医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
原著
相対的酸化ストレス度の亢進と動脈硬化性疾患との関連
鎌田 理緒本木 由香里金重 里沙野島 順三
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 73 巻 3 号 p. 417-422

詳細
Abstract

活性酸素種の産生増加や抗酸化力の減衰による酸化ストレスの亢進は,動脈硬化の進展に関連していることが知られている。本研究では,一般人ボランティア1,073名(男性463名,女性610名,年齢19~77歳,平均年齢44.96歳)を対象に,血中酸化ストレス値と抗酸化力値を同時に測定し,各被験者の収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(intima media thickness; IMT)との関連性を検討した。その結果,酸化ストレス値が健常人基準範囲より増加していた群では正常群と比較して内頸動脈(IMT)が有意に増加していた。一方,抗酸化力値が低下していた群では正常群と比較して収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(IMT)が有意に増加していた。さらに,酸化ストレス値と抗酸化力値のバランス比である相対的酸化ストレス度指数(酸化ストレス値 ÷ 抗酸化力値 × 補正係数8.85で計測)が亢進していた群では正常群と比較して収縮期血圧および内頸動脈(IMT)が有意に増加していた。これらの結果より,相対的酸化ストレス度指数の亢進は,収縮期血圧の上昇および内頸動脈の肥厚など動脈硬化性疾患の進行に関連している可能性が示唆され,血中酸化ストレス値と抗酸化力値の評価は心血管系のバイオマーカー検査として有用であると考える。

Translated Abstract

Oxidative stress caused by the increased production of reactive oxygen species and/or decreased efficacy of the antioxidant system is known to be associated with the progression of arteriosclerosis. The purpose of this study was to establish a new biomarker “the relative oxidative stress index” to evaluate the progression of atherosclerosis. We measured both oxidation and anti-oxidation activities simultaneously in sera from 1,073 general volunteers (610 females, 463 males; aged 19–77 years; mean 44.96 years), the former by d-ROMs (reactive oxygen metabolites-derived compounds) test and the latter by BAP (biological antioxidant potential) test using a AU480 automated analyzer. To obtain a parameter representing an overall shift toward the oxidative stress, the relative oxidation stress index was devised by the following formula: OSI = C × (d-ROMs/BMP), where C denotes a coefficient for standardization to set the mean of OSI in healthy individuals at 1.0 (C = 8.85 in this study). Additionally, we measured systolic blood pressure, diastolic blood pressure, and internal carotid artery intima-media thickness (IMT) in these 1,073 subjects. The present study confirmed that the group with elevated the relative oxidation stress index had higher systolic blood pressure and significantly increased internal carotid artery thickening compared to the normal group. These results suggest that evaluating the relative oxidative stress index is useful as a biomarker test for the cardiovascular system.

I  はじめに

酸化ストレスとは,活性酸素種の過剰発生あるいは抗酸化能力の低下により,生体が酸化に傾いた状態のことを指し,酸化ストレス度の亢進は細胞や組織を障害することにより,動脈硬化性疾患など多くの生活習慣病に関与していることが示唆されている1),2)。酸化ストレスの指標となる血液中活性酸素濃度の測定は予防医学の観点からも重要な課題であるが,活性酸素は半減期が短く高い反応性を持つため,生体内での状態を正確に把握することは極めて困難とされてきた。さらに,酸化ストレスは体内で発生する活性酸素種と抗酸化能力のバランスが崩れることにより生じるため,酸化ストレス度の的確な評価には,これまでの研究のように活性酸素種のみを測定するのではなく,活性酸素種と抗酸化能力の両者を同時に把握することが重要であると考えた。そこで,我々は,活性酸素により酸化反応を受けた脂質,タンパク質,核酸などの酸性変性物質の総称であるヒドロペルオキシドの血液中濃度を呈色反応で計測することにより,生体内の酸化ストレスを測定できるdiacron-reactive oxygen metabolites(d-ROMs)テストと,血液中に存在する抗酸化物質が測定試薬中の三価鉄イオンを二価鉄イオンに還元させる能力を呈色反応で計測することにより,生体内の総還元力(抗酸化能力)を評価できるbiological antioxidant potential(BAP)テストを自動分析装置に搭載し,血中酸化ストレス値と抗酸化力値を同時に測定できる検査システムを確立した3)~6)。本研究では,若年者から高齢者を含めた一般住人1,073人を対象に,血中酸化ストレス値と抗酸化力値を同時に測定し,各被験者の収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(intima media thickness; IMT)との関連性を検討した。

II  材料および方法

1. 対象

研究の趣旨,実施する検査項目,研究参加に伴うリスク,データの保管・利用方法などについて十分に説明した後,研究参加の同意が得られ,試験参加条件を満たした被験者一般人ボランティア1,073名(男性463名,女性610名,年齢19~77歳,平均年齢44.96歳)を対象とした。各被験者の収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(IMT)の測定を実施した後,採血を行い,血清サンプルにて①酸化ストレス値:diacron-reactive oxygen metabolites(d-ROMs)テスト,②抗酸化力値:biological antioxidant potential(BAP)テストの測定をAU480自動分析装置(Beckman Coulter社)にて実施した。

2. 酸化ストレス値・抗酸化力値の測定方法および相対的酸化ストレス度指数の計算方法

1) 酸化ストレス値(d-ROMsテスト:ウイスマー研究所/株式会社ウイスマー)

血清サンプル10 μLを酢酸緩衝液(pH 4.8)1 mLに添加し,血清タンパク質の鉄をイオン化することによりフェントン反応を起こさせ,血清サンプル中の活性酸素代謝物(主にヒドロペルオキシド)を全てアルコシキラジカルおよびペルオキシラジカルに置換する。生成したラジカルの濃度をクロモゲン(芳香族アルキルアミン)による呈色反応で定量することにより生体の酸化ストレス値を評価する。値はunit CARRという単位で表され,1 unitは0.08 mg/dL,2.4 × 10−7 mol/Lの過酸化水素水に相当する。

2) 抗酸化力値(BAPテスト:ウイスマー研究所/株式会社ウイスマー)

クロモゲンと塩化第二鉄を混和した測定試薬1 mLに血清サンプル10 μLを添加し,測定試薬中に存在するチオシアン酸塩と結合した三価鉄イオンを,サンプル中の抗酸化物質が二価鉄イオンに還元させる能力を計測することにより生体の生物学的抗酸化能を評価する。

3) 相対的酸化ストレス度指数(oxidative stress index; OSI)の計算法

d-ROMsテストによる酸化ストレス値とBAPテストによる抗酸化力値から,両者のバランス比である相対的酸化ストレス度を「OSI = d-ROMs ÷ BAP × 補正係数」で求めた。補正係数(8.85)は絶対的健常人の OSIの平均値が1.00になるように設定した。

3. 統計方法

統計解析には統計解析ソフト(StatFlex ver. 6)を用いて解析し,Mann-Whitney U testで示した。

III  結果

1. 酸化ストレス値・抗酸化力値・相対的酸化ストレス度指数の健常人基準範囲の設定

生活習慣問診調査による一次除外基準(喫煙習慣・大量の飲酒習慣・メタボリックシンドローム・妊娠中および分娩後1年以内・慢性疾患で服薬中・過多の残業習慣)をクリアーし,一般臨床検査値(血液検査・生化学検査・尿検査・感染症検査・腫瘍マーカー・心電図等)に異常を認めなかった絶対的健常人312名(女性164名,男性148名,平均年齢36.7 ± 8.8歳)を対象に酸化ストレス値と抗酸化力値の基準範囲を設定した。酸化ストレス値の基準範囲(mean ± 2SD)は286.9 ± 100.2 unit,抗酸化力値の基準範囲は2,541 ± 244 μmol/L,相対的酸化ストレス度指数(OSI)の基準範囲は1.00 ± 0.344と設定した。

2. 収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈(IMT)と酸化ストレス値の関連

酸化ストレス値が健常人基準範囲内であった正常群(n = 710)と基準範囲より高値であった増加群(n = 363)とで収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(IMT)の3項目を比較した結果,正常群と増加群間で収縮期血圧(116.4 ± 17.4 mmHg vs. 117.9 ± 18.8 mmHg)および拡張期血圧(74.2 ± 12.4 mmHg vs. 75.2 ± 13.4 mmHg)の統計学的有意差は認められなかったが,内頸動脈(IMT)は正常群の0.83 ± 0.2 mmと比較して酸化ストレス値増加群では1.01 ± 0.1 mmと有意(p < 0.0001)に増加していた(Figure 1)。

Figure 1  収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈(IMT)と酸化ストレス値の関連

一般人ボランティアを酸化ストレス値の正常群と増加群に分類し,収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈IMTを比較した結果を示す。収縮期血圧・拡張期血圧では統計学的有意差は認められなかったが,内頸動脈IMTでは有意な増加が認められた。(Mann-Whitney U test)

3. 収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈(IMT)と抗酸化力値の関連

抗酸化力値が健常人基準範囲内であった正常群(n = 920)と基準範囲より低値であった低下群(n = 153)とで収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(IMT)の3項目で比較した結果,正常群に比較して抗酸化力値低下群では,収縮期血圧(116.3 ± 17.7 mmHg vs. 120.9 ± 18.8 mmHg)および拡張期血圧(74.1 ± 12.7 mmHg vs. 77.2 ± 13.0 mmHg)が有意(p < 0.01)に高かった。さらに内頸動脈(IMT)も正常群の0.87 ± 0.2 mmと比較して抗酸化力値低下群では1.00 ± 0.1 mmとで明らかに(p < 0.0001)に増加していた(Figure 2)。

Figure 2  収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈(IMT)と抗酸化力値の関連

一般人ボランティアを抗酸化力値の正常群と低下群に分類し,収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈IMTを比較した結果を示す。収縮期血圧・拡張期血圧では有意な上昇,内頸動脈IMTでは有意な増加が認められた。(Mann-Whitney U test)

4. 収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈(IMT)と相対的酸化ストレス度の関連

相対的酸化ストレス度が健常人基準範囲内であった正常群(n = 643)と基準範囲より高かった亢進群(n = 430)とで収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(IMT)の3項目で比較した結果,正常群と亢進群間で拡張期血圧(73.6 ± 12.1 mmHg vs. 76.1 ± 13.6 mmHg)に統計学的有意差は認められなかったが,収縮期血圧は正常群の115.4 ± 16.7 mmHgと比較して亢進群では119.2 ± 19.3 mmHgと有意(p < 0.01)に高く,内頸動脈(IMT)も正常群の0.80 ± 0.2 mmと比較して相対的酸化ストレス度亢進群では1.02 ± 0.1 mmと有意(p < 0.0001)に増加していた(Figure 3)。

Figure 3  収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈(IMT)と相対的酸化ストレス度の関連

一般人ボランティアを相対的酸化ストレス度の正常群と亢進群に分類し,収縮期血圧・拡張期血圧・内頸動脈IMTを比較した結果を示す。拡張期血圧では統計学的有意差は認められなかったが,収縮期血圧では有意な上昇,内頸動脈IMTでは有意な増加が認められた。(Mann-Whitney U test)

相対的酸化ストレス度と心血管系項目との関連について,性差および年齢差を考慮した重回帰分析を行った結果,収縮期血圧および拡張期血圧の上昇には加齢の影響が最も大きく相対的酸化ストレス度は有意な影響は認められなかった。一方,内頸動脈(IMT)の肥厚に関しては,性差および年齢差を考慮した重回帰分析でも相対的酸化ストレス度の亢進は独立した危険因子(p < 0.0001)として確定された(Table 13)。

Table 1 性差および年齢差を考慮した重回帰分析(収縮期血圧)

変数名 β SE(β) std β t値 p
4.67302 0.01868
男性1_女性2 −0.0973 0.00788 −0.3233 12.3442 < 0.0001
年齢 0.00498 0.0003 0.4384 16.4218 < 0.0001
相対的酸化ストレス度 0.01596 0.01336 0.0327 1.19477 0.2324

自由度調整済決定係数0.31789

Table 2 性差および年齢差を考慮した重回帰分析(拡張期血圧)

変数名 β SE(β) std β t値 p
4.25818 0.02238
男性1_女性2 −0.114 0.00944 −0.3309 12.0783 < 0.0001
年齢 0.0046 0.00036 0.3543 12.6853 < 0.0001
相対的酸化ストレス度 0.02747 0.016 0.0492 1.71725 0.0862

自由度調整済決定係数0.25343

Table 3 性差および年齢差を考慮した重回帰分析(内頸動脈(IMT))

変数名 β SE(β) std β t値 p
0.4815 0.01843
男性1_女性2 −0.0557 0.00777 −0.1372 7.16822 < 0.0001
年齢 0.00866 0.0003 0.5652 28.9612 < 0.0001
相対的酸化ストレス度 0.27479 0.01317 0.4173 20.858 < 0.0001

自由度調整済決定係数0.63557

IV  考察

エネルギー代謝過程において発生する活性酸素は,喫煙や過度な運動,さらには継続するストレス,大気汚染,紫外線など種々の要因により増加する。活性酸素種は,細胞や組織を障害することにより,動脈硬化など種々の生活習慣病の発症に強く関連していることが知られている1),2)。健常な生体内では,発生した活性酸素の多くはスーパーオキシドジスムターゼ,カタラーゼ,グルタチオンペルオキシダーゼなどの内在性の抗酸化酵素やβカロテン,ビタミンC,E,カロテノイド類,アスタキサンチンなどの外因性の抗酸化物質などの抗酸化作用により無害化される7),8)。しかし,生体の抗酸化能力を超える過剰な活性酸素が発生する状態や,何らかの要因で抗酸化能力が減衰することにより,生体における酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ酸化に傾いた状態を酸化ストレスと呼ぶ。

酸化ストレスマーカー検査は予防医学の観点からも重要な課題であり,種々の測定法が試されてきた。例えば,脂質の主な酸化ストレスマーカーとしては,マロンジアルデヒド(MDA),4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4HNE),アクロレイン,イソプロスタン,F2イソプロスタンが測定されている。DNAの酸化障害マーカーとしては8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)が挙げられる。タンパク質の酸化ストレスマーカーとしては3-ニトロチロシンや3-クロロチロシンが有名である9)。しかし,酸化ストレスは体内で発生する活性酸素種と抗酸化能力のバランスが崩れることにより生じるため,酸化ストレス度の的確な評価には,活性酸素種のみを測定するのではなく,活性酸素種と抗酸化能力の両者を同時に把握することが重要であると考え,我々の研究室では血中酸化ストレス値と抗酸化力値を同時に測定できる検査システムを確立し,一次除外基準(喫煙習慣・大量の飲酒習慣・メタボリックシンドローム・妊娠中および分娩後1年以内・慢性疾患で服薬中・過多の残業習慣)および一般臨床検査値にて絶対的健常人312名(女性164名,男性148名,平均年齢36.7 ± 8.8歳)を対象に酸化ストレス値と抗酸化力値の基準範囲を設定した。

本研究では,一般人ボランティア1,073名(女性610名,男性463名,年齢19~77歳,平均年齢44.9歳)を対象に,血中酸化ストレス値と抗酸化力値を同時に測定し,各被験者の収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(IMT)との関連性を統計学的に解析し検討した。その結果,相対的酸化ストレス度指数の亢進は,収縮期血圧の上昇および内頸動脈の肥厚など動脈硬化性疾患の進行に関連している可能性が示唆され,血中酸化ストレス値と抗酸化力値の評価は心血管系のバイオマーカー検査として有用であると考えられた。我々の以前の研究において3),4),相対的酸化ストレス度は男性に比較して女性で高い傾向にあり,加齢により有意に上昇することを確認している。本研究においても,相対的酸化ストレス度指数が正常群に比較して亢進群では女性の割合が若干多く(50.2% vs. 66.7%),年齢も有意に高い(平均値 ± SD:42.12 ± 13.35歳 vs. 49.21 ± 11.56歳)ことが確認された。そこで,性差および年齢差を考慮した重回帰分析を行った結果,収縮期血圧の上昇に関しては加齢の影響が大きく,相対的酸化ストレス度の亢進のみで説明するには根拠が足りないと思われる。一方,内頸動脈(IMT)の肥厚に関しては,性差および年齢差を考慮した重回帰分析でも相対的酸化ストレス度の亢進は独立した危険因子(p < 0.0001)と判断された。

過去の研究では,高血圧における酸化ストレス亢進機序として,アンジオテンシンIIに加え,高血圧自体がNADH/NADPHオキシダーゼを活性化して活性酸素を産生していることが報告されており,活性酸素種は血管内皮機能障害の増悪因子であることが立証されている9)。慢性的な酸化ストレス状態は,血管内皮の機能傷害を引き起こし,動脈硬化を進行させ,心血管合併症のリスクを高めると推測される。既報による知見と本研究成果を結び付けて考えると,心血管疾患発症の前段階である血管内皮機能障害および動脈硬化を早期に発見し,予防対策や早期治療を行うことで心血管疾患の発症抑制に繋がることが期待され,生体の相対的な酸化ストレス状態を評価できる血中酸化ストレス値と抗酸化力値の測定は心血管系のバイオマーカー検査として有用であると考える。

本研究は山口大学大学院医学系研究科保健学専攻医学系研究倫理審査委員会の承認(管理番号:590)を得て実施した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2024 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top