医学検査
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技術論文
「エスプラインHTLV-I/II」の性能評価
鳥谷 穂木下 美沙山中 基子酒本 美由紀堀田 多恵子
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2024 年 73 巻 3 号 p. 509-514

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Abstract

富士レビオ株式会社より,イムノクロマト法(immunochromatography;IC法)を測定原理とする抗HTLV-I/II抗体検出試薬が新たに開発されたため,性能評価を行った。相関性試験は,抗HTLV-I/II抗体陰性検体50例,抗HTLV-I抗体陽性検体59例,抗HTLV-II抗体陽性検体50例を,それぞれIC法,電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay;ECLIA法),化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescence enzyme immunoassay;CLEIA法),ゼラチン粒子凝集法(particle agglutination;PA法)で測定し判定一致率を求めた。陰性検体と抗HTLV-II抗体陽性検体の判定一致率は100%であった。抗HTLV-I抗体陽性検体においては,PA法において1件のみ陰性という判定となったが,それ以外の検体は全て陽性の判定となり,判定一致率は98.3%であった。検出感度の比較は,抗HTLV-I抗体陽性検体1件と,抗HTLV-II抗体陽性検体1件を,陰性検体を用いてそれぞれ2n希釈し,IC法とPA法で測定し評価した。結果は,どちらの検体においても,PA法と比較してIC法の方がより高い希釈倍率まで陽性と判定することができた。検討の結果,本試薬は相関性試験,検出感度の比較において,PA法よりも優れた性能を示した。特に,検出感度の比較では,自動分析機と比較してもほぼ同等の性能結果が得られたため,PA法に代わり本試薬を使用することは,より迅速で精度の高い検査の提供を可能にすると考える。

Translated Abstract

A new anti-HTLV-I/II antibody detection reagent based on the principle of Immunochromatography (IC method) has been developed by Fuji Rebio Corporation. However, as its testing performance has not been objectively evaluated sufficiently, a validation study was conducted for accuracy control. A correlation test was performed using 50 samples of anti-HTLV-I/II antibody-negative, 59 samples of anti-HTLV-I antibody-positive, and 50 samples of anti-HTLV-II antibody-positive specimens. The IC, ECLIA, CLEIA, and PA methods were applied, and the concordance rates for each test determination were calculated. The concordance rate for negative specimens and anti-HTLV-II antibody-positive specimens was 100%. In the case of anti-HTLV-I antibody-positive specimens, only one case was determined as negative in the PA method, while all other specimens were determined as positive, resulting in a concordance rate of 98.3%. The comparison of detection sensitivity involved diluting one sample each of anti-HTLV-I antibody-positive and anti-HTLV-II antibody-positive specimens at 2n dilutions using negative specimens, and measuring with IC and PA methods. Compared to the PA method, the IC method was able to detect positivity at higher dilution ratios. As a result of the study, this reagent showed comparable or even higher sensitivity performance than the conventional methods in correlation and comparison of detection sensitivity. Particularly in the comparison of detection sensitivity, nearly equivalent performance results were obtained compared to an automated analyzer, suggesting that using this reagent instead of the PA method could lead to more rapid and accurate test results.

I  はじめに

ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)は,ヒトに感染するレトロウイルスの一つで,直径が約100 nmのほぼ球状のウイルス粒子で,エンベロープを有する。その内部にRNAゲノムを保持しており,そのゲノムはgap,pro,pol,env,pXの遺伝子で構成される1)。HTLV-Iはウイルス粒子自身での感染性は弱く,細胞-細胞間による感染伝播が主流であり,感染細胞のほとんどはCD4陽性T細胞である。HTLV-I感染細胞では染色体DNAにウイルス遺伝子が組み込まれ,プロウイルスとして感染細胞に定着するため,血漿中にはほとんど存在しない。

HTLV-Iは成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia; ATL)や,HTLV-I関連脊髄症(HTLV-I-associated myelopathy; HAM),HTLV-I関連ぶどう膜炎(HTLV-I uveitis; HU)などの様々な疾患を引き起こすことが知られている1)。これらのHTLV-I関連疾患はHTLV-I感染者(キャリア)から発症するが,キャリアの大部分は無症状である。HTLV-Iキャリアおよび関連疾患は,日本においては九州・沖縄を含む南西日本に多く見られていたが,近年では人の都市部への流入に伴い,大都市圏でも見られるようになった2),3)。また,ATLやHAM以外にも関節炎や膠原病,慢性肺疾患,慢性皮膚疾患など種々の慢性炎症疾患との関連が示唆されているが,具体的な機序については未だ解明されていない。

ヒトT細胞白血病ウイルスII型(HTLV-II)は,HTLV-Iと同様にCD4陽性T細胞に感染するが,腫瘍化はしないとされており,HTLV-Iと同様の感染経路で感染するとされている。

HTLV-I/IIの主な感染経路は母子感染(垂直感染),性感染(水平感染)および輸血の3つであるが,献血者の抗体スクリーニングが開始された1986年以降は,輸血による感染は見られなくなった。現在では,感染経路のうち約7割が母乳を介した母子感染で,残りの約3割が性感染によるものとされている(ごく僅かに薬物常用者による針刺しもある4))。この,母子感染を防ぐ目的で,平成22年度より全妊婦を対象とした抗HTLV-I抗体検査が導入されている。

HTLV-I抗体検査は,まずスクリーニング検査を行い,陽性であった場合に確認検査が行われる。スクリーニング試薬としては主にゼラチン粒子凝集法(particle agglutination;PA法)や,電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay;ECLIA法)や化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescence enzyme immunoassay;CLEIA法)といった,発光基質を用いた免疫測定法が用いられている3)。確認試験では主にウエスタンブロット法(Western blotting;WB法)やラインブロット法(line blotting assay;LIA法)を用いた抗体検査が行われている。

今回,HTLVのスクリーニング試薬として抗HTLV-I抗体と抗HTLV-II抗体の同時検出を可能としたエスプラインHTLV-I/IIが富士レビオ株式会社において開発されたため,試薬性能の確認と有用性の評価を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 測定原理

測定原理には,酵素免疫測定法を原理としたイムノクロマト技術を用いている。反応カセット内のメンブレン上には,検出ラインとして抗HTLV-I抗体および抗HTLV-II抗体判定部があり,HTLV-Iリコンビナント抗原(gp21),HTLV-I合成ペプチド(gp46)およびHTLV-II合成ペプチド(gp46)の混合物が固相化してある。また,アルカリホスファターゼ(ALP)標識HTLV-Iリコンビナント抗原(gp21),ALP標識HTLV-I合成ペプチド(gp46),ALP標識HTLV-II合成ペプチド(gp46),基質(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸二ナトリウム塩)および液状の展開液がセットされている。

検体滴下部に滴下された検体中の抗HTLV-I抗体および抗HTLV-II抗体は,ALP標識HTLV-Iリコンビナント抗原,ALP標識HTLV-I合成ペプチド,ALP標識HTLV-II合成ペプチドのいずれかと共にメンブレン上に移動し,展開液により展開され,判定部に固定されたHTLV-Iリコンビナント抗原,HTLV-I合成ペプチド,HTLV-II合成ペプチドのいずれかとサンドイッチ複合体を形成する。この複合体の酵素(ALP)に基質が反応することにより発色し,検体中の抗HTLV-I抗体および抗HTLV-II抗体を検出する5)Figure 1,富士レビオ株式会社より提供)。

Figure 1  測定試薬の原理

エスプラインHTLV-I/IIの測定原理を示している。原理には,酵素免疫測定法が用いられている(なお,図は富士レビオ株式会社より提供)。

2. 対象

当院のルーチン検査法であるLUMIPULSE Presto IIにて測定済みで,検査終了後の残余検体を調査研究に使用することに同意した患者検体109例(血清)と,富士レビオ株式会社が海外から購入している抗HTLV-II抗体陽性検体(Trina Bioreactives AG:スイス)(血漿)50例を用いた。なお,本研究は九州大学医系地区部局観察研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(許可番号21096-01)。

3. 試薬および測定機器

1) 被験試薬/測定機器

・エスプラインHTLV-I/II(IC法)(富士レビオ株式会社,以下本試薬)/機器なし

2) 対象試薬/測定機器

・ルミパルスプレストHTLV-I/II(CLEIA法)(富士レビオ株式会社,以下対照A)/LUMIPULSE Presto II

・セロディアHTLV-I(PA法)(富士レビオ株式会社,以下対照B)/機器なし

・エクルーシス試薬Anti-HTLVI/II(ECLIA法)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社,以下対照C)/Cobas8000 <e801>

試薬の詳細はTable 1に示す。

Table 1 測定試薬の概要

本試薬 対照A 対照B 対照C
エスプライン
HTLV-I/II
ルミパルスプレスト
HTLV-I/II
セロディア
HTLV-I
エクルーシス試薬
Anti-HTLVI/II
メーカー 富士レビオ株式会社 富士レビオ株式会社 富士レビオ株式会社 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社
測定機器 LUMIPULSE Presto II Cobas8000 e801
測定原理 IC法+EIA法 CLEIA法 PA法 ECLIA法
検体量 25 μL 50 μL 25 μL 18 μL
反応時間 15分 28分 約2時間 18分

4. 相関性試験

本試薬と対照A~Cの相関性を,抗HTLV-I/II陰性検体50例(当院患者検体),抗HTLV-I/II陽性検体59例(同上),抗HTLV-II陽性検体50例(市販検体)を用いて各1重測定した。本試薬の判定は目視で陰性または陽性の判定を行い,対照試薬との判定一致率を求めた。なお,判定は3人の技師によるトリプルチェックで行った。

5. 検出感度の比較

本試薬と対照A,Bを用いて,抗HTLV-I抗体陽性1例および抗HTLV-II抗体陽性各1例を,陰性検体を用いて2n希釈し,各1重測定した。判定基準は,各陽性検体を陽性と判定できる希釈倍率とした。

III  結果

1. 相関性試験

陰性検体は,本試薬,対照Aおよび対照B,対照Cのすべてにおいて陰性の判定であり,判定一致率は100%であった。

また,抗HTLV-II抗体陽性検体においても,判定一致率は100%であった。

本試薬,対照Aおよび対照Cに関しては,抗HTLV-I抗体陽性検体59例のすべてを陽性と判定したが,対照Bにおいて1検体のみ陰性という判定であった。それ以外の検体については,判定は一致しており,抗HTLV-I抗体陽性検体における判定一致率は98.3%であった(Table 2)。

Table 2 相関性試験の結果

陰性検体 検体数 陽性 陰性 判定一致率
本試薬 50 0 50 100%
対照A 50 0 50 100%
対照B 50 0 50 100%
対照C 50 0 50 100%
抗HTLV I抗体陽性検体 検体数 陽性 陰性 判定一致率
本試薬 59 59 0 100%
対照A 59 59 0 100%
対照B 59 58 1 98.3%
対照C 59 59 0 100%
抗HTLV II抗体陽性検体 検体数 陽性 陰性 判定一致率
本試薬 50 50 0 100%
対照A 50 50 0 100%
対照B 50 50 0 100%
対照C 50 50 0 100%

2. 検出感度の比較

抗HTLV-I抗体陽性検体において,対照Bは×16倍まで陽性の判定であったのに対し,本試薬は×64倍まで陽性と判定できた。このとき,対照Aの結果は1.0 C.O.Iであった。

また,抗HTLV-II抗体陽性検体において,対照Bが×32倍まで陽性の判定であったのに対し,本試薬は×128倍まで陽性と判定できた。このとき,対照Aの結果は2.4 C.O.Iであった(Table 3)。

Table 3 検出感度の比較の結果

検体 希釈倍率 C.O.I 本試薬 対照A 対照B
HTLV-I ×1 38.8 + + +
×2 27.0 + + +
×4 14.8 + + +
×8 7.6 + + +
×16 4.0 + + ±
×32 2.0 + +
×64 1.0 + +
×128 0.5
HTLV-II ×1 50.0 > + + +
×2 50.0 > + + +
×4 39.2 + + +
×8 24.4 + + +
×16 14.4 + + +
×32 8.4 + + ±
×64 4.6 + +
×128 2.4 + +
×256 1.6 +

IV  考察

相関性試験において,本試薬と対照A,Cの判定一致率は,陰性検体,抗HTLV-I抗体陽性検体,抗HTLV-II抗体陽性検体のすべてで100%と,非常に高い判定一致率を示した。また,本試薬と対照Bの判定一致率は,陰性検体と抗HTLV-II抗体陽性検体で100%,抗HTLV-I抗体陽性検体で98.3%と,若干の乖離が認められたが,こちらも高い判定一致率を示した。

対照Bの測定方法であるPA法は,手技が煩雑であり,かつ感度も低く,検査者の技量によって手技の精度や判定の基準も微妙に異なってくるため,今回のように弱陽性の検体に関しては検出できないことがある。また,判定時間も2時間と,本試薬の15分と比較すると非常に長いため,本試薬をPA法の代わりに使用することで,より迅速に精度の高い検査を実施することが可能であるといえる。

また,検出感度の比較においては,本試薬はPA法と比較してより高い希釈倍率まで陽性と判定することができ,その性能は自動分析機と比較してもほぼ同等の性能であったことからも,本試薬の有用性が確認された。

PA法は抗HTLV-I抗体のみ検出可能だが,本試薬は抗HTLV-I/II抗体の両方を検出可能(IとIIの鑑別は不可能)である。HTLV-II感染は,薬物常用者による針刺し感染などにより北米を中心に多発しており4),海外の多くでは抗HTLV-I抗体だけでなく,抗HTLV-II抗体の検査も実施されている。特に,HTLVに関しては,無症候性キャリアが多く存在するので,妊婦検診や献血時のスクリーニング検査でHTLV抗体陽性であることが発覚するといった場面も少なくない。また,現在までにHTLV-IIの国内感染例は3例と非常に少ないが6)~8),今後輸入感染によりHTLV-II感染者が増加する可能性が懸念されている。このような状況で,HTLV-Iだけでなく,HTLV-IIも同時に検出することができる本試薬を検査に用いることは,スクリーニング検査時の偽陰性を防ぐ上でも非常に有用であると考える。

しかしながら,必ずしも本試薬だけで全てが補完できるわけではなく,HAMの診断においてはPA法による血清,髄液検査の結果が必要不可欠9)であるように,病態と検査結果をリンクさせて適切な検査法を選択し,解釈することが非常に重要であると考える。

また,今回検討したIC法を含むスクリーニング検査で用いられる検査法においては偽陽性発生の可能性があるため,スクリーニング検査で陽性の場合は,HTLV感染のためのフローチャートに従い,LIA法やPCR法といった確認試験を実施する一連の流れを遵守することが,感染拡大を防止し,正しい検査結果を患者に提供するうえで重要となる。

V  結語

本試薬は,相関性試験,検出感度の比較において,PA法よりも優れた性能を示した。特に,検出感度の比較においては,化学発光免疫測定法と比較してもほぼ同等の性能結果が得られた。また,本試薬はPA法に比べ操作が簡便であり,反応時間もPA法の約2時間に比べ,本試薬は15分と非常に短く,PA法に代わり本試薬を使用することは,より迅速で精度の高い検査の提供を可能にする。

本稿は,第69回日本臨床検査医学会学術集会(2022年11月,栃木)で発表した内容をまとめたものである。

COI開示

本論文は,富士レビオ株式会社からの資金および試薬の提供を受け実施された。

 謝辞

本論文の投稿に際し,英文校正をして頂きました,九州大学病院 第一内科 血液・腫瘍・心血管内科,九州大学大学院 医学研究院 臨床検査医学分野 稗田道成先生に深謝いたします。

文献
 
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