2024 年 73 巻 2 号 p. 242-250
除タンパク処理法とは試料液からタンパク質成分を除去する方法であり,目的物質の測定に際してタンパク質の妨害が考えられる場合に実施する。方法は複数報告されているが,それぞれの除タンパク性能の比較検証はほとんど為されていない。本研究では,各手法の除タンパク性能と,その性能を評価するために有用な実験手法を比較検討した。飽和硫酸アンモニウム(AS),アセトン,アセトニトリル,10%トリクロロ酢酸(TCA),1N過塩素酸,10%スルホサリチル酸,10%タングステン酸ナトリウム・2/3N硫酸(TGA)から1種類を血清に等量添加することで,除タンパク処理を実施した。その後,血清の外観・色度,Lowry法,電気泳動,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析,生化学自動分析といった5手法の除タンパク性能を評価した。ASとTGAで処理した血清は,上記いずれの分析法でも,元々の血清タンパク質の1/2–1/3程度の量が残存している結果となった。TCAで処理した血清は残存するタンパク質が極めて微量で,優れた除タンパク性能が示された。尿酸,尿素窒素,クレアチニンに除タンパク処理が与える影響は小さかった。自動分析以外では電気泳動法やHPLC分析が,タンパク残量の評価に優れることが判った。臨床検査等で被検試料に除タンパク処理を実施する場合,目的物質に与える影響を十分に考慮して方法を選択する必要がある。
Deproteinization is a method for removing protein components from a sample solution and is used when proteins are an obstacle for evaluating certain substances. Although several deproteinization methods have been reported, their performances have rarely been compared. In this study, we investigated the performance of each deproteinization method and evaluated whether the experimental methods were beneficial for protein detection. Deproteinization was conducted by incorporating equal amounts of one of the following solvents to the serum: ammonium saturated sulfate (AS), acetone, acetonitrile, 10% trichloroacetic acid (TCA), 1N perchloric acid, 10% sulfosalicylic acid, 10% sodium tungstate, and 2/3N sulfuric acid (TGA). Subsequently, five evaluations were conducted: confirmation of serum appearance and turbidity, Lowry method, electrophoresis, high-performance liquid chromatography (HPLC) analysis, and automated clinical chemistry. Serum treated with AS and TGA demonstrated approximately 1/2–1/3 of the protein remaining in the deproteinized samples compared to the original samples. Serum treated with TCA demonstrated excellent protein deproteinization performance, with almost no remaining proteins. The effects of deproteinization on the uric acid, urea nitrogen, and creatinine levels in the samples were minimal. Electrophoresis and HPLC evaluations were found to be superior for evaluating protein concentration in each sample compared to other evaluation methods. It is essential to select a deproteinization method that considers the effect of the treatment on the target substances in the samples.
除タンパク処理法とは試料液からタンパク質成分を除去する方法であり,目的物質の測定に際してタンパク質の妨害が考えられる場合に実施する。以前は,クレアチニン,尿素窒素,尿酸,脂質などの臨床検査に除タンパク処理法が用いられたが,現在それらは血清からの直接測定が可能となっている1)。一方で,現行の臨床検査でも,血中のアンモニア,乳酸,ピルビン酸を測定する場合には,あらかじめ採血管に除タンパク液が含まれている2),3)。これらの物質は血中のタンパク質やアミノ酸から徐々に生成されるため,除タンパク処理が必要となる2),3)。また,近年は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析と質量分析法(MS)を組み合わせたLC-MSあるいはLC-MS/MSを用いた血中薬物測定が盛んであり,試料液の前処理として除タンパク法の重要性が示されている4)。
除タンパク処理の原理は大きく3つに分類される。1つ目は試料液中のタンパク質を取り囲む水和水を塩類や有機溶媒により取り除くことや,酸を添加してタンパク質の高次構造を壊すことで,タンパク質を不溶化し沈澱させるものである5)。この方法は低コストかつ簡便であり,最も歴史ある手法である。2つ目は物理的な除去であり,フィルターを用いた限外濾過や透析法,超遠心法が挙げられる6)。特に近年はシリンジの先に取り付けるフィルターや,試料液を添加して遠心するカラムフィルターが開発され,ややコストはかかるが簡便な方法として発達している。3つ目は浸透制限充てん剤を用いるもので,これは試料液を直接HPLC分析にかけて専用カラムで除タンパク処理を行うものである7)。この方法は基本的にHPLC分析で目的物質を検出する際に使用する方法であり,それ以外の分析法への応用は困難である。
先に挙げた3つの手法のうち,古くから1つ目の方法に用いる除タンパク液が多数提案されている。塩類として,飽和硫酸アンモニウム(AS)を用いて水和水を取り除く手法は塩析法としても有名である8)。有機溶媒では,アセトン(ACT)およびアセトニトリル(ACN)の除タンパク液としての有用性が示されている8),9)。特に酸性液は除タンパク液として採用する報告が多く,10%トリクロロ酢酸(TCA),1N過塩素酸(PCA),10%スルホサリチル酸(SSA),10%タングステン酸ナトリウムと2/3N硫酸を1:1で混合した溶液(TGA)などが頻繁に用いられる1),10),11)。
実際のところ,臨床検査の歴史において除タンパク液の選択は,その効果の高さよりも,最終的な検出反応に影響を与えないことが優先されてきた。また,現在の臨床検査においては,酵素法等の普及により,除タンパク処理を要しない検査法が主流である。しかしながら,今後も,検査項目を新規に開拓する際には,血中タンパク質がその測定値に及ぼす影響は懸念されるであろう。そのような場合には,測定対象物質に最適な除タンパク処理法を見極める必要がある。一方で,既存の除タンパク処理法の性能を比較検証する報告は希少であり,この情報が乏しいことは最適な除タンパク処理法の選択を困難にしていると思われた。すなわち,各液を用いた場合の基本的な除タンパク性能や,除タンパク処理が目的物質や既存の検査項目に与える影響を解析することは,除タンパク処理が必要である検査項目を開拓するうえで有益な情報提供である。そこで,本研究では,先に挙げた7種類の除タンパク液を用いて血清に除タンパク処理を実施し,その性能を評価する。また,タンパク質の検出法を複数検証し,臨床検査室に限らず研究室や実験室において除タンパク性能を評価するために有用な方法も検証する。さらに,各除タンパク液の血清への添加が臨床検査項目に与える影響を検証し,処理後血清の検体としての汎用性を評価する。
市販の健常人血清試料,Human Serum pool(Serum),(コスモ・バイオ株式会社:東京)を用いた。AS,ACT,ACN,TCA,PCA,SSA,タングステン酸ナトリウム,硫酸などの試薬製品および一般試薬(富士フイルム和光純薬株式会社:東京)を用いた。
2. 方法 1) Serumの除タンパク処理本研究で検討する除タンパク液は以下の7種類とした。①AS;飽和硫酸アンモニウム,②ACT;アセトン,③TCA;10%トリクロロ酢酸,④SSA;10%スルホサリチル酸,⑤PCA;1N過塩素酸,⑥ACN;アセトニトリル,⑦TGA;10%タングステン酸ナトリウム+2/3N硫酸。同一条件における各除タンパク液の性能を評価するため,Serumと各除タンパク液を1:1の割合で混合した。除タンパク液をSerumにゆっくり添加して30分間振盪し,その後,遠心分離(1,191 G,10分)した。上清を回収し,そこに残存するタンパク質や各種臨床検査項目を以下に記載の方法で解析した。なお,Serumと等量の除タンパク液を添加しているため,定量分析から得られた数値結果は全て2倍することで,希釈倍率の補正を行った。
2) 被験試料の色度の確認被験試料の色度を,独自の方法で解析した。まず,分光光度計UV-1280(株式会社島津製作所:京都)を用いて,生理食塩水で2倍希釈したSerumを,波長400–600 nmの範囲で吸光度測定した。この時,405 nmで吸光度が最大値を示したため極大吸収波長と判断した。同波長で除タンパク処理後試料の吸光度も測定した。2倍希釈Serumの吸光度を1とした場合の,除タンパク処理試料の吸光度の相対値を算出し,元々のSerumの色調(濁り)が,除タンパク処理によってどの程度取り除かれているかを判断した。
3) Lowry法文献に記載の手法に則り,Lowry法を実施した12)。まず,2% Na2CO3(0.1N NaOH水溶液中)と0.5% CuSO4·5H2O(1%酒石酸カリウムナトリウム水溶液中)を50:1の割合で混合した溶液3 mLに,被験試料0.3 mLを加え10分静置し,その後,1Nフェノールを0.3 mL添加して30分静置した。この発色した試料液を分光光度計UV-1280にて,波長700 nmで測定した。なお,ウシアルブミンをリン酸緩衝液にて調製して希釈系列を作製し,その測定結果から検量線を作成した。測定の度に検量線を作成し,これに基づき被験試料中のタンパク質濃度を算出した。
4) 電気泳動法(SDS-PAGE)文献に記載の手法に則り,被験試料中のタンパク質を,ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により検出した13)。ポリアクリルアミドの濃度は12.5%とし,被験試料には2-メルカプトエタノールを添加した。電源装置パワーパックUniversalに電気泳動槽ミニプロティアンTetraセル(いずれもBio-Rad Laboratories, Inc. Hercules: CA, USA)を接続して泳動した。染色液にはクマシーブリリアントブルーを用いた。染色と脱色後,撮影装置Chemi-DocTM XRS Plus Imaging Systemと付属のソフトウェアImage Lab 6.1(いずれもBio-Rad Laboratories, Inc.)を用いて,ゲルの撮影と解析を実施した。
5) HPLC分析本研究におけるHPLC分析は,汎用HPLC装置Prominence(株式会社島津製作所)にゲル濾過クロマトグラフィー用カラムPROTEIN KW-803とガードカラムPROTEIN KW-G 6B(いずれも株式会社昭和電工:東京)を接続して実施した。保持時間(retention time; RT)は30分間,流速は1.0 mL/分,波長は280 nm,カラムオーブン温度は20℃に設定した。移動相の溶液は50 mMリン酸緩衝液(pH 7.4)とした。このHPLC分析系を用いて,被験試料を分析し波形を検出した。得られた波形に基づき,HPLC装置に付属のソフトウェアLabSolutions 5.92(株式会社島津製作所)を用いて波形下面積を算出した。
6) 自動分析装置による測定被験試料のタンパク濃度測定と,除タンパク処理が検査項目に与える影響を確認するため,自動分析装置を用いて,14種類の生化学項目を測定した。分析は株式会社LSIメディエンス(東京)に外注し,自動分析装置LST008α(Hitachi High-Tech Corporation:東京)が用いられた。測定項目は総蛋白(TP),アルブミン(ALB),カリウム(K),カルシウム(Ca),無機リン(P),総コレステロール(T-CHO),中性脂肪(TG),鉄(Fe),尿酸(UA),尿素窒素(UN),クレアチニン(Cre),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),乳酸デヒドロゲナーゼ(LD)とした。測定結果が定量下限を超えた場合は「ND」(Not Detected)と表現した。
7) 統計解析全ての実験は5回測定し,グラフ内ではその平均値 ± 標準偏差をプロットした。除タンパク処理後の上清試料とSerumとの測定結果の有意差は,統計解析ソフトウェアEasy R 4.3.1を用いて,Mann-Whitney U検定にて評価した14)。p値 < 0.05を統計的に有意とした。
Serum(Figure 1A)に各除タンパク液を添加して得られた上清は,淡黄色から透明に近付いた(Figure 1B–H)。肉眼的にはASとTGAで,やや淡黄色の色調が残っていた(Figure 1B, H)。その色調を波長405 nmで吸光度測定した。Serumの吸光度1に対して,TCAで最も低い相対値0.11,ASで最も高い相対値0.52を示した(Figure 1I)。大きく分けると,AS,ACT,ACN,TGAにより処理した試料では相対値 > 0.40であり,TCA,SSA,PCAにより処理した試料では相対値 < 0.30であった(Figure 1I)。
The appearance of serum (A) and supernatants treated with AS (B), ACT (C), TCA (D), SSA (E), ACN (F), PCA (G), and TGA (H) is depicted. Absorbance at 405 nm wavelength for all the samples is measured by a spectrophotometer UV-1280 (Shimadzu Corporation).(I) The y-axis indicates relative amount of supernatants treated with AS (gray), ACT (light blue), TCA (green), SSA (Red), PCA (purple), ACN (brown), and TGA (blue) against serum (white). Each experiment is conducted in triplicate. All data values are presented as the mean ± standard deviation (±SD). AS: saturated ammonium sulfate; ACT: acetone; TCA: 10% trichloroacetic acid; SSA: 10% sulfosalicylic acid; PCA; 1N perchloric acid; ACN: acetonitrile; TGA: 10% sodium tungstate + 2/3N sulfuric acid.
Lowry法で試料液のタンパク濃度を測定したところ,Serumは平均値7.67 g/dLと基準範囲に収まった(Figure 2)。除タンパク試料ではASでタンパク濃度のばらつきが大きく有意差はなかったが,他の6つの試料では有意に低下し,最も平均値が小さいのはTCA処理した試料であった(Figure 2)。
The protein content of each sample is quantified using the Lowry method. The absorbance of all samples are measured at 700 nm using a spectrophotometer UV-1280 (Shimadzu Corporation). The y-axis indicates protein concentrations (g/dL) of serum (white), and the supernatants treated with AS (gray), ACT (light blue), TCA (green), SSA (Red), PCA (purple), ACN (brown), and TGA (blue). A calibration curve is prepared based on protein measurements of bovine serum albumin. Each experiment is conducted in triplicate. All data values are presented as the mean ± standard deviation (±SD). *P < 0.05, serum vs. other samples AS: saturated ammonium sulfate; ACT: acetone; TCA: 10% trichloroacetic acid; SSA: 10% sulfosalicylic acid; PCA; 1N perchloric acid; ACN: acetonitrile; TGA: 10% sodium tungstate + 2/3N sulfuric acid.
SDS-PAGEによりタンパク質バンドを検出したところ(Figure 3),Serum(Lane 2)では多くのバンドを検出したが,AS(Lane 3)あるいはTGA(Lane 9)による処理試料でも複数のバンドを検出した。SSA(Lane 6),PCA(Lane 7),ACN(Lane 8)による処理試料ではわずかにバンドを認めたが,ACT(Lane 4)あるいはTCA(Lane 5)による処理試料では全くバンドを認めなかった。
Lane 1 depicts the protein marker, and the adjacent numbers represent the molecular weight (kDa). Lanes 2–9 respectively depict the protein bands of the serum and supernatants treated with AS, ACT, TCA, SSA, PCA, ACN, and TGA. The polyacrylamide concentration is 12.5% and 2-mercaptoethanol is incorporated to all samples. Coomassie brilliant blue is used as the staining solution. SDS-PAGE results are captured using a ChemiDocTM XRS plus imaging system (Bio-Rad Laboratories Inc.). SDS-PAGE, sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis; AS, saturated ammonium sulfate; ACT, acetone; TCA, 10% trichloroacetic acid; SSA, 10% sulfosalicylic acid; PCA; 1N perchloric acid; ACN, acetonitrile; TGA, 10% sodium tungstate + 2/3N sulfuric acid.
SerumのHPLC分析により,RTが7–12 minに多量の成分を認め(Figure 4A),この間をタンパク質分画と判断した。ASあるいはTGAによる処理試料ではRTが7–12 minの間に波形を認めたが(Figure 4B, H),他の処理試料ではほとんど波形を認めなかった(Figure 4C–G)。RTが7–12 minの間における波形面積を算出したところ,ASあるいはTGAでSerumの半分程度の面積を示した(Figure 5)。一方,他の試料ではSerumの0.01程度であり,ASあるいはTGAと明確な差を認めた(Figure 5)。
HPLC analysis is conducted on the following samples: (A) serum and supernatant treated with AS (B), ACT (C), TCA (D), SSA (E), PCA (F), ACN (G), and TGA (H). The x-axis presents the retention time (min), and the y-axis presents the absorbance (mAU) at 280 nm. Red areas indicate retention time between 7–12 min. HPLC, high-performance liquid chromatography; AS, saturated ammonium sulfate; ACT, acetone; TCA, 10% trichloroacetic acid; SSA, 10% sulfosalicylic acid; PCA; 1N perchloric acid; ACN, acetonitrile; TGA, 10% sodium tungstate + 2/3N sulfuric acid.
The waveform areas at retention time of 7–12 min (surrounded by red lines in Figure 4) are computed. The y-axis indicates the relative computed areas of the supernatants treated with AS (gray), ACT (light blue), TCA (green), SSA (red), PCA (purple), ACN (brown), and TGA (blue) against the serum (white). Each experiment is conducted in triplicate. All data values are presented as the mean ± standard deviation (±SD). HPLC, high-performance liquid chromatography; AS, saturated ammonium sulfate; ACT, acetone; TCA, 10% trichloroacetic acid; SSA, 10% sulfosalicylic acid; PCA; 1N perchloric acid; ACN, acetonitrile; TGA, 10% sodium tungstate + 2/3N sulfuric acid.
自動分析による測定結果では,SerumのTPがやや基準値を超えたが,ACT,TCA,SSA,PCA,ACNによる処理試料でNDあるいは著しく低い測定値を示した(Table 1)。T-CHOやTG,酵素活性は,除タンパク処理後の試料では正確に測定できなかった(Table 1)。一方,除タンパク液の種類にも依るが,概ねUA,UN,Creに与える影響は小さかった(Table 1)。
Serum | AS | ACT | TCA | SSA | PCA | ACN | TGA | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
TP (g/dL) | 8.6 | 5.4 | 0.3 | ND | ND | 0.3 | 0.3 | 3.2 |
ALB (g/dL) | 5.3 | 4.5 | 0.3 | ND | ND | 0.3 | 0.3 | 2.7 |
K (mEq/L) | 5.8 | ND | 4.1 | 4.7 | 4.7 | 4.1 | 6.3 | 5.1 |
Ca (mg/dL) | 9.8 | 8.5 | 0.6 | 9.2 | 9.2 | 9.7 | 2.7 | 9.3 |
P (mg/dL) | 6.5 | 5.7 | 0.4 | 6.1 | 6.1 | 6.5 | 1.8 | 6.2 |
T-Cho (mg/dL) | 167 | 33 | ND | ND | ND | 3 | ND | 71 |
TG (mg/dL) | 83 | 12 | ND | ND | ND | ND | ND | 32 |
Fe (μg/dL) | 150 | 133 | ND | 66 | 142 | 31 | 3 | 25 |
UA (mg/dL) | 4.3 | 2.6 | 4.5 | 5.1 | 5.3 | 4.5 | 6.2 | 4.4 |
UN (mg/dL) | 12.2 | ND | 12.5 | 17.3 | 19 | 14.7 | 18.9 | 15.5 |
Cre (mg/dL) | 1.01 | 0.93 | 1.00 | 0.79 | 0.90 | 0.94 | 1.54 | 0.93 |
AST (U/L) | 8 | 3 | ND | 6 | 13 | ND | ND | ND |
ALT (U/L) | 3 | 3 | ND | 4 | 9 | ND | ND | 4 |
LD (U/L) | 142 | 104 | 196 | ND | ND | ND | ND | ND |
本研究では,7種類の除タンパク液の性能を検討した。参考文献の一覧からも判るように,2000年代以降の除タンパク処理に関する報告は極めて乏しい。一方で,近年でもLC-MS等の分析で除タンパク処理が必須となる場面はしばしば存在する。また,今後新たに除タンパク処理を必要とする検査項目が開拓される可能性もある。本研究の成果が,新たな分析手法の構築段階における除タンパク処理法選択の一助となれば幸いである。
今回,酸性液はTCA,SSA,PCA,TGAと最も多い4種類を検討した。総合的に判断すると,TCAが最も除タンパク性能が高く,Serumから強力にタンパク質を取り除く性質を有していると思われる。さらに,TCAはこれほど強力なタンパク沈澱能力を有しているにも関わらず,生化学項目に与える影響は,他の除タンパク液試料の結果から大きく逸脱するものではない。一方で,酸性液の中では,TGAは除タンパク性能が低いと思われた。なお,いずれの酸性液もK,Ca,Pの測定結果に与える影響は小さく,注目された。これら項目を測定する場合は,除タンパク処理を施したSerumであっても適応できる可能性が示唆された。一方,T-CHOやTGは除タンパク処理により,リポタンパクが取り除かれるために低下したと思われる。同様に,トランスフェリンが除タンパク処理によって取り除かれるため,Feの測定値にも影響が出たと推測する。酵素活性は酵素自体がタンパク質であるため,ほぼ全ての除タンパク液による処理で低値となるのは予想通りである。しかし,ALBに結合することが知られるCaやUAは,意外にも酸性液による除タンパク処理の影響が小さい傾向にあった。これは,Serum中のCaやUAの,ALBと結合する割合が50%未満であることが理由と推測する15),16)。そのため,除タンパク処理後も大部分のCaやUAが上清に残存したと思われた。
次に有機溶媒を用いた除タンパク処理について,ACTやACNがTCAに匹敵する除タンパク液であることが示された。一方で,これら有機溶媒による処理で,CaやPが著しく低値を示しており,生化学項目に与える影響がTCAよりも大きいと思われる。これは,CaやPが有機溶媒に難容性であるため上清に溶解できず析出したか17),有機溶媒中の不純物と結合して沈澱した可能性が考えられた18)。除タンパクに有機溶媒を使用する場合には,目的物質への影響を特に考慮する必要があり,出来るだけ不純物の混入が少なく精製された製品の選択が望ましいと思われた。
今回,除タンパク液として使用した塩類はASのみである。ASを試料液に添加する操作は除タンパク法よりもむしろ塩析法として有名である。本研究ではSerumと等量のASを添加したことで,50%のAS濃度でタンパクが析出する程度を検証したことになる。一方,塩析法では通常80%程度でほぼ全てのタンパク質が沈澱することが報告されており19),今回のAS処理試料にタンパク質が多く残存したのは妥当と思われた。ただし,50% ASの試料であってもKやUNは測定できておらず,これが80%の添加量の場合はさらに生化学項目への影響が大きいと予想する。したがって,除タンパク処理法としてのASの使用は推奨されないと思われた。
以上の内容を総合的に考察し,少なくともSerumと除タンパク液を1:1で添加する手法の場合,TCAが第一選択と思われた。実際の臨床検査では,乳酸・ピルビン酸の測定において,採血管内で全血とPCAは1:1の割合で混合する20)。一方,アンモニアの測定では, 採血管内で全血とTGAは1:4の割合である21)。ここに挙げたように,実際は目的物質や試料の種類に応じて柔軟に,除タンパク液の添加量や濃度を変更し,最適な条件を見極めることが重要であろう。ただし,我々の検証も各除タンパク液の性能や,他検査項目への影響を示す意味では有益である。今後,除タンパク処理が必要な測定系を構築するうえで,有意義なエビデンスを提供する研究であったといえる。
また,本研究は基礎研究においても優れた情報が提供できたと感じている。大学や研究所の環境では,気軽に生化学自動分析装置を使用できるものではない。そこで,除タンパク処理後の試料におけるタンパク質の残量を解析するため,実験室で実施可能な手法を検討した。外観と色度で判定する手法は曖昧さが拭えないが,残存するタンパク量の傾向を把握する程度には使用可能と思われた。Lowry法でも概ね正しいタンパク質濃度は得られるが,やはり用手法による結果のばらつきは避けられない。Lowry法にて判定する場合は,確立したプロトコルに基づき慎重に実施し,複数回の結果を平均化するべきである。Lowry法に限らずタンパク質濃度の定量キット製品はいくつか存在するため,それらを活用することで試薬調製による結果のばらつきは回避することが可能である。SDS-PAGEは視覚的にタンパク質の残量を確認できるため有用であるが,基本的に定性的な解析となり,各手法同士の残存タンパク質の細かな差を判定することは困難である。画像解析によりバンドを定量する方法もあるが,複数のバンドが重なる場合や,バンド自体が検出できない場合もあるため,SDS-PAGEは大体の残存タンパク質を把握する方法と割り切るのが良いと思われた。HPLC分析は波形により視覚的にも判りやすく,波形下面積の算出により細かな差も比較可能である。HPLC分析は試料を打ち込むことで,後は自動で波形を検出していくので,結果の再現性が高く,正確な測定が可能である。ただし,検出された波形が全てタンパク質成分を反映しているとは限らないため,特異性には欠ける分析法といえる。以上を考慮すると,装置を有している研究施設であれば,HPLC分析が除タンパク処理の判定に適していると判断した。
ここまで各除タンパク液の特徴や,それぞれの除タンパク性能を評価するために適するタンパク測定法を考察してきた。7種類もの除タンパク液を同時に比較し,生化学項目への影響を定量的に示した報告は希少と思われる。今後,どれほど優れた分析法が開発されても,被験試料に存在する妨害物質や阻害物質による影響は常につきまとうであろう。Serumで特に高濃度が含まれるタンパク質はその最たるものとして,これを効率よく取り除く前処理法は常に望まれる。本研究の成果が,被験試料の前処理に対して有益な情報提供となり,将来の臨床検査技術の発展に貢献することを強く願うものである。
Serumと等量の除タンパク液を添加する場合,最も除タンパク性能が高い溶媒はTCAと判断した。有機溶媒も充分な除タンパク性能を発揮するが,酸性液に比べ他の生化学項目に与える影響が大きい。分析の前処理として除タンパク操作を実施する場合,やはり添加する溶媒が目的物質に与える影響を充分に考慮するべきである。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
生化学項目の分析をお引き受け頂きました株式会社LSIメディエンスに心より感謝申し上げます。本研究は,厚生労働科学研究費補助金「食品の安全確保推進研究事業」21KA3007の助成を受け実施しました。