医学検査
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ISO 15189の要求事項に適応した機材管理システムの構築と評価
三宅 雅之飯尾 耕治池田 亮東影 明人大塚 文男
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2024 年 73 巻 2 号 p. 316-322

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Abstract

当院の検査部門は2007年7月にISO 15189の認定を取得した。これまでISO 15189の認定を維持管理してきたなかで,内部監査での機材管理に関連する不適合数が減少しないことが問題となった。そこで,機材管理を簡便かつ適切に行える機材管理システムの開発を行った。当院の医療用端末にインストールされているMicrosoft Accessを用いてリレーショナルデータベース(RDB)を独自に構築し,それに付属するVisual Basic for Applications(VBA)を用いてアプリケーション開発を行った。RDB構築にあたってISO 15189の要求事項を過不足なく管理できることを意識し,なおかつ変更履歴を容易に確認できるようにするため一部のテーブルでは世代管理の仕組みを取り入れた。構築した機材管理システムは2019年6月から運用開始し,これまで複数回のバージョンアップを繰り返しながら稼動している。内部監査での機材管理に関連する不適合数では,機材管理システムを導入する以前の2013年度では13件あった不適合数が導入後の2022年度では7件まで減少した。機材管理システムを導入したことにより適切に機材管理できるようになったと考えられる。また,独自に開発したシステムであるためバグ修正や機能追加が容易であり,要求事項を満たし,かつ今の検査室にとって適切なシステムを維持しやすいと考えられた。

Translated Abstract

In July 2007, our hospital’s laboratory department achieved ISO 15189 accreditation. While maintaining and managing the ISO 15189 accreditation, it became a problem that the number of indications related to equipment management in internal audits did not decrease. Therefore, we developed an equipment management system to manage equipment easily and appropriately. We constructed our own relational database (RDB) using Microsoft Access installed in our hospital’s medical terminal and developed an application using Visual Basic for Applications (VBA) attached to it. When constructing the RDB, we were aware that the requirements of ISO 15189 could be managed just enough, and in order to make it possible to easily check the change history, we adopted a generation management mechanism for some tables. The constructed equipment management system was put into operation in June 2019, and so far it has worked with repeated version upgrades. Regarding the number of nonconformities related to equipment management in internal audits, the number of nonconformities decreased from 13 in 2013 before the implementation of the equipment management system to 7 in 2022 after the implementation. It is believed that the implementation of the equipment management system has made it possible to manage devices appropriately. It is also believed that the system is easy to maintain as it has been developed independently, so it is easy to fix bugs and add features, and it is easy to maintain a system that is appropriate for the current laboratory.

I  序論

ISO 15189「臨床検査室―品質と能力に関する要求事項」は,ISO/IEC 17025「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」及びISO 9001「品質マネジメントシステム―要求事項」に基づき臨床検査室の品質と能力に関する特定の要求事項を規定している。そして,その序文には「臨床検査室のサービスは,患者診療において不可欠であり,全ての患者とその診療に責任をもつ臨床医のニーズを満たすために利用できなければならない。」と明記されている1)。ISO 15189は2005年から日本適合性認定協会により認定が開始されており,2023年6月14日現在で284施設が認定取得している2)。2013年に厚生労働省医薬食品局審査管理課より発出された「治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方について」のなかで「国際共同治験や医師主導治験をはじめとした治験又は臨床研究を積極的に実施している医療機関では,当該医療機関の検査精度を確保するため,ISO 15189等の外部評価による認定を取得する。」と明記された3)のをはじめとして,現在では臨床研究中核病院やがんゲノム医療中核拠点病院においてISO 15189の認定取得が要件化されてきたことにより大学病院等での認定取得が進んできた。さらに厚生労働省の2016年の診療報酬改定において「国際標準検査管理加算」が新設され,ISO 15189の認定を取得する施設が急増している。

ISO 15189:2012(第3版)の要求事項は第4章の「管理上の要求事項」と第5章の「技術的要求事項」に大別される。中でも第5章の「技術的要求事項」は臨床検査室が請け負う臨床検査の種類に応じた技術能力に関する要求事項であり,要員・施設・環境・機材・試薬・消耗品・検査プロセス・情報マネジメントなどに関する要求事項が含まれている。5.3には検査室の機材,試薬,及び消耗品についての要求事項が規定されており,その中に機材の記録に関する要求事項が記載されている1)Table 1)。

Table 1 Requirements of equipment, reagents, and consumables in ISO 15189: 2012

5.3 Laboratory equipment, reagents, and consumables 5.3.1 Equipment  5.3.1.1 General
5.3.1.2 Equipment acceptance testing
5.3.1.3 Equipment instructions for use
5.3.1.4 Equipment calibration and metrological traceability
5.3.1.5 Equipment maintenance and repair
5.3.1.6 Equipment adverse incident reporting
5.3.1.7 Equipment records
5.3.2 Reagents and consumables 5.3.2.1 General
5.3.2.2 Reagents and consumables - Reception and storage
5.3.2.3 Reagents and consumables - Acception testing
5.3.2.4 Reagents and consumables - Inventory management
5.3.2.5 Reagents and consumables - Instructions for use
5.3.2.6 Reagents and consumables - Adverse incident reporting
5.3.2.7 Reagents and consumables - Records

当院検査部門は2007年7月にISO 15189の認定を取得してから15年以上が経過した。認定取得から定期的に行ってきた内部監査では,導入当初の2007年度の不適合数は169件であった。その後,2012年度には不適合数が41件となるまで年々減少した。しかし,その後不適合数の減少は頭打ち状態となり,さらに2013年度のISO 15189:2012(第3版)への移行,2015年度の生理検査部門の追加認定,および病理部の内部監査参加により不適合数は増加した。2016年度の要求事項別不適合数では,第5章技術的要求事項に関する不適合数34件のうち,最も不適合の多かった該当要求事項は5.3の機材に関する不適合であり第5章の約41%(14件/34件中)であった。初回認定取得以降の不適合数の変化でも,全体の不適合数が減少傾向にあるのに対して,5.3の機材に関連する不適合は横ばい状態にあり改善が認められておらず,何らかの対応をとる必要があった。

そこで,我々は機材管理を簡便かつ適切に行える機材管理システムを独自に開発し,5.3の機材に関する不適合数減少を試みたので報告する。

II  方法

1. ソフトウェア

機材管理システムの開発には当院の医療用端末にあらかじめインストールされているMicrosoft Access 2016(以下,Access)を使用してリレーショナルデータベース(relational database; RDB)を構築した。また,ユーザーインターフェース(user interface; UI)のアプリケーション開発にはAccessのフォーム機能とAccessに付属するVisual Basic for Applications(VBA)を用いた。

RDBの構造を記述したAccessファイルはUIのプログラムを記述したAccessファイルとは別に準備し,UI側からRDB側に外部リンクを張ることでファイルを繋げた。両方のAccessファイルは院内のファイル共有システムにアップロードし,院内LANに接続された端末からなら自由にアクセスできる設計とした(Figure 1)。

Figure 1  Security of the equipment management database

Any terminal connected to the hospital network can access the equipment management system stored in a shared folder from anywhere, but not from the external network.

2. 基本構想

当院検査部門でこれまで使用されていた機材管理リストに盛り込まれている内容を基本とし,そこにリスト更新を簡単にする仕組みや更新忘れを防ぐ仕組みを追加することとした。

また,複数の要員が使用することを想定し,機材管理システムに不慣れであっても一目見るだけである程度理解可能なUIの構築を目指した(Figure 2)。

Figure 2  User-friendly look and feel

The user interface has been designed to be easy to use, even for inexperienced staff, as it is expected to be used by a wide range of staff.

3. 機能

使いやすさを求めて複数の機能を付与したが,その中でも特に目立った機能を下記に示す。

1) ログイン管理

機材管理システムは院内LANに接続された端末からならどこからでもアクセス可能であるために,検査部門と関係のない職員が登録内容を編集できないようにログイン管理を行った。ログインIDは一意な8桁の整数とし,マスタ画面上で設定できるようにした。

2) 機材番号の自動付与

当院検査部門の機材管理規定書で定められた機材番号のルールに従い,必ず一意な機材番号が付与されるようにした。これにより新規機材の登録時にこれまで使用されている機材番号を誤って登録することもなくなり,適切な機材番号を考える手間を省略できるようになった。

3) 世代管理

変更履歴が重要なデータには世代管理機能を付与した。世代管理では一意な登録番号を使用しながら枝番となる世代番号を与えることで異なった登録情報を複数保有できるようになる。また,それぞれの世代には使用開始日を設定しており,登録番号と日付の情報だけで該当する世代のデータを抜き出せるようになっている。ユーザーサイドからすると変更した履歴が登録画面から確認しやすくなっている(Figure 3)。

Figure 3  Master generation management

The combination of serial numbers and generation numbers enables the management of information change history. The generation number has a start date of use, allowing the appropriate information to be extracted at any time.

4) 点検・検証の記録・履歴管理・リスト出力

製造販売元による点検の記録やピペット・温度計・タイマー・遠心機の検証を機材管理システム上で記録できるようにした。記録した点検・検証は機材ごとにリストとして履歴管理され,一目で点検・検証忘れがわかるようにした。また,任意に指定した期間に点検・検証を行った機材の一覧や点検・検証の実施予定日がある機材の一覧を簡単にリスト出力する機能を作成した。

5) マスタ管理

複数の機材で同一の内容を入力する可能性がある情報は基本的にマスタ管理とした。具体的には,検査室・管理者・製造販売元・卸業者・頭文字(機材番号に必要)・品名・受領状態をマスタ管理で行っている。例えば,検査室の室長が変更になった場合,機材の管理責任者をすべて変更する必要が出てくるが,機材管理システム上では機材が設置されている検査室の室長が機材管理責任者であるように紐付けしているため,ユーザーは検査室マスタの変更だけで作業を終えることができる。

6) 機材管理リスト出力

提出書類等として機材一覧が必要となる場合があるため,任意の機材一覧がMicrosoft Excelで閲覧・保存可能な機能を設けた。ユーザーは検査室,機材番号や品名などを自由に条件設定でき,その条件に適合した機材のみの一覧を簡単に作成できるようになった。

7) 機材管理ラベル出力

機材を識別するための機材管理ラベルを機材管理システムから出力できるようにした。機材の情報を変更した際にはラベル出力を促すポップアップ画面を表示しラベルの更新忘れを防ぐ仕組みを作った。また,一度に複数の機材管理ラベルを出力できるような画面を作成し,少しでも手間を省くような仕組みを作った。

4. 運用

2018年から機材管理システムの構築に取りかかり,およそ半年で一通りのRDBとUIの作成を終えた。最初の数カ月間は筆者が当時所属していた生化学検査室のみでの試験運用を行い,作成時に気づかなかったバグや使い勝手の修正を行った。その後,機材管理ワーキンググループで検討し,業務改善統括会議の承認を得て,2019年6月から検査部門全体での実運用を開始した。

運用開始当初は機材管理システムに新規で登録しなければならない項目が多く,また筆者以外は機材管理システムに不慣れであったため,最初の情報登録だけは筆者が行った。その後に機材管理システムの操作方法説明会を開催し,操作方法がわからないなどの不明点があれば筆者に相談する運用とした。

機材管理システム内の情報更新頻度は随時とし,変更事項が生じた時点で速やかに情報更新を行うこととした。また,点検・検証の記録は毎月開催される業務改善統括会議で報告され,点検・検証の未実施を防ぐ取り組みを行うこととした。検査室ごとの機材リストは毎年出力を行い必要な要員によるレビューを行うこととした。

III  評価

2013年度から2022年度までに行われた内部監査における5.3の機材に関する不適合を年度別・重要度別・不適合内容別に集計した。重要度はその不適合が重大であるか軽微であるか内部監査員が指摘時に判断したものを用いた。

年度別の不適合数はFigure 4に示すとおりであった。2013年度では13件あった不適合数が2022年度では7件まで減少した。2013年度には23.1%だった重大な不適合の割合は,最高で2018年度の81.8%まで上昇したが,その後2022年度には14.3%まで減少した。

Figure 4  Number of nonconformities of equipment, reagents and consumables from 2013 to 2022

In 2013, there were 13 nonconformities, decreasing to seven in 2022. In addition, the proportion of major nonconformities increased to 81.8% in 2018 and decreased to 14.3% in 2022.

サーベイランス審査や更新審査などの外部審査では,機材管理に関する不適合数が機材管理システムを導入した2019年度以降で著明に減少した(Figure 5)。

Figure 5  Nonconformities of equipment in external audits

There has also been a reduction in the number of nonconformities identified by external audits since the introduction of the equipment management system.

機材管理システム導入前後の不適合内容を比較したところ,機材管理システム導入前では点検・検証忘れの不適合が26.4%(19件),識別不良の不適合が25.0%(18件)だったのに対して,機材管理システム導入後では点検・検証忘れの不適合は3.3%(1件),識別不良の不適合は16.7%(5件)まで減少した。しかしながら,機材リスト未更新の不適合はシステム導入前で13.9%(10件)だったのに対して,システム導入後では36.7%(11件)とやや増加し,機材未管理と機材配置図の不適合はシステム導入前でそれぞれ6.9%(5件),5.6%(4件)だったのに対して,システム導入後でもそれぞれ13.3%(4件),10.0%(3件)とほぼ横ばいであった(Figure 6)。

Figure 6  Change in nonconformities before and after the introduction of the equipment management system

Comparing the change in nonconformities before and after the introduction of equipment management systems, overlooking maintenance, validation, and labeling have improved, but other nonconformities have not changed much.

IV  考察

機材管理システムを導入した2019年度では5.3の機材に関する不適合数が一時的に激減した。これは内部監査員が機材管理システムに不慣れであるために起きた現象であると考えられる。翌2020年度には5.3の機材に関する不適合数は2018年度までの件数と同等にまで増加し,その後2022年度まで緩やかな減少傾向が見受けられた。更新審査などの外部審査で指摘された不適合数は著明に減少傾向となったため,内部監査でも機材管理システムを導入することで5.3の機材に関する不適合数が激減することを期待していたが,実際には内部監査員としても機材管理システムの利便性がよく機材管理システム導入後の方が機材リスト未更新の不適合が増加しているためか,不適合数の劇的な改善には至らなかった。また,細かな不適合内容を確認すると,機材未管理の不適合や機材配置図の不備のような今回導入した機材管理システムで補いきれない範囲の不適合が散見された。これに関しては詳細な不適合の解析を行い機材管理システムの改良につなげていくことができれば,5.3の機材に関する不適合数を減少により貢献することができると思われるため,今後の課題とする。

今回,不適合数の解析を行った中で最も古いデータは2013年度であったが,2013年度及び2014年度では軽微な不適合が多い傾向にあった。不適合内容を確認すると「機材ラベルが貼られていない」という不適合は2013年度では軽微な不適合とされていたが2020年度には重大な不適合とされており,重大であるか軽微であるかの判断にブレが生じていた。内部監査員が変わっていることも一つの要因として考えられるが,臨床検査部門全体の品質マネジメントのレベルが上昇したため,過去に軽微と判断されていた不適合が,現在では重大な不適合であると判断されている可能性があると考えた。

これらのことから,機材管理システムを導入することにより,5.3の機材に関する不適合数そのものを減らす効果がある程度認められたが,それ以上に重大な不適合を減らすことができたと考えられた。今回導入した機材管理システムでは機材リスト未更新をお知らせする機能や機材配置図に関する機能を搭載していなかったため,機材リスト未更新や機材配置図に関する不適合が現在でも散見される結果となった。

今回導入した機材管理システムは独自に開発したものであり,バグの修正や新機能の追加などを柔軟に行える利点があるので,機材配置図に限らず機材管理システムに新たな機能を導入していくことで,さらに5.3の機材に関する不適合数を減少させることができる可能性を秘めているものと思われた。

V  結語

機材管理システムを導入することで5.3の機材に関する不適合数及び重大な不適合の数を減らすことができた。独自に開発したシステムであるため,改良を重ねることでより不適合数減少の効果が得られるものと考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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