2024 年 73 巻 3 号 p. 609-619
今回我々は,新生児・小児心臓超音波検査(以下,US)にて右心系に構造物を認めた3症例を経験し,それぞれの臨床所見と超音波所見の比較・考察を行ったので報告する。【症例1】5歳男児。ネフローゼ症候群の既往あり。呼吸苦が出現し,精査目的でUSを施行した。右室に一部可動性のある構造物を認めた。血栓や腫瘍が疑われ,専門施設へ紹介,紹介先での造影CT検査では血栓が疑われた。服薬と定期的USにて経過観察となった。【症例2】4歳男児。近医で心室中隔肥厚の所見を認め当院紹介となり,精査目的でUSを施行した。心室中隔基部に構造物を認めた。腫瘤の内部エコーは高輝度で均一であった。腫瘤に可動性部分はなく,構造物による狭窄も認めなかった。頭部CT検査で異常所見は指摘されなかった。心室中隔に原発した脂肪腫が疑われ専門施設へ紹介となった。紹介先のMRI検査で脂肪腫が疑われ,増悪所見を認めるまでは経過観察となった。【症例3】日齢0の男児。入院時ベッドサイドエコーで可動性構造物を認め精査目的でUSを施行した。右房から右室に可動性のある構造物を認めた。出生直後の構造物であり,出生後の経過をふまえ心横紋筋腫と診断され経過観察されている。3症例を通して,小児期における,心腔内に構造物を認めた際のUSの臨床的有用性を再認識した。
We encountered three cases with structures identified in the right side of the heart. And we conducted a comparison and discussion of the clinical findings and results for each case. [Case 1] 5 years male with history of nephrotic syndrome presented with dyspnea. Echocardiography was performed to assess cardiac function. A structure with partial mobility was observed in the right ventricle. Thrombus or tumor was suspected, leading to a referral to a specialized facility. Contrast-enhanced CT at the referral center revealed findings suggestive of a thrombus. The patient was placed on medication and underwent regular ultrasound monitoring for follow up observation. [Case 2] 4 years male. The patient was referred to our hospital due to findings of ventricular septal hypertrophy. The tumor observed homogeneously hyperechoic and no mobility. No stenosis was observed due to the structure. As no abnormalities were detected on a head CT, a primary cardiac septal lipoma was suspected, leading to a referral to a specialized facility. An MRI at the referral center showed findings suggestive of a lipoma, and the patient was placed under observation until signs of progression were observed. [Case 3] 0 years male. Intracardiac masses were observed in an ultrasound screening examination performed at the time of admission, and echocardiography was requested for detailed evaluation. Multiple mobile structures were identified in the right atrium, extending into the right ventricle. These structures were present since birth, and while cardiac rhabdomyoma was suspected. The patient was placed on regular ultrasound monitoring for follow up observation. Through three cases, we re-realized the clinical usefulness of echocardiography, particularly in pediatric field, when structures are observed in right side of the heart.
心臓超音波検査(以下,US)にて,心腔内に構造物を認めた場合,確定診断には病理診断を要する。しかしながら,経カテーテルでは塞栓症,開心術ではそれそのもののリスクが伴う1)。特に新生児や小児の場合は,成人で偶然腫瘤性病変を認めた場合とは異なり,新生児や小児期特有の構造物である可能性もあり,生検や開心術の適応には,入念な術前画像診断,経過観察,病態に応じた対応が必要となる。
画像診断は複数のモダリティによる評価が基本であるが,CTでは被曝の問題,MRIでは造影剤の投与が不可能な症例が存在し制限がある。更に,小児症例においては呼吸調整や体動の制御が困難であるなど,画像評価の質に関わる問題が複数存在する。
一方,非侵襲的に繰り返し検査が可能でかつ時間分解能に優れる超音波検査は,心内構造物の評価・診断にとって大変重要な役割を果たし,特に,小児領域ではその役割は更に大きい1),2)。
今回我々は,新生児・小児USにて右心系に構造物を認めた3症例を経験し,それらを通して超音波検査の臨床的意義を再認識することができた。3症例の臨床所見と超音波所見の比較・考察とともに報告する。
【症例1】5歳男児。ネフローゼ症候群の既往あり。呼吸苦が出現し当院を受診した。
血液検査では,TPやAlbの低下を認め,多量の尿蛋白が検出された。更にFDPやD-Dimer高値で,SF陽性であった。先天性の凝固異常を疑う所見は認められなかった(Table 1)。
項目 | 値 | 項目 | 値 |
---|---|---|---|
WBC | 11,000/μL | TP | 3.7 g/dL |
RBC | 6.13 × 106/μL | Alb | 0.9 g/dL |
Hb | 16.7 g/dL | AST | 22 U/L |
Ht | 49.10% | ALT | 15 U/L |
PLT | 277 × 103/μL | LD | 254 U/L |
FDP | 10 μg/mL | UN | 20.1 mg/dL |
D-Dimer | 4.3 μg/mL | Cr | 0.37 mg/dL |
SF | 8.7 μg/mL | Na | 130 mmol/L |
SF | (+) | K | 4.3 mmol/L |
PS抗原量 | 73% | Cl | 99 mmol/L |
ループスAC | 1.1 | Glu | 113 mg/dL |
プロテインC | 88 | CRP | 0.18 mg/dL |
vWF活性 | 103 | Cr(尿) | 79.57 mg/dL |
抗CLβ | 1.3 U/mL未満 | TP(尿) | 1,120 mg/dL |
カルジオG | 8 U/mL以下 |
心電図検査では,心拍数は90 bpmで洞調律であった。明らかな不整脈や心室内伝導障害,右心負荷所見は認められなかった(Figure 1)。
心拍数:90 bpm洞調律
明らかな不整脈や心室内伝導障害は認められなかった。
精査目的でUSを施行した。明らかな心機能低下や心拡大は認めず,シャント性疾患も認められなかった。右室に一部可動性のある構造物(13 × 17 mm)を認めた(Figure 2)。腱索に付着しているように観察され,エコー性状は内部高輝度で均一も,一部低輝度も混在していた。弁破壊像や腱索断裂像は認めず,三尖弁逆流は軽度で,狭窄や右心負荷所見は認めなかった。血栓や腫瘍が疑われ,専門施設へ紹介となった。紹介先での造影CTにおいても右室心腔内,更に左肺動脈内にも相対的低吸収域を認め肺血栓塞栓症と診断された。右室と肺動脈内の血栓に対する抗凝固療法が開始された。その後のUSでは心腔内に明らかな血栓像は認めず,服薬と定期的なUS,造影CT検査にて経過観察となった。
A,B:右室内に可動性のある構造物を認めた。腱索に付着しているように観察され,エコー性状は内部高輝度で均一も一部に低輝度も混在していた。
C:構造物に内部に明らかな血流シグナルは認められず,構造物による血行動態への影響も認められなかった。
D:造影CT検査においても右室心腔内に相対的低吸収域を認め,血栓が疑われた。
E,F:左肺動脈にも血栓を認め,肺血栓塞栓症と診断された。
RA:右房,RV:右室
【症例2】4歳男児。近医で心室中隔肥厚の所見を認め紹介となり当院受診。
心電図検査では,心拍数は120 bpmで洞調律であり,明らかな不整脈や心室内伝導障害は認められなかった(Figure 3)。血液検査は実施されなかった。
心拍数:120 bpm洞調律
明らかな不整脈や心室内伝導障害は認められなかった。
精査目的でUSを施行した。明らかな心機能低下や心拡大は認めず,シャント性疾患も認めなかった。心室中隔基部右室側に構造物(27 × 13 mm)を認めた(Figure 4)。構造物内部は均一な高輝度エコーを示し,付着部は広基性で明らかな可動性部分はなく,構造物による心腔内狭窄も認めなかった。その後,結節性硬化症による横紋筋腫除外のため,頭部CT検査が実施されたが,明らかな石灰化病変は認めなかった。構造物に対する更なる精査と治療方針の決定のため,専門施設へ紹介となった。紹介先のMRI検査ではT1WI/T2WIともに高信号で,脂肪抑制T2WIで低信号であり脂肪腫を疑う所見を認めた(患者の同意取得が難しく紹介先の画像は取得困難であった)。現時点で腫瘍内部への血流シグナルや有意な心膜液貯留など,USから明らかな悪性所見は認めず,急速な増大や退縮,血行動態への影響を認めていないため,増悪所見を認めるまでは定期的なUSで経過観察となった。
A,B:心室中隔基部右室側に構造物を認めた。構造物内部は均一な高輝度エコーを示し,付着部は広基性で明らかな可動性部分はなく,構造物による心腔内狭窄も認めなかった。
C: 狭窄等,構造物による血行動態への影響も認められなかった。
RA:右房,RV:右室,Ao:大動脈
【症例3】日齢0,切迫早産にて在胎27週で娩出となった男児。
血液検査ではTP,Albが低値を示す他に明らかな異常所見は認められなかった(Table 2)。心電図検査では,心拍数は90 bpmで洞調律であった。明らかな不整脈や心室内伝導障害や右心負荷所見は認められなかった(Figure 5)。
項目 | 値 | 項目 | 値 |
---|---|---|---|
WBC | 7,700/μL | TP | 3.3 g/dL |
RBC | 4.10 × 106/μL | Alb | 2.3 g/dL |
Hb | 15.9 g/dL | AST | 27 U/L |
Ht | 45.20% | ALT | 4 U/L |
PLT | 268 × 103/μL | LD | 375 U/L |
UN | 7.1 mg/dL | ||
Cr | 0.57 mg/dL | ||
Na | 137 mmol/L | ||
K | 3.5 mmol/L | ||
Cl | 109 mmol/L | ||
Glu | 59 mg/dL | ||
CRP | 0.00 mg/dL |
心拍数:130 bpm洞調律
明らかな不整脈や心室内伝導障害は認められなかった。
入院時のベッドサイドエコーで心腔内に可動性構造物を認めたため,精査目的でUSを施行した。明らかな心拡大は認めず,壁運動はvisual EF 45–50%とびまん性に軽度低下していた。わずかな動脈管開存症(PDA)を認め,シャント血流の向きは全時相で左-右短絡,肺体血流比(Qp/Qs)は0.90と算出された。右房から右室に可動性のある構造物を複数認めた(Figure 6)。境界は明瞭であり,1つは下大静脈弁から三尖弁の弁輪部に付着しているように認め(13 × 4 mm),もう1つは心房中隔右房側に付着しているように認めた(4 × 5 mm)。狭窄や弁破壊像は明らかでなく,呼吸状態の増悪所見があれば更なる精査を行う方針で超音波検査にて経過観察の方針となった。その後1週間毎にフォローアップ検査を行ったところ,心内に認めた構造物は徐々に退縮し,2~4週間後には正常構造物との区別がつかない程度まで退縮した(Figure 7)。出生直後の構造物であり2次性の腫瘍は否定的であった。脳,腎,肺など,その他領域に明らかな異常所見は認められなかった。出生後に徐々に退縮したエコー検査所見と合わせて心横紋筋腫と診断された。現在もUSにて定期的に経過観察されている。
A–C:右房から右室に可動性のある構造物を複数認めた。1つは下大静脈弁-三尖弁の弁輪部に付着しているように認め(13 × 4 mm),もう1つは心房中隔右房側に付着しているように認めた(4 × 5 mm)。境界は明瞭で内部はやや不均一,低輝度領域,また顆粒状の高輝度領域を含むように見えた。
D:左室前乳頭筋に高輝度に描出される領域を認めた。
E:頻脈の影響も考えられるが,visual EFは45–50%とびまん性に軽度低下していた。
RA:右房,RV:右室
A:初回検査時,B:1週間後,C:2週間後,D:4週間後。
心内に認めた構造物は徐々に退縮し,2~4週間後には正常構造物との見分けがつかない程度まで退縮した。
RV:右室,IVC:下大静脈
心腔内に発生する異常構造物には腫瘍,血栓,疣腫等様々なものが考えられ,急性心不全や心タンポナーデ,心腔閉塞,塞栓症,不整脈等により致死的となる場合がある。各症例について,エコー所見を中心に考察する。
【症例1】血栓心腔内血栓は心機能低下や不整脈等,血流のうっ滞を起こすような基礎疾患に伴うことが圧倒的に多い。心機能低下が基礎にある患者においては心腔内血栓を疑って慎重に検査していくのは当然であるが,本症例では明らかな心機能低下は認められなかった。本症例は既往歴にネフローゼ症候群を認め,今回はその再燃が疑われていた。ネフローゼ症候群による血栓促進因子の増加,脱水傾向によって易血栓形成の病態となり,血栓形成が起こったものと考えられた。
小児期ネフローゼ症候群に合併した心腔内血栓の報告は少ないものの,報告されている症例の血栓の発生部位はいずれも右心系であった3)~5)。
これは下肢静脈等,全身からの進展によるもの,塞栓症による一過性の右室壁運動低下に伴うもの,更には構造上の問題(右室の心内構造は左室と比べ複雑で肉柱に富み,血行動態的に滞留を起こしやすく,易血栓形成状態が相まって形成された可能性がある)が考えられた。本症例においても血栓が認められたのは右室内であり,小児期ネフローゼ症候群をはじめとした,血栓形成のリスクとなる疾患が基礎に存在する症例では,明らかな心機能低下がなくとも,左心系,更に右心系も注意して観察し,異常構造物の有無や右心負荷所見を確認すべきであると考える。
エコー性状について,やや不均一で高輝度,低輝度領域を含むという点で【症例3】の横紋筋腫と類似しているように観察されたが,よくみると横紋筋腫は輝度が高い部分と低い部分がまだら状に混在しているのに対して,【症例1】の血栓は構造物表面と内部で輝度が異なるような形で,分布の仕方に違いがあるように観察された。
【症例2】脂肪腫,及び【症例3】横紋筋腫心臓腫瘍はまれな疾患であり,その中でも原発性心臓腫瘍は更にまれな疾患と言える。原発性の約90%は良性とされ,小児においては,横紋筋腫45%,線維腫15%,奇形腫15%,粘液腫15%,その他10%と,好発する腫瘍が存在し,成人とは異なる。腫瘍によって好発部位やエコー性状が異なることが報告されているため,エコー検査ではそれらを評価し報告することが重要となる6),7)。
また原発性に比べ圧倒的に報告数の多い二次性心臓腫瘍の除外のため,原発巣の検索が必要となる。
【症例2】脂肪腫脂肪腫は軟部組織の脂肪腫と同様,成熟脂肪組織から構成される原因不明の良性腫瘍である。心臓原発性腫瘍の中でもまれな腫瘍であり,良性腫瘍の約6~11%を占める7)が,報告例のほとんどが成人症例で,小児において脂肪腫を認めたという報告は非常に少ない。
少ないながら報告の中では,左心系,右心系どちらにも発生し得る腫瘍であり,50%が本症例のような心内膜から発生し,残り25%ずつが心外膜,心筋から発生すると報告されている8),9)。通常は単発性だが,多発性の症例も報告されている。エコー性状は,可動性の乏しい無茎性のポリープ状を呈し,心外膜に存在するものは低輝度,心腔内のものは高輝度で均一に認めることが多い7)。CTでは部位によらず低吸収域を示し,MRIではT1強調画像で高信号を示し,脂肪抑制画像で消失する。本症例においても,腫瘍の可動性は乏しく無茎性,内部は高輝度で均一に認め,脂肪腫を強く疑う画像所見であり症例1,3と比べ明確に違っていた点であった。その後,紹介先のMRIでT1強調画像にて高信号,脂肪抑制画像で消失する脂肪腫を疑う像を認め,当院での超音波検査結果と併せて脂肪腫と診断された。
脂肪腫症例では一般的に臨床症状を認めず偶発的に発見されることも多いが,巨大な脂肪腫によって心腔内狭窄など血行動態へ悪影響を及ぼしたり,不整脈の惹起を認めることもある7)。本症例では腫瘍による明らかな血行動態への影響や心室内伝導障害,不整脈など悪性を疑う所見を認めず,経過観察が続いている。
【症例3】横紋筋腫心臓横紋筋腫は小児における心臓腫瘍の45~80%と最も多く認められる良性腫瘍であり,小児において心臓腫瘍を認めた際はまず鑑別に挙がる腫瘍である10),11)。
母親から供給されるホルモンが腫瘍の維持・増大に関与するとされており,出生後は自然退縮することが多いのが横紋筋腫の大きな特徴である。しかし,心室流出路・流入路障害や難治性不整脈の合併によって突然死を来す可能性があり,外科的切除を要する症例が存在する7),12)。
加えて,心横紋筋腫症例の約80%は常染色体劣性遺伝を示す結節性硬化症と関連しており,心横紋筋腫の存在は結節性硬化症の診断基準の1つにも挙げられる。本症例に結節性硬化症の家族歴はなかったが,心横紋筋腫が疑われる場合は結節性硬化症を疑い脳,腎,肺等他領域の病変検索も必要となるし,逆に家族歴から結節性硬化症が疑われる場合には出生前から頻回にエコーを行い,心横紋筋腫の早期発見に努めることが望ましい12)。
横紋筋腫の多くは多発性であり,心室中隔や乳頭筋,腱索を含む心室に認めることが多い。約30%は心房にも存在する。可動性は乏しく,高輝度で均一,心筋内や,しばしば心腔内に突出して描出されることが多いと報告されている7),13)。
本症例では右房から右室内に可動性のある充実性構造物を複数認め内部はやや不均一で低輝度と領域を含むように見え,左室前乳頭筋にも高輝度に描出される領域を認めた。その後,更なる心機能低下や心膜液貯留など増悪所見は認めず,構造物は退縮し,生後0日という患者背景からも2次性腫瘍は否定的であり心横紋筋腫の臨床診断となった。脳,腎,肺等他領域には明らかな病変は認めず,結節性硬化症疑いとして現在も経過観察中である。
可動性や内部がやや不均一に認めていた点は報告されているエコー性状とは異なるものであった。横紋筋腫のエコー性状についての報告は非常に少ないが,土肥ら13)は,①:粗大ないし微細な顆粒状エコーを示すもの,②:高輝度で均一な塊状エコーを示すもの,③:①と②の混在型の,3つのエコーパターンを示す可能性があると報告している。これらのエコーパターンは若年症例ほど①,次いで③,②と,年齢が進むにつれて高輝度成分を多く含む可能性があり,これは,自然退縮に伴い腫瘍の線維化及び石灰化することによる輝度上昇が大きな要素であると考察している。本症例においては腫瘍の退縮の程度が急でエコー性状の変化を明瞭に確認することはできなかったが,退縮に伴いやや輝度は上昇していた。
また報告は少ないが横紋筋腫では心筋への浸潤程度によって,収縮能が低下することが報告されている11)。本症例での収縮能低下は頻脈の影響も考えられるが,エコーで検出されないような微小な心筋への浸潤によって,初回では収縮がやや低下しており,その後腫瘍の退縮に伴い正常化した可能性も考えられた点は心横紋筋腫の大きなエコー所見の1つと考えられた。
また,構造物内部が不均一という点で【症例1】血栓と似ているように観察された。両者を注意深く観察すると,血栓は辺縁が高輝度,内部が低輝度で不均一であるのに対し,心横紋筋腫は顆粒状に高輝度部分を認める形であった。心横紋筋腫症例において,正常心筋組織と腫瘍細胞が混在して認める症例が報告されており13),今回のエコー性状の違いは,横紋筋腫と心筋組織との混在の程度の違いによって起こり,正常心筋よりも若干輝度の高い顆粒状エコーを示したものと考えた。
今回我々が経験した3症例の超音波検査所見と経過のまとめと,小児領域における心内構造物の鑑別を示す(Table 3,414)~16))。冒頭でも述べたように生検検体で病理学的診断を行うためには経カテーテル,開心術共に侵襲度が高くリスクが伴うため,その実施の可否に関しては,まずは画像所見にて構造物の大きさや性状評価を確認し決定することが基本である。そして実際には,今回我々が経験した3症例のように,病理学的診断ではなく画像所見と臨床所見から診断され,腫瘍の増大や心膜液貯留,血行動態の破綻など,明らかな悪性所見を認めるまでは経過観察していく症例は少なくない。特に小児領域においては悪性所見が認められない症例に対する侵襲度の高い検査は非現実的であり身体的に未発達の児ではそもそも実施が困難である。そういった場合,構造物のエコー性状と共に心機能や血行動態的評価を同時に,頻回に,非侵襲的に検査ができる超音波検査の役割は非常に大きい。小児領域においては,体動や呼吸調整が困難となる症例も多く,特に【症例3】のように切迫早産となった超早産児では常に新生児集中治療室管理下となるため,侵襲的な検査はもとよりCT,MRI検査においても実施困難である。一方,場所を選ばず検査が可能な超音波検査であれば検査の質も落とさず実施可能であり,今回の症例を通して小児領域における超音波検査の有用性を再確認した。
症例(臨床診断) | 1(血栓) | 2(脂肪腫) | 3(横紋筋腫) |
---|---|---|---|
年齢 | 4歳 | 5歳 | 日齢0 |
性別 | 男 | 男 | 男 |
既往歴 | ネフローゼ症候群 | なし | なし |
構造物の発生部位 | 右室腱索に付着 | 心室中隔右室側 | 下大静脈弁付近 右房~右室 |
サイズ | 13 × 17 mm(初回) | 27 × 13 mm | 13 × 4 mm,4 × 5 mm(初回) |
構造物の特徴 | 一部に可動性を認め 辺縁はやや高輝度 内部はやや低輝度 |
可動性は乏しく広茎性 均一で高輝度 |
可動性に富み低輝度と顆粒状の 高輝度成分が混在 |
心機能 | 正常 | 正常 | 初回検査時visual EF 45% その後正常化 |
その他異常所見 | 認めない | 認めない | small PDA (Qp/Qs: 0.90) |
経過 | 抗凝固療法が開始 その後,構造物は消失 |
エコー所見は著変なく フォロー継続 |
構造物は徐々に退縮 visual EFは正常化 |
構造物 | 発生頻度 | 発生部位 | 超音波所見 | 予後・その他所見 |
---|---|---|---|---|
血栓 | ― | 左心耳や壁運動低下部位等 血液のうっ滞を認める部位 |
急性期血栓である程,低輝度で可動性に富む 退縮に伴い輝度は上昇 |
全身の塞栓症を起こし得る |
脂肪腫 | ほとんどは成人例 小児はまれ |
心外膜,心室壁内 | 無茎性で可動性は乏しく 心外膜のものは低輝度 心室壁内のものは高輝度が多い |
無症状が多い 成分は脂肪であり,MRIでT1強調画像では高信号,脂肪抑制画像で消失 |
横紋筋腫 | 40~60% | 心室中隔より心室内腔に向けて発育 | 心筋内のものは可動性が乏しく 高輝度で多発することが多い |
自然退縮することが多い 結節性硬化症に合併することがある |
奇形腫 | 15~19% | 心膜に発生し大動脈弓, 肺動脈起始部に多く認める |
充実性部,嚢胞性部が入り混じった像で,心拡大,心膜液貯留を認めることが多い | 胎児水腫や呼吸不全を起こし,予後不良であることが多い |
線維腫 | 12~16% | 心室中隔より心室内腔に向けて発育 | 心筋との境界が鮮明で,高輝度 しばしば石灰化や心壊死を認める |
出生後増大する傾向があり, 刺激伝導系の障害により 突然死することが多い |
血管腫 | 5% | 右房,特に卵円窩に発生することが多い | 一部嚢胞性部分を認め, 心膜液貯留することがある |
無症状が多い |
また,今回報告した3症例は全て右心系に構造物を認めていた。右心系の構造物は左心系に認めるものと比べて発見が遅れ,心臓腫瘍では発見時の径が大きくなる傾向があり,悪性腫瘍が多いことが報告されている17),18)。これは左心系と比較して右心系は正常構造物に富むこと,また心臓自体の構造が複雑であること,更に右心系をくまなく観察するためには基本断面から右心系にフォーカスする断面を描出する必要があり,描出不良や見逃された症例が多いことが背景としてあると考える。超音波検査に携わる臨床検査技師としては,正常構造物,異常構造物それぞれの特徴を把握したうえで,検査に臨み,患者にとって有益な検査を実施していかなければならないと考える。
今回我々は,小児心臓超音波検査にて右心系に構造物を認めた3症例を経験し,それらを通して超音波検査の臨床的意義を再認識することができたため報告した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。