2024 年 73 巻 1 号 p. 106-114
2019年8月より微生物検査の大部分を外部委託から院内実施に変更した。外部委託1年間と院内実施1年間の微生物検査に関わる項目を比較した。収支比率は101%から125%に増加した。総検体数は6,813件から6,821件とほぼ変化なし。喀痰培養検出菌数はmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)が147件から293件に増加した。尿培養検出菌数はAerococcus属が1件から33件に増加した。薬剤耐性菌検出数ではMRSAが230件から405件に増加した。薬剤感受性検査実施菌数では1菌種実施が1,674件から1,387件に減少した。血液培養比較では陽性率は11.9%から12.1%に増加,汚染率は2.8%から2.4%に低下した。血液培養陽性患者の院内死亡率は37.3%から32.6%に低下した。meropenemのantimicrobial use densityは0.77から0.76と低下,days of therapyは1.14から1.09へ低下した。検体到着から最終報告までの日数では血液培養以外の検体は4.00から4.16と延長,血液培養陽性検体は8.00から4.97と短縮した。微生物検査院内化は検査結果の迅速報告や検査精度の向上だけでなく,検査室の収益性,患者の生存率,他部署でのコスト削減にも貢献することに期待できる。
From August 2019, most microbiological tests in our hospital were changed from outsourced to in-house implementation. Microbiology-testing-related items at one year of outsourcing and one year of in-house implementation were compared. The income/expense ratio increased from 101% to 125%. The total number of specimens identified slightly increased from 6,813 to 6,821. The number of sputum cultures positive for methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) increased from 147 to 293. The number of urine cultures found to be positive for Aerococcus spp. increased from 1 to 33. In the case of drug-resistant bacteria detected, the number of MRSA increased from 230 to 405. For one organism, the number of bacteria tested for drug susceptibility decreased from 1,674 to 1,387. In comparing blood culture tests between the two periods, the positivity rate increased from 11.9% to 12.1%, and the contamination rate decreased from 2.8% to 2.4%. The in-hospital mortality rate of patients with positive blood cultures decreased from 37.3% to 32.6%. Meropenem antimicrobial use density decreased from 0.77 to 0.76, and the number of days of therapy decreased from 1.14 to 1.09. The interval from the arrival of the sample at the laboratory to the final report increased from 4.00 to 4.16 days, except for blood cultures, and decreased from 8.00 to 4.97 days for positive blood cultures. The shift to in-house microbiology testing may contribute to not only the prompt report of the test results and increased accuracies, but also laboratory profitability, patient survival rates, and cost savings in other departments.
全国の医療機関における病床数別の2020年度日臨技臨床検査精度管理調査(微生物同定)の参加率は,病床数が増えるにつれ高くなるが,500床未満の中規模病院の半数以上は不参加である1),2)。微生物検査は不採算部門というイメージにより外部委託している施設が多いが3),院内化によって採算が取れるとの報告もある4)。2019年に発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的な流行により,日本国内の多くの医療機関で遺伝子検査が普及したが,微生物検査を院内実施している施設の数は不充分である。当院は2019年8月より微生物検査の大部分を外部委託から院内実施に変更した5)。院内化による成果を示した報告は少なく,今後の同規模病院での微生物検査院内化に寄与するため,当院における院内微生物検査室稼働開始前後の比較検討結果を報告する。
当院は福岡県福岡市に位置し,29の診療科を標榜する350床のケアミックス型の病院で,併設する千代診療所が外来部門としての役割を果たしている。救急車搬入件数は2022年度3,919台で,感染対策向上加算1を取得している。
対象は外部委託2018年8月~2019年7月までの1年間と,院内実施開始後の2019年8月~2020年7月までの1年間で,検査コスト・収支比率,検体数(総検体数,材料別検体数),検出菌数(喀痰培養,尿培養,薬剤耐性菌),薬剤感受性実施菌数,血液培養比較(総採取セット数,1,000 patient-dayあたりの採取セット数,複数セット採取率,陽性率,汚染率,陽性患者数,陽性患者の院内死亡率,検出菌),meropenem(MEPM)の使用状況(antimicrobial use density; AUD・days of therapy; DOT),最終報告までの日数(血液培養以外の検体,血液培養陽性検体)について比較した。収支比率の比較については,当院はDPC(diagnosis procedure combination)対象病院のため,院内実施による実際の収益の計算は困難なため,保険点数をもとに比較した。なお便培養,生殖器分泌物培養,抗酸菌培養に関しては微生物検査院内化後も外部委託している。
本研究は千鳥橋病院倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号:CH-2021-08)。
総保険点数から検査コスト,外注費,人件費を引いて収支を比較した(Table 1)。収支比率は101%から125%と院内実施後増加した。
外部委託 (2018年8月~2019年7月) |
院内実施 (2019年8月~2020年7月) |
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総保険点数(点) | 4,159,941 | 3,884,621 |
検査コスト(円) | 5,550,369 | 13,316,672 |
外注費(円) | 30,757,232 | 7,688,805 |
人件費(円) | 5,058,132 | 10,116,264 |
収益(円) | 233,677 | 7,724,469 |
収支比率(%) | 101 | 125 |
※光熱費・廃棄物処理代など除く
総検体数の比較をFigure 1に示す。総検体数は6,813件から6,821件とほぼ同数であった。
材料別(呼吸器系,泌尿器・生殖器系,消化器系,血液・穿刺液系,その他)の検体数の比較をFigure 2に示す。材料別に比較してもほぼ同数であった。
喀痰培養検出菌数の比較をFigure 3に示す。院内実施後methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の検出数が147件から293件と増加,Haemophilus influenzae は86件から96件と増加,Moraxella catarrhalisは50件から53件と増加した。methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)は160件から137件と減少,Streptococcus pneumoniae は49件から34件と減少した。
MRSA:methicillin-resistant Staphylococcus aureus
MSSA:methicillin-susceptible Staphylococcus aureus
尿培養検出菌数の比較をFigure 4に示す。Escherichia coliは328件から390件と増加,Klebsiella pneumoniaは106件から94件と減少した。その他腸内細菌目細菌は99件から128件と増加,Pseudomonas aeruginosa は43件から47件と増加,Enterococcus属は124件から197件と増加,Aerococcus属は1件から33件と増加した。
薬剤耐性菌検出数の比較をFigure 5に示す。MRSAは230件から405件と増加,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended spectrum β lactamase; ESBL)産生Escherichia coliは242件から276件と増加,ESBL産生Klebsiella pneumoniaeは38件から49件と増加したが,ESBL産生Proteus mirabilisは7件から1件と減少した。カルバペネム耐性緑膿菌は17件から27件と増加,カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(carbapenem-resistant enterobacterales; CRE)は3件から23件と増加した。
MRSA:methicillin-resistant Staphylococcus aureus
ESBL:extended spectrum β lactamase
院内実施には外部委託している便培養,生殖器分泌物培養の検出数含む
薬剤感受性実施菌数の比較をFigure 6に示す。1菌種実施は1,674件から1,387件と減少,2菌種実施は459件から521件と増加,3菌種実施は212件から266件と増加した。院内実施後は複数菌実施が多かった。
院内実施には外部委託している便培養,生殖器分泌物培養の実施数含む
血液培養の比較をTable 2に示す。総採取セット数,1,000 patient-daysあたりの採取セット数,複数セット採取率はほぼ同数であった。陽性率は11.9%から12.1%と増加し,汚染率は2.8%から2.4%と低下した。陽性患者数(汚染,転院除く)は158名から144名と減少した。陽性患者の院内死亡率は37.3%から32.6%と院内実施後低下した。
外部委託 (2018年8月~2019年7月) |
院内実施 (2019年8月~2020年7月) |
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総採取セット数 | 3,322 | 3,410 |
1,000 patient-daysあたりの採取セット数 | 30.9 | 31.3 |
複数セット採取率(%) | 95.9 | 94.7 |
陽性率(%) | 11.9 | 12.1 |
汚染率(%) | 2.8 | 2.4 |
陽性患者数(汚染,転院除く)(人) | 158 | 144 |
陽性患者(汚染,転院除く)の院内死亡率(%) | 37.3 | 32.6 |
1,000 patient-daysあたりの採取セット数=総採取セット数/在院患者延数 × 1,000
複数セット採取率(%)=(総採取セット数-総1セット採取数)/総採取セット数 × 100
陽性率(%)=陽性セット数/総採取セット数 × 100
汚染率(%)=汚染と判定されたセット数/総採取セット数 × 100
汚染の判定基準:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,Propionibacterium spp.,Micrococcus spp.,緑色連鎖球菌,Corynebacterium spp.,Bacillus spp.が同日2セット以上採取されたうち1セットのみ陽性となったもの
血液培養上位10菌種をTable 3に示す。外部委託時と院内実施で最も多い菌種はEscherichia coli ,次いでcoagulase negative staphylococci(CNS)であった。CNS,Propinonibacterium spp.,Corynebacterium spp.,Bacillus spp.等の汚染を疑う菌の総数でみると102件から89件と減少した。院内実施後は起炎菌の検出が多いという結果となった。
外部委託(2018年8月~2019年7月) | 検出数 | 院内実施(2019年8月~2020年7月) | 検出数 |
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Escherichia coli | 91 | Escherichia coli | 126 |
coagulase negative staphylococci(CNS) | 74 | coagulase negative staphylococci(CNS) | 89 |
Klebsiella pneumoniae | 38 | methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA) | 46 |
methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA) | 27 | Klebsiella pneumoniae | 38 |
methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA) | 12 | Enterobacter cloacae | 18 |
Streptococcus spp. | 12 | methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA) | 18 |
Streptococcus agalactiae | 11 | Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis | 10 |
Bacillus spp. | 10 | Bacteroides fragilis | 8 |
Corynebacterium spp. | 9 | Enterococcus faecalis | 8 |
Propionibacterium spp. | 9 | Streptococcus agalactiae | 7 |
その他 | 149 | その他 | 105 |
計 | 442 | 計 | 473 |
MEPM使用状況(AUD・DOT)の比較をFigure 7に示す。AUDは0.77から0.76と低下,DOTは1.14から1.09へ低下した。
AUD(antimicrobial use density)=抗菌薬使用量(g)/DDD(defined daily dose)/在院患者延数(bed-days)×100
DOT(days of therapy)=抗菌薬使用延日数(日)/在院患者延数(bed-days)×100
検体到着から最終報告までの日数の比較をFigure 8に示す。血液培養の培養日数は外部委託時7日間であるが,院内実施後5日間としているため,血液培養以外の検体と血液培養陽性検体で比較した。血液培養以外の検体では4.00日から4.16日と延長したが,血液培養陽性検体では8.00日から4.97日と院内実施により3日以上短縮した。
院内実施には外部委託している便培養,生殖器分泌物培養の日数含む
収支比率は院内実施後増加した。収益を増加させるには,全ての検体を院内実施するのではなく,ランニングコストや技師負担の大きい検査は感染対策チーム(infection control team; ICT)や抗菌薬適正使用チーム(antimicrobial stewardship team; AST)と協議した上で外部委託する必要があると考え,当院では便培養,生殖器分泌物培養,抗酸菌培養を外部委託している。一方で血液培養検査におけるランニングコストは,陰性の場合はボトルの価格のみである。血液培養検査ガイドラインに記載されている陽性率の推奨値は5~15%とされている6)。当院の陽性率は血液培養検査ガイドラインの範囲内であり,多くは陰性であることからも血液培養検査の院内実施は収益向上に大きい検査と考えられる。
検出菌数は院内実施後増加した。外注検査と当院の検査方法や釣菌基準の違いが考えられる。当院の釣菌基準は,愛知県臨床検査値統一化ガイドライン「日常微生物検査における標準手引書」7)をもとに実施しているが,検査材料やグラム染色所見,菌量,臨床情報などを加味して微生物検査技師の判断で釣菌することが多々ある。検査過程で嫌気性菌等の特殊な菌を疑う場合は医師と連絡を取り合い,培地追加や培養環境変更,培養時間延長など臨機応変に対応している。しかしながら外注検査では依頼項目に従った検査を測定標準作業書(SOP)に従って実施されるため8),検査技師の判断で検査内容を変えることができない。本来実施すべき検査ができていない可能性が考えられる。また院内実施により検体採取後直ちに培養を開始することで,菌の死滅を防ぎ,起炎菌を効率よく検出が可能となったことも検出菌数増加の要因と考える。尿培養検出菌では院内実施後Aerococcucs属の増加が顕著であった。Aerococcus属は常在菌のα溶血連鎖球菌とコロニー形態が類似しているため,外注検査では常在菌として報告されていた可能性が考えられる。外注検査では塗抹検査,培養検査,同定検査,薬剤感受性検査の各工程の分業制を採用している。塗抹検査でAerococcus属を疑うクラスター形成のグラム陽性球菌と判断しても,釣菌する技師に引継ぎが出来ていない場合はα溶血連鎖球菌と報告される可能性が高い。外部委託する際は委託先の検査フローチャートを把握しておく必要があると考える。
薬剤耐性菌検出数は多くの菌で院内実施後増加した。検出菌数増加と同様,培養開始までの時間短縮や,外注と院内の耐性菌検査の実施基準や検査法の違いと考えられる。当院ではICT/ASTと協議し薬剤耐性菌を見逃さないためにグラム陰性桿菌に関しては起炎菌の可能性が低くても積極的に釣菌することにしている。また院内実施後MRSAの増加が顕著であった理由としては,全材料にMRSA選択培地(日本ベクトン・ディッキンソン)を使用しているため,菌量が少数であっても効率よく検出することができたと考えられる。
薬剤感受性実施菌数は,青木ら9)によると院内実施により1菌種実施が増加し,複数菌種実施は減少したと報告されている。しかし,当院では1菌種実施は減少,複数菌種実施が増加した。検出菌数や薬剤耐性菌数増加の理由と同様に釣菌基準の違いや耐性菌スクリーニング培地の使用が原因と考えられる。耐性菌スクリーニング培地は様々なものが販売されている。薬剤感受性実施菌数は自施設の使用培地によって差が出ると考えられる。
院内実施により血液培養比較では,陽性率増加,陽性検体の最終報告までの日数短縮,死亡率低下,またMEPMのAUD低下,DOT低下と成果が得られた。その要因としては,院内実施により採取後直ちに血液培養装置への装填が可能となったこと,培養陽性検体の迅速な処理の実施,塗抹形態やコロニー形態から推定菌の中間報告といった検査状況のリアルタイム報告の実施,院内実施後8カ月目から時間外勤務者の血液培養陽性検体の塗抹標本作成と培養を開始したことと考えられる。血液培養汚染率は院内実施後低下した。血液培養の汚染率は標準的には2~3%とされている6)。当院では毎月汚染率をICT委員会で報告し,汚染率が3%を超えた場合は血液培養の採取方法や汚染による影響を記載した検査報を院内掲示板にアップし,全部署に周知している。また,血液培養陽性一覧を週報に掲載し,汚染菌と思われる菌の検出が多い場合は,週一回のAST会議で報告し,当該部署への介入も行っている。血液培養検査を院内実施することで,異常事態が起こった際はICTやASTとの連携することで早期介入が可能となっていると考える。
最終報告までの日数は,血液培養以外の検体では院内実施後延長した。外部委託先はESBL産生確認試験を微量液体希釈法で行っているため,薬剤感受性結果と同時に報告されるが,当院はディスク拡散法で実施している。さらに院内では外注検査で行われていなかったAmpC型βラクタマーゼ産生確認試験,カルバペネマーゼ産生確認試験としてmodified carbapenem inactivation method(mCIM),Staphylococcus属及びStreptococcus属のD-zone test,腸球菌のアミノグリコシド高度耐性試験(high-level aminoglycoside-resistant Enterococcus spp.)を実施しているため,薬剤感受性結果報告からさらに1日費やす。また,検出菌数増加理由にも示したが,医師の要望や検査状況によって臨機応変に培地の追加や培養環境変更,培養時間の延長を実施している。さらに外注検査では,菌種同定に質量分析装置を使用しているため,同定に苦慮することが少ない。当院では同定機器で同定できない場合は試験管培地や同定キットを使用し,それでも同定できない場合は外注の質量分析による同定を依頼している。質量分析装置の登場前までは外注検査は結果が出るまでに時間がかかると言われていたが,質量分析装置の登場により,質量分析装置の無い微生物検査室の場合は検出菌によっては外注検査の方が数日早くなる可能性がある。院内で同定に苦慮すると思われるコロニーを形成した場合は,早期に外注の質量分析同定の依頼を検討することで,抗菌薬選択の遅れを回避できる可能性があると考える。
微生物検査を院内実施したことで多くの成果が得られたが,今後更に検査の質を向上させるには診断支援(diagnostic stewardship; DS)を実践する必要がある。2016年にWHOよりDSガイドが提唱され10),わが国においても抗菌薬適性使用支援(antimicrobial stewardship; AS)と組み合わせてDSの実践が求められている。わが国における微生物検査の院内実施施設は半数以下であり,多くの施設は外部委託している。2022年に外部委託の現状調査結果が報告され11),その後全ての医療機関で実践できるDSの実践ガイドが作成された12)。DSは自施設で微生物検査ができるか否かにかかわらず実践する必要があると言われている11)。当院はDSの実践ガイドの記載内容を全て行うことはできていない。今後はDSの実践ガイドの内容を当院の運用に組み込んでいき臨床に貢献できる検査室を目指す必要があると考える。
本研究にはいくつかの限界がある。この研究は350床の中規模病院における単施設研究であるため,自施設の規模や微生物検査の検体数,微生物検査技師の力量によって当院の研究と異なる結果になる可能性がある。特に検体数の少ない小規模病院では院内化により採算がとれない可能性も考えられるため,グラム染色や血液培養検査のような迅速かつ特に臨床的に有用な検査に絞って院内実施することが望ましいと考える。微生物検査は施設間差や個人の力量の差に大きく影響される8)。佐藤ら13)のアンケート結果においても検査方法や報告方法は施設間で異なる項目が多い。標準化が難しい微生物検査を院内化する際は自施設の規模に合わせて検査内容をICT/ASTと協議して決定する必要がある。当院は院内実施に向けた準備から微生物検査経験5年の技師2名で行ってきたため,院内実施後1年間で成果を得ることができた。しかし微生物検査経験の浅い技師や経験者1名で院内実施する場合は1年間では思うような成果を得ることができない可能性があるため,軌道に乗るまで年次比較を行う必要があると考える。また,当院は質量分析装置を導入していない。特に血液培養に関しては,培養液から質量分析装置による直接同定を行うことで従来法よりも約1日早く菌種同定が可能であるという報告もある14)。質量分析装置を院内実施後から導入できる施設では院内実施による効果は更に大きくなると思われる。
中規模病院における微生物検査院内化は,検査結果の迅速な報告や検査精度の向上だけでなく,他部署でのコスト削減や患者の生存率,検査室の収益にも貢献することに期待できる。微生物検査院内化による成果を比較した報告は少ないため,今後の同様の研究報告が増加していくことが望まれる。
本論文の骨子は,第71回日本医学検査学会in大阪(2022年)で発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。