医学検査
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73 巻, 1 号
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原著
  • 濱野 葵, 鳥居 裕太, 宮川 祥治, 菅沼 直生子, 川井 順一
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    2019年以降世界的大流行をもたらしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は呼吸器系に多大な影響を及ぼし,特に拘束性換気障害および肺拡散能低下をきたすと報告されている。しかし,本邦における肺機能検査指標の検討についての報告はない。本研究の目的はCOVID-19罹患後における肺機能検査指標の経時的変化および低下に関連する因子について検討することである。対象はCOVID-19と診断され,入院加療後に肺機能検査を施行した患者50例である。対象患者は退院後3か月,6か月,9~12か月後に肺機能検査を実施した。患者背景では,低下群においてCOVID-19の重症度が有意に高く,入院日数が長く,後遺症症状が多かった。肺機能検査指標では,低下群で退院後9~12か月後の%全肺気量(%TLC)は改善を認めるものの,正常群と比較して実測値の低下を認め,肺の線維化や炎症の残存が示唆された。また,退院後3か月の肺機能検査指標を用いて検討した結果,12か月後の肺機能指標の低下に最も関連する因子は%肺拡散能(%DLCO)であったが,その実測値は経時的な改善に乏しく,長期にわたる肺機能障害への関与が示唆された。今回の検討で低下群では持続する拘束性換気障害および肺拡散能の低下を認めた。また,退院後3か月の%DLCOはCOVID-19罹患12か月後の肺機能検査指標の低下に関連する因子である。

  • 高森 稔弘, 足立 良行, 河村 浩二, 市川 ひとみ, 本倉 徹
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)とは静脈に血栓形成が生じる疾患であり,稀な疾患ではなくなっているが,血栓残存リスクに関しては,十分に検討されておらず,報告はほとんど存在しない。今回われわれはDVTにおける血栓残存のリスク因子を解析し,血栓の予後予測が可能か検討した。対象は血栓症が超音波検査にて指摘され,その後再び超音波検査で血栓の有無を確認した114症例。対象の患者背景,超音波検査関連,血栓発症リスク因子ならびに血栓発症リスクスコアを後方視的に集積し,血栓残存群と血栓消失群の2群に分類しデータを比較した。多変量解析を用いて比較したところ,有意な項目は,全症例では,性別,年齢,治療の有無,検査間隔,治療症例のみでは,検査間隔と血栓発症リスクスコア,非治療症例のみでは,年齢であった。血栓発症リスクスコアが高い症例で有意に血栓が残存し,血栓発症リスクスコアが血栓残存の推測にも有用であることが示された。この血栓発症リスクスコアの項目のうち臥床状態に有意差を認めた。血栓の退縮を認めた症例群では有意にサルコペニアが少なく,腓腹筋が有意に厚いと報告されている。よって,臥床状態はサルコペニア等による筋力低下を進行させることによる血栓残存リスク因子と考えられる。また,高齢者で有意に血栓が残存したことも同様に腓腹筋の筋量に影響したと推測される。今回の検討で血栓残存の予後予測ができることが示唆された。

  • 富永 美香, 伊藤 富佐子, 古谷 裕美, 岡山 直子, 西岡 光昭
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    尿沈渣中には尿路に由来する成分以外に混入物も認めることがある。尿路変向術後に装着するストーマ装具に付着している皮膚保護剤も混入物の一つとして知られているが,その成分の報告については少ない。今回,当院で使用されているCPGFb系,CPGbs系,CPbh系,CPGHbs系の4種類の皮膚保護剤が尿沈渣判定に及ぼす影響について検討した。4種類の皮膚保護剤を生理食塩水で溶解し,共通して出現した成分として無構造の円柱状成分と類円形成分を認めた。皮膚保護剤の種類による特有成分としてCPGFb系では繊維状成分を,CPGHbs系ではカプセル状成分を認めた。皮膚保護剤由来の円柱状成分は尿沈渣の硝子円柱やろう様円柱と類似し,皮膚保護剤由来のカプセル状成分は糞便中の食物残渣と類似していた。尿沈渣中に糞便を認めた場合は採尿時の混入か腸瘻孔を疑うが,尿路変向術後尿では採尿時の混入は考えにくい。そのため皮膚保護剤由来のカプセル状成分を糞便と誤判定し,臨床に腸瘻孔を疑った報告をする可能性が考えられる。皮膚保護剤由来のカプセル状成分と糞便との形態学的鑑別は困難であるが,皮膚保護剤由来のカプセル状成分は無染色で色調を有さない点,カプセル状成分以外の多彩な糞便成分を認めない点,さらにCPGHbs系皮膚保護剤を使用しているという患者情報が鑑別に有用であった。尿沈渣検査を行う際にはストーマ装具の装着も念頭に入れ,皮膚保護剤の混入も考慮する必要がある。

  • 山田 歩奈, 松浦 秀哲, 阿部 祐子, 中川 理恵, 三浦 康生
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation; ECMO)を使用する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例は血液製剤を要するが,その使用状況についての報告は少ない。2019年11月から2021年8月までに当施設でECMO治療を受けた重症COVID-19患者19名の患者背景,血液製剤の使用量,ECMO稼働時間,臨床検査値,転帰を調査し,解析を行った。同時期にECMOを稼働した虚血性心疾患(IHD)患者18名を対照とした。ECMO稼働中,両群ともに臨床検査値の低下時とECMO離脱に際して輸血が行われていた。IHD症例ではECMO導入早期に各血液製剤が使用されていた。一方で,COVID-19症例では血液製剤が連日使用されており,特に新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)使用量がIHD症例と比較して有意に多かった。輸血療法の目安として臨床検査値が一般的であるが,ECMO稼働症例では両群ともにECMO離脱時にも輸血が実施されており,治療の進捗状況に留意する必要がある。輸血管理部門としては臨床検査値,治療状況を把握し輸血要請に迅速に対応できる製剤管理を行う必要がある。

  • 保科 ひづる, 佐藤 さくら, 河西 美保, 林 文明, 浜口 佳子, 折田 茂
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 31-53
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    近年,髄液・穿刺液検査では技師間差の軽減,簡便かつ迅速に報告できることから,自動分析装置が使用される頻度が増している。今回,我々はシスメックス株式会社より新たに開発された多項目自動血球分析装置XRシリーズを評価する機会を得,その体液モードの基礎性能評価と異型細胞検知能,新規機能である3次元スキャッタグラムと出現細胞との関連性を検討した。実効感度,希釈直線性,目視鏡検法およびXNシリーズ(シスメックス株式会社)との相関性は良好な結果で,XRシリーズは体液検査の遂行に十分な性能を有していると考えられた。測定値を用いた異型細胞検知能の検討において,単項目ではHF-BF#(研究用項目)が最も有意であった。2次元スキャッタグラムの特徴量を定義した項目では,異型細胞判別に有意な項目が得られ,測定値(HF-BF#,LY-BF%:研究用項目)と組み合わせると,さらに検知能が向上した。3次元スキャッタグラムの検討では,異型細胞検体のWDF(EXT)スキャッタグラムの特徴として異型細胞と推察される集団がFSC(前方散乱光強度),SSC(側方散乱光強度),SFL(側方蛍光強度)が共に中値から高値の領域にプロットされていた。特に核酸量を反映するSFLは,核クロマチン増量が認められた異型細胞は中値から高値を示したが,中皮細胞や組織球では低く,違いを認めた。今後,スキャッタグラムの特徴量や3次元スキャッタグラム所見の知見の蓄積による,異型細胞検知機能の搭載が望まれる。

  • 石田 秀和, 永沢 大樹, 加藤 洋平, 大島 康平, 開原 弘充, 立川 将也, 西村 知, 菊地 良介
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    腎機能評価として多用されている血清クレアチニン値による推算糸球体濾過量(eGFRcre)は筋肉量の影響を受けることが知られている。筋肉量の影響が考慮される症例については血清シスタチンC値によるeGFRcysが推奨されるが,保険請求上の制限やコスト面で課題がある。本研究では汎用臨床検査値を用いて筋肉量の影響を受けにくい腎機能評価方法を開発することを目的とした。11,921件の検査データを対象とし,学習データと検証データとして8:2に分割した。機械学習モデルはLasso回帰分析による特徴量の選択を行い,15項目の特徴量による8つのモデルを作成し,平均二乗誤差の最も優れたモデルを機械学習によるGFR予測モデル(eGFRml)とした。検証データについてeGFRmlを算出しeGFRcysとの比較を行ったところ,相関係数r = 0.939,誤差の許容範囲−19.0から4.4 mL/min/1.73 m2であった。CKD重症度分類GFR区分における全体一致率は77.3%であり,いずれも血清クレアチニンを使用したeGFRcreに比較し飛躍的な向上を認めた。本研究により汎用臨床検査値からeGFRcysにより近似した値を予測できることで,高コストなeGFRcysよりも効率的に,筋肉量などの影響を受けやすいeGFRcreよりも効果的に腎機能評価を行える方法となることが示唆できる。

  • 西尾 美帆, 伊藤 健太郎, 藤原 由妃, 稲垣 早希, 中島 佳那子, 西村 はるか, 宇城 研悟, 畑地 治
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2019年末以降2023年5月8日まで2類感染症として世界に脅威を与え続けた。当院ではリアルタイムPCRとNGS装置を導入し,第二種感染症指定医療機関としてSARS-CoV-2の検査を積極的に行っている。今回約2年間のSARS-CoV-2検査結果を集計し,松阪市の感染状況をまとめたので報告する。【方法】2021年1月から2023年4月までに当院においてリアルタイムPCR検査が陽性となった9,007検体の結果について,陽性者数や各流行波のピークまでの立ち上がり,主な変異株の発生時期を東京都や大阪府と比較した。またそのうちの64検体についてNGSを用いた全ゲノム解析も行った。【結果】それぞれの陽性数のグラフを比較すると,当院のデータは松阪市の陽性数を反映していると考えられた。また三重県とは同様のグラフ曲線を示していたが,東京都や大阪府と比較すると各波の感染ピークまでは時間がかかっていることがわかった。変異株の発生も東京都や大阪府の方が早期に発見されていた。また全ゲノム解析においては,松阪市独自で変異したと考えられる変異株は存在しなかった。【結論】都市部の感染状況を把握することで感染対策を行う時間が確保できるものと考えられた。リアルタイムPCRとNGSを兼ね備えている当院検査室は,今後も松阪市の感染対策への貢献が期待される。

  • 野坂 大喜, 櫛引 美穂子, 鎌田 耕輔, 山形 和史
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 1 号 p. 69-77
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    深層学習は人間の脳神経回路を模倣した多層のニューラルネットワークを持つ機械学習法の1つである。数十から数百回の反復学習によって,潜在的な特徴量を自動的に鑑別し,正確で効率的な判断モデルの生成を可能とする。末梢血中への幼若顆粒球や芽球の出現は造血器疾患鑑別の重要な指標であり,精度の高い自動スクリーニング技術の確立が必要とされる。本研究では,畳み込みニューラルネットワークを用いて幼若顆粒球認識人工知能モデルを生成する際の学習条件を検討し,生成した人工知能モデルの有用性を評価した。18層から152層までの5種類のResNetモデル,6727枚のラベル付き有核血球画像,8種類のOptimizerを用いて,転移学習とFine-tuningを行い,最適な重み付けがなされた幼若顆粒球認識人工知能モデルを生成した。転移学習後のモデルを用いて,健常人25例と幼若顆粒球症例25例を対象とした臨床評価を行った。全血球認識精度の最低-最大値は健常人症例で0.9131–0.9788,幼若顆粒球症例で0.8177–0.8812であった。畳み込みニューラルネットワークを用いた幼若顆粒球認識人工知能モデルは,健常人で97%,幼若顆粒球症例で88%以上の高い精度を有することが明らかとなった。本モデルは末梢血塗抹標本スクリーニングにおける形態鑑別支援技術として有用であると考えられる。

技術論文
  • 三輪 佑果, 竹澤 理子, 福田 弥生, 長谷野 優作, 井上 真理奈, 鵜原 日登美, 小野 由可, 石崎 一穂
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 1 号 p. 78-84
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    尿路感染症における薬剤耐性菌への取り組みとして,全自動尿中有形成分分析装置UF-5000で細菌数が測定できることを利用し,原尿に直接感受性ディスクを入れ反応させることによる細菌数の変化から,薬剤感受性結果の推測が可能かを検討した。使用薬剤は,尿路感染症に処方頻度の高いレボフロキサシン(LVFX)と基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)の判定にも用いられるセフォタキシム(CTX)を使用し,30,60,90,120分後の菌数の変化を比較した。それぞれの抗菌薬が有効と判断できるカットオフ値を決めるため,各時間における細菌数の薬剤投与/ブランク値を算出した。LVFXの感受性推定は,90分以内の判定で薬剤投与/ブランク値0.8未満であれば感性と推測,90~120分の判定で0.8以上であれば7~8割程度に耐性と推測できた。CTXは,60分以内の判定で薬剤投与/ブランク値0.8未満であれば感性と推測,0.8以上であれば7割程度に耐性と推測できた。CTX単剤では7割程度の精度しか得られなかったため,クラブラン酸加セフォタキシム(CTX/C)の薬剤を追加し,ESBLがクラブラン酸で阻害される点に着目し,比較した。CTXとCTX/Cの菌数の差で比較したところ,各時間において菌数の差が800以上であればESBLと判定でき,また,120分の時点での差が正であればESBLと判断できた。

  • 菱木 光太郎, 児島 世梨, 軽部 紀代美, 宮後 とも子, 池田 勇一, 小笠原 洋治, 海渡 健, 越智 小枝
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 1 号 p. 85-90
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    当院では業務の効率化を目的として,2020年4月にアークレイ社の画像解析法を用いた尿沈渣分析装置AUTION EYE AI-4510(以下,AI-4510)を導入した。AI-4510では各種細胞成分に判定できなかった成分を未分類として数値化し分類している。今回,この未分類の測定値(未分類値)と他の細胞成分比率との関係について検討した。尿沈渣の依頼のあった5,616検体をAI-4510と鏡検法で測定。AI-4510の未分類値によりA群:0.0~9.9個/μL(1,676件),B群:10.0~19.9個/μL(1,294件),C群:20.0~49.9個/μL(1,308件),D群:50.0個/μL以上(1,338件)の4群に分類し,赤血球,白血球,扁平上皮細胞,硝子円柱,細菌の5項目についてAI-4510と鏡検法との一致率を多群間検定により比較した。未分類値別に各種沈渣成分について鏡検法との一致率を算出した結果,上記5項目において未分類値が低いほどAI-4510と鏡検法との一致率が高くなることが明らかとなった。そのため,一般的に定性結果と機械法とのクロスチェックで行われている鏡検法の必要性判断を,AI-4510では未分類値を指標として行うことも可能であると考えられた。

資料
  • 木村 仁美, 根来 孝義, 堀之内 圭三
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)のパンデミック発生から3年以上経過するが,重症COVID-19患者におけるSARS-CoV-2 RNA copy数(以下,copy数)やCq値を検体採取部位別に検討した報告は少ない。今回,人工呼吸器管理を行った重症COVID-19患者9例140検体のcopy数とCq値について,検体採取部位別に検討したので報告する。測定方法は,Cq値は富士フイルム和光純薬株式会社ミュータスワコーg1によるポリメラーゼ連鎖反応-キャピラリ電気泳動(以下,PCR-CE)法,copy数はBIORAD CFX96による定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(以下,RT-qPCR)法にて測定したCt値をもとに換算した。PCR-CE法のCq値とRT-qPCR法のcopy数の相関は良好で,Cq値は検体中のcopy数の指標になり得ると考えられた。口腔内分泌物と喀痰は鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液と比較しcopy数は高値を示し,喀痰は抜管前日もしくは気管切開術前日まで検出感度以下になることはなかった。口腔内分泌物においては,ウイルスの減少速度が他部位に比べ緩やかであった。これは挿管された患者特有の結果である可能性が示唆された。生存例と死亡例でcopy数やその推移に大きな差はなく,ウイルス量以外の因子が予後に関係する可能性が考えられた。重症COVID-19患者は薬剤投与や発症からの日数に関わらず,口腔内分泌物と喀痰には長期間ウイルスが残存している可能性が示唆された。

  • 延廣 奈々子, 河内 誠, 飯村 将樹, 沖林 薫, 宮澤 翔吾, 水谷 里佳, 及川 加奈, 左右田 昌彦
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 1 号 p. 99-105
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    ID NOW(Abbott)は遺伝子検査でありながら,検査所要時間(TAT)が15分と極めて短く,一度の検体採取で再検の実施が可能である。今回我々は,早急な対応が必要な場合のSARS-CoV-2スクリーニング検査フローについて評価した。ID NOWで検査を実施した4,507件のうち初回測定陽性であった80件をID NOWおよび他の遺伝子検査法で再検し結果を比較した。ID NOW初回測定と乖離して結果が陰性となったのは,ID NOWによる再検が6件(7.5%),他の遺伝子検査法による測定が6件(7.5%)であり,全例で一致した。ID NOWのTATは再検を含めても約30分と,他の検査法と比較して短かった。今回の検討から,ID NOWの再検は他の遺伝子検査法による測定を代用できるとし,我々は当院独自のID NOWの再検を組み込んだSARS-CoV-2スクリーニング検査の運用フローを新たに構築した。該当患者に対してID NOWを用いて迅速に検査を実施し,初回測定陰性時はそのまま陰性と報告する。初回測定陽性時は即座に同じ抽出液を用いて再検を実施し,再検でも陽性の場合に陽性と報告する。初回測定陽性,再検陰性の場合は陰性と報告する。SARS-CoV-2スクリーニング検査において,ID NOWを導入し初回陽性検体は残りの抽出液を用いて再検を実施する運用は,TATの短縮と検査フローの簡略化を実現し,有用である。

  • 寺山 陽史, 三池 寿明, 古賀 万観子, 齋藤 美恵子, 三苫 朝, 灘吉 幸子, 山中 麻衣, 八板 謙一郎
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 1 号 p. 106-114
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    2019年8月より微生物検査の大部分を外部委託から院内実施に変更した。外部委託1年間と院内実施1年間の微生物検査に関わる項目を比較した。収支比率は101%から125%に増加した。総検体数は6,813件から6,821件とほぼ変化なし。喀痰培養検出菌数はmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)が147件から293件に増加した。尿培養検出菌数はAerococcus属が1件から33件に増加した。薬剤耐性菌検出数ではMRSAが230件から405件に増加した。薬剤感受性検査実施菌数では1菌種実施が1,674件から1,387件に減少した。血液培養比較では陽性率は11.9%から12.1%に増加,汚染率は2.8%から2.4%に低下した。血液培養陽性患者の院内死亡率は37.3%から32.6%に低下した。meropenemのantimicrobial use densityは0.77から0.76と低下,days of therapyは1.14から1.09へ低下した。検体到着から最終報告までの日数では血液培養以外の検体は4.00から4.16と延長,血液培養陽性検体は8.00から4.97と短縮した。微生物検査院内化は検査結果の迅速報告や検査精度の向上だけでなく,検査室の収益性,患者の生存率,他部署でのコスト削減にも貢献することに期待できる。

  • 山本 肇, 新田 成菜, 坂井 凌, 齋川 健志, 彌勒 清可, 関本 正泰, 石幡 哲也, 高田 直樹
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 1 号 p. 115-122
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    我々は,デンシトメトリー分析装置“クイックナビリーダーTM2”の有用性評価の検討を行った。SARS-CoV-2抗原陽性検体,インフルエンザウイルス抗原陽性検体,陰性対照検体におけるリーダー判定と目視判定の一致率は100%の結果が得られた。ジドウヨミトリモードを使用し,SARS-CoV-2抗原陽性検体における試料滴加から陽性ライン検出にかかる時間を調査したところ,平均で1.28分であった。SARS-CoV-2リコンビナント抗原,SARS-CoV-2抗原陽性プール検体,インフルエンザウイルスA型抗原陽性プール検体の希釈系列検体における判定閾値比較では,目視判定では陽性と陰性の判定閾値は個人差を認めた一方で,リーダーの判定閾値と目視による判定閾値は,3系列共にほぼ一致した。クイックナビリーダーTM2は,目視と同等の判定精度を有し,再現性の保証,時間管理の手間削減,結果報告時間の短縮が可能なことから,より高品質のイムノクロマト法の提供に寄与し得ると考えられる。

症例報告
  • 竹村 さおり, 永田 肇, 蟹谷 智勝, 金森 李佳, 大楠 清文
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 123-129
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    今回我々は,本邦で報告例の少ないAnaerobiospirillum succiniciproducensによる血流感染症を経験したので報告する。症例は,predonisoloneの内服と糖尿病歴があり,イヌを飼育していた89歳女性。発熱と摂食不能を主訴に,当院を受診した。CTで右肺下葉に浸潤影があり,気管支肺炎の診断で入院した。血液培養を採取後,sulbactam/ampicillinの投与が開始された。翌日,血液培養から嫌気性らせん状グラム陰性菌が発育した。市販のキットでは菌種の同定は不能であったが,後日の質量分析でA. succiniciproducensと同定し,16S rRNA遺伝子解析でも100%一致した。その後,患者は全身状態が改善したため退院した。A. succiniciproducensの血流感染症は,質量分析装置がない検査室では同定に苦慮するが,グラム染色所見,コロニーの所見,生化学性状やイヌの飼育の有無から推定は可能であり,同定に至るまでの方法を蓄積していくことが重要と考える。

  • 松山 欽一, 町田 浩美, 加藤 輝, 石﨑 里美, 永井 多美子, 野田 修平, 石川 美保子, 石田 和之
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 130-136
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー HTML

    腹水における腺癌と悪性中皮腫の鑑別に,細胞診,セルブロックの免疫組織化学,セルブロックの透過電子顕微鏡観察を用いた一例を報告する。症例は70歳代女性で腹部膨満を主訴に受診し,画像検査で大量の腹水が認められた。腹水細胞診は,血性背景に核形不整が強く核内封入体と細胞質内空胞を伴う異型細胞を認め,腺癌が疑われた。しかし,オレンジG好性の細胞や異型細胞の辺縁不明瞭化,細胞質の重厚感がみられ,悪性中皮腫を否定できなかった。腹水セルブロックの免疫組織化学では,異型細胞はcytokeratin 7,PAX8,WT-1,ERが陽性で,p53過剰発現を認めたが,Ep-CAM,CEA,claudin 4は陰性であった。中皮マーカーはcalretininとD2-40が部分陽性,HEG1陽性を示した。高異型度漿液性癌を疑ったものの,腺癌に非典型的な染色性もみられたため,セルブロック検体の透過電子顕微鏡観察を行った。微絨毛の形状が最も保持された腫瘍細胞1個を同定し,長い順から10本の微絨毛についてそれぞれ長さ/直径(length-to-diameter ratio; LDR)値を計測した。微絨毛10本のLDR平均値は6.58で,10未満との腺癌の特徴を満たし,高異型度漿液性癌による悪性腹水と診断した。透過電子顕微鏡を用いた腫瘍細胞の微絨毛LDR値の計測は,腺癌と悪性中皮腫との鑑別に有用と考えられた。

  • 赤塚 貴紀, 青田 泰雄, 野口 直樹, 出沢 舞, 西園 明将, 後藤 明彦
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 137-141
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    症例は64歳女性。2022年2月頃から食欲不振が出現し,その後食事量が減っているにも関わらず腹部膨満が出現。9月に他院を受診し腹部CT検査を実施したところ,肝硬変及び大量の腹水貯留を認めた。腹腔穿刺を実施し,病理組織学的検査からHHV8陰性primary effusion lymphoma (PEL) like lymphomaとの診断に至ったため,加療目的で当院転院。初診時に行った血液検査で,KL-6異常高値(24,141 U/mL)を認めた。原因検索を行うも原因疾患特定には至らず。HHV8陰性PEL like lymphomaに対する化学療法の治療経過とともに,KL-6値が漸減的に低下を示したため,HHV8陰性PEL like lymphoma由来と考えた。

  • 佐野 智紀, 千種 恭輔, 宇佐美 真奈, 服部 由香, 久村 千津世, 永春 圭規, 山本 美和
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 142-146
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    本邦における血栓症の増加が指摘されているが,本邦で頻度が高い先天性の血栓性素因としては,凝固制御系因子であるアンチトロンビン(AT),プロテインC(PC),プロテインS(PS)の欠乏症が知られている。プロテインS(protein S; PS)は分子量84,000のビタミンK依存性の凝固関連タンパク質の一つで,肝臓で産生される。血中では40%が遊離型,60%がC4b-binding protein(C4BP)との複合体として存在している。PS欠損症は邦人を含めアジア人種において頻度が高い疾患である。今回我々は新規のPROS1遺伝子変異を検出した患者を経験したため報告する。症例は49歳の女性で,肺塞栓症の既往歴があり,原因不明の血栓症にて当院血液内科に紹介となった。抗凝固蛋白の検査では,PS活性が著しく低下していた(10.0%)。分子遺伝学的解析の結果,PROS1のexon9にc.1009_1013delGTGAというナンセンス変異が判明した。今回発見された変異は,PROS1のコドン337に変異を生じ,exon9以後の欠失を認めた。同胞の遺伝子検査より,この変異により,PSの機能が低下していると推定された。過去の同ドメインの欠損症例は大部分でtype 1 PS欠損症として発症する。

  • 関谷 香, 三輪 優生, 石渡 遥, 古川 奈々, 坂元 肇
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 147-153
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    Cardiobacterium hominisは口腔咽頭内の常在菌で,まれに感染性心内膜炎の原因となる。今回,自動血液培養装置で陽性とならなかったC. hominis感染性心内膜炎の症例を経験した。患者は57歳男性。発熱と労作時呼吸困難のため救急外来を受診し,その際に血液培養を2セット採取した。その後,経食道心エコーにて弁尖2ヶ所に可動性のある疣贅様エコーを認め,感染性心内膜炎と診断された。Ceftriaxone(CTRX)を投与し帰宅され,2日後入院しCTRXとSulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC)の投与を開始した。入院6日目に僧帽弁置換術を実施し,僧帽弁組織のグラム染色で多数のグラム陰性桿菌が検出された。しかし,組織の培養検査は陰性だったため,外来受診時採取の血液培養を確認したところ,血液培養装置の自動判定は陰性であったが血液培養ボトル4本中1本のボトルグラフの増殖曲線にわずかな上昇を認めた。その1本でグラム染色を施行した結果,グラム陰性桿菌を認めた。培養の結果コロニーの発育を認め,既往や菌の形態からHACEK群を疑いC. hominisと同定された。僧帽弁組織培養では,抗菌薬投与後であったため,菌の発育を確認することができなかったと考えられた。自動血液培養装置で陽性とならない場合も,血液培養ボトルの検索を行うことによりC. hominisの同定につなげることができた。

  • 新井 未来, 山本 誉, 古谷 善澄, 余根田 直人, 山田 佑真, 畑 久勝
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 154-160
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    セフトリアキソン関連の尿中結晶または尿路結石症は小児で報告されているが,成人症例の報告は稀である。今回我々は,成人でセフトリアキソン投与中の患者に結晶尿を認めた症例を経験した。症例は90代,女性。左下肢蜂窩織炎に対しセフトリアキソン2 g/日投与中に尿量減少,尿に多量の浮遊物を認めた。尿沈渣検査で多数の黄褐色針状,凝集状,不規則板状の結晶が確認された。患者の臨床経過よりセフトリアキソン関連結晶による急性腎障害が疑われたため,薬剤師と情報共有し連携することで早期薬剤中止と腎機能回復に繋げることができた。

  • 前田 奈美, 中林 容子, 野見山 淳, 三隅 美紀, 西田 由季美, 服部 幸夫
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 161-167
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    症例は95歳女性。20XX − 2年より,高血圧,慢性腎不全のため当院内科に通院中であった。20XX年8月の定期受診時のバイタルサインチェックにて,経皮的動脈血酸素飽和度(oxygen saturation of peripheral artery; SpO2)86%と低酸素血症を認めた。自覚症状およびチアノーゼはなし。精査目的での動脈血液ガス分析ABL800 FLEX(ラジオメーター(株),東京)において,動脈血酸素分圧(partial pressure of arterial oxygen; PaO2)がデータ未検出となり,本患者の動脈血酸素飽和度(arterial oxygen saturation; SaO2)とPaO2の値が乖離していることが判明した。低酸素血症をきたす呼吸器および循環器系の明らかな異常所見は認められなかったため,異常ヘモグロビン(hemoglobin; Hb)症が疑われた。外部委託した遺伝子検査の結果,低酸素親和性異常HbであるHb Yuda: α2-グロビン遺伝子のcodon 130 GCT(アラニン(alanine; Ala))→GAT(アスパラギン酸(aspartic acid; Asp))であることが明らかとなった。今回のように,無症状で臨床症状と合致しないSpO2低値を認めた際は,動脈血液ガス分析検査においてSaO2を確認するとともに,SaO2に比してPaO2が不釣り合いに高値である場合は,低酸素親和性異常Hb症の可能性もあることを認識しておく必要がある。

  • 田口 舜, 山口 健太, 矢野 智彦, 香月 万葉, 佐野 由佳理, 平野 敬之, 安波 道郎, 福岡 麻美
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 168-173
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    Vibrio mimicusは食中毒の原因菌で,海水,海泥,魚介類に分布する。海産物の摂取後に胃腸炎・下痢を引き起こすことが知られているが通常は軽症である。今回,血液培養からV. mimicusが分離された症例を経験した。我々が調べた限り,V. mimicus菌血症の報告は5例目となる極めて稀な症例であった。84歳男性。午前中より腹部膨満感があり,かかりつけ医を受診された。その際の発熱は認めなかった。当日夜間に発熱,嘔吐,意識朦朧となっていることに家族が気づき当館に搬送された。CTで腸炎を疑われ血液培養2セット採取後,Ceftriaxone(CTRX)が投与された。翌日,血液培養陽性となりV. mimicusが検出された。CTRX投与後,発熱・腹痛は軽減,食事摂取なども良好であり,10日間の治療後,第13病日に退院された。Vibrio属菌はグラム染色で湾曲したグラム陰性桿菌様形態として観察される。血液や便などの臨床検体から本形態が観察された場合は,早期感染症診断や抗菌薬適正使用支援の観点からも臨床へVibrio属菌を疑う旨を報告することが望ましい。

  • 中田 瞳美, 阿部 正樹, 俵木 美幸
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 174-179
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    我々は,IgGの非特異的な反応により甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH)が偽高値を呈した症例を経験したので報告する。患者は88歳の女性で,初診時の採血結果はTSH 19.66 μIU/mL,遊離トリヨードサイロニン(free triiodothyronine; FT3)2.61 ng/dL,遊離サイロキシン(free thyroxine; FT4)1.76 pg/mLとTSHのみ高値を示した。負荷試験等の精査を行ったが異常は認められず,TSHのみ高値が続いたため,非特異反応を考慮し検討を行った。異なる3種の試薬での測定結果に大きな差は認められなかった。また,human anti-mouse antibody吸収試験においても3種とも測定値の変化は認められなかった。一方,添加回収試験とpolyethylene glycol処理試験においては,3試薬共に回収率の低下を認めたことから何らかの干渉物質の影響が示唆された。そのため,HPLCゲル濾過解析を行い,その干渉物質がIgGであることが確認された。さらに,症例の分画分取液から精製したIgGとTSH標準物質を用いて添加回収試験を行った結果,回収率の低下が認められたことから,本症例はTSH-IgG複合体を測り込んだことにより偽高値が生じたと思われる。

  • 森下 真由美, 笹井 有美子, 池田 克実, 林 茉里奈, 亀井 佑梨, 金本 巨哲, 小川 佳成, 井上 健
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 180-187
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    50代の女性。1年前より右乳腺C区域にひきつれとくぼみ,3ヵ月前より左乳腺AC区域に皮膚発赤と疼痛が出現した。乳腺超音波検査で右C区域に大きさ18 × 15 × 14 mmの低エコー腫瘤を認め,浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma; IDC)硬性型を疑った。左AC区域には大きさ41 × 39 × 31 mmの低エコー腫瘤を認め,IDC充実型および左腋窩リンパ節転移を疑った。超音波ガイド下針生検で右腫瘤はLuminal乳癌,左腫瘤はトリプルネガティブ乳癌と診断された。造影CT検査で肺に転移が認められ,両側乳癌・肺転移の診断で化学療法が開始された。乳癌診断から17ヵ月後に意識障害で搬送され,転移性脳腫瘍の診断で開頭腫瘍摘出術が施行された。また2年後に施行した造影CT検査で甲状腺右葉の低濃度結節に増大を認めた。甲状腺超音波検査で右葉に大きさ19 × 19 × 23 mm,不整形,内部低エコーの混合性結節を認めた。12年前の甲状腺超音波画像と比較すると,今回の結節は甲状腺外方へやや突出するように描出され,穿刺吸引細胞診にて乳癌の転移と診断された。乳癌の終末像では複数の臓器に転移することはあるが,甲状腺に転移することは比較的稀であり報告例が少ないため,文献的考察を加えて報告する。

  • 内田 大貴, 穐山 祐子, 浅井 雛子, 榊原 早穂, 川村 道広, 錦 淳子, 吉田 恭太郎, 清水 重喜
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 73 巻 1 号 p. 188-194
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
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    背景:尿沈渣において見られる前立腺癌の組織型はほとんどが腺房細胞に由来する腺癌細胞であり,導管細胞が由来の前立腺導管癌が出現することは非常に稀である。今回我々は尿沈渣中に前立腺導管癌細胞を認めた症例を経験したので報告する。症例:80歳代,男性。5年前に当院にて低異型度尿路上皮癌(low grade urothelial carcinoma;以下,LGUC)の治療のため,TUR-BTを実施。その後,継続してフォローを行っていたところ尿中に異型細胞を検出した。異型細胞はシート状や乳頭状集塊を呈し細胞異型は非常に軽微であったが既往歴よりLGUCの再発が否定できないと判断し担当医に異型細胞の検出を報告し,細胞診の追加検査が提出された。その後膀胱鏡が行われ前立腺尿道部に腫瘍が確認された。尿道腫瘍の切除が行われ,組織診断の結果前立腺導管癌と診断された。結語:尿沈渣検査にて稀な腺癌症例を経験した。本症例の前立腺導管癌は非常に異型が弱く,また出現頻度が少ない稀な組織型であったため判定が困難であった。結果として組織型の推定は困難であったが,異型細胞として報告できたことで診断確定から治療まで繋げることが可能であった。日常の検査において判定に苦慮する細胞成分に遭遇することがあるが,検査結果の見直しを丁寧に行うことで検査精度の向上に努めることが大切である。

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