医学検査
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症例報告
セフトリアキソン関連結晶による急性腎障害が疑われた成人症例
新井 未来山本 誉古谷 善澄余根田 直人山田 佑真畑 久勝
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2024 年 73 巻 1 号 p. 154-160

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Abstract

セフトリアキソン関連の尿中結晶または尿路結石症は小児で報告されているが,成人症例の報告は稀である。今回我々は,成人でセフトリアキソン投与中の患者に結晶尿を認めた症例を経験した。症例は90代,女性。左下肢蜂窩織炎に対しセフトリアキソン2 g/日投与中に尿量減少,尿に多量の浮遊物を認めた。尿沈渣検査で多数の黄褐色針状,凝集状,不規則板状の結晶が確認された。患者の臨床経過よりセフトリアキソン関連結晶による急性腎障害が疑われたため,薬剤師と情報共有し連携することで早期薬剤中止と腎機能回復に繋げることができた。

Translated Abstract

Cases of ceftriaxone-related urinary crystals or urolithiasis in children have been reported; however, there is little information about urolithiasis in adult patients. We herein report an adult case of crystalluria that was observed during the administration of ceftriaxone. The patient was a woman in her 90s. During the administration of ceftriaxone at 2 g/day for the treatment of cellulitis in the left lower extremity, reduction in urine output and floating matter (sludge) in urine were recognized. Urinary sediment examination revealed numerous yellow-brown needle-shaped, agglomerated, and irregular plate-like crystals. Acute renal injury due to ceftriaxone-related crystals was suspected on the basis of her clinical course. Sharing of information and cooperation with the pharmacist led to the early discontinuation of the drug and the rapid recovery of renal function.

I  はじめに

セフトリアキソン(Ceftriaxone; CTRX)は第3世代セフェム系抗菌薬に分類され,血中半減期が8時間と長い。高度腎機能障害を有する患者以外では用量を調節する必要がなく,組織移行性がよいことから呼吸器感染症,消化管感染症,髄膜炎,尿路感染症など多くの感染症に使用されている。しかしながら,CTRX投与中あるいは投与後に腎・尿路結石が出現し,尿量減少,排尿障害,血尿,結晶尿等や腎後性急性腎不全が起きたとの国外報告がある1),2)。本邦においても小児で尿路結石と急性腎障害を呈した症例3)~5)が報告されている。

今回我々は,CTRX投与中に尿量減少がみられた成人患者の尿沈渣中に,黄褐色針状および凝集状や不規則板状の結晶(以下,不明結晶)を認め,臨床経過より薬剤性腎障害の可能性が疑われたことから薬剤師と情報共有し,連携することで早期薬剤中止および早期腎機能回復に繋げることができた症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

II  症例と臨床経過

1. 症例

患者:90代,女性,38 kg。

主訴:左下肢痛。

既往歴:高血圧,アルツハイマー型認知症,右外反母趾術後。

現病歴:当院受診1カ月前から左母趾に潰瘍を認め治療していたが徐々に潰瘍が拡大。その後,左下肢腫脹ありレボフロキサシン(Levofloxacin Hydrate)で加療するも腫脹,発赤,疼痛が悪化。受診前日より38℃の発熱あり,加療目的で当院形成外科を紹介受診,蜂窩織炎と診断,治療を目的に入院となった。

2. 臨床経過

蜂窩織炎に対し第1病日よりCTRX 2 g/日の投与が開始された。第6病日には左下肢の発赤,腫脹はほぼ消失した。左下肢の冷感が持続したため血流不全が疑われ,第7病日にABI(ankle brachial pressure index;足関節上腕血圧比)測定を実施したところ,右:0.79,左:0.54であり,両下肢包括的高度慢性下肢虚血(chronic limb-threatening ischemia; CLTI)が疑われた。第8病日に左母趾骨髄炎に対し,可及的処置として左母趾創部のデブリードマン実施。第12病日に下肢血流評価のため実施した下肢動脈エコーによりCLTIと診断され,第16病日にCLTIの病変部に対し末梢血管カテーテル治療(endovascular treatment; EVT)を施行。第17病日の昼過ぎより発熱,また膀胱留置カテーテルルート内の尿に浮遊物がみられた。同日夜間の尿量測定時,バッグ内の尿量が50 mL程度のためミルキング施行するが尿流出なし。入れ替え目的で抜去した際,カテーテル先端に詰まりが認められた。再挿入後すぐに流出した尿にも大量の浮遊物がみられた。第18病日以降も浮遊物が持続してみられ,第21病日朝に提出された尿検体による尿沈渣検査で不明結晶が多数認められた。薬歴情報と臨床経過より,薬物結晶および薬剤性腎障害が疑われたため,担当医および薬剤師に連絡。薬剤師より担当医に対し抗生剤変更提案あり,CTRXからモキシフロキサシン塩酸塩(Moxifroxacin Hydrochloride; MFLX)に変更。同日夕方,膀胱留置カテーテル抜去後より夜間まで自尿なし。第18病日に1,400 mL/日あった尿量は500 mL/日にまで減少していた。同日に実施された腹部-骨盤部CTで結石を疑わせる所見はなかった。翌第22病日に急激な尿量減少から急性腎障害(acute kidney injury; AKI)と診断され,全身管理目的で救急集中治療科に転科。また傾眠傾向のため経口摂取が難しく,抗菌薬をMFLXからタゾバクタム/ピペラシリン(Tazobactam/Piperacillin; TAZ/PIPC)に変更。第24病日に1,800 mL/日まで尿量回復,第26病日に腎機能改善傾向と判断され形成外科に再度転科。第30病日には尿中の不明結晶は消失した。

III  検査所見

血液および尿検査の結果をTable 1に示す。

Table 1 Laboratory findings

Day 1 Day 20 Day 21 Day 22 Day 23 Day 26 Day 27 Day 28 Day 29 Day 30
Serum
 Creatinine (mg/dL) 0.49 0.48 0.49 0.50 0.43 0.38
 BUN (mg/dL) 12.10 14.50 16.70 16.00 12.50 14.10
Urinalysis
 S.G. 1.009 1.013 1.029 1.022 1.026 1.024 1.037 1.039 1.012 1.023
 pH 8.0 8.5 6.0 6.5 5.5 7.0 6.5 6.0 8.0 8.0
 Protein ± 1+ ± 1+ 1+ 1+ 1+ 1+ ±
 Leucocyte esterase 2+ 2+ 1+ 2+ 3+ 3+ 3+ 2+
 Occult blood ± 3+ 2+ 2+ 1+ 3+ 2+
Urinary sediment
 RBC (/HPF) 1–4 ≥ 100 1–4 1–4 50–99 10–19 5–9 50–99 10–19
 WBC (/HPF) 1–4 5–9 5–9 10–19 20–29 ≥ 100 ≥ 100 50–99 50–99
 Bacteria 1+ 1+ 1+ 1+ 1+ 1+ 1+
 Hyaline casts 2+ 3+ 3+
 Epithelial casts 1+
 Granular casts 1+
 Salt/Crystal casts 1+ 1+ 1+
 Squamous epithelial cells (/HPF) 1–4
 Renal tubular epithelial cells (/HPF) 5–9 5–9 1–4 5–9 5–9 1–4
 Phosphates + + +
 Calcium oxalate crystals 3+ 2+ 1+
 Calcium phosphate crystals 3+
 Uric acid crystals 3+
 Unknown crystals 3+ 3+ 2+ 1+ 3+ 1+
 Other *1 *1 *1

Start of
adminis­tration

Discon­tinuation

*1: Leukocytes that phagocytize needle-shaped crystals

1. 第1病日

尿定性検査は比重1.009,pH 8.0,異常所見はみられなかった。

2. 第20病日

尿定性検査は比重1.013,pH 8.5,尿蛋白(±),潜血(±)であった。尿沈渣検査ではリン酸カルシウム結晶が多数みられた。

3. 第21病日

尿定性検査は比重1.029,pH 6.0,尿蛋白(1+),白血球(2+),潜血(3+)であった。尿沈渣物の外観は赤色および白色顆粒状で,管壁にも白色顆粒状物質が多数付着していた(Figure 1)。尿沈渣検査では非糸球体型赤血球とともに黄褐色針状および凝集状や不規則板状の形状を示す不明結晶を多数認めた(Figure 2A–C)。さらに性状を明らかにするため,水酸化カリウム(potassium hydroxide; KOH),酢酸および塩酸(hydrochloric acid; HCl)を用いて溶解性の確認を行った。その結果,KOHでは添加直後より凝集状結晶の辺縁から針状結晶が徐々に崩壊し,その後時間をかけ溶解した(Figure 2D)。HCLでは針状結晶は消失したが,不規則板状結晶は透明感のある塊状の結晶が溶解せず残存した(Figure 2E)。酢酸では不溶であった。

Figure 1  Appearance of urinary sediment

White granular matter observed in urine sediments on days 21 and 22.

Figure 2  Images of urinary sediment

A: Needle-shaped crystals

B: Agglomerated crystals

C: Irregular plate-like crystals

D: A few minutes after addition of KOH to B

Agglomerated crystals loosen into needle-shaped crystals.

E: After addition of HCL to C

Plate-like crystals changed to translucent irregular lumps.

形態的特徴および溶解試験結果より,通常結晶や異常結晶ではなく,患者の薬歴情報からは薬物結晶の可能性が考えられた。また臨床経過より結晶形成による尿路閉塞性腎障害を疑い,担当医および薬剤師に報告した。また担当医には不明結晶の消失が確認できるまで毎日尿検査を提出するよう依頼した。

4. 第26病日

尿定性検査は比重1.024,pH 7.0,尿蛋白(1+),白血球(2+),潜血(2+)であった。尿沈渣検査では凝集状結晶はみられなかったが,1~数本の針状結晶を貪食している白血球が散見された(Figure 3A, B)。また硝子円柱,上皮円柱,顆粒円柱および塩類・結晶円柱もみられた。

Figure 3  Leukocytes that phagocytize needle-shaped crystals

A: Unstained (400×)

B: May-Giemsa staining (1,000×)

5. 第30病日

尿定性検査は比重1.023,pH 8.0,尿蛋白(±),白血球(2+),潜血(2+)であった(Table 1)。尿沈渣検査ではシュウ酸カルシウム結晶はみられたが,白血球貪食像を含め不明結晶はみられなかった。

後日,保存しておいた尿沈渣物について赤外線吸収スペクトロフォトメトリー法を原理とした結石分析を外部委託し検査した。その結果,不明結晶が多くを占めていた沈渣物については成分の特定ができず,判定不能であった(Figure 4)。

Figure 4  Analysis of crystal by infrared absorption spectroscopy findings of urinary sediment

IV  考察

CTRXはその優れた有効性と安全性から幅広い感染症に使用されている。一方,投与に伴い胆嚢内や総胆管内に偽胆石を形成したとの報告6),7)や,偽胆石と比較し頻度は少ないものの腎・尿路結石が出現し,腎後性急性腎不全が生じたとの報告がある1),2)。国内でも小児で腎・尿路結石と急性腎障害を呈した症例が報告されており3)~5),CTRXと結石形成との関連性が指摘されている。

本症例は画像診断上,腎・尿路結石を認めなかったことから,明らかな結石形成に至らないCTRX関連結晶尿の可能性が疑われた。CTRX投与中に腎・尿路結石を伴わず,尿中に結晶性沈殿物を認めた小児例が国内から報告されており,その主成分はセフトリアキソンカルシウムであったとされている8)。また海外からの報告で,CTRX投与中の7カ月男児の尿中にみられた針状およびスターバースト状に凝集した結晶は,本症例にみられた不明結晶に非常に類似している9)。さらにChutipongtanateら10)in vitroにおける基礎的検討で,尿中に排泄されるCTRXが生理的尿中濃度の遊離カルシウムと結合し個別の結晶や凝集状の結晶を形成し,それらの形状は針状やスターバースト状,不規則な板状を呈すると報告している。また,凝集状結晶のサイズは近位尿細管,遠位尿細管,集合管の管腔直径よりもはるかに大きく,尿細管を容易に閉塞すると報告している。

Congら11)は,in vitroの検討においてpH依存性にCTRXとカルシウムが1:1で結合して結晶を形成することを示し,さらに形成された結晶は酸性化により溶解すると報告している。我々の確認した結晶の溶解性も一部一致していると考えられる。

これまでのところ,形態的特徴,pHの変化に対する溶解性,外部委託した赤外線吸収スペクトロフォトメトリーでも特定には至っていないが,これらを考え併せると,本症例にみられた不明結晶は尿中に排泄されたCTRXが遊離カルシウムの存在下で結晶化したCTRX関連結晶であったと考えられる。

一部の抗菌薬や抗ウイルス薬は尿中で結晶化し,腎・尿路結石を形成することにより尿路閉塞性腎障害を起こすことが知られている12)。本症例も蜂窩織炎に対する治療として,CTRX投与中に結晶が析出し尿細管や尿路の閉塞を来してAKIに至った尿路閉塞性腎障害と考えられる。また,Yifanら13)はセフトリアキソンカルシウム結晶によるAKIは尿細管障害を主とし,その障害には炎症性蛋白や活性酸素が関与する可能性を指摘しており,析出した結晶が尿細管を障害して腎障害に寄与した可能性も考えられる。今後,成人においてもCTRX投与中の尿中不明結晶出現や急性腎障害について,早急に症例を集積することが必要と考える。

薬剤性腎障害の治療において,病態に基づいた早期治療介入が腎障害予後改善につながることが知られており,対策としていずれの発症機序の場合においても可能な限り速やかに被疑薬を中止することが基本となる12)。本症例では,尿沈渣中に出現した不明結晶と薬歴情報,臨床経過などから薬剤性腎障害の可能性を疑い,尿中で結晶化する薬剤の確認および腎機能障害の可能性について情報共有目的で薬剤師に報告した。担当医だけでなく,薬剤師にも報告したことで不明結晶がみられた翌日には速やかにCTRXの投与が中止され,その後TAZ/PIPCに切り替えられた。各職種が互いの専門性をもって連携したことで早期に被疑薬を中止し,早期腎機能回復に繋げることができた症例であると考えている。

V  結語

CTRX投与中患者の尿沈渣中に不明結晶を検出し,患者の薬歴情報および臨床経過より薬剤性腎障害と考えられる症例を経験した。尿中の結晶成分の出現は尿路閉塞性腎障害の発症,もしくはその可能性を示唆する重要な所見であり,医師に尿沈渣検査でのモニタリングを提案すること,薬剤師を含めた報告と協働の体制を構築しておくことが重要である。

本論文は,済生会滋賀県病院倫理委員会で承認済である(承認番号580)。

本論文の要旨は,第72回日本医学検査学会において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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