医学検査
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原著
健診センターにおける随時尿から早朝尿へ変更したことによる尿定性検査,尿沈渣検査の変化
服部 亮輔安藤 秀実浄土 雅子志方 えりさ谷 樹昌中山 智祥
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2024 年 73 巻 3 号 p. 432-439

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Abstract

当院健診センターでは従来,来院時に随時尿を採尿していたが,2019年度から早朝尿を持参する運用に変更した。材料変更による尿定性検査,尿沈渣検査の陽性率,尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス)の測定結果と尿沈渣目視鏡検率の変化を解析した。随時尿から早朝尿へ変更したことで,尿定性検査では,尿比重は随時尿の方が濃縮傾向を示した。また,陽性率は,男性検体において尿蛋白が8.4%,尿潜血が4.1%,尿白血球が1.3%有意に低下した。女性検体において尿蛋白が5.3%,尿潜血が10.4%,尿白血球が20.1%有意に低下した。尿沈渣検査は,女性検体では赤血球は5.8%,白血球が12.9%,扁平上皮細胞が20.6%,尿細管上皮細胞が2.3%,細菌が18.1%低下した。陽性率変化の要因として,尿定性検査の尿蛋白と尿比重は飲水制限による濃縮尿の影響,また,尿蛋白は生理的蛋白尿も影響していると考えられた。尿沈渣検査は特に女性検体において,随時尿採尿時の飲水制限による尿量低下のため中間尿を正しく採尿できず,尿沈渣成分の陽性率が高値を示したと考えられた。尿沈渣目視鏡検ロジックの尿定性測定値(尿蛋白)およびUF-1000i測定値(CAST, Path.CAST)の該当率低下により,尿沈渣目視鏡検率は随時尿38.6%から早朝尿26.8%へ11.8%低下した。尿検査材料は早朝尿が適していると考えられる。

Translated Abstract

The urine collection method at our health planning center was changed from spot collection to morning collection in April 2019, and changes in positivity rates for qualitative urinary, sediment examinations, result of a measurement of the UF-1000i (Sysmex), and the microscopic examination rate. Specific gravity differences were observed between spot and morning urine samples, with spot samples showing concentration tendencies. A reduction in a few parameters for males (protein by 8.4%, occult blood by 4.1%, white blood cells (WBCs) by 1.3%) and females (protein by 5.3%, occult blood by 10.4%, WBCs by 20.1%) was observed after the switch to morning urine sample collection. Urinary sediment examinations indicated reductions in renal tubular epithelial cells (2.3%), as well as reductions in red blood cells (RBCs) (5.8%), WBCs (12.9%), squamous epithelial cells (20.6%), and bacteria (18.1%) for females. One of the factors influencing positivity changes included concentrated urine samples resulting from fluid intake restriction, which impacted protein content and specific gravity. Additionally, reduced accuracy associated with midstream urine collection during spot urine collection led to higher positivity rates for RBCs, WBCs, squamous epithelial cells, and bacteria in females due to restricted fluid intake. UF-1000i usage patterns demonstrated a reduction in microscopic examination rates from 38.6% with spot urine to 26.8% with morning urine, thereby streamlining urinary examination operations. The reduced positivity rates of protein, casts, and pathological casts detected using UF-1000i in qualitative urinary analysis led to decreased microscopic examination rates. We showed that morning urine collection improves test accuracy.

I  はじめに

尿検査は患者の病態を推測するための代表的なスクリーニング検査であり,非侵襲的検査として多く実施されている。検査結果から様々な情報を得ることができるため健診においても通常実施されている。

当院健診センターの採尿方法は従来,来院時に随時尿を採尿していたが,職員の尿検体受け取りや分注作業などの業務軽減を目的として,2019年4月から早朝尿を採尿し,持参してもらう運用に変更した。現在,随時尿と早朝尿における尿検査所見を比較した報告は少ない。尿検査を実施する際の尿の種類は,酸性に傾き,濃縮され,成分の安定性が高いため,早朝尿が適するといわれている1)。また,尿定性項目の一つである尿蛋白は,慢性腎臓病(clonic kidney disease; CKD)および末期腎不全(end-stage kidney disease; ESKD)のリスクだけでなく,心血管疾患や全死亡のリスクも高いことが示されている2)。しかし,随時尿で検査する場合,病的蛋白尿だけでなく生理的蛋白尿(機能性蛋白尿,体位性蛋白尿)の影響を受ける可能性があると知られている。今回,随時尿と早朝尿の材料による検査結果を比較し,材料の適性を確認するため,尿定性検査,尿沈渣検査の陽性率,尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス)の測定結果の変化を解析した。

II  対象,方法,検討項目

1. 対象

当院健診センター受診者のうち,尿定性検査,尿沈渣検査を同時依頼された検体を対象とした。随時尿(旧採尿方法)は2017年4月~2018年3月までの7,985検体,早朝尿(現採尿方法)は2019年4月~2020年3月までの8,662検体の合計16,647検体を対象とした(Table 1)。2018年度は移行期間で随時尿,早朝尿が混在していたため,集計期間から除外した。随時尿と早朝尿は,ともに中間尿採取を指示し,前日と当日の注意点に変更はなかった。前日の注意点は,夕食は午後9時までに済ませ,喉が渇く場合は飲水可である。当日の注意点は,朝食,飴,ガムなどは食べない。喉が渇く場合は来所2時間前までならコップ1杯程度の飲水可(お茶,コーヒー,ジュースなど水以外は不可)である。

Table 1 対象の内訳

全体(件数) 男性(件数) 女性(件数) 年齢
随時尿(2017年度) 7,985 5,008(62.7%) 2,977(37.3%) 18~91歳(平均51.2歳)
早朝尿(2019年度) 8,662 5,482(63.3%) 3,180(36.7%) 18~92歳(平均50.3歳)
合計 16,647 10,490(63.0%) 6,157(37.0%)

2. 方法

尿定性検査はウロペーパー9L(栄研化学)を用いて全自動尿分析装置US-3100Rplus(栄研化学)で測定した。尿沈渣検査は尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス)で測定し,当院で設定している尿沈渣目視鏡検ロジックに該当しない場合は自動結果送信し,該当した場合は尿沈渣を目視鏡検した。尿沈渣目視鏡検は尿沈渣検査法2010に準拠し,尿沈渣染色液ニューユリステイン(シスメックス)を用いてSternheimer染色を実施した。

3. 検討項目

1) 尿定性検査陽性率

尿定性検査について尿pHと尿比重は分布,それ以外の尿蛋白,尿糖,尿潜血,尿ウロビリノーゲン,尿ビリルビン,尿ケトン体,尿白血球,尿亜硝酸塩は(1+)以上を陽性とし,陽性率を集計した。男女各検体の随時尿と早朝尿の比較は,カイ二乗検定を行い,p < 0.05を統計学的有意とした。

2) 尿沈渣検査陽性率

赤血球,白血球,扁平上皮細胞は5–9個以上/HPF,尿細管上皮細胞は1個未満以上/HPF,硝子円柱は10–19個以上/WF,顆粒円柱は1–4個以上/WF,糸球体型赤血球,赤血球円柱,上皮円柱,ろう様円柱,リン酸塩,尿酸塩,尿酸結晶,シュウ酸カルシウム結晶,粘液糸,細菌は(1+)以上を陽性とし,これらの陽性率を集計した。

3) UF-1000i測定値

赤血球(red blood cell; RBC),白血球(white blood cell; WBC),上皮細胞(epithelial cell; EC),小型円形細胞(small round cell; SRC),円柱(CAST),細胞成分などを含む病的な円柱(pathological cast; Path.CAST),細菌(bacteria; BACT),酵母(yeast like cell; YLC),結晶(crystal; X’TAL),粘液糸(MUCUS)の平均値を集計した。男女各検体の随時尿と早朝尿の比較は,SPSS Statisticsバージョン25(IBM)を用い,t検定を実施した。p < 0.05を統計学的有意とした。

4) 尿沈渣目視鏡検ロジックの該当率,尿沈渣目視鏡検率

当院では尿沈渣検査の依頼がある検体は,UF-1000iを用いて測定している。UF-1000i測定後の目視鏡検を実施するロジックとして尿定性測定値,UF-1000i測定値を設定している。尿定性測定値は,外観:混濁,分析装置混濁判定:(1+)以上,尿蛋白:(1+)以上,尿ビリルビン:(1+)以上,尿ケトン体:(2+)以上,尿潜血:(3+)以上で設定している。UF-1000i測定値は,RBC:550/μL以上,EC:男性;55.6/μL以上,女性;111.2/μL以上,SRC: 5.6/μL以上,YLC:20.0/μL以上,X’TAL:1.0/μL以上,MUCUS:20.0/μL以上,CAST:初診;0.70/μL以上,再診;1.20/μL以上,Path.CAST:初診;0.40/μL以上,再診;0.80/μL以上,RBC-Info.:Dysmorphic?,Mixed?で設定しており,これらの該当率を集計した。また,尿沈渣目視鏡検率も集計した。

III  結果

1. 尿定性検査陽性率

尿定性検査の尿比重は随時尿では1.021–1.025が一番多く,早朝尿では1.011–1.015が一番多く分布していた(Figure 1)。また,尿比重1.021–1.050の高比重検体の占める割合は,随時尿が50.9%,早朝尿が37.8%であった。尿pHは随時尿,早朝尿ともにpH 5.5が一番多く占められていた(Figure 2)。

Figure 1  尿比重の検体分布
Figure 2  尿pHの検体分布

それ以外の項目は男性検体,女性検体各々でカイ二乗検定を行った。随時尿から早朝尿へ変更した結果,男性検体では,尿蛋白が10.8%から2.4%へ8.4%低下,尿潜血が5.0%から0.9%へ4.1%低下,尿白血球が2.8%から1.5%へ1.3%低下,尿糖が2.5%から3.9%へ1.4%増加,尿ウロビリノーゲンが1.1%から1.7%へ0.6%増加し,陽性率が有意に変化を示した(p < 0.05)。女性検体では尿蛋白6.7%から1.4%へ5.3%低下,尿潜血が15.9%から5.5%へ10.4%低下,尿白血球が40.8%から20.7%へ20.1%低下,尿亜硝酸塩が1.3%から2.3%へ1.0%増加し,陽性率が有意に変化を示した(p < 0.05)(Table 2)。

Table 2 尿定性検査陽性率

全体 男性 女性
随時尿(%) 早朝尿(%) 随時尿(%) 早朝尿(%) 随時尿(%) 早朝尿(%)
尿蛋白 9.3 2.0 10.8 2.4* 6.7 1.4*
尿糖 1.7 2.7 2.5 3.9* 0.4 0.6
尿潜血 9.0 2.6 5.0 0.9* 15.9 5.5*
尿ウロビリノーゲン 0.8 1.2 1.1 1.7* 0.2 0.5
尿ビリルビン 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
尿ケトン体 2.2 2.1 1.8 1.8 2.8 2.6
尿白血球 17.0 8.5 2.8 1.5* 40.8 20.7*
尿亜硝酸塩 0.5 0.9 0.1 0.2 1.3 2.3*

*:p < 0.05(男性検体,女性検体を解析)

2. 尿沈渣検査陽性率

尿沈渣検査は,男性検体では尿細管上皮細胞が13.4%から5.5%へ7.9%低下した。女性検体では尿細管上皮細胞が7.2%から4.9%へ2.3%低下,赤血球が10.6%から4.8%へ5.8%低下,白血球が26.6%から13.7%へ12.9%低下,扁平上皮細胞が26.3%から5.7%へ20.6%低下,細菌が51.6%から33.5%へ18.1%低下した。シュウ酸カルシウム結晶は男性検体で1.8%から10.3%へ8.5%増加,女性検体で1.6%から7.8%へ6.2%増加した(Table 3)。

Table 3 尿沈渣検査陽性率

全体 男性 女性
随時尿(%) 早朝尿(%) 随時尿(%) 早朝尿(%) 随時尿(%) 早朝尿(%)
赤血球(≥5–9個/HPF) 6.2 2.7 3.4 1.3 10.6 4.8
糸球体型赤血球 0.5 0.3 0.3 0.2 0.9 0.3
白血球(≥5–9個/HPF) 11.7 6.3 2.5 1.7 26.6 13.7
扁平上皮細胞(≥5–9個/HPF) 10.0 2.4 0.1 0.0 26.3 5.7
尿細管上皮細胞(≥1個未満/HPF) 11.0 5.3 13.4 5.5 7.2 4.9
硝子円柱(≥10–19個/WF) 1.5 0.4 2.0 0.5 0.8 0.4
顆粒円柱(≥1–4/WF) 0.5 0.6 0.7 0.6 0.3 0.6
赤血球円柱 0.2 0.1 0.2 0.1 0.3 0.2
上皮円柱 1.0 0.7 1.2 0.8 0.7 0.7
ろう様円柱 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0
リン酸塩 0.7 2.3 0.5 2.2 0.9 2.3
尿酸塩 1.0 0.2 1.0 0.2 0.8 0.3
尿酸結晶 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1 0.2
シュウ酸カルシウム結晶 1.7 9.3 1.8 10.3 1.6 7.8
粘液糸 2.2 0.6 2.7 0.7 1.5 0.6
細菌 20.4 13.7 1.0 1.2 51.6 33.5

3. UF-1000i測定値

各項目の平均値は,男性検体ではECが2.12/μLから1.38/μL,SRCが1.39/μLから0.96/μL,CASTが0.65/μLから0.32/μL,Path.CASTが0.20/μLから0.10/μL,MUCUSが2.19/μLから1.00/μLへ有意に低値を示し,X’TALが1.17/μLから17.09/μLへ有意に高値を示した(p < 0.05)。女性検体ではWBCが37.00/μLから21.63/μL,ECが19.08/μLから6.97/μL,SRCが2.23/μLから1.22/μL,CASTが1.19/μLから0.50/μL,Path.CASTが0.46/μLから0.24/μL,BACTが1,175.63/μLから684.43/μL,MUCUSが1.46/μLから 0.51/μLへ有意に低値を示し,X’TALが0.99/μLから21.01/μLへ有意に高値を示した(p < 0.05)(Table 4)。

Table 4 UF-1000i測定平均値

全体 男性 女性
随時尿(/μL) 早朝尿(/μL) 随時尿(/μL) 早朝尿(/μL) 随時尿(/μL) 早朝尿(/μL)
赤血球 RBC 26.23 23.66 1.63 1.51 45.61 53.35
白血球 WBC 18.02 12.24 6.73 6.80 37.00 21.63*
上皮細胞 EC 8.44 3.43 2.12 1.38* 19.08 6.97*
小型円形細胞 SRC 1.70 1.06 1.39 0.96* 2.23 1.22*
円柱 CAST 0.85 0.39 0.65 0.32* 1.19 0.50*
細胞成分などを含む病的な円柱 Path.CAST 0.30 0.15 0.20 0.10* 0.46 0.24*
細菌 BACT 463.66 283.93 40.43 51.61 1,175.63 684.43*
酵母 YLC 0.28 0.23 0.05 0.21 0.68 0.27
結晶 X’TAL 1.10 18.53 1.17 17.09* 0.99 21.01*
粘液糸 MUCUS 1.92 0.82 2.19 1.00* 1.46 0.51*

*:p < 0.05(男性検体,女性検体を解析)

4. 尿沈渣目視鏡検ロジックの該当率,尿沈渣目視鏡検率

1) 尿沈渣目視鏡検ロジックの該当率

尿定性測定値設定の該当率は,尿蛋白が9.3%から2.0%へ7.3%低下した。

UF-1000i測定値設定の該当率は,CAST(初診)が30.4%から11.9%へ18.5%低下,CAST(再診)が16.5%から5.4%へ11.1%低下,Path.CAST(初診)が17.7%から7.1%へ10.6%低下,Path.CAST(再診)が7.4%から2.3%へ5.1%低下した。X’TALは2.4%から11.2%へ8.8%増加した(Table 5)。

Table 5 尿沈渣目視鏡検ロジックの該当率,尿沈渣目視鏡検率

項目 設定値 随時尿(%) 早朝尿(%)
【尿定性測定値設定該当率】
外観 混濁 4.3 2.7
分析器混濁 (1+)以上 1.9 2.3
尿蛋白 (1+)以上 9.3 2.0
尿ビリルビン (1+)以上 0.0 0.0
尿ケトン体 (2+)以上 0.8 0.6
尿潜血 (3+)以上 0.9 0.6
【UF-1000i測定値設定該当率】
RBC 550/μL以上 0.3 0.3
EC 男性 55.6/μL以上 0.1 0.0
女性 111.2/μL以上 1.3 0.1
SRC 5.6/μL以上 3.8 1.3
YLC 20.0/μL以上 0.4 0.3
X’TAL 1.0/μL以上 2.4 11.2
MUCUS 20.0/μL以上 0.6 0.4
RBC-Info. Dysmorphic?/Mixed? 6.1 5.5
CAST 初診 0.70/μL以上 30.4 11.9
再診 1.20/μL以上 16.5 5.4
Path.CAST 初診 0.40/μL以上 17.7 7.1
再診 0.80/μL以上 7.4 2.3
【尿沈渣目視鏡検率】 38.6 26.8

2) 尿沈渣目視鏡検率

尿沈渣目視鏡検率は随時尿38.6%から早朝尿26.8%へ11.8%低下した(Table 5)。

IV  考察

今回の検討において,随時尿から早朝尿へ材料を変更したことによる尿定性検査陽性率の変化は,男性検体では尿蛋白,尿潜血,尿白血球が有意に低下した。尿糖と尿ウロビリノーゲンが早朝尿で有意に増加した要因は不明であった。女性検体では尿蛋白,尿潜血,尿白血球が有意に低下,尿亜硝酸塩が有意に増加した。尿亜硝酸塩は尿が膀胱内に最低4時間貯留していることが必要である。随時尿では亜硝酸塩を生成する時間が充分ではないため陽性率が低かったと考えられた。また,尿比重は随時尿では1.021–1.025,早朝尿では1.011–1.015が一番多く分布していた。尿比重1.021以上の検体割合も随時尿の方が高く,随時尿の方が濃縮検体を多く含んでいることが示された。

早朝尿より随時尿で尿蛋白陽性率が高かった要因として以下に示す2点が考えられた。①生理的蛋白尿の存在:機能性蛋白尿と体位性蛋白尿がある。機能性蛋白尿は運動後,入浴後,発熱時に認められ,体位性蛋白尿は起立性,前湾性に認められる。起床から健診センターで随時尿を採尿するまでの間に生理的蛋白尿が出現したと考えられた。②濃縮による尿蛋白濃度上昇による陽性化:随時尿の方が尿比重は高く,濃縮傾向であった。濃縮による尿蛋白濃度上昇の結果,(1+)以上の検体が増えたと考えられた。この2点の要因により,随時尿で尿蛋白陽性率が高かったと考えられた。

尿潜血は男性検体で4.1%,女性検体で10.4%低下した。尿潜血において,推奨される採尿条件は,運動による血尿を避ける点から早朝第一尿が望ましいとされている3)。宜保ら4)は,人間ドック健診での随時尿から早朝尿への運用変更があり,尿蛋白と尿潜血の陽性率[(1+)以上]を年度別に集計した結果,尿蛋白陽性率は男性の随時尿6.3%~6.7%,早朝尿2.5%~2.6%,女性の随時尿3.5%~3.9%,早朝尿0.8%~1.0%であった。尿潜血陽性率は男性の随時尿7.0%~9.2%,早朝尿2.3%~3.2%,女性の随時尿21.2%~24.1%,早朝尿6.6%~8.1%であった。早朝尿の導入により尿蛋白と尿潜血の陽性率が有意に低下したと報告した。馬嶋ら5)の報告でも,尿蛋白陽性率[(1+)以上]は随時尿3.9%,早朝尿1.8%,尿潜血陽性率[(1+)以上]は随時尿6.2%,早朝尿1.8%で有意に低値を示したと報告した。今回の随時尿と早朝尿について尿蛋白,尿潜血を比較した検討結果は,宜保ら,馬嶋らと同様の傾向であった。また,林ら6)の報告によると,慢性腎臓病患者における来院時随時尿の尿蛋白/クレアチニン濃度比は,早朝第一尿に比し蓄尿(尿蛋白/日)との乖離が大きく過大評価する傾向を認めた。尿中への蛋白,クレアチニン排泄の日内変動を考慮し,尿蛋白/クレアチニン濃度比の評価は,早朝第一尿を用いて行うことが望ましいとしている。

尿沈渣検査では,男性,女性ともに赤血球と白血球の陽性率は尿定性検査陽性率と同様,早朝尿で低値を示した。特に女性検体の尿沈渣検査陽性率の変化が大きく,赤血球5.8%低下,白血球12.9%低下,扁平上皮細胞20.6%低下,細菌18.1%低下した。随時尿では飲水制限に伴う脱水による濃縮傾向,尿量低下のため中間尿を正しく採尿できず,膣・外陰部由来の混入物として赤血球,白血球,扁平上皮細胞,細菌が含まれやすいと推測された。

健診受診者の随時尿が早朝尿より濃縮傾向であった要因として以下の2点が考えられた。①随時尿を採尿するタイミング:健診受診者の多くは起床後自宅で排尿し,健診センターにて第二尿以降の尿を「随時尿」として採尿していたと考えられる。②飲水制限:受診当日の注意点として,喉が渇く場合は来所2時間前までならコップ1杯程度の飲水可である。それ以降は飲水制限をしている状態である。その結果,随時尿は早朝尿よりも濃縮され,濃縮された尿定性所見(尿比重高値,尿蛋白陽性率高値),中間尿を正しく採尿できなかった尿沈渣所見(特に女性検体での赤血球,白血球,扁平上皮細胞,細菌陽性率高値)が反映されたと推測された。一般的には,早朝尿は濃縮された尿といわれるが,今回の検討結果から随時尿の方がより濃縮されていると示された。尿沈渣検査の尿細管上皮細胞陽性率において,随時尿と比較して早朝尿の方が男性検体で7.9%低下,女性検体で2.3%低下した要因も飲水制限に伴う脱水であると考えられる。一方で,尿検査の材料が早朝尿である場合,採尿から検査を実施するまで時間が経過していることを考慮する必要がある。しかし,当院健診センターでは,早朝尿を採尿後4時間以内に検査を実施している検体が大部分で影響は少ないと考えられる。尿蛋白については時間経過の影響はほとんどなく比較的安定しているといわれている7)

尿中有形成分分析装置UF-1000iの測定値について,随時尿から早朝尿へ変更したことで,WBC,EC,SRC,CAST,Path.CAST,BACT,MUCUS(WBC,BACTは女性検体のみ)の多数の項目で有意に低値を示した。女性検体においてWBC,EC,BACTの測定値低下は,対応する尿沈渣検査の白血球,扁平上皮細胞,細菌の陽性率変化と同様の傾向を示した。UF-1000i測定値,尿定性検査測定値を利用した尿沈渣目視鏡検ロジックの該当率の変化は,尿定性測定値設定の尿蛋白[(1+)以上]が7.3%低下し,UF-1000i測定値設定のCAST(初診)が18.5%低下,CAST(再診)が11.1%低下,Path.CAST(初診)が10.6%低下,Path.CAST(再診)が5.1%低下した。各設定値の該当率が大幅に低下した結果,尿沈渣目視鏡検率は随時尿の38.6%から早朝尿の26.8%へ11.8%低下した。UF-1000i測定値設定のCAST とPath.CASTの該当率は目視鏡検した硝子円柱,顆粒円を含めた円柱類の陽性率と比較して乖離しておりCAST,Path.CAST測定の大部分が円柱類以外の成分を検出していたと推測された。また,乖離の程度は随時尿の方が大きかった。UF-1000iの円柱類算定の精度は十分とはいえず,宮田ら8)は,UF-1000iでは円柱の過剰検出がみられ,硝子円柱に判定された55.6%が粘液糸であったと報告した。今回の検討結果から,健診受診者の随時尿は早朝尿よりCAST,Path.CASTの誤分類の影響があったと考えられる。早朝尿へ変更したことで尿沈渣目視鏡検率が約12%低下し,尿検査業務の効率化に繋がり,本来目視鏡検するべき検体に鏡検時間を充てることができた。一方でX’TALの該当率は8.8%増加した。尿沈渣検査陽性率も同様の傾向を示し,シュウ酸カルシウム結晶は7.6%増加,リン酸塩は1.6%増加した。結晶や塩類が出現している検体は,尿沈渣を鏡検するうえで妨げになるため,それ以外の尿沈渣成分を見逃さないよう注意が必要である。

今回の随時尿と早朝尿について尿蛋白,尿潜血を比較した検討結果は,他の報告と同様の傾向であった。尿蛋白,尿潜血以外の尿定性項目,尿沈渣成分についても随時尿は生理的蛋白尿の影響や,飲水制限により濃縮され中間尿を正しく採尿できていないと推測され,尿検査材料は早朝尿が適切であると考えられた。

V  結語

健診センターで随時尿から早朝尿へ変更した結果,尿定性検査では尿蛋白,尿潜血,尿白血球が有意に低下した。尿沈渣検査では特に女性検体で赤血球,白血球,扁平上皮細胞,細菌の陽性率が低下した。要因として随時尿は生理的蛋白尿の影響や,飲水制限による濃縮のため中間尿を正しく採尿できず,膣・外陰部由来の混入物(赤血球,白血球,扁平上皮細胞,細菌)の影響があると推測された。また,尿中有形成分分析装置と目視鏡検の併用の測定では尿沈渣目視鏡検率が11.8%低下し,尿検査業務効率化に繋がり,本来目視鏡検するべき検体に鏡検時間を充てることができた。尿検査を実施するうえで採尿の種類は早朝尿が有用であると考えられる。

本研究は日本大学病院臨床研究審査委員会の承認(承認番号:20230901)のもと,実施した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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