2024 年 73 巻 2 号 p. 373-379
当院の採血業務は,8時から採血台全て15台を稼動し,1日平均約700人実施している。従来,採血待ち時間が午前中は常に60分以上となり,混雑緩和が病院の課題となっていた。改善として「診察・検査予約時間に合わせた採血システム」の導入と共に,採血室の環境に適応した工夫の取り組みをした。当システム導入後,待ち時間の平均は10分,約30分の短縮となった。
At our hospital, all 15 blood collection tables are in operation from 8:00 am, and an average of about 700 people per day are being collected. Conventionally, the waiting time for blood collection was always more than 60 minutes in the morning, and alleviating congestion was an issue for hospitals. As an improvement, we introduced a “blood collection system that matches the appointment time for examinations and examinations” and made effort to adapt to the environment of the blood collection room. After the introduction of this system, the average waiting time was 10 minutes, shortening by about 30 minutes.
外来患者の殆どが,来院時に診察前検査の採血後,他の検査や診察を受ける。採血室は良質な接遇や診察に繋がる効率よい運用などが求められ,各医療機関で取り組みがされている1),2)。当院は890床の病院であるが,採血室においては待ち時間短縮など,重要な質の高いサービスが十分に提供できていなかった。今回は,それらの問題を解消するために行った対応の経緯および結果を報告する。
2022年の外来患者数は1日平均約1,300人,外来採血患者数は約700人である。従来より,診察開始時間は午前9時,採血は午前8時から採血台全て15台を稼動し,実施している。採血受付は,1984年の開院時から,到着順にて実施していた。年々患者の増加に伴い,開始1時間後の9時には,毎日250名以上の患者が採血室に訪れている。採血待合場所は,常に混雑し,立って待つ患者も多く,待合場所の環境改善が病院全体の課題となっていた。また,近年,密閉,密集,密接に神経質となっていることもあり,採血待ちについて,患者からの苦情文書が6か月に5通届き,気分不快で倒れる患者もあった。コロナ禍での契機もあり,採血待ち時間短縮として「診察・検査予約時間に合わせた採血システム(以下,採血システム)」を導入することになった。また,それに伴う工夫を施し,混雑緩和対策に取り組み,その結果を集計した。
本内容は,当院倫理委員会対象外のため,倫理委員会の承認を得ていない。
当システムは,診察およびCTやMRIなどの予約時間を優先して採血するものである。Table 1に示した区分に準じて,各予約の60分前から採血開始となるように予約時間が早い順に附番された整理券が発行され,採血をする運用である。また,化学療法の治療患者については,有人受付とし,事務員が1番から発行している。
診察・検査予約時間 | 採血受付番号 | 採血予定時間 |
---|---|---|
8:30~ | 1001番~ | 8:00~ |
9:00~ | ||
9:30~ | ||
10:00~ | 2001番~ | 9:00~ |
10:30~ | 3001番~ | 9:30~ |
11:00~ | ||
11:30~ | 4001番~ | 10:00~ |
12:00~ | 5001番~ | 10:30~ |
12:30~ | 6001番~ | 11:00~ |
13:00~ | 7001番~ | 11:30~ |
13:30以降 | 8001番~ | 12:00~ |
化学療法患者 | 1番~ | 随時(有人受付) |
予定時間を過ぎての受付 | 受付時の時間帯 | |
当日依頼の採血 | ||
予約時間が無く採血のみ |
当院のシステムは,電子カルテシステムHOPE/EGMAIN-GX(富士通株式会社),検査システムCLINILAN GL-2(株式会社エイアンドティー),採血支援システム(株式会社テクノメディカ)から構成されている。当採血支援システムは,採血受付機に診察券を挿入すると自動で電子カルテに予約時間を問合せ,診察時間や検査時間の1番早い予約時間を取り込み,自動採血管準備システムに送信される仕組みである。外来採血室および外待合には,採血・採尿受付機(AI-355)5台,42および52インチディスプレイ合計7台,自動採血管準備システム3台(BC・ROBO-8001RFID/T4163),アシストソリューション(採血情報端末),患者用個別表示ディスプレイ,C-3Pタイプ採血台付昇降採血台は,それぞれ15台となっている。
3. 採血システム導入後の流れ当院は,8時から外来患者の総合受付および採血を開始している。患者は,1階の再来機受付後に3階にて採血の受付を行い,採血整理券が発行される流れである。当情報が,自動採血管準備システムに送信され,予約時間が早い順に採血管が準備される。採血管を採血情報端末で読ませ患者を呼び入れ,本人確認後に採血が実施される。
4. 採血スタッフ採血業務は,従来より,8時から,全ての採血台15台にスタッフを配置し,実施している。スタッフは,看護師3名,採血専任技師3.5名,各部門の検査技師(生化学・免疫・一般・血液・微生物・輸血・生理)はシフトを作成し,配置している。午前は,ほぼ全ての採血台を使用し,午後は採血専任技師3名で対応し,患者数に応じて,協力体制を整備している。
当システムを導入するにあたり,検査部の中で,ワーキングを立ち上げ,予約時間の区分,採血モニターの設置場所,スタッフのシフトの工夫などを検討した。
1. 周知方法運用変更についての患者への周知は,導入4か月前から事務員など多職種と協力して行った。再診予約票を従来のA5からA4に拡大し,採血予定時間を追記し,変更内容を具体的にお知らせとして記載した(Figure 1)。
外来採血運用変更の周知のために再診予約票をA5からA4に拡大,採血予定時間を追記,お知らせを記載した。
また,当内容をポスターとして正面玄関など特に患者の目につく場所に複数貼り出した。採血受付にはQ&A形式の詳細な説明文書を置き自由に持ち帰れるようにした。
2. 誘導員の配置当院採血室の設計は,採血台がコの字型に配置され,患者は外待合いとなっている(Figure 2)。当配置では,車椅子の動線が柔軟に対応できるが,患者が採血室に入った際,自身の番号を探すことになり,着席までに時間がかかってしまう。このため,誘導員としてパート事務2名を増員し配置した。
コの字型設計の対応として誘導員を配置し,患者が自身の席番を探さずに着席できるようにした。
採血の待ち時間および処理数については,当システム導入前と導入3か月後と4~10か月後の月から金曜日を対象とし,比較した。集計は,採血支援システム(株式会社テクノメディカ)から抽出した。また,TATについては,検査システムCLINILAN GL-2(株式会社エイアンドティー)から抽出した。
導入前後の時間帯別平均待ち時間をTable 2に示した。導入後は,それぞれの時間帯で短縮した。8時~17時の平均待ち時間は,導入前が41分,導入後3か月以降は10分となり,31分の短縮となった。また,時間帯で60分以上となった日が,導入前はひと月に数日あったが,導入後は3か月後が1日,4~10か月後は0日であった。
時 間 | 導入前 | 導入3か月後 | 導入4~10か月後 |
---|---|---|---|
8:00~8:59 | 25 | 14 | 15 |
9:00~9:29 | 36 | 12 | 11 |
9:30~9:59 | 46 | 18 | 18 |
10:00~10:29 | 50 | 15 | 15 |
10:30~10:59 | 52 | 7 | 7 |
11:00~11:29 | 47 | 5 | 5 |
11:30~11:59 | 39 | 8 | 8 |
12:00~ | 33 | 7 | 6 |
1日(8~17時) 平均待時間(分) |
41 | 10 | 10 |
最長(分) (60分以上となった日) |
113(毎月数日有) | 95(1日) | 49(0日) |
システム導入後,8時~10時の採血処理数が約70人増加した。
導入後は,採血開始2時間(8時~10時)の処理数が約70人以上(処理率約30%)増加した。その後午前中は,1時間平均約100人を処理した。導入前は,予約時間関係なく採血受付が行われるため,受付開始から11時までに検体検査処理に人員が必要となり,採血人員を十分に確保することが困難な状況でもあった。検体検査の混雑が緩和され採血人員の確保が可能となる11時頃に採血処理数が最も多く,採血待ち患者数の収束は14時頃であった。
3. 導入後の受付状態(Figure 4)採血システム導入から約6か月後,予定の1時間以上前に受付した患者は,予約数の10%以下であった。
導入から約6か月後,2か月間の月曜日から金曜日の受付状態を示した。採血予定時間1時間以上前より早く受付する患者は,予約数の約10%以下であった。この状態は,導入時から維持されている。
4. 検体到着から報告までの時間(TAT)当院は,採血室と検体受付がワンフロアとなっており,隣接した場所で処理を行っている。Table 3に分析装置と項目を示し,数項目のTATを示した。導入前後とも再検査が無い場合は,平均値は60分以内であった。
分析装置 | 分析項目 | TAT平均*(分) |
---|---|---|
BM6070(日本電子)3台 |
AST・ALT・ALP・LD・γ-GT コレステロールエステル・総ビリルビン・直接ビリルビン 総蛋白・アルブミン・ナトリウム・カリウム・クロール リン・カルシウム・マグネシウム・尿素窒素・クレアチニン 尿酸・アミラーゼ・グルコース・CK・CK-MB 総コレステロール・HDL-コレステロール・LDL-コレステロール 中性脂肪・血清鉄・CRP |
42分 |
BM6010(日本電子)2台 | ヘモグロビンA1c | 26分 |
XN9100(シスメックス)1台 | 血算 | 15分 |
CN-6000(シスメックス)2台 | PT・APTT | 33分 |
*TAT平均は再検査不要の場合
外来採血については,各医療機関において,技術,接遇,環境など,高い質が求められ,常に効率化に向けた取り組みがされている3),4)。患者を対象とした満足度調査を実施した太田ら5)や盛田ら6)の結果では,採血待ち時間に対する満足度が最も低く,短縮に取り組む契機となっていた。当院も同様の苦情がひと月1回程度あり,常に待ち場所の異常な混雑が問題であった。対策のひとつとして,「診察・検査予約時間に合わせた採血システム」を導入し,検査部ワーキング内で問題点改善へ向けての運用構築を検討した。
運用が変更となることについては,予約票への記載やポスターの貼り出しなどを行った。当システムの開始日から,混乱なく運用され,現在に至っている。当状況は,4か月間の周知効果であり,職種を問わず全職員の当課題に対する関心の深さと協力の成果と思われる。導入約10か月が経過したが,患者が700人以上でも平均待ち時間が30分以内となった。当システムの導入を契機にコの字型採血室に対応するため,誘導員を配置した。この工夫により,患者が番号を探すことなく採血台に到着でき,更に時間が短縮された。特に採血開始8時からの処理数が,導入前よりも増加した。システムを活かした工夫により,スタッフの採血効率が向上したと思われた。
TATについては,効率化が必要とされるが7),常に60分以内を維持しており,採血待ち時間が短縮されたことから,診療前検査の迅速化も円滑化されたと思われた。診療側および患者からの苦情もなくなった。同様の採血システムを導入した楠木ら8)の採血室では,朝開始時の受付患者が導入後は導入前よりも約13%減少し,混雑が解消され,一定した受付状況となったと報告している。当院も予約1時間以上前から受付する患者は殆ど無く,同様の結果となった。今後も,更なる患者サービス向上のため,診療科別に予約状態を公表し,予約分散化の協力をお願いすることにしている。患者の意見を聞きながら,システムを最大に活用し,更に当病院の環境に適した運用の改善をしていく予定である。
システム導入に伴い,4か月間の周知を行い,採血室の環境に適応した工夫をした結果,採血待ち時間の短縮ができた。それぞれの施設環境に応じた運用をし,システムを有効的に活用することが大切と感じた。現在も,異常な混雑や苦情もなく,採血業務が遂行されている。今後も,継続的な改善に取り組むことにしている。
本論文の要旨は,第55回大会日本医療検査科学学会で発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本成果報告の際にご協力いただきました当院全職員の皆様,株式会社テクノメディカ関係者の方々に深謝申し上げます。