医学検査
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73 巻, 3 号
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原著
  • 奈良谷 俊, 三浦 学, 松本 玲子, 波多 智子
    原稿種別: 原著
    2024 年73 巻3 号 p. 405-410
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    経胸壁心エコー図検査(TTE)において,心臓以外の病変(心外病変)に遭遇することがあるが,まとまった報告は少ない。検出し得た症例をまとめ,その特徴を解析することは,今後の診断力向上につながると思われる。過去5年間に,当院において臨床検査技師が担当したTTEを対象とし,心外病変を検出した症例を抽出し後方視的に解析を行った。TTEは2016年から2021年の5年間で延べ31,930例行われ,心外病変報告件数は16例(0.05%)であった。臓器別では,肝臓6例,胆嚢6例,膵臓1例,腹腔内リンパ節2例,乳腺1例であった。悪性疾患は10例であった。全16症例のうち14症例,および悪性疾患全症例はルーチン業務で腹部や体表領域の検査も行っている技師が担当していた。肝臓および胆嚢疾患は,下大静脈の評価を心窩部走査だけでなく肋間走査を用いたことにより,多くの症例を発見できたと思われる。多領域の知識と経験を有していることが,心外病変を拾い上げる確率を上昇させる要素になると思われた。TTEで心外病変を捉えたとしても病勢が進行したものが多いが,少数ではあるが治療に繋がることが確認できた。

  • 伊藤 仁, 河上 麻美代, 北村 有里恵, 吉田 勲, 藤原 卓士, 長島 真美, 貞升 健志
    原稿種別: 原著
    2024 年73 巻3 号 p. 411-416
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    目的:2020年1月から日本でも感染が拡大したSARS-CoV-2は次々と変異し,主流株が移り変わってきた。今回,変異株に対する抗原検査の有用性について明らかにするために,SARS-CoV-2の分離株を用いて,抗原定性検査キットと抗原定量検査の比較検討を行った。方法:Vero E6/TMPRSS2細胞で分離したデルタ株(AY.54),オミクロン株(BA.2, BA.4, BA.5.2)の培養上清を試料とした。試料をPBS(−)を用いて希釈系列を作製し,各抗原定性検査キット及び抗原定量検査試薬の添付文書に従い実施した。結果:4種類の変異株を用いた検討の結果,抗原定性検査キットよりも抗原定量検査の方が検出感度がよい傾向にあったが,一部の抗原定性検査キットで抗原定量検査と同程度の検出感度が認められた。抗原定性検査キットの製品間の比較では,105~106 copies/40 μL程度で製品間に検出感度の差が認められた。変異株の違いによる検出感度に顕著な違いはなかった。結論:抗原定性検査キットの製品間で検出感度に差を認めたが,ウイルス量の多い時期にはいずれの検査キットでも検出可能であった。また,変異株の違いによる検出感度の差は少なく,オミクロン株でも抗原検査法が有効であることが示された。

  • 鎌田 理緒, 本木 由香里, 金重 里沙, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2024 年73 巻3 号 p. 417-422
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    活性酸素種の産生増加や抗酸化力の減衰による酸化ストレスの亢進は,動脈硬化の進展に関連していることが知られている。本研究では,一般人ボランティア1,073名(男性463名,女性610名,年齢19~77歳,平均年齢44.96歳)を対象に,血中酸化ストレス値と抗酸化力値を同時に測定し,各被験者の収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(intima media thickness; IMT)との関連性を検討した。その結果,酸化ストレス値が健常人基準範囲より増加していた群では正常群と比較して内頸動脈(IMT)が有意に増加していた。一方,抗酸化力値が低下していた群では正常群と比較して収縮期血圧,拡張期血圧,内頸動脈(IMT)が有意に増加していた。さらに,酸化ストレス値と抗酸化力値のバランス比である相対的酸化ストレス度指数(酸化ストレス値 ÷ 抗酸化力値 × 補正係数8.85で計測)が亢進していた群では正常群と比較して収縮期血圧および内頸動脈(IMT)が有意に増加していた。これらの結果より,相対的酸化ストレス度指数の亢進は,収縮期血圧の上昇および内頸動脈の肥厚など動脈硬化性疾患の進行に関連している可能性が示唆され,血中酸化ストレス値と抗酸化力値の評価は心血管系のバイオマーカー検査として有用であると考える。

  • 岩上 恵梨, 石塚 敏, 細羽 恵美子, 笹野 まゆ, 小林 悠梨, 三浦 ひとみ, 海上 耕平, 石田 英樹
    原稿種別: 原著
    2024 年73 巻3 号 p. 423-431
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    臓器移植では,レシピエントがドナーから持ち込まれたウイルスによって移植後に重大な感染症による合併症を引き起こすことが知られている。そのため,移植禁忌とされているヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type 1; HTLV-1)などの感染症は,移植前検査を行い感染の有無を確認することが重要である。ただし,生体腎移植では,移植前からHTLV-1に感染していたレシピエントにHTLV-1感染ドナーからの臓器提供は禁忌とされてはいない。そのため,HTLV-1の定量は感染リスクを評価する上で必要であると筆者らは考えている。本研究では,HTLV-1のラインブロット法(line blotting assay; LIA)法において判定保留となった場合を想定し,レシピエントおよびドナーの迅速診断に対応するため最終の確定診断となる遺伝子増幅法(real-time polymerase chain reaction; real-time PCR)を用いてHTLV-1遺伝子定量法(quantitative PCR)の確立を目指し検討を行った。Quantitative PCRに必要なstandard curveは,HTLV-1の配列より作成した合成オリゴヌクレオチドDNA fragmentsを使用しthreshold cycle(Ct)値からHTLV-1 DNA量(copies/μL)を算出するようにした。本研究において確立したquantitative PCRは,人工的に作成したDNA fragmentsを使用しているため,安定したHTLV-1の定量化が可能になると筆者らは考えている。

  • 服部 亮輔, 安藤 秀実, 浄土 雅子, 志方 えりさ, 谷 樹昌, 中山 智祥
    原稿種別: 原著
    2024 年73 巻3 号 p. 432-439
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    当院健診センターでは従来,来院時に随時尿を採尿していたが,2019年度から早朝尿を持参する運用に変更した。材料変更による尿定性検査,尿沈渣検査の陽性率,尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス)の測定結果と尿沈渣目視鏡検率の変化を解析した。随時尿から早朝尿へ変更したことで,尿定性検査では,尿比重は随時尿の方が濃縮傾向を示した。また,陽性率は,男性検体において尿蛋白が8.4%,尿潜血が4.1%,尿白血球が1.3%有意に低下した。女性検体において尿蛋白が5.3%,尿潜血が10.4%,尿白血球が20.1%有意に低下した。尿沈渣検査は,女性検体では赤血球は5.8%,白血球が12.9%,扁平上皮細胞が20.6%,尿細管上皮細胞が2.3%,細菌が18.1%低下した。陽性率変化の要因として,尿定性検査の尿蛋白と尿比重は飲水制限による濃縮尿の影響,また,尿蛋白は生理的蛋白尿も影響していると考えられた。尿沈渣検査は特に女性検体において,随時尿採尿時の飲水制限による尿量低下のため中間尿を正しく採尿できず,尿沈渣成分の陽性率が高値を示したと考えられた。尿沈渣目視鏡検ロジックの尿定性測定値(尿蛋白)およびUF-1000i測定値(CAST, Path.CAST)の該当率低下により,尿沈渣目視鏡検率は随時尿38.6%から早朝尿26.8%へ11.8%低下した。尿検査材料は早朝尿が適していると考えられる。

  • 石田 真理子, 石田 秀和, 岡 有希, 上野 嘉彦, 白上 洋平, 渡邉 祟量, 大倉 宏之, 菊地 良介
    原稿種別: 原著
    2024 年73 巻3 号 p. 440-446
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    尿沈渣検査は侵襲性が低く,特別な装置を必要としないため,汎用性が高い臨床検査である。中でも,尿沈渣成分の一つである硝子円柱は腎機能を反映することが知られている。今回我々は尿中硝子円柱数が腎機能悪化の予測因子となる可能性について検証した。2015年に尿沈渣検査を行った尿蛋白定性陰性の症例250例を対象とした。尿中硝子円柱数を < 10,10–29,30–99,≥ 100/全視野(WF)の4群に分け,CKD重症度,GFR区分,尿蛋白区分の進行をエンドポイントとして最大8年間観察した。尿中硝子円柱数群別にCKD重症度,GFR区分,尿蛋白区分の進行患者数を比較したところ,有意な傾向性は認められなかった。硝子円柱数10/WF,30/WF,100/WFをカットオフ値としてCKD重症度,GFR区分,尿蛋白区分進行のハザード比を算出したところ,CKD重症度,GFR区分の進行で有意なハザード比が観察された。尿中硝子円柱数10/WFをカットオフ値として腎機能悪化の累積発生率を比較したところ,≥ 10/WFの症例群で比較的早期に腎機能悪化を認めた。尿中硝子円柱数が ≥ 10/WFの症例では将来的に腎機能悪化する可能性が高いことが示唆された。本結果から尿中硝子円柱数は尿蛋白陰性症例において腎機能悪化の予測因子となることが推察された。

技術論文
  • 谷口 圭子, 村野 由美子, 吉藤 彰子, 中野 拓実, 桑原 隆
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 447-452
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    【目的】ブロム(Br)を含む血清において,Brの影響を取り除いたCl濃度を推測する方法を考えた。【方法】生化学自動分析装置(BAA: TBA C16000)でClが測定不可であったBr中毒患者保存血清を182 mmol/LのCl濃度含有液で倍々希釈後,各サンプルのCl濃度をBAA尿用装置(Uモード)で測定し,希釈後測定値から求めた希釈前初期値:初期Cs=希釈倍数(n)×(溶液濃度(Cs)-希釈液濃度(Cd))+Cd(式1)と希釈ごとに求めた希釈直前値:直前Cs = 2 × (Cs − Cd) + Cd(式2)を比較した。【結果】精製水希釈後のCl濃度は予想値と同じであったが,Cl含有液希釈後のCl濃度は予想値よりも高くなった。式1-式2と希釈倍数の関係は,y = 3.82x − 31.13となり希釈前血清Cl濃度(130 mmol/L)にはBrによる影響の27.3 mmol/Lが加味されており,Brの影響を取り除いた推測Cl値は102.7 mmol/Lであった。【考察】BAA.UモードCl電極はサンプル電位測定後校正液で1回洗浄され2回目電位を校正液電位としサンプル電位との差をCl濃度に換算する。BAA Sモードはサンプル電位測定後洗浄なしに校正液電位を測定するので,電極がBrに汚染されサンプルとの電位差が減少する。Br中毒の時ClはBAA Uモードで測定し,さらに182 mmol/LのCl含有液で希釈測定して,推測Cl値を求める必要がある。【結論】Br中毒の本来のCl濃度を求めるには,Cl含有液で検体を倍々希釈し各希釈検体のClをBAA Uモードで測定すればよいと思われた。

  • 日比 由佳, 植村 円香, 浅野 栄太, 大橋 葉津希, 佐藤 弦士朗, 菊地 良介, 中村 信彦, 清水 雅仁
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 453-459
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法は,再発又は難治性のCD19+びまん性大細胞型B細胞リンパ腫,急性リンパ芽球性白血病および濾胞性リンパ腫に対する新しい免疫細胞療法である。当院ではCAR-T療法を開始するために,輸血部を中心とした細胞採取・調製・凍結・保管・発送・製品受領を行う一元管理体制を構築し,2022年1月に1症例目の細胞採取を実施した。2022年1月~2023年4月の15ヶ月間で10症例(計13回)のリンパ球採取~製品の受領を行った。我々は採取効率を算出するために,これまでの症例経験を後方視的に解析した。その結果,末梢血CD3+リンパ球数と末梢血リンパ球数は,採取産物の総CD3+リンパ球数と有意な相関を認めた。また,総CD3+リンパ球数と総有核細胞数も有意な相関を認めた。一方で,ヘモグロビン値,末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数,血小板数,年齢と採取効率には有意な相関を認めなかった。今回の検証を通して,当院輸血部臨床検査技師は5名であり,そのうちCAR-T療法サポート技師は2名と人員はコンパクトではあるが,効率的かつ安全に作業を行うことができていることが明らかとなった。また,一元管理体制は医師が紹介元施設との診療連携体制の構築と治療に専念できる効率的な体制であることも明らかとなった。今後もデータを集積し,より安全かつ効率的な運用を目指していきたい。

  • 樋渡 まこ, 梅橋 功征, 山口 俊, 吉野 歩, 高瀬 泉, 西方 菜穂子
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 460-466
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症の診断目的として,抗原定量検査はリアルタイムPCR検査(PCR検査)と比較し感度が劣るとされている。今回,抗原定量検査の感度をPCR検査と比較することに加え,判定保留域の設定を評価した。対象は2022年1月から2023年3月の期間において鼻咽頭拭い液でPCR検査が施行された陽性165検体,陰性30検体を用いた。PCR検査と比較した抗原定量検査の感度は79.4%,特異度は100%,陽性的中率は100%,陰性的中率は46.9%であった。PCR検査のCt値と抗原定量検査のcut off index(COI)値には有意な相関を認めた(r = 0.956; p < 0.01)。PCR検査のCt値間隔別に比較した抗原定量検査の感度はCt値30未満で100%,30以上34未満で69.2–94.7%,34以上40未満で0–27.3%であった。判定保留域を0.9–1.0 COI,0.8–1.0 COI,0.7–1.0 COIで設定した際,抗原定量検査の感度は判定保留域なしと比べてCt値32以上38未満で判定保留域の範囲が広がるほど感度の改善は大きく,18.0–50.0% 増加した。したがって,抗原定量検査はPCR検査と比較して感度は大きく劣らず,また感度が劣る低ウイルス量の場合にも判定保留域の設定によって感度を補うことが可能であり,SARS-CoV-2感染症の検査法として有用である。

  • 田中 彩日, 川口 隼佳, 中西 加代子, 石田 敦巳, 西山 有紀子, 長尾 美紀
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 467-476
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    今回我々は,積水メディカル株式会社より新たに開発された血液凝固自動分析装置S400CFの基礎的性能評価を行った。2濃度のコントロール試料を用いて評価した併行精度,室内再現精度は良好な結果が得られた。同様の試料を用いて評価したオンボード安定性は,既存装置であるコアプレスタ®2000(以下,CP2000,積水メディカル株式会社)と比較して格段に向上していることが確認できた。また,干渉チェックAプラス,干渉チェックRFプラス(シスメックス株式会社)を用いた共存物質の影響評価では,ヘモグロビン,乳び,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,リウマトイド因子のすべてにおいて各測定試薬の添付文書に記載の許容限界濃度まで正確性の範囲内であった。既存装置CP2000との相関性については,全項目において,相関係数が0.9以上,傾きが0.9~1.1と良好な結果が得られた。各測定項目の高値試料を生理食塩水で希釈した希釈系列試料を用いて評価した希釈直線性は,各測定試薬の添付文書に記載の測定範囲上限を十分に上回る結果が得られた。各測定試薬の低値試料を用いて評価した検出限界は,各測定試薬の添付文書に記載の測定範囲下限を十分に下回る結果が得られた。コントロール試料および患者血漿を用いて評価した処理速度は,既存装置CP2000と比較して大幅に向上したことが確認できた。以上より,S400CFは良好な基礎的性能を有し,日常検査においての有用性が示された。

  • 手嶋 翔一朗, 西浦 哲哉, 藤田 寿之, 定方 英作
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 477-485
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    【目的】頸動脈ステント留置術後再狭窄の推定にステント内血流速度比が有用か検討する。【対象と方法】対象は当院で頸動脈ステント留置術を行った49症例。再治療を要した群と術後経過良好であった群に分け,ステント内収縮期最高血流速度(peak systolic velocity;以下,PSV),ステント内PSVと総頸動脈との血流比(以下,ステント内血流速度比)に主軸を置き,その他指標についても後方視的に比較検討した。【結果と考察】再治療群では再狭窄時のステント内PSV = 219 ± 121 cm/s,ステント内血流速度比 = 3.6 ± 1.9,ED比 = 1.15 ± 0.17,ステント拡張率 = 42 ± 11%,ステント内plaque進展厚 = 1.8 ± 0.9 mmであった。経過良好群ではステント内PSV = 102 ± 52 cm/s,ステント内血流速度比 = 1.36 ± 0.6,ED比 = 1.16 ± 0.59,ステント拡張率 = 39 ± 12%,ステント内plaque進展 = 0.29 ± 0.59 mmであった。PSV,ステント内血流速度比,ステント内plaque進展厚に統計学的有意差(p < 0.05)を認め,ROC曲線を用いてカットオフ値を算出した結果,PSV > 160 cm/sで感度,特異度ともに87%,ステント内血流速度比 = 1.96で感度87%,特異度100%,plaque進展厚 = 1.2 mmで感度87%,特異度90%を得た。【結論】ステント内血流速度比は術後再狭窄の推定に有用である。

  • 鍵谷 彩恵, 金重 里沙, 本木 由香里, 野島 順三
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 486-492
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,血液中に抗カルジオリピン抗体(aCL),抗β2グリコプロテインI抗体(aβ2GPI)などの抗リン脂質抗体(aPLs)が出現することにより血栓症や習慣流産などを呈する自己免疫疾患であるが,近年,診断基準であるaCLやaβ2GPIが陰性にも関わらず,APS特有の臨床症状を発症する非基準APSが問題視されている。本研究では,APS検査診断の向上を目的に2種類のELISA:抗ホスファチジルイノシトール抗体(aPI),抗ホスファチジルエタノールアミン抗体(aPE)を確立し臨床的有用性を検討した。原発性APS 20症例,APS合併SLE 30症例,APS非合併SLE 10症例,APS以外の膠原病40症例,健常人73症例を対象に,各症例群と健常人群におけるaPI-ELISA及びaPE-ELISA抗体価を比較した。その結果,aPI-ELISAの抗体価はSLE群,Others群,健常人群に比較してPAPS群およびSLE/APS群で有意に高く,さらに非基準APS 13症例中4例(30.7%)でaPI-ELISAが陽性を示した。一方,aPE-ELISAは各症例群および健常人群で抗体価に差を認めなかった。ホスファチジルイノシトールを固相化したaPI-ELISAはAPSの血栓性合併症に特異的な新たな抗リン脂質抗体である可能性を見出した。

  • 市成 隼人, 石垣 卓也, 川述 由希子, 山中 基子, 酒本 美由紀, 堀田 多恵子
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 493-499
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    プロラクチン(prolactin; PRL)の存在様式の一つとして,主に自己抗体であるIgGとPRLが結合したマクロPRLといったものがある。マクロPRL自体は生理活性を有していないが,血中に存在すると,PRLの免疫学的測定において,マクロPRLを測りこむことで,PRL濃度が偽高値を呈し,治療が必要な高PRL血症と誤診され,不要な検査や治療につながる危険性を含んでいる。今回,マクロPRLとの反応性を軽減させる目的で開発された「AIA-パックCL プロラクチンII(東ソー株式会社)」の性能評価を行った。併行精度,室内再現精度,希釈直線性,干渉物質の影響に関して,いずれも良好な結果が確認された。現行のPRL試薬である「AIA-パックCL プロラクチン(東ソー株式会社)」との相関性は,回帰式y = 1.01x + 0.12相関係数r = 0.992(n = 100)といった結果となった。本試薬での測定値が,現行試薬での測定値を基準として,測定値の差が20%以上低く乖離した2例をPEG処理試験,ゲル濾過分析で解析した結果,どちらもマクロPRLを有しており,本試薬は現行試薬に比べてマクロPRLを測りこまないことが確認された。マクロPRLを有している患者が高PRL血症と誤診され,不必要な治療や手術を受けたケースがいくつか報告されている。本試薬を臨床で使用することで,マクロPRLが血中に存在した場合でも高PRL血症と診断されることが少なくなり,不必要な検査や治療を避けることが可能になると考えられた。

  • 小笠原 愛美, 齋藤 泰智, 中河 知里, 髙屋 絵美梨, 高渕 優太朗, 菊地 菜央, 池町 香澄, 吉田 真寿美
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 500-508
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    Clostridioides difficileC. difficile)は抗菌薬関連下痢症/腸炎の主な原因菌である。C. difficile感染症(CDI)の診断には主に酵素免疫測定法(EIA法)やイムノクロマト法(IC法)が用いられるが,EIA法やIC法ではtoxinの検出感度に課題があった。今回我々は,クイックチェイサー®CD GDH/TOX(クイックチェイサー法)とスマートジーン®CDトキシンB(SG法)の有用性を比較検討した。対象は既知濃度のC. difficile DNA溶液とCDI疑い患者52症例とした。C. difficile DNA溶液は段階希釈し最小検出限界を確認した。最小検出限界は10 copies/μLであった。Toxigenic culture法(TC法)と比較すると①クイックチェイサー法のC. difficile特異抗原検出能は感度94.4%,特異度93.8%,一致率94.2%,toxin検出能は感度50.0%,特異度95.8%,一致率71.2%であった。②SG法のtoxinB遺伝子検出能は感度85.7%,特異度100.0%,一致率92.3%であった。SG法はクイックチェイサー法の抽出液の残りを用いて検査を実施できるため,両者を併用することで臨床側へ有益な情報を迅速に提供可能となり,CDI診療において非常に有用な検査法であった。

  • 鳥谷 穂, 木下 美沙, 山中 基子, 酒本 美由紀, 堀田 多恵子
    原稿種別: 技術論文
    2024 年73 巻3 号 p. 509-514
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
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    富士レビオ株式会社より,イムノクロマト法(immunochromatography;IC法)を測定原理とする抗HTLV-I/II抗体検出試薬が新たに開発されたため,性能評価を行った。相関性試験は,抗HTLV-I/II抗体陰性検体50例,抗HTLV-I抗体陽性検体59例,抗HTLV-II抗体陽性検体50例を,それぞれIC法,電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay;ECLIA法),化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescence enzyme immunoassay;CLEIA法),ゼラチン粒子凝集法(particle agglutination;PA法)で測定し判定一致率を求めた。陰性検体と抗HTLV-II抗体陽性検体の判定一致率は100%であった。抗HTLV-I抗体陽性検体においては,PA法において1件のみ陰性という判定となったが,それ以外の検体は全て陽性の判定となり,判定一致率は98.3%であった。検出感度の比較は,抗HTLV-I抗体陽性検体1件と,抗HTLV-II抗体陽性検体1件を,陰性検体を用いてそれぞれ2n希釈し,IC法とPA法で測定し評価した。結果は,どちらの検体においても,PA法と比較してIC法の方がより高い希釈倍率まで陽性と判定することができた。検討の結果,本試薬は相関性試験,検出感度の比較において,PA法よりも優れた性能を示した。特に,検出感度の比較では,自動分析機と比較してもほぼ同等の性能結果が得られたため,PA法に代わり本試薬を使用することは,より迅速で精度の高い検査の提供を可能にすると考える。

資料
  • 稲垣 早希, 天野 友紀, 前田 奈津江, 豊﨑 光代, 西尾 美帆, 西村 はるか, 宇城 研悟
    原稿種別: 資料
    2024 年73 巻3 号 p. 515-523
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    【目的】当院では深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)による肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism; PTE)を防ぐために,全身麻酔下で施行した手術翌日に下肢静脈超音波検査を施行している。今回この取り組みについて有用性を検討した。【対象】2014年1月1日から2022年12月31日に全身麻酔下で施行した手術全症例の術後下肢静脈超音波検査5,232例を対象とした。【検討項目】対象症例の平均年齢と診療科別検査件数,DVT陽性数と陰性数,血栓の検出部位,中枢型血栓の性状,PTE発症数,経過観察の下肢静脈超音波検査での改善の有無,手術からリハビリテーション開始までの期間の7項目を後ろ向きに調査した。【結果】DVT陽性は1,379例(26%)であり,そのうち中枢型は127例(9%),末梢型DVTは1,252例(91%)であった。中枢型DVTのうち,PTEの診断のために造影CTが施行された中枢型DVT 56例(内,浮遊型血栓は34例)中,44例(内,浮遊型血栓は22例)はPTEを認めなかった。【考察】中枢型DVTを認めないことを確認することによって安全に離床することに繋がり,認めた場合でも早期に発見し対処することができたことでPTEを未然に防ぐことができたと考える。【結論】当院の取り組みが安全な早期離床を可能にし,PTEの予防の一助となっていると考える。

  • 松村 隆弘, 長崎 友祐, 見好 絵里
    原稿種別: 資料
    2024 年73 巻3 号 p. 524-529
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    国内では衛生環境の改善や徹底した自治体のマススクリーニング検査により寄生虫感染症が減少し,これに伴い臨床や教育の現場においては,寄生虫に遭遇する機会が減少している。しかし,寄生虫感染症が国内から消失する可能性は考えられず,寄生虫検査の知識と技術の維持は重要である。本研究では,卒前・卒後教育に向けに「寄生虫かるた」という教材を作成し,アンケート形式により社会人の臨床検査技師および学生に対してニーズ調査を実施し,評価した。対象は社会人29名と学生137名で,そこから得られた回答を用いた。社会人の65.5%が内部精度管理のフォトサーベイ向けに有用と評価し,55.2%が特定の臨床検査技師向けにニーズがあると回答した。一方,学生の多くは「寄生虫かるた」を医動物学の試験対策に有用であると評価した。本研究から,社会人においては内部精度管理の向上に寄与し,学生においては医動物学の知識の補完と苦手意識の軽減に貢献する教育ツールであることが示唆された。また,今後も教育ニーズの変化に対応するために,寄生虫教育ツールの開発と改善に取り組むことが不可欠と考える。

  • 松村 隆弘, 平田 基裕, 金森 隆樹, 林 晃司, 川井 孝太, 長嶌 和子, 井上 佳, 星 雅人
    原稿種別: 資料
    2024 年73 巻3 号 p. 530-538
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    日本では1994年まで,寄生虫病予防法に基づいて徹底した検査,治療,予防が行われ,特に蠕虫類感染症が劇的に減少した。同時に,寄生虫検査の需要が低下し,臨床検査技師の寄生虫検査に関する知識や技術が低下した。この結果,寄生虫検査を外部委託する施設の増加や経験不足による検査への不安を抱く臨床検査技師の数も増えている。この課題を明らかにするため,2020年,(社)日本臨床衛生検査技師会中部圏支部臨床一般部門で,中部圏6県の施設に対して寄生虫検査に関するアンケート調査を実施した。回答は163施設から寄せられ,そのうち寄生虫検査を実施している施設は125施設であった。検査センターへの委託理由では,検査依頼がほとんどない,試薬がない,内部精度管理ができないという理由が多く挙げられていた。特に糞便検査においては,正確な検査手順を実施できない可能性が見受けられた。また,臨床検査分野では精度管理や標準化が強く求められており,寄生虫検査においても適切な体制整備が必要である。さらに,寄生虫検査の研修に対する需要が高いことが明らかとなり,実技を含む研修会を定期的に開催し,技術向上をサポートする仕組みを構築することが非常に重要である。

  • 嶋田 かをる, 松本 珠美, 鈴木 真紀子, 青栁 ますみ, 坂本 秀生, 宮原 祥子, 深澤 恵治
    原稿種別: 資料
    2024 年73 巻3 号 p. 539-548
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    日本の高等教育機関における医療系専門職養成課程では,卒前教育で最も重要なカリキュラムの一つに臨地実習がある。障害のある学生の他,LGBTQ等の性的少数者や留学生等々,多様化する学生(以下,多様な学生)が臨地実習に臨むにあたっては,学生自身,養成施設,実習施設の三者それぞれに,立場と責任,そして課題がある。併せて,この三者間で多様な学生の実習について,検討・試行する機会ともなる。これらの状況の中,養成施設と実習施設間では,多様な学生の理解に加え,学生の支援ニーズ等に基づく情報共有や環境調整等に関して,緊密な連携が求められる。今回,連携に関する事例として,日本臨床衛生検査技師会と日本臨床検査学教育協議会が共同運営する,臨床検査技師を対象とした臨地実習指導者講習会(以下,本講習会)を紹介する。さらに,本講習会プログラム中,「多様な学生の理解」に関連したグループワーク受講者へ,演習内容改善のために実施したアンケート結果を報告する。その結果,受講者は,障害とは何かを学ぶと共に,多様な学生の対応と配慮の必要性を理解し,多様な学生をどう受け入れ,どのように関わっていくかを考える機会となったことや,現実的な対応に苦慮している状況が明らかとなった。今後さらに養成施設と実習施設間の連携を深める上で,本講習会の活用に意義があると思われるので報告する。

症例報告
  • 笹岡 悠一, 大西 秀典, 吉田 和文
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 549-554
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    患者は70歳代,男性。高脂血症,高血圧,糖尿病において当院で定期受診をしている。20XX年5月,受診時に6ヶ月前に自宅で転倒した際に胸を椅子に強打し,しばらく胸部痛の持続があったことを訴えた。念のため心電図検査,胸部X線検査,心臓超音波検査と血中心筋マーカー(心筋トロポニンI,CPK,CK-MB)の検査を施行した。心電図で四肢誘導のI,II,III,aVFでT波の陰転化とaVRでT波の陽転化を認め,胸部誘導のV3からV6までT波の陰転化とV4とV5でややST低下を認めた。心電図所見より,たこつぼ型心筋症が疑われたが,心臓超音波検査では左室後壁の肥厚とsigmoid septumを認め,壁運動異常の出現は認めなかった。胸部X線検査は心胸郭比56%で,肺うっ血・胸水貯留や,骨折の所見は認めず,血液検査でも異常を認めなかった。検査時点では胸部症状はなく経過観察となっていた。1年7ヶ月後の心電図検査ではQ波もR波の増高もなく胸部誘導のT波は陽転化し,ST低下も正常へ戻っていた。冠動脈造影などの検査が未実施のため,外傷性の心筋傷害の可能性を否定できないが,類似所見を示す疾患として,たこつぼ型心筋症が考えられた。転倒による胸部打撲との関連を結びつける根拠は示せなかったが,無症状で発症したたこつぼ型心筋症による心電図異常が最も考えられる症例であった。

  • 二木 照美, 松木 浩子, 中村 聡一, 野沢 佳弘
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 555-559
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    子宮体癌の中で漿液性癌は,悪性度が高く,予後不良な組織型である。今回,子宮体部由来の漿液性癌が,術後4年で左大腿部後面に多房性の嚢胞を形成した転移巣を示した症例を経験したので報告する。症例は80歳代女性でMRIにて,左大腿部後面に多房性で嚢胞性の腫瘤を形成し,一部に充実性の部位を認めた。PET-CTでは,充実部位にFDG集積を認め,穿刺吸引細胞診が施行された。細胞診では,異型細胞の出現を認めたが,細胞由来の特定は困難であり,セルブロックによる免疫組織学的染色を実施した結果,上皮由来の悪性腫瘍が疑われた。その後,左大腿部の開放生検を施行し,臨床経過で子宮体癌による子宮全摘出術の既往があったことから,最終組織診断は子宮体部由来の漿液性癌の左大腿部転移と診断された。今回の症例は,婦人科領域における悪性腫瘍の遠隔転移で,大腿部軟部組織への転移は報告が少なく,まれな症例を経験したので報告する。

  • 津田 真莉子, 梅木 満鈴, 瀬田 遥香, 後藤 大尚, 鍵尾 真実, 濵﨑 浩一, 松田 翔平, 面田 恵
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 560-565
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    現在,血清中および尿中の電解質測定においては多くの施設でイオン選択電極(ion selective electrode; ISE)法が採用されており,ナトリウム(Na),カリウム(K)測定用のISEはクラウンエーテル膜電極であり,特異性が高く共存物質の影響は少ない。クロール(Cl)測定用のISEは4級アンモニウム塩電極,銀-塩化銀電極であり,特異性がクラウンエーテル電極に比べて低く,他のハロゲン物質が共存することで偽高値を呈する場合があり,過去にいくつかの報告がある。今回血清Clが偽高値となったことから市販鎮痛薬の長期服用による慢性ブロム中毒と診断された症例を2例経験した。本2症例のような市販鎮痛剤による偽性高Cl血症を示す患者は他にも存在すると思われ,臨床検査を担当する臨床検査技師および診療側は注意を要する。Cl測定において,Na値とCl値とのバランスでClが高値の場合,分析装置からのエラーが出現した場合に共存物質によるCl値への正誤差を疑った場合は,臨床側に連絡し患者内服薬の確認,臨床症状との関連性をみることで,ブロム中毒の発見に繋がる。

  • 伊藤 大輔, 大坪 優大, 岡部 弓枝, 吉川 竜聖, 福重 摩莉阿, 野中 綾乃, 武藤 延秋, 安藤 修久
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 566-572
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    低カリウム血症にたこつぼ心筋症様の心筋障害を伴い,Shark finサインパターンの心電図変化を認めた1症例を経験した。症例:80歳代の女性,下肢の脱力を自覚し転倒を認めたため,救急外来へ搬送された。血液検査において低カリウム血症に伴う代謝性アルカローシスを認めた。入院後の心電図検査にて胸部誘導でQRS-ST-T波形の三角形様変化を伴うST上昇を認めた。経胸壁心エコー図検査では心尖部の高度壁運動低下が認められ,たこつぼ心筋症が強く疑われた。患者は無症候性であり,入院となった経過や低栄養,年齢などから心臓カテーテル検査の適応ではないと考えられ,冠動脈造影は施行されなかった。カリウム補正後,心電図変化および壁運動異常は改善を認め,たこつぼ心筋症にShark finサインを伴う心電図変化が認められたと考えられた。Shark finサインは急性冠症候群および広範囲な心筋虚血の特異的な指標として知られており,心室細動や心原性ショックを合併しやすく高い死亡率と関連している。低カリウム血症やたこつぼ心筋症でShark finサインを認めることは稀であり,今回のような特徴的な心電図変化が,普段とは異なる病態で出現することを念頭に置き,必要に応じた検査・治療の準備をすることは極めて重要である。

  • 坪佐 朱莉, 吉岡 はづき, 萩原 葉子, 吉野 龍一, 王 麗楊, 桑原 隆, 宮田 仁美, 平塚 拓也
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 573-576
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    【症例】腎生検にてクロンカイト・カナダ症候群に伴う分節性膜性腎炎と診断した60歳代,男性。IgG,C3cは未固定凍結標本蛍光抗体法で陰性であったが,ホルマリン固定パラフィン包埋標本酵素抗体法(formalin fixed paraffin-embedded immuno-peroxidase; FFPEIP)による抗C3d抗体免疫染色でC3dは糸球体基底膜に分節状に明瞭に認められた。未固定凍結標本蛍光抗体法でC3dはボーマン嚢・尿細管基底膜に陽性であったが,FFPEIPではこの所見を認めなかった。【考察】腎生検蛍光抗体で観察するC3cは直近の補体の活性化を表し,時間の経過で消失するため,C3cが不染でも免疫複合体が検体中に存在しないことを意味するわけではない。また,C3cは固定などにより抗原性が失活するのでFFPEIPには適さない。C3dは,補体の活性化が起こればその場に留まるので免疫複合体の観察に優れている。更に,固定などによる抗原性失活が軽微なのでFFPEIPに適している。【結論】FFPEIPによるC3d染色は,蛍光抗体法でIgGを認めない膜性腎炎や巣状分節性糸球体病変,および凍結標本に糸球体を認めないときの腎生検病理診断に有用である。

  • 髙橋 広大, 長澤 和樹, 松村 啓汰, 嘉村 幸恵, 平井 英祐, 前田 哲也, 諏訪部 章
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 577-581
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    重症筋無力症(myasthenia gravis; MG)の神経生理検査において,肘筋を被検筋とした反復神経刺激試験(repetitive nerve stimulation test; RNS)が臨床診断の一助となった症例を経験した。症例は70歳代女性,主訴は両側眼瞼下垂であった。眼瞼挙上術後も改善はなく,日内変動や上方注視での症状増悪を認めたため,精査加療目的に紹介となり受診した。神経学的には日内変動を伴う右側優位の両側性眼瞼下垂を認め,アイスパックテストが陽性であった。四肢および体幹の骨格筋には易疲労性を認めなかった。血液検査では血清抗アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor; AchR)抗体が陽性であった。以上から臨床的に眼筋型MGが疑われた。また,神経生理検査として,鼻筋,僧帽筋,小指外転筋,及び肘筋で低頻度RNSを施行したところ,肘筋のみで漸減(waning)現象を認め,眼筋型MGの診断がより確実なものとなった。眼筋型MGにおけるRNSは,waning現象の検出感度が高くないことが指摘されている。眼筋型MGを疑う症例で,表情筋に有意な筋電図所見が得られない場合には,肘筋のRNSを施行することでwaning現象の検出感度が向上され,臨床診断の一助となる可能性が示唆された。全身型MGとの鑑別上も重要な知見となりうると考え報告した。

  • 松本 雄貴, 井上 明宏, 金並 真吾, 高野須 広道, 片山 英司, 高須賀 康宣, 北澤 理子, 大澤 春彦
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 582-587
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    脳原発悪性黒色腫は極めてまれであり,全黒色腫の1%を占めるにすぎない。今回,我々は,患者髄液における異型細胞の報告により癌性髄膜炎の早期診断・治療に繋げることができた脳原発悪性黒色腫の1例を経験したので報告する。患者は40代女性,一昨年前に脳原発悪性黒色腫と診断され,摘出後にニボルマブにより加療されたが,半年後に再発を認めたため定位放射線治療を追加された。約2週間前より眩暈,嘔気が出現し,目の焦点が合わないため頭部MRIを施行,髄膜に沿った造影病変から髄膜炎が疑われ,腰椎穿刺が施行された。髄液中の細胞数は単核球優位に増加し,サムソン染色による形態評価では,異型細胞を認めた。その異型細胞はN/C比が高く,核の大小不同や著明に腫大した核小体を認め,細胞質には茶褐色の顆粒が散在性に認められた。同顆粒は無染色でも褐色を呈していることから,メラニン顆粒の可能性が第一に考えられた。以上の所見より,悪性黒色腫の髄腔内播種が最も疑われたため,早急に主治医に報告した。同時に,細胞診の追加依頼を提案し,パパニコロウ染色により悪性黒色腫による癌性髄膜炎の確定診断に至った。癌性髄膜炎は遭遇する機会は少ないが,迅速な診断による治療が予後に影響を及ぼす重篤な疾患である。日頃より医師や病理検査を含む各部門と密に連携し,早期の診断・治療に繋げる努力が肝要と考える。

  • 木村 由, 竹中 沙絵, 本田 智子, 稲林 貴子, 飯島 有加, 傳 智寛
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 588-594
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    尿沈渣の尿酸アンモニウム(ammonium urate; AU)結晶において,アトラスでは認めないウニ様,針状,放射球状,亜鈴状(鉄アレイ状)等の様々な形態を示した症例を経験したので報告する。症例1:30代,女性,妊娠6カ月。3週間前他県で両側水腎症にて点滴のみの入院加療,鈍痛持続のため紹介状目的で当院泌尿器科受診。尿沈渣にてウニ様,針状の黄褐色の結晶を多数認める。症例2:90代,女性。他院より当院地域包括ケア病棟に入院後,状態把握と発熱のため検査を実施,尿沈渣にて放射球状,鉄アレイ状等の黄褐色の結晶を認める。両症例とも鏡検による判断困難のため,結晶を収集し結石分析の検査を実施,酸性AUの結果となる。AU結晶は棘を有する球状とされているが,本症例より,ウニ様,針状,放射球状,鉄アレイ状等の様々な形態をとることが示された。

  • 小黒 徳也, 野上 めいあ, 川野 剛
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 595-602
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    フィブリン円柱は高度蛋白尿に伴う腎局所の凝固亢進状態を示唆する可能性が高いと言われるが,高度蛋白尿を伴わない患者尿中にも認めることがある。今回我々は尿蛋白定性(2+)以上を持続的に認めない6症例をもとに共通背景を探るべく検討を行った。検討の結果,全ての症例において血栓形成傾向が背景にあることが分かった。その内訳としては糸球体性出血,疾患,医薬品の副作用の3パターンであった。背景に血栓形成傾向がある患者尿沈渣検査においてフィブリン円柱を検出することで,疾患等の推定に応用できる可能性が示唆された。同時に血栓形成素因となる蛋白成分の尿中への漏出とフィブリン円柱出現が関連する可能性も示唆された。

  • 伊藤 大貴, 石嶺 南生, 菅野 桂子, 菅野 光俊, 宇佐美 陽子, 中澤 英之, 上原 剛
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 603-608
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    血清蛋白電気泳動において,アルブミン(Alb)の沈降線が陰極側へテーリングすることにより,Alb分画とα1分画が分離不能となる症例を見出し,その原因を明らかにするため検討を行った。免疫固定電気泳動法でモノクローナル蛋白は陰性であったが,免疫電気泳動法では血清蛋白分画検査と同様に陰極側へテーリングするAlbの沈降線が確認された。それと対応するように,IgG,L鎖κ,L鎖λの沈降線でも陽極側へのテーリングが認められた。このことからAlbとIgGが複合体を形成していると考えられたため,Cibacron BlueとプロテインG affinity chromatographyでAlb-IgG複合体を精製して,ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動とウエスタンブロッティングで分子量を確認したところ,Alb,IgG共に約250 kDa付近の高分子領域でバンドを検出した。また,精製したAlb-IgG複合体を高塩濃度処理することで免疫電気泳動でのテーリングが減弱することから,複合体はイオン結合によって形成されていることが示唆された。以上より,AlbとIgGがイオン結合によって複合体を形成することで血清蛋白分画において患者血清Albが陰極側へテーリングし,アルブミンとα1分画が分離不能となったと考えられた。血清蛋白分画で異常なパターンを呈した際は,免疫電気泳動や免疫固定電気泳動での精査が重要であると言える。

  • 丸田 穏, 佐竹 郁哉, 鴨谷 舞, 水田 裕一, 高原 美樹, 左古田 悦子, 松﨑 俊樹, 住ノ江 功夫
    原稿種別: 症例報告
    2024 年73 巻3 号 p. 609-619
    発行日: 2024/07/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー HTML

    今回我々は,新生児・小児心臓超音波検査(以下,US)にて右心系に構造物を認めた3症例を経験し,それぞれの臨床所見と超音波所見の比較・考察を行ったので報告する。【症例1】5歳男児。ネフローゼ症候群の既往あり。呼吸苦が出現し,精査目的でUSを施行した。右室に一部可動性のある構造物を認めた。血栓や腫瘍が疑われ,専門施設へ紹介,紹介先での造影CT検査では血栓が疑われた。服薬と定期的USにて経過観察となった。【症例2】4歳男児。近医で心室中隔肥厚の所見を認め当院紹介となり,精査目的でUSを施行した。心室中隔基部に構造物を認めた。腫瘤の内部エコーは高輝度で均一であった。腫瘤に可動性部分はなく,構造物による狭窄も認めなかった。頭部CT検査で異常所見は指摘されなかった。心室中隔に原発した脂肪腫が疑われ専門施設へ紹介となった。紹介先のMRI検査で脂肪腫が疑われ,増悪所見を認めるまでは経過観察となった。【症例3】日齢0の男児。入院時ベッドサイドエコーで可動性構造物を認め精査目的でUSを施行した。右房から右室に可動性のある構造物を認めた。出生直後の構造物であり,出生後の経過をふまえ心横紋筋腫と診断され経過観察されている。3症例を通して,小児期における,心腔内に構造物を認めた際のUSの臨床的有用性を再認識した。

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