医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
技術論文
Clostridioides difficile感染症におけるC. difficile抗原/toxin検出能の比較検討
小笠原 愛美齋藤 泰智中河 知里髙屋 絵美梨高渕 優太朗菊地 菜央池町 香澄吉田 真寿美
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 73 巻 3 号 p. 500-508

詳細
Abstract

Clostridioides difficileC. difficile)は抗菌薬関連下痢症/腸炎の主な原因菌である。C. difficile感染症(CDI)の診断には主に酵素免疫測定法(EIA法)やイムノクロマト法(IC法)が用いられるが,EIA法やIC法ではtoxinの検出感度に課題があった。今回我々は,クイックチェイサー®CD GDH/TOX(クイックチェイサー法)とスマートジーン®CDトキシンB(SG法)の有用性を比較検討した。対象は既知濃度のC. difficile DNA溶液とCDI疑い患者52症例とした。C. difficile DNA溶液は段階希釈し最小検出限界を確認した。最小検出限界は10 copies/μLであった。Toxigenic culture法(TC法)と比較すると①クイックチェイサー法のC. difficile特異抗原検出能は感度94.4%,特異度93.8%,一致率94.2%,toxin検出能は感度50.0%,特異度95.8%,一致率71.2%であった。②SG法のtoxinB遺伝子検出能は感度85.7%,特異度100.0%,一致率92.3%であった。SG法はクイックチェイサー法の抽出液の残りを用いて検査を実施できるため,両者を併用することで臨床側へ有益な情報を迅速に提供可能となり,CDI診療において非常に有用な検査法であった。

Translated Abstract

Clostridioides difficile (C. difficile) is a major cause of antimicrobial-associated diarrhea/enteritis. However, the sensitivity of EIA and IC methods to detect toxin has been an issue. In this study, we compared the usefulness of Quick Chaser®CD GDH/TOX (Quick Chaser method) and Smart Gene®CD Toxin B (SG method). The subjects were C. difficile DNA solutions of known concentrations and 52 patients with suspected CDI. C. difficile DNA solution was serially diluted to confirm the minimum detection limit. The minimum detection limit was 10 copies/μL. Compared to the toxigenic culture method (TC), ①the Quick Chaser method had a sensitivity of 94.4%, specificity of 93.8%, and agreement rate of 94.2% for detection of C. difficile-specific antigen, and 50.0% sensitivity, specificity of 95.8%, and agreement rate of 71.2% for toxin detection. ②The SG method had a sensitivity of 85.7%, specificity of 100.0%, and agreement rate of 92.3% for toxin B gene detection. Since the SG method can be performed using the remainder of the extraction solution from the Quick Chaser method, the two methods can be used together to quickly provide useful information to the clinical side, making them very useful in the treatment of CDI.

I  はじめに

Clostridioides difficile(以下,C. difficile)は,偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり抗菌薬関連下痢症/腸炎の主な原因菌である。C. difficile感染症(以下,CDI)は抗菌薬や抗腫瘍薬などの投与により腸内正常細菌叢のバランスが乱れることで発症し,下痢などの軽症症状から偽膜性大腸炎や消化管穿孔などの重症症状まで幅広い病態を示す1)。本菌は芽胞を形成して病院環境中に長期間生存することから感染対策上非常に重要な菌であり,日本国内においてもC. difficileによる入院患者のアウトブレイクが報告されており2),感染者の早期発見や早期感染対策が重要となる。C. difficileにはtoxin産生株とtoxin非産生株があり,病原性には主にtoxin Aとtoxin Bの2種類が大きく関係している3)。従来,toxin産生株はtoxin Aとtoxin Bの両毒素を産生しtoxin非産生株は両方とも産生しないとされてきたが,1992年に菌株8864というtoxin A−/toxin B+が報告された4)

CDIの診断には酵素免疫測定法(以下,EIA法)やイムノクロマト法(以下,IC法),toxigenic culture法(以下,TC法)が用いられるが,EIA法やIC法では抗原の検出能は高いがtoxinの検出能が不十分5)であることや,TC法では培養に時間を要するなどの課題があった。Clostridioides (Clostridium) difficile感染症診療ガイドライン6)では,抗原陽性/toxin陰性となった場合はtoxin非産生株の存在あるいはtoxin産生量が検出感度以下の可能性を考え遺伝子検査を含めた2段階アルゴリズムが提唱されている。当院では,CDIが疑われた場合TECHLAB C.DIFF QUIK CHEK Complete(パシフィックブリッジメディカル株式会社,以下,Complete法)を用いてC. difficile特異抗原(以下,GDH)とtoxin A・toxin Bの両方を検出しているが,GDH陽性/toxin陰性の症例においてはComplete法のみの検査しか実施していないためtoxin非産生株かtoxin産生量が検出感度以下による偽陰性かを判別できていなかった。そこで今回我々は,①TC法を基準としたComplete法とクロストリジウムディフィシルキット クイックチェイサー®CD GDH/TOX(株式会社ミズホメディー,以下,クイックチェイサー法)におけるGDH/toxin検出能の比較,②TC法を基準としたスマートジーン®CDトキシンB(株式会社ミズホメディー,以下,SG法)と外注のBDマックスTM全自動核酸抽出増幅検査システム(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社,以下,BD MAX法)におけるtoxin B遺伝子検出能の比較検討を実施したので報告する。

II  対象および方法

1. 対象と検査材料

既知濃度(108 copies/μL)のC. difficile DNA溶液(以下,陽性コントロール)と2022年3月~2022年7月までの期間にCDIを疑いComplete法を実施した患者52症例を対象とした。内訳は,男性24例(1~92歳,平均73.9歳),女性28例(40~94歳,平均72.2歳)であった。検査にはブリストルスケール5以上の糞便検体を用いた。

2. 方法

1) 既知濃度の陽性コントロールを用いたSG法における最小検出限界の検討

108 copies/μLの陽性コントロールをTE Bufferを用いて107 copies/μL,106 copies/μL,105 copies/μL,104 copies/μLに段階希釈をした。次に,104 copies/μLに調製した陽性コントロールをスマートジーン®CDトキシンB前処理液(株式会社ミズホメディー)を用いて103 copies/μL,102 copies/μL,50 copies/μL,20 copies/μL,10 copies/μL,5 copies/μL,2 copies/μLになるように調製し試料とした。調製した7種類の試料をスマートジーン®CDトキシンBテストカートリッジに110 μL添加しスマートジーンで測定,最小検出限界の検討を実施した。

2) 迅速診断キット

迅速診断キットは,TECHLAB C.DIFF QUIK CHEK Completeとクロストリジウムディフィシルキット クイックチェイサー®CD GDH/TOXの2種類を使用した。

 ①Complete法

EIA法を原理とし,検体中のGDHおよび毒素(toxin A, toxin B)を検出する。添付文書に記載された方法に従い実施した(Figure 1)。

Figure 1  Complete法の操作手順

 ②クイックチェイサー法

IC法を原理とし,検体中のGDHおよび毒素(toxin A, toxin B)を検出する。添付文書に記載された方法に従い実施した(Figure 2)。

Figure 2  クイックチェイサー法の操作手順

3) SG法

蛍光標識プローブ(Qプローブ)を用いたpolymerase chain reaction(以下,PCR)法を原理とし,検体中のC. difficile toxin B遺伝子を検出する。添付文書に記載された方法に従い実施した(Figure 3)。

Figure 3  SG法の操作手順

4) TC法

培養検査は,C. difficile選択分離培地であるCycloserine-Cefoxitin-Mannitol Agar培地(島津ダイアグノスティクス株式会社,以下,CCMA培地)に接種し35℃,48時間嫌気培養を行った。CCMA培地に発育した特徴的な臭気を発する辺縁不整,R型のマンニット分解,黄色コロニーについて質量分析装置VITEK MS(ビオメリュー・ジャパン社)で同定検査を実施した。さらに,谷野ら7)の方法に準じ発育したC. difficileコロニーをComplete希釈液にMcFarland 4.0になるように調製し,Complete法を用いてGDHとtoxin産生の有無を確認した。これらは原則検体提出当日に検査を実施し,当日の検査が不可能な場合は検体を4℃で保存し2日以内に検査を実施した。

5) BD MAX法

提出された糞便検体の一部を滅菌容器に移し,外注のBD MAX法でtoxin B遺伝子の確認を行った。測定試薬にはクロストリジウム・ディフィシル核酸キットBD マックス CDIFF(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を使用した。

III  結果

 1. 既知濃度の陽性コントロールを用いたSG法における最小検出限界の検討(Table 1
Table 1 SG法における最小検出限界

系列 濃度
(copies/μL)
判定(Ct値)
1回目 2回目 3回目
1 103 (+)(37/50)
2 102 (+)(40/50)
3 50 (+)(40/50)
4 20 (+)(40/50)
5 10 (+)(42/50) (+)(42/50) (+)(44/50)
6 5 (+)(45/50) (+)(44/50) (−)
7 2 (−) (−) (−)

検体中濃度が103 copies/μL(Ct値37),102 copies/μL(Ct値40),50 copies/μL(Ct値40),20 copies/μL(Ct値40)はそれぞれ陽性判定された。10 copies/μLは3回陽性(Ct値42,42,44),5 copies/μLは3回中2回陽性(Ct値45,44),2 copies/μLは3回陰性と判定された。

2. GDH検出能の比較(Table 2
Table 2 GDH検出能の比較(n = 52)

クイックチェイサー法 Complete法 合計
陽性 陰性 陽性 陰性
TC法 陽性 34 2 34 2 36
陰性 1 15 3 13 16
合計 35 17 37 15 52
感度 94.4%(34/36) 94.4%(34/36)
特異度 93.8%(15/16) 81.3%(13/16)
一致率 94.2%(49/52) 90.4%(47/52)

52症例中,GDH陽性はTC法36件(69.2%),クイックチェイサー法35件(67.3%),Complete法37件(71.2%)であった。

TC法とクイックチェイサー法の比較では,感度94.4%,特異度93.8%,一致率94.2%であった。乖離症例は3件認められ,2件はTC法陽性,クイックチェイサー法陰性であり,残りの1件はTC法陰性,クイックチェイサー法陽性であった。

TC法とComplete法の比較では,感度94.4%,特異度81.3%,一致率90.4%であった。乖離症例は5件認められ,2件はTC法陽性,Complete法陰性であり,残りの3件はTC法陰性,Complete法陽性であった。

3. Toxin検出能の比較(Table 3
Table 3 Toxin検出能の比較(n = 52)

クイックチェイサー法 Complete法 SG法 BD MAX法 合計
陽性 陰性 陽性 陰性 陽性 陰性 陽性 陰性
TC法 陽性 14 14 14 14 24 4 21 7 28
陰性 1 23 1 23 0 24 0 24 24
合計 15 37 15 37 24 28 21 31 52
感度 50.0%(14/28) 50.0%(14/28) 85.7%(24/28) 75.0%(21/28)
特異度 95.8%(23/24) 95.8%(23/24) 100.0%(24/24) 100.0%(24/24)
一致率 71.2%(37/52) 71.2%(37/52) 92.3%(48/52) 86.5%(45/52)

52症例中,toxin陽性はTC法28件(53.8%),クイックチェイサー法・Complete法はともに15件(28.8%),SG法24件(46.2%),BD MAX法21件(40.4%)であった。

クイックチェイサー法・Complete法はともにすべての症例で結果が一致し,TC法との比較では感度50.0%,特異度95.8%,一致率71.2%であった。乖離症例は15件認められ,14件はTC法陽性,クイックチェイサー法・Complete法陰性,残りの1件はTC法陰性,クイックチェイサー法・Complete法陽性であった。

TC法とSG法の比較では,感度85.7%,特異度100.0%,一致率92.3%であった。乖離症例は4件認められ,すべてがTC法陽性,SG法陰性であった。

TC法とBD MAX法の比較では,感度75.0%,特異度100.0%,一致率86.5%であった。乖離症例は7件認められ,すべてがTC法陽性,BD MAX法陰性であった。

IV  考察

C. difficileは抗菌薬関連下痢症/腸炎の原因菌として最も多くみられる偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり,下痢や偽膜性大腸炎など様々な病態を示す8)。米国ではC. difficileはMRSA以上に重要な医療関連感染症の原因微生物として認識されており,Centers for Disease Control and Prevention(CDC)はカルバぺネム耐性腸内細菌目細菌などと並ぶ耐性菌の脅威としてC. difficileを挙げて警戒を促している9)。CDIは適切な治療や感染対策を行うことで,患者の死亡や重症化,院内集団感染を防ぐことが可能となるためCDIの早期診断は非常に重要となる。CDIの診断にはEIA法やIC法を用いたGDH/toxinの検出が主に行われているが,GDHの検出感度は良好である一方toxinの検出感度は不十分であると言われている5)Clostridioides (Clostridium) difficile感染症診療ガイドライン6)では,GDH陽性/toxin陰性症例には遺伝子検査を,遺伝子検査を行うことができない施設では菌株の分離培養を行いtoxin産生性を評価する2段階アルゴリズムが提唱されており,2段階法の有用性を示した報告もされている10)

従来,toxin産生株はtoxin Aとtoxin Bの両毒素を産生し,toxin非産生株は両方とも産生しないとされてきたが,1992年に菌株8864というtoxin A−/toxin B+が報告された4)。当初は,toxin A−/toxin B+は病原性はないか非常に低いのではないかと考えられていたが,最近になってtoxin A−/toxin B+による偽膜性大腸炎の症例が報告され11),現在は病原性を示すのはtoxin A+/toxin B+,toxin A−/toxin B+であり,toxin A−/toxin B−株では症状がないと言われている3),12),13)。toxin A+/toxin B−株は今まで存在しないといわれていたが,2015年海外で発見されたとの報告がある14)

今回我々は,Clostridioides difficile感染症におけるC. difficile抗原/toxin検出能/toxin B遺伝子検出能の比較検討を行った。既知濃度の陽性コントロールを用いたSG法における最小検出限界の検討では検体中濃度が103 copies/μL(Ct値37),102 copies/μL(Ct値40),50 copies/μL(Ct値40),20 copies/μL(Ct値40)はそれぞれ陽性判定された。10 copies/μLは3回陽性(Ct値42,42,44)であり,5 copies/μL は3回中2回陽性(Ct値45,44),2 copies/μLでは3回陰性と判定された。最小検出限界は10 copies/μLであり,クロストリジウム・ディフィシル核酸キット スマートジーン®CDトキシンB添付文書15)に記載されている最小検出感度10 copies/μLと同様の結果であった。

GDH検出能の比較では,52症例中,GDH陽性はTC法36件,クイックチェイサー法35件,Complete法37件であった。TC法とクイックチェイサー法の比較では,感度94.4%,特異度93.8%,一致率94.2%と良好な相関を示し,吉田の報告8)と同様の結果であった。乖離症例は3件認められ2件はTC法陽性,クイックチェイサー法陰性であり,残りの1件はTC法陰性,クイックチェイサー法陽性であった。TC法陽性,クイックチェイサー法陰性であった2件は,発育したC. difficileコロニーが1コロニーでありC. difficile抗原量がごくわずかのため検出感度以下となったと推察された。TC法陰性,クイックチェイサー法陽性であった1件は,培養陰性でC. difficileの発育コロニーが認められずクイックチェイサー法の偽陽性が示唆された。TC法とComplete法の比較では,感度94.4%,特異度81.3%,一致率90.4%であり,西尾らの報告5),16)と同様の結果であった。乖離症例は5件認められ,2件はTC法陽性,Complete法陰性であり,残りの3件はTC法陰性,Complete法陽性であった。TC法陽性,Complete法陰性であった2件は,クイックチェイサー法と同一症例でC. difficileの発育コロニーが1コロニーでありC. difficile抗原量がごくわずかのため検出感度以下となったと推察された。TC法陰性,Complete法陽性であった3件では培養陰性でC. difficileの発育コロニーは認められずComplete法の偽陽性が示唆された。今回の検討では,クイックチェイサー法とComplete法でGDH偽陽性と考えられる症例が認められた。クイックチェイサー法で偽陽性と考えられた症例はComplete法でも同様にGDH陽性と判定された。クイックチェイサー法とComplete法の添付文書には交差反応を示さない微生物が記載されているが,100兆個100種類を超える微生物が腸内フローラには存在しており,それらすべての微生物について交差反応に関する検討が行われていないのが現状であるため,添付文書上に報告されていない微生物にも交差反応を起こす可能性は十分にあると考えられる16)。本検討ではTC法を対照とした場合,クイックチェイサー法とComplete法ではGDHの検出能は同程度であった。

Toxin検出能の比較では,52症例中,toxin陽性はTC法28件,クイックチェイサー法・Complete法はともに15件,SG法24件,BD MAX法21件であった。クイックチェイサー法・Complete法はともにすべての結果が一致し,TC法との比較では感度50.0%,特異度95.8%,一致率71.2%であり,西尾らの報告5),16)と同様に感度が低い結果となった。乖離症例は15件認められ,14件はTC法陽性,クイックチェイサー法・Complete法陰性,残りの1件はTC法陰性,クイックチェイサー法・Complete法陽性であった。TC法陰性,クイックチェイサー法・Complete法陽性であった1件は培養陰性でC. difficileの発育コロニーが認められなかったため,クイックチェイサー法・Complete法の偽陽性が示唆された。クイックチェイサー法・Complete法の添付文書にはPaeniclostridium sordellii(以下,P. sordellii)のtoxin HTおよびtoxin LTに交差反応が示すとの記載があるため17),18)P. sordelliiの存在の可能性が要因の一つとして推察された。また,この症例では経口腸管洗浄剤の使用の有無は確認できなかったが,経口腸管洗浄剤の主成分であるポリエチレングリコール4000によりComplete法でtoxinが偽陽性となるとの報告がある19)。今回の検討では,EIA法におけるtoxinの検出感度は既報の通り5),16)低い結果となった。

TC法とSG法の比較では,感度85.7%,特異度100.0%,一致率92.3%であり,乖離症例は4件認められすべてがTC法陽性,SG法陰性であった。乖離症例4件のうち3件では,C. difficileの発育コロニーがごくわずかであったため,C. difficile抗原量低下に伴いtoxin B遺伝子も減少し検出感度以下となったと推察された。残りの1件は,C. difficile発育コロニーは多く認められ,抗原量は十分量であるにもかかわらずtoxin B遺伝子が陰性となったことからtoxin産生株とtoxin非産生株が共存し20),toxin非産生株が多く存在したためtoxin産生量が少なく検出感度以下となったのではないかと推察された。TC法とBD MAX法の比較では,感度75.0%,特異度100.0%,一致率86.5%であった。乖離症例は7件認められ,すべてがTC法陽性,BD MAX法陰性であった。乖離症例7件のうち,4件はSG法も陰性でC. difficileの発育コロニーが少ない症例・toxin産生株とtoxin非産生株の共存が疑われた症例であった。残りの3件はSG法陽性であったがそのうち2件はSG法でtoxin B遺伝子が検出されたCt値は44,41と遅く(Table 4),最小検出限界の結果より検体中のtoxin B遺伝子は5~20 copies/μL程度であった。残りの1件はSG法でCt値は37であり,toxin B遺伝子は1,000 copies/μL程度であった。SG法は検体提出当日に検査を実施することが可能であるのに対し,BD MAX法は外注検査であるため検査実施までのタイムラグが存在する。検体採取から検体処理まで時間を要する場合PCR反応に悪影響を与える可能性があり,DNAの劣化を防ぐために凍結保存がよいとの報告がある10)。外注検査であるため検査実施までの所要時間ははっきりとはわからないが,検体処理の遅れや検体中のC. difficileが偏在しうまくサンプリングができなかった可能性が結果が乖離した要因として推察された。

Table 4 各検査法におけるtoxin陽性症例一覧(n = 29)

症例No. 検査法
クイック
チェイサー法
Complete法 TC法 SG法(Ct値) BD MAX法
1 (−) (−) (+) (−) (−)
2 (+) (+) (+) (+)(31/50) (+)
3 (+) (+) (+) (+)(32/50) (+)
4 (+) (+) (+) (+)(34/50) (+)
5 (+) (+) (+) (+)(38/50) (+)
6 (−) (−) (+) (+)(38/50) (+)
7 (−) (−) (+) (+)(44/50) (−)
8 (−) (−) (+) (+)(33/50) (+)
9 (+) (+) (+) (+)(33/50) (+)
10 (+) (+) (+) (+)(33/50) (+)
11 (+) (+) (+) (+)(33/50) (+)
12 (−) (−) (+) (+)(41/50) (−)
13 (−) (−) (+) (+)(40/50) (+)
14 (−) (−) (+) (+)(37/50) (−)
15 (−) (−) (+) (+)(33/50) (+)
16 (−) (−) (+) (+)(30/50) (+)
17 (−) (−) (+) (−) (−)
18 (+) (+) (+) (+)(34/50) (+)
19 (+) (+) (+) (+)(32/50) (+)
20 (−) (−) (+) (−) (−)
21 (+) (+) (+) (+)(34/50) (+)
22 (+) (+) (+) (+)(35/50) (+)
23 (−) (−) (+) (−) (−)
24 (−) (−) (+) (+)(40/50) (+)
25 (+) (+) (+) (+)(32/50) (+)
26 (+) (+) 培養陰性 (−) (−)
27 (+) (+) (+) (+)(31/50) (+)
28 (+) (+) (+) (+)(30/50) (+)
29 (−) (−) (+) (+)(35/50) (+)

当院ではComplete法を用いてGDHとtoxinの検査を実施しているが,Complete法では操作は2 stepからなり結果判定まで約30分要するのに対し,クイックチェイサー法では,糞便検体を抽出液に混濁しテストプレートに滴下するだけで約15分の反応時間で結果判定が行うことができる。また,クイックチェイサー法の残液を用いてSG法を実施することが可能であるため,クイックチェイサー法は非常に有用性の高い検査であると思われた。

今回の検討を踏まえ,当院では2022年11月より迅速診断キットをComplete法からクイックチェイサー法へと変更し,GDH陽性/toxin陰性となった症例を対象にSG法を用いたtoxin B遺伝子検査をルーチンとして導入した。toxin陰性でも培養陽性分離株からtoxinが検出される率は85%と高いとの報告があるが5),我々の検討ではGDH陽性/toxin陰性22症例のうち,13症例(59.1%)でtoxin B遺伝子が検出された。本検討は対象症例が52件,特にGDH陽性/toxin陰性症例は22件と症例数が少ないため,今後さらなるGDH陽性/toxin陰性症例を中心とした追加検査が望まれる。

施設の環境により,遺伝子検査を用いてGDH陽性/toxin陰性症例の精査が困難な場合は分離培養を行うことが推奨されるが,培養にはさらに2日かかり結果報告までに時間を要する。SG法は検体をセットしてから結果報告まで約47分と迅速性に優れ,toxin陽性の場合はさらに早く結果報告が可能である。また,DNA抽出,PCR反応,結果判定までを全自動で行うため操作が簡便であり普段遺伝子検査の経験がない検査員や新人でも検査を行うことができる。SG法を用いることで,GDH陽性/toxin陰性症例の中で感染対策が必要な症例のみをピックアップすることができ,不必要な感染対策を行わないようにすることが可能となる。SG法はtoxin B産生の有無を短時間で検出することが可能であるが,CDI患者では頻回な下痢により検体が希釈され検出感度以下になることや21),遺伝子検査法を用いることで無症候性キャリアを検出するという報告もあるため22),23),CDIの診断には遺伝子検査のみならず臨床症状などの臨床所見を含め総合的に判断する必要があると考えられた。また,Clostridioides (Clostridium) difficile感染症診療ガイドライン20226)では,抗原検査を実施せず遺伝子検査を行えるようにフローチャートが改訂され,ますます遺伝子検査の重要性が増している。しかしながら,抗原検査を実施せず遺伝子検査を行う場合は,保険適応ではないことを考慮しながら,施設ごとに運用を構築する必要があると思われる。

V  結語

今回我々は,Clostridioides difficile感染症におけるC. difficile抗原/toxin検出能の比較検討を行った。クイックチェイサー法は現行法であるComplete法と同等の検出能を有していた。SG法はTC法と良好な相関を示し,外注のBD MAX法と同程度の性能を有していた。さらに,操作も簡便で迅速性にも優れていた。SG法はクイックチェイサー法の抽出液の残りを用いて検査を実施できるため,両者を併用することで臨床側へ有益な情報を迅速に提供可能となり,CDI診療において非常に有用な検査法であると考えられた。

本検討は市立函館病院倫理委員会の承認を受け実施した(迅2022-024)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2024 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top