼ活性および唾液コルチゾール濃度をELISA法で測定した。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動性障害(ADHD)といった発達面の特性の傾向およびストレスの状態について,3種類の質問紙を用いて評価した。質問紙調査を数値化し,バイオマーカー測定値との関連について分析した。結果:ASD傾向において対人関係の問題があると唾液コルチゾール濃度が高い傾向があり,また想像力の問題があると唾液αアミラーゼ活性が低い傾向があることが見いだされた。そして,ASD傾向のうちコミュニケーションに関する困難があると唾液オキシトシン濃度は低いという関連性が見いだされた。結論:唾液バイオマーカー測定は,他者から気付かれにくい大学生の発達障害やストレス状態の早期発見につながる可能性が示唆された。

  • 古賀 秀信, 丸田 秀夫, 深澤 恵治, 益田 泰蔵, 佐藤 正一, 根本 誠一, 白石 元気
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 4 号 p. 522-531
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    我が国の総人口は減少に転じており,2007年に超高齢社会を迎えた。近年では情報技術や人工知能が大きく進歩し,新型コロナの流行も相まって予測不能な時代にいる。2024年度から医師の働き方改革が始まり,我々をとり巻く環境は絶えず,大きく変化している。この激動の中,臨床検査技師という仕事の需要と供給を把握しておくことは将来を見据える上で重要である。需要は2019年10月の推計人口を基準に,NDBオープンデータを用いて,性・年齢階級別一人当たりの実施件数に,将来推計人口を乗じることで将来臨床検査件数を求めた。その他,患者調査の受療率等も参照した。供給は,医療施設調査および病床機能報告による臨床検査技師の医療施設での従事者数および国家試験合格状況を参照した。将来臨床検査件数は,2030年頃をピークにそれ以降は減少に転じ,2045年頃以降は総件数自体が2019年よりも減少することが示された。供給は,臨床検査技師が勤務する病院自体が減少しており,直近の医療施設調査においても勤務する臨床検査技師数の増加は低調であった。また養成校の増加に伴い,2011年頃を境に受験者も合格者ともに増加していた。これらから,今後,需要と供給が見合わない状況に突入する可能性が高いことが示唆され,専門性および強みを発揮しつつも,タスクシフト/シェア業務への積極的な参画,この時代に切望される人材への転身など,活躍の場を積極的,能動的に広げていく必要があると思われた。

技術論文
  • 菅 明子, 中鉢 由香, 森 由美, 永井 俊一
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 4 号 p. 532-536
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    目的:これまで脂肪肝の判定は,Bモード所見のみで行っていたが,Bモードによる半定量法と減衰法を併用して行うことで,脂肪肝の評価がどう変わったか検討を行った。方法:対象は当院で腹部超音波検査を行った1,169名中,減衰係数が測定できた1,039名。Bモードによる半定量法で軽度以上,減衰係数0.62 dB/cm/MHz以上を脂肪肝と判定し,Bモード所見と減衰法それぞれの方法で脂肪肝と判定された割合を調べた。また,減衰係数が測定できなかった130名を対象に,半定量分類による脂肪肝の程度ごとの割合を調べた。成績:Bモード所見と減衰法のどちらかで脂肪肝と判定された541名中,両方で脂肪肝ありと判定されたのは53.8%,Bモード所見のみで判定されたのは28.8%,減衰法のみで判定されたのは17.4%であった。この結果より,減衰法はBモード所見のみでは判定できなかった脂肪肝を拾い上げることができた一方で,減衰法だけでは見逃される脂肪肝も多くなると考えられた。減衰係数測定不可の割合は,全対象者の11.1%で,脂肪肝が高度であるほど測定不可の割合が高く,減衰法はBモードで脂肪肝と判定に迷う例で有効であると考えられた。結論:減衰法を併用することで,Bモード所見だけでは分からなかった脂肪肝を拾い上げることにつながった。Bモード所見で中等度以上の脂肪肝は減衰法を行わなくても判定できるが,脂肪肝なしと軽度脂肪肝の判定の場合には,減衰法も組み合わせて判定するのが望ましいと考えられた。

  • 猪坂 英里奈, 髙橋 由香, 安藤 ほなみ, 本橋 亜耶乃, 守屋 任, 黒川 正美, 目崎 和久, 荘司 路
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 4 号 p. 537-542
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    抗酸菌同定法において質量分析同定法は有用な方法であり広く活用されているが,前培養培地の種類や前培養期間について明確な推奨方法はない。そこで今回我々は,遅発育性抗酸菌である非結核性抗酸菌(SGM)・結核菌(MTB)グループと迅速発育抗酸菌(RGM)のグループに分けて培地と培養期間について検討を行った。使用培地は極東2%小川培地(小川培地)とバイタルメディア7H11-C寒天培地(7H11C平板)で,培養期間は約1週間と2週間で検討を行った。検討結果から遅発育性抗酸菌とRGMいずれも小川培地を使用した1週間培養時点で実施する質量分析同定結果が最も菌種レベル同定率が高く,スコアバリュー(SCV)が高い結果となった。また,RGMは培養2週間でSCVの低下を認め,特に7H11C平板でその傾向が高く見られた。培養1週間の7H11C平板で菌種レベル同定率が低かった理由として,発育菌量が不十分であったことが原因と考えられた。また,RGMの培養2週間でSCVが下がった理由として,培養期間が長すぎて良質なスペクトルが得られなかったことが原因と考える。本検討結果から固形培地を前培養として用いる場合,小川培地を使用し,遅発育性抗酸菌では1~2週間程度の培養期間,RGMでは1週間で質量分析同定法を実施することが良好な同定結果を得るのにつながると考えられた。

  • 渡辺 直樹, 渡 智久, 大塚 喜人
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 4 号 p. 543-548
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法は新型コロナウイルス(COVID-19)の検出に用いられているが,日常検査で反応阻害物質の影響は評価されていない。我々はLAMP法用に開発された外因性コントロールの臨床検体に対する反応性を評価した。鼻咽腔検体(陽性20,陰性80)を対象とし,標準試薬と外因性コントロールを用いたLAMP法のThreshold time(Tt)値を収集した。外因性コントロールでは蒸留水を同時測定し,Dt値(検体-蒸留水のTt値)を算出した。外因性コントロールは,全検体(n = 100)で増幅を認めた。Dt値の中央値は,陽性検体1.4,陰性検体1.3であり,最大値は4.0であった。最大のDt値(4.0)を示した検体は,反応阻害の影響を受けずに判定可能であった。外因性コントロールのTt値は,陽性検体(中央値15.9)と陰性検体(中央値15.8)の間に差を認めなかった(p = 0.75)。結論として,外因性コントロールは全検体で正常な増幅反応を示し,最大4.0分のDt値を示す検体では反応阻害の影響を受けずに判定できた。また,外因性コントロールは陽性検体と陰性検体の反応性に差はなかった。今後は反応阻害を認める検体や喀痰の評価が必要である。

  • 立花 悟, 瀧田 尚子, 山﨑 望, 西原 温子, 吉田 博, 西原 永潤, 宮内 昭, 赤水 尚史
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 4 号 p. 549-556
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    多くの血中ホルモンの測定が免疫学的測定法で行われている。しかし,この測定法は使用する測定試薬により,測定値に乖離がみられる場合がある。その原因のひとつに,検体中のビオチンおよび試薬に含まれるストレプトアビジンに対する検体中の異好性抗体の影響がある。今回,測定値が乖離する原因を検討するため,異好性抗体の干渉を受けないように改良された電気化学発光測定法(以下,ECLIA法)を用いたエクルーシス試薬FT3 IIIビオチン改良試薬(以下,改良試薬),エクルーシス試薬FT3 III試薬(以下,従来試薬)および化学発光酵素免疫測定法(以下,CLEIA法)を用いたアキュラシードFT3試薬を用いた比較検討を行った。無作為抽出した1,005例の血清を用いた従来試薬と改良試薬間の相関性に問題はなく,試薬改良による測定値の大きな変動は認められなかった。また,改良試薬は従来試薬と異なり,検体へのビオチン添加による測定値の見かけ上の上昇がないことが確認された。さらに従来試薬とCLEIA法の間でFT3値が乖離し,従来試薬の偽高値が疑われた対象検体28例中13例で改良試薬の測定値に有意な低下を認めた。これら13例に関しては,PEG処理,HBT処理,Protein A試験の結果から免疫グロブリンの存在が疑われ,同時に改良試薬では異好性抗体の影響が低減されたことを確認できた。しかし,依然として改良試薬とCLEIA法の測定値が乖離している症例も存在しているため,更なる検討が必要である。

  • 下地 真里有, 上地 幸平, 中野 安実, 与儀 翔平, 上地 あゆみ, 前田 士郎
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 4 号 p. 557-561
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    Aerococcus urinaeの薬剤感受性試験に関する検討報告は少ない。本検討ではA. urinae 38株及び精度管理用標準菌株2株を対象とし,DPS192iXおよび対照法としたフローズンプレート‘栄研’(栄研化学)により各抗菌薬のMICを測定,その一致率を検討した。全抗菌薬におけるMICの±1管差以内の一致率(±1 Essential agreement; ±1 EA)は94.3%(85.7~100%),カテゴリー判定一致率(category agreement; CA)は97.1%(85.7~100%)であったが,ceftriaxoneとlinezolidで±1 EA が90%未満,levofloxacinでCAが90%未満であった。Minor errorはceftriaxone 2.9%,ciprofloxacin 8.6%,levofloxacin 14.3%,Major errorおよびVery major errorは認められなかった。A. urinaeにおけるDPS192iXの自動判定を用いた薬剤感受性試験は多くの抗菌薬で参照法との良好な一致率を示したが,フルオロキノロン系抗菌薬やceftriaxone,linezolidなど一部の抗菌薬では,さらなる検討が必要であると考えられた。

資料
  • 李 相太, 池嶋 拓弥, 龍見 重信, 藤江 拓也, 水澤 広樹, 寺口 皓, 茶木 善成, 阿部 教行
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 562-569
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックにより,核酸増幅検査(NAAT)はSARS-CoV-2検査需要の増加と共に普及した。NAATはパンデミック以前より薬剤耐性(AMR)遺伝子の検出に用いられてきたが,一部の施設で実施される検査であった。我々はパンデミックにより一般化したNAATにおける遺伝子型の薬剤感受性試験(AST)への利用を調査し,現状と背景を調べた。調査は奈良県臨床検査技師会が主催する講習会への事前申し込み者を対象にオンラインで行い,GeneXpertとGENECUBE,FilmArray,そして他のNAAT機器での実施状況を質問した。その結果,NAAT保有回答者の59%が遺伝子型ASTを行っていた。GeneXpertとFilmArrayはパンデミックによる導入が多かった(62.5%, 82.6%)。導入の経緯は「検出の迅速化(56.0%)」と「ICT関連(52.4%)」が半数以上を占めた。運用面では「診療貢献度が高い(74.1%)」が最も高い割合を示した。未実施の回答では「予定はないが行いたい(38.1%)」と「診療からの要望次第(33.3%)」が多く,導入していない理由として「業務負担を増やせない(52.9%)」が最も多かった。これはパンデミックによる労働環境の変化や日本社会の特徴が影響していると考える。今後,遺伝子型ASTの普及には,国内施設からの有用性の報告や業務の改善,効率化などの働き方へのアプローチが必要と考えられた。

  • 兜森 修
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 570-575
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    各種書籍記載の末梢血液細胞の赤血球,血小板,白血球5分画の直径と健常人の末梢血液細胞の直径を比較検討した。方法は薄層塗抹標本を対象者8名(21~23歳)についてウエッジ法で作製後,MG染色を行い,その染色標本を用いて各細胞の直径をデジタル画像から計測した。さらに,乾燥方法についても強制乾燥と自然乾燥の2法について各細胞の直径を対象者で比較検討した。結果,末梢血液細胞のデジタル画像解析による直径計測値は,これまでの各種書籍の記載値とは細胞によっては明らかに近似した好酸球と近似しなかったリンパ球があったが,実測した結果と比較検討を試みることは20歳代における各細胞直径の範囲の手がかりとなりえるものと思われた。乾燥方法の比較では検討した温度,湿度の条件下では,乾燥条件による細胞直径は統計学的に有意な差はなく,影響はみられなかった。

  • 南 智也, 加藤 ゆり, 河村 規子, 赤城 ひろみ, 黒板 敏弘, 曽家 義博, 幸福 淳子, 村山 徹
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 576-582
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    【目的】パラフィン包埋(FFPE)組織を用いた核酸増幅検査はカラム法での核酸抽出が煩雑で時間を要するため,実臨床であまり実施されないのが現状である。我々はFFPE組織からPCR法による抗酸菌検出・同定を試み,Zirconia beadsによる核酸抽出法(ビーズ法)の有用性についても検討した。【方法】培養,Ziehl-Neelsen(Z-N)染色ともに陽性の11例,培養,Z-N染色ともに陰性の35例に対して,カラム法にてMycobacterium tuberculosis(MTB),Mycobacterium avium(MAV),Mycobacteriumintracellulare(MIN)のPCR法による検出を実施した。また同症例に対してビーズ法にて同様の操作を行った。【結果】カラム法でZ-N染色陽性例はMTB 5/7例,MAV 2/2例,MIN 1/2例が陽性,Z-N染色陰性例はMTB 34/35例,MAV 34/35例,MIN 35/35例が陰性,ビーズ法でZ-N染色陽性例はMTB 6/7例が陽性,その他はカラム法と同様の結果であった。検査時間はカラム法で160分間,ビーズ法で70分間であった。【まとめ】本検討によりFFPE組織からPCR法による抗酸菌検出・同定が可能であり,カラム法と同様にビーズ法も核酸抽出法として有用であること示唆された。

  • 浅野 栄太, 細野 裕未奈, 日比 由佳, 大橋 葉津希, 佐藤 弦士朗, 菊地 良介, 中村 信彦, 清水 雅仁
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 583-587
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    成分採血(アフェレーシス)は,患者もしくは健常人ドナーから血液を成分採血装置へと取り込み,血液成分に分離した後,必要とされる血液成分のみを採取する採血方法のひとつとして行われている。これまで臨床検査技師は,成分採血業務に関わることはほとんどなく,その後の細胞調製業務や細胞の保管業務を中心とした業務をするにとどまっていたが,法改正によって臨床検査技師が多様な業務を実施することが可能になった。当院では,2007年1月より臨床検査技師が成分採血装置の操作を行っており,その経験から今後,臨床検査技師が成分採血業務に対してどのように関わっていくべきであるかを考えた。拘束時間や患者経過観察などの面から成分採血業務は臨床検査技師が大きく診療への貢献ができる分野であると考えられるが,反面,患者への侵襲を大きく伴うため,実施には細心の注意が必要であり,十分な訓練が必要と考える。

  • 吉野 歩, 橋本 剛志, 松元 亜由美, 本郷 剛, 一瀬 康浩, 吉原 正保
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 588-596
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    【背景】在庫管理は診療やコスト管理上重要であるが,臨床検査での在庫管理に関する報告は稀である。本研究は検査システム内物品管理ソフト(管理専用システム)の導入効果を評価した。【方法,結果】2018年12月から2022年3月迄の試薬消耗品の使用履歴を対象とした。記録不備数,年度別の購入額,平均在庫期間(月別),在庫回転率,在庫額を評価した。記録不備は手書き1,465件,FileMaker 551件,管理専用システム383件で物品管理ソフト導入により減少した(p < 0.05)。購入額は2019年277 ± 204万円,2020年236 ± 43万円,2021年297 ± 43万円であった。売上原価率は2019年13.4%,2020年17.8%,2021年20.7%であった。在庫額は2019年629 ± 124万円,2020年491 ± 96万円,2021年461 ± 50万円であった。在庫回転率は試薬で2019年度6.2 ± 8.9回,2020年度5.3 ± 4.7回,2021年度9.1 ± 10.2回,消耗品は2019年度4.2 ± 2.7回,2020年度3.3 ± 2.4回,2021年度6.1 ± 4.7回であった。購入額と売上原価率は増加し,在庫額と在庫回転率は改善された(p < 0.05)。【結論】検査システム内物品管理ソフトの導入効果が確認された。在庫管理精度が向上するため病院運営に貢献できると考えられる。

  • 伊藤 亜子, 林 智剛, 稲田 隆行, 西村 孝, 中森 恵, 岡 有希, 関根 綾子, 菊地 良介
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 597-604
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    法的脳死判定は,本人の脳死下で臓器を提供する意思が存在するまたは不明であり,かつ,家族が脳死下臓器提供を承諾した場合において,2名以上の脳死判定医と検査を担当する臨床検査技師とで実施する。今回,当院において約11年ぶりとなる法的脳死判定が行われた。我々は脳波検査と無呼吸テスト時の血液ガス測定を担当したが,その際,法的脳死判定における医療従事者間の準備が極めて重要であったため,その経験を報告する。症例は,成人女性,原疾患はくも膜下出血であった。臨床的脳波検査は4回実施し,聴性脳幹反応検査は1回実施した。事前準備として,脳波機器の状態確認,必要物品の確認,検査中の役割分担等を行った。血液ガス測定の準備は,病室への血液ガス分析装置の移動,キャリブレーション開始時刻の変更等を行った。法的脳死判定は実施日の午後6時から開始となり,脳波検査の準備に3時間前から病室に入室し準備を行った。脳波検査および無呼吸テストは事前準備のかいもあり,滞りなく終了した。第2回法的脳死判定は,翌日午前3時から行うこととなり開始2時間前に脳波検査の準備に取り掛かった。法的脳死判定は,突然,実施日が決まるため,日頃から機器の状態を確認し備えておく必要性がある。また,事前に準備を関連医療職種で行うことで円滑な法的脳死判定が行えると考えられる。

  • 加藤 雄大, 松本 美咲, 杉山 裕衣, 松久保 修, 永田 悠起, 木村 有里, 田中 浩一
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 605-613
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    Streptococcus agalactiae(Group B streptococcal; GBS)は高齢者や基礎疾患を有する成人の侵襲性感染症の原因菌として報告が増加しており,死亡率は8.47~11.58%程度と報告されている。中でも菌血症患者は非菌血症患者に比較して致死率が高いことが知られているが,GBS菌血症のみに着目した報告は少ないため,GBS菌血症を後方視的に解析した。2015年1月から2021年12月にかけて血液培養が陽性となったGBS菌血症の15歳以上の症例を対象とした。期間中にGBS菌血症を呈した症例は69症例であり,60歳以上に多く発生(88.4%)し,特に糖尿病(33.3%)や肝硬変(23.1%),悪性腫瘍(18.8%)の存在が発症に関連していた。また,尿路感染症(27.5%)や皮膚軟部組織感染症(27.5%)を起因としたGBS菌血症やフォーカス不明の血流感染症(24.6%)によりGBS菌血症が多く発生しており,死亡率は8.7%であった。GBSの薬剤感受性試験結果ではマクロライド系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬に耐性を示す株が多く,多剤耐性PRGBSの症例についても2例認めた。PCGはGBS菌血症の第一選択薬として十分な効果は期待できるが,一方でPRGBSの存在もわずかではあるが考慮しなければならないことが明らかになった。

  • 前河 裕一, 棚橋 伸行, 米田 操, 森下 芳孝
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 614-618
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    近年,学習方法は多様化しており,顕微鏡スケッチからスマートフォン画像や仮想スライドなどのデジタルイメージング手法に移行する大学が増えています。ヘマトキシリン-エオジン染色標本を,光学顕微鏡の接眼レンズにスマートフォンのカメラを置き,距離を変えて異なる条件で撮影し,これらの写真から臓器が識別できるかどうかを検討した。光学顕微鏡倍率×100(低倍率)では,スマートフォンのカメラ倍率×1.0~×5.0で手ブレのないピント合画像が得られた。光学顕微鏡写真と同様の品質の画像が得られ,組織構造と核内および細胞質の特徴を明らかにすることによって臓器を特定することができた。スマートフォンのカメラから眼レンズまでの距離は,スマートフォンのカメラの倍率が大きくなるにつれて増加した。スマートフォンカメラの最高の固定は最大×4であった。

  • 河月 稔, 松熊 美千代, 新屋敷 紀美代, 西野 真佐美, 宮原 祥子, 深澤 恵治
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 619-627
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    認知症に関する意見交換や情報共有ができる場としてグループコミュニケーションアプリであるBANDにて“認知症に興味のある臨床検査技師の集い”というグループを立ち上げ,2021年3月から運用を開始した。運用からある程度の年月が経過し,登録者数も増加してきたため,登録者にとって有用なものになっているかどうかをアンケート調査にて検証した。対象は2023年1月31日までにグループに登録している20歳以上の者のうち,研究責任者,アンケートの作成やグループの立ち上げに関与していた者以外とし,Googleフォームより無記名自記式のアンケートに回答するように依頼した。2023年1月31日までのグループ登録者数は108名であり,そのうち33名から回答を得た。グループに参加した感想としては「とてもよかった」と感じている割合が66.7%,「よかった」と感じている割合が33.3%であった。参加してよかったと思うことについては,「研修会の情報を得ることができる」,「認知症関連の情報を得ることができる」と回答した割合が両方とも97.0%,「他者とつながりがもてる」と回答した割合が75.8%であった。登録者数に対して回答者数は少なく,結果に偏りが生じている可能性は懸念されるが,回答者からは運用方法について好意的な評価が得られ,一定の需要があることがわかった。認知症以外の分野でも情報交換ができる場があることは有益であるため,本資料の内容が同様の取り組みを行う際の参考になれば幸いである。

  • 池嶋 拓弥, 山口 直子, 龍見 重信, 大前 和人, 茶木 善成, 阿部 教行, 小林 史孝, 李 相太
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 4 号 p. 628-635
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    電子付録

    奈良県臨床検査技師会では,COVID-19パンデミックを機に2020年度よりオンライン型Off-JTを導入している。本研究では従来の対面型とは異なる特徴を持つオンライン型Off-JTを評価した。まずオンライン型の開催数と受講者数から対面型と集客力を比較した。その結果,オンライン型は対面型よりも開催数が40.8%(116対196)下回っていたものの平均受講者数は105.4%(39.7対19.3)上回った。次に受講者の利便性向上を目的としてライブとvideo on demand(VOD)を併用した配信をYouTubeで限定的に行いオンライン調査によりその有用性をwork-life balance(WLB)で評価した。その結果WLB改善効果は回答者の81.9%(458/559)で示された。視聴方法別のWLB改善効果は,VOD:84.1%(376/447),ライブ:73.2%(82/112)となった。オンライン型Off-JTにおける集客力の向上は,インターネット接続端末での視聴による移動の負担の消失が主な要因と考える。ライブとVODの併用によるWLB改善効果は,視聴時間の自己調整が可能となったことによる自由時間の確保がその実感に繋がったと考える。オンライン型Off-JTと VOD配信による地理的・時間的制約からの解放は,受講者の利便性を向上させ前向きな効果を生むことが示された。

症例報告
  • 小川 有里子, 西尾 美津留, 石井 寿弥, 宮木 祐輝, 上田 格弘, 村瀬 篤史, 綿本 浩一
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 4 号 p. 636-642
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    典型的な急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia; APL)は,t(15;17)(q24.1:q21.2)の染色体転座によって,PML::RARA融合遺伝子が形成される。しかし,稀にRARA遺伝子の微細領域がPML遺伝子に挿入されることにより,PML::RARA融合遺伝子は形成されるが,t(15;17)(q24.1:q21.2)が検出されないcryptic t(15;17)(q24.1:q21.2)(以下,cryptic APL)が存在する。今回,濾胞性リンパ腫治療中に実施した骨髄検査で,骨髄像の鏡検を手がかりに,治療関連cryptic APLと診断した症例を経験したので報告する。患者は60歳代,女性。濾胞性リンパ腫の治療中に白血球減少を認め,骨髄穿刺を施行した。骨髄検査では病理組織診断や染色体の異常は確認されなかった。骨髄像のわずかなfaggot細胞から,APLを疑い,担当医師へ報告したことで,遺伝子検査が追加され,PML::RARA融合遺伝子を検出できた。血液検査担当技師として骨髄像を確認する際には,治療関連骨髄性腫瘍を念頭に置き,ごくわずかな異常細胞を見逃さないことが早期診断,治療に重要であると再認識した。

  • 八木澤 瞳, 渡邉 真子, 大江 知宏, 吉田 菜穂子, 黄 英文
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 4 号 p. 643-648
    発行日: 2023/10/25
    公開日: 2023/10/25
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    Aerococcus属菌は通性嫌気性グラム陽性球菌で,泌尿器系疾患が背景にある高齢男性の尿路感染症の起因菌となることが多く,まれに菌血症や心内膜炎の起因菌となることが報告されている。泌尿器系疾患が背景にある高齢男性の菌血症3症例を経験し,1例は感染性心内膜炎であった。Aerococcus属菌は血液培養液でのグラム染色ではStaphylococcus属菌様に観察されるが,血液寒天培地上の集落ではα溶血性集落を示し,α溶血Streptococcus属菌やEnterococcus属菌に類似しているため,α-Streptococcusとして誤同定される可能性がある。また同定検査キットや機器においても,データベースが不足しているため同定が困難な菌種があり注意が必要である。実際に,当院で経験した3症例すべて,血液培養検査と同時に採取し外部委託検査会社へ検査依頼した尿培養検査の結果は,Streptococcus spp.と報告された。しかし,血液培養からの検出菌を同定後,院内で自動分析装置,API20Strepなどの同定キット及び質量分析を用いて再同定を行ったところ,3例全てAerococcus属菌と同定することができ,Streptococcus spp.は誤同定であったことが確認された。Aerococcus属菌の同定には,まず本菌の性質を熟知していることが重要であり,また今後の情報蓄積のために,質量分析(MALDI-TOF-MS)や遺伝子検査などによる同定確認が望ましいと考えられた。

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